JP3762665B2 - X線分析装置およびx線供給装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、試料の入射側のモノクロメータとして2個の楕円モノクロメータを組み合わせた複合モノクロメータを利用しているX線分析装置およびX線供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平11−326599号公報に開示されているX線分析装置は、試料の入射側のモノクロメータとして、2個の楕円モノクロメータを組み合わせた複合モノクロメータを利用している。この複合モノクロメータは、2個の楕円モノクロメータの側縁同士を互いに接合したものである。各楕円モノクロメータの反射面は人工多層膜で作られていて、その周期(結晶の格子面間隔に相当)が楕円弧に沿って連続的に変化している。また、X線源としては実効的な焦点サイズが30μm以下のマイクロフォーカスX線源を用いている。
【0003】
上述した従来のX線分析装置は、焦点サイズが30μm以下のマイクロフォーカスX線源を使うことで、X線源とモノクロメータをかなり近づけても(好ましくは30mm以下に近付けても)、X線源の焦点サイズに起因する入射角の広がりが、楕円モノクロメータによる回折ピークの半値幅の範囲内に収まるようになり、楕円モノクロメータに到達したX線を無駄なく活用できるようになった。また、X線源とモノクロメータをかなり近づけることができるので、楕円モノクロメータに入射するX線の捕捉角を大きくできて、試料に集束するX線強度を飛躍的に高めることができた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来のX線分析装置は、X線源とモノクロメータとの距離を好ましくは30mm以下に近づけているので、X線源としては固定式のターゲットを用いている。マイクロフォーカスで、かつ、固定式のターゲットの場合、X線管に投入できるパワーには限界があり、投入パワーを大きくすることで試料に集束するX線強度をさらに高めることは困難であった。
【0005】
この発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、回転対陰極X線管と上述の複合モノクロメータとを組み合わせて、その場合の最適条件を見出すことで、試料に集束するX線強度をさらに高めることができるようにしたX線分析装置およびX線供給装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明は、X線源から出射するX線ビームをモノクロメータで反射してから試料に照射するX線分析装置において、次の(ア)〜(エ)の特徴を備えるものである。(ア)前記X線源は回転対陰極X線管であり、そのターゲット上の実効的な焦点サイズは40〜100μmである。(イ)前記モノクロメータは、第1の楕円モノクロメータと第2の楕円モノクロメータの側縁同士を互いに接合した複合モノクロメータであり、各楕円モノクロメータの一方の焦点の位置に前記ターゲット上のX線焦点が配置されている。(ウ)前記第1の楕円モノクロメータと前記第2の楕円モノクロメータは人工多層膜で形成されていて、この人工多層膜は、回折に寄与する多層膜界面が反射面に平行になっていて、かつ、特定の波長のX線に対して反射面の任意の位置でブラッグの回折条件を満足するように楕円弧に沿って前記人工多層膜の周期が連続的に変化している。(エ)前記ターゲット上のX線焦点から前記複合モノクロメータまでの最短距離は60〜100mmである。
【0007】
また、この発明は、試料にX線を照射するX線分析装置だけでなく、それ以外の用途のX線供給装置としても使うことができる。すなわち、請求項2の発明はこのようなX線供給装置の発明であり、X線源から出射するX線ビームをモノクロメータで反射してからX線ビームを出射するX線供給装置において、上述の(ア)〜(エ)の特徴を備えるものである。このX線供給装置は、例えば、(1)X線分析を目的とするX線分析装置のためのX線供給装置として、(2)X線照射による加工・治療等を目的とするX線照射装置のためのX線供給装置として、(3)X線描画を目的とするX線描画装置のためのX線供給装置として、使うことができる。このX線供給装置は、複合モノクロメータの第1焦点に置かれているX線源から出射するX線ビームを複合モノクロメータで集光し、反射してから、このX線ビームを複合モノクロメータの第2焦点に向けて大きな出力で再出射することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明のX線分析装置の一実施形態を概略的に示した平面図であり、図2は、その回転対陰極と複合モノクロメータとの位置関係を示した斜視図である。図1において、回転対陰極X線管10は、回転するターゲット12を備えている。電子銃14から出射された電子ビーム16がターゲット12の外周面に当たると、その照射領域(X線の焦点)からX線ビーム18が発生する。このX線ビーム18をベリリウム窓20から取り出して、複合モノクロメータ22に入射する。X線ビーム18の取り出し角度はターゲット表面に対して約6度である。X線ビーム18は複合モノクロメータ22で単色化されると共に集束化されて、試料上の微小な照射スポットに照射される。ターゲット12上の焦点の中心から複合モノクロメータ22までの最短距離はL1であり、複合モノクロメータの長さはL2である。
【0009】
図2において、円筒状のターゲット12の外周面には細長い焦点24が形成される。この焦点24の長手方向はターゲット12の回転軸に平行である。複合モノクロメータ22は、第1の楕円モノクロメータ26と第2の楕円モノクロメータ28からなり、これらの楕円モノクロメータ26、28の側縁同士が直角になるように接合されている。各楕円モノクロメータの反射面は人工多層膜で作られていて、回折に寄与する多層膜界面が反射面に平行になっており、その周期(結晶の格子面間隔に相当)は楕円弧に沿って連続的に変化している。このような複合モノクロメータの形状やその作用については、特開平11−326599号公報に詳しく開示されているので、ここではその詳しい説明は省略する。
【0010】
図3は複合モノクロメータの作用を説明する斜視図である。第1の楕円モノクロメータ26及び第2の楕円モノクロメータ28の第1焦点F1の位置にターゲット上のX線焦点を配置し、第1の楕円モノクロメータ26及び第2の楕円モノクロメータ28の第2焦点F2の位置に、試料上のX線照射領域を配置する。第1焦点F1の位置で発生したX線ビームは、最初に第1の楕円モノクロメータ26で反射し、次に、第2の楕円モノクロメータ28で反射して、第2焦点F2の位置にある試料に照射される。あるいは、最初に第2の楕円モノクロメータ28で反射した場合には、次に、第1の楕円モノクロメータ26で反射して、試料に照射される。第1の楕円モノクロメータ26と第2の楕円モノクロメータはその形状は基本的に同じである。したがって、以下の記載では第1の楕円モノクロメータ26について説明している。
【0011】
図4は第1の楕円モノクロメータ26でX線を集束する原理を示す説明図である。第1の楕円モノクロメータ26の反射面は楕円弧面からなり、この楕円弧面は、楕円30の一部分である楕円弧を紙面に垂直な方向に平行移動したときにできる軌跡である。楕円30の第1焦点F1から第1の楕円モノクロメータ26を見込む角度αは、楕円モノクロメータ26がX線ビームを捕捉する角度を示すものであり、捕捉角αと呼ぶことにする。捕捉角αが大きいほどX線の利用効率が高い。一方、楕円30の第2焦点F2から第1の楕円モノクロメータ26を見込む角度βは、試料に入射するX線の入射角度のバラツキを示すものであり、集束角βと呼ぶことにする。一般に、試料をX線分析するときに集束角βは小さい方が好ましい。
【0012】
次に、ターゲット上のX線焦点の実効的な焦点サイズについて説明する。実効的な焦点サイズとは、X線の取り出し方向から見たときのターゲット上の焦点のサイズである。この場合、差し渡し寸法が一番大きいところを焦点サイズとする。例えば、ターゲット上に1mm×0.1mmの細長い焦点を形成した場合に、ここから取り出し角度6度でライン焦点で取り出すと(図2を参照)、実効的な焦点サイズはほぼ0.1mm×0.1mmとなる。この場合、実効的な焦点サイズは0.1mmである。
【0013】
回転対陰極と上述の複合モノクロメータとを組み合わせる場合に、各種の条件を検討していくと、ターゲット上の焦点サイズについて最適値が存在することが分かった。すなわち、最適な焦点サイズを選択したときに、試料上のX線強度(試料に当たるX線の合計強度)が最も大きくなることを見出した。そこで、そのような最適条件を見つける手順とその最適結果とを以下に詳しく説明する。まず、次の(1)〜(5)の事項を考慮した。
(1)ターゲットの焦点サイズと最大投入パワーとの関係
【0014】
回転対陰極における焦点サイズtと、そのときの可能な最大投入パワーWとの関係は良く知られており、その関係は図9のグラフのようになる。このグラフは、図14の(1)式から求めたものである。(1)式は回転対陰極の最大投入パワーW(許容負荷)を求める式であり、ターゲットの熱負荷能力を考慮して作られたものである。ターゲットの材質として銅を選択し、回転数を6000rpmとし、ターゲットの直径を10cm、ターゲットの厚さ(表面から冷却面までの厚さ)を0.2cmとすると、最大投入パワーWはターゲット上の焦点の幅t(実効的な焦点サイズに相当する)に依存する。なお、焦点の長さFLは焦点の幅tの10倍であると仮定している。図9のグラフから分かるように、焦点サイズが大きくなれば最大投入パワーが増加する。
(2)人工多層膜の製造上の制約から決まる条件
【0015】
楕円モノクロメータ(人工多層膜ミラー)については、製造技術上の制約から、モノクロメータの長さL2(図1を参照)を80mmとしている。また、反射面を構成する人工多層膜の周期d(結晶の格子面間隔に相当)については、その最大値dmaxを5.0nm、最小値dminを2.5nmとしている。楕円モノクロメータでは、多層膜の周期dは楕円弧に沿って連続的に変化するが、この周期dの値が2.5〜5.0nmの範囲内に収まっていれば、この多層膜を作ることができる。ところで、反射面でX線が回折するためには、図16の(8)式のブラッグの条件式を満足する必要がある。dは人工多層膜の周期であり、λはX線の波長であり、θは反射面に入射するX線の入射角である。回転対陰極のターゲットの材質として銅を用いる場合、CuKα線の波長λは0.154nmである。人工多層膜の周期の最大値dmaxと最小値dminについて、これをブラッグの条件式を用いて入射角θに換算すると、それぞれ、図16の(9)式と(10)式のようになる。
【0016】
(3)反射面の許容受光角に関する条件
楕円モノクロメータの反射面は図6に示すような反射特性を示す。この反射率曲線は有限の角度幅ω(半値幅)を持ち、X線の入射角がこの角度幅ω内に入れば、この反射面でX線が反射されることになる。この角度幅ωを許容受光角(アクセプタクル角)と呼ぶ。入射するX線の角度幅(入射角の広がり)が許容受光角ωよりも小さければ、入射するX線はすべて反射するが、許容受光角ωよりも大きければ、入射するX線の一部は反射しないことになる。X線源から発生したX線を楕円モノクロメータで最も効率良く取り込むためには、入射するX線の角度幅(入射角の広がり)が許容受光角ωに等しくなるところまで楕円モノクロメータをX線源に近づければよい。図5において、X線源の実効的な焦点サイズをt、X線源からモノクロメータの反射位置までの距離をL3、モノクロメータの許容受光角をωとすると、L3=t/ω、(ωの単位はラジアン)の関係が成立するときに、入射するX線の角度幅が許容受光角ωに等しくなる。したがって、このような関係式を満足するように、L3とtの関係を定めるのが最も効率的である。例えば、ω=0.05度の場合、実効的な焦点サイズtが0.1mmのときに、L3は約114mmになる。モノクロメータの中央においてX線源からの距離が114mmであるならば、モノクロメータの前端(X線源に一番近い端部)ではX線源からの距離は74mmになる(モノクロメータの長さは80mmなので114mmから40mmを引くと74mmになる)。
【0017】
(4)楕円の形状と入射角θとの関係
図4において、XY座標軸を図示のように設定すると、楕円30の曲線式は図15の(3)式のようになる。この(3)式を微分すると(4)式になり、これが楕円30の各点での傾き(楕円の接線の傾き)になる。これを角度に直すと、楕円30の各点での傾きは(5)式のようになる。一方、焦点F1から楕円30上の各点を見上げたときの仰角(X軸に対する角度)は図15の(6)式のようになる。ここで、(6)式中のfは、図4に示すように、焦点F1と座標軸の原点との距離である。楕円30上の各点におけるX線の入射角θは、(6)式の仰角から(5)式の傾きを引いたものであり、(7)式のようになる。図7は、(5)式の「傾き」と(6)式の「仰角」と(7)式の「入射角θ」とをグラフにしたものである。横軸は、厳密には、楕円上の各点における「座標軸原点からの距離」とすべきものであるが、実際の楕円はきわめて偏平しているので座標軸原点と焦点F1はきわめて接近しており、横軸を「焦点F1からの距離」としても実質的には同じである。したがって、横軸は「焦点からの距離」と表示している。縦軸は角度(単位は度)である。このグラフにおいて、人工多層膜の周期の制約から定まるθmaxとθminも表示している。θmaxは図16の(9)式で求めたものであり、θminは(10)式で求めたものである。特定の長径aと短径bを有する楕円について、楕円の各点における入射角θを求めた場合、この入射角θが、図7に示すように、楕円モノクロメータの全長L2にわたって(この場合、焦点からの距離が100〜180mmにおいて)、θmaxとθminの間にあれば、人工多層膜の制約条件を満足することになる。図7のグラフは、楕円の長径aを280mm、短径bを5mmとして計算したときのものである。図8のグラフは、図7のグラフについて、焦点からの距離が100〜180mmの部分を拡大して示したものであり、さらに、短径bの値を変更したときの入射角変化を示している。すなわち、短径bを5.0mm、4.5mm、4.2mmと変化させると、入射角θの曲線は、図8のように変化する。この場合、いずれのbの値でも、入射角θはθmaxとθminの間に収まっている。
【0018】
(5)試料上の照射スポットのサイズとモノクロメータの配置位置との関係
図4において、第2焦点F2には試料を配置することになるが、試料上のX線照射スポットのサイズは0.3mm以下にするのが好ましい。また、集束角βは0.2度以下にするのが好ましい。第1焦点F1からモノクロメータ26の中心までの距離をL4、第2焦点F2からモノクロメータ26の中心までの距離をL5とすると、試料上のX線照射スポットのサイズは、「X線源の実効的な焦点サイズt」×(L5/L4)に等しい。例えば、t=0.1mmのときに、L5をL4の3倍にすれば、試料上のX線照射スポットのサイズは0.3mmになる。楕円30を固定して、楕円30上で楕円モノクロメータ26をX線源に近づければ試料上の照射スポットのサイズは大きくなり、X線源より遠ざければ照射スポットのサイズは小さくなる。
【0019】
次に、最適な焦点サイズを求める具体的な手順の一例を説明する。最適な焦点サイズとは、試料上でX線強度が最大となるような焦点サイズである。図17は焦点サイズごとの最大の捕捉角αを求める手順を示したフローチャートである。このフローチャートは、距離L1と焦点サイズtの一つの組み合わせについて、最大の捕捉角αが得られるような楕円形状(長径aと短径b)を決定する(同時に、その最大の捕捉角αがいくらであるかを決定する)ための手順を示したものである。
【0020】
まず、図1の距離L1(すなわち、X線焦点から複合モノクロメータ22の前端までの距離)を決定する。この発明は試料上でのX線強度を大きくするのが目的であるから、基本的には、複合モノクロメータ22をできるだけX線源に近づけて、X線の捕捉角αを大きくすることが大切である。したがって、距離L1は100mm以下とする。一方で、回転対陰極X線管において、ターゲット上の焦点からベリリウム窓20までの距離を小さくするのには限界があり、当然ながら、ターゲット上の焦点から複合モノクロメータの前端までの距離L1もそれほど小さくできない。通常、距離L1の最小値は60mm程度が限界であり、X線管の構造を工夫しても、せいぜい、距離L1の最小値は40mm程度である。したがって、距離L1=40〜100mmの範囲で、最適な焦点サイズを求めることにする。ところで、上述の「反射面の許容受光角に関する条件」において検討したように、ω=0.05度の場合、実効的な焦点サイズtが0.1mmのときに、距離L1を約74mmにすると、X線を楕円モノクロメータで最も効率良く取り込むことができる。よって、距離L1を40〜100mmの範囲に設定することは、焦点サイズにもよるが、許容受光角の観点から考えて妥当な値になっている。
【0021】
実際の計算では、距離L1について100mm、80mm、60mm、40mmの4種類について計算している。以下の説明ではL1=80mmの場合を例にして説明する。そこで、図17のフローチャートにおいて、距離L1を80mmに設定して、次の「焦点サイズtの決定」に移る。焦点サイズtは、0.01mmから0.4mmまでの20種類の値(図18の一覧表のtの列を参照)を選択した。そのそれぞれについて、最大の捕捉角αを求めた。よって、最初に、焦点サイズtを0.01mmに設定する。これで、L1=80mmとt=0.01mmの組み合わせが決まる。
【0022】
次に、「楕円の長径aを決定」に移る。楕円の長径aを決めるには、試料上の照射スポットサイズを考慮する。図4において、上述したように、試料上のX線照射スポットのサイズは0.3mm以下にするのが好ましい。実効的な焦点サイズtが0.01mmのときに、照射スポットサイズを0.3mm以下にするには、L4:L5=1:30以下の関係にすればよい。したがって、L4=(L1+40mm)=120mmなので、L5=3600mm以下となる。楕円の長径aはL4+L5に実質的に等しいので、a=3720mm以下にすればよい。実施例の計算では、a=1860mmに設定している(図18の一覧表を参照)。
【0023】
次に、「楕円の短径b=0.1」に移る。以下の手順では、楕円の短径bを0.1から10まで、0.1きざみで変化させて、そのそれぞれについて、捕捉角αを計算し、短径bがいくつのときに、最大の捕捉角が得られるか、そしてその捕捉角はいくらであるか、を求めている。そこで、最初にb=0.1と設定する。これで長径aと短径bが決まったので、図7のグラフの入射角θの曲線を計算できる。焦点からの距離が80〜160mmの範囲内(モノクロメータの範囲内)において、この入射角θの曲線がθmaxとθminの間に収まっていれば、入射角条件は合格となる。また、楕円モノクロメータの位置と楕円の形状が決まっているので、図4の捕捉角αと集束角βも計算できる。集束角が0.2度以内になっていれば、集束角条件も合格である。入射角条件と集束角条件が両方とも合格していれば、そのときの捕捉角αを短径bの値と共に記憶する。以上が「入射角と集束角が合格した場合に捕捉角αを記憶」のステップである。入射角条件と集束角条件のいずれかが不合格であれば、そのbの値は使えないので、捕捉角αは記憶しない。
【0024】
次に、「b=10?」の判定に移る。bが10に達していなければ、「b=b+0.1」を実行してから、「入射角と集束角が合格した場合に捕捉角αを記憶」のステップを繰り返す。そして、b=10に達したら、「捕捉角αの最大値を取得」に移り、これまでに記憶した捕捉角αの中の最大値とそのときのbの値を取得する。以上のような計算が完了すると、図18に示す表のt=0.01の行のデータが完成する。この表において、t、a、b、L4の単位はmmであり、αの2乗の単位はステラジアンである。t=0.01の条件を例にとると、長径aが1860mm、短径bが10mmのときに捕捉角αが最大になり、その最大となった捕捉角αを2乗した値(単位はステラジアン)は1.18869×10のマイナス4乗となる。表中で「E−4」は「10のマイナス4乗」を意味する。複合モノクロメータを使うと、図3に示すように、X線は二つの楕円モノクロメータで順に反射してから試料上に集束するから、捕捉角αを2乗したものが試料上のX線強度に比例することになる。したがって、捕捉角αの2乗を表中に記載している。表中のL4は図4に示すL4であり、これはL1+40mmである。t=0.15mm以上の条件のときにL4の値が120mmを超えているのは、L1=80mmの条件のままでは、その他の条件(入射角条件や集束角条件)を満足しないために、L1を動かしているためである。
【0025】
図18の表の捕捉角αの2乗をグラフにしたものが図11の上段のグラフの「捕捉角(str)」の曲線である。縦軸に捕捉角αの2乗の値を、横軸に焦点サイズtの値をとってある。また、図11の上段のグラフの「投入パワー(W)」の曲線は図9の曲線をそのまま載せたものである。図11の下段のグラフは、上段のグラフの捕捉角の曲線と投入パワーの曲線とを掛け算した値をプロットしたものである。捕捉角(αを2乗したもの)と投入パワーの積は、試料上のX線照射強度に比例すると考えられるので、これを「効率」と呼ぶことにする。この効率の値は、焦点サイズtに依存して変化しており、最適値が存在する(曲線の山が存在する)ことが分かる。このグラフによれば、L1=80mmのときには、焦点サイズを60μmにすると効率が最大になることが分かる。最大効率から25%低下するところまでを実用的な使用範囲と考えると、焦点サイズが約40〜90μmの範囲内のときに最も効率が高いことになる。
【0026】
同様にして、L1=100mm、60mm、40mmの条件についても同様のグラフを作ることができて、それぞれのグラフを図10、図12、図13に示す。図10では、L1=100mmの条件において、焦点サイズを70μmにすると効率が最大になり、実用的な最大効率の範囲は約60〜100μmである。図12では、L1=60mmの条件において、焦点サイズを50μmにすると効率が最大になり、実用的な最大効率の範囲は約40〜80μmである。図13では、L1=40mmの条件において、焦点サイズを40μmにすると効率が最大になり、実用的な最大効率の範囲は約30〜70μmである。
【0027】
なお、焦点サイズが30μmというのは、L1=40mm(回転対陰極X線管でこれを実現するのはかなり厳しい)のときに効率が優れているものであり、L1=60〜100mmのときには、それほど優れた効率にはならない。したがって、L1=40〜100mmの全体で考えると、焦点サイズが40〜100μmのときに、おおむね優れた効率が得られる、と言うことができる。
【0028】
【発明の効果】
この発明のX線分析装置は、回転対陰極X線管と上述の複合モノクロメータとを組み合わせる場合に、ターゲット上の実効的な焦点サイズを40〜100μmにして、ターゲット上のX線焦点から複合モノクロメータまでの最短距離を60〜100mmに設定することで、最も効率良く、試料に集束するX線強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のX線分析装置の一実施形態を概略的に示した平面図である。
【図2】図1における回転対陰極と複合モノクロメータとの位置関係を示した斜視図である。
【図3】複合モノクロメータの作用を説明する斜視図である。
【図4】楕円モノクロメータでX線を集束する原理を示す説明図である。
【図5】楕円モノクロメータの反射面の許容受光角を説明する説明図である。
【図6】楕円モノクロメータの反射面の反射率曲線を示すグラフである。
【図7】楕円上の各点における入射角θの変化を示すグラフである。
【図8】図7のグラフの拡大図である。
【図9】焦点サイズと最大投入パワーとの関係を示すグラフである。
【図10】L1=100mmのときの効率を示すグラフである。
【図11】L1=80mmのときの効率を示すグラフである。
【図12】L1=60mmのときの効率を示すグラフである。
【図13】L1=40mmのときの効率を示すグラフである。
【図14】回転対陰極の最大投入パワーを求める式である。
【図15】楕円曲線の式、楕円上の各点の傾きの式、焦点F1からの仰角の式、及び、入射角を求める式である。
【図16】ブラッグの条件式と、人工多層膜の最大周期と最小周期を入射角に換算した式である。
【図17】焦点サイズごとの最大の捕捉角αを求める手順を示したフローチャートである。
【図18】L1=80mmのときの計算結果を示す表である。
【符号の説明】
10 回転対陰極X線管
12 ターゲット
14 電子銃
16 電子ビーム
18 X線ビーム
20 ベリリウム窓
22 複合モノクロメータ
24 焦点
26 第1の楕円モノクロメータ
28 第2の楕円モノクロメータ
Claims (2)
- X線源から出射するX線ビームをモノクロメータで反射してから試料に照射するX線分析装置において、次の特徴を備えるX線分析装置。
(ア)前記X線源は回転対陰極X線管であり、そのターゲット上の実効的な焦点サイズは40〜100μmである。
(イ)前記モノクロメータは、第1の楕円モノクロメータと第2の楕円モノクロメータの側縁同士を互いに接合した複合モノクロメータであり、各楕円モノクロメータの一方の焦点の位置に前記ターゲット上のX線焦点が配置されている。
(ウ)前記第1の楕円モノクロメータと前記第2の楕円モノクロメータは人工多層膜で形成されていて、この人工多層膜は、回折に寄与する多層膜界面が反射面に平行になっていて、かつ、特定の波長のX線に対して反射面の任意の位置でブラッグの回折条件を満足するように楕円弧に沿って前記人工多層膜の周期が連続的に変化している。
(エ)前記ターゲット上のX線焦点から前記複合モノクロメータまでの最短距離は60〜100mmである。 - X線源から出射するX線ビームをモノクロメータで反射してからX線ビームを出射するX線供給装置において、次の特徴を備えるX線供給装置。
(ア)前記X線源は回転対陰極X線管であり、そのターゲット上の実効的な焦点サイズは40〜100μmである。
(イ)前記モノクロメータは、第1の楕円モノクロメータと第2の楕円モノクロメータの側縁同士を互いに接合した複合モノクロメータであり、各楕円モノクロメータの一方の焦点の位置に前記ターゲット上のX線焦点が配置されている。
(ウ)前記第1の楕円モノクロメータと前記第2の楕円モノクロメータは人工多層膜で形成されていて、この人工多層膜は、回折に寄与する多層膜界面が反射面に平行になっていて、かつ、特定の波長のX線に対して反射面の任意の位置でブラッグの回折条件を満足するように楕円弧に沿って前記人工多層膜の周期が連続的に変化している。
(エ)前記ターゲット上のX線焦点から前記複合モノクロメータまでの最短距離は60〜100mmである。
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