JP4886990B2 - アクリルニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法と回収システム - Google Patents

アクリルニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法と回収システム Download PDF

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Description

本発明は、水系懸濁重合によるアクリル系ポリマーの重合時に残留するモノマー成分の回収方法とアクリル系ポリマーの重合システムに関し、特に未反応の前記モノマー成分を重合時の原料モノマーとして回収し、循環利用する未反応モノマー成分の効率的な回収方法とその回収システムに関する。
アクリル繊維は、羊毛に似た優れた嵩高性、風合、染色鮮明性等の性質を有し、広範囲の用途に利用されている。また、このアクリル繊維は、炭素繊維の原料としても多用されている。その紡糸法には、原料となるアクリル系共ポリマーを有機溶媒、又は無機溶媒に溶解する溶解工程を経て、湿式紡糸法、乾式紡糸法又は半乾式紡糸法によりステ−プル又はフィラメントとされる。この原料となるアクリルニトリル系共ポリマーは、アクリルニトリルモノマーとそれと共重合可能なアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリルアミドなどの非イオン性のコモノマーとをラジカル重合させることにより製造される。
通常、アクリルニトリル系共ポリマーの製造は、水を反応媒体とする、連続懸濁重合方式を採用することが多い。この連続懸濁重合方式では、原料タンク及びモノマー回収工程よりアクリルニトリルのモノマーとコモノマーとが個別に計量され、モノマー調製タンクに供給される。調製タンク内のモノマー仕込組成は、製造するポリマーの共重合組成により、アクリルニトリルとコモノマーの反応性比を考慮して、一定値に厳密に設定する必要がある。
重合反応釜には、調製されたアクリルニトリルとコモノマー、水、触媒などとともに、重合開始剤が添加されて重合が行われる。このときの重合開始剤としては、一般的に無機系開始剤が使用される。無機系開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム−硫酸第一鉄の酸化−還元系の組合せが多く使われており、上記コモノマーを含むアクリルニトリルを主成分とするモノマー成分が、反応媒体として作用する硫酸酸性水を使用して重合反応すると、数十ミクロンの粒子状のポリマーが形成され、水性分散液の状態でアクリルニトリル系ポリマーが得られる。
重合反応釜から取り出したポリマーに、重合停止剤を添加し反応を停止させる。アクリルニトリル系ポリマーを水系懸濁重合で製造する場合の重合停止剤としては、反応系の酸性水溶液を中和する機能を保持することが必要であり、シュウ酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩などの電解質水溶液が用いられる。また、貯蔵中や輸送中においてアクリルニトリルのモノマーの重合を禁止すべく、通常、原料モノマーに、例えばp- メトキシフェノールなどの重合禁止剤が予め添加されている。
重合反応の重合停止剤は、通常、アクリルニトリル系ポリマーを水系懸濁重合方式で製造する際に使用されるものであれば問題はない。ポリマー水溶液に重合停止剤を添加した後、未反応モノマーの回収を行う。このとき略1wt%の未反応モノマーが未重合のまま残る。この未反応モノマーの回収方法としてはポリマー水溶液を直接蒸留したのち、気化してポリマー水溶液から分離した未反応モノマー成分と水がコンデンサーに送られ凝縮し、モノマー/水の溶液となる。この溶液をデカンターによりモノマー成分と水とに分離する。分離した未反応モノマー成分は重合反応釜に戻される。一方、ポリマー中に残った水分は通常の乾燥方式によって取り除かれる。
上記重合工程にあっては、稼働効率を考えて重合反応釜を単基で稼働することはなく、通常は複数基の重合反応釜を同時に稼働して重合がなされる。このとき重合反応釜から取り出されたポリマー/未反応モノマー/水の容液は下流側に配された大型(容積:50m3 )のスラリータンクに一旦導入されたのち、ポンプを介して蒸留部へと送られて既述したとおりポリマーと未反応モノマー/水とに分離される。また、重合停止後に複数基の重合反応釜の導出口を一斉に開いて、全てのポリマー/未反応モノマー/水の溶液を、前記スラリータンクに排出し、重合反応釜にて重合が再開されるまで貯留する。従って、このスラリータンクにはポリマー/未反応モノマー/水の溶液が常時貯留されている。通常、前記ポリマー/未反応モノマー/水の溶液は同スラリータンクに略2〜3時間貯留されてから蒸留部へと送られている。
ところで、硫酸酸性水中でアルリロニトリル系ポリマーが重合されるとき、重合開始剤である過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム−硫酸第一鉄の組合せのうち、重合開始反応の還元剤である亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3 :CDという。)は、次に示すようにアクリルニトリル(AN)と反応して、AAP(Acrilonitril Addition Product)を生成する。
CH=CHCN + NaHSO3 → NaO3SCH2CH2CN(Sodiumβ-Sulfo Propianitrile)
(AN) (CD) (AAP)
このAAPは水溶性であるため、全てがモノマーストリップ塔(MS塔)の底部から排水として系外に排出されてしまい回収できないため、ANをロスする最も大きな原因の一つとなっている。
こうしたAAPは、勿論、重合反応釜や蒸留塔及びMS塔にても生成されるが、上述のように、重合工程にて得られるポリマー/未反応モノマー/水の溶液を、前記スラリータンクに導入し、同スラリータンクに長時間貯留する場合には、その生成量は重合反応釜や蒸留塔及びMS塔における生成量と比較すると、一段と高いことが判明している。因みに、実験によれば、前記スラリータンクにて生成されるAAPの量は、全工程で生成されるAAPの発生量の6割にも達する。
本発明は、以上のようなAAPの発生を極力低減してアクリルニトリル系モノマーの効率的な回収を可能にするアクリルニトリル系モノマーの重合工程における未反応モノマーの回収方法と同モノマーの回収システムとを提供することを目的としている。
本発明者らは、重合工程におけるAAPの発生量について、重合反応釜、スラリータンク及び蒸留塔からMS塔までの工程中の3ヵ所について調査した。その結果、重合反応釜で0.15%bop、スラリータンクで0.31%bop、蒸留塔からMS塔までで0.06%bopと、スラリータンクにて発生するAAPの量が最も高いことが分かった。
この調査結果に基づき、AAPの発生原因の一つに亜硫酸水素ナトリウムを含有するポリマー/未反応モノマー/水の溶液の滞留時間が関係すると予測した。そこで、AAPの発生量と前記溶液の滞留時間との関係を求める試験を行った。この試験は、重合反応釜から得られたポリマー/未反応モノマー/水の溶液に亜硫酸水素ナトリウムを添加して、その溶液をビーカーに入れて45℃に保温しながら、測定開始から30分、60分、120分経過ごとにAAPの発生量を測定した。
図4は、そのときの結果をグラフに示したものである。
同図によると、測定開始時を零分としたとき、零分ではAPPの発生量が0.75%bopであったものが、1時間後には1.75%bopまでほぼ直線的に増加しており、その後は高い発生量の間で緩やかに増加しており、2時間後には1.85%bopの発生量に達していることが分かる。
発明者らは、この試験結果から、前記溶液の滞留時間を可能な限り短くすれば、AAPの発生を抑えることができると推定した。
そこで、まずスラリータンクを排除して、重合反応釜からオーバーフローするポリマー/未反応モノマー/水の溶液をスラリー送液ポンプを介して直接蒸留塔に導入することを試みた。しかしながら、スラリー送液ポンプがエアーを吸い込み、蒸留塔で真空切れが発生したため運転を継続することが不可能となった。
更に多様な試験運転を行ったところ、請求項1に記載したとおり、本発明の基本構成である、アクリルニトリル系ポリマーの水系懸濁重合工程で発生する未反応モノマー成分の回収方法に到達した。すなわち、重合工程で得られるポリマー/未反応モノマー/水の混合物を蒸留して未反応モノマー成分と水とをポリマーから気化分離させる未反応モノマー成分の気化分離工程と、気化した未反応モノマー成分と水とを凝縮させて未反応モノマー成分を回収する未反応モノマー成分回収工程とを含み、前記重合工程で得られるポリマー/未反応モノマー/水の混合物を容量が0.05〜1.2m 3 に設定されてなる筒体を有する脱気筒部を介して脱気しつつ前記気化分離工程へと連続して導入することを含んでなることを特徴とするアクリルニトリル系モノマー成分の回収方法を採用することにより、重合工程全体としてのAAPの発生を大幅に減少させることができた。
前記脱気筒部の筒体は、容量が0.05〜1.2m 3 に設定されていることが必要である。さらに、内径が200〜500mm、高さが2000〜6000mmに設定されていることが好ましい。そして、所定量の前記ポリマー/未反応モノマー/水の溶液を前記筒体内部の溶液導出部に貯留しつつ前記気化分離工程へと連続して導入する。更に、前記脱気筒部の内壁面に向けて水を噴射することが望ましい。
一方、水系懸濁重合方式により発生するアクリルニトリル系モノマー成分の回収システムは、重合部と、同重合部に流路を介して連結された脱気筒部と、同脱気筒部に流路を介して連結され、ポリマー/未反応モノマー/水の混合物を蒸留して未反応モノマー成分と水とをポリマーから気化分離させる未反応モノマー成分の気化分離部と、同気化分離部にて気化分離された未反応モノマー成分と水とを凝縮させて未反応モノマー成分を回収する未反応モノマー成分回収部とを備えており、前記脱気筒部の端部を上下方向の向きに配するとともに、少なくともその上端部には脱気口が、下端部には前記ポリマー/未反応モノマー/水の混合物の導出口が設けられてなることを特徴としている。
前記脱気筒部は、内径が200〜500mm、高さが2000〜6000mm、容量が0.05〜1.2m3 に設定された筒体を含んでおり、ポリマー/未反応モノマー/水の溶液の導出口と前記蒸留部との間の流路に送液ポンプを配することが望ましい。また、前記脱気筒部の少なくとも上端部に、噴射口を同脱気筒部の内壁面に向けた水噴射口を有するようにするとよい。更には、前記脱気筒部が所定範囲の液面を検出する検出手段を有するとともに、同液面検出手段の検出値に基づき液面位置を前記範囲内となるように、前記送液ポンプの送液量を制御する液面制御手段を有してもよい。
作用効果
重合工程で得られるポリマー/未反応モノマー/水の溶液は重合反応釜からオーバーフローして、小内径の筒体を有する脱気筒部へと導入される。このとき混入するエアーは同脱気筒部から脱気通路を介して脱気される。一方、脱気筒部に導入されたポリマー/未反応モノマー/水の溶液は、同脱気筒部の内部を通過して、気化分離工程へと連続して送り込まれる。前記脱気筒部の小径筒体は、内径が200〜500mm、高さが2000〜6000mm、容量が0.05〜1.2m3 に設定されており、現状において採用を予定している実機と従来のスラリータンクとを比較すると、従来のスラリータンクの1/60〜1/125と極めて小さな容量となる。その結果、専有空間も極めて小さくなるため、前記脱気筒部を同時に稼働している複数の重合反応釜に隣接して配することができる。
因みに、従来のスラリータンクでは溶液の通過時間が2〜3時間であるのに比べて、本発明による前記脱気筒部を前記溶液が通過する時間はせいぜい1分程度である。その結果、既述したとおりAPPの発生量が大幅に減少する。他方、本発明にあっては、従来の前記スラリータンクは普段使用せずに緊急用として残しておいてもよい。
所定量の前記ポリマー/未反応モノマー/水の溶液を前記筒体内部の溶液導出部に貯留しつつ、前記気化分離工程へと連続して導入すると、脱気筒部においてエアーが完全に排気されて、前記溶液が気化分離工程に導入されるときにはエアーの混入がなく、ポリマーと未反応モノマー/水との間でエアーを混入しない円滑な気化分離がなされる。このとき、前記脱気筒部の内壁面に向けて水を噴射すると、ポリマーがスラリー導出部に詰まることがなくなるばかりでなく、筒体の内面に付着することも防げる。
前記脱気筒部は端部を上下方向の向きに配して、少なくともその上端部には脱気口を、下端部には前記ポリマー/未反応モノマー/水の溶液の導出口を設ければ、それらの溶液からなるスラリーの円滑な流れを得ることができる。また、ポリマー/未反応モノマー/水の溶液の導出口と前記気化分離部との間の流路に送液ポンプを配しておけば、前記スラリーの積極的な送液が可能であるばかりでなく、その出力を制御すれば脱気筒部内に貯留するスラリーの液面を常に適正な位置に維持することが出来るようになる。そのため、既述したとおり上記液面制御手段を設け、液面検出手段により検出される液面位置に基づき、前記液面制御手段から信号が発せられて前記送液ポンプの出力を制御するようにする。
以下、本発明の代表的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明は、水系懸濁重合方式によるアクリルニトリル系重合体の製造時に発生する未反応のモノマー成分を原料モノマーの調製タンクに戻すべく効率的に回収する技術に関する。
図1は、その重合・回収工程の全てを模式的に示している。まず、主原料であるアクリルニトリル貯留タンク1から液体状のアクリルニトリルが第1の計量ポンプ2aにより計量されながらモノマー調製タンク3に所定量投入される。本実施形態では、前記アクリルニトリル貯留タンク1に貯留されるアクリルニトリルには貯留中に重合を起こさないように、重量比で20〜100ppmのp- メトキシフェノールが添加されている。重合禁止剤としては、前記p- メトキシフェノールの他に、ハイドロキノン、p- t- ブチルカテコール、ジフェニルピクリルヒドラジル、ベンゾキノン、ガルビノキシル、1,3,5−トリフェニルフェルダジルなどが使用できる。
前記モノマー調製タンク3には、更にアクリルニトリルと共重合する第2成分であるコモノマーが、コモノマー貯留タンク1aから同じく第2の計量ポンプ2bで計量されながら所定の割合で投入される。モノマー調製タンク3に所定の割合で投入され調整されたアクリルニトリルとコモノマーの溶液はポンプによりモノマー供給タンク4へと送られる。モノマー供給タンク4で調製された粘調な原料液は、第3の計量ポンプ2cを介して重合反応釜5へと送り込まれる。この重合反応釜5には、そのほかに必要量のイオン交換水IDが供給され、同時に各種の触媒や重合開始剤、各種の助剤が添加される。
本実施形態における重合開始剤として、無機系レドックス開始剤を使用している。無機系レドックス開始剤としては、通常の酸化剤、還元剤の中から選ぶことができる。酸化剤と還元剤との組合せからなるレドックスの場合、代表的なものは、酸化剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の通常使用されるものであり、還元剤は亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜二チオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、L−アルコルビン酸、デキストロ−ズ等の通常使用されているものである。硫酸第一鉄又は硫酸銅などの化合物も組合せて使用できる。その中で、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウム(アンモニウム)−硫酸第一鉄の組合せが好ましい。還元剤と酸化剤の比率はどんな割合でも可能であるが、重合をより効率よく進めるうえで還元剤と酸化剤との当量比を1〜4にすることが好ましい。
本実施形態で用いられるアクリルニトリル系ポリマーは、アクリルニトリルモノマーの他にこれと共重合可能なモノオレフィン性モノマーとからなる繰り返し単位からなるものであってもよい。ここでアクリルニトリル系ポリマーは、少なくとも60重量%のアクリルニトリルモノマーから構成される必要がある。アクリルニトリルモノマーの含有量が60重量%未満であると、アクリルニトリル系合成繊維が本来有する繊維機能を保有することができないためである。ここで共重合可能なモノオレフィン性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸及びそれらのエステル、アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン酸、N−置換マレインイミド、ブタジエン、イソプレン等を挙げることができる。また、p−スルフォニルメタリルエーテル、メタリルスルフォン酸、アリルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸、2−スルフォエチルメタクリレート及びこれらの塩も共重合可能なモノマーとして使用できる。
アクリルニトリル系モノマーの重合は、次のような条件で行う。すなわち、重合反応温度は30〜80℃にすることが好ましい。重合温度が80℃を超えるとアクリルニトリルが蒸発し、反応系外へ離散し、重合転化率が低下する。また30℃未満では重合速度が低下し、生産性が低下するばかりでなく、重合安定性を損なう。重合媒体としての水はイオン交換水を使用することが好ましい。さらにモノマーに対するイオン交換水の割合(以下、水/モノマー比という)は如何なる比率でも可能であるが、好ましくは水/モノマー比は1.0〜5.0の範囲である。重合反応釜内でのモノマーの平均滞在時間は、アクリルニトリル系ポリマーを水系懸濁重合方式で製造する際に採用される通常の時間でよい。重合反応釜内での水素イオン濃度は使用される触媒がすみやかに酸化・還元反応を起こす範囲であればよく、好ましくはpH2.0〜3.5の酸性領域がよい。
重合反応釜5から取り出した重合体水溶液に重合停止剤を添加し反応を停止させる。重合反応の停止剤は通常アクリルニトリル系ポリマーを水系懸濁重合で製造する際に使用されるものであれば限定されない。スラリー状の重合体水溶液に重合停止剤を添加した後、未反応モノマーの回収を行う。未反応モノマーの回収は重合工程の全ての過程にて発生する未回収の未反応モノマーであれば、可能な限り回収して未反応モノマー回収タンク1bに回収する。前述の重合反応釜5にて得られるポリマー/未反応ポリマー/水からなる重合体水溶液から未反応モノマーを回収する方法としては、本発明の特徴部の一つである脱気筒部6を介して脱気しつつ前記気化分離工程である蒸留塔7へと連続して導入し、蒸留する方法が採用される。
この脱気筒部6を介して脱気しつつ前記蒸留塔7へと連続して導入し、蒸留塔7にて気化分離させて未反応モノマーを回収すると、既述したとおり、還元剤としての亜硫酸水素ナトリウムが添加されることにより生成されるAAPの生成量を、従来の大型のスラリータンクを使用するときとは比較にならない量までに減少させることができる。
本実施形態にあっては、重合反応釜5で重合を終えてオーバーフローする重合体水溶液は、図2に示すように、重合反応釜5から前記脱気筒部6を通したのち、送液ポンプ8によって蒸留塔7へと積極的に送り出される。前記脱気筒部6の小径筒体9は、図2に示すように逆ロケット形状を有しており、その内径は200〜500mm、高さは2000〜6500mm、容量は0.05〜1.2m3 である。この容量から、従来の巨大な容量24〜50m3 をもつスラリータンクと比較すれば、前記小径筒体9が如何に小型化されているかが理解できよう。なお、本実施形態では従来のスラリータンク18を緊急用として重合反応釜5と蒸留塔7との間に設置している。このスラリータンク18は、普段は使用しない。
前記脱気筒部6の小径筒体9は、その端部を上下に向けて設置され、その筒体周面の一部から筒体内部へと上記重合体水溶液が導入される。本実施形態にあっては、3基の重合反応釜5により得られる重合体水溶液が前記小径筒体9の内部に導入される。同筒体9の下端部には前記重合体水溶液の導出口9aが形成されており、同導出口9aは送液ポンプ8を介して蒸留塔7に配管により接続される。因みに本実施形態による脱気筒部6の全長は、各種の出入口を含めて5320mm、小径筒体9の内径306.5mm、容量0.3m3 である。
小径筒体9の内部構造は、下端の重合体水溶液導出口9aの部分を除いて完全な円筒形の空洞を有しており、図2に示すように、筒体9の上端に蓋体9bが配され、その蓋体9bの中央部には脱気口9cを有している。同筒体9の周面には上記重合体水溶液の3つの導入口9dと、任意の数(本実施形態では5個)のイオン交換水導入口9eとが形成されている。また、筒体9の周面の上下にはそれぞれ離間して配された差圧式液面計と反射式液面計の各液面検出部9f,9gを有している。前記イオン交換水導入口9eからは、図3に示すように、筒体内壁面に向けてイオン交換水DIが噴射される。このイオン交換水DIの噴射により、筒体内面が常に水により洗い流されるため、ポリマーが内壁面に付着することがなくなり、且つ重合体水溶液の導出口9aの詰まりをも排除する。
また、同じく図3に示すように、前記差圧式液面計と反射式液面計との液面検出部9f,9gから検出器LTによって所要の範囲の液面が検出される。その検出信号は、液面制御部LICに送られ、同制御部LICに予め設定された液面高さとなるように上記送液ポンプ8に制御信号が発せられて、同送液ポンプ8の吐出流量を制御する。この吐出流量の制御により、前記脱気筒部6の小径筒体9の重合体水溶液導出口9aの上流側に所定の範囲の液面高さを維持して、重合体水溶液が重合反応釜5からオーバーフローする間に混入するエアーを液面の上方に配された脱気口9cから完全に脱気させたのちに、蒸留塔7へと送り込む。
もし、この液面制御を行わないと、筒体内部に重合体水溶液が貯留されることなく、エアーを混入したまま蒸留塔7に導入されてしまい、蒸留塔7で気液分離された未反応モノマーと水蒸気との混合気体にエアーが混じってしまい、次工程のコンデンサー10で凝縮されたのちデカンター11によって水と未反応モノマーとが分離されて回収された未反応モノマーにエアーが混入して残ってしまい、このエアーが混入した状態で未反応モノマーが重合反応釜5に戻されてしまうと重合が円滑になされなくなる。
蒸留塔7に導入された重合体水溶液は、ポリマーとモノマー/水とに分離されるとともに、モノマー/水の混合液を蒸留塔7で蒸留して気化し、コンデンサー10に導入されて凝縮し、未反応のモノマー成分と水の混合液となる。コンデンサー10で液化されたモノマー成分と水との混合液はデカンター11を介して分離され、モノマー成分はスクラバー8を介して重合反応釜5に戻される。
前記蒸留塔7にて分離されたポリマーは水とともに第2スラリータンク12を介して洗浄部13にてイオン交換水によって洗浄されると同時にフィルターを通して濾過され、ペレタイザ14にて粒子状に成形されたのち、乾燥機15にて乾燥される。前記洗浄部13から排出される水溶液は、濾洗液タンク16にて貯留されて水を主成分とする未反応モノマー成分を含む液はMS塔(モノマーストリップ塔)17に送られて、蒸気により気液分離されて排水を塔底から取り出し、塔頂部から水と未反応モノマーとが回収されて上記蒸留塔7へと戻される。
表1は、前述のようにして重合反応釜5からオーバーフローする重合体水溶液を前記小径筒体9を介して蒸留塔7に送り込む本発明方法と、重合反応釜5からオーバーフローする重合体水溶液を大型のスラリータンクを介して蒸留塔7に送り込む従来法とを、次の試験条件で試験運転したときの、各部所における上記AAPの発生量の分布を示している。この試験では、比較的生産能力の低いランクを選んだ。
(試験条件)
スラリータンク容量:24m3
小径筒体 :内径306.5mm、高さ4720mm、容量0.3m3
スラリータンク内の滞留時間:30〜40分
筒体内の滞留時間 :約1分
Figure 0004886990
この表1から理解できるように、重合反応釜にて得られたアクリルニトリル系ポリマー/未反応モノマー/水との水溶液を、上記小径筒体を通して蒸留塔に連続して直接送り込むと、従来の大型スラリータンクに長時間滞留させてから蒸留塔に送り込む場合と比較して、AAPの全体の発生量を0.52−0.33=0.19%bopの発生量までに大幅に減少させることができた。
しかも、前記上記小径筒体を用いて、その要所にイオン交換水のシャワーを設けると、延べ60日間の運転に行っても、何ら致命的な問題が発生することはなかった。
なお、本実施形態では上記脱気筒部を図2に示した構造で説明したが、この脱気筒部の寸法や構造は、その基本を変更しないかぎり様々に変更が可能であるため、図示例に限らない。例えば、重合反応釜の容量が大きくなれば、それだけ小径筒部の全容積も大きくなる。そのため、脱気口や水溶液の導出口も大きくなり、水噴射口の数も多くなる。
本発明のモノマー回収システムを備えたアクリルニトリル系ポリマーの重合工程の工程図である。 本発明のモノマー回収工程に適用される脱気筒部の一例を示す外観図である。 本発明の代表的な実施形態であるモノマー回収工程の工程図である。 AAPの発生量の経時変化を示すグラフである。
符号の説明
1 アクリルニトリルの貯留タンク
1a コモノマー貯留タンク
1b 未反応モノマー回収タンク
2a〜2c 第1〜第3の計量ポンプ
3 モノマー調製タンク
4 モノマー供給タンク
5 重合反応釜
6 脱気筒部
7 蒸留塔
8 送液ポンプ
9 小径筒体
9a 重合体水溶液導出口
9b 蓋体
9c 脱気口
9d 重合体水溶液導入口
9e イオン交換水導入口
9f,9g 液面検出部
10 コンデンサー
11 デカンター
12 第2スラリータンク
13 第2フィルター
14 ペレタイザ
15 乾燥機
16 濾洗液タンク
17 モノマーストリップ塔
18 スラリータンク
LT 液面検出器
LIC 液面制御部

Claims (9)

  1. アクリルニトリル系ポリマーの水系懸濁重合工程で発生する未反応モノマー成分の回収方法であって、
    重合工程で得られるポリマー/未反応モノマー/水の混合物を蒸留して未反応モノマー成分と水とをポリマーから気化分離させる未反応モノマー成分の気化分離工程と、気化した未反応モノマー成分と水とを凝縮させて未反応モノマー成分を回収する未反応モノマー成分回収工程とを含み、
    前記重合工程で得られるポリマー/未反応モノマー/水の混合物を容量が0.05〜1.2m 3 に設定されてなる筒体を有する脱気筒部を介して脱気しつつ前記気化分離工程へと連続して導入することを含んでなることを特徴とするアクリルニトリル系未反応モノマー成分の回収方法。
  2. 前記脱気筒部の筒体は、内径が200〜500mm、高さが2000〜6000m
    mに設定されてなる請求項1記載の回収方法。
  3. 所定量の前記ポリマー/未反応モノマー/水の混合物を前記筒体内部の混合物導出部に貯留しつつ前記気化分離工程へと連続して導入することを含んでなる請求項1又は2に記載の回収方法。
  4. 前記脱気筒部の内壁面に向けて水を噴射することを含んでなる請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
  5. 水系懸濁重合方式により発生するアクリルニトリル系未反応モノマー成分の回収システ
    ムであって、
    重合部と、同重合部に流路を介して連結された脱気筒部と、同脱気筒部に流路を介して連結され、ポリマー/未反応モノマー/水の混合物を蒸留して未反応モノマー成分と水とをポリマーから気化分離させる未反応モノマー成分の気化分離部と、同気化分離部にて気化分離された未反応モノマー成分と水とを凝縮させて未反応モノマー成分を回収する未反応モノマー成分回収部とを備えてなり、
    前記脱気筒部は、容量が0.05〜1.2m 3 に設定された筒体を含み、
    前記脱気筒部の端部を上下方向の向きに配するとともに、少なくともその上端部には脱気口が、下端部には前記ポリマー/未反応モノマー/水の混合物の導出口が設けられてなる、
    ことを特徴とするアクリルニトリル系未反応モノマー成分の回収システム。
  6. 前記脱気筒部の筒体は、内径が200〜500mm、高さが2000〜6000mmに設定されてなる請求項5記載の回収システム。
  7. ポリマー/未反応モノマー/水の混合物の導出口と前記気化分離部との間の流路に送液ポンプが配されてなる請求項5又は6記載の回収システム。
  8. 前記脱気筒部の少なくとも上端部に、噴射口を同脱気筒部の内壁面に向けた水噴射口を有してなる請求項5又は6記載の回収システム。
  9. 前記脱気筒部が所定範囲の液面を検出する液面検出手段を有するとともに、同液面検出手段の検出値に基づき液面位置を前記範囲内となるように、前記送液ポンプの送液量を制御する液面制御部を有してなる請求項7に記載の回収システム。
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