JP3759833B2 - L−テアニンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−テアニンの製造方法に関する。更に詳しくは、高濃度で反応を行うことができ、かつ高い収率でL−テアニンを得る製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
L−テアニンの製造方法としては玉露の生産用茶園において得られる茶葉乾燥物より抽出する方法が知られている。しかし、この場合、L−テアニンは茶葉乾燥物あたりわずか1.5%前後程度の含量であるため、高価な原料を用いることとなりその製造コストが非常に高くなる。また、一般の煎茶用茶園では光合成が活発であるため、ほとんど蓄積されないのが実状である。従って、茶葉乾燥物からの抽出法では工業的に実用的ではない。
【0003】
これを解決する方法としてテアニンを化学的に合成する方法が報告されている( Chem. Pharm. Bull., 19(7) 1301-1307(1971), Biosci. Biotech. Biochem., 56(4) 689(1992))。しかし、このような有機合成反応では収率が低く、光学異性体の分離など生成物の分離精製等において煩雑な操作を必要とするという問題点が指摘されている。また、植物細胞もしくは微生物を利用した生合成法が開示されており、たとえば茶の細胞培養による方法(特開平3−187388号)等があるが培養細胞の増殖率が極めて低い欠点があり、実用的には難しい。
【0004】
さらに、Pseudomonas 属細菌から得られるグルタミナーゼをグルタミンとエチルアミンにpH9−12の条件下で作用させることを特徴とするテアニンの製造方法(特公平7−55154)、細菌の固定化菌体を用いることを特徴とするテアニンの製造方法(特開平5−328986)が開示されている。しかし、エチルアミンは沸点が16.6℃と非常に低いため、製造する上で揮発したエチルアミン蒸気が作業員や環境に悪影響を及ぼしたり、反応効率の向上を目的に沸点以上の温度で反応しようとすると特別な設備が必要となる等問題がある。また、これら製造法においては基質濃度が低く、かつ製品の収率が低いため、実用上問題がある。また特公平7−55154に開示されている酵素はその精製が煩雑であること、pHおよび温度に対する酵素の安定性に問題があること、さらに反応後の酵素と生成物の分離操作が煩雑であること、および連続的な反応によるテアニンの生産が困難である等の多くの問題点を有する。更にはピログルタミン酸等を基質として合成する方法(特開平9−263573)も開示されているが、この方法においてはL−テアニンの収率が10%程度と極めて低いため、実用的でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、簡易かつ工業的に有利なL−テアニンの製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはL−テアニンの製造方法に関し、鋭意研究を重ねた結果、グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼもしくはグルタミナーゼ産生菌を作用させることにより、L−テアニンを高い収率で得ることができ、かつ、高濃度で反応を行うことができることを見い出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明の要旨は、グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼもしくはグルタミナーゼ産生菌を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明におけるエチルアミン誘導体は、特に限定するものではないが、エチルアミン塩酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン酸塩、オレイン酸塩などの脂肪酸塩、塩化金酸塩、N−ベンゼンスルホニル化物、N−ρ−トルエンスルホニル化物などが挙げられ、好ましくはエチルアミンハロゲン酸塩であり、更に好ましくはエチルアミン塩酸塩である。ここにおいてグルタミンに対するエチルアミン誘導体の混合量はモル比で1倍〜7倍、好ましくは1.5倍〜4倍である。
【0008】
本発明におけるグルタミナーゼの起源は微生物、植物、動物など特に限定されるものではない。好ましくは微生物由来のものであり、更に好ましくは、Pseudomonas 属等の細菌、Saccharomyces 属等の酵母、Aspergillus 属等のかび等の由来の酵素である。特に好ましくは、Pseudomonas 属の微生物由来のグルタミナーゼであって、最も好ましくは、Pseudomonas nitroreducens ,Pseudomonas aptata、またはPsedomonas denitrificans由来のグルタミナーゼである。
グルタミナーゼは粗製で用いても良いが、精製して用いることが更に好ましい。精製方法は、公知のいかなる酵素精製法を用いても良く、カラムクロマトグラフィー、溶媒を用いた分配、透析、限外濾過、電気泳動、中性塩による分別塩析、アルコール、アセトンを用いる分別沈殿法、HPLCを例示することができる。このうち溶媒分配および各種クロマトグラフィー、HPLCを組み合わせることが好ましい。あるいはまた、これら酵素を公知の方法で固定化して用いても良い。さらにCM−セルロースカラムクロマトグラフィー、セファデックスG150カラムクロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、ブチルトヨパールカラムクロマトグラフィーを行うことにより、ディスク電気泳動的に単一な標品が得られる。精製率は250倍、回収率は10%である。
【0009】
ここにおいてグルタミナーゼを作用させる液性条件は、好ましくはpH9〜12、更に好ましくはpH9〜11.5である。また、温度は5℃〜50℃が好ましく、30℃〜45℃が更に好ましい。
また、グルタミン濃度は通常1〜2M、エチルアミン誘導体濃度はグルタミン1Mに対して通常1.5M以上が好ましく、グルタミナーゼの添加量は0.3U/ml以上が好ましいが、0.3〜3U/mlであることが更に好ましい。
【0010】
本発明のグルタミナーゼ産生菌とは、グルタミナーゼを産生する能力を有する菌のことであり、Pseudomonas 属細菌、Saccharomyces 属等の酵母、Asperigillus属等のかび等を例示することができる。これらグルタミナーゼ産生菌は生菌あるいは、菌体粉砕物、固定化菌体いずれでも良い。ここにおいて菌体の粉砕物とは培養した菌体を水性媒体中で超音波粉砕あるいは磨砕等して細胞膜を破壊したものである。固定化菌体とはある一定の空間に閉じ込められた状態にある微生物菌体であり、くり返し、連続的に酵素反応を行うことができ、反応後、微生物菌体を回収し、再利用できる状態にある微生物菌体のことである。
本発明のグルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼを作用させるにあたって、グルタミン酸の生成を抑制する目的で金属イオンを併用しても良い。使用できる金属イオンを列挙すると、ニッケル、コバルト、カドミウム、亜鉛であり、好ましくはニッケルである。
【0011】
グルタミンとエチルアミンの誘導体からL−テアニンを合成した後、必要に応じて精製しても良い。精製の方法は濃縮、膜による分離・濃縮、イオン交換樹脂、溶媒分配、透析、晶析、各種クロマトグラフィー、HPLCの1つあるいは2つ以上の組み合わせによるものである。ここにおいて好ましい精製方法は、カラムクロマトグラフィーと晶析を組み合わせる方法である。
また精製物質がL−テアニンであることの確認は、精製物質をアミノ酸アナライザー、ペーパークロマトグラフィーにかけると、標準物質と同じ挙動を示し、塩酸あるいはグルタミナーゼで加水分解処理を行うと、グルタミン酸とエチルアミンを生じ、グルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが確認でき、また、加水分解で生じたグルタミン酸がL型であることも、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GluDH)により確認でき、精製物質がL−テアニンであることが確認できる。
【0012】
また、精製の後、乾燥・粉砕しても良く、これら乾燥・粉砕工程の前あるいは後で流動性等の粉体特性や吸湿性等を調節する目的でデキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、メタリン酸ナトリウム等を添加しても良い。また、水、アルコール、多価アルコールあるいはそれらの混合物中に溶解しても良い。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0013】
【実施例】
実施例1 Pseudomonas nitroreducens IFO 12694 の培養例
グルタミン酸ナトリウム0.6%、酵母エキス0.1%、グルコース1.0%、KH2 PO4 0.05%、K2 HPO4 0.05%、MgSO4 ・7H2 O 0.07%、EDTA−Fe 0.01%を含む培養液(pH7)を用いて、30L容のジャーファメンター(30℃、通気1vvm=25L/分、回転数2,000rpm)中、Pseudomonas nitroreducens IFO 12694 株を約20時間培養した。
実施例2 菌体粉砕物の調製例
実施例1で得られた培養液175L分の菌体を洗浄後、30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)7.5Lに懸濁し、5〜20℃で超音波破砕し、菌体破砕物を得た。
【0014】
実施例3 グルタミナーゼの調製例
7%アンモニア水でpHを7に調整しながら実施例2の菌体破砕物を硫酸アンモニウム分画を行い、45〜90%飽和画分を得た。これを0.01Mリン酸カリウム緩衝液に溶かし、同緩衝液に対して透析した。DEAE−セルロースカラム(15×60cm)に吸着させ、グルタミナーゼを0.1Mの食塩を含む緩衝液で溶出し、グルタミナーゼ液を得た。
実施例4
グルタミン1Mとエチルアミン塩酸塩3Mをホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH11)1L中で、実施例2で得られた菌体破砕物25mlにて30℃、22時間で反応させた。反応液より690mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
【0015】
実施例5
グルタミン1Mとエチルアミン塩酸塩3Mをホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH11)1L中で、実施例3で得られたグルタミナーゼ液300Uにて30℃、22時間で反応させた。反応液より760mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
実施例6
グルタミン1Mとオレイン酸塩3Mをホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH11)1L中で、実施例3で得られたグルタミナーゼ液300Uにて30℃、22時間で反応させた。反応液より520mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
【0016】
実施例7 固定化菌体の調製例
可溶化した3.4%κ−カラギーナン450mlに、実施例1で得られた培養液80gを加えすばやく撹拌後、4℃で30分間静置した。同量の0.3M KClを加え、4℃、1時間静置したゲルを適当な大きさ(約¢2mm×10mm)に細断した。このゲルに0.3M KClで可溶化した1%ヘキサメチレンジアミン500mlを加え、4℃、10分間静置後、水洗した。さらに0.5%グルタルアルデヒド250mlを加え4℃、10分間静置後、水洗し固定化菌体を得た。固定化菌体800mlをジャケット付きガラスカラム(1.7×40cm、1本当りの容量200ml)4本に充填し30℃に保温した。
実施例8
グルタミン1Mとエチルアミン塩酸塩3Mのホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH9.5)を調製し、実施例6より得られた固定化菌体を用いて4本のガラスカラムをつなぎ、SV=0.3の条件で22日間連続反応を行った。それぞれのカラムから出た反応液をサンプリングしテアニンの生成量を測定した結果、各カラムとも反応12日目以降テアニン生成量が一定となり、最後のカラムの反応液の場合、1L当り950〜960mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの単離精製は、反応液を脱塩し減圧濃縮後、噴霧乾燥することにより行った。
【0017】
比較例1
グルタミン1Mとエチルアミン3Mをホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH11)1L中で、実施例3より得られたグルタミナーゼ液300Uにて30℃、22時間で反応させた。反応液より390mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
【0018】
比較例2
グルタミン1Mとエチルアミン3Mをホウ酸緩衝液(Na2 B4 O7 −NaOH、pH11)3L中で、実施例3より得られたグルタミナーゼ液300Uにて30℃、22時間で反応させた。反応液より500mmolのL−テアニンを単離した。L−テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
これら実施例及び比較例よりエチルアミンに比べ、本願発明のエチルアミン塩酸塩では、高濃度で反応を行うことができ、かつ高い収率でL−テアニンを得ることができることは明らかである。
【0019】
本発明の実施態様をあげれば以下の通りである。
(1)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼを作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(2)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物に微生物由来のグルタミナーゼを作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(3)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物に植物由来のグルタミナーゼを作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(4)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物に動物由来のグルタミナーゼを作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
【0020】
(5)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼ産生菌を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(6)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼ産生菌の生菌を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(7)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼ産生菌の菌体破砕物を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
(8)グルタミンとエチルアミン誘導体の混合物にグルタミナーゼ産生菌の固定化菌体を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
【0021】
(9)エチルアミン誘導体がハロゲン酸塩である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
(10)エチルアミン誘導体が脂肪酸塩である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
(11)エチルアミン誘導体が塩化金酸塩である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
(12)エチルアミン誘導体がN−ベンゼンスルホニル化物である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
(13)エチルアミン誘導体がN−ρ−トルエンスルホニル化物である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
(14)エチルアミン誘導体が塩酸塩である前記(1)〜(8)いずれか記載の製造方法。
【0022】
【発明の効果】
本発明によって新規なL−テアニンの効率的な製造方法を提供し、簡易かつ工業的有利な生産を可能にすることができる。
Claims (3)
- グルタミンとエチルアミン誘導体(ただし、エチルアミンは除く)の混合物にグルタミナーゼを作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
- グルタミンとエチルアミン誘導体(ただし、エチルアミンは除く)の混合物にグルタミナーゼ産生菌を作用させることを特徴とするL−テアニンの製造方法。
- エチルアミン誘導体がハロゲン酸塩である請求項1または請求項2記載のL−テアニンの製造方法。
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