JP3775311B2 - ヘミング加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルのヘミングフランジ部を折り返すヘミング加工を行うヘミング加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘミング加工は、はぜ折りとも称せられ、パネルの縁部を滑らかにし、強度アップを図ることを目的として行われている。例えば自動車の車体を構成するドア、フード、トランクなどの開閉体を組み立てるにあたっては、一方のパネルのヘミングフランジ部を他方のパネルに対して180度折り返し、両パネルを一体化する際に広く用いられている。
【0003】
車体用のパネルとしては、鋼板が一般的に用いられているが、車両の軽量化を目的にアルミニウム合金板の使用も増加している。プレス成形して使用する車体用アルミニウム合金としては、Al−Mg系の「5000系」と呼ばれる合金が主に使われている。この5000系の材料はMgの含有率が高い上に製造も難しいことから、材料コストが高いという難点があるが、それにも拘わらず5000系の材料が使われてきたのは、プレス成形性が高いためである。
【0004】
近年、車体用アルミニウム合金として、Al−Mg−Si系の「6000系」と呼ばれる合金が開発されるに至った。この6000系の材料は、5000系の材料に比べて材料コストが安価であるという利点がある。さらに、6000系の材料は、焼き付け塗装温度で強度が増加するベークハード性と呼ばれる性質があるため、5000系の材料より高強度化できるので、その分だけ板厚を減らして軽量化をさらに図ることができるという利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
6000系アルミニウム合金板は上述した利点を有する一方、5000系アルミニウム合金板に比べると、伸びが小さいことから加工割れし易く、かつ、ヤング率が小さいことから形状凍結性が悪い。このため、鋼板や5000系アルミニウム合金板用のヘミング加工装置を用いてヘミング加工を行うと、ヘミングフランジ部を折り返すことにより形成されるヘム曲げ部の表面に割れが発生したり、フランジ端部に開きが発生したりするという問題がある。
【0006】
また、デザイン上の観点から複雑な部品形状が要求され、板材には、ヘミング加工前の予備ひずみが増加する傾向にある。さらに、外板品質(パネル外面の凹凸、シワ)を向上ないし改善するために、ヘミング加工前の予備ひずみを増加させる傾向もある。このような予備ひずみ量が多くなると、6000系アルミニウム合金板では、前述した割れや開きが顕著に発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルを、ヘム曲げ部表面の割れやフランジ端部の開きが発生することなくヘミング加工し得るヘミング加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0009】
(1)Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルのヘミングフランジ部をヘムダイにより加圧して折り返すヘミング加工を行うヘミング加工方法であって、
前記ヘムダイの加圧面には、前記ヘミングフランジ部を折り返すことにより形成されるヘム曲げ部の側が凹部となり、フランジ端部の側が凸部となる段部が形成され、
当該段部は、下記の条件式1〜4
X≦0.6×FL (条件式1)
Y≦0.4 (条件式2)
Y≧0.25×t+0.05 (条件式3)
X≧5×t−1.0 (条件式4)
ここに、
X:段部における凹部と凸部との境界線が被加工パネルに接触する位置からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
Y:段部の深さ[mm]
FL:ヘム曲げ部の内側からフランジ端部までのフランジ長さ[mm](ただし、(5×t−1.0)/0.6≦FLを満たす)
t:被加工パネルの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たしてなるヘミング加工方法。
【0010】
(2)Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルのヘミングフランジ部をヘムダイにより加圧して折り返すヘミング加工を行うヘミング加工方法であって、
前記ヘムダイの加圧面には、前記ヘミングフランジ部を折り返すことにより形成されるヘム曲げ部の側が平坦面からなる凹部となり、フランジ端部の側が前記被加工パネルに向けて傾斜する傾斜面からなる凸部となる段部が形成され、
当該段部は、
Y=1000×(y0/x0)
8.0≦x1≦10.0
y1≦1.0
とするとき、下記の条件式1〜4
Y≦α×X+(25−α)
ここで、α=22/(0.7×L−1) (条件式1)
X≧1 (条件式2)
Y≧β×X+(11−β)
ここで、β=12/(0.7×L−1) (条件式3)
X≦0.7×L (条件式4)
ここに、
X:段部における凹部と凸部との境界線からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y0/x0:傾斜面の傾き
x1:傾斜面の端部からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y1:段部の深さ[mm]
L:フランジ加工されたヘミングフランジ部の長さ[mm](ただし、L<10.0/0.7を満たす)
t:被加工パネルの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たしてなるヘミング加工方法。
【0011】
【発明の効果】
上記のように構成した本発明は以下の効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、条件式1〜4にしたがうX、Y寸法を有する段部をヘムダイの加圧面に形成したことにより、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からな被加工パネルを、ヘム曲げ部の表面の割れの抑制とフランジ端部の開きの抑制との両立を図りつつ、ヘミング加工することができる。
【0013】
また、6000系アルミニウム合金板は、予備ひずみ量が大きい場合に割れや開きの不具合が特に発生し易いが、予備ひずみ量が比較的大きい場合においても、割れや開きを有効に抑制することが可能となる。
【0014】
もって、5000系アルミニウム合金板に比較して材料コストが安価で軽量化をさらに図ることができる6000系アルミニウム合金板を用いて、複雑な形状を有する被加工パネルの縁部にヘミング加工を施すことが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、条件式1〜4にしたがう段部をヘムダイの加圧面に形成したことにより、請求項1に記載の発明の効果に加えて、次の効果も奏する。つまり、平坦面からなる凹部と、傾斜面からなる凸部とにより段部を構成したので、フランジ加工されたヘミングフランジ部の長さや、ある程度折り返されたヘミングフランジ部のプリ曲げ角度に生産上多少のばらつきが生じでも、凹部と凸部との境界部分にフランジ端部が引っ掛かることがない。このため、ヘム曲げ部やフランジ部分が座屈せず、生産上のばらつきを吸収しつつ、寸法精度の良好なヘミング加工を施すことが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1(A)〜(C)は、本発明の第1の実施形態に係るヘミング加工要領を示す概念図、図2は、第1の実施形態に係るヘミング加工装置の要部を示す図である。
【0018】
図示する第1の実施形態に係るヘミング加工装置は、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPo(被加工パネルに相当する)およびインナパネルPiを重ね合わせ、アウタパネルPoのヘミングフランジ部10をインナパネルPiに対して180度折り返し、両パネルPo、Piを一体化する際に用いられる。
【0019】
図1を参照して、ヘミング加工は、フランジ加工(図1(A))、プリヘム加工(図1(B))および本ヘム加工(図1(C))の各工程を含んでいる。
【0020】
フランジ加工工程では、ポンチ20とダイ21とにより、アウタパネルPoの周縁部をほぼ90度に折り曲げてヘミングフランジ部10を形成する。
【0021】
プリヘム加工工程では、ダイ22上面に対して傾斜する加圧面23を備えたヘムダイ24を所定角度回転し、ヘミングフランジ部10を所定のプリ曲げ角度α(例えば45度)までさらに折り曲げる。
【0022】
本ヘム加工工程では、ダイ30上のアウタパネルPoにインナパネルPiを重ね合わせ、ヘムダイ31をダイ30に向けて下降し、ヘミングフランジ部10がインナパネルPiに密着するまでヘムダイ31をプレスにより加圧する。このようにヘミングフランジ部10を折り返すことにより、アウタパネルPoにヘム曲げ部11が形成される。本発明は、本ヘム加工を行うヘミング加工方法に適用されている。
【0023】
図2に示すように、アウタパネルPoのヘミングフランジ部10を加圧するヘムダイ31の加圧面32には、ヘム曲げ部11の側が凹部33となり、フランジ端部12の側が凸部34となる段部35が形成されている。そして、当該段部35は、下記の条件式1〜4
X≦0.6×FL (条件式1)
Y≦0.4 (条件式2)
Y≧0.25×t+0.05 (条件式3)
X≧5×t−1.0 (条件式4)
ここに、
X:段部35における凹部33と凸部34との境界線36(以下、「段部先端36」とも言う)がアウタパネルPoに接触する位置からヘム曲げ部11における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
Y:段部35の深さ[mm]
FL:ヘム曲げ部11の内側からフランジ端部12までのフランジ長さ[mm](ただし、(5×t−1.0)/0.6≦FLを満たす)
t:アウタパネルPoの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たすように形成してある。
【0024】
上記の条件式1〜4は、6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoを、ヘム曲げ部11の表面の割れやフランジ端部12の開きが発生することなくヘミング加工し得る条件であり、種々の試験を通して決定したものである。以下に、試験条件および試験結果について説明する。
【0025】
試験条件を表1に示す。また、ヘムダイ31の段部35のX、Y寸法の条件を表2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
供試材として、板厚tが0.8mm、1.0mm、1.2mmの3種類の6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoおよびインナパネルPiを用いた。
【0029】
試験装置として、図1(A)〜(C)に示す量産成形工程を再現可能な実験型を作製し、これを用いた。
【0030】
試験片の形状は、100幅×50長さとした。フランジ長さFLは、一般的な長さである10mmと、製品の部位による長さの変更とばらつきをも考慮した12mmとした。フランジ長さFL=10mm、12mmを実現できるように、試験片の試験装置へのセッティングを調整した。
【0031】
自動車用パネル材を実際に成形する場合において、ヘミング加工された部位が受ける最も大きいひずみ量を想定し、予備ひずみ量を15%とした。
【0032】
フランジ加工およびプリヘム加工は、鋼板や5000系アルミニウム合金板に対して標準的に行っている条件で行った。つまり、フランジ加工条件は、ポンチR2.0、ダイR2.0、加工クリアランス110%とした。また、プリヘム加工条件は、プリ曲げ角度45°、プリ進入角度50°とした。
【0033】
本ヘム加工は、図2に定義した寸法に基づき、段部35のX、Y寸法が表2に示す条件を満たすヘムダイ31を使用して行った。本ヘム加工に際して、ヘムダイ31の当て面(段部35の凸部34の下面34a)とダイ30上面とのクリアランスが、アウタパネルPoおよびインナパネルPiの板厚分になるように、プレスの下死点を調整した。
【0034】
図3は、ヘム曲げ部11の表面の割れやフランジ端部12の開きという不具合が発生した状況を概念的に示す図である。このような不具合が発生しているか否かの判断ないし評価は次のようにして行った。
【0035】
ヘム曲げ部11の表面の割れに対する評価は、ヘム曲げ部11の表面を目視して行った。ヘム曲げ部11の表面の形態が、材料の表面とほぼ同一の程度から肌荒れした程度の場合にはOK(良)とし、微少な割れや比較的大きい割れが発生した場合にはNG(不良)とした。
【0036】
フランジ端部12の開きに対する評価は、ヘム断面の寸法を測定して行った。つまり、フランジ端部12における断面寸法Z1−(アウタパネルPoの板厚×2+インナパネルPiの板厚)=0〜0.1mmの場合にはOK(良)とし、0.1mmより大きい場合にはNG(不良)とした。
【0037】
図4(A)(B)は、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。評価結果を示す図においては、OK(良)を「○」、NG(不良)を「×」、バラツキがありNG(不良)となったものを「△」で示してある。
【0038】
図4(A)を参照して、X<4mmの場合には、段部先端36がアウタパネルPoに接触する位置からヘム曲げ部11における内側の曲げ先端部までの長さが短すぎるため、断面曲率が急激に変化する。このため、断面曲率の変化に材料が十分に対応できないことから、曲げ先端部の曲げアールが極端に小さくなり、割れが発生した。
【0039】
加圧面32に段部35を形成すると、凹部33により、曲げ先端部の厚さZ2を確保でき、曲げ先端部の曲げアールを大きくする効果を得ることができる。しかしながら、段部35の深さがY<0.3mmと浅い場合には、曲げ先端部が必要以上に加圧されてしまい、曲げ先端部の曲げアールを大きくする効果を十分に得ることができず、割れが発生した。
【0040】
これに対して、X≧4mm、かつ、Y≧0.3mmの条件の下では、割れを抑制するのに十分な断面形状の曲げアールが曲げ先端部に確保され、割れが発生しなかった。
【0041】
図4(B)を参照して、X<4mmの場合には、割れ抑制の観点からヘム断面として所定の厚さを保有すべき部位(Z2部近傍)に段部先端36が当たってしまう。このため、当該部位での断面曲率が極端に変化してしまうことを原因として、フランジ端部12が跳ね上がって開きが発生した。
【0042】
凸部下面34aをヘミングフランジ部10に面当てさせ、ヘミングフランジ部10の形状を凍結することにより、フランジ端部12の開きを抑制する効果を得ることができる。しかしながら、X>6mmの場合には、ヘミングフランジ部10を押さえる面積が小さくなりすぎるため、フランジ端部12の開きを抑制する効果を十分に得ることができず、開きが発生した。
【0043】
アウタパネルPoの予備ひずみ量が多いときは、ヘミングフランジ部10のスプリングバックが大きいことから、当該スプリングバックをカバーすべき補正寸法Z3を確保する必要がある。しかしながら、段部35の深さがY<0.2mmと浅い場合には、曲げ先端部が必要以上に加圧されてしまう。このため、アウタパネルPoの予備ひずみ量が多いときにあっては、ヘミングフランジ部10のスプリングバックをカバーすべき補正寸法Z3が不足する結果、開きが発生することがあった。段部35の深さY<0.2mmの場合、開きの評価に、アウタパネルPoの予備ひずみ量によってバラツキが生じたため、NG(不良)と判断した。
【0044】
段部35の深さがY>0.4mmと深い場合は、凸部下面34aを面当てさせるだけでは、フランジ端部12の開きを十分に抑制することができなかった。これは、割れ抑制の観点からヘム断面として所定の厚さを保有すべき部位(Z2部近傍)を段部35の凹部33の上面33aによって押さえる作用が働かないためであると考えられる。
【0045】
これに対して、4mm≦X≦6mm、かつ、0.2mm≦Y≦0.4mmの条件にすると、フランジ端部12の開きが十分に抑制されることを確認した。これは、凸部下面34aをヘミングフランジ部10に面当てさせ、ヘミングフランジ部10の形状を凍結する作用に加えて、Z2部近傍を凹部上面33aによって押さえる作用が加わる結果であると考えられる。
【0046】
上記の評価結果より、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=10mmの場合に、ヘム曲げ部11の表面の割れおよびフランジ端部12の開きを抑制するX、Y寸法の条件つまり最適領域は、図8(B)に示すように、
4mm≦X≦6mm
0.3mm≦Y≦0.4mm となる。
【0047】
図5(A)(B)は、板厚t=0.8mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【0048】
図5(A)(B)に示すように、板厚t=0.8mmの場合も、上述した板厚t=1.0mmの場合と同様の傾向を示すことを確認した。つまり、X≧3mm、かつ、Y≧0.25mmの条件の下では割れが発生せず、3mm≦X≦6mm、かつ、0.2mm≦Y≦0.4mmの条件の下では開きが発生しなかった。
【0049】
図5(A)(B)に示される評価結果より、板厚t=0.8mm、フランジ長さFL=10mmの場合の最適領域は、図8(A)に示すように、
3mm≦X≦6mm
0.25mm≦Y≦0.4mm となる。
【0050】
図6(A)(B)は、板厚t=1.2mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【0051】
図6(A)(B)に示すように、板厚t=1.2mmの場合も、上述した板厚t=1.0mm、0.8mmの場合と同様の傾向を示すことを確認した。つまり、X≧5mm、かつ、Y≧0.35mmの条件の下では割れが発生せず、4mm≦X≦6mm、かつ、0.2mm≦Y≦0.4mmの条件の下では開きが発生しなかった。
【0052】
図6(A)(B)に示される評価結果より、板厚t=1.2mm、フランジ長さFL=10mmの場合の最適領域は、図8(C)に示すように、
5mm≦X≦6mm
0.35mm≦Y≦0.4mm となる。
【0053】
図7(A)(B)は、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=12mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【0054】
図7(A)(B)に示すように、フランジ長さFL=12mmの場合も、上述した板厚t=1.0mm、FL=10mmの場合(図4を参照)と同様の傾向を示すことを確認した。つまり、X≧4mm、かつ、Y≧0.3mmの条件の下では割れが発生せず、4mm≦X≦7mm、かつ、0.2mm≦Y≦0.4mmの条件の下では開きが発生しなかった。
【0055】
図7(A)(B)に示される評価結果より、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=12mmの場合の最適領域は、図8(D)に示すように、
4mm≦X≦7mm
0.3mm≦Y≦0.4mm となる。
【0056】
図8(B)と図8(D)とを比較すれば明らかなように、板厚tが同じで、フランジ長さFLが異なる場合において、フランジ長さFLの60%のX寸法を確保すれば、フランジ端部12の開きを抑制できることがわかった。パネル部品を実際に量産する場合において、フランジ長さFLが成形条件の変動などに起因して若干ばらつくことを考慮すると、Xの上限寸法を設定し、ヘミングフランジ部10を押さえつける凸部下面34aがフランジ端部12の開きを抑制するために最低限必要な面積を確保できるようにしておくことが重要である。
【0057】
図8(B)および図8(D)に示される結果に基づいて、フランジ長さFLと、Xの上限寸法との関係を示すと図9(A)に示すとおりである。これより、6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoを割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
X≦0.6×FL (条件式1)
を導出した。
【0058】
また、図8(A)〜(D)に示される結果より、割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
Y≦0.4 (条件式2)
を導出した。
【0059】
また、図8(A)〜(C)に示される結果に基づいて、板厚tと、段部35の深さYの下限寸法との関係を示すと図9(B)に示すとおりである。これより、割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
Y≧0.25×t+0.05 (条件式3)
を導出した。
【0060】
また、図8(A)〜(C)に示される結果に基づいて、板厚tと、Xの下限寸法との関係を示すと図9(C)に示すとおりである。これより、割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
X≧5×t−1.0 (条件式4)
を導出した。
【0061】
次に、条件式1〜4を満足する最適領域において、6000系アルミニウム合金板(板厚t=1.0mm)を用いて、予備ひずみ量と不具合との関係を調査した。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
加圧面がフラットなままの従来のヘムダイを用いてヘミング加工した場合には、予備ひずみ量が5%〜10%未満では、割れや開きの不具合の発生にバラツキがあり、10%以上では割れや開きが発生した。
【0064】
一方、第1の実施形態のように加圧面32に段部35が形成されたヘムダイ31を用いてヘミング加工した場合には、予備ひずみ量が5%〜15%のいずれの場合であっても、割れや開きは発生しなかった。
【0065】
これより、第1の実施形態のように段部35を形成したヘムダイ31を用いることにより、予備ひずみ量が10%以上の場合において、特に顕著に、割れや開きの抑制が可能であることがわかった。
【0066】
以上説明したように、第1の実施形態に係るヘミング加工装置によれば、条件式1〜4にしたがうX、Y寸法を有する段部35をヘムダイ31の加圧面32に形成したことにより、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなアウタパネルPoを、ヘム曲げ部11の表面の割れの抑制とフランジ端部12の開きの抑制との両立を図りつつ、ヘミング加工することができる。
【0067】
6000系アルミニウム合金板は、予備ひずみ量が大きい場合に割れや開きの不具合が特に発生し易いが、第1の実施形態に係るヘミング加工装置によれば、予備ひずみ量が10%以上の場合においても、割れや開きを有効に抑制することが可能となる。
【0068】
もって、5000系アルミニウム合金板に比較して材料コストが安価で軽量化をさらに図ることができる6000系アルミニウム合金板を用いて、複雑な形状を有する車体用パネルの縁部にヘミング加工を施すことが可能となる。
【0069】
(第2の実施形態)
図10(A)〜(C)は、本発明の第2の実施形態に係るヘミング加工要領を示す概念図、図11は、第2の実施形態に係るヘミング加工装置の要部を示す図である。
【0070】
図示する第2の実施形態に係るヘミング加工装置は、第1の実施形態と同様に、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPo(被加工パネルに相当する)およびインナパネルPiを重ね合わせ、アウタパネルPoのヘミングフランジ部10をインナパネルPiに対して180度折り返し、両パネルPo、Piを一体化する際に用いられる。
【0071】
図10を参照して、ヘミング加工は、フランジ加工(図10(A))、プリヘム加工(図10(B))および本ヘム加工(図10(C))の各工程を含んでいる。
【0072】
フランジ加工工程では、ポンチ120とダイ121とにより、アウタパネルPoの周縁部をほぼ90度に折り曲げてヘミングフランジ部110を形成する。
【0073】
プリヘム加工工程では、ダイ122上面に対して傾斜する加圧面123を備えたヘムダイ124を所定角度回転し、ヘミングフランジ部110を所定のプリ曲げ角度α(例えば45度)までさらに折り曲げる。
【0074】
本ヘム加工工程では、ダイ130上のアウタパネルPoにインナパネルPiを重ね合わせ、ヘムダイ131をダイ130に向けて下降し、ヘミングフランジ部110がインナパネルPiに密着するまでヘムダイ131をプレスにより加圧する。このようにヘミングフランジ部110を折り返すことにより、アウタパネルPoにヘム曲げ部111が形成される。本発明は、本ヘム加工を行うヘミング加工方法に適用されている。
【0075】
図11に示すように、アウタパネルPoのヘミングフランジ部110を加圧するヘムダイ131の加圧面132には、ヘム曲げ部111の側が平坦面133aからなる凹部133となり、フランジ端部112の側がアウタパネルPoに向けて傾斜する傾斜面134aからなる凸部134となる段部135が形成されている。そして、当該段部135は、
Y=1000×(y0/x0)
8.0≦x1≦10.0
y1≦1.0
とするとき、下記の条件式1〜4
Y≦α×X+(25−α)
ここで、α=22/(0.7×L−1) (条件式1)
X≧1 (条件式2)
Y≧β×X+(11−β)
ここで、β=12/(0.7×L−1) (条件式3)
X≦0.7×L (条件式4)
ここに、
X:段部135における凹部133と凸部134との境界線136(以下、「段部屈曲線136」とも言う)からヘム曲げ部111における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y0/x0:傾斜面の傾き
x1:傾斜面134aの端部からヘム曲げ部111における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y1:段部135の深さ[mm]
L:フランジ加工されたヘミングフランジ部110の長さ[mm](図10(A)を参照)(ただし、L<10.0/0.7を満たす)
t:アウタパネルPoの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たすように形成してある。
【0076】
上記の条件式1〜4は、6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoを、ヘム曲げ部111の表面の割れやフランジ端部112の開きが発生することなくヘミング加工し得る条件である。さらに、条件式1〜4は、ヘミングフランジ部の長さやプリ曲げ角度に生じ得る生産上の多少のばらつきを吸収しつつ、寸法精度の良好なヘミング加工を施し得る条件であり、種々の試験を通して決定したものである。以下に、試験条件および試験結果について説明する。
【0077】
試験条件を表4に示す。また、ヘムダイ131の段部135の条件を表5に示す。表5においては、寸法X、Yの種々の組み合わせのヘムダイのうち、作製したヘムダイ131を「○」で示してある。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
供試材として、板厚tが0.8mm、1.0mm、1.2mmの3種類の6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoおよびインナパネルPiを用いた。
【0081】
試験装置として、図10(A)〜(C)に示す量産成形工程を再現可能な実験型を作製し、これを用いた。
【0082】
試験片の形状は、100幅×50長さとした。ヘミングフランジ部110の長さLは、一般的な長さである10mmと、製品の部位による長さの変更とばらつきをも考慮した8mmおよび12mmとした。ヘミングフランジ部110の長さL=8mm、10mm、12mmを実現できるように、試験片の試験装置へのセッティングを調整した。
【0083】
自動車用パネル材を実際に成形する場合において、ヘミング加工された部位が受ける最も大きいひずみ量を想定し、予備ひずみ量を15%とした。
【0084】
フランジ加工およびプリヘム加工は、鋼板や5000系アルミニウム合金板に対して標準的に行っている条件で行った。つまり、フランジ加工条件は、ポンチR2.0、ダイR2.0、加工クリアランス110%とした。また、プリヘム加工条件は、プリ曲げ角度45°、50°、プリ進入角度50°とした。
【0085】
本ヘム加工は、図11に定義した寸法に基づき、Y=1000×(y0/x0)とした場合に、表5に示す条件を満たすヘムダイ131を作製して行った。本ヘム加工に際して、図10(C)に符号Tで示されるヘム厚さが一定(板厚の3.3倍)になるように、プレスの下死点を調整した。
【0086】
ヘム曲げ部111に表面の割れやフランジ端部112の開きという不具合が発生しているか否かの判断ないし評価は、第1の実施形態と同様にして行った。
【0087】
図12(A)(B)は、第2の実施形態に係る本へム加工工程において割れや開きを抑制するメカニズムを示す概念図である。
【0088】
図13(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部110の長さL=10mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。評価結果を示す図においては、OK(良)を「○」、NG(不良)を「×」で示してある。
【0089】
図13(A)(B)を参照して、X<1mmの場合には、本ヘム加工工程でのフランジ端部112はヘム曲げ部111を均一に変形させ得る軌道を描きながら移動するが(図12(A)参照)、段部屈曲線136からヘム曲げ部111における内側の曲げ先端部までの長さが短すぎるため、ヘム曲げ部111を上面から十分に押さえることができない(図12(B)参照)。このため、フランジ端部112が跳ね上がって開きが発生した。また、段部135の凹部133の上面133aからの押さえ力と、凸部134の傾斜面134aからの押さえ力との釣り合いの問題から、ヘム曲げ部111が呈するアール形状のフランジ端部112側の終端であるアール止まり部111a(図11参照)近傍の変形が局部的になり、曲げ先端部に若干の割れが発生した。
【0090】
X>7mmの場合は、段部屈曲線136からヘム曲げ部111における内側の曲げ先端部までの長さが長すぎるため、ヘムダイ131に傾斜面134aを設けて本ヘム加工時にヘム曲げ部111の変形を均―化させる効果が不足する。しかも、上面133aからバランス良くヘム曲げ部111を押さえることができない。このため、割れ、開きがともに発生した。
【0091】
Yの値に関して、割れの評価結果および開きの評価結果がともにOKとなる領域と、いずれか一方がNGとなる領域との境界を示す線分は、図13(B)中に示すように、下限の境界線はY=2.0×X+9.0で表され、上限の境界線はY=3.7×X+21.3で表される。そして、下限の境界線より下の領域、つまり、Y<2.0×X+9.0の領域では、本ヘム加工時にヘム曲げ部111の変形を均―化させる効果が不足することにより、割れおよび開きがともに発生した。また、上限の境界線より上の領域、つまり、Y>3.7×X+21.3領域では、凹部133の上面133aからの押さえ力と、凸部134の傾斜面134aからの押さえ力とのバランスが崩れることにより、アール止まり部111a近傍の変形が不足し、フランジ端部112に開きが発生した。
【0092】
これに対し、Y≧2.0×X+9.0、Y≦3.7×X+21.3を満たし、さらに、1≦X≦7を満たす領域では、割れおよび開きの両者が有効に抑制されることを確認した。これは、ヘム曲げ部111の均―な変形が促進され、かつ、凹部133の上面133aによりヘム曲げ部111の上面が十分に押さえられる結果であると考えられる。
【0093】
図14(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部110の長さL=12mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【0094】
前述したヘミングフランジ部110の長さL=10mmの場合と同様に検討し、Y≧1.6×X+9.4、Y≦3.0×X+22.0を満たし、さらに、1≦X≦8.5を満たす領域では、割れおよび開きの両者が有効に抑制されることを確認した。さらに、ヘミングフランジ部110の長さが変わっても(長くなっても)、凹部133と凸部144との境界部分である段部屈曲線136にフランジ端部112が引っ掛かることがなく、ヘム曲げ部111やフランジ部分に座屈が発生せず、寸法精度が悪化しないことを確認した。
【0095】
図15(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部110の長さL=8mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【0096】
前述したヘミングフランジ部110の長さL=10mm、12mmの場合と同様に、Y≧2.6×X+8.4、Y≦4.8×X+20.2を満たし、さらに、1≦X≦5.5を満たす領域では、割れおよび開きの両者が有効に抑制されることを確認した。さらに、ヘミングフランジ部110の長さが変わっても(短くなっても)、段部屈曲線136にフランジ端部112が引っ掛かることがなく、ヘム曲げ部111やフランジ部分に座屈が発生せず、寸法精度が悪化しないことを確認した。
【0097】
次に、板厚tの影響を明確化するために、ヘミングフランジ部110の長さL=10mm、プリ曲げ角度45°の場合において、板厚t=0.8mmのときの割れおよび開きの評価と、板厚t=1.2mmのときの割れおよび開きの評価とを行った。その結果、板厚t=0.8mm、1.2mmのいずれのときも、図13(A)(B)に示した板厚t=1.0mmのときの評価結果と同じ結果が得られた。
【0098】
したがって、0.8mm≦板厚t≦1.2mmの場合には、Y≧2.0×X+9.0、Y≦3.7×X+21.3を満たし、さらに、1≦X≦7を満たす領域では、割れおよび開きの両者が有効に抑制されることを確認した。
【0099】
次に、ヘミングフランジ部110のプリ曲げ角度αに生産上多少のばらつきが生じることを想定し、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部110の長さL=10mm、プリ曲げ角度50°の場合における割れおよび開きの評価を行った。その結果、プリ曲げ角度50°のときも、図13(A)(B)に示したプリ曲げ角度45°のときの評価結果と同じ結果が得られた。
【0100】
したがって、生産時にプリ曲げ角度αがばらついた場合にも、標準条件であるプリ曲げ角度45°の場合と同様に、割れおよび開きの両者が有効に抑制され、さらに、ヘム曲げ部111やフランジ部分に座屈が発生せず、寸法精度が悪化しないことを確認した。
【0101】
これらの結果に基づいて、ヘミングフランジ部110の長さLと、割れおよび開きの評価結果がOKとなる領域におけるXの上限値との関係を示すと図16(A)に示すとおりである。これより、6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoを割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
X≦0.7×L (条件式4)
を導出した。
【0102】
また、割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
X≧1 (条件式2)
を導出した。
【0103】
なお、XおよびYの値に関して、割れおよび開きの評価結果がOK(良)となる領域を、以下、「良評価領域」という。
【0104】
図13(B)を参照して、良評価領域におけるXの上限値(X=7)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=2.0×X+9.0との交点は、(X,Y)=(7,23)となる。また、良評価領域におけるXの上限値(X=7)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=3.7×X+21.3との交点は、(X,Y)=(7,47.2)となる。
【0105】
図14(B)を参照して、良評価領域におけるXの上限値(X=8.5)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=1.6×X+9.4との交点は、(X,Y)=(8.5,23)となる。また、良評価領域におけるXの上限値(X=8.5)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=3.0×X+22.0との交点は、(X,Y)=(8.5,47.5)となる。
【0106】
図15(B)を参照して、良評価領域におけるXの上限値(X=5.5)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=2.6×X+8.4との交点は、(X,Y)=(5.5,22.7)となる。また、良評価領域におけるXの上限値(X=5.5)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=4.8×X+20.2との交点は、(X,Y)=(5.5,46.6)となる。
【0107】
これらより、図16(B)に示すように、良評価領域におけるXの上限値と、これに交差する2本の直線との2つの交点P1、P2は、0.8mm≦板厚t≦1.2mm、ヘミングフランジ部110の長さL=8mm、10mm、12mmの条件において、P1(0.7×L,47)、P2(0.7×L,23)の近傍となることがわかった。
【0108】
図13(B)を参照して、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=2.0×X+9.0との交点は、(X,Y)=(1,11)となる。また、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=3.7×X+21.3との交点は、(X,Y)=(1,25)となる。
【0109】
図14(B)を参照して、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=1.6×X+9.4との交点は、(X,Y)=(1,11)となる。また、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=3.0×X+22.0との交点は、(X,Y)=(1,25)となる。
【0110】
図15(B)を参照して、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの下限値を定義するY=2.6×X+8.4との交点は、(X,Y)=(1,11)となる。また、良評価領域におけるXの下限値(X=1)と、当該良評価領域のYの上限値を定義するY=4.8×X+20.2との交点は、(X,Y)=(1,25)となる。
【0111】
これらより、図16(B)に示すように、良評価領域におけるXの下限値と、これに交差する2本の直線との2つの交点P3、P4は、0.8mm≦板厚t≦1.2mm、ヘミングフランジ部110の長さL=8mm、10mm、12mmの条件において、P3(1,25)、P4(1,11)となる。
【0112】
よって、0.8mm≦板厚t≦1.2mm、ヘミングフランジ部110の長さL=8mm、10mm、12mmの条件において、良評価領域のYの上限を決定する直線は、P1(0.7×L,47)とP3(1,25)とを結ぶ直線で定義できることがわかった。また、良評価領域のYの下限を決定する直線は、P2(0.7×L,23)とP4(1,11)とを結ぶ直線で定義できることがわかった。
【0113】
良評価領域のYの上限を決定する、P1、P3の2点を通る直線は、
Y=α×X+(25−α)
ここで、α=22/(0.7×L−1)
と定義される。
【0114】
良評価領域のYの下限を決定する、P2、P4の2点を通る直線は、
Y=β×X+(11−β)
ここで、β=12/(0.7×L−1)
と定義される。
【0115】
ヘミングフランジ部110の長さLが8〜12mmの場合、フランジ端部112の軌道を十分にカバーするためには、傾斜面134aの端部つまり凸部134の先端134bからヘム曲げ部111における内側の曲げ先端部までの長さx1を、8.0≦x1≦10.0とすることが必要であった。
【0116】
また、本ヘム加工時に凸部134の先端134bとインナパネルPiとの接触を避けるためには、段部135の深さy1を、y1≦1とすることが必要であった。
【0117】
以上の結果より、図16(B)に示すように、6000系アルミニウム合金からなるアウタパネルPoを割れや開きを抑制しつつヘミング加工するための条件として、
Y=1000×(y0/x0)
8.0≦x1≦10.0
y1≦1.0
とするとき、
Y≦α×X+(25−α)
ここで、α=22/(0.7×L−1) (条件式1)
X≧1 (条件式2)
Y≧β×X+(11−β)
ここで、β=12/(0.7×L−1) (条件式3)
X≦0.7×L (条件式4)
を導出した。
【0118】
表4に示したように、第2の実施形態では、予備ひずみ量を15%とした試験を行ったが、上記条件式1〜4を満たす段部135が形成されたヘムダイ131を用いてヘミング加工した場合には、割れや開きは発生しなかった。
【0119】
以上説明したように、第2の実施形態に係るヘミング加工装置によれば、条件式1〜4にしたがう段部135をヘムダイ131の加圧面132に形成したことにより、Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなアウタパネルPoを、ヘム曲げ部111の表面の割れの抑制とフランジ端部112の開きの抑制との両立を図りつつ、ヘミング加工することができる。
【0120】
6000系アルミニウム合金板は、予備ひずみ量が大きい場合に割れや開きの不具合が特に発生し易いが、第2の実施形態に係るヘミング加工装置によれば、予備ひずみ量が15%の場合においても、割れや開きを有効に抑制することが可能となる。
【0121】
もって、5000系アルミニウム合金板に比較して材料コストが安価で軽量化をさらに図ることができる6000系アルミニウム合金板を用いて、複雑な形状を有する車体用パネルの縁部にヘミング加工を施すことが可能となる。
【0122】
しかも、第2の実施形態では、平坦面133aからなる凹部133と、傾斜面134aからなる凸部134とにより段部135を構成したので、フランジ加工されたヘミングフランジ部110の長さLや、ある程度折り返されたヘミングフランジ部110のプリ曲げ角度αに生産上多少のばらつきが生じでも、凹部133と凸部134との境界部分にフランジ端部112が引っ掛かることがない。このため、ヘム曲げ部111やフランジ部分が座屈せず、生産上のばらつきを吸収しつつ、寸法精度の良好なヘミング加工を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(A)〜(C)は、本発明の第1の実施形態に係るヘミング加工要領を示す概念図である。
【図2】 第1の実施形態に係るヘミング加工装置の要部を示す図である。
【図3】 ヘム曲げ部の表面の割れやフランジ端部の開きという不具合が発生した状況を概念的に示す図である。
【図4】 図4(A)(B)は、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図5】 図5(A)(B)は、板厚t=0.8mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図6】 図6(A)(B)は、板厚t=1.2mm、フランジ長さFL=10mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図7】 図7(A)(B)は、板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=12mmの場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図8】 図8(A)〜(D)は、ヘム曲げ部の表面の割れおよびフランジ端部の開きを抑制するX、Y寸法の条件つまり最適領域を示す図であり、図8(A)は板厚t=0.8mm、フランジ長さFL=10mmの場合の最適領域、図8(B)は板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=10mmの場合の最適領域、図8(C)は板厚t=1.2mm、フランジ長さFL=10mmの場合の最適領域、図8(D)は板厚t=1.0mm、フランジ長さFL=12mmの場合の最適領域をそれぞれ示す図である。
【図9】 図9(A)は、フランジ長さFLとXの上限寸法との関係(条件式1)を示す図、図9(B)は、板厚tと段部の深さYの下限寸法との関係(条件式3)を示す図、図9(C)は、板厚tとXの下限寸法との関係(条件式4)を示す図である。
【図10】 図10(A)〜(C)は、本発明の第2の実施形態に係るヘミング加工要領を示す概念図である。
【図11】 第2の実施形態に係るヘミング加工装置の要部を示す図である。
【図12】 図12(A)(B)は、第2の実施形態に係る本へム加工工程において割れや開きを抑制するメカニズムを示す概念図である。
【図13】 図13(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部の長さL=10mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図14】 図14(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部の長さL=12mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図15】 図15(A)(B)は、板厚t=1.0mm、ヘミングフランジ部の長さL=8mm、プリ曲げ角度45°の場合における割れの評価結果および開きの評価結果のそれぞれを示す図である。
【図16】 図16(A)は、ヘミングフランジ部の長さLと、割れおよび開きの評価結果がOKとなる領域におけるXの上限値との関係を示す図、図16(B)は、第2の実施形態における段部がみたすべき条件を示す図である。
【符号の説明】
Po…6000系アルミニウム合金からなるアウタパネル(被加工パネル)
Pi…6000系アルミニウム合金からなるインナパネル
10、110…ヘミングフランジ部
11、111…ヘム曲げ部
12、112…フランジ端部
31、131…ヘムダイ
32、132…加圧面
33、133…凹部
34、134…凸部
35、135…段部
36…段部先端(段部における凹部と凸部との境界線)
133a…平坦面
134a…傾斜面
136…段部屈曲線(段部における凹部と凸部との境界線)
Claims (2)
- Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルのヘミングフランジ部をヘムダイにより加圧して折り返すヘミング加工を行うヘミング加工方法であって、
前記ヘムダイの加圧面には、前記ヘミングフランジ部を折り返すことにより形成されるヘム曲げ部の側が凹部となり、フランジ端部の側が凸部となる段部が形成され、
当該段部は、下記の条件式1〜4
X≦0.6×FL (条件式1)
Y≦0.4 (条件式2)
Y≧0.25×t+0.05 (条件式3)
X≧5×t−1.0 (条件式4)
ここに、
X:段部における凹部と凸部との境界線が被加工パネルに接触する位置からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
Y:段部の深さ[mm]
FL:ヘム曲げ部の内側からフランジ端部までのフランジ長さ[mm](ただし、(5×t−1.0)/0.6≦FLを満たす)
t:被加工パネルの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たしてなるヘミング加工方法。 - Al−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金からなる被加工パネルのヘミングフランジ部をヘムダイにより加圧して折り返すヘミング加工を行うヘミング加工方法であって、
前記ヘムダイの加圧面には、前記ヘミングフランジ部を折り返すことにより形成されるヘム曲げ部の側が平坦面からなる凹部となり、フランジ端部の側が前記被加工パネルに向けて傾斜する傾斜面からなる凸部となる段部が形成され、
当該段部は、
Y=1000×(y0/x0)
8.0≦x1≦10.0
y1≦1.0
とするとき、下記の条件式1〜4
Y≦α×X+(25−α)
ここで、α=22/(0.7×L−1) (条件式1)
X≧1 (条件式2)
Y≧β×X+(11−β)
ここで、β=12/(0.7×L−1) (条件式3)
X≦0.7×L (条件式4)
ここに、
X:段部における凹部と凸部との境界線からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y0/x0:傾斜面の傾き
x1:傾斜面の端部からヘム曲げ部における内側の曲げ先端部までの長さ[mm]
y1:段部の深さ[mm]
L:フランジ加工されたヘミングフランジ部の長さ[mm](ただし、L<10.0/0.7を満たす)
t:被加工パネルの板厚[mm](0.8mm≦t≦1.2mm)
を満たしてなるヘミング加工方法。
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