JP4103067B2 - 平面表示装置用Ag合金系反射膜 - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、例えば液晶ディスプレイ(以下、LCD)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FED)、エレクトロルミネッセンス(以下、EL)等の平面表示装置(以下、FPD)において、高い光学反射率と耐食性、パタニング性、密着性が要求されるAg合金系反射膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、平面表示装置の代表であるLCDは、光源(ランプ)を内蔵し背面から照射することで高い表示品質を有する透過型LCDが一般的であった。しかし、透過型LCDは光源であるバックライトの消費電力が大きく、電池駆動の携帯情報端末や携帯ゲームとしては使用時間が短くなるという問題があった。このため、近年、外光を効率よく利用しバックライトを基本的に使用しない反射型液晶ディスプレイの開発や、反射型と従来の透過型を組み合わせた半透過型液晶ディスプレイの開発が行われ、実用化されている。
【0003】
このような反射型、半透過型ディスプレイに用いる反射膜には、金属の中でも可視光域での反射率が高いAlまたはAl合金薄膜が多く用いられてきた。しかし、近年、ディスプレイの表示品質向上のために、その反射膜にはペーパーホワイトと呼ばれる可視光範囲での反射率が一定値となる反射特性とさらに高い反射率が要求されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のAl系反射膜の場合、LCDの製造工程中の加熱工程でヒロック等が発生したり、結晶粒の成長により反射率が低下する問題がある。このため、上記ヒロックや粒成長の抑制のために、Alに遷移金属であるTi、Ta等の元素を添加するAl合金が用いられている。このAl合金により液晶ディスプレイ製造時の反射率低減は抑制できる。この場合のAl合金膜の平均反射率は、90〜92%程度であり、添加元素によりヒロックや粒成長は抑制できても反射率そのものが低下してしまう問題がある。
【0005】
一方、Alよりさらに反射率の高いAgの場合、液晶ディスプレイ用の基板であるガラスやSiウェハ−に対しての密着性が低く、プロセス中に剥がれが生じるという問題がある。さらに、この密着性が低いことに起因し、ディスプレイの製造時に加熱工程等で膜が凝集し大幅に反射率が低下する。また、耐食性が低く、基板上に成膜した後、数日大気に放置しただけで変色し、黄色味を帯びた反射特性となる。また、ディスプレイの製造時に使用する薬液により腐食され、大幅に反射率が低下してしまう問題があった。
【0006】
以上の問題を解決するために、特開平9−324264にはAuを0.1〜2.5at%、Cuを0.3〜3at%添加したAg合金が、特開平11−119664には接着層上にPt、Pd、Au、Cu、Niを添加したAg合金が提案されている。さらに、用途は異なるが、反射膜として特開2000−109943にはAgにPdを0.5〜4.9at%添加した合金が、特開2001−192752にはAgにPdを0.1〜3wt%、Al、Au、Pt、Cu、Ta、Cr、Ti、Ni、Co,Si等を合計で0.1〜3wt%含有した合金を用いた電子部品用金属材料等が提案されている。
しかし、遷移金属であるTa、Cr、Ti,Ni、Co等や半金属であるAl、Si等の元素はわずかに添加するだけで反射率が低下し、Agの持つ高い反射率を有するという特徴が失われてしまう。また、貴金属の中でPd、Ptは添加すると特に可視光域の低波長側での反射率の低下が大きい問題がある。また、AuとCuを添加した場合は反射率の低下は少ないが耐熱性に問題がある。
【0007】
また、特開2002−015464では、光情報記録媒体用の反射膜としてAgにCuやNd、Sn、Ge、Y、Au等を添加した反射膜が特定波長のレ−ザ−光に対する反射率を維持しながら、ディスク基板やその他の膜への密着性、耐酸化性に優れ、情報記録安定性の面から効果があることが報告されている。
【0008】
本発明の目的は、例えば反射型液晶ディスプレイ、FED、有機EL等のようなガラスやSiウェハ−状に形成する平面表示装置や樹脂フィルム基板等のフレキシブルな表示装置等において要求される高い反射率を維持した上で、可視光範囲での反射率が一定値になり、平面表示装置製造時のプロセス中での耐熱性、耐食性を兼ね備え、さらに基板への密着性とパタニング性を改善したAg合金系反射膜を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく、鋭意検討を行った結果、Agに、選択した元素を加えた反射膜とすることにより、平面表示装置用の反射膜に必要な本来Agの持つ可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性を維持しつつ、高い反射率を大きく低下させることなく耐熱性、耐環境性を向上し、さらに基板への密着性とパタニング性も改善できることを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、Smを0.1〜0.5at%、Auおよび/またはCuを合計で0.1〜0.5at%含み残部実質的にAgからなり、可視光範囲である光学波長400〜700nmの範囲での反射率の最大値をref(max)、最小値をref(min)としたときの反射率差が(((ref(max)−ref(min))/ref(max))×100≦6)となるAg合金反射膜である。上記により、平面表示装置用に必要とされる可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性を有する反射膜を得ることが可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴は、Ag自体の高い反射率をできる限り維持しながら、平面表示装置に要求される可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性を有し、Ag膜の有する欠点である密着性や耐食性、耐熱性を補うのに最適な合金構成を見いだしたところにある。
【0014】
通常、Agの反射膜を作製すると、膜としての反射率は高いものの、その反射膜を用いた平面表示装置(例えば液晶ディスプレイなど)を製造する際のプロセスにおいて反射率が低下してしまうという問題があることは、上述の通りである。つまり、加熱による膜成長や凝集等が起こり、膜表面はより凹凸のある形状となったり、ボイドが発生したりする。そして、その加熱雰囲気によっては膜表面が変色し、これも反射率の低下の原因となる。そこで、本発明ではAgにSmとAuおよび/またはCuを複合添加することで、膜自体の変質を抑制しAgの欠点である耐熱性、耐食性、さらに平面表示装置用のガラス基板やSiウェハー等上での密着性、フォトエッチングによるパタニング性を改善することが可能となる。このために、優れた特性を有する反射型液晶ディスプレイや平面表示装置を得ることができる。
【0015】
以下に、本発明の平面表示装置用Ag合金系反射膜で、添加元素であるSmを0.1〜0.5at%、Auおよび/またはCuを合計で0.1〜0.5at%含有する理由を説明する。Agに添加元素を加えると反射率は低下してしまうが、添加元素による耐熱性、耐食性の改善効果は添加量の増加とともに向上する。このため、高い反射率を維持しながら上述のAgの欠点を改善するには添加元素は必要最小量でありながら十分な効果が得られるように調整する必要がある。
【0016】
先ず、各々の元素を単独で添加した際の効果について述べる。Smを含有することによる効果はAg合金系反射膜の耐食性と耐熱性が改善できる点である。Smの含有量は0.1at%から改善効果があらわれ、一方、0.5at%を超えると耐食性や耐熱性には優れるものの反射率の低下を生じる。この時、特に低波長側の反射率の低下が顕著となる。また、Smを単独で添加しただけでは平面表示装置を製造する洗浄工程等で膜はがれを生じ、密着性の改善には不充分である。Cu、Auを含有することによる効果は、膜の凝集を抑制することで密着性を改善できる点である。Cu、Auの含有量は0.1at%から凝集抑制効果があらわれ、一方、Cuでは1.0at%を越えると反射率が低下してしまう。また、Auの場合は1.0at%以上添加しても反射率の低下は少ないが、0.5at%を超えるとエッチング時に残さが発生しやすくパタニング性が低下する。また、Cu、Auを添加したのみでは平面表示装置を製造する際のプロセス中での各種薬品や環境に対する耐食性や耐熱性の改善には不充分であった。
【0017】
このため、耐食性、耐熱性、密着性、パタニング性を兼ね備えたAg合金系反射膜を得るために、耐食性と耐熱性の改善に効果のあるSmと密着性の改善に効果のあるAuおよび/またはCuを複合添加した。その際の各々の最小添加量は0.1at%であり、0.1at%の添加量から膜特性の改善効果があらわれる点は上述のとおりである。本発明において、AgにSm、AuおよびCuを各々単独で添加するよりも、微量な複合添加により、膜の粒成長をさらに抑制し、緻密で平滑な表面形態のAg合金膜となる。このため膜中のボイドが減少し、粒界腐食の抑制による耐食性の向上、さらに膜応力の低減により密着性を改善したAg合金膜とすることができる。さらに、複合添加する場合の各添加上限量をSmが0.5at%(より好ましくは0.3at%)、Cuにおいては0.5at%(より好ましくは0.4at%)としたのは、この添加量を超えると可視光範囲の低波長側での反射率が低下し、反射率が一定値になる反射特性が得づらくなるためである。また、Auは0.5at%(より好ましくは0.4%)を超えるとエッチング残さが多くなりパタニング性が低下する。このため、その含有量はSmを0.1〜0.5at%、Auおよび/またはCuを合計で0.1〜0.5at%することで優れた特性を有するAg合金系反射膜を実現でき、反射型液晶ディスプレイに最適な反射膜を得ることが可能となる。
【0018】
この組成範囲のAg合金膜を形成することで、可視光範囲である光学波長400〜700nmの範囲での反射率の最大値をref(max)、最小値をref(min)としたときの反射率差が(((ref(max)−ref(min))/ref(max))×100≦6)となり、平面表示装置用に必要とされる可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性と耐熱性、耐食性、密着性、パタニング性を有する反射膜を得ることが可能となる。
【0019】
本発明の上記添加元素による膜特性の改善効果の理由は明確ではないが次のように推測される。通常、スパッタリング等で形成される膜においては、その添加される元素は、マトリクス中に過飽和で固溶し、原子の移動を抑制することで微細な膜にすることが可能となる。Cu、AuはAgと同族元素であり、添加した場合の電子状態の乱れが少なく反射率の低下等が少ない。特にAuは全率固溶元素であり混ざり易い元素である。希土類元素であるSmはAgやCu、Auと化合物を形成し易く、Agの性質を変化させて耐食性を向上させるとともに、加熱工程においてはAgやCu、Auとの化合物として粒界に析出し、結晶粒の成長を抑制することで耐熱性を向上させるとともに粒界腐食を抑制し耐食性を向上させていると考えられる。また、CuとAuはAgの中に固溶することでAgの凝集を抑制して密着性を向上させていると考えられる。このため、Agに対して同族元素で固溶し易い、Cu、Auとこれらの元素と化合物を形成しやすい希土類元素であるSmを複合添加することで、耐食性、耐熱性、密着性、パタニング性に優れ、可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性を有したAg合金膜が得られると考えられる。
【0020】
希土類元素の中でSmを選定した理由は、Y、La、Nd等の比較的軽希土類元素と比較して添加した場合に反射率の低下、特に低波長側での反射率の低下が少ない、すなわち可視光範囲での反射率が一定値となりかつ高反射率である反射特性を有したAg合金膜となるためである。この理由は明確ではないが、SmがLa、Ndより原子半径が小さくAgに近いために、添加した場合にAgの結晶格子の乱れが少なく、自由電子の動きを阻害する効果が低いためと考えられる。また、Smは、Y、Sc等に比較して希土類元素の中では酸化されにくいため、原料を安定に入手できる。このためAg合金膜を形成する際に用いるスパッタリングターゲットを安定に製造することが可能となるためである。このような希土類元素はSm以外にTb、Dy等も考えられるが、これらの元素は高価であるために工業的にはSmがもっとも適している。
【0021】
本発明の平面表示装置用Ag合金系反射膜を形成する際に用いる基板として、ガラス基板、Siウェハーを用いることが好適である。これらの基板は平面表示装置を製造する上でプロセス安定性に優れるとともに、本発明のAg合金系反射膜を形成する際に基板を加熱することで、室温で成膜する場合より高い反射率と密着性を有するAg合金系反射膜を得ることが可能となる。
【0022】
また、本発明のAg合金系反射膜は膜を形成した後に、基板を加熱処理することでさらに可視光範囲での反射率が一定値でありかつ高反射率である反射特性を有したAg合金膜となるため、ガラス基板、Siウェハーを用いて加熱工程を有する反射型液晶ディスプレイ等に好適である。
通常、これまでのAg−Cu合金やAg−Pd合金では加熱処理を行うと反射率は低下する場合が多く、本発明のAg合金系反射膜のように反射率が向上するものは平面表示装置用反射膜として非常に有用であるとともに、本発明のAg合金反射膜の優れた特徴の一つである。
【0023】
また、本発明の平面表示装置用のAg合金系反射膜を形成する場合、ターゲット材を用いたスパッタリングが最適である。スパッタリング法ではターゲット材とほぼ同組成の膜が形成できるためであり、本発明のAg合金膜を安定に形成することが可能となる。このため本発明は、平面表示装置用Ag合金系反射膜と同じ組成を有するAg合金系反射膜形成用スパッタリングターゲット材である。
【0024】
ターゲット材の製造方法については種々あるが、一般にターゲット材に要求される高純度、均一組織、高密度等を達成できるものであれば良い。例えば、真空溶解法により所定の組成に調整した溶湯を金属製の鋳型に鋳込み、さらにその後、鍛造、圧延等により板状に加工し、機械加工により所定の形状のターゲットに仕上げることで製造できる。また、さらに均一な組織を得るために粉末燒結法、またはスプレーフォーミング法(液滴堆積法)等の急冷凝固したインゴットを用いても良い。
【0025】
また、平面表示素子を製造する場合に用いる基板は、上述のようにガラス基板、Siウェハー等が好適であるが、スパッタリングで薄膜を形成できるものであればよく、例えば樹脂基板、金属基板、その他樹脂箔、金属箔等でもよい。
【0026】
本発明の平面表示装置用Ag合金膜は、安定した反射率を得るために膜厚としては100〜300nmとすることが好ましい。膜厚が100nm未満であると、膜が薄いために光が透過してしまい反射率が低下するとともに、膜の表面形態が変化し易くなる。一方、膜厚が300nmを超えると、結晶粒が成長して膜表面形態の凹凸が大きくなり反射率が低下してくるとともに、膜応力によって膜が剥がれ易くなったり、膜を形成する際に時間が掛かり、生産性が低下するためである。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
Agに希土類元素(Y、Nd、Sm)を0.2at%、Cuを0.2at%複合添加した鋳造Ag合金インゴットを作製し、冷間圧延にて板状に加工した後、機械加工により直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。次に、そのターゲット材を用いてスパッタリング法によりガラス基板上に膜厚200nmのAg合金膜を形成し、分光測色計(ミノルタ製CM2002)を用いて可視光域である400〜700nmの分光反射率を測定した。その結果を図1に示す。
【0028】
図1に示す通り、Agに希土類元素とCuを複合添加したAg合金膜の中で、可視光範囲である光学波長400〜700nmの範囲での反射率が最も高いのはSmを添加したAg合金膜である。
【0029】
(実施例2)
次に、AgにCuを0.2at%、希土類元素(Y、La、Nd、Sm、Tb)の添加量をそれぞれ変化させた鋳造Ag合金インゴットを作製し、実施例1と同様にスパッタリングターゲット材を作製した。さらに、そのAg合金ターゲット材をスパッタリング法によりガラス基板上に膜厚200nmのAg合金膜を形成し、分光測色計(ミノルタ製CM2002)を用いて可視光域である400〜700nmの平均反射率を測定し図2に、光学波長400〜700nmの範囲での反射率の最大値をref(max)、最小値をref(min)としたときの反射率の関係を((ref(max)−ref(min))/ref(max))×100で求めた反射率差の値を図3に示す。
【0030】
図2に示す通り、希土類元素の添加量が増加すると平均反射率は低下する。希土類元素の中でSmあるいはTbを添加したAg合金膜は、Y、LaあるいはNdを添加したAg合金膜に比較して反射率の低下が少ない。また、図3に示す通り、反射率差もSmあるいはTbを添加したAg合金膜の方が小さくなる傾向にあることがわかる。以上の結果から、Agに添加する元素としてSmあるいはTbが望ましく、その添加量を0.5at%以下、より好ましくは0.3at%以下とすることで97%以上の高い平均反射率と反射率差の値が6以下のペーパーホワイトに近い可視光範囲で反射率が一定値となる反射特性を有するAg合金を得ることが可能であることがわかる。
【0031】
(実施例3)
Agに希土類元素(Y、Nd、Sm、Tb)を0.2at%、Cuの添加量をそれぞれ変化させた鋳造Ag合金インゴットを作製し、実施例1と同様にスパッタリングターゲット材を作製した。さらに、そのAg合金ターゲット材をスパッタリング法によりガラス基板上に膜厚200nmのAg合金膜を形成し、実施例2と同様に、可視光域である400〜700nmの平均反射率を測定し図4に、光学波長400〜700nmの範囲での反射率差の値を図5に示す。
【0032】
図4に示す通り、Cuの添加量の増加に伴い平均反射率は低下するが、SmあるいはTbを添加したAg合金膜は、YあるいはNdを添加したAg合金膜に比較して平均反射率が高い。また、図5に示す通り、SmあるいはTbを添加したAg合金膜では反射率差も小さく、可視光範囲での反射率が一定値となる反射特性を得ることが可能であることがわかる。さらに、Cuの添加量が0.5at%を超えると反射率は大きく低下し、反射率差も大きくなる。このため、SmあるいはTbとCuを複合添加する場合のCuの添加量としては、0.5at%を越えないことが望ましいことがわかる。
【0033】
(実施例4)
さらに、Agに希土類元素(Y、Nd、Sm、Dy)を0.2at%、Auの添加量をそれぞれ変化させた鋳造Ag合金インゴットを作製し、実施例1と同様にスパッタリングターゲット材を作製した。さらに、そのAg合金ターゲット材をスパッタリング法によりSiウェハ−基板上に膜厚200nmのAg合金膜を形成し、実施例2と同様に、可視光域である400〜700nmの平均反射率を測定し図6に、光学波長400〜700nmの範囲での反射率差の値を図7に示す。
【0034】
図6に示す通り、Auの添加量の増加に伴い平均反射率はわずかに低下するが、SmあるいはDyを添加したAg合金膜は、YあるいはNdを添加したAg合金膜に比較して反射率が高い。また、SmあるいはDyを添加したAg合金膜は、反射率差も小さく、可視光範囲での反射率が一定値となる反射特性を得ることが可能であることがわかる。Auの添加量に対する反射率の変化はCuに比較して小さく、添加量が増加しても反射率の変化が少ないことがわかる。しかし、希土類元素を添加した場合の反射率特性は、SmあるいはDyが良いことがわかる。
【0035】
(実施例5)
次に、AgにSmとCu、およびSmとAuを複合添加した場合の耐熱性、耐食性、密着性、パタニング性を評価した。
平面表示装置の製造工程を経た後での反射率を評価するために、ガラス基板上に200nmの膜厚で形成した純Ag膜、Ag合金膜を温度250℃、2時間の真空中で加熱処理した後の反射率、耐食試験として温度85℃、湿度90%の環境に24h放置した際の反射率、また、膜の密着性を評価するために、加熱処理を行なった純Ag膜、Ag合金膜に2mm間隔で碁盤の目状に切れ目を入れた後、膜表面にテープを貼り、引き剥がした。その際に基板上に残った桝目を面積率で表わし、密着力として評価した。また、パタニング性の評価として上記耐熱性評価を施した金属膜に、東京応化製OFPR−800レジストをスピンコートにより形成し、フォトマスクを用いて紫外線でレジストを露光後、有機アルカリ現像液NMD−3で現像し、レジストパターンを作製し、リン酸、硝酸、酢酸の混合液でエッチングし、Ag合金膜パターンのエッジの形状およびその周囲の残さ等について光学顕微鏡で観察しパタニング性を評価した、以上の測定した結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
Figure 0004103067
【0037】
純Ag膜(No.1)は、成膜時には98%を超える高い平均反射率を有するが、加熱処理、耐食試験を行なうと大幅に平均反射率が低下するとともに、その密着性も低いことがわかる。また、AgにSmを添加した場合(No.2〜5)は、耐熱試験、耐食試験を行った後も高い平均反射率を維持できるが、密着性が低くパタニング性では純Ag同様に膜剥れが生じてしまう。一方、本発明のAgにSmとCu、SmとAu、SmとCu及びAuを複合添加したAg合金膜は、成膜時の平均反射率も高く、熱処理後および耐食試験後でともに高い平均反射率を維持し、密着性も大幅に改善される上に、パタニング性に優れていることがわかる。そして、その改善効果は上記添加量の増加により向上し、各元素の効果が0.1at%以上で明確となる。ただし、Auの添加量が0.5at%を超えると平均反射率、密着性には優れるが、エッチング後に残さが確認されパタニング性に劣ることがわかる。また、本発明のAg合金膜は加熱処理後により、成膜時より平均反射率が向上することがわかる。
なお、No.18および19は、Siウェハー上にAg合金膜を形成した試料であるが、表1からも明らかな通り、ガラス基板上にAg合金膜を形成した場合と同様の結果が得られた。
【0038】
また、耐食試験後の膜表面形態を観察した外観スケッチを図8に示す。膜表面に腐食痕である白い生成物が発生しているが、純Ag(No.1)に比較し、本発明のAg−Sm−Cu(No.8)やAg−Sm−Au(No.11)では腐食痕が少なく、特にAg−Sm−Auが良好であることがわかる。
【0039】
(実施例6)
本発明、実施例5のAg−Sm−Cu(No.8)について、成膜時と250℃×1hrの真空中で加熱処理した後の分光反射特性を測定し、図9に示す。本発明のAgにSmとCuを複合添加したAg合金膜では、成膜時は純Agよりどの波長でも低い反射率を有しているが、加熱処理を行うと反射率が向上し、特に低波長側の反射率が大きく向上し、可視光範囲での反射率がさらに一定値となる反射特性が得られる。光学波長400〜700nmの範囲での反射率の最大値をref(max)、最小値をref(min)としたときの反射率の関係が((ref(max)−ref(min))/ref(max))×100とした反射率差の値では3と非常に優れた特性となる。このため、加熱処理工程が必要な液晶ディスプレイ等の平面表示装置において、従来にない優れた特性を有した平面表示装置を製造することが可能となるものである。
【0040】
(実施例7)
本発明、実施例3で作製したAg−0.2Sm−0.3Auのスパッタリングターゲットを用いて、成膜時に基板を150℃に加熱した場合のAg合金膜の分光反射特性を測定し、図10に示す。基板を加熱して成膜することで、400〜700nmの波長範囲で約0.5%程度高い反射特性が得られることがわかる。また、基板を加熱して成膜することにより、密着性は85%から90%と向上する。このように耐熱性を有するガラス基板上では基板加熱を行うことで高い反射率と密着性を有したAg合金膜を得ることが可能となる。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明であれば、高い反射率と可視光範囲で反射率が一定値となる反射特性と有し、耐熱性、耐食性、そして基板との密着性を改善した平面表示装置用Ag合金膜を得ることが可能である。よって、携帯情報端末等に用いられる低消費電力が要求される反射型液晶ディスプレイ等の平面表示装置に有用であり、産業上の価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1の希土類元素とCuを複合添加したAg合金膜について、光学波長400〜700nmの範囲の反射率を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の平均反射率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例2のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の反射率差の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例3のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の平均反射率の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例3のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の反射率差の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例4のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の平均反射率の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例4のAg合金膜について、希土類元素の添加量とAg合金膜の反射率差の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、純Ag膜およびAg合金膜の耐食試験後の膜表面の形態を示す外観スケッチである。
【図9】図9は、実施例6のAg合金膜について、光学波長400〜700nmの範囲の反射率を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例7のAg合金膜について、光学波長400〜700nmの範囲の反射率を示すグラフである。

Claims (1)

  1. Smを0.1〜0.5at%、Auおよび/またはCuを合計で0.1〜0.5at%含み残部実質的にAgからなり、光学波長400〜700nmの範囲での反射率の最大値をref ( max ) 、最小値をref(min)としたときの反射率差が(((ref ( max ) −ref(min))/ref ( max ) )×100≦6)であることを特徴とする平面表示装置用Ag合金系反射膜。
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