JP3763674B2 - 細菌の計測方法および計測装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、細菌の計測方法および計測装置に関する。
より具体的には、検出対象となる細菌が大腸菌であれば、糞便性汚染の指標として、浄水の汚染検査、下水放流水の汚染検査、河川や湖沼の汚染検査、食品の衛生管理への利用が考えられる。病原性大腸菌O−157、サルモネラ菌などを検出対象とすれば、食品、医薬品などの分野で衛生管理に、また、硝化菌や脱りん菌などを検出対象とした下水処理装置のプロセス監視制御、酵母を検出対象としたビール製造過程のプロセス監視制御や、酒造プロセスの監視制御などへの利用も期待される。
【0002】
【従来の技術】
特定の細菌、しかも生菌のみを計測する方法としては、古くからコロニー計数法が用いられてきた。しかし、コロニー計数法では長時間(大腸菌の場合24時間以上)の培養と専用設備を必要とし、人手と時間を多大に消費する上、リアルタイムで現場にフィードバック可能なデータが得られていなかった。
【0003】
この問題を解決する技術として、細菌の検出方法及び検出装置(特願平9−240919号)が考案された。この方法および装置は、核酸を色素または蛍光物質で標識したバクテリオファージを宿主細菌に接触させ、バクテリオファージの感染によって色素標識核酸または蛍光標識核酸を細菌に注入させ、標識された細菌を光学的手段で検出するものである。バクテリオファージは結合部位の認識によって特定の宿主細菌だけに結合し、さらに、細菌の膜電位から生理活性を持った細菌のみに核酸を注入する。従来技術は、この特徴を利用して生菌のみを特異的に標識、検出できるという画期的なものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
産業応用を考慮した場合、細菌計測の自動化、高頻度化、連続化はニーズの高い課題である。特に、高頻度化ひいては連続化は、細菌汚染の危機管理上、非常に重要度が高い。
従来技術では、これを実現する方法として流動細胞計測法がある。しかし、この方法を上述の従来法(特願平9−240919号)では、細菌と共存するバクテリオファージの蛍光が、バックグランドノイズとして計測を妨害する。その影響を低減するために蛍光観察視野領域を非常に狭く限定し、共存するバクテリオファージの数を制限しなくてはならない。すなわち、蛍光検出部における試料液流を細くする必要がある。一方、試料液流速は蛍光信号を光電変換素子によって電気信号に変換した後の信号処理速度の制約から、あるレベル以上には上げることができない。これらの結果として、従来技術では毎分の測定量が数10から100μL程度に制限されていた。
【0005】
現在用いられている細菌汚染や微生物汚染の評価基準を見ると、浄水中の大腸菌群数が50mL全量評価、下水放流水中の大腸菌群数が1mL全量評価、クリプトスポリジウムは浄水では20L全量評価、環境水では10L全量評価、食品の細菌汚染検査で一般的な拭き取り検査法が1mL全量評価などとなっている。従来技術の最高条件である毎分100μL で測定を行ったとしても、1mLの測定に10分、10Lの測定には千数百時間を要する。現状の基準に従って全量評価結果を要求すると、数十mL〜10Lレベルの検査対象に関しては高頻度化、連続化が事実上不可能である。
【0006】
本発明が解決すべき課題は、細菌に未感染のバクテリオファージが発する蛍光を低減することで、細菌の蛍光検出に対するシグナルノイズ比を向上させ、その結果として、単位時間あたりにより多量のサンプルを測定する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、まずバクテリオファージの核酸を蛍光物質で標識し、それを宿主細菌に接触、感染させることで細菌を蛍光標識する。続いて、蛍光物質に吸収される波長の光を標識後の細菌を含む試料液に所定時間照射し、バクテリオファージに含有される蛍光物質を不可逆的に変性させることとする。この方法によって、バクテリオファージからの蛍光を減少させた上で、光学的手法によって細菌が発する蛍光を検出し、これを基に目的の細菌を計数することにより、シグナルノイズ比を向上させることができる。
【0008】
蛍光検出のための光学的手法の一例としては、フローセルに導いた試料液に標識蛍光物質を励起できる光を照射し、それによって細菌が発する蛍光を光電変換手段を用いて電気信号に変換し、細菌に対応して現れる電気信号のパルスを計数することで細菌を検出、計数する方法もある。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例としての装置構成図を図1に示す。この実施例の装置では、蛍光標識物質として3,6―ビス―ジメチルアミノアクリジン(アクリジン・ オレンジ)を用い、これによってT4ファージの核酸を蛍光標識し、大腸菌を検出するよう構成されている。また、蛍光標識物質としては、上述のアクリジン・ オレンジの他に、9−アミノアクリジン、アクリフラビン、4,6―ジアミジノ―2―フェニルインドール(DAPI)などが使用可能である。
【0010】
図1を引用しながら、本発明の内容を説明する。但し、図1の中の三方電磁弁に記されたCOM、NO、NCの記号は、それぞれ常時開、非動作時開、非動作時閉を意味するものとする。
まず、測定前の大腸菌蛍光標識方法を説明する。
原試料液は、検査対象1からポンプ2を用いて採取し、懸濁物除去のために中空糸フィルタ3を通過させた後、ミキシングポット4に送る。検査対象としては浄水、下水放流水、河川水、湖沼水、井戸水、飲料食品、食品製造ライン上の検査ポイント、液状医薬品、酒造など微生物作用を利用するプロセスなど様々なケースが考えられる。
【0011】
ミキシングポット4では、原試料液とポンプ5によって送液するアクリジン・ オレンジで核酸を蛍光標識したT4ファージ液6を混合させる。混合後の試料液は三方電磁弁7を通過して、温度センサ8、ヒータ9、温度調節器10の動作によって37°Cに温度調節した反応器11に流入させる。ここで試料液を反応器11に充填するが、反応器11の容量を超えた試料液は、三方電磁弁12を通過して排液13となり排出される。反応器11内を測定を行う試料液で完全に置換した後に、ポンプ2およびポンプ5を停止し、5分間試料液を反応器11中に滞在させる。この間にファージは宿主である大腸菌に特異的に結合し、菌の膜電位によってその生死を識別した上で、生きた菌にのみ核酸を注入する。この一連の作用の結果、検出すべき生きた大腸菌のみを特異的に蛍光標識できる。
【0012】
次に、バックグランドとなるT4ファージの変性、減光について説明する。反応器においてT4ファージに感染し、アクリジン・ オレンジで蛍光標識された大腸菌を含む試料液を、三方電磁弁12の切換えとシリンジポンプ14の吸引で、三方電磁弁15を介して光照射用セル16に導く。ここではタングステンランプ17によって試料液に光照射を行う。照射時間はシャッター18の開閉によって制御する。図1に示した実施例では、照射時間は1分から5分程度である。 蛍光物質であるアクリジン・ オレンジは、照射された光の一部を吸収して励起状態となり、その後、蛍光放射や熱輻射によってエネルギーを放出する。この過程で蛍光物質はある確率に従い不可逆的に変性し、蛍光発光量が減少する。破壊の確率は、蛍光物質の種類、存在環境、照射光の波長や強度などに依存する。本発明の系では、検出すべき細菌中の蛍光物質と、バックグランドノイズとなるバクテリオファージ中の蛍光物質とで、存在量、密度、存在環境が異なる。実施例において検出すべき大腸菌中の蛍光物質とバックグランドとなるT4ファージ中の蛍光物質とを比較すると、大腸菌中の方が量は多く、密度は低い。大腸菌、T4ファージいずれにおいても蛍光物質が核酸に結合している点は共通であるが、それぞれの存在環境は、大腸菌中では核酸は構造的自由度を持ちながら細胞質中に浮遊しているのに対し、T4ファージ中では核酸は構造的にはほとんど自由度の無い高密度状態で蛋白質の膜に覆われているだけである。これらの条件から光照射の作用結果には次のような差が生じると考えられる。
(1)他の条件が共通で破壊の速度が同じであれば、蛍光物質の存在量が多い大腸菌はT4ファージよりも長時間蛍光を発し続ける。
(2)高密度で構造的自由度の低いT4ファージでは、破壊された蛍光物質が遮蔽体となって位置的により内部に存在する蛍光物質に光が到達しなくなるため、同量の蛍光物質を有するものと比較した時、蛍光を発しなくなるまでの時間がより短い。
【0013】
これらの作用の結果として、適当な時間の光照射で、検出すべき大腸菌の蛍光は残しながら、バックグランドノイズとなるT4ファージの蛍光をゼロに近づけることができる。すなわち、相対的なシグナルノイズ比を向上させられる。
実際に蛍光標識した大腸菌とT4ファージが共存する系で光照射実験を行い、シグナルノイズ比の向上を検討した。実験としては、DAPIで蛍光標識した大腸菌とT4ファージが共存する試料液を顕微鏡を使って画像として捉え、画像解析装置を用いて大腸菌、T4ファージそれぞれの蛍光強度を輝度解析によって算出し、その時間変化を追跡した。この実験では、図1に示した実施例とは、蛍光物質とそれに伴う照射光の波長、強度などの条件が違うために光照射時間が異なるが、原理的には同一の実験であり、効果も同様である。実験で得られたデータを図2および図3のグラフに示す。
【0014】
図2では、横軸に光照射開始からの経過時間を、左側縦軸に大腸菌の蛍光強度を、右側縦軸にT4ファージの蛍光強度を表示している。時間経過とともに大腸菌、T4ファージとも蛍光強度が減少しているが、T4ファージの方が大腸菌よりも減少の速度が大きく、3秒経過時点でゼロ付近まで達している。
図3では、横軸に光照射開始からの経過時間を、縦軸に図2に示した大腸菌の蛍光強度をT4ファージの蛍光強度で除した結果を表示している。光照射によって時間の経過とともにシグナルノイズ比が向上し、大腸菌検出に有利な方向に作用していることが分かる。具体的には光照射なしの場合に30程度であったシグナルノイズ比が3秒照射後には3000を超えており、約100倍の向上が実現されている。
【0015】
シグナルノイズ比の向上は、後述する蛍光検出の際の視野拡大、すなわち試料液流の太さ拡大を可能とするため、単位時間あたりの測定量を増加させ、従来技術の実用化を大いに促進するものである。
続いて、大腸菌の蛍光検出方法を説明する。
本実施例では蛍光検出時の試料液流を細く絞る技術として、シースフローと呼ばれる二重フロー技術を用いている。シースフローを用いれば、試料液の周囲にシース(鞘)液を流し、層流を維持しながら細い流路に導くことで中心を流れる試料液流を絞り込むことができる。シース液としては、図1において、水道水19を減圧弁20で減圧した後、活性炭フィルタ21、中空糸フィルタ22を通して清浄化した水を用いている。シース液は、二方電磁弁23を開放し、三方電磁弁24を介してシリンジポンプ25で吸引し、三方電磁弁24を切換えてシースフローセル26へ吐出する。光照射後の試料液も、三方電磁弁15を切換えて、シリンジポンプ14によってシース液と同期して吐出する。シリンジポンプ14には100μLのシリンジを、シリンジポンプ25には5mLのシリンジを用い、吐出時間を50秒に設定すると、シースフローセル中の試料液流は、直径が約50μm、流速は毎秒約1mとなる。この試料液に、アルゴンレーザ27が発する波長488nmのレーザ光を、レンズ28で試料液の流れ方向に対して10μmまで集光、照射する。試料液中の大腸菌およびT4ファージはアクリジン・ オレンジで蛍光標識されているため、アルゴンレーザの光を吸収し、535nm付近を中心波長とする蛍光を発する。この蛍光を対物レンズ29で集光し、光学フィルタ30を介して光電子増倍管31で受光する。光学フィルタとしては、レーザ光の散乱光および溶媒である水のラマン散乱光をカットした上で蛍光波長をより効率的に透過させることが理想であり、中心波長535nm、半値幅60nm程度の干渉フィルタを使用する。測定後の試料液およびシース液は廃液32となり排出される。
【0016】
最後に、検出された蛍光から大腸菌の計数を行う方法を説明する。
上記実施例では、試料液流速が毎秒1m、流れ方向に対する励起光照射領域が10μmであるから、大腸菌がレーザ光照射領域を通過する時間はおよそ10μ秒となる。通常蛍光の寿命は1〜10n秒であって、大腸菌のレーザ光照射領域通過時間と比較して無視できるほど短いため、大腸菌はレーザ光照射領域でのみ蛍光を発すると近似できる。現象としては、流れていく試料液中から大腸菌に対応した蛍光が、時間的にパルス状に発せられることになる。この蛍光は光電子増倍管31において電気信号に変換し、信号処理装置33に送る。信号処理装置においては、信号強度に適当な閾値を設定することで大腸菌の信号とT4ファージによるバックグランドノイズとを識別し、大腸菌の蛍光に対応するパルス信号を計数して大腸菌数を求める。原試料液中の大腸菌濃度は、上の信号処理で得られた大腸菌数を、測定した試料液量で除し、さらに試料液に含まれる原試料液の比率で除することで算出できる。
【0017】
【発明の効果】
蛍光標識したバクテリオファージを利用して、短時間かつ特異的に生きた細菌を検出する従来技術では、細菌に感染しなかったバクテリオファージの蛍光がバックグランドノイズとなり細菌の蛍光信号検出を妨害していた。これに対して本発明の方法によれば、蛍光信号検出前に所定時間の光照射を行い、バクテリオファージに含まれる蛍光物質を不可逆的に変性させることで、シグナルノイズ比を従来の10〜100倍に向上させることができる。この効果によって、単位時間での測定量を従来に比べて10〜100倍に増加できるため、上下水や食品など各分野での実用化が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例としての装置構成図
【図2】大腸菌とT4ファージの蛍光強度経時変化を示す図
【図3】シグナルノイズ比(大腸菌蛍光/T4ファージ蛍光)の経時変化を示す図
【符号の説明】
1 : 検査対象
2 : ポンプ
3 : 中空糸フィルタ
4 : ミキシングポット
5 : ポンプ
6 : T4ファージ液
7 : 三方電磁弁
8 : 温度センサ
9 : ヒータ
10 : 温度調節器
11 : 反応器
12 : 三方電磁弁
13 : 排液
14 : シリンジポンプ
15 : 三方電磁弁
16 : 光照射用セル
17 : タングステンランプ
18 : シャッタ
19 : 水道水
20 : 減圧弁
21 : 活性炭フィルタ
22 : 中空糸フィルタ
23 : 二方電磁弁
24 : 三方電磁弁
25 : シリンジポンプ
26 : シースフローセル
27 : アルゴンレーザ
28 : レンズ
29 : 対物レンズ
30 : 光学フィルタ
31 : 光電子倍増管
32 : 廃液
33 : 信号処理装置
Claims (6)
- あらかじめ核酸を蛍光標識したバクテリオファージを宿主細菌に接触させ、バクテリオファージを感染させることで細菌を蛍光標識し、光学的手段によって細菌が発する蛍光を検出する細菌計測方法において、
バクテリオファージ感染後の細菌を含む液に対して、蛍光標識物質を変性させる光照射を付加し、検出すべき細菌の蛍光は残しながら前記バクテリオファージからの蛍光を減少させた上で、光学的手段により細菌が発する蛍光を検出することを特徴とする細菌計測方法。 - あらかじめ核酸を蛍光標識したバクテリオファージを宿主細菌を含む試料液に混合させる手段と、蛍光標識された細菌が発する蛍光を検出するための光学的手段とを有する細菌計測装置において、
バクテリオファージ感染後の細菌を含む液に対して、蛍光標識物質を変性させるための光照射部を有し、
検出すべき細菌の蛍光は残しながら前記バクテリオファージからの蛍光を減少させた上で、細菌が発する蛍光を検出する光学的手段からなることを特徴とする細菌計測装置。 - 請求項2記載の細菌計測装置において、光照射部を、試料送液装置と、照射光透過部を有する照射用セルと、蛍光標識物質を変性させる光を発する照射用光源と、照射光量の調整機構とから構成することを特徴とする細菌計測装置。
- 請求項3記載の細菌計測装置において、照射光量の調整機構が、試料送液装置のオン/オフ制御あるいは流量制御によって、照査用セルでの試料液の滞在時間を調整し、それによって光の照射時間を調整する機構であることを特徴とする細菌計測装置。
- 請求項3記載の細菌計測装置において、照射光量の調整機構が、照射用光源と照射用セルとの間にシャッターを設け、これの開閉によって光の照射時間を調整する機構であることを特徴とする細菌計測装置。
- 請求項4ないし5記載の細菌計測装置において、照射光量の調整機構が、照射用セル付近に照射光量測定装置を設け、照射光量の測定結果に基づいて、試料送液装置のオン/オフ制御、流量制御、あるいはシャッターの開閉制御のいずれかの機構ないしは複数の機構を用いることを特徴とする細菌計測装置。
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