JP3769050B2 - フェノールの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成樹脂、農薬、染料、医薬等の製造のための中間体として有用であるフェノールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、フェノールを合成する方法として、各種の方法が提案されている。これらの方法の中では、クメンを出発物質としてフェノールを合成するクメン法プロセスが、一般的に実用化されている。このクメン法プロセスは、クメンを酸素または空気により酸化してクメンヒドロペルオキシド(以下、「CHP」と略す)を生成し、次に、得られたCHPを酸触媒の存在下に分解反応させてフェノールとアセトンを製造する方法である。このクメン法プロセスでは、主生成物としてフェノールとアセトンが得られるが、同時に、クメンの酸化反応時にジメチルフェニルカルビノール(以下、「DMPC」と略す)が副生し、さらにそのDMPCの脱水反応によってα−メチルスチレン(以下、「α−MS」と略す)が副生する。このクメン法プロセスにおいて副生するα−MSは、水素化反応により容易にクメンに転化して、再度、原料として利用することができ、また、樹脂の改質剤として工業的にも有効に活用できるものである。
【0003】
また、このクメン法プロセスにおいては、α−MSとフェノールが反応してクミルフェノールが生成したり、α−MSの2量化反応によりメチルスチレンダイマーが生成する等、CHPの分解反応による目的生成物であるフェノール、α−MS等の収率低下の原因となる反応が発生する。また、CHPの分解反応においては、微量のヒドロキシアセトン(以下、「HA」と略す)が生成する。このHAは、フェノールと蒸留分離し難く、かつ最終生成物である製品フェノールに混入している場合、製品品質を悪化させる原因となる。例えば、HAが混入した製品フェノールを原料として、フェノールの用途の1つであるビスフェノールAを製造すると、ビスフェノールAが着色し、商品価値を著しく低下させてしまう。また、このHAは水溶性のため、クメン法プロセスで発生する廃水中に混入し、廃水のCOD負荷の増大をもたらす問題がある。
【0004】
このような問題の中でも、フェノールおよびα−MSの収率の低下の原因となる副反応を抑制する方法として、CHPをアセトン等の溶剤により希釈した後、酸分解反応を行う方法(特公昭27−3875号公報、同28−4619号公報等)、反応を多段階に分けて行う方法(米国特許第2757209号明細書、特公昭37−13464号公報等)が提案されている。これらの先行技術の中でも、アセトン等の溶剤により希釈したCHPの酸分解反応を行う方法については、溶剤による希釈効果および酸触媒とCHPの接触効率の向上により副反応が抑制されると記載されている。また、反応を多段階に分けて行う方法である米国特許第2757209号明細書に記載の方法は、第1段階の反応として、例えば、フェノールおよびα−MSの生成反応を1段階で終了させる方法に比して、酸触媒濃度および反応温度が低い穏和な条件で酸分解反応を行い、反応生成物中にCHPを数%残す。次に、第2段階の反応として、第1段階の反応生成物をプラグフロー型反応器に導入し、反応生成物中に存在する有機過酸化物およびDMPCを分解する反応を行う方法である。
【0005】
製品フェノール中のHAの混入防止方法としては、英国特許第1231991号明細書には、CHPを主成分とするクメン酸化生成物の酸分解反応の反応生成物から、アセトン、炭化水素類等の低沸点成分、および未反応DMPC、クミルフェノール、メチルスチレンダイマー等の高沸点化合物を蒸留分離した粗製フェノールを、酸性イオン交換樹脂にて処理し、粗製フェノール中に含有するHAを蒸留分離し易い高沸点化合物に転化し、その後蒸留分離する方法が記載されている。また、米国特許第5064507号明細書には、粗製フェノールを有機ポリアミンで処理し、粗製フェノール中のHAが、添加した有機ポリアミンと反応して高沸点化合物となり、その後、この高沸点化合物を、蒸留装置により分離する方法が記載されている。
【0006】
しかし、これらの方法を同時に行うことは、フェノールの製造プロセスを複雑にし、かつHAの除去のための多大な設備を必要とする等の問題がある。そのため、クメン法プロセスにおいて、目的生成物の収率低下の原因となるクミルフェノール、メチルスチレンダイマー等の高沸点化合物の生成を抑制すること、および製品フェノールの品質悪化の原因物質となるHAの生成を抑制することは、実用上重要な課題である。
【0007】
また、特公平2−51408号公報には、第1段階として、逆混合反応器を用いて30〜100ppmの硫酸濃度、50〜90℃の反応温度で、反応混合物中のCHP濃度を0.5〜5重量%まで低下させて反応を行う。この第1段階の反応においては、DMPCからDCPへの転化率が40mol%以上となる。次に、第1段階の反応生成物をプラグフロー型反応器に送り、120〜150℃の温度で第1段階の反応で生成したジクミルペルオキシド(以下、「DCP」と略す)を分解する第2段階を行う方法が提案されている。
【0008】
さらに、米国特許第5254751号明細書には、第1段階の反応を、非等温状態の反応装置内で150〜500wtppmの酸触媒濃度、50〜62℃の温度範囲、およびアセトンを添加した条件でCHP濃度を0.3〜1.5%まで低下させて反応を行う。次に、第1段階の反応生成物にアンモニア水を添加した後、プラグフロー型反応器に送り、80〜110℃の温度で第1段階の反応で生成したDCPを分解する第2段階を行う方法が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、CHPの酸分解反応は、反応速度が半減期1秒以下と非常に早く、かつその時に発生する分解反応熱は、一般的な発熱型の有機化学反応の数倍にもなる。そのため、仮に数%のCHPが反応条件の変動により瞬時に分解反応を起こした場合、反応混合物の温度が急上昇し、低沸点成分のアセトンが気化して反応器内の圧力が上昇し、反応器の破裂を招く危険性がある。そのため、第1段階目の反応器内に、未反応のCHPが存在する多段階法では、安全かつ安定的な条件でプロセスを運転でき、しかも目的生成物を高収率で得ることが望まれる。
【0010】
そこで本発明の目的は、温和な反応条件で、HAの生成を抑制し、フェノールおよびα−MSを高収率で安全かつ安定的に製造することができる方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明者らは、多段階法によるクメン法プロセスにおける前記問題について、検討を行った。その結果、フェノールおよびα−MSの収率悪化の原因となるクミルフェノール、メチルスチレンダイマーは、反応混合物中のα−MS濃度が高くなると生成し易くなる傾向があることを知得した。すなわち、完全混合反応器において、反応器内の反応混合物の組成は均一であるため、反応器内における反応混合物の組成は、反応器出口における反応混合物の組成と同一となる。そのため、この完全混合反応器において、DMPCからα−MSの生成反応を行うと、反応器内のα−MS濃度は、反応器出口におけるα−MS濃度と同一となるため、高濃度で存在する。その結果、α−MSの重質化物であるクミルフェノールおよびメチルスチレンダイマーの生成量が増加することを知得した。このクミルフェノールおよびメチルスチレンダイマーの生成を抑制するためには、反応器内の反応混合物の組成が反応の進行とともに変化するプラグフロー型反応器、すなわち反応器内の組成が不均一となる反応器において、α−MSの生成反応を行うことが好ましく、また、反応混合物に溶剤を加えて希釈すると、より好ましいことを知見した。また、希釈剤として用いられる溶剤は、反応混合物の主成分の中でも最も沸点の低いアセトンを用いて、後段の反応器と蒸留装置の間を循環させることが経済的であることを知見した。
【0012】
また、フェノールと蒸留分離し難く、かつ最終製品となる精製フェノールに混入すると製品の品質を悪化させるHAは、アセトンを出発物質としてCHPの存在下で生成する。アセトンは、CHPが酸分解反応をするとき、CHPと等モル生成するため、HAの生成を完全に抑制することは困難であるが、CHPの酸分解反応を、アセトン濃度が低い状態、すなわち蒸留系からアセトンを循環しないで行うと、HAの生成が低減することを知見した。
【0013】
以上の知見に基づいて、クメン酸化生成物から、フェノール、アセトンおよびα−MSを効率よく生成し、かつ精製フェノールの品質を悪化させるHAの生成を抑制するには、反応を2段階以上に分割し、各々の反応に適した条件にて実施する方法が好ましいとの知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために、CHPを主成分とするクメン酸化生成物から、硫酸の存在下、フェノール、アセトンおよびα−MSを製造する方法であって、クメン酸化生成物を完全混合反応器に供給して、CHPの転化率が97〜99.5%になるように分解反応を行った後、該反応器から分解反応混合物にアセトン濃度が35〜50重量%になるようにアセトンを添加し、プラグフロー型反応器において、α−MSの生成反応を行うフェノールの製造方法を提供するものである。
【0015】
以下、本発明のフェノールの製造方法(以下、「本発明の方法」という)について詳細に説明する。
【0016】
本発明の方法は、主として、CHPの酸分解反応を完全混合反応器で行う第1段階と、主としてα−MSの生成反応をプラグフロー型反応器で行う第2段階とを有する多段階法によって、CHPを主成分とするクメン酸化生成物から、フェノール、アセトンおよびα−MSを製造する方法である。
【0017】
本発明の方法において、第1段階における反応は、原料であるクメン酸化生成物の主成分であるCHPを、完全混合反応器において、硫酸の存在下に、分解させる反応である。原料として供されるクメン酸化生成物は、クメンを炭酸ナトリウムの存在下に、100℃前後の温度で空気または酸素によって酸化し、その後、生成物を蒸留装置にて所定のCHP濃度になるように未反応クメンを分離したものである。このクメン酸化生成物は、通常、下記の成分組成を有するものである。
CHP 60〜90重量%
DMPC 2〜10重量%
クメン 10〜40重量%
アセトフェノン 0.2〜2重量%
【0018】
本発明の方法において、第1段階における反応は、CHPからフェノールおよびアセトンを生成するとともに、α−MSおよびHAの生成を抑制するため、硫酸濃度100〜350wtppmの範囲で、CHPの転化率が95〜99.9%、好ましくは97〜99.5%、より好ましくは98〜99.0%となる温和な反応条件下で行われる。このとき、反応温度は、55〜75℃の範囲が好ましい。特公昭33−9971号公報に記載の技術では、1段階でCHPの酸分解反応およびα−MSの生成反応を行う時の反応温度は、50〜80℃が好ましいと記載されている。これは、酸分解反応温度が、特公昭33−9971号公報に記載の条件よりも高い場合には、CHPの熱分解反応が起こり、その結果、フェノールおよびアセトンの収率低下を招き、また、酸分解反応温度の低下は、反応熱の除去のために多大な設備を必要とし、かつ酸分解反応時の温度の安定性を悪化させるためである。本発明においては、特公昭33−9971号公報に記載の方法における硫酸濃度に比して低いため、最適な温度範囲は、特公昭33−9971号公報に記載の方法における温度範囲と比べて狭くなる。
【0019】
また、本発明の方法において、CHPの酸分解反応およびα−MSの生成反応時の水濃度は、0.5〜3重量%であるのが好ましい。CHPの酸分解反応時における水濃度は、例えば、特公昭33−9971号公報に記載のごとく、反応混合物が均一となるように調整する必要がある。また、反応混合物が均一でも水濃度が高い場合は、硫酸の酸濃度の低下を招く。そのため、水濃度を本発明の方法における範囲よりも高くすることは好ましくない。
【0020】
以上のとおり、1段階でCHPの酸分解反応およびα−MSの生成反応を行う際の条件と比較して、低硫酸濃度の温和な条件で第1段階の反応を行うことにより、原料であるクメン酸化生成物中のDMPCは、CHPとの反応生成物であるDCPへの転化、もしくは未反応の状態で反応混合物中に存在し、α−MSへの転化は抑制される。
【0021】
実用プラントでの大型装置における長時間運転では、通常、若干の反応条件の変動が起こる。そのとき、実用プラントでの運転時の反応混合物の組成の変動を最小限にする必要がある。CHPからフェノール、アセトンを生成するプロセスにおいては、酸触媒濃度と反応温度の変動が運転安定性に影響を与える。酸触媒濃度に関しては、反応液中の水濃度の増加や、原料であるクメン酸化生成物中に同伴するナトリウム塩の影響を受け、酸強度および酸濃度が低下する恐れがある。そこで、これら因子の影響を低減するには、酸触媒濃度を100wtppm以上、好ましくは150wtppm以上で反応を行う必要がある。
【0022】
また、完全混合反応器における反応混合物の滞留時間は、5〜40分であり、通常、15〜30分程度になるように調整される。
【0023】
また、第1段階において、CHPの酸分解によってフェノールとアセトンが生成する際に生じる反応熱は、一般的な有機化学反応における反応熱の数倍の熱量となる。そのため、第1段階における反応は、発生する反応熱を完全に除去して所定の反応温度に維持することで、CHPの分解速度を一定にし、完全混合反応器出口から成分組成が安定した反応混合物を第2段階の反応器に供給できるように、完全混合反応器内の温度を制御して行う必要がある。そのため、完全混合反応器は、反応器内の温度を安定化するに適した装置であることが要求される。反応温度を安定化するために、反応器内の反応混合物の沸点まで反応器内の圧力を下げて、気化したアセトンの蒸発潜熱を除去することによって、反応器内の温度を一定にするアセトンリフラックス法、反応器内の反応混合物の一部を抜き出し、冷却機能を有する熱交換器を流通させて、発生する反応熱を除去した後、反応器内に循環させる方法を採用すると、好ましい。
【0024】
本発明の方法において、前記の第1段階の完全混合反応器から第2段階の反応に供される反応混合物は、フェノール、アセトン、DMPC、DCP、クメンを主成分とするものである。この反応混合物は、第2段階の反応を行うために、プラグフロー型反応器に供給される。この第2段階においては、主に反応混合物中のDMPCまたはDCPからα−MSを生成する反応が行われる。
【0025】
本発明の方法において、第2段階における反応は、α−MSからクミルフェノールまたはメチルスチレンダイマーが生成する反応を抑制するため、アセトンを添加して行われる。添加されるアセトンは、第2段階の反応終了後、プラグフロー型反応器から流出する反応生成物を蒸留装置等の分離装置によって分離回収したものを循環使用することが好ましい。
【0026】
この第2段階におけるアセトンの添加は、反応混合物中のアセトン濃度が35〜50重量%になるように行われる。
【0027】
この第2段階におけるアセトンの添加は、第2段階において、反応器内のα−MS濃度を低下させることで、フェノールおよびα−MSの収率の低下につながるα−MSの重質化反応を抑制することを目的とする。このときのアセトンの添加は、前記のとおり、反応混合物中のアセトン濃度が、35〜50重量%になるように行う。アセトンの添加量が多い場合には、α−MSの重質化反応はさらに抑制できるが、反応器とアセトンの蒸留装置間を循環するアセトン量を多くする必要があり、その結果、アセトンを蒸留するための消費エネルギーを多く必要とし、プロセス全体ではデメリットの方が大きくなる。また、アセトンの添加量が少ない場合、α−MSの重質化反応の抑制効果は殆ど得られない。
【0028】
本発明の方法において、第1段階の反応では、α−MSの重質化反応は起こり難い。これは、第1段階の反応では、CHPの酸分解反応が低硫酸濃度で行われるため、α−MSの生成が抑制され、その結果、完全混合反応器内のα−MSの濃度は低く、α−MSを出発物質とする重質化反応は実質的に起こり難くなるためである。そのため、第1段階にアセトンを添加したときのα−MSの重質化反応の抑制効果は、第2段階においてアセトンを添加したときと比較して変化がない。すなわち、第1段階にアセトンを添加したときと、第2段階にアセトンを添加したときのフェノールおよびα−MSの収率は、実質的に同等である。また、前記のとおり、CHPの酸分解反応時にアセトン濃度が高いと、製品フェノールの品質の悪化の原因となるHAの生成量が増加する。本発明における第1段階の反応は、CHPの酸分解反応を行うことを主目的としていることから、第1段階においてアセトンの添加を行うと、HAの生成量が増加し、製品フェノールの品質が悪化することとなる。また、第2段階の反応は、α−MSの生成反応を主目的に行っており、CHPの酸分解反応は実質的に起こらないため、アセトンを添加してもHAの生成の増加は生じない。したがって、本発明の方法において、第2段階にアセトンを添加する場合、第1段階においてアセトンを添加する場合と比較して、フェノールおよびα−MSの収率は同等で、かつHAの生成量は少なくなる。
【0029】
アセトンを添加した反応混合物は、熱交換器に流通させて80〜100℃に昇温させた後、断熱型のプラグフロー型反応器に供給される。
【0030】
第2段階の反応において、反応温度が高くなると、反応速度が早くなり、反応時間を短縮する必要がある。第2段階の反応温度が120℃を越える場合、DCPおよびDMPCからα−MSへの転化率が70%以上になると、α−MSの重質化物であるクミルフェノール、メチルスチレンダイマーの生成速度が急激に増加する。そのために、本発明における第2段階の反応温度よりも高温でα−MSの生成反応を行ったときは、反応を適切に制御できる範囲が狭くなり、例えば、商業化装置での長期間の運転時には、運転制御が困難となるおそれがある。
【0031】
第2段階において行われる、DCPからα−MSの生成反応は発熱反応であることから、断熱型のプラグフロー型反応器にて反応を行なうと、反応器内では非等温状態になり、反応器の入口の温度よりも出口の温度の方が高くなる。すなわち、反応器の入口と出口の温度差は、第2段階で反応するDCP量に応じて変動するが、本発明の方法においては、通常、15〜35℃程度になる。したがって、第2段階の出口の温度を120℃以下、好ましくは115℃以下とするのが望ましい。そのため、第1段階における反応混合物を昇温するときは、第2段階出口における反応混合物の温度が、前記範囲内になるように調整する必要がある。
【0032】
また、第2段階のプラグフロー型反応器は、内径に対して長さを長くしたり、反応器の内部に邪魔板を設けて、反応混合物のバックミキシングを抑える必要がある。この第2段階のプラグフロー型反応器における反応混合物の滞留時間は、通常、5〜30分程度、好ましくは10〜20分程度である。
【0033】
さらに、本発明の方法において、第2段階のプラグフロー型反応器において、DCPおよびDMPCからα−MSの生成反応が終了した後、直ちに反応混合物の冷却、酸触媒である硫酸の中和処理を行って反応が停止される。反応混合物中に酸触媒が存在すると、有機過酸化物の分解反応が終了しても、α−MSの重質化反応、すなわちクミルフェノール、メチルスチレンダイマーの生成反応は進行し、α−MS、フェノール収率の低下原因になる。そのため、有機過酸化物の分解反応が終了したら、直ちに酸触媒を中和する必要がある。
【0034】
反応混合物中の酸触媒である硫酸の中和処理は、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化ナトリウムとフェノールの塩であるナトリウムフェノラートを用いる方法にしたがって行うことができる。
【0035】
本発明の方法において、中和後の反応生成物は、蒸留工程にてアセトン、フェノール、α−MS、クメン等に分離する。この時、分離したアセトンの一部は、第2段階の反応の希釈剤として循環させて使用する。蒸留は、中和処理した反応混合物を蒸留装置を用いて、常圧または減圧の条件下にて行う。
【0036】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
クメンを炭酸ナトリウムの存在下に70〜115℃で空気酸化し、次いで油水分離、濃縮をしてクメン酸化生成物を調製した。得られたクメン酸化生成物は、下記の組成を有するものであった。
CHP:81.0重量%
DMPC:5.2重量%
アセトフェノン:0.8重量%
クメン:13.0重量%
【0038】
このクメン酸化生成物を、除熱機能を有する連続式完全混合反応器と、断熱型プラグフロー型反応器とから構成される多段階反応装置に供給し、第1段階におけるCHPの分解反応、ならびに第2段階におけるα−MSの生成反応を行った。
【0039】
第1段階の反応は、反応温度60℃、硫酸濃度200wtppm、滞留時間20分の条件にて行った。この第1段階における反応器内の温度は、反応混合物の除熱と撹拌により、一定に保った。また、5%の硫酸水溶液を反応器内の硫酸濃度が200ppmになるように連続して添加した。その結果、CHPの他成分への転化率は98.9%、DMPCからα−MSへの転化率は、18.0%であった。
【0040】
次に、完全混合反応器から流出した反応混合物に、アセトンを第1段階における反応混合物に対して20重量%の混合比で添加した。ここで、添加したアセトンは、第2段階の反応生成物から蒸留分離したもので、アセトンよりも低沸点のアルデヒドを1000wtppm、水を1.8重量%含有しているものであった。次いで、反応混合物を、熱交換器にて加熱昇温をした後、プラグフロー型反応器に供給して第2段階の反応を行った。この第2段階の反応時の反応混合物の滞留時間は10分であり、出口の反応温度110℃、アセトン濃度42.1重量%、水濃度1.0重量%であった。得られた反応生成物中を分析し、フェノールおよびα−MSの収率、ならびにHA濃度を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
Figure 0003769050
【0042】
【数1】
Figure 0003769050
【0043】
(実施例2)
実施例1で調製したクメン酸化生成物を用い、実施例1で使用した反応装置と同様の形式の装置を用いて、反応を行った。第1段階の反応は、反応温度60℃、硫酸濃度250wtppm、滞留時間15分の条件で行った。また、硫酸の導入は、5%の硫酸水溶液を反応器内の硫酸濃度が250wtppmになるように連続で供給した。この第1段階において、CHPの他成分への転化率は98.7%、DMPCからα−MSへの転化率は、16.2%であった。
【0044】
次に、完全混合反応器から流出した反応混合物に、アセトンを第1段階の反応混合物に対して30.0重量%の混合比で添加した。ここで、供給したアセトンは、第2段階の反応生成物から蒸留分離したもので、アセトンよりも低沸点のアルデヒドを1000wtppm、水を1.5重量%含有しているものであった。次いで、反応混合物を、熱交換器にて加熱昇温をした後、プラグフロー型反応器に供給して第2段階の反応を行った。この第2段階の反応時の反応混合物の滞留時間は25分であり、出口の反応温度115℃、アセトン濃度46.4重量%、水濃度1.4重量%であった。得られた反応生成物を分析し、フェノールおよびα−MSの収率、ならびにHA濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0045】
Figure 0003769050
【0046】
(比較例1)
実施例1で調製したクメン酸化生成物を用い、実施例1で使用した反応装置と同様の形式の装置を用いて、反応を行った。第1段階の反応は、反応温度65℃、硫酸濃度250wtppm、滞留時間15分の条件で行った。また、硫酸の導入は、2000wtppmの硫酸アセトン溶液を、アセトンをクメン酸化生成物の供給量に対して15重量%の混合比で添加した。この時添加したアセトンは、第2段階の反応生成物から蒸留分離したもので、アセトンよりも低沸点のアルデヒドを1000wtppm、水を1.8重量%含有しているものであった。この第1段階において、CHPの他成分への転化率は98.5%、DMPCからα−MSへの転化率は、24.5%であった。
【0047】
次に、完全混合反応器から流出した反応混合物を、熱交換器にて加熱昇温をした後、プラグフロー型反応器に供給して第2段階の反応を行った。この第2段階の反応時の反応混合物の滞留時間は20分であり、出口の反応温度100℃、アセトン濃度39.2重量%、水濃度0.8重量%であった。得られた反応生成物中を分析し、フェノールおよびα−MSの収率、ならびにHA濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0048】
Figure 0003769050
【0049】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、HAの生成を抑制し、高収率でフェノールおよびα−MSを製造することができる。しかも、安全かつ安定的な操業を実現することができるため、本発明の方法は、実用上の価値が大である。

Claims (16)

  1. クメンヒドロペルオキシドを主成分とするクメン酸化生成物から、硫酸の存在下、フェノール、アセトンおよびα−メチルスチレンを製造する方法であって、クメン酸化生成物を完全混合反応器に供給して、クメンヒドロペルオキシドの転化率が97〜99.5%になるように分解反応を行った後、該反応器からの分解反応混合物にアセトン濃度が35〜50重量%になるようにアセトンを添加し、プラグフロー型反応器において、α−メチルスチレンの生成反応を行うフェノールの製造方法。
  2. フェノール、アセトン、クメン、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを含む分解反応混合物に、アセトン濃度が35〜50重量%になるようにアセトンを添加し、プラグフロー型反応器において、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを分解してα−メチルスチレンを生成する請求項1に記載のフェノールの製造方法。
  3. フェノール、アセトン、クメン、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを含む分解反応混合物にアセトンを添加した後、該分解反応混合物をプラグフロー型反応器に供給して、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを分解してα−メチルスチレンを生成する請求項2に記載のフェノールの製造方法。
  4. フェノール、アセトン、クメン、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを含む分解反応混合物を、プラグフロー型反応器に供給後、該反応混合物にアセトンを添加して、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを分解してα−メチルスチレンを生成する請求項2に記載のフェノールの製造方法。
  5. 前記完全混合反応器におけるクメンヒドロペルオキシドの分解反応を、クメン酸化生成物に対して100〜350wtppmの硫酸の存在下、55〜75℃の反応温度で行う請求項1に記載のフェノールの製造方法。
  6. 前記のクメンヒドロペルオキシドの分解反応時およびα−メチルスチレンの生成反応時に、反応混合物の水濃度が0.5〜3.0重量%となるように調整する請求項1〜5のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  7. クメンヒドロペルオキシド、ジメチルフェニルカルビノール、アセトフェノンおよびクメンを含むクメン酸化生成物を、完全混合反応器に供給して、100〜350wtppmの硫酸の存在下に、クメンヒドロキシペルオキシドの分解反応を行ってフェノールおよびアセトンを製造する際に、完全混合反応器内の圧力を反応混合物の蒸気圧まで下げて、気化するアセトンの蒸発潜熱を除去した後、液化したアセトンを完全混合反応器内に戻すことによって、クメンヒドロペルオキシドの分解反応で発生する反応熱を除去し、完全混合反応器内の温度を55〜75℃に調整する請求項1〜4のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  8. クメンヒドロペルオキシド、ジメチルフェニルカルビノール、アセトフェノンおよびクメンを含むクメン酸化生成物を、完全混合反応器に供給して、100〜350wtppmの硫酸の存在下に、クメンヒドロペルオキシドの分解反応を行ってフェノールおよびアセトンを製造する際に、反応混合物の一部を抜き出し、熱交換器においてクメンヒドロペルオキシドの分解反応で発生する反応熱を除去し、完全混合反応器内の温度を55〜75℃にする請求項1〜4のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  9. 前記クメンヒドロペルオキシドの分解反応を、クメンヒドロペルオキシドの転化率が98〜99.0%なるように行う請求項1〜8のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  10. アセトンを添加した後の前記クメンヒドロペルオキシドの分解反応混合物を、熱交換器にて80〜100℃に昇温させた後、プラグフロー型反応器に供給する請求項2または3に記載のフェノールの製造方法。
  11. 昇温した前記分解反応混合物を非等温状態のプラグフロー型反応器に供給し、ジメチルフェニルカルビノールおよびジクミルペルオキシドを分解してα−メチルスチレンを生成する請求項10に記載のフェノールの製造方法。
  12. 前記プラグフロー型反応器出口におけるα−メチルスチレン生成反応混合物の温度が120℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  13. 前記プラグフロー型反応器出口におけるα−メチルスチレン生成反応混合物の温度が115℃以下である請求項12に記載のフェノールの製造方法。
  14. 前記プラグフロー型反応器を出たα−メチルスチレン生成反応混合物を、直ちに冷却および中和して反応を停止させる請求項1〜4のいずれかに記載のフェノールの製造方法。
  15. 反応を停止させた前記α−メチルスチレン生成反応混合物から蒸留装置によってアセトンを分離し、分離したアセトンの一部を、完全混合反応器で生成した分解反応混合物に、アセトン濃度が35〜50重量%なるように添加し、プラグフロー型反応器に供給する請求項2または3に記載のフェノールの製造方法。
  16. 反応を停止させた前記α−メチルスチレン生成反応混合物から蒸留装置によってアセトンを分離し、分離したアセトンの一部を、完全混合反応器で生成し、プラグフロー型反応器に供給された分解反応混合物に、アセトン濃度が35〜50重量%になるように添加する請求項2または4に記載のフェノールの製造方法。
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