JP3768167B2 - アクリロニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法と重合システム - Google Patents

アクリロニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法と重合システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系懸濁重合によるアクリル系共重合体の重合時に残留するモノマー成分の回収方法とアクリル系共重合体の重合システムに関し、特に未反応の前記モノマー成分を重合時の原料モノマーとして回収し、循環利用する未反応モノマー成分の効率的な回収方法とそのアクリル系共重合体の重合システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル繊維は、羊毛に似た優れた嵩高性、風合、染色鮮明性等の性質を有し、広範囲の用途に利用されている。また、このアクリル繊維は、炭素繊維の原料としても多用されている。その紡糸法には、原料となるアクリル系共重合体を有機溶媒、又は無機溶媒に溶解する溶解工程を経て、湿式紡糸法、乾式紡糸法又は半乾式紡糸法によりステ−プル又はフィラメントとされる。この原料となるアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリルモノマーとそれと共重合可能なアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリルアミドなどの非イオン性のコモノマーとをラジカル重合させることにより製造される。
【0003】
アクリロニトリル系共重合体の製造は、水を反応媒体として、連続懸濁重合方式を採用することが多い。この連続懸濁重合方式では、原料タンク及びモノマー回収工程よりアクリロニトリルのモノマーとコモノマーとが個別に計量され、モノマー調製タンクに供給される。調製タンク内のモノマー仕込組成は、製造するポリマーの共重合組成により、アクリロニトリルとコモノマーの反応性比を考慮して、一定値に厳密に設定する必要がある。
【0004】
重合釜には、調製されたアクリロニトリルとコモノマー、水、触媒などとともに、重合開始剤が添加されて重合が行われる。このときの重合開始剤としては、一般的に無機系開始剤が使用される。無機系開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム−硫酸第一鉄の酸化−還元系の組合せが多く使われており、上記コモノマーを含むアクリロニトリルを主成分とするモノマー成分が、反応媒体として作用する硫酸酸性水を使用して重合反応すると、数十ミクロンの粒子状の重合体が形成され、水性分散液の状態でアクリロニトリル系重合体が得られる。
【0005】
重合釜から取り出した重合体に、重合停止剤を添加し反応を停止させる。アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合で製造する場合の重合停止剤としては、反応系の酸性水溶液を中和する機能を保持することが必要であり、シュウ酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩などの電解質水溶液が用いられる。また、貯蔵中や輸送中においてアクリロニトリルのモノマーの重合を禁止すべく、通常、原料モノマーに、例えばp- メトキシフェノールなどの重合禁止剤が予め添加されている。
【0006】
重合反応の重合停止剤は、通常、アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合方式で製造する際に使用されるものであれば問題はない。重合体水溶液に重合停止剤を添加した後、未反応単量体の回収を行う。未反応単量体の回収方法としては重合体水溶液を直接蒸留したのち、気化して分離した未反応モノマー成分と水がコンデンサーに送られ凝縮し、モノマー/水の溶液となる。この溶液をデカンターによりモノマー成分と水とに分離する。分離したモノマー成分は重合釜に戻される。一方、重合体中に残った水分は通常の乾燥方式によって取り除かれる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、硫酸酸性水中でアルリロニトリル系重合体が重合されるとき、重合開始剤である過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム−硫酸第一鉄の組合せは、次のとおり遊離基へと分解される。
(NH4 2 2 8 →2NH4 + +S2 8 2-
NaHSO3 →Na+ +HSO3 -
FeSO4 →Fe2++SO4 2-
レドックス触媒による重合開始反応は、
2 8 2-+Fe2+→SO4 2-+SO4 +Fe3+
HSO3 - +Fe3+→HSO3 ・+Fe2+
と進行し、このとき亜硫酸と二酸化硫黄とは、
+ +HSO3 - ⇔ H2 SO3 ⇔SO2 +H2
の関係を保って平衡状態を維持する。
【0008】
重合開始剤として重合釜に添加された亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3 )のうち、使用されなかった遊離基が酸性雰囲気下で一部SO2 となり、蒸留塔にてモノマー/水と一緒にコンデンサーへと送られる。SO2 及びモノマー/水が凝縮される際に、水に溶けてHSO3 - となって、これが重合開始剤として働き、アクリロニトリル系のモノマー成分を重合させてしまう。
【0009】
このようにして、デカンターで分離される回収モノマーには重合が起こっているものが多く含まれるようになり、重合釜に戻すにあたって様々な問題が発生する。すなわち、既述したとおり、重合釜に投入される前の調製タンク内のモノマー仕込組成は、アクリロニトリルとコモノマーの反応性比を考慮して、一定値に厳密に設定する必要がある。
【0010】
したがって、この重合工程にあっては、回収モノマーの品質により、原料モノマーの仕込組成、水、触媒の供給量、重合温度などのポリマーの共重合組成、重合度、重合度分布に微妙な影響をあたえることになる。一方、モノマー回収工程で回収されるモノマー成分(アルリロニトリル/コモノマー)に重合を終了したポリマーが混入していると、その混入量は一定とはならず、刻々変化する。しかも、連続重合工程において前記回収モノマーの混入量を算出することは極めて困難であり、仮にその算出が可能であったとしても、その算出量に応じて調製タンクへの原料モノマー類の投入量を、前述のように、厳密に調製しなければならなくなり、実施は到底無理である。更に、モノマーの回収工程に固形の重合体が混入していると、詰まりが発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、こうした課題を解決すべくなされたものであり、具体的にはモノマー回収工程で回収されるモノマー成分に、凝縮後の重合により生成された重合体が混入すること防止し、アクリロニトリル系重合体の純粋なモノマー成分だけを回収できるモノマー回収方法とアクリロニトリル系重合体の重合システムとを提供するを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
本発明者らは、アルリロニトリル系のモノマーが、蒸留塔を経てコンデンサーによる凝縮中に或いは凝縮後に重合することを抑えようとするには、要は凝縮後のモノマー/水の混合液中に遊離して存在するHSO3 - を安定化する物質に変化させることが必要であり、ここに重合禁止剤を添加すれば重合体の生成はなくなると考えた。この重合禁止剤を加える場合、モノマー成分が十分凝縮し液化した段階で添加することが考えられる。また、この添加には重合禁止剤溶液を別途調製して添加することもできる。禁止剤を添加しない場合は、十分な冷却を行い、重合反応を生じさせなければよい。
【0013】
しかるに、気化したモノマー成分が十分に凝縮し液化した段階で重合禁止剤を添加しても、相変わらず重合体が生成されていることがある。また、冷却により凝縮し液化したモノマー成分の重合を抑えようとすると、その冷却配管設備が必要となる。本発明者らは、更に検討を進めたところ、コンデンサーに導入されるモノマー成分が重合を開始するのは、気化したモノマー成分が凝縮し液化し始めた瞬間において既に重合反応が開始している可能性があるという事実に着目した。その結果、本発明に到達したものである。
【0014】
本発明の第1の基本構成は、アルリロニトリル系重合体の水系懸濁重合工程で発生するモノマー成分の回収方法であって、重合工程で得られるモノマー/ポリマー/水の混合物を蒸留してモノマーと水とをポリマーから気化分離させること、及び気化したモノマーと水を凝縮させてモノマー成分を回収することを備えてなり、気化工程から凝縮工程への移行時に微量の重合禁止剤を添加することを含んでなることを特徴とするアクリロニトリル系モノマー成分の回収方法にある。
【0015】
すなわち、本発明では重合工程で得られるモノマー/ポリマー/水の混合物を蒸留してモノマー成分と水をポリマーから気化分離させ、気化したモノマーと水を凝縮させてモノマー成分を回収するにあたり、モノマー成分と水とを気化工程から凝縮工程へと移行するとき、例えば凝縮工程の入口で重合禁止剤を含有する原料モノマーを添加する。このときの添加は、重合禁止剤を含有する原料モノマー単独で又は他の物質と混合させて、霧状に噴霧し、或いは滴下することにより行う。この重合禁止剤はモノマー成分と水とに混ざり合って下流側に運ばれ、モノマー成分と水とが凝縮されて液化した段階で、重合開始剤として機能するHSO3 - と結合して、安定物質に変化し、モノマー成分の重合を停止させる。
【0016】
前記重合工程で得られる重合生成物は、通常、モノマー/ポリマー/水の比率2〜7%/10〜35%/58〜88%の範囲にあり、且つSO2 源が0.02〜0.20%含有されている。添加される重合禁止剤の添加量は、凝縮工程で得られる前記モノマー成分に対する重量比で4〜150ppmであることが好ましい。4ppmより少ないと添加量が少なすぎて、残留するSO2 源と十分に反応できず僅かであっても重合が起こってしまう。150ppmを越えると、回収されるモノマー成分中に余分な重合禁止剤が残って混入し、重合反応時に使用する開始剤が余剰に必要となる。また重合反応の制御に影響を及ぼす可能性がある。
【0017】
前記凝縮工程で得られ前記モノマー成分に対して重量比で20〜100ppmの重合禁止剤を添加し、この重合禁止剤が添加された前記モノマー成分を、重合工程で残留する未反応の上記モノマー成分に対して20〜150%の重量比で添加することが好ましい。この場合、凝縮工程に添加される最終的な重合禁止剤の量は前述とほぼ等しいが、重合禁止剤の調製設備を別途設ける必要がなくなり、凝縮工程で得られた前記モノマー成分に直接重合禁止剤を添加して、これを凝縮工程に導入するため次第に希釈され、凝縮して完全に液化するモノマー成分に含有する重合体の量は無視できる程度の極く微量となり、これを調製タンクに戻しても、同タンクにおける原料モノマー成分の仕込組成の調製に格別の操作は不要となる。
【0018】
前記重合工程で得られる重合生成物が、モノマー/ポリマー/水の比率2〜7%/10〜35%/58〜88%であって、且つSO2 源が0.02〜0.20%含有されており、重量比で20〜100ppmの重合禁止剤を含むアクリロニトリルの原料モノマーを、凝縮工程で得られた上記モノマー成分に対して20〜150%の重量比で添加することもできる。
【0019】
この場合、凝縮工程に添加される最終的な重合禁止剤の添加量は前述の場合とほぼ等しいが、元々アクリロニトリルの原料モノマーに添加されている重合禁止剤を同原料モノマーとともに凝縮工程に導入するようにしている。このため配管などが容易であり、重合禁止剤の調製設備を別途設ける必要がなくなる。しかも重合禁止剤の添加量を容易に設定することが可能である。
【0020】
また、本発明の第2の基本構成は、水系懸濁重合方式によるアクリロリトリル系重合体の重合システムであって、重合部と、同重合部に連結される蒸留部と、同蒸留部に連結される凝縮器とを備え、前記蒸留部に連結される凝縮部の気体導入口近傍に、重合禁止剤を含有する原料モノマーの導入口を更に有してなることを特徴とするアクリロリトリル系重合体の重合システムにある。このシステムによれば、上記アクリロニトリル系の重合体の重合時における未反応モノマー成分の回収方法による重合禁止剤の添加が確実に且つ容易に行えるようになる。
【0021】
この発明にあって、前記原料モノマーの導入口が、上記凝縮工程後に配されるモノマー成分と水との分離工程のモノマー導出路と連結され、前記原料モノマー導入口と前記分離工程のモノマー導出路との間に重合禁止剤の導入部を設けることができる。この場合、モノマー成分と水との分離工程から導出されるモノマー成分の一部が凝縮工程に戻されることになる。この戻される途中に重合禁止剤の導入部から添加すべき重合禁止剤が導入される。凝縮工程を経た未反応のモノマー成分及び水に混在する重合開始剤として機能するHSO3 - 源は再び凝縮工程に戻されるが、その戻される途中で重合禁止剤の一部により安定化し、同時に凝縮工程に新たに導入される同重合禁止剤により気化して導入されたモノマー/水/SO2 のSO2 と反応して安定化させる。これが繰り返されるうち、凝縮工程により凝縮して液化するモノマー成分と水は高純度で安定化する。
【0022】
更に本発明にあっては、前記原料モノマーの導入口を、前記原料モノマーの供給源と連結するように構成することもできる。原料モノマーには、貯蔵時又は輸送時に重合しないように予め所定の量の重合禁止剤が添加されている。この発明では、そうした原料モノマーを凝縮工程の原料モノマーの導入口に連結させている。かかる構成により、凝縮工程に導入される重合禁止剤の添加量の調整制御が容易となり、しかも原料モノマーの供給部と重合禁止剤の導入口との間の配管も簡単にできる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の代表的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明は、水系懸濁重合方式によるアクリロニトリル系重合体の製造時に発生する未反応のモノマー成分を原料モノマーの調製タンクに戻すべく効率的に回収する技術に関する。
図1は、その重合・回収工程を全てを模式的に示している。まず、主原料であるアクリロニトリルの貯留槽1から計量ポンプ2aを介してモノマー調製タンク3に、アクリロニトリルが計量されながら所定量投入される。本実施形態では、前記貯蔵槽1に貯蔵されるアクリロニトリルには貯蔵中に重合を起こさないように、重量比で20〜100ppmのp- メトキシフェノールが添加されている。重合禁止剤としては、前記p- メトキシフェノールの他に、ハイドロキノン、p- t- ブチルカテコール、ジフェニルピクリルヒドラジル、ベンゾキノン、ガルビノキシル、1,3,5−トリフェニルフェルダジルなどが使用できる。
【0025】
前記モノマー調製タンク3には、更にアクリロニトリルと共重合する第2成分であるコモノマーが、同じく計量されながら所定の割合で投入されるとともに、重合時に未反応のまま重合反応釜4から送り出されたモノマー成分が戻される。モノマー調製タンク3で調製された粘調な原料液は、次の計量ポンプ2bを介して重合反応釜4へと送り込まれる。この重合反応釜4には、そのほかに必要量の純水が供給され、同時に重合開始剤及び各種の助剤が添加される。
【0026】
本発明では重合開始剤として、無機系レドックス開始剤を使用している。無機系レドックス開始剤としては、通常の酸化剤、還元剤の中から選ぶことができる。酸化剤と還元剤との組合せからなるレドックスの場合、代表的なものは、酸化剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の通常使用されるものであり、還元剤は亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜二チオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト、L−アルコルビン酸、デキストロ−ズ等の通常使用されているものである。硫酸第一鉄又は硫酸銅などの化合物も組合せて使用できる。その中で、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム(アンモニウム)−硫酸第一鉄の組合せが好ましい。還元剤と酸化剤の比率はどんな割合でも可能であるが、重合をより効率よく進めるうえで還元剤と酸化剤との当量比を1〜4にすることが好ましい。
【0027】
本実施形態で用いられるアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルモノマーの他にこれと共重合可能なモノオレフィン性モノマーとからなる繰り返し単位からなるものであってもよい。ここでアクリロニトリル系重合体は、少なくとも60重量%のアクリロニトリルモノマーから構成される必要がある。アクリロニトリルモノマーの含有量が60重量%未満であると、アクリロニトリル系合成繊維が本来有する繊維機能を保有することができないためである。ここで共重合可能なモノオレフィン性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸及びそれらのエステル、アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン酸、N−置換マレインイミド、ブタジエン、イソプレン等を挙げることができる。また、P−スルフォニルメタリルエ−テル、メタリルスルフォン酸、アリルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸、2−スルフォエチルメタクリレ−ト及びこれらの塩も共重合可能なモノマーとして使用できる。
【0028】
アクリロニトリル系モノマーの重合は、次のような条件で行う。すなわち、重合反応温度は30〜80℃にすることが好ましい。重合温度が80℃を超えるとアクリロニトリルが蒸発し、反応系外へ離散し、重合転化率が低下する。また30℃未満では重合速度が低下し、生産性が低下するばかりでなく、重合安定性を損なう。重合媒体としての水はイオン交換水を使用することが好ましい。さらにモノマーに対するイオン交換水の割合(以下、水/モノマー比という)は如何なる比率でも可能であるが、好ましくは水/モノマー比は1.0〜5.0の範囲である。重合反応釜内でのモノマーの平均滞在時間は、アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合方式で製造する際に採用される通常の時間でよい。重合反応釜内での水素イオン濃度は使用される触媒がすみやかに酸化・還元反応を起こす範囲であればよく、好ましくはpH2.0〜3.5の酸性領域がよい。
【0029】
重合反応釜4から取り出した重合体に、重合停止剤を添加し反応を停止させる。重合反応の停止剤は通常アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合で製造する際に使用されるものであれば限定されない。重合体水溶液に重合停止剤を添加した後、未反応モノマーの回収を行う。未反応モノマーの回収方法としては重合体水溶液を直接蒸留する方法が採用される。本実施形態にあっては、重合反応釜4で重合された重合体水溶液は、図2に示すように、重合反応釜4から取り出されたのち、蒸留塔5に導入される。蒸留塔5では、重合体とモノマー/水とに分離されるとともに、モノマー/水の混合液は蒸留塔5で蒸留されて気化し、コンデンサー6に導入されて凝縮し未反応のモノマー成分と水の混合液となる。コンデンサー6で液化されたモノマー成分と水との混合液はデカンター7を介して分離され、モノマー成分は回収モノマータンク8を介して重合反応釜4に戻される。
【0030】
ところで、気化してコンデンサー6に送り込まれる混合気体には、モノマー成分及び水の他に、僅かではあるがSO2 が混入している。このSO2 は凝縮して液化した水に溶けると、既述したとおり、同じく水に混入したモノマー成分の重合開始剤として機能する。従って、この反応を回避するには、コンデンサー6に送り込まれる混合気体が凝縮して液化する以前、好ましくはコンデンサー6に送り込まれた直後に、重合禁止剤を添加することが肝要である。コンデンサー6に導入される以前に重合禁止剤を添加すると、重合禁止剤の一部が蒸留塔5の上流側に流れる可能性があって、その添加量が一定しないため、添加量の調整が難しくなる。
【0031】
図2は、本発明による前記重合禁止剤の添加の仕方の一例を示している。本発明にあっては、必要な量の重合禁止剤をコンデンサー6の混合気体導入口の近傍に直接導入することもできるが、本実施形態ではコンデンサー6の混合気体導入口6aの近傍に別途形成された重合禁止剤の導入口6bとアクリロニトリルの貯留槽1とを配管10aで連結し、必要量のアクリロニトリルのバージン原料をコンデンサー6に送り込むようにしている。
【0032】
アクリロニトリルのバージン原料には、既述したように、所定の重量比(20〜100ppm)で重合禁止剤が添加されている。従って、前述のごとく、コンデンサー6の重合禁止剤の導入口6bに、貯留槽1に貯留されているアクリロニトリルのバージン原料の必要量をコンデンサー6に送り込むことにより、結果的に、必要量の重合禁止剤が導入されることになる。
【0033】
通常、前記重合工程で得られる重合生成物は、モノマー/ポリマー/水の比率が、それぞれ重量割合で2〜7%/10〜35%/58〜88%の範囲にある。また、このとき重合生成物には重合開始剤として機能するSO2 源が0.02〜0.20%含有されている。本実施形態によるアクリロニトリルの原料モノマーを、凝縮工程で得られた上記モノマー成分の含有量に応じて20〜150%の重量比をもって添加する。
【0034】
図3は、本発明による前記重合禁止剤の添加の仕方の他の例を示している。本実施形態ではコンデンサー6とデカンター7との間に配される配管9から分岐管10bを分岐させて、コンデンサー6の混合気体導入口6aの近傍に別途形成された重合禁止剤の導入口6bに分岐管10bで接続している。この分岐管10bには重合禁止剤の導入口6cが形成され、分岐管10bには重合禁止剤導入口6cを介して重合禁止剤が供給される。このときの重合禁止剤の供給は、重合禁止剤を単独で供給してもよいし、或いは前述のごとくアクリロニトリルの原料モノマーを供給するようにしてもよい。このときの、重合禁止剤の添加量は、コンデンサー6で凝縮して液化したモノマー成分に対して重量比で20〜150%添加する。
【0035】
次に、上述のモノマー成分回収システムを使ったモノマー成分の回収を実施例に基づいて具体的に説明する。
(実施例1)
水系懸濁重合によるアクリロニトリルと酢酸ビニルの共重合で得られたモノマー/ポリマー/水の比率が3%/22%/75%(重量比) からなり、且つSO2 源として亜硫酸水素ナトリウム0.075〜0.0125%(重量比) 含有する混合物を蒸留塔に供給して、塔頂より得られるモノマー1.2t/hrに対して重合禁止剤p-メトキシフェノールを40ppm(重量比) 含む原料モノマー(アクリロニトリル)を120%(重量比) 添加した。原料モノマーは多管式コンデンサー内の導入側で噴霧して添加した。6ヶ月間上記の条件を継続した後でも、多管式コンデンサーの原料モノマーの噴霧液が通過する管内範囲における詰まりは見らず、且つ回収したモノマー成分に重合体は殆ど混在していなかった。
【0036】
(比較例1)
コンデンサー内での原料モノマーの噴霧を行わないこと以外は実施例1と同様の方法で行った場合、6ヶ月間上記の条件を継続した後では多管式コンデンサー内に詰まりが多く見られた。また多管式コンデンサー以降のデカンターのモノマー層においても重合物の混入が多かった。
【0037】
以上のとおり、本発明によれば蒸留により気化されたモノマー成分と水との混合気体をコンデンサーで凝縮し液化したのち、水を分離してモノマー成分を回収するに際して、コンデンサーの前記混合気体の導入口近傍に重合禁止剤を導入するようにしたため、添加された重合禁止剤により混合成分が液化する段階でモノマー成分の重合が禁止されるようになり、回収モノマー成分に混在する重合体が減少する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のモノマー回収装置を備えたアクリロニトリル系重合体の重合システムを示す工程図である。
【図2】本発明の代表的な実施の形態であるモノマー回収工程の工程図である。
【図3】本発明の他の実施の形態であるモノマー回収工程の工程図である。
【符号の説明】
1 アクリロニトリルの貯留槽
2a,2b 計量ポンプ
3 モノマー調製タンク
4 重合反応釜
5 蒸留塔
6 コンデンサー
6a 混合気体導入口
6b,6c 重合禁止剤導入口
7 デカンター
8 回収モノマータンク
9,10a 配管
10b 分岐管

Claims (6)

  1. リロニトリル系重合体の水系懸濁重合工程で発生するモノマー成分の回収方法であって、重合工程で得られるモノマー/ポリマー/水の混合物を蒸留してモノマー成分と水とをポリマーから気化分離させること、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させてモノマー成分を回収することを備えてなり、気化工程から凝縮工程への移行時にアクリロニトリルの原料モノマーに添加されている重合禁止剤を原料モノマーと共に添加することを含んでなることを特徴とするアクリロニトリル系モノマー成分の回収方法。
  2. 前記重合工程で得られる重合生成物が、モノマー/ポリマー/水の比率2〜7%/10〜35%/58〜88%であって、且つSO2 源が0.02〜0.20%含有されており、前記凝縮工程で得られるモノマー成分に対する重量比で4〜150ppmの重合禁止剤添加されるように原料モノマーに添加されている重合禁止剤を原料モノマーと共に添加することを含んでなる請求項1に記載の回収方法。
  3. 前記凝縮工程で得られ前記モノマー成分に対して重量比で20〜100ppmの重合禁止剤添加されるように原料モノマーに添加されている重合禁止剤を原料モノマーと共に気化工程から凝縮工程への移行時に添加すること、
    重合禁止剤が添加された前記モノマー成分を、凝縮工程に導入されるモノマー成分に対し20〜150%の重量比で添加することを含んでなる請求項2記載の回収方法。
  4. 水系懸濁重合方式によるアクリロリトリル系重合体の重合システムであって、重合部と、同重合部に連結される蒸留部と、同蒸留部に連結される凝縮器とを備え、前記蒸留部に連結される凝縮部の気体導入口近傍に、重合禁止剤を含有する原料モノマーの導入口を更に有してなることを特徴とするアクリロリトリル系重合体の重合システム。
  5. 前記原料モノマーの導入口が、上記凝縮工程後に配されるモノマー/水の分離工程のモノマー導出口と連結され、前記原料モノマーの導入口と前記分離工程のモノマー導出口との間に重合禁止剤の導入部を有してなる請求項記載の重合システム。
  6. 前記原料モノマーの導入口に連結させて原料モノマー供給源を有してなる請求項5記載の重合システム。
JP2002102813A 2002-04-04 2002-04-04 アクリロニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法と重合システム Expired - Fee Related JP3768167B2 (ja)

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