JP3764912B2 - アルカリ蓄電池用非焼結式電極、およびこの電極を用いたアルカリ蓄電池 - Google Patents
アルカリ蓄電池用非焼結式電極、およびこの電極を用いたアルカリ蓄電池 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属多孔体基板に活物質を充填してなるアルカリ蓄電池用非焼結式電極と、これを用いたアルカリ蓄電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポータブル電源等に汎用されているアルカリ蓄電池には、本発明に係る図2に示すごとく、シート状の正極10および負極11をこれらの間にセパレータ12を配置した状態で渦巻状に捲回してなる捲回体電極群を電極体として用いたものがある。この種のアルカリ蓄電池では、捲回体電極群の上下端部の一部を金属集電端子23・24と接続して電流を取り出しているが、例えば電動工具に用いられるアルカリ蓄電池においては10A以上、場合によっては50A程度の大電流で使用されることがあるため、その内部抵抗を小さくする必要がある。
【0003】
そこで、Ni−Cd電池などでは、内部抵抗を小さくするために、捲回体電極群を構成している正極10および負極11の各所定の端部に集電端子23・24を5点以上の多数点で溶接する方法が採用されている。これは、電極10・11の捲回方向に対して電流の取り出し部位を多く設けることにより、電極各部の抵抗が比較的均一になるからである。
【0004】
また、最近では電池の高容量化に対する要求から、負極11に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素蓄電池が使用されるようになってきている。このアルカリ蓄電池では、正極10として多数の空孔を有する金属多孔体からなる電極基板(金属多孔体基板)を用いたペースト式電極が使用される傾向にある。このように金属多孔体基板を用いるのは、活物質である水酸化ニッケルの導電性が劣るので、できるだけ多くの活物質を電極内に充填するためである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
アルカリ蓄電池には、上述のようなNi−Cd電池やニッケル水素蓄電池を始め各種のものが知られているが、このうちNi−Cd電池などでは、負極の基板にパンチングメタル等が用いられ、正極にはシンター式電極と呼ばれる内部に穿孔鋼板を有する電極がそれぞれ用いられる。したがって、その捲回体電極群の上下端部は、負極がパンチングメタル、正極が穿孔鋼板の鋼板部分となることから、集電端子と溶接した場合に強度的に問題が生じることはない。
【0006】
問題となるのは、正極として金属多孔体基板を用いたニッケル水素蓄電池の場合である。すなわち、この種のニッケル水素蓄電池においては、電極がニッケル等の金属多孔体で形成されているため、その目付け量を多くしても上記のパンチングメタルや鋼板部分のような強度を確保することができない。また、金属多孔体基板は穿孔鋼板と比べて強度が劣るため、集電端子と溶接した際に、基板の破壊が生じやすく、溶接を確実に行えない点でも問題がある。
【0007】
これを防ぐ手段としては、図3(a)に示すごとく、金属多孔体基板1の上下端部に金属薄板5を溶接することが知られており、これによれば、基板1の強度の向上を図ることができるとともに、溶接性の向上を図ることができる。しかしながら、金属多孔体基板1の金属薄板5との溶接部分に活物質3が存在すると、溶接部分の接触抵抗が大きくなって、激しいスパークを生じ、溶接端子に金属多孔体基板1や金属薄板5が溶けて付着し、生産性が低下するなどの問題が生じる。
【0008】
かかる溶接部分への活物質の充填を防ぐ方法としては、図3(b)に示すごとく、活物質3の充填に先立って、予め金属多孔体基板1の端部にプレス加工を施して圧縮部2を形成することが知られている。これによれば、圧縮部2では金属密度が高くなり、活物質3の充填量を少なくできるので、接触抵抗を減らして、スパークの発生を防ぎ、生産性の向上を図ることができる。金属密度が高くなることで、電極それ自身の強度の向上も期待できる。
【0009】
しかしこの場合には、図3(c)に示すごとく、この圧縮部2に補強用の金属薄板5を溶接してから、電極の端部に金属集電端子23を溶接すると、金属集電端子23から受ける圧力により、金属薄板5が溶接されていない露出部分4aが座屈し易く、座屈した基板1がセパレータ12(図2参照)を貫通して短絡を引き起こすおそれがある。また、電池組み立て後、外力を受けた際に、前記露出部分4aが座屈するおそれもある。さらに、組み立て直後には、短絡を生じなくとも、電池の使用に伴う電極の膨潤により、座屈した露出部分4aがセパレータ12(図2参照)を貫通するおそれもある。圧縮により生じた電極の段差部の角1aにより、セパレータ12を傷つけて、短絡しやすい点でも問題がある。また、圧縮部2付近の電極は、活物質の充填性が劣るため、表面の金属多孔体板が露出しやすく、短絡が生じやすい。
【0010】
また、補強用の金属薄板5としては、鉄を素材とするものが剛性等の観点から好適であり、特に鉄にニッケルメッキを施して(以下、Fe−Niメッキと称す)、鉄イオンの電池内への溶出を防ぎ得るようにしたものが好適である。しかし、Fe−Niメッキ金属薄板5を用いると、溶接箇所、あるいはFe−Niメッキ金属薄板5の切断面から、電池内のアルカリ性、および正極の酸化性によって、鉄イオンが溶出して、正極の利用率が低下することは避けられず、サイクル特性悪化を引き起こす。
【0011】
電極強度の向上を図る他の方法としては、特開平10−321222号公報のごとく、電極板と集電端子との接合部分にPP樹脂や6−ナイロン等のプラスチック樹脂を含浸させて、当該接合部分にプラスチック樹脂膜をつくることが考えられる。しかし、プラスチック樹脂を含浸させると電極の柔軟性が低下するため、多大な捲回圧が必要となり、捲回構造がいびつになりやすく、生産性(歩留まり)の低下を招く。また、プラスチック樹脂をホットプレス等で含浸させる場合は、120℃以上の高温で処理するか、樹脂膜そのものを非常に薄くする必要があるが、前者の場合では、熱により活物質の分解や変性が起こって、その利用率が低下する。後者の場合では、樹脂膜が破れ易くなり、短絡防止効果や金属イオン溶出防止効果が期待できない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属多孔体基板の露出部の座屈を防いで、生産性(歩留まり)に優れるアルカリ蓄電池用非焼結電極を得るにある。本発明の目的は、圧縮部に強度補強用の金属薄板を溶接固着した場合であっても、かかる金属薄板から金属イオンが溶出するのを確実に防止でき、リサイクル特性を向上させ得るアルカリ蓄電池用非焼結電極を得るにある。本発明の他の目的は、これらアルカリ蓄電池用非焼結電極を備えたアルカリ蓄電池を得るにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、金属多孔体基板の上端部に、活物質を充填しない露出部を設け、この露出部を特定の飽和炭化水素物でコーティングすれば、露出部の機械的強度を良好に保って、その座屈を防ぐことができるともに、金属薄板を固着した場合でも、かかる金属薄板から金属イオンが溶出するのを確実に防ぐことができることを見出して本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、図1(f)・(g)及び図2に示すごとく、金属多孔体基板1の上端部が、活物質3を充填されることなく露出された露出部4とされているアルカリ蓄電池用非焼結式電極を対象とする。そして、前記露出部4が、融点が90〜120℃(90℃以上、120℃以下)である飽和炭化水素物7でコーティングされていることを特徴とする。
【0015】
このように、露出部4を飽和炭化水素物7でコーティングすることにより、金属多孔体基板1の露出部分の強度の向上を図って座屈を防ぐことができるとともに、活物質の脱落に伴う短絡の発生を抑えることができる。融点を120℃以下の低温とすることにより、従来のプラスチック樹脂のごとく、ホットプレス加工時の熱により活物質の分解や変性が起こって、その利用率が低下することもない。
【0016】
図1(f)・(g)及び図2に示すごとく、前記露出部4の上端部には、圧縮加工により厚みを減じて圧縮部2を形成し、この圧縮部2には、強度補強用の金属薄板5を溶接固定する。そして、前記圧縮部2を含む露出部4と金属薄板5の全体を、前記飽和炭化水素物7でコーティングする。このように、圧縮部2を形成することにより、金属多孔体基板1の孔を潰して、活物質3が充填され難くすることができるので、露出部4を容易に形成できる。金属薄板5を圧縮部2に固定することにより、強度の向上を図ることができるとともに、集電体電極23との溶接が容易となる。金属薄板5を含めて、露出部4全体を飽和炭化水素物7でコーティングすることにより、金属薄板5からの金属イオンの溶出も防ぐことができるので、サイクル特性の向上も図り得る。
【0017】
前記飽和炭化水素物7が、分岐を有しない飽和炭化水素物、あるいは分岐を有する飽和炭化水素物のいずれか一種のみであってもよいし、又はこれら2種の飽和炭化水素物を混合したものであってもよい。要は、コーティング剤となる飽和炭化水素物7の融点が、90〜120℃の範囲内にあればよい。
【0018】
前記飽和炭化水素物は、分岐を有する飽和炭化水素物を含むものであることが好ましい。そうすることで、飽和炭化水素物に良好な接着性を与えることができる。
【0019】
全飽和炭化水素物に対して、分岐を有しない飽和炭化水素物を20〜50%(20%以上、50%以下)含むものであることが好ましい。このように、分岐を有しない飽和炭化水素物を20〜50%含ませることで、溶融した飽和炭化水素物の性状に流動性を与えて、薄く塗布することが可能となる。飽和炭化水素物が塊状になることを防ぐことができる点でも有利である。
【0020】
前記金属薄板がニッケルメッキ鋼板であることが好ましい。これにより、安価で、生産性に優れたで電極を提供できる。
【0021】
また、本発明は、図2に示すごとく、正・負極10・11をセパレータ12を介して渦巻状に捲回した渦巻状電極体が、電解液13とともに電池ケース14内に収容されているアルカリ蓄電池を対象とする。そこでは、前記渦巻状電極体の正極10の上端部は、正極集電体23に溶接接続されており、前記渦巻状電極体の負極11の下端部は、負極集電体24に溶接接続されている。そして、前記正極10および負極11のいずれか一方を、上記アルカリ蓄電池用非焼結式電極とすることを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明において、電極基板として用いられる金属多孔体基板とは、発泡金属層を有する基板を意味する。その代表的な作製方法としては、発泡状の樹脂にニッケルメッキを施し、次いで樹脂を燃焼除去した後、焼鈍する方法が挙げられる。
【0023】
金属多孔体基板の目付け量としては、当該基板の単位面積当たりの重量を300g/m2 以上、800g/m2 以下とすることが好ましく、400g/m2 以上、600g/m2 以下とすることがより好ましい。300g/m2 以上、800g/m2 以下とすることにより、活物質の充填量を増加できるとともに、金属板集電体との溶接予定部である上端部での金属量を増加させて、金属多孔体基板の強度を確保できる。
【0024】
本発明では、金属多孔体基板として、金属板あるいは穿孔した金属板の両面を発泡金属層により挟み込んだものも用いることができる。その場合、ウレタンフォームに電解ニッケルメッキ(ニッケル以外の金属メッキでもよい)を施し、このニッケルメッキを施したウレタンフォームを熱分解させた後、焼結することによって、基材となる金属板または穿孔した金属板に発泡金属層を有する上記のような金属多孔体基板を得ることができる。
【0025】
金属多孔体基板の幅方向(上下方向)の全範囲にわたって活物質が充填されていると、集電端子や金属薄板と溶接する際にスパークが生じるので、幅方向端部には活物質が充填されていない部位、すなわち、活物質が充填されずに金属多孔体自身が露出している露出部を形成しておく必要がある。これは、基板の幅方向端部の金属密度を上げて孔を少なくすることや、活物質充填に先立って、金属多孔体基板の幅方向端部にプレス加工を施して圧縮幅狭部を形成し、基板中の空孔を潰して、活物質が充填され難くすることで実現できるが、後者の手段が生産性等の観点から好ましい。この圧縮幅狭部の厚さとしては、30μm以上、300μm以下であることが好ましく、30μm以上、200μm以下であることがより好ましい。300μmより厚くすると、空孔の圧縮が不十分となって、活物質の充填を抑えることができず、スパークが発生する。30μmよりも薄いと、基板に伸びが生じるとともに、強度が不十分となる。これに対して、200μm以下とすると、活物質の充填を完全に防ぐことが可能となる。これは特に、後述のごとく、金属薄板を溶接する場合に好適である。
【0026】
金属薄板の材料としては、電気抵抗が低く、電池内で安定なニッケルが好適であるが、ニッケルは硬度が低く、溶接時に電極棒に貼り付くなどの不良を生じるおそれがあるため、硬度の高いFe−Niメッキ材(ニッケルメッキ鋼板)を用いることが好ましい。Fe−Niメッキ材は、ニッケル材に比べ、安価である点でも有利である。
【0027】
金属多孔体基板の捲回端部のコーティング材としては、飽和炭化水素物を用いる。かかる飽和炭化水素物は、炭素−炭素単結合および炭素−水素結合のみからなるため、電池反応に関与せず、耐アルカリ性、耐酸化性に優れており、電池内で安定である。また、一般的なプラスチック樹脂に比べて安価である点でも有利である。
【0028】
一般的に、この種の飽和炭化水素物の膜強度および融点は、炭素数を増減させることで調整できる。すなわち、この種の飽和炭化水素物は、炭素数を少なくすると、膜強度および融点が低下する傾向にあり、炭素数を多くすると、膜強度および融点(炭素数が大きくなると、軟化点と呼ばれることもある)が上昇する傾向にある。本発明における飽和炭化水素には、金属多孔体基板の露出部が座屈しないだけの強度を与え得ること、電極の捲回を妨げないだけの柔軟性を有すること、電池の温度上昇によっても溶出しないこと、活物質を分解させないほどに融点が低いことなどが求められる。
【0029】
以上の知見より、本発明に係る飽和炭化水素物は、融点が90℃以上、120℃以下とする。融点を90℃以上とするためには、その炭素数が35以上必要であり、また、融点を120℃以下とするためには、炭素数が120以下であることが必要である。すなわち、本発明に係る飽和炭化水素物を別形態で特定すると、炭素数が35以上、120以下で、融点が90℃以上、120℃以下の飽和炭化水素物となる。
【0030】
融点が90℃未満では、電池の使用中に溶出するおそれがあり、本発明の効果が期待できない。120℃を超えると、コーティングした際に活物質の分解が生じるおそれがある。また電池の化成条件によっては、環境温度を80℃にすることがあるため、上記飽和炭化水素物の融点は、90℃以上であることが好ましい。電池活物質の酸化などの変性を完全に防ぐためには、120℃以下であることが好ましい。
【0031】
炭素数を35未満とすると、融点が90℃未満となって上述のような不都合が生じる他、得られた高分子膜の強度が弱く、金属板集電端子を捲回体極群の捲回端部に溶接する際に、金属多孔体基板の露出部が座屈して、この座屈した基板がセパレータを貫通して短絡を引き起こす。また、外力や電池使用時の電極膨潤によっても、露出部が座屈してしまう点でも不利がある。逆に炭素数が120を超えると、融点が120℃を超える他、得られた膜硬度が高く、柔軟性に欠けたものとなるため、電極の捲回時に多大な捲回圧が必要となり、捲回構造がいびつになりやすく、生産性(歩留まり)の低下を招く。これに対して、炭素数が35以上、120以下であると、金属多孔体基板の露出部の座屈を防ぎ得るとともに、柔軟性にも優れた飽和炭化水素膜を得ることができる。
【0032】
また、この炭素数範囲の飽和炭化水素物は、溶融させたときの粘度が低く、活物質の充填密度の低い部分の活物質および金属多孔体基板の隙間に毛細管現象により浸透するため、長期に渡って、電極強度の向上効果と短絡防止の効果を発揮する。つまり、圧縮部2(図1参照)においては、活物質が吸引や吹き飛ばしにより除去されているため、圧縮部2の近傍であるA部分では活物質の充填密度が低く、A部分の基板1が露出して短絡の原因となりやすい。これに対して本発明においては、当該A部分に毛細管現象で必要最小限の飽和炭化水素物を含浸させることにより、A部分の露出に起因する短絡を確実に防止できる。
【0033】
上記飽和炭化水素物は、分岐を有しない飽和炭化水素物、あるいは分岐を有する飽和炭化水素物のいずれか一種のみ、又はこれら2種の飽和炭化水素物を混合したものであってもよい。特に、飽和炭化水素物が分岐していると、結晶性が低下して、柔軟性が向上する。
【0034】
上述のごとく、飽和炭化水素物は、分岐を有しない飽和炭化水素物あるいは分岐を有する飽和炭化水素物のいずれか一種のみであってもよいが、特にこれら2種の飽和炭化水素物の混合物であることが好ましく、この場合には分岐を有しない飽和炭化水素物が、全飽和炭化水素物に対して20%以上、50%以下の範囲で混合させることが好適である。分岐のない飽和炭化水素物を20%以上含ませると、塗布前に溶解した飽和炭化水素物の性状に流動性を与えて、粘度を低くできるため、薄く塗布できる。塊状になり難い点でも有利である。50%を超えると、結晶性が上がって硬くなり、捲回時に割れるおそれがある。20%以下では、流動性の向上効果が得られない。
【0035】
この飽和炭化水素物は、市販のパラフィンワックスを混合して、調製したものを使用できる。
【0036】
本発明に係るアルカリ蓄電池用非焼結式電極の作製方法の一例について、図1および図2を参照して説明する。まず、一枚板の金属多孔体基板1を用意し、この基板1の金属集電端子23・24(図2参照)の溶接予定箇所である上端部にプレス加工を施して、その厚み幅を減じて圧縮部2を形成する(図1(a)・(b))。次に図1(c)に示すごとく、金属多孔体基板1に対して活物質3を充填する。このとき、圧縮部2の空孔は潰れているので、活物質3が充填されにくく、当該圧縮部2は、金属多孔体が露出した露出部4となる。次に図1(d)に示すごとく、圧縮部2の側面にFe−ニッケルメッキ材を素材とする金属薄板5を溶接固着する。最後に、溶融された飽和炭化水素物7で満されたバット6内に金属多孔体基板1の上端部を漬け(図1(e))、当該高分子7を乾燥させることにより、図1(f)に示すごとく、金属薄板5および圧縮部2が飽和炭化水素物7でコーティングされた本発明に係るアルカリ蓄電池用非焼結式電極を得る。なお、それ以後に図1(g)に示すごとく、金属多孔体基板1等を所定の厚みに圧延してもよいし、また、図1(c)に示すごとく、活物質を充填した後に圧延を行って、最終的に図1(g)のごとくとしてもよい。なお、圧縮部2に金属薄板5を溶接固定してからこれらを圧延し、次いで活物質3を充填し、最後に圧縮部2および金属薄板5に付着の余分な活物質3を圧縮エアー等で除去した場合にも、図1(g)と同構成の電極を得ることができる。
【0037】
このようにしてなるアルカリ蓄電池用非焼結式電極では、以下の利点がある。▲1▼電池側の金属集電端子23・24との溶接予定部を、活物質3が充填されてない露出部4としたので、金属薄板5や金属集電端子10を溶接した際にスパークが発生し難く、生産性(歩留まり)が向上する。
▲2▼露出部4の全体を飽和炭化水素物7でコーティングして、露出部4を補強したので、露出部4の座屈をよく防ぐことができる。特に、図3(c)に示したごとく、補強用の金属薄板5が固着されてない部位4aは、金属薄板5が固着されている部位と比して剛性が小さく座屈し易いが、上述のごとく飽和炭化水素物7でコーティングすることにより、座屈を抑えることができる。従って、座屈した基板1がセパレータ12(図2参照)を貫通して短絡するなどの不具合が生じることはない。圧縮により生じた電極の段差部の角1a(図3(c)参照)により、セパレータ12を傷つけて、短絡を引き起こすこともない。
▲3▼金属薄板5も含めて露出部4全体を飽和炭化水素物7でコーティングしたことにより、金属薄板5からの金属イオンの溶出、および露出部4からの活物質の脱落を防ぐことができるので、サイクル特性の向上や、短絡を防止できる。特に、毛細管現象により、圧縮部2の近傍であるA部分に飽和炭化水素物を含浸させることにより、当該A部分の露出に起因する短絡を確実に防止できる。
【0038】
(アルカリ蓄電池の構造)
本発明は、例えば図2に示すような非水二次電池に適用される。この二次電池は、上面が開口する筒形の電池ケース14と、電池ケース14内に装填した、正・負の電極10・11と、電池ケース14の開口を封止する封口構造とからなる。正極10と負極11は、セパレータ12を介して渦巻状に捲回された渦巻状捲回構造の電極体として電解液13とともに電池ケース14内に収容されている。この電池では、正極10として水酸化ニッケル正極を用いており、負極11としては図1に示したような本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式電極を渦巻状に捲回したものを用いている。なお、正・負極10・11の両方に、本発明に係るアルカリ蓄電池用非焼結式電極を適用することも勿論可能である。
【0039】
封口構造は、外面に露出する端子板19と、端子板19の下部にあって中央にガス通口25を有する封口板16と、封口板16および端子板19の周縁に被さる環状ガスケット21とからなる。電池ケースの先端には、一段窪んだ溝部20が形成されており、環状ガスケット21は溝部20から先の部分を内方に締め付けることによって狭圧されている。端子板19は圧延鋼製で表面にニッケルメッキが施され、周縁部が鍔状になった断面ハット状をしており、その周面二箇所にスリット19aが形成されている。封口板16は表面にニッケルメッキが施された圧延鋼を素材とし、環状ガスケット21はナイロンを素材とする。尚、符号26は、封口板16と、渦巻電極体との間に設けられた絶縁体を示す。
【0040】
端子板19と封口板16との間には、ガス通口25を密閉するゴム弁体18が配置されている。ゴム弁体18は、圧縮変形された状態で端子板19と封口板16との間に配置されて、通常時はその下面が封口板16と密着している。そして、電池ケース14の内圧が所定値を超えると、封口板16から押し上げられてガス通口25を開放し、端子板19のスリット19aからガスを放出する。
【0041】
リード体22はニッケルまたは表面にニッケルメッキが施された圧延鋼製で、前記封口板16と正極10とを集電端子(正極集電端子)23を介して接続する。負極11と電池ケース14の底部とはニッケル製の集電端子(負極集電端子)24で接続されている。
【0042】
【実施例】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲内で適宜変更可能であることはいうまでもない。なお、以下の実施例において、部とあるのは重量部を意味し、また、濃度や固溶量などを示す%は、特にその単位を付記しないかぎり重量%である。
【0043】
(実施例1)
水酸化ニッケル粉末100部に、水酸化コバルト粉末1部、カルボキシメチルセルロース粉末0.2部および60%ポリテトラフルオロエチレン1部を添加し、混合して正極用ペーストを調整した。金属多孔体基板として、厚さが1.30mm,幅が120mm、長さが640mmの三次元多孔性発泡ニッケル材を用意し、幅方向端部の端(上方端)から3mm幅を50μmに圧縮し、圧縮部に幅1.5mm、厚さ150μmのFe−Niメッキリボン(本発明で言うところの金属薄板)を抵抗溶接した。この基材上に上記正極用ペーストを塗布し、85℃で乾燥したのち、総厚が230μmとなるようにプレスして、シート状物とした後、幅41mmに裁断した。また、リボン溶接部の余分な活物質については、圧縮エアーで除去した。
【0044】
コーティング材としては、炭素数43、融点96℃、分岐数1個の分岐を有する飽和炭化水素物(A)と、炭素数44、融点99℃の分岐を有しない飽和炭化水素物(B)と、炭素数173、軟化点54℃、分岐数5〜10個の分岐を有する飽和炭化水素物(C)の混合物を用いた。混合比率は、(A)50%、(B)40%、(C)10%とした。この飽和炭化水素物をバット中で100℃に加熱して、溶解させ、上記電極シートのリボン溶接側3mm幅を一秒間浸漬後、引き上げた。また、他の3辺の端部も飽和炭化水素物の液面に漬けて、引き上げた。この電極を常温まで冷却し、アルカリ蓄電池用非焼結式電極とした。
【0045】
負極は以下のようにして作製した。市販のMm(La、Ce、Nd、Prを含有する)、Ni、Co、Mn、Al(いずれも純度99%以上)の各試料を、MmNi3.9Co0.6、Mn0.35Al0.25の組成になるように高周波溶解炉によって加熱溶解して、水素吸蔵合金を得た。この水素吸蔵合金を機械的に粉砕することにより、平均粒子径が35μmの水素吸蔵合金粉末を得た。この水素吸蔵合金粉末100部に、カルボニルニッケル粉末1部、5%ポリ−N−ビニルアセトアミド水溶液10部および40%スチレン−2−エチルヘキシルアクリレート共重合体1.7部を添加し混合して、負極合剤含有ペーストを調整した。この負極合剤含有ペーストをパンチングメタルからなる多孔性基材に塗布、充填し、乾燥して負極合剤層を形成した後、加圧成形し、その後、所定サイズに裁断してシート状の負極を作製した。
【0046】
前記の正極と負極をナイロン不織布からなるセパレータを介して捲回し、得られた捲回体電極群の正極端面及び負極端面に集電体ニッケル板を抵抗溶接し、捲回体を得た。この捲回体を単2サイズの電極缶に入れ、これにアルカリ電解液(30重量%の水酸化カリウム水溶液1リットルにLiOHを17gと酸化亜鉛33gを溶解させた水溶液)を注入したのち、密閉し、40℃で6時間保存し、72mAで6時間充電した後、720mAで6時間充電し、720mAで放電した。この放充電サイクルを放電容量が一定になるまで繰り返して、ニッケル水素蓄電池を作製した。
【0047】
(比較例1)
飽和炭化水素物の塗着を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素蓄電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
三次元多孔性発泡ニッケル材を圧縮せずに、Fe−Niメッキリボンを抵抗溶接し、コーティング材として、飽和炭化水素物の代わりに、ポリプロピレン樹脂を用い、これで三次元多孔性発泡ニッケル材のみをコーティングした。それ以外は実施例1と同様にして、ニッケル水素蓄電池を作製した。
【0049】
上記の実施例1及び比較例1・2のニッケル水素蓄電池を1000個作製した際の、各工程の不良率は表1に示すとおりであった。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1では、不良は発生しなかった。比較例1では、捲回時に金属多孔体露出部による短絡、および集電溶接時に前記露出部分の座屈による短絡、化成時に電極が膨潤し、金属多孔体露出部分による短絡が見られた。比較例2では、金属多孔体露出部分にFe−Niリボンを溶接する際、および金属集電板を溶接する際にスパークが見られた。捲回時に巻きずれによる不良も見られた。さらに、化成時に前記露出部分と活物質充填部分との境界である、活物質充填密度の小さい部分で短絡が発生した。
【0052】
このことから、実施例1のごとく、金属薄板が溶接された圧縮部分を含む金属多孔体露出部分及び金属薄板、及び電極端部裁断面を飽和炭化水素物でコーティングすれば、前記露出部分に端を発する短絡を防ぎ得ることがわかる。また、前記露出部分を圧縮すれば、当該露出部への活物質の充填を防いで、金属薄板溶接時および金属板集電体溶接時のスパークによる不良を抑え得ることがわかる。柔軟性に富んだ飽和炭化水素物でコーティングしたことで、捲回時の巻きずれの発生を抑え得ることわかる。
【0053】
次に、上記の実施例1及び比較例1,2の作製した1000個のニッケル水素蓄電池の中から、それぞれ10セルを無作為に抜粋し、3600mAで−ΔV5mVまで充電し、次いで3600mAで1.0Vまで放電した。この充放電を放電容量が電池容量が2500mAh以下に低下するまで行った。各10個の平均の結果を図4に示す。
【0054】
図4より、実施例1は比較例1、2と比較してサイクル寿命が延びており、Fe−Niメッキリボンを飽和炭化水素物で被覆することで、電池内へのFeイオンの溶出を抑えて、正極の利用率低下を防いだことがわかる。
【0055】
また、各10セルをサイクル試験終了後、室温で一週間放置した後、電圧が0Vまで低下したセル数を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2により、実施例1では電圧が0Vまで低下したセルは皆無であったが、比較例1・2では電圧が0Vまで低下したセルがあった。この不具合が生じたセルを分解して観察してみると、比較例1では、金属多孔体露出部分、該露出部分と活物質充填部分との境界である活物質充填密度の小さい部分、および電極裁断面で短絡が見られた。また、比較例2では、露出部分と活物質充填部分との境界部分である活物質充填密度の小さい部分、および、電極裁断面で短絡が見られた。このことから、実施例1では、上記のごとく、金属多孔体露出部分等を飽和炭化水素物でコーティングすることにより、サイクル後に電極が膨潤した場合に起こる金属多孔体露出部分に端を発する短絡を防ぎ、サイクル寿命に優れたアルカリ電池を得られることがわかった。
【0058】
次に、実施例2〜10、および比較例3〜10を使って、本発明に係る飽和炭化水素物の炭素数、融点、分岐の有無などの臨海的意義を明らかにする。
(実施例2〜13)
飽和炭化水素水素を表3のごとくとした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ蓄電池用非焼結式電極を得た。
【0059】
【表3】
【0060】
(比較例3〜10)
飽和炭化水素を表4のごとくとした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ蓄電池用非焼結式電極を得た。
【0061】
【表4】
【0062】
実施例2〜10、比較例3〜10に係る飽和炭化水素物について、強度、柔軟性、被覆性、浸透性について評価を行った。
【0063】
強度は、電極、セパレータ、対極、セパレータ、電極、セパレータといった具合に積層したものを一組として、その端面に金属集電板を抵抗溶接し、金属集電端子を溶接したときに座屈が認められるか否かを目視にて確認した。評価は以下のごとくとした。
○ 座屈は認められない。
△ 僅かだが座屈が認められる。
× 大きな座屈が認められ、セパレータを傷つけるおそれがある。
【0064】
柔軟性は、電極をセパレータを介して対極と捲回した際の巻きずれの生じ具合を目視にて確認し、以下のごとく評価した。
○ 巻きずれは一切認めらない。
△ 僅かに巻きずれが生じていることが認められる。
× 大きな巻きずれが認められる。
【0065】
被覆性は、電極をセパレータと介して対極と捲回し、その後、捲回体をほどいたときの様子を観察し、含浸コートした高分子にひび割れが入っているか否かを目視にて確認し、以下のごとく評価した。
○ 割れは一切認めらない。
△ 僅かにひびが生じていることが認められる。
× 大きなひび割れが認められる。
【0066】
浸透性は、活物質充填部と露出部との境界部分への飽和炭化水素物の浸透度合いを目視にて確認し、以下のごとく評価した。
○ 十分に浸透している。
△ 浸透は不十分である。
× 全く浸透していない。
以上の各項目についての評価結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5より、実施例2〜10は、強度、柔軟性、被覆性、浸透性ともほぼ良好であった。これに対して、炭素数が35未満で、融点が90℃未満である比較例3・4では、強度に問題が生じた。炭素数が120を超えて、融点が120℃を超える比較5・6では、柔軟性に欠け、巻きずれが生じた。比較例7・9より、分岐のない飽和炭化水素物の混合量が20%未満では、浸透性が不十分であることが確認された。比較例8・10より、分岐のない飽和炭化水素物の混合量が50%を超えると、得られた飽和炭化水素物膜の結晶性が上がって硬くなり、捲回時にひび割れが生じ、被覆性に劣ることが確認された。
【0069】
上記実施例では、融点が90℃〜120℃の2種の飽和炭化水素物(分岐を有するもの、分岐を有しないもの)を混合したものをコーティング材としたが、融点が範囲外の異なる2種の飽和炭化水素物を混合してもよい。要は、混合物の融点が90℃〜120℃の範囲であればよい。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、金属多孔体基板の活物質を含有しない露出部を圧縮し、あるいはさらに、該圧縮部分上に、金属薄板を溶接し、前記圧縮部を含む露出部あるいは金属薄板が溶接された圧縮部を含む露出部及び金属薄板を、飽和炭化水素物でコーティングしたので、露出部に原因を発する短絡を防ぎ、さらにFe−Ni薄板を用いた際に発生するFeイオンの溶出を低減し、長時間で安価な大電流放充電に適したアルカリ蓄電池を歩留まりよく提供することができる。この飽和炭化水素物は、炭素−炭素単結合および炭素−水素結合のみからなるため、電池反応に関与せず、耐アルカリ性、耐酸化性に優れており、電池内で安定である点でプラスチック樹脂よりも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアルカリ蓄電池用非焼結式電極の作製方法を示す図である。
【図2】本発明に係るアルカリ蓄電池の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、従来のアルカリ蓄電池用非焼結式電極の問題点を説明するための図である。
【図4】実施例1および比較例1・2の充放電特性を示す図である。
【符号の説明】
1 金属多孔体基板
2 圧縮部
3 活物質
4 露出部
5 金属薄板
7 飽和炭化水素物
10 正極
11 負極
12 セパレータ
13 電解液
23 金属集電端子
24 金属集電端子
Claims (6)
- 金属多孔体基板の端部が、活物質を充填されることなく露出された露出部とされ、かつ前記露出部の端部に、圧縮加工により厚みを減じて圧縮部が形成されているアルカリ蓄電池用非焼結式電極であって、
前記圧縮部を含む露出部全体を、融点が90〜120℃である飽和炭化水素物でコーティングし、かつ前記圧縮部の近傍に前記飽和炭化水素物を含浸させたことを特徴とするアルカリ蓄電池用非焼結式電極。 - 前記圧縮部には、強度補強用の金属薄板が溶接固定されており、
前記圧縮部を含む露出部と金属薄板の全体が、前記飽和炭化水素物でコーティングされている請求項1記載のアルカリ蓄電池用非焼結式電極。 - 前記飽和炭化水素物が、分岐を有しない飽和炭化水素物、あるいは分岐を有する飽和炭化水素物のいずれか一種のみ、又はこれら2種の飽和炭化水素物を混合したものである請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用非焼結式電極。
- 前記飽和炭化水素物が、分岐を有しない飽和炭化水素物と分岐を有する飽和炭化水素物の混合物であり、
全飽和炭化水素物に対して、分岐を有しない飽和炭化水素物を20〜50%含む請求項3記載のアルカリ蓄電池用非焼結式電極。 - 前記金属薄板がニッケルメッキ鋼板である請求項2乃至4のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用非焼結式電極。
- 正・負極をセパレータを介して渦巻状に捲回した渦巻状電極体が、電解液とともに電池ケース内に収容されているアルカリ蓄電池であって、
前記渦巻状電極体の正極の上端部は、正極集電体に溶接接続されており、
前記渦巻状電極体の負極の下端部は、負極集電体に溶接接続されており、
前記正極および負極の少なくともいずれか一方が、請求項1乃至5のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用非焼結式電極であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
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