JP3759808B2 - バケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に係り、詳しくは内部欠陥のない比較的薄い厚みのバケットのような箱状の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
注型ポリアミド成形体の製造方法は、金型を熱風炉で所定の温度になるまで加熱しておき、この金型を炉から取り出してラクタム重合液をこれに注入し、再び金型を熱風炉に入れてラクタムを重合している。しかし、この方法によると、成形体は重合過程で内部に気泡を含みやすい欠点があった。通常、ラクタム重合液をアニオン重合成形する際、約15%程度の体積収縮が発生する。この体積収縮が成形体内部に空洞欠陥を発生させる原因の一つになっていた。
従来の注型ポリアミド棒状成形体の製造方法においては、前述のような内部欠陥の発生を少なくすることが技術的に重要な課題になっていた。
【0003】
このような成形体の内部欠陥を発生させないために、従来ではラクタム重合液を加圧下で重合する方法が知られている。例えば、特公昭40−16153号公報に開示されているように、ラクタム重合液が重合することによって系の粘度が最高に増加した時点でこれを加圧成形する方法がある。
また、特公昭39−25202号公報には、重合が進行する温度に保持された金型と重合が進行しない温度に保持された補助容器とを断熱的に接続し、この補助容器にラクタム重合液を封入するとともにこれを不活性気体によって加圧し、ラクタム重合液を常時金型に送り込むようにしてポリアミド成形体を加圧成形する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、比較的厚みの薄いバケットのような成形体の製造法では、外型と内型を使用するため、重合中常時加圧する場合には、外型と内型の間に注型した重合性ラクタム液が重合初期中に内型の移動によって液の高さが変動し、厚み等の寸法安定性のよいバケットの製造は実質的に困難であった。
また、オーブン中で重合する場合には、重合性ラクタム液の注型時に型をオーブンより出し入れするため、型およびオーブン内の温度管理が困難であり、また上下型の熱容量が相違するために、オーブン加熱方式では型の温度管理は非常に困難であった。
【0005】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、型の温度管理が容易で、かつ内部欠陥のない比較的薄い厚みのバケットのような箱状の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち、本願の請求項1に係る発明は、実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合用開始剤とを加えた重合性ラクタム液を型内に注型した後、アニオン重合することによりバケット状注型ポリアミド樹脂成形体を製造する方法において、循環する熱媒体により加熱した下型に重合性ラクタム液を注型した後、同様に循環する熱媒体によって加熱した上型と該下型とを嵌合し、注型した重合性ラクタム液の重合時間と系の温度との関係を基にして、重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの間に、重合性ラクタム液が収容されている上型と下型との容積を小さくするように一方の型を移動させ、該上型と下型の位置を維持した状態で更に重合を進行させてこれを終了した後、上型と下型とを分離して成形体を取り出すバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法にあり、型の温度が均一で、しかも重合性ラクタム液を型内に注型し、その重合系の発熱によって系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの間に、重合性ラクタム液が入っている型内の容積を小さくするため、均一な厚さで内部の空洞欠陥の発生を阻止した成形体を得ることができ、また移動した型をその後重合が終了するまで移動させないため、作業工程を簡略化することができる。
【0007】
本願の請求項2に係る発明は、重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの温度範囲が、155〜170°Cであるバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法である。
【0008】
本願の請求項3に係る発明は、上型と下型に設けた熱媒体室には、熱媒体の流路を形成する少なくとも1つの仕切板を設けたものであり、熱媒体の滞留を阻止することで、より一層上型や下型の温度を調節することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は本発明のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する上型の平面図、図2は図1のA−A断面図、図3は本発明のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する下型の平面図、図4は図3のB−B断面図である。
【0010】
上型1はアルミ、鉄等の熱伝導率の比較的高い本体2と、この本体2から外側へ突出した成形部3をもち、成形部3の内側には上板4を本体2に螺子等により固定することでオイル等の熱媒体を流す閉鎖した熱媒体室5を設けている。熱媒体室5は内部に仕切板6を配して熱媒体の流れをよくしているが、実施例では十文字に設けた仕切板6によって4つの部屋7に分けており、注入口8から排出口9へと熱媒体を循環し、精度よく温度管理をしている。
【0011】
下型15は上型1の突出した成形部3を嵌め込む窪み状の収容部17を有し、その外側に熱媒体を流す閉鎖した熱媒体室18を外壁19によって形成している。外壁19には断熱材(図示せず)が装着している。熱媒体室18内には、仕切板20が設けられ、注入口21から流れ込んだ熱媒体を滞留させずにスムーズに流し、排出口22から外部へ流出させるようになっている。
【0012】
図5は上型1と下型15をそれぞれ成形機25に設置した状態を示している。これによると、上型1は支持部26に位置固定され、下型15は原動機27に連結した移動台28上に設置され、ボールネジ29に螺着した移動台28を原動機27の稼動によって昇降し、上型1と嵌合あるいは分離する。
【0013】
図6は下型15を上昇させて上型1に嵌合した状態を示し、図7は下型15を下降させて上型1から成形体30を取り出す状態を示している。
【0014】
しかして、本実施例では、ω−ラクタムを脱水タンク内において減圧下で脱水して実質上無水の状態にした後、窒素などの不活性気体で置換される。脱水タンク中のω−ラクタムは、計量されて2つの注型タンクへ入れられ、その後所定量のアニオン重合触媒がω−ラクタムの入った一方の注型タンクに、また所定量のアニオン重合開始剤がω−ラクタムの入った他方の注型タンクに投入される。
そして、バケットを成形する上型1と下型15を用意し、上記のように上型1と下型15をそれぞれ成形機25の所定位置に設置する。
【0015】
各注型タンクから排出した重合性ラクタム液がミキシング部で混合攪拌された後に、図5に示すように130〜160°Cに温度調節した下型15に注型した後、下型15を原動機27の稼動によって上昇して上型1と嵌合し、下型15と上型1との間にキャビティ32を形成する。この状態を図8に示しているように、下型15と上型1の間に2〜5mm程度の間隙33を設ける。この間隙33は原動機27により自由に調節することができる。
【0016】
重合性ラクタム液を温度調節した下型15に注型すると、図10に示すように重合性ラクタム液の重合発熱により系の温度が上昇するが、一定時間後にほぼ平衡に達した時点Aから結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点Bまで間に、下型15を僅かに上昇させて上型1に密着させる。このとき、成形体30は加圧された状態であり、更に結晶化が進行すると、成形体30の体積も徐々に収縮するために内部に空洞欠陥をもたない均一な厚みの成形体30に仕上げることができる。
【0017】
尚、上記系の温度がほぼ平衡に達するまでに下型15と上型1を密着させると、重合性ラクタム液が重合初期で粘度が十分上昇していないために流動して成形体の厚みが不足したり、また結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始めた後に下型15と上型1を密着させると、重合性ラクタム液の結晶化が進んで大きく体積収縮するために加圧が不十分になって成形体内部に空洞欠陥が発生するばかりでなく、成形体外観に凹部が発生しやすくなる。
上記重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点Aから結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点Bまでの温度範囲は、具体的に155〜170°Cであり、この温度は型温にほぼ等しい。型温を測定する場合には、上型1と下型15のどちらか一方、もしくは両型の内部に温度センサー(図示せず)を埋め込むのが好ましい。
【0018】
一般に重合性ラクタム液の重合時間と系の関係では、図10に示す重合性ラクタム液の重合時間と系の関係のモデル図のように、まず前記の重合性ラクタム液の重合発熱影響時間、後期の結晶化発熱影響時期の2段階からなる。まず重合性ラクタム液の重合発熱によって系の温度は上昇し、一定時間後に系の温度上昇がほぼ平衡に達する。この時点がAである。そして、その後、発熱曲線は下降するが、その代わりに重合性ラクタム液の結晶化に伴う発熱の出現によって再度上昇してその後なめらかに下降し始める。この下降し始める点がBである。
上記系の温度上昇が平衡に達した時点Aから結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点Bまでの間に、型内の容積を小さくすることが、この後の結晶化収縮時期において発生する内部空間の発生を阻止することになることが明らかになった。
【0019】
上記ω−ラクタムは実質上無水のα−ピペリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、あるいはこれらの2種以上の混合物であり、工業的に有利なラクタムはε−カプロラクタムとω−ラウロラクタムである。
【0020】
また、本発明で使用するアニオン重合触媒は、水素化ナトリウム、水素化リチウム、ナトリウム、カリウム等の公知のω−ラクタムの重合触媒を使用することができ、その添加量はω−ラクタムに対して0.1〜2.0モル%である。
そして、アニオン重合用開始剤としては、例えばN−アセチル−ε−カプロラクタム、イソシアネート、ジイソシアネート、尿素誘導体、ウレタン、イソシアヌレート誘導体であり、その添加量はω−ラクタムに対して0.05〜1.0モル%の範囲が好ましい。
【0021】
上記製造方法では、アニオン重合触媒をω−ラクタムに添加し溶解した後、アニオン重合用開始剤を注型時または注型後に添加混合する方法、またはアニオン重合触媒を含むω−ラクタムとアニオン重合用開始剤を含むω−ラクタムとを注型時または注型後に添加混合する方法によって調整する。
また、ω−ラクタムの重合温度は100〜210°Cの温度で実施可能であるが、好ましくは130〜180°Cである。
【0022】
尚、本発明方法を実施するに際して、上記成分以外に重合を阻害しない油類、ワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の滑剤や、カーボン繊維、ウオラスナイト等の補強材を添加することも可能である。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
実施例1〜2、比較例1〜2
脱水した後、脱水タンク中のε−カプロラクタムが計量されて2つの注型タンクへ入れられ、一方の注型タンクへ1,250g、他方の注型タンクへ1,250g入れた後、一方の注型タンクへ5gの水素化ナトリウム(63%油性)を添加して溶解させ、更に他方の注型タンクへ7gのトリスフェニルイソシアヌレートを添加した。この間、注型タンク内を大気圧下で窒素を流しつつ、更に重合性ラクタム液を125°Cまで昇温しながらミキシングした。
【0024】
アルミ製の上型と下型(縦200mm、横305mm、深さ160mm)を成形機に設置し、オイルにより150°Cまで加熱した後、上記ミキシングした重合性ラクタム液を外型に流し込んだ後、下型を上昇させて上型に嵌合し、上型と下型の間に8mm程度の間隙を設けた状態で重合させた。そして、重合性ラクタム液を注型して3分、8分、12分、15分経過した後、上型と下型を密着させて重合を終え、下型を下降し、厚さ6mmのバケット成形体を取り出した。
本実施例の重合性ラクタム液の重合時間と系の温度を図11に示すが、系の温度上昇が平衡に達した時点Aが5分であり、また結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点Bが12分になっている。
【0025】
成形体を充分に冷却させた後、肉眼で内部を検査して空洞欠陥を観察した結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
その結果、重合性ラクタム液を注型して8分、12分経過した後、上型と下型を密着した場合には、成形体の内部空洞欠陥は観察されなかったが、重合性ラクタム液を注型して3分経過した後では、粘度が十分に上昇していないため、重合性ラクタム液が溢れ、成形体の厚み不足及び内部空洞欠陥が観察された。また、重合性ラクタム液を注型して15分経過した後では、結晶化収縮が始まっており、重合中の成形体の加圧が不十分となるため、成形体内部に空洞欠陥が発生するばかりでなく、成形体外観に凹部が発生した。
【0028】
比較例3
上記実施例1と同じ重合性ラクタム液をオイルにより150°Cまで加熱した下型に流し込んだ後、下型を上昇させて上型に嵌合して上型と下型の間に8mm間隙を設けた状態で重合させ、その状態で重合を完結した。得られた成形体の空洞欠陥を観察したが、成形体の内部には空洞欠陥が全体にあり、成形体外観にも凹部が発生していた。
【0029】
【発明の効果】
以上のように本願の請求項1に係る発明では、循環する熱媒体により加熱した下型に重合性ラクタム液を注型した後、同様に循環する熱媒体によって加熱した上型と該下型とを嵌合し、重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの間に、重合性ラクタム液が収容されている上型と下型との容積を小さくするように一方の型を移動させ、該上型と下型の位置を維持した状態で更に重合を進行させてこれを終了した後、上型と下型とを分離して成形体を取り出すバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法にあり、型の温度が均一で、しかも重合性ラクタム液を型内に注型し、その重合系の発熱によって系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの間に、重合性ラクタム液が入っている型内の容積を小さくするため、均一な厚さで内部の空洞欠陥の発生を阻止した成形体を得ることができ、また移動した型をその後重合が終了するまで移動させないため、作業工程を簡略化することができる。
【0030】
また、本願の請求項2に係る発明では、重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの温度範囲が、155〜170°Cであり、この温度を型温で検知することにより、正確に上型と下型との一方を移動させることができる。
【0031】
本願の請求項3に係る発明は、上型と下型に設けた熱媒体室には、熱媒体の流路を形成する少なくとも1つの仕切板を設けたものであり、熱媒体の滞留を阻止することで、より一層上型や下型の温度を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する上型の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する下型の平面図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】上型と下型をそれぞれ成形機に設置した状態を示す図である。
【図6】下型を上昇させて上型に嵌合した状態を示す図である。
【図7】下型を下降させて成形体を取り出す状態を示す図である。
【図8】下型と上型との間に間隙を設けた状態で互いに嵌合した状態を示す断面図である。
【図9】下型と上型とを密着した状態を示す断面図である。
【図10】重合性ラクタム液の重合時間と系の温度との関係のモデルを示す代表的なグラフである。
【図11】実施例1における重合性ラクタム液の重合時間と系の温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 上型
2 本体
3 成形部
4 上板
5 熱媒体室
6 仕切板
8 注入口
9 排出口
15 下型
17 収容部
18 熱媒体室
19 外壁
20 仕切板
21 注入口
22 排出口
30 成形体
Claims (3)
- 実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合用開始剤とを加えた重合性ラクタム液を型内に注型した後、アニオン重合することによりバケット状注型ポリアミド樹脂成形体を製造する方法において、循環する熱媒体により加熱した下型に重合性ラクタム液を注型した後、同様に循環する熱媒体によって加熱した上型と該下型とを嵌合し、注型した重合性ラクタム液の重合時間と系の温度との関係を基にして、重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの間に、重合性ラクタム液が収容されている上型と下型との容積を小さくするように一方の型を移動させ、該上型と下型の位置を維持した状態で更に重合を進行させてこれを終了した後、上型と下型とを分離して成形体を取り出すことを特徴とするバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
- 重合性ラクタム液の重合発熱による系の温度上昇が平衡に達した時点から結晶化に伴う発熱後の系の温度が下降し始める時点までの温度範囲が、155〜170°Cである請求項1記載のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
- 上型と下型に設けた熱媒体室には、熱媒体の流路を形成する少なくとも1つの仕切板を設けた請求項1または2記載のバケット状注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
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