JP3772725B2 - 鋼の溶製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼の溶製方法に係わり、特に好ましくは、P及びS含有量の少ない低燐低硫鋼を効率良く、安価に溶製する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、鋼材特性の改善要求が益々高まっており、製鋼工程においては、不純物元素の低減(除去)に関しての精錬負荷が増加している。そして、この場合、低減の対象となる主な不純物元素は、燐、硫黄、酸素等である。これら元素のうち、燐(元素記号:P)、硫黄(元素記号:S)は、溶銑を転炉へ装入する前の所謂「溶銑予備処理」で予めその大部分を除去するのが一般的である。
【0003】
一般に、脱硫反応を高い効率で行うには、高温、高CaO濃度、低酸素ポテンシャル下、また硫黄活量の高い高炭素領域での操作が熱力学的に望ましいので、溶銑予備処理の分野においても、特開平11−181512号公報、特開2000−73111号公報、特開2000−73112号公報に開示されているような高炉出銑直後の高温領域で脱硫処理し、引き続き脱燐処理を行うという処理順序の設計がなされてきた。
【0004】
ところが、これらの方法では、脱硫処理によって生成した硫黄を含有するスラグが、引き続き行う脱燐処理の際に酸化され、スラグ中の硫黄が溶銑中に移行する所謂「復硫」が生じる。そのため、転炉において脱炭精錬を経て溶鋼となったた後に、さらに脱硫処理が付加的に必要となるという問題があった。
【0005】
そこで、脱燐処理中の復硫を回避すると共に工程を簡略化する目的で、一つの反応容器で脱硫処理及び脱燐処理を行うことも提案されたが、両者の反応を同時に行わせようとすると反応効率が低くなるので、脱燐処理を先行させて行い、その後に脱硫処理を行う方法が採用されている(特開平8−13016号公報、特開昭63−223114号公報、特開平11−181511公報等参照)。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、一容器で脱燐処理と脱硫処理を連続して行うので、熱損失が小さく、また処理時間が短くできるという長所があるものの、脱燐処理と脱硫処理という本来熱力学的には好適条件の異なる処理を連続して一容器で実現するために、精錬フラックスを多量に使用するという問題を有していた。すなわち、脱燐処理において生成したスラグはFeOを多量に含むので、脱硫には不適当である。そのため、FeOを還元する金属AlやAl滓等の還元剤を脱硫処理前または処理中にスラグに添加しなくてはならない。また、脱燐の際には脱珪反応も並行して生じるので、これによって生成したSiO2でスラグの塩基度が低下している。したがって、脱硫に好適な高塩基度のスラグにするために、過剰のCaOをスラグに添加する必要があった。また、上記スラグ還元の際に発生するAl23と、過剰に加えるCaOよってスラグ量が増大するが、産業廃棄物としてのスラグの発生を極力低減することが望まれる昨今においては、この精錬フラックスを多く必要とする処理は、重大な弱点となるものであった。
【0007】
さらに、最近では、種々の用途においてP及びSの含有量を著しく低減した鋼が必要とされており、このようなP及びSの含有量が共に少ない鋼を溶製しようとすると、上記溶銑予備処理だけでは不十分で、それ以降の転炉及び二次精錬工程(転炉出鋼後の溶鋼からさらに不純物元素を除去するために行う精錬工程であり、RH,VOD等の真空脱ガス槽を利用するもの、LF等の加熱用電極を備えた取鍋精錬設備を利用するもの等がある)においてさらにP及びSを除去することが多い。
【0008】
例えば、特開2000−109924号公報は、溶銑の予備脱燐及び脱硫で[P]≦0.040質量%、[S]≦0.0030質量%とした溶銑を転炉で脱炭吹錬し、転炉出鋼時に融点1500℃以下、粒径30mm以下の脱硫剤をAlと共に溶鋼に添加してスラグの改質及び追加脱硫を行い、さらに、得られた溶鋼を二次精錬工程のRH真空脱ガス槽にて粉状の脱硫剤を上吹きして脱硫することで、[P]≦0.012質量%、[S]≦0.001質量%の極低P,S鋼を溶製する技術を提案している。また、特開平10−152719号公報は、転炉からの未脱酸溶鋼を底部よりガスを吹き込める取鍋に出鋼し、該取鍋で二次精錬し、[C]≧0.003質量%の溶鋼を製造する際に、取鍋内にCaO、CaF2(蛍石)、Al23の1種以上を主成分とするフラックスを添加して、精錬後のスラグの液相線温度が1700℃以下になるようにスラグ組成を調整すると共に、取鍋内の溶融物の自由表面全体を100Torr以下の減圧に保持し、溶鋼中酸素及びスラグ中酸化鉄と溶鋼中炭素とを反応させて、溶鋼中酸素及びスラグ中酸化鉄を予め低減してから脱酸剤を添加する鋼の溶製方法を開示している。
【0009】
低燐低硫鋼の溶製では、一般に、スラグ/メタル反応による不純物元素の低減を図るため、スラグやフラックス(精錬剤)の滓化を促進する媒溶剤として蛍石を利用する。前記特開2000−109924号公報では、その実施例の中でRH真空脱ガス槽において溶鋼に吹き付ける精錬剤として、CaO(焼石灰)+CaF2(蛍石)を使用している。また、前記特開平10−152719号公報では、二次精錬工程で同様にCaF2を含むフラックスを添加し、スラグ/メタル反応の促進によりスラグ中の酸化鉄濃度を低減させている。この蛍石は、安価であり、精錬反応の促進に有効である。
【0010】
しかしながら、蛍石は、スラグ/メタル反応を促進する一方で、焼石灰に比べるとまだ高価であるばかりでなく、耐火物の溶損を助長し、耐火物成分及び耐火物の付着成分が溶鋼を汚染する。また、最近では、フッ素含有物質に起因する環境汚染の防止対策として、スラグ中のFを規制する方針が環境庁より打ち出されている。
【0011】
また、前記特開2000−109924号公報では、溶銑予備処理の脱硫処理において機械撹拌式脱硫を行った後に、その処理ずみ溶銑を引き続き転炉で脱燐しているが、この場合、先に脱硫で低減した溶銑中の硫黄濃度は、転炉での脱燐処理に際し、前工程の脱硫処理で形成され、溶銑に同伴して転炉に持ち込まれた硫黄含有スラグからの復硫や該脱燐処理で投入される昇温用炭材、焼結鉱等の酸化鉄源から硫黄を吸収して増加する。この硫黄は、その後に行う転炉での脱炭精錬では除去困難であり、脱炭精錬以降の二次精錬工程でさらに脱硫を施す必要が生じる。ところが、二次精錬での脱硫処理は、溶鋼温度が高く、且つ長時間の処理を余儀なくされるので、生産性の低下やコストの増加という問題が生じているのが現状である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情に鑑み、溶銑の脱硫処理、脱燐処理及び転炉での脱炭処理を行って溶鋼を溶製するに際し、復燐、復硫を極少化するばかりでなく、脱燐、脱硫のいずれでも精錬フラックスの原単位を極少化して排出スラグの量を低減可能な鋼の溶製方法を提案することを目的としている。また、本発明は、従来より生産性の低下やコストの増大を招かず、しかも排出スラグに起因する環境問題を起すことのない鋼の溶製方法を提供することをも目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究し、その成果を本発明に具現化した。
【0014】
すなわち、本発明は、高炉から出銑されたまま、もしくは高炉鋳床で脱Si処理された溶銑を用い、溶鋼を溶製するに際して、前記溶銑に、まず酸化鉄源に焼結鉱を使用した脱燐処理を行ってから、引き続き溶銑を溶銑鍋に移して、該溶銑中に炭化水素を吹き込むと共に、機械撹拌を伴う脱硫処理を行い、その後に転炉で脱炭精錬処理を行うことを特徴とする鋼の溶製方法である。
【0015】
その場合、前記脱硫処理に先だって溶銑鍋に払い出された溶銑の浴面上のスラグを除去したり、あるいは該脱硫処理によって生成した溶銑浴面上のスラグを除去した後に該溶銑を転炉に装入して脱炭精錬するのが良い。
【0016】
また、本発明では、前記脱燐処理、脱硫処理及び脱炭処理のそれぞれにおいて蛍石を使用せず、あるいは前記脱燐処理が反応容器を転炉としたり、また前記転炉での脱炭精錬後の溶鋼に、さらに脱硫を伴わない二次精錬を施すのが好ましい。
【0017】
本発明では、溶銑予備処理を、従来の熱力学的には合理的と思われていた脱硫処理を行ってから脱燐処理をするという順序を逆にし、脱燐処理後に脱硫処理を行うものとした。そして、その際に脱燐処理された溶銑を一旦、溶銑鍋に払い出してから、この溶銑鍋内の溶銑に機械撹拌を伴う脱硫処理を施して低燐、低硫の溶銑とし、これを転炉に装入して脱炭精錬して鋼を製造する。その結果、従来の脱硫処理→脱燐処理という順序での溶銑予備処理が抱えていた脱燐処理時の復硫の問題を解決すると共に、全体として少ないフラックス量による精錬を可能とし、これによって溶銑予備処理〜脱炭精錬を通じてスラグ発生量を極小にまで低減することが可能になる。さらに、本発明では、溶銑予備処理工程での転炉を使用した脱燐と溶銑容器を使用した脱硫の実施順序を従来とは逆にすると共に、脱燐時の酸化鉄源に焼結鉱を採用し、脱硫時に炭化水素の吹き込みを行うようにしたので、蛍石を使用せずとも、従来より生産性の低減やコストの増大を招くことなく、低燐低硫鋼が溶製できるようになる。また、蛍石をまったく使用しないので、排出スラグから溶出するフッ素が原因の環境汚染を生じる恐れも解消できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
一般に、溶銑の脱燐及び脱硫は、それぞれメタル(この場合は溶銑)/スラグ間で(1)式及び(2)式のように進行する。
【0020】
2[P]+5[O]+3CaO=3CaO・P25 …(1)
[S]+CaO=(CaS)+[O] …(2)
ここで、[P]:メタル中の燐、[S]:メタル中の硫黄、[O]:メタル中の酸素(この酸素源は、酸素ガス,あるいは酸化鉄)、(P25):スラグ中のP25、(CaS):スラグ中のCaSである。(1)式の脱燐反応は酸化反応で、(2)式の脱硫反応は還元反応であり、反応生成物のP25及びSは、スラグ中の塩基性成分であるCaOにより固定される。また、両反応ともスラグ/メタルでの界面で反応が進行する。そのため、CaO(実際には、他の成分を混合したフラックス)やスラグの融点を低下し、それらの溶融性を向上させる蛍石を別途添加するのが一般的である。さらに、脱燐反応において蛍石は、スラグ中での(P25)の活量を低下させたり、(FeO)の活量が増加させ、スラグ/メタル間の平衡燐分配比を向上させる。また、脱燐反応は、発熱反応であり低温ほど進行に有利であるのに対し、脱硫反応は、吸熱反応であって高温ほど進行に有利である。従って、熱力学的には、溶銑の脱硫を行った後に、脱燐を行うのが望ましく、前記特開2000−109924号公報記載の溶銑予備処理技術は、この考えに立脚している。
【0021】
しかし、上記の方法では、前述したように脱燐時に復硫が生じることが避け難い。そこで、本発明では、溶銑処理は脱燐、脱硫の順で実施するようにした。すなわち、従来のように、熱力学的に望ましいという考えのみで脱硫処理を先行させ高温で実施すると、当該反応だけは、確かに高い効率で起きる。ところが、その後に脱燐処理を実施すると、復硫現象が避けられない。これは、脱燐剤中に不可避的に含有する硫黄分そのものの影響や脱硫処理後のスラグ除去等で分離しきれなかった脱硫反応生成物の存在が原因である。脱硫処理に比して脱燐処理が長時間、高酸素ポテンシャルの下で実施され、また低燐化を志向すると、少量とはいえ脱炭現象も伴うことにも起因する。
【0022】
それに比較して、脱燐処理後に脱硫処理を行うというプロセスを選択した方が、復燐量及び復硫量がともに少なくなる。その結果、最終製品の硫黄含有量を低い値とすることが可能であり、製品特性も優れたものとなる。また、この順で精錬する際に、脱硫剤の組成を規制して復燐量を調整することを試みたのが、特開平11−181511号公報記載の技術であるが、同一容器で除滓することなく精錬を実施すると、本来不要な金属AlやAl23をフラックス中に混合させることが必要であり、総合的にみて余分な操作、費用の上昇を避けられない。そこで、脱燐処理後に容器の変更を実施し、脱硫処理を実施することが最良の精錬順序であると言う結論に達し、本発明を想到したのである。
【0023】
また、発明者は、高温での処理が脱硫のための最適化条件ではないかという点についても、種々の検討を重ねた。その結果、温度も重要ではあるが、本願発明の実施対象である溶銑のように、高CaO濃度、低酸素ポテンシャルの下、また硫黄活量の高い高炭素領域での操作でさえあれば、脱硫効率の低下は、問題にならないレベルであることがわかった。
【0024】
次に、脱燐処理後の溶銑を溶銑鍋に移し替えた後の除滓であるが、脱燐後の溶銑と共に流出する主たるスラグは、その流動性から、低塩基度であり、P25の濃度も低い。このため、引き続き実施する脱硫処理においての復燐量は問題にならない。一方、除滓を省略すれば、スラグに含有される粒鉄のロス防止による歩留り向上や温度降下の防止が可能であり、除滓省略の効果は大きい。
【0025】
ところで、これら脱燐及び脱硫反応を実際に行うため、従来より種々の溶銑予備処理プロセスが開発されている。まず、溶銑脱燐の方式としては、トピード・カーや溶銑鍋に保持した溶銑への脱燐剤の吹き込み(インジェクション法)や、転炉に保持した溶銑に、脱燐剤や酸素ガスの上吹きを行う方法(これを転炉型脱燐処理という)が一般的である。このうち、低燐化、特に溶鋼の[P]≦0.020質量%を実現するには、溶銑の撹拌力が優れる転炉型が有利であると考えられる。また、次工程である転炉脱炭精錬後の溶鋼が[C]≧0.5質量%を目指す高炭素鋼では、脱炭精錬中に形成されるスラグ中の酸化鉄濃度が低いため、この脱炭精錬の際の脱燐反応の進行が期待出来ないので、高炭素鋼の溶製には、事前の溶銑予備処理として転炉型脱燐処理の採用が有効と言える。さらに、転炉型の溶銑脱燐処理により[P]≦0.020質量%が実現されると、その後の転炉での脱炭精錬においてはCaO等の副原料使用量が低減できるだけでなく、脱燐反応の進行を配慮しないでも良いので、形成されるスラグを溶融、滓化する必要がないという利点もある。加えて、転炉精錬後の出鋼時に溶鋼とスラグの分離が容易となり、取鍋へのスラグ流入が大幅に低減され、二次精錬工程において高酸化鉄濃度の転炉スラグによる溶鋼再酸化が生じないので、そこでのスラグ改質や溶鋼の脱硫といった精錬負荷が大幅に解消されると考えられる。
【0026】
一方、溶銑脱硫の方式としては、トピード・カー、溶銑鍋での脱硫剤インジェクション方式、溶銑鍋での機械撹拌方式がある。このうち、燐と同様に低S濃度特にS≦0.003質量%域まで脱硫するには、溶銑の撹拌力が大きく、脱硫剤が溶銑中に連続的に巻き込まれ、脱硫反応界面積が大きくなる機械撹拌方式が有利と考えられる。
【0027】
発明者は、以上述べた考察に基づき、効率良く溶銑の脱燐と脱硫(例えば[P]≦0.020質量%で[S]≦0.003質量%までの脱燐と脱硫)をするには、転炉型脱燐処理(以下、単に脱燐処理)及び機械撹拌式脱硫処理(以下、単に脱硫処理)の採用が望ましいと結論した。そして、それら処理を従来より一層有効に活用するため、以下に述べる実験を行い、その成果を本発明に取り入れたのである。
【0028】
実験に使用した反応容器は、脱燐処理には図2に示す上底吹き転炉、脱硫処理には図3に示す溶銑鍋である。また、脱燐処理の実施条件を表1に、脱硫処理の実施条件を表2に示す。実験は、上記2つの反応容器を使用した脱燐処理及び脱硫処理の実施順序の変更(表3参照)とそれぞれの処理で使用するフラックス(精錬剤)の水準変更の組合せ効果を確認するものである。
【0029】
【表1】
Figure 0003772725
【0030】
【表2】
Figure 0003772725
【0031】
【表3】
Figure 0003772725
【0032】
まず、脱燐処理及び脱硫処理に使用するフラックスをそれぞれ同一とし、脱燐処理及び脱硫処理の実施順序を変更した場合の実験結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
Figure 0003772725
【0034】
表4より、脱硫処理を先に実施してから脱燐処理した水準1の場合には、処理温度が各反応に対して適切であり、それぞれの反応効率は高いが、後に行う脱燐中に復硫反応が進行していることが明らかである。一方、脱燐処理を先に実施してから脱硫処理を行った水準2の場合には、各処理での反応効率はやや劣るものの、後に行う脱硫処理中に復燐が進行しないこともわかった。つまり、脱燐処理を先に、脱硫処理を後に実施すると、最終的に溶銑の燐及び硫黄が共に低濃度になる。そして、先に脱燐処理を行なってから脱硫処理を行った際に発生したスラグをEPMAで分析したところ、該スラグの表層部に脱硫スラグ、内部に脱燐スラグが存在していた。これは、脱燐処理してから脱硫処理する場合、脱硫処理中に先の脱燐処理された溶銑に同伴して持ち込まれた脱燐スラグからの復燐が性状的に抑制できていることを示すものである。つまり、酸化鉄成分が多く、液相比率の高い脱燐スラグとCaO成分が多く、固相比率が高い脱硫スラグとの性状の違いによるものである。
【0035】
次に、水準2と同様に脱燐処理後に脱硫処理を行う際に、脱硫処理前の溶銑浴面上のスラグを除去しない場合と除去した場合を比較した。処理前の溶銑の条件、脱燐処理の条件はほぼ水準2と同様であるが、スラグ除去の効果を明確にするために脱硫処理でのフラックス原単位を水準2の半分の5kg/t(すなわち、CaO原単位3.5kg/t、Al滓原単位を1.5kg/t)、且つ脱硫処理時間を5分として実験を行った。
【0036】
スラグの除去は、脱燐処理した溶銑を溶銑鍋に移し替えた後、その浴面上に浮遊するスラグをスラグドラッガーで掻き出すことによって行った。スラグの除去を行った水準21とスラグの除去を行わなかった水準22での溶銑、溶鋼中S含有量の推移を比較して図5に示す。図5の結果から、スラグ除去を行うことによって、脱硫剤原単位および処理時間を半分にしても水準2と同レベルまで脱硫できることがわかる。
【0037】
引き続いて、蛍石原単位と復燐(脱硫処理中)又は復硫(脱燐処理中)との関係を調査する実験を行い、その結果を図1に示す。なお、図1の復燐率及び復硫率は、それぞれ下記(3)及び(4)式で定義されたものである。
【0038】
復燐率(%)=(脱硫処理中の復燐量/脱硫処理前溶銑の燐濃度)×100…(3)
復硫率(%)=(脱燐処理中の復硫量/脱燐処理前溶銑の硫黄濃度)×100…(4)
図1より、蛍石を使用すると、必ず脱硫処理中の復燐が生じていることが明らかである。これは、前述のように蛍石がスラグの融点を降下し、その溶融状態の維持に役立つので、スラグ−メタル反応を促進して復燐反応を増大させるためである。そこで、蛍石の使用量をゼロにしなければ、復燐は抑制できないと考え、このことを本発明の重要な要件とした。しかしながら、蛍石を使用しないと、脱燐、脱硫それぞれの処理での反応効率は確実に低下している。
【0039】
そのため、この反応効率の低下を防ぐ手段を見出すため、蛍石の使用に代えて、脱燐処理では酸化鉄源として焼結鉱を、脱硫処理では炭化水素の利用を検討することにした。それらの実験条件を表5に、実験結果を表6に示す。
【0040】
【表5】
Figure 0003772725
【0041】
【表6】
Figure 0003772725
【0042】
表6より、蛍石を使用せず、脱燐処理で焼結鉱を使用し、脱硫処理で炭化水素を使用すると、脱燐及び脱硫の反応効率が蛍石の使用時より増加し、且つ脱硫中の復燐を防止できることが明らかである。ここに、脱燐処理に使用した焼結鉱は、高炉装入原料として知られているものであり、その製法は、鉄鉱石、石灰石を混合したものを1200℃程度で熱処理して、焼結した後、冷却、破砕して得られたものである。したがって、脱燐剤として溶銑中に添加した際に溶融速度が大きく、スラグ/メタル反応の促進に貢献したものと考えられる。また、焼結鉱の溶融速度が大きいことは、焼結鉱中の酸化鉄の還元(溶銑への酸素放出)が促進されていることを意味している。従って、焼結鉱の使用は、脱燐反応を促進はするが、その後の脱硫処理で復燐を促進することはなく、蛍石の使用時には見られない好ましい効果をもたらすものと考えられる。
【0043】
本発明のように脱燐処理を脱硫処理より先にした場合、脱燐処理時の溶銑の温度が高く平衡論的には脱燐反応には不利である。しかし、蛍石に代え、焼結鉱のような酸化鉄源を使用してスラグの溶融を促進させる脱燐処理の場合には、酸化鉄の還元・分解反応は吸熱反応であるため、溶銑温度が高い方が反応効率の増加に有利になったと考えられる。また、脱硫処理に利用する炭化水素は、溶銑の酸素分圧を炭化水素の分解により発生する水素により低下させるため、平衡論的に温度低下分を酸素分圧の低下によってカバーし、脱硫反応を促進すると考えられる。
【0044】
次に、水準21と同様に脱燐処理後に脱硫処理を行いさらに転炉において脱炭処理する際に、脱硫処理後の溶銑浴面上のスラグを除去しない場合と除去した場合を比較した。処理前の溶銑の条件、脱燐処理、脱硫処理の条件はほぼ水準21と同様である。脱硫後スラグの除去は、脱硫処理した溶銑浴面上に浮遊するスラグをスラグドラッガーで掻き出すことによって行った。スラグの除去を行った水準23とスラグの除去を行わなかった水準21での溶銑、溶鋼中S含有量の推移を比較して図6に示す。図6の結果から、脱硫後のスラグ除去を行うことによって、転炉での脱炭精錬時の復硫を防止できることがあきらかである。
【0045】
なお、脱硫処理後に除去したスラグは通常塩基度が高く、未だ高い脱硫能を保持していることが多い。そこで、この除去したスラグを直接もしくは冷却後、他のヒートの溶銑脱硫処理の際に再投入すると共に、新たに脱硫剤を補充して便用すると、脱硫フラックスの有効利用を図り、且つスラグの発生量を低減することができて好ましい。
【0046】
【実施例】
図2の転炉型脱燐装置及び図3の機械攪拌式脱硫装置を用い、本発明に係る低燐低硫仕様の低炭アルミキルド鋼の溶製を多数チャージ行った(図4参照)。転炉の容量は、300トンで、溶銑鍋の容量は、300トンである。また、脱燐処理及び脱硫処理後の溶銑の脱炭精錬には、容量が300トンの上底吹き転炉を用いた。なお、転炉出鋼後の溶鋼に対しては、二次精錬としてRH真空脱ガス処理を行ったが、本発明の実施に際しては、そこでは脱ガス、脱酸及び他の成分調整を主体とし、脱硫は一切行わなかった。表7に、先に行う処理を第1工程、後に行う処理を第2工程とし、それぞれの工程で使用する精錬剤の使用量を示す。
【0047】
【表7】
Figure 0003772725
【0048】
本発明例及び比較例に相当する操業をそれぞれ50チャージ行った結果を、平均値で表8に一括して示す。
【0049】
【表8】
Figure 0003772725
【0050】
表8より、本発明法によれば、蛍石を使用することなく、溶銑予備処理段階で低P,S化が高効率で実現可能であることが明らかである。また、使用した各反応容器の内張り耐火物は、比較例に比べ本発明の実施で溶損が少なかった。さらに、各処理で排出されたスラグからのフッ素溶出試験を行ったが、本発明に係るスラグは、フッ素の溶出が環境基準を満たしていた。
【0051】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、従来より生産性の低減やコストの増大を招かず、しかも排出スラグに起因する環境問題を起すことなく、低燐低硫鋼が溶製できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基礎となった蛍石原単位と復燐率あるいは復硫率との関係を示す図である。
【図2】転炉型脱燐装置を示す断面図である。
【図3】機械攪拌式脱硫装置を示す断面図である。
【図4】本発明に係る鋼の溶製方法の工程流れ図である。
【図5】脱燐処理後にスラグの除去を行った場合とスラグの除去を行わなかった場合とでの溶銑、溶鋼中S含有量の推移を示す図である。
【図6】脱硫処理後にスラグの除去を行った場合とスラグの除去を行わなかった場合とでの溶銑、溶鋼中S含有量の推移を示す図である。
【符号の説明】
1 上吹き酸素ガス用ランス
2 転炉
3 スラグ
4 溶銑
5 底吹きガス(不活性ガス)
6 攪拌モータ
7 インペラ(攪拌翼)
8 シャフト・カバー
9 炭化水素吹き込み用ランス
10 フード
11 脱硫剤
12 溶銑鍋

Claims (6)

  1. 高炉から出銑されたまま、もしくは高炉鋳床で脱Si処理された溶銑を用い、溶鋼を溶製するに際して、
    前記溶銑に、まず酸化鉄源に焼結鉱を使用した脱燐処理を行ってから、引き続き溶銑を溶銑鍋に移して、該溶銑中に炭化水素を吹き込むと共に、機械撹拌を伴う脱硫処理を行い、その後に転炉で脱炭精錬処理を行うことを特徴とする鋼の溶製方法。
  2. 前記脱硫処理に先だって溶銑鍋に払い出された溶銑の浴面上のスラグを除去することを特徴とする請求項1記載の鋼の溶製方法。
  3. 前記脱硫処理によって生成した溶銑浴面上のスラグを除去した後に該溶銑を転炉に装入して脱炭精錬することを特徴とする請求項1又は2記載の鋼の溶製方法。
  4. 前記脱燐処理、脱硫処理及び脱炭処理のそれぞれにおいて蛍石を使用しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の溶製方法。
  5. 前記脱燐処理が反応容器を転炉とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼の溶製方法。
  6. 前記転炉での脱炭精錬後の溶鋼に、さらに脱硫を伴なわない二次精錬を施すことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋼の溶製方法。
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