JP5052932B2 - ポリアミド樹脂板状成形体の製造方法 - Google Patents

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本発明は重合性ラクタム液を金型内に注型し、金型内で重合させることにより成形体とするポリアミド樹脂成形体の製造方法に係り、詳しくは板状成形体を板表面のヒケや真空ボイドの発生、空気の吸い込みによる気泡を生じることのないように製造することのできる製造方法を提供する。
注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法は、金型を熱風炉で所定の温度になるまで加熱しておき、この金型を炉から取り出して重合性ラクタム液をこれに注入し、再び金型を熱風炉に入れてラクタムを重合している。しかし、この方法によると、成形体は重合過程で内部に気泡を含みやすい欠点があった。通常、重合性ラクタム液をアニオン重合する際、約15%程度の体積収縮が発生する。この体積収縮が成形体内部に空洞欠陥を発生させる原因の一つになっていた。従来の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法においては、前述のような内部欠陥の発生を少なくすることが技術的に重要な課題となっていた。
このような成形体の内部欠陥を発生させないために、従来では重合性ラクタム液を加圧下で重合する方法が知られている。例えば、特許文献1には重合性ラクタム液が重合することによって粘度が最高に増加した時点でこれを加圧成形する方法が開示されている。
また、特許文献2には重合が進行する温度に保持された金型と重合が進行しない温度に保持された補助容器と断熱的に接続し、この補助容器に重合性ラクタム液を封入するとともにこれを不活性気体によって加圧し、重合性ラクタム液を常時金型に送り込むようにしてポリアミド成形体を加圧成形する方法が開示されている。
特許文献では板状成形体を製造する金型に重合性ラクタム液を流入させることのできる空洞部を設けて、重合の際のキャビティにおける重合収縮に応じてラクタム液を前記空洞部から補充し底部で発生するボイドや表面のヒケの発生を防止する技術が開示されている。
特公昭40−16153号公報 特公昭39−25202号公報 特開2004−255747号公報
金型に重合性ラクタム液を注型し、重合が進み始めると、粘度が上昇するとともに重合、結晶化に伴って15%程度の収縮が起きる。金型の上部においては重合性ラクタム液の液面が下がることによって収縮した分が補われるので問題はないが、キャビティの底部においては減圧状態となり、真空ボイド、金型の隙間からの空気の吸い込みによる気泡、板表面のヒケ(厚み不足)などが発生する。このようなボイド、気泡、ヒケが発生すると所定のサイズの製品が得られず不良となってしまう。
例えば、特許文献に開示されているような金型を用いて成形を行うことによって、キャビティの底部において発生する重合収縮によるヒケやボイドを幾分緩和することができるが、成形体の大きさが大きくなると前記のような問題を十分に解消することができないまた、気泡はラクタム液中を徐々に上昇して上部から排出されるが、ラクタム液中を板状成形体の長さ分上昇するのにはかなりの時間を要し完全に抜けきらない場合も発生することから、更なる改善が求められるものであった。
そこで本発明では、成形体の底部に限らず全体のヒケやボイドといった問題を解消することができるとともに気泡も発生しにくく、しかも一度に二枚の板状成形体を製造することができるポリアミド樹脂板状成形体の製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
以上のような目的を達成するために本発明の請求項1では、実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合開始剤とを加えた重合性ラクタム液を型内に注型した後、アニオン重合することによりポリアミド樹脂板状成形体を製造する方法において、凹V字形状の第1型面を有する下型と、該第1型面に適合する凸V字形状の第2型面を有し、下型との間にV状のキャビティを形成する上型とからなる金型を用い、該上型を下型との間に所定間隔をもって配置することで第1型面と第2型面との間にキャビティを形成し、該キャビティ内の重合性ラクタム液の重合を進行させ、上型の自重がA、上型を重合性ラクタム液に浮かしたときの浮力をF、上型の吊り下げ荷重をWとしたとき、重合性ラクタム液の重合が十分に進行して次式(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)を満足したときに、上型を開放して上型の自重により重合性ラクタム液の加圧を開始し加圧下で更に重合を続け、重合が完了した後、上型と下型を分離してV字形状の成形体を脱型し、該成形体のコーナー部分に沿って切断して2枚の板状成形体とすることを特徴とする。
請求項1では、V状のキャビティを有する金型にて重合性ラクタム液の成形を行っており、まず、成形時における重合性ラクタム液の高さは、垂直に立てた状態で成形を行う金型を用いた場合が板状成形体の一辺に等しくなるのと比べて大幅に小さくなり、ラクタム液中に混ざりこんだ空気は短時間で金型面に到達する。次に、金型が傾斜しているので後は金型面に沿って上昇し最終的に外気へ放出される。仮に金型面に気泡が残ったとしても成形体の表面になるので研摩などで手直しすることができ、成形体の内部に気泡が残ってしまう場合と比べると改善されているということができ、上型で加圧しながら重合することから製品にヒケや気泡の発生も少ない。また、V状のキャビティを形成することで一度に2枚の板状成形体を成形することができる。
上型は上支持台に固定配置され、上型の吊り下げ荷重を測定できるようになっており、上型の吊り下げ荷重をW、上型自身の自重をA、上型を重合性ラクタム液に浮かせたときの浮力をFとするとき、上型の吊り下げ荷重Wが(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)の式を満たす数値になったときに、上型を上支持台から開放するとなっているが、重合性ラクタム液の重合が進行して上型の自重がかかっても上型を支えることができる程度になったタイミングで上型を開放して加圧を開始し、製品のヒケやボイドの発生を防止するものであり、粘度が適当な数値に到達したのを簡便に検知することができる。
図1は本発明のポリアミド樹脂板状成形体の製造装置の例を示す正面図である。これによると、図1では下型1と上型2をそれぞれ製造装置20の所定個所に設置している。本発明で用いる下型1は図1にも示すように、凹V字形状の第1型面を有しており、一方上型は前記下型1の凹V字形状と適合する凸V字形状の第2型面を有している。この第1型面と第2型面とを嵌めあうことによってV状のキャビティCが形成される。本発明ではこのV状のキャビティCを使用して1度に2枚のポリアミド樹脂板状成形体を成形するものである。
注型ポリアミド樹脂成形体を製造する際に原料に含まれる空気が残ったまま重合して成形体となり、成形体の内部にボイド等が発生するという問題があった。従来、板状成形体の製造は金型を垂直に立てた状態で行っており、原料である重合性ラクタム液中に含まれた空気は放置しておくことによって原料の上方へ抜けるが、重合性ラクタム液程度の粘度であると空気は徐々にしか移動することができず、成形体の高さ方向の距離を通過して空気完全に抜いてしまうのは困難であった。
本発明で使用するようなV状のキャビティCにてポリアミド樹脂板状成形体を製造することによって、重合性ラクタム液中に含まれた空気は重合性ラクタム液を板状成形体のほぼ厚み分の短い距離だけ通過すればよく、原料中の空気を抜きやすい。金型を完全に水平に寝かした状態にするとより空気は抜けやすくなるが、上側の型面に到達した後にその場に滞留してしまう空気がどうしても発生し、成形体表面のボイドとなってしまう。しかし、角度をつけておくことで型面に沿って上方に抜けていくので、成形体表面のボイドの発生も低減することができる。
図1に示す製造装置20では下型1を設置固定した下支持台21の上に支柱22が直立状態で固定され、更に支柱22の上端には上支持台23が固定されている。上支持台23には昇降手段24を介在して上型2が下型1と対面するように取り付けられており、上支持台23に対して上下動して下型1と嵌合可能になっている。
上型2の上下動は、昇降手段24によって行い、例えば原動機の駆動により基板に支持されていたボールネジを回転させ上型2を上下方向へ往復動させるといった方法をあげることができる。上限の停止はリミットスイッチにより行うことができる。
上型2は昇降手段24により昇降する可動バー25にロック機構を介して設置されており、該ロック機構は上型を可動バー25に対して固定し、あるいはこれを開放することができる。ロック機構を開放することにより、上型2は自重によって下方へ落下する状態となる。また、可動バー25と上型2との間にロードセル26を介しており、前記ロック機構を作動させた状態でこのロードセル26によって上型2の吊り下げ荷重を測定できるようになっている。
図1〜図4は本発明に係るポリアミド樹脂板状成形体の製造方法の製造工程を示す図であり、まず、下型1と上型2ともに150〜170℃に加熱した状態にし、上型2を上昇させて下型1を開口させる(図1)。次いで下型1に所定量の重合性ラクタム液を注型する(図2)。
重合性ラクタム液は、ω−ラクタムを脱水タンク内において減圧下で脱水して実質上無水の状態にした後、窒素などの不活性気体で置換される。脱水タンクの中のω−ラクタムは、計量されて2つの注型タンクへ入れられ、その後所定量のアニオン重合触媒がω−ラクタムの入った一方の注型タンクに、また所定量のアニオン重合開始剤がω−ラクタムの入った他方の注型タンクに投入される。注型は各注型タンクから排出されミキシング部で混合撹拌された重合性ラクタム液を150〜170℃に温度調節した下型に注型する。
重合性ラクタム液が注型された下型1に向かって上型2を下降させて下型1の凹V字形状を有する第1型面3と、凸V字形状を有する第2型面4とを嵌合接近させることでV状のキャビティCを形成する(図3)。その時上型2は下型1内に注型した重合性ラクタム液に浸かった状態になるが、上型2はロック機構にて可動バー25にロックされた状態である。この状態で加熱を続けて重合性ラクタム液の重合を進行させる。
上型2の吊り下げ荷重は重合性ラクタム液からの浮力がかかるので上型2の自重よりも小さくなっている。重合が進行するにつれて重合性ラクタム液の重合収縮及び結晶化収縮により上型を引き付ける力が発生する。上型が引き付けられると上型2の吊り下げ荷重が自重を超えて急激に上昇する。本発明では、そのタイミングで上型2から重合途中の成形体に対して荷重をかけることによって成形体のヒケの発生を防止することができ良好な表面を有する成形体とすることができる。
成形体に加圧を開始するべき重合性ラクタム液の重合収縮及び結晶化収縮による上型2の引き付けが大きくなるタイミングは、ロードセル26での上型2にかかっている吊り下げ荷重の数値の変化によって検知することができ、上型2の吊り下げ荷重をWとし、上型2の自重をAとし、浮力をFとすると(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)の式を満たしたときに重合性ラクタム液への加圧を開始する。重合性ラクタム液への加圧は、ロック機構を解除することによって上支持台20から上型2を開放して下方へ落下させることによって上型2の自重で重合性ラクタム液の加圧を行うことができる。加圧状態にして更に重合を進行させる。そうすることによって、重合性ラクタム液は上型2により加圧されているので、更に結晶化が進行し、成形体の体積が徐々に収縮しても内部に空洞欠陥を持たない均一な厚みの成形体に仕上げることができる。
上型2の吊り下げ荷重Wが(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)の範囲を下回る状態で上型2を落下させて加圧を開始すると、重合性ラクタム液が重合初期で粘度が十分に上昇していないために流動して成形体の厚みが不足する。一方、(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)の範囲を超えると加圧のタイミングがずれて加圧さていない状態で重合性ラクタム液の結晶化が進んで大きく体積収縮するために、加圧が不十分になって成形体内部に空洞欠陥が発生するばかりでなく、成形体の外観に凹部が発生しやすくなる。
重合が完了しても、下型1と上型2の温度を一定にし、上型を上昇させて重合した成形体5を金型から取り出す(図4)。10g/kg以下の比湿を維持しながら重合を終えると、成形体の上面には未反応の液状モノマーが残存することがなく、外観の良好なポリアミド樹脂成形体5を得ることができる。
取り出した成形体は図5に示すようにV字形状となっているのでコーナー部分に沿って切断し2枚の板状成形体を得ることができる。
本発明で使用する上記ω−ラクタムは、実質上無水のα−ピペリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−カプリルラクタム、ω−デカノラクタム、ω−ウンデカノラクタム等あるいはこれらの2種以上の混合物であり、工業的に有利なラクタムはε−カプロラクタムとω−ラウロラクタムである。
また、本発明で使用するアニオン重合触媒は、水素化ナトリウム、水素化リチウム、ナトリウム、カリウム等の公知のω−ラクタムの重合触媒を使用することができ、その添加量はω−ラクタムに対して0.1〜2.0モル%である。そして、アニオン重合開始剤としては、例えばN−アセチル−ε−カプロラクタム、イソシアネート、ジイソシアネート、尿素誘導体、ウレタン、イソシアヌレート誘導体であり、その添加量はω−ラクタムに対して0.05〜1.0モル%の範囲内であることが好ましい。
上記製造方法では、アニオン重合触媒をω−ラクタムに添加し溶解した後、アニオン重合開始剤を注型時または注型後に添加混合する方法、またはアニオン重合触媒を含むω−ラクタムとアニオン重合開始剤を注型時または注型後に添加混合する方法、またはアニオン重合触媒を含むω−ラクタムとアニオン重合開始剤を含むω−ラクタムとを注型時または注型後に添加混合する方法によって調整する。また、ω−ラクタムの重合は100〜210℃の温度で実施可能であるが、好ましくは130〜180℃である。
また、本発明方法を実施するに際して、上記成分以外に重合を阻害しない油類、ワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の滑剤や、カーボン繊維、ウォラストナイト等の補強材を添加することも可能である。
(実施例)
脱水タンクの中で脱水されたε−カプロラクタムを一方の注型タンクへ10kg、他方の注型タンクへ10kg入れた後、一方のタンクへ水素化ナトリウム(62.5%油性)を添加して溶解させ、更に他方の注型タンクへ45gのトリフェニルイソシアヌレートを添加した。この間、注型タンク内を大気圧下で窒素を流しつつ、更に重合性ラクタム液を125℃まで昇温しながらミキシングした。
凹V字形状の第1型面を有する下型と凸V字形状の第2型面を有する上型を成形機に設置し、それぞれの温度を169℃と167℃に調整して型を加熱した。上型の温度は表面温度計を用い、下型は外壁に貼り付けた温度センサーにより測定した。また、このときの部屋の湿度を空調機により所定値に調節した。その後、ミキシングした重合性ラクタム液を下型に流し込んだ後、所定温度に調整した上型を下降させて下型の凹V字形状の第1型面に上型の凸V字形状の第2型面を嵌合して、上型と下型との間にV状のキャビティを形成した状態で重合を開始した。このとき、上型は上支持台にロックされている。
上型の吊り下げ荷重は、下型と嵌合した直後では浮力により上型の自重より小さくなっているが、重合が進行すると上型の自重を超えて急激に上昇する。上型の吊り下げ荷重がその自重に達した時点でロック機構を開放して上型を自重により下方へ落下させ、加圧状態にして重合を更に進行させた。重合を終えると上型を上昇させて成形体を取り出し、V状の角部で切断して2枚の板状成形体とした。
得られた成形体はヒケや気泡等の欠陥のない良好なものであった。
(比較例)
比較例では重合途中における上型を開放することによる自重での加圧を行わなかった以外は実施例と全く同様にして重合を完了し、金型から取り出したV状の成形体を角部で切断して2枚の板状成形体とした。
得られた成形体は、製品表面全体に不均一なヒケが生じ、狙いの厚みの製品が得られなかった。また、成形時の底部付近に気泡の発生が見られた。
重合性ラクタム液を金型内で重合させて板状成形体を製造するモノマーキャスティングナイロンの製造に利用することができる。
本発明のポリアミド樹脂板状成形体の製造装置の正面図である。 図1において下型に重合性ラクタム液を注型したところの正面図である。 重合性ラクタム液を注型した下型に上型を降下させたところの正面図である。 重合完了後に上型を上昇させたところの正面図である。 脱型したV状の成形体の斜視図である。
1 下型
2 上形
3 第1型面
4 第2型面
5 成形体
20 製造装置
21 下支持台
22 支柱
23 上支持台
24 昇降手段
25 可動バー
26 ロードセル
C キャビティ

Claims (1)

  1. 実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合開始剤とを加えた重合性ラクタム液を型内に注型した後、アニオン重合することによりポリアミド樹脂板状成形体を製造する方法において、凹V字形状の第1型面を有する下型と、該第1型面に適合する凸V字形状の第2型面を有する上型を用い、該上型を下型との間に所定間隔をもって配置することで第1型面と第2型面との間にキャビティを形成し、該キャビティ内の重合性ラクタム液の重合を進行させ、上型の自重がA、上型を重合性ラクタム液に浮かしたときの浮力をF、上型の吊り下げ荷重をWとしたとき、重合性ラクタム液の重合が十分に進行して次式(A−0.5F)≦W≦(A+2.5F)を満足したときに、上型を開放して上型の自重により重合性ラクタム液の加圧を開始し加圧下で更に重合を続け、重合が完了した後、上型と下型を分離してV字形状の成形体を脱型し、該成形体のコーナー部分に沿って切断して2枚の板状成形体とすることを特徴とするポリアミド樹脂板状成形体の製造方法。
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