JP3765383B2 - 可燃性長尺物貫通部防火処置用箱型枠体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ケーブルや樹脂パイプ等の可燃性長尺物が、コンクリート床などの防火区画体を貫通する部分で、防火処置用の部材として使用される箱型枠体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物の床や壁などの防火区画体を、ケーブルや樹脂パイプ等の可燃性長尺物が貫通する箇所では、防火区画体の穴内面と可燃性長尺物との間の隙間を耐火材で塞いで、火災が発生しても2時間以上防火性能を維持できるようにすることが義務付けられている。
【0003】
このため、コンクリート床などの水平な防火区画体を可燃性長尺物が上下方向に貫通する箇所では、防火処置用の部材として図8に示すような箱型枠体が使用されている。この箱型枠体10は、鋼板製の2枚の長辺板12A、12Bと2枚の短辺板14A、14Bとから構成される矩形筒型のものである。各長辺板12A、12B及び短辺板14A、14Bの上端縁は外側に折り曲げられて外向き鍔部16を形成し、下端縁は内側に折り曲げられて内向き鍔部18を形成している。また長辺板12A、12Bの外面にはL型鋼20がボルトナット22により固定されている。
【0004】
図9及び図10は上記箱型枠体10の使用状態を示す。図において、24はコンクリート床(上階と下階を仕切る防火区画体)、10はコンクリート床24の穴の内面に固定された箱型枠体、26はコンクリート床24の穴(箱型枠体10内)を上下方向に貫通するケーブル、28はケーブル26と共にコンクリート床24の穴を貫通するケーブルラックである。
【0005】
コンクリート床24に固定された箱型枠体10内には、ケーブル26及びケーブルラック28が貫通する部分に開口を有する下部耐火仕切り板30を落とし込む。この下部耐火仕切り板30は箱型枠体10の下端の内向き鍔部18により支持される。下部耐火仕切り板30には開口内の隙間を塞ぐように耐熱シール材32を盛りつける。また箱型枠体10内の空間にはロックウール等の耐火充填材を充填する(図示省略)。さらに箱型枠体10の上端には、ケーブル26及びケーブルラック28が貫通する部分に開口を有する上部耐火仕切り板34を乗せ、その周辺部を箱型枠体10の上端の外向き鍔部16にボルトナットで締付け固定する。さらに上部耐火仕切り板34にも開口内の隙間を塞ぐように耐熱シール材36を盛りつける。以上のようにしてコンクリート床24の穴をケーブル26が貫通する部分に防火処理が施される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上記のような防火処理構造では、コンクリート床24の下の階で火災が発生した場合、箱型枠体10の長辺板12A、12B及び短辺板14A、14Bが熱歪みにより変形して、コンクリート床24との間に隙間ができる可能性がある。このような隙間ができると、そこを通って煙や熱気が漏れるおそれがある。特に長辺板は寸法が大きいため、熱変形が生じやすい。なお長辺板12A、12Bはその外面に取り付けられたL型鋼20によって一応補強されているが、L型鋼20はボルトナットによって間欠的に固定されているだけであるので、長辺板12A、12Bが熱変形すると、ボルトナットによる固定部以外の部分で、長辺板12A、12BとL型鋼20の間に隙間ができる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、コンクリート床等の防火区画体の穴の内面との間に隙間ができないようにして、より防火性能を高めた可燃性長尺物貫通部の防火処置用箱型枠体を提供することにある。
【0008】
この目的を達成するため本発明は、可燃性長尺物が貫通する防火区画体の穴の内面に防火処置用の部材として固定される、2枚の長辺板と2枚の短辺板とからなる箱形の枠体において、前記長辺板の外面の前記防火区画体に埋め込まれる部分に、箱形枠体の周方向に延びる凸条を前記長辺板の折り曲げにより一体に形成し、この凸条の断面形状を付け根側より先端側の方が幅の広い先広形としたことを特徴とするものである。
このような構成にすると、箱型枠体を防火区画体に固定したときに、先広形の凸条が防火区画体に埋め込まれ、抜け出さなくなるため、長辺板の熱変形が制限され、防火区画体との間に隙間ができなくなる。
【0009】
なお、短辺板にも上記のような凸条を形成してもよいが、短辺板は長辺板より熱変形の程度が小さいので、短辺板には、防火区画体に埋め込まれる部分に、箱型枠体の周方向に延びるビード(型押しによる溝)を形成することで、熱変形を制限してもよい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態を示す。この箱型枠体10は、平行な2枚の長辺板12A、12Bと、この長辺板12A、12Bの両端を連結する平行な2枚の短辺板14A、14Bとで構成され、各長辺板12A、12B、短辺板14A、14Bの上端に外向き鍔部16が、下端に内向き鍔部18が形成されている点では従来と同様である。
【0011】
この箱型枠体10の一つの特徴は、長辺板12A、12Bの外面の、防火区画体に埋め込まれる部分に、箱型枠体10の周方向に延びる凸条38が一体に形成され、この凸条38の断面形状が付け根側より先端側の方で幅の広い先広形になっていることである。この箱型枠体10のもう一つの特徴は、短辺板14A、14Bの防火区画体に埋め込まれる部分に、箱型枠体10の周方向に延びるビード40が形成されていることである。ビード40の出っ張りは外面側でも内面側でもよい。
【0012】
図2及び図3は図1の箱型枠体10の使用状態を示す。箱型枠体10は従来同様、その下半部をコンクリート床24(防火区画体)の穴の内面に固定される。固定の仕方としては、(1) コンクリート床24を形成する前に箱型枠体10を所定の箇所に設置しておき、コンクリート床24の形成するときに箱型枠体10の下半部をコンクリート床24に埋め込む方式、(2) コンクリート床24を形成するときに、箱型枠体10より大きめの穴を形成し、その穴に箱型枠体10の下半部を挿入した後、箱型枠体10のまわりの隙間にモルタルを充填して固める方式、などがある。
【0013】
箱型枠体10をコンクリート床24に固定した後の防火処置も従来と同様である。すなわち、30は箱型枠体10内に落とし込まれた下部耐火仕切り板、32は下部耐火仕切り板30とケーブル26及びケーブルラック28との間の隙間を埋める耐熱シール材、34は箱型枠体10の上端に固定された上部耐火仕切り板、36は上部耐火仕切り板34とケーブル26及びケーブルラック28との間の隙間を埋める耐熱シール材である。
【0014】
この防火処置構造の場合は、箱型枠体10の長辺板12A、12Bの外面に形成された先広形の凸条38が、コンクリート床24内に埋め込まれてアンカーのような状態となる。このため長辺板12A、12Bは火災の熱で加熱されてもコンクリート床24の穴の内面から離れる方向に熱変形することはできず、長辺板12A、12Bとコンクリート床24の間に上下方向に連通する隙間ができることはない。また短辺板14A、14Bはもともと熱変形の程度が小さい上に、短辺板14A、14Bに形成されたビード40が、短辺板14A、14Bがコンクリート床24の穴の内面から離れる方向に熱変形するのを抑制することから、短辺板14A、14Bとコンクリート床24の間にも上下方向に連通する隙間ができることがない。したがって煙や熱気の漏れを確実に防止でき、より防火性能の高い防火処置構造を得ることができる。
【0015】
ところで、箱型枠体10は工場出荷時に図1のような完成品の形にしてもよいが、完成品の状態で運搬すると嵩ばるだけでなく、変形する可能性も高い。このため箱型枠体10は、工場出荷の段階では図4に示すように2枚の長辺板12A、12Bと2枚の短辺板14A、14Bを別部材にしておき、工事現場で箱型に組み立てるようにすることが好ましい。この場合、工事現場での組立を容易にするため、長辺板12A、12Bと短辺板14A、14Bの結合部は図5のような構造にするとよい。
【0016】
すなわち、長辺板12A、12Bには両端部付近に上下方向に間隔をあけて複数の矩形穴42A、42Bを形成する。一方、短辺板14A、14Bには、両端に長辺板12A、12Bの内面側に当接する内側押さえ片44Aと外面側に当接する外側押さえ片44Bを形成すると共に、内側押さえ片44Aに矩形穴42Aに落ち込む切り起こし片46Aを、外側押さえ片44Bに矩形穴42Bに落ち込む切り起こし片46Bを形成する。このようにすると、長辺板12A、12Bと短辺板14A、14Bを図5の矢印のように結合させるだけで、簡単に箱型に組み立てることができる。
【0017】
また、長辺板12A、12Bに形成する先広形の凸条38の断面形状としては、(1) 図2に示すように、長辺板12A、12Bの外面に対し上面を鋭角にし、下面を直角にする場合、(2) 反対に上面を直角にし、下面を鋭角にする場合、(3) 図6に示すように上面、下面とも鋭角にする場合(いわゆる鳩尾形)、などが考えられる。いずれの場合も、長辺板12A、12Bの外面と、これに対し鋭角となる凸条38の上面又は下面の角度θ(図2参照)は、70°〜85°に設定することが好ましい。この程度の角度にすると凸条38がコンクリート床24から抜け出すのを確実に防止できる。
【0018】
また凸条38の長辺板12A、12Bの外面からの突出高さは10mm以上にすることが好ましい。一方、短辺板14A、14Bに形成するビード40の突出高さは3mm以上とすることが好ましい。また凸条38は1本だけでなく2本以上形成することもできる。
【0019】
【実施例】
〔実施例1〕
ロールフォーミング加工により図2のような断面形状の凸条38(θ=80°、突出高さ10mm)を形成した長さ1200mm×高さ200mm の長辺板と、長さ 200mm×高さ200mm の短辺板とで構成された箱型枠体を用いて、図2及び図3のような防火構造体を組み立てた。この防火構造体について建築基準法上の2時間耐火試験を行い、特に長辺板の熱変形の状態、長辺板とコンクリート床の間からの煙の漏洩を観察した。その結果、長辺板にはコンクリート床の穴の内面との間に隙間ができるような熱変形は発生せず、また長辺板の外面には煙又は熱気の漏洩跡と考えられる煤が全く付着しなかった。
【0021】
〔比較例1〕
長辺板に図7のようにL字型鋼20をボルトナットで固定した箱型枠体を用い、図8及び図9のような防火構造体を組み立てた。この防火構造体について実施例1と同じ耐火試験を行った。その結果、長辺板が熱膨張により湾曲し、長辺板の外面に煙又は熱気の漏洩跡と考えられる煤が付着した。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、長辺板の外面に、付け根側より先端側の方が幅の広い先広形の凸条を形成したことにより、箱型枠体を防火区画体の穴の内面に固定したときに、この凸条が防火区画体内に食い込んだ状態となり、火災が発生したときに長辺板が防火区画体の穴の内面から離れる方向に熱変形することがなくなるので、長辺板と防火区画体との間に隙間ができず、煙や熱気の漏れをより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る防火処置用箱型枠体の一実施形態を示す斜視図。
【図2】 図1の箱型枠体の使用状態を示す短辺方向の断面図。
【図3】 同じく長辺方向の断面図。
【図4】 本発明に係る防火処置用箱型枠体の他の実施形態を、組立前の状態で示す斜視図。
【図5】 図4の箱型枠体の組立方を示す説明図。
【図6】 本発明の箱型枠体に設けられる凸条の他の形態を示す断面図。
【図7】 従来の防火処置用箱型枠体を示す斜視図。
【図8】 図7の箱型枠体の使用状態を示す短辺方向の断面図。
【図9】 同じく長辺方向の断面図。
【符号の説明】
10:箱型枠体
12A、12B:長辺板
14A、14B:短辺板
16:外向き鍔部
18:内向き鍔部
24:コンクリート床(防火区画体)
26:ケーブル
28:ケーブルラック
30:下部耐火仕切り板
32:耐熱シール材
34:上部耐火仕切り板
36:耐熱シール材
38:凸条
40:ビード
Claims (3)
- 可燃性長尺物が貫通する防火区画体の穴の内面に防火処置用の部材として固定される、2枚の長辺板と2枚の短辺板とからなる箱形の枠体であって、前記長辺板の外面の前記防火区画体に埋め込まれる部分に、箱形枠体の周方向に延びる凸条が前記長辺板の折り曲げにより一体に形成され、この凸条の断面形状が付け根側より先端側の方が幅の広い先広形になっていることを特徴とする可燃性長尺物貫通部防火処置用箱形枠体。
- 短辺板の前記防火区画体に埋め込まれる部分に、箱形枠体の周方向に延びるビードが形成されていることを特徴とする請求項1記載の可燃性長尺物貫通部防火処置用箱形枠体。
- 長辺板の外面と、これに対し鋭角となる凸条の上面又は下面の角度θが 70 °〜 85 °に設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の可燃性長尺物貫通部防火処置用箱形枠体。
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