JP3764775B2 - 磁気抵抗効果型磁気ヘッドの製造方法 - Google Patents

磁気抵抗効果型磁気ヘッドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気的に記録された情報を再生する磁気抵抗効果型磁気ヘッドに係り、前記磁気抵抗効果型磁気ヘッドを搭載し、情報を読み書きする磁気記録再生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の磁気ディスク装置の小型化,高密度化の進行に伴い、ディスクとヘッドの相対速度に依存せずに高い再生出力電圧が得られる磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)が実用化されている。現在磁気ディスク装置に搭載されている MRヘッドでは、異方性磁気抵抗効果が用いられているが、数Gb/in2 程度の高い面記録密度になると、異方性磁気抵抗効果を用いたMRヘッドでは感度不足が予想されるため、非磁性導電性薄膜を介して積層された2層の磁性膜の互いの磁化の方向のなす角度によって電気抵抗が変化する巨大磁気抵抗効果を用いた磁気ヘッドが研究されている。
【0003】
巨大磁気抵抗効果を用いたヘッドの一つとして、特開平4−358310号,特開平5−18430 号,特開平6−60336号には、スピンバルブ構造と呼ばれる構造が記されている。これは、反強磁性層によって磁化が特定の方向に固定された固定層強磁性膜と、薄い非磁性導電性薄膜を介して固定層強磁性膜に積層された自由層強磁性膜で構成されており、固定層強磁性膜の磁化と自由層強磁性膜の磁化の相対的な角度によって電気抵抗が変化するものである。自由層強磁性膜の磁化は、外部磁界によって自由に回転するため、自由層と呼ばれている。ここで、固定層としてはNiFe膜を用いており、また、その磁化を固定するための反強磁性層としてはFeMn膜を用いている。
【0004】
また、MRヘッドでは、磁気抵抗効果膜あるいは自由層内での不可逆的な磁壁移動に起因するバルクハウゼンノイズを抑制するため、これらの膜に縦バイアス磁界を印加することが行われている。この方法の一つとして、特開平7−57223号に、磁気抵抗効果膜の両脇に、縦バイアス印加層として、反強磁性体であるNiMn膜によってその磁化方向が固定された強磁性膜(NiFe)を配置した構造が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
スピンバルブ構造のMRヘッドに関する上記従来技術においては、反強磁性層材料としてFeMn膜を用いているが、FeMn膜は耐食性が著しく悪く、製造プロセスにおける腐食が懸念される。Cr等の第3元素を添加すると耐食性は改善されるが、強磁性膜との交換結合磁界およびブロッキング温度が低下するため、MRヘッドに適用することは難しい。
【0006】
一方、縦バイアス印加層に用いられているNiMn膜は、上記従来技術によれば、良好な耐食性を有するが、強磁性膜がNiFe膜の場合、実用的な交換結合磁界を得るためには250℃程度の長時間の熱処理が必要である。異方性磁気抵抗効果を利用したMRヘッドでは、厚さ20nm程度の膜で構成されているため、250℃程度の長時間の熱処理を施しても、特性は殆ど変化しないが、スピンバルブ構造のように巨大磁気抵抗効果を利用したMRヘッドでは、厚さ数nm程度の薄膜で構成されているため、特性の劣化、特に再生出力の低下が著しい。
【0007】
本発明の第1の目的は、良好な耐食性を示すNiMn膜を反強磁性層に用いても、再生出力の低下を小さく抑えることができるスピンバルブ構造の磁気抵抗効果型磁気ヘッド及び磁気記録再生装置を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、より低温,短時間の熱処理により十分な交換結合磁界が得られる、NiMn反強磁性薄膜と強磁性薄膜の積層膜を縦バイアス印加層に適用し、特性の安定性,生産性を高める磁気抵抗効果型磁気ヘッドを提供することにある。
【0009】
さらに、本発明の第3の目的は、特性の安定性,生産性に優れた磁気記録再生装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の目的は、非磁性導電性薄膜を中間層として第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜が積層されており、第1の磁性薄膜の磁化方向が第1の磁性薄膜と隣接して設けられた反強磁性層によって固定されている磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記反強磁性層が少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金であり、前記反強磁性層と磁気的に接している磁性薄膜がCo原子を含む磁性薄膜とすることによって、達成される。
【0011】
前記反強磁性層と磁気的に接している磁性薄膜は、Co原子を含む磁性薄膜の単層膜でも良いが、Co原子を含む磁性薄膜と、結晶構造が面心立方格子である磁性薄膜の多層膜であり、前記Co原子を含む磁性薄膜が前記反強磁性層と直接接している構造でも良い。
【0012】
再生感度を向上させるために、非磁性導電性薄膜を中間層として第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜と第3の磁性薄膜が積層されており、第1の磁性薄膜の磁化方向が第1の磁性薄膜と隣接して設けられた第1の反強磁性層によって固定され、第3の磁性薄膜の磁化方向が第3の磁性薄膜と隣接して設けられた第2の反強磁性層によって固定されている磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記第1の反強磁性層及び前記第2の反強磁性層のうち少なくともどちらか一方が、少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金であり、前記Mn合金と磁気的に接している磁性薄膜がCo原子を含む磁性薄膜とすることもできる。
【0013】
一方、本発明の第2の目的は、横バイアス磁界を印加するためのバイアス膜と、非磁性導電性薄膜を介して前記バイアス膜に積層された磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極と、前記磁気抵抗効果膜に縦バイアス磁界を印加するために前記磁気抵抗効果膜の両脇に設けられた縦バイアス印加層とを有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記縦バイアス印加層が、反強磁性膜と強磁性膜の積層構造を有し、前記反強磁性膜が少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金であり、前記強磁性膜がCo原子を含む磁性薄膜とすることによって、達成される。
【0014】
この場合にも、前記反強磁性層と磁気的に接している磁性薄膜は、Co原子を含む磁性薄膜の単層膜でも良いが、Co原子を含む磁性薄膜と、結晶構造が面心立方格子である磁性薄膜の多層膜であり、前記Co原子を含む磁性薄膜が前記反強磁性層と直接接している構造でも良い。
【0015】
なお、Co原子を含む磁性薄膜は、Co原子含有量が20at%以上のCo−Ni系合金,Co量が65at%以上のCo−Fe系合金であることが望ましく、特にCo薄膜であることがより望ましい。
【0016】
また、本発明の第3の目的を達成する磁気記録再生装置は、情報を記録する磁気記録媒体と、Co原子を含む磁性薄膜と、前記Co原子を含む磁性薄膜に密着し少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金とを含む磁気抵抗効果型磁気ヘッドからなって前記情報を読み取り又は書き込みする磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上の所定位置に移動させるアクチュエータ手段と、前記磁気ヘッドが読み取り又は書き込みする前記情報の送受信とアクチュエータ手段の移動を制御する制御手段とを含み構成されるものである。
【0017】
上述の構成を採用することにより、以下の作用を生じることができる。
【0018】
スピンバルブ構造のMRヘッドでは、反強磁性層と固定層強磁性膜の間に作用する交換結合を利用して、固定層の磁化の方向を固定することが行われるが、この固定が弱いと、磁気記録媒体からの磁界によって固定層の磁化が回転してしまい、再生出力が低下する。従って、スピンバルブ構造のMRヘッドに用いる反強磁性層には、反強磁性層と固定層磁性膜の交換結合が強いこと、即ち交換結合磁界が大きいこと、さらに耐食性が良好であることが要求される。
【0019】
ここで、反強磁性膜として、FeMn膜の代わりに、少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金膜を用いることにより、交換結合磁界の増大及び耐食性の向上を図ることができる。但し、このMn合金膜においては、固定層磁性膜としてNiFe膜を用いた場合、実用に十分なだけの交換結合磁界を得るためには、250℃で長時間、具体的には6時間以上の熱処理が必要であり、この熱処理により膜構造が変化し、再生出力が著しく低下する。
【0020】
このMn合金膜とCo原子含む磁性薄膜を直接接触させることにより、NiFe膜の場合よりも低温,短時間の熱処理、具体的には240℃以上の温度で、3時間以上の熱処理で、より大きな交換結合磁界を得ることができる。特に、Co原子を含む磁性薄膜がCo50at%以上のNi−Co系合金又はCo72at%以上のFe−Co系合金,Co100at%の場合に大きな結合磁界が得られ、さらにCo薄膜であるときに最大の結合磁界が得られる。また、Mn合金膜と直接接している磁性膜がCo原子を含む磁性薄膜の単層膜である場合に限らず、 Co原子を含む磁性薄膜と、結晶構造が面心立方格子である磁性薄膜の多層膜で、Co原子を含む磁性薄膜が前記反強磁性層と直接接している場合にも、交換結合磁界の増大が観測される。これらのことから、Co原子とMn合金を接触させることにより、交換結合磁界が増大するものと考えられるが、その詳細については明らかではない。
【0021】
このCo系磁性薄膜とMn合金膜の間に生じる大きな交換結合特性は、スピンバルブ構造のMRヘッドの他に、非磁性導電性薄膜を中間層として、第1の反強磁性層によって磁化の方向が固定されている第1の固定層磁性膜と、自由層磁性膜と、第2の反強磁性層によって磁化の方向が固定されている第2の固定層磁性膜とが積層されているMRヘッドにも、利用することができる。この場合、いずれか一方、望ましくは両方の反強磁性層と固定層磁性膜に、Mn合金膜とCo原子を含む磁性薄膜を用いることにより、膜構造を損なうことなく、固定層磁性膜の磁化を強固に固定することができるため、大きな再生出力を得ることができる。
【0022】
また、バルクハウゼンノイズを抑制するために磁気抵抗効果膜あるいは自由層の両脇に設けられる、縦バイアス印加層にも適用することができる。Co原子を含む磁性薄膜とMn合金膜の積層膜からなる縦バイアス印加層においては、交換結合磁界が大きいため、外部磁界が作用しても縦バイアス磁界の変動を小さく抑えることができ、安定性に優れたMRヘッドが得られる。さらに、熱処理工程が240℃以上の温度で、3時間以上でよいため、生産性も向上する。
【0023】
なお、少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金の代表的なものとして、Ni−Mn,Mn−Pt,Mn−Ir,Mn−Ni−Pt,Mn−Pt−Ir系合金を用いることができ、なかでも、Mn原子含有率が47at%から62at%の組成において、良好な交換結合特性が得られる。このNi−Mn系合金に、
Cr,Ti,Zr,Ru,Rh及びPtの群から選択される少なくとも1種類以上の元素を添加することにより、NiFe膜と同等まで耐食性を向上させることができ、その添加量が0から6at%の範囲においては、交換結合特性の低下を小さく抑えることが可能である。
【0024】
以上述べたように、Co原子を含む磁性薄膜とMn合金膜において優れた交換結合特性を示すため、これを利用した磁気抵抗効果型磁気ヘッドを搭載した磁気記録再生装置が、安定性,生産性に優れていることは明らかである。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
Co原子を含む磁性薄膜とMn合金膜の交換結合を利用したMRヘッドの基本的な特性を明らかにするために、種々のスピンバルブ構造の積層膜をRFスパッタリング装置を用いて作製,評価した後、MRヘッドを作製した。
【0026】
図1は本発明の磁性積層膜の構造を示す断面図である。
【0027】
図1に示すようなスピンバルブ構造の積層膜において、種々のCo原子を含む磁性薄膜とMn合金膜の交換結合特性を評価した。積層膜は、ガラス材からなる非磁性基板10上に、Taからなる下地層11,Ni−Fe系合金からなる自由層強磁性膜12,Cuからなる非磁性導電性薄膜13を順次形成し、これらの上に、固定層磁性薄膜14と反強磁性材のMn合金膜15を積層し、さらにTaからなる保護膜16を被覆したものである。各々の膜厚は、下地層11を10nm,自由層強磁性膜12を10nm,非磁性導電性薄膜13を3nm,固定層強磁性膜であるCo原子を含む磁性薄膜14を3nm,Mn合金膜15を30nm,保護膜16を5nmとした。
【0028】
積層膜を成膜する際には、基板の両端に設置された永久磁石により、基板中心部で約60Oeの大きさの直流磁界を印加し、自由層強磁性膜12に好ましくは100の方向に誘導磁気異方性を付与する。また、積層膜の作成が終了した後、Mn合金膜15によってCo原子を含む磁性薄膜14の磁化方向を自由層と垂直の方向に固定するため、101の方向に直流磁界を印加しながら、240℃以上の温度で3時間以上の真空中熱処理を施す。これにより、Mn合金膜15内の一部に面心正方晶が形成されて、Co原子を含む磁性薄膜14との間に交換結合が生じ、Co原子を含む磁性薄膜14の磁化曲線が原点からシフトする。このシフトの大きさを交換結合磁界として測定した。
【0029】
Mn合金膜15として、Ni−Mn系合金(47at%Ni−53at%Mn)を用い、固定層強磁性膜であるCo原子を含む磁性薄膜14として、種々の組成の磁性薄膜を用いた場合の交換結合磁界Hex(Oe)と固定層強磁性膜の保磁力Hc,p(Oe)を表1に示す。比較のため、固定層強磁性膜としてNi−Fe系合金を用いた場合の値も示す。なお、組成は原子パーセント(at%)単位で表わしている。また、熱処理条件は、Co原子を含む磁性薄膜の場合は250℃,3時間であり、Ni−Fe系合金の場合は250℃,6時間である。
【0030】
【表1】
Figure 0003764775
【0031】
Co原子を含む磁性薄膜14としてCo薄膜を用いた場合のHexは、Ni81−Fe19に比べて約150Oe大きい、525Oeであり、また、固定層の保磁力は127Oeと、Hexに比べて十分小さく、良好な交換結合特性を示すことが分かる。
【0032】
Coと、結晶構造が面心立方格子であるNiとの合金であるCo−Ni系合金においては、Ni原子含有量が多くなる程、Hexが小さくなっており、Co原子含有量が50at%よりも少なくなると、Ni81−Fe19よりも小さな値になる。CoにCu,Pt,Pdを添加した合金においても、同様な結果が得られる。
一方、結晶構造が体心立方格子であるFeとの合金であるCo−Fe系合金においては、Co原子含有量が75at%以上で、Ni81−Fe19よりも大きな Hexが得られるが、これよりもCo原子含有量が少なくなると、Hexは減少する。これは、Co原子含有量が75at%よりも少ない範囲では、薄膜内に体心立方格子の結晶が混在してくるためと思われる。
【0033】
特に、表1に示すように、Co20at%以上のNi−Co系合金又はCo 65以上のFe−Co系合金はHc,p が150Oe以下及びHexが300Oe以上の優れた交換結合特性が得られる。更に、Co50at%以上のNi−Co系合金又はCo72at%以上のFe−Co系合金では、380Oe以上の高い
exが得られる。
【0034】
表2は、固定層の厚さを3nm一定にして、固定層強磁性膜をCo薄膜と、結晶構造が面心立方格子であるNi−Fe系合金薄膜の多層膜にした場合の、250℃,3時間の磁界中熱処理後の交換結合磁界HexとMR比(MR ratio)を示したものである。なお、試料の膜構成は、基板側から、下地層11であるTa10nm,自由層強磁性膜12であるNi81Fe1910nm,非磁性導電性薄膜13であるCu3nm,固定層強磁性薄膜14,Mn合金膜15であるNi47Mn5330nm,保護膜16であるTa5nmであり、表中の固定層構成において、左側の層がCuと接しており、右側の層がNiMnと接しているものである。また、NiFeの組成は、Ni81Fe19(at%)である。
【0035】
【表2】
Figure 0003764775
【0036】
NiMn側にCo薄膜があるCo(3),NiFe(1)/Co(2),NiFe (2)/Co(1),Co(1)/NiFe(1)/Co(1)は,Hexが,NiMn側にNiFe薄膜があるものに比べ大きく、500Oe以上の値を示している。一方、MR比に関しては、Cu側にCo薄膜がある方が大きな値を示している。以上の結果から、大きなHexと大きなMR比を得るためには、Co単層膜を用いるか、あるいはNiMn側とCu側の両側がCo薄膜からなる多層膜を用いれば良いことが分かる。
【0037】
Mn合金膜15であるNi−Mn系合金の組成について、検討した結果について述べる。試料は、基板側から下地層11であるTa10nm,自由層強磁性膜12であるNi81Fe1910nm,非磁性導電性薄膜13であるCu3nm,固定層強磁性薄膜14であるCo薄膜3nm,Ni−Mn系合金30nm,保護膜16であるTa5nmの膜構成であり、成膜後に250℃,3時間の磁界中熱処理を施した。
【0038】
図2は、Ni−Mn二元系合金における、HexのMn原子含有量依存性を示す図である。Mn含有量が40以下では交換結合は認められないが、Mn含有量を増やすと、45Mnで交換結合が生じ、約53MnでHexは最大を示す。これよりMn含有量を増やすと、Hexは減少する。実用的には、Hexは、少なくとも
100Oeは必要であると考えられるので、Mn含有量は47から62の範囲内にあることが望ましい。
【0039】
Ni−Mn系合金の耐食性の向上を目的に、添加元素の検討を行ったところ、Cr,Ti,Zr,Ru,Rh,Ptを添加した場合に耐食性が改善された。交換結合特性についても評価したが、元素によってあまり差違が見られなかったので、Crを添加したときの特性について述べる。
【0040】
図3は、Ni47Mn53膜にCrを添加したときの、HexのCr原子含有量依存性である。Crを添加することによって、Hexは次第に減少し、Cr含有量が約6at%で100Oeになる。従って、添加元素の添加量は、最大でも6at%までである。
【0041】
次に、本発明を用いたスピンバルブ構造のMRヘッドの実施の形態について説明する。
【0042】
(実施例2)
図4は、本発明の一実施形態の断面構造を示す図である。セラミックスからなる非磁性基板10の上に、絶縁膜20としてアルミナ膜を約10μm形成し、表面に精密研磨を施す。下部シールド層31としてスパッタリング法によりCo−Zr−Nb系合金非晶質薄膜を約2μm形成し、イオンミリングを用いて所定の形状に加工する。
【0043】
下部ギャップ層41としてアルミナ膜を0.3μm 成膜した後、スピンバルブ構造の磁気抵抗効果膜を作成する。即ち、下地層11としてTa薄膜を、自由層強磁性膜12としてNi−Fe系合金薄膜を、非磁性導電性薄膜13としてCu薄膜を、固定層強磁性膜であるCo原子を含む磁性薄膜14としてCo薄膜を、反強磁性層であるMn合金膜15としてNi−Mn系合金薄膜を、保護膜16としてTa薄膜を、順次成膜した。
【0044】
この磁気抵抗効果膜を所定の形状に加工した後、その両端に、バルクハウゼンノイズを抑制するための縦バイアス印加層17を形成する。縦バイアス印加層 17としては、硬磁性薄膜であるCo−Pt−Cr系硬磁性合金薄膜,Co−Re系硬磁性合金薄膜,Co−Cr系硬磁性合金薄膜,Co−Ta−Cr系硬磁性合金薄膜,Co−Ni−Pt系硬磁性合金薄膜を用いることができる。また、これらの硬磁性合金薄膜に酸化シリコン,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,酸化タンタルを少なくとも1種類以上添加した薄膜や、下地膜を設けた硬磁性薄膜も用いることができる。
【0045】
次に、磁気抵抗効果膜の電気抵抗の変化を読み出すため、Au薄膜からなる電極18を形成する。さらに、厚さ0.3μm のアルミナからなる上部ギャップ層42と、厚さ約2μmのNi−Fe系合金からなる上部シールド層32を順次形成する。さらにその上部に絶縁膜50を形成後、記録用の誘導型磁気ヘッドを作製するが詳細は省略する。
【0046】
素子形成完了後、Co原子を含む磁性薄膜14であるCo薄膜と、Mn合金膜15であるNi−Mn系合金薄膜の間に交換結合を生じさせるために、真空中で3kOeの直流磁界を磁気抵抗効果膜の素子高さ方向(図4において紙面と垂直の方向)に印加しながら、250℃,3時間の熱処理を行う。さらに、室温において、磁気抵抗効果膜の長さ方向(図4において紙面と平行で、磁気抵抗効果積層膜面と平行な方向)に、5kOeの直流磁界を印加して縦バイアス印加層17を着磁する。この後、基板を切断し、スライダに加工して磁気抵抗効果型磁気ヘッドの作製を完了する。
【0047】
なお、本実施の形態では、Co原子を含む磁性薄膜14としてCo薄膜を、 Mn合金膜15としてNi−Mn系合金薄膜を用いているが、これらは各々の代表的なものである。前述したように、Co原子を含む磁性薄膜14としては、 Co−Ni系合金薄膜,Co−Fe系合金薄膜,Co−Pt系合金薄膜,Co−Pd系合金薄膜、或いはこれらの薄膜と結晶構造が面心立方格子である磁性薄膜との多層膜なども用いることができる。また、Mn合金膜15としては、Ni−Mn系合金薄膜の他、Pd−Mn系合金薄膜,Rh−Mn系合金薄膜,Pt− Mn系合金薄膜,Ir−Mn系合金薄膜や、これらにCr,Ti,Zr,Ru,Rh及びPtの群から選択される少なくとも1種類以上の元素を添加した合金薄膜も用いることができる。
【0048】
図4において、電極18の端部と磁気抵抗効果膜の端部が同じ位置にあるが、電極18の端部が磁気抵抗効果膜の端部よりも内側に位置させた構造とすることもできる。また、基板側から順に下地層11,自由層強磁性膜12,非磁性導電性薄膜13,Co原子を含む磁性薄膜14,Mn合金膜15を配置した磁気抵抗効果型磁気ヘッドを示したが、必ずしもこの順に配置しなくてもよい。
【0049】
(実施例3)
図6は、本発明の他のMRヘッドの実施形態の断面構造を示す図である。磁気抵抗効果積層膜が、図5のように、基板側から、下地層11,Mn合金膜15,Co原子を含む磁性薄膜14,非磁性導電性薄膜13,自由層強磁性膜12,第2の非磁性導電性薄膜23,第2の固定層強磁性膜24,第2の反強磁性層25,保護膜16から構成されている。この構造では、自由層が1層に対し固定層が2層あるため、固定層が1層の構造に比べ、約2倍の磁気抵抗変化率が得られる。
【0050】
MRヘッドの作製方法としては、磁気抵抗効果積層膜を図5に示したものとする以外は同様であるため、詳細は省略する。
【0051】
なお、Co原子を含む磁性薄膜14と第2の固定層強磁性膜24、及びMn合金膜15と第2の反強磁性層25を区別して記述してあるが、第2の固定層強磁性膜24としてCo原子を含む磁性薄膜を、第2の反強磁性層25としてMn合金膜を用いてもよい。この場合、必ずしも同一の薄膜材料を用いる必要はなく、組成の異なる材料を使用してもよい。
【0052】
非磁性導電性薄膜13と第2の非磁性導電性薄膜23についても、同一の材料を用いてもよい。
【0053】
さらに、図5及び図6において、基板側から、下地層11,Mn合金膜15,Co原子を含む磁性薄膜14,非磁性導電性薄膜13,自由層強磁性膜12,第2の非磁性導電性薄膜23,第2の固定層強磁性膜24,第2の反強磁性層25を配置した構造となっているが、必ずしもこの順に配置しなくてもよい。
【0054】
次に、本発明を縦バイアス印加層に用いたMRヘッドの実施の形態について説明する。
【0055】
(実施例4)
図7は、本発明を縦バイアス印加層に適用したMRヘッドの一実施形態の断面構造を示す図である。下部ギャップ層41までは、図4のスピンバルブ構造の MRヘッドと同様に作製した後、横バイアス磁界を印加するために設けられたバイアス膜61,非磁性導電性薄膜62,磁気抵抗効果膜63及び保護膜16を順次成膜し、所定の形状に加工する。ここで、バイアス膜61としてはNi−Fe−Cr系合金薄膜を、非磁性導電性薄膜62としてはTa薄膜を、磁気抵抗効果膜63としてはNi−Fe系合金薄膜を、保護膜16としてはTa薄膜を用いた。バイアス膜61/非磁性導電性薄膜62/磁気抵抗効果膜63/保護膜16からなる積層膜の両端に、バルクハウゼンノイズを抑制するために、Co原子を含む磁性薄膜14であるCo薄膜とMn合金膜15であるNi−Mn系合金薄膜の積層膜からなる縦バイアス印加層を設ける。この後の電極18,上部ギャップ層42,上部シールド層32,絶縁膜50、さらに記録用の誘導型磁気ヘッドの作成工程は、スピンバルブ構造のMRヘッドと同様である。
【0056】
素子形成完了後、3kOeの直流磁界を素子長さ方向(図7において紙面に平行で、磁気抵抗効果膜面に平行な方向)に印加しながら、250℃,3時間の熱処理を行い、Co原子を含む磁性薄膜14であるCo薄膜と、Mn合金反強磁性層15であるNi−Mn系合金薄膜の間に交換結合を生じさせ、Co薄膜の磁化の方向を固定する。この後、基板を切断し、スライダに加工して磁気抵抗効果型磁気ヘッドの作製を完了する。
【0057】
ここで、Co原子を含む磁性薄膜14として用いたCo薄膜、及びMn合金膜15として用いたNi−Mn系合金薄膜は、各々の代表的なものであり、これらに限定されるものではない。さらに、Co原子を含む磁性薄膜14については、Co薄膜の膜厚が厚くなると、面心立方格子に六方最密格子が混ざった結晶構造となり、Mn合金膜15との交換結合特性が低下することが考えられる。そこで、Co原子を含む磁性薄膜14を、結晶構造が面心立方格子である磁性薄膜、例えばNi−Fe系合金薄膜とCo原子を含む磁性薄膜との2層或いはそれ以上の多層膜とすることにより、面心立方格子が安定になり、その上にMn合金膜15を形成すると、優れた交換結合特性が得られ、バルクハウゼンノイズの抑制効果が向上する。
【0058】
また、バイアス膜61/非磁性導電性薄膜62/磁気抵抗効果膜63/保護膜16からなる積層膜を、図1または図5に示した磁気抵抗効果積層膜としても良い。その場合、磁気抵抗効果積層膜と縦バイアス印加層とでブロッキング温度が異なる必要がある。そのため、縦バイアス印加層にCo原子を含む磁性薄膜14とMn合金膜15を用いる場合には、磁気抵抗効果積層膜の固定層強磁性膜と反強磁性層に別の材料を用いてもよい。
【0059】
(実施例5)
図8は、実施例1〜4で得られた本発明のMRヘッドを適用した磁気ディスク装置の一実施形態の概略構造を示す図である。ここでは、磁気記録再生装置としての磁気ディスク装置に本発明のMRヘッドを適用した実施形態を示すが、本発明のMRヘッドは、例えば、磁気テープ装置等のような磁気記録再生装置にも適用可能なことは明らかである。
【0060】
この磁気ディスク装置の概略構造を説明する。図8に示すように、磁気ディスク装置は、スピンドル202と、スピンドル202を軸として、等間隔に積層された複数の磁気ディスク204a,204b,204c,204d,204eと、スピンドル202を駆動するモータ203とを備えている。さらに、移動可能なキャリッジ206と、キャリッジ206に保持された磁気ヘッド群205a,205b,205c,205d,205eと、このキャリッジ206を駆動するボイスコイルモータ213を構成するマグネット208及びボイスコイル207と、これを支持するベース201とを備えて構成させる。また、磁気ディスク制御装置等の上位装置212から送出される信号に従って、ボイスコイルモータ 213を制御するボイスコイルモータ制御回路209を備えている。また、上位装置212から送られてきたデータを、磁気ディスク204a等の書き込み方式に対応し、磁気ヘッドに流すべき電流に変換する機能と、磁気ディスク204a等から送られてきたデータを増幅し、ディジタル信号に変換する機能とを持つライト/リード回路210を備え、このライト/リード回路210は、インターフェイス211を介して、上位装置212と接続されている。
【0061】
次に、この磁気ディスク装置において、磁気ディスク204dのデータを読み出す場合の動作を説明する。上位装置212から、インターフェイス211を介して、ボイスコイルモータ制御回路209に、読み出すべきデータの指示を与える。ボイスコイルモータ制御回路209からの制御電流によって、ボイスコイルモータ213がキャリッジ206を駆動させ、磁気ディスク204d上の指示されたデータが記憶されているトラックの位置に、磁気ヘッド205a,205b,205c,205d,205eを高速で移動させ、正確に位置付けする。この位置付けは、磁気ディスク204d上にデータとともに書き込まれているサーボ情報を磁気ヘッド205dが読み取り、位置に関する信号をボイスコイルモータ制御回路209に提供することにより行われる。また、ベース201に支持されたモータ203は、スピンドル202に取り付けた複数の磁気ディスク204a,204b,204c,204d,204eを回転させる。次に、ライト/リード回路210からの信号に従って、指示された所定の磁気ヘッド204dを選択し、指示された領域の先頭位置を検出後、磁気ディスク205dのデータ信号を読み出す。この読み出しは、ライト/リード回路210に接続されている磁気ヘッド205dが、磁気ディスク204dとの間で信号の授受を行うことにより行われる。読み出されたデータは、所定の信号に変換され、上位装置212に送出される。
【0062】
ここでは、磁気ディスク204dのデータを読み出す場合の動作を説明したが、他の磁気ディスクの場合も同様である。また、図8においては、5枚の磁気ディスクからなる磁気ディスク装置を示してあるが、必ずしも5枚である必要はない。
【0063】
【発明の効果】
上述の通り本発明によれば、スピンバルブ構造のMRヘッドにおいて、反強磁性層として少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金を用い、固定層磁性膜としてCo原子を含む磁性薄膜を用いることにより、大きな交換結合磁界を得ることができる。これにより、固定層強磁性膜が強固に固定されるため、再生出力が向上する。また、これらをバルクハウゼンノイズを抑制するために設けられた縦バイアス印加層に適用することにより、縦バイアス磁界がより安定になるため、MRヘッドの安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の磁性積層膜の構成を示す図である。
【図2】Ni−Mn系合金薄膜のMn原子含有量と交換結合磁界の関係を示す図である。
【図3】Ni−Mn−Cr系合金薄膜のCr原子含有量と交換結合磁界の関係を示す図である。
【図4】本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドの一実施形態の断面構造を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態の磁性積層膜の構成を示す図である。
【図6】本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドの他の実施形態の断面構造を示す図である。
【図7】本発明を縦バイアス印加層に適用した磁気抵抗効果型磁気ヘッドの一実施形態の断面構造を示す図である。
【図8】本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを用いた磁気ディスク装置の一実施形態の概略構造を示す図である。
【符号の説明】
10…非磁性基板、11…下地層、12…自由層強磁性膜、13,62…非磁性導電性薄膜、14…固定層強磁性薄膜、15…Mn合金膜(反強磁性層)、 16…保護膜、17…縦バイアス印加層、18…電極、20,50…絶縁膜、 23…第2の非磁性導電性薄膜、24…第2の固定層強磁性膜、25…第2の反強磁性層、31…下部シールド層、32…上部シールド層、41…下部ギャップ層、42…上部ギャップ層、61…バイアス膜、63…磁気抵抗効果膜、100…自由層強磁性膜の磁気異方性の方向、101…Co原子を含む磁性薄膜の磁化の方向、102…第2の固定層強磁性膜の磁化の方向、201…ベース、202…スピンドル、203…モータ、204a,204b,204c,204d, 204e…磁気ディスク、205a,205b,205c,205d,205e…磁気ヘッド、206…キャリッジ、207…ボイスコイル、208…マグネット、209…ボイスコイルモータ制御回路、210…ライト/リード回路、211…インターフェイス、212…上位装置、213…ボイスコイルモータ。

Claims (3)

  1. 第1の磁性薄膜と、第2の磁性薄膜と、前記第1の磁性薄膜と第2の磁性薄膜の間に設けられた非磁性導電性薄膜からなる中間層とを有し、前記第1の磁性薄膜と隣接して設けられた反強磁性層とを有する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有し、
    前記反強磁性層は、240℃以上の熱処理により、少なくとも一部に面心正方晶を有するMn合金であり、且つ、前記Mn合金のMn量が47〜62at%の範囲であり、
    前記第1の磁性薄膜は、Co原子含有量が75at%以上であるCoFe磁性薄膜であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッドの製造方法。
  2. 請求項に記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記Mn合金はCr,Ti,Zr,Ru,Rh及びPtの群から選択される少なくとも1種を0〜6at%含むことを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッドの製造方法。
  3. 請求項1に記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記Mn合金がNi,Pd,Rh,Pt及びIrの1種以上とMnとの合金のいずれかであることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッドの製造方法。
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