JP3758727B2 - 燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁弁の開閉により燃料噴射時期を制御する燃料噴射装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射装置において、インジェクタに収容された制御ピストンの反噴射側に制御圧力室を設け、制御圧力室と燃料低圧側とを電磁弁で断続することにより燃料噴射時期を制御するものが知られている。このような燃料噴射装置では、制御圧力室の燃料流入側および流出側にそれぞれ流入絞りおよび流出絞りを設け、流出絞りの流路面積を流入絞りの流路面積よりも大きくすることにより、電磁弁の開弁時、制御圧力室の燃料圧力を低下させ、制御ピストンとともにニードル弁をリフトさせ燃料を噴射させている。
【0003】
このような燃料噴射装置では、流出絞りと流入絞りの流路面積差、つまり流路の径差を小さくすることにより初期噴射率を低減し、制御圧力室の圧力低下速度を減少させて排ガス中のNOx等を低減することが考えられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述したような従来の燃料噴射装置では、流出絞りと流入絞りの流路の径差を小さくすると、制御圧力室の圧力低下限界値が上昇し、コモンレールから供給される圧力が低圧の場合、燃料噴射不能となることがある。エンジン性能上必要な最低噴射圧を満たしつつ、排ガスを浄化するために流出絞りと流入絞りの流路径差を小さくした燃料噴射装置を定性的に、かつ容易に設計する手法は知られておらず、噴射装置毎に多くの設計工数を必要としている。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、要求仕様に応じて容易に設計可能な燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載の燃料噴射装置の設計手法によると、制御ピストンの径をdP、ニードル弁のガイド径をdNG、ニードル弁のシート径をdNS、エンジンにて性能上必要な最低噴射圧であるインジェクタの必要最低噴射圧をPIL、ニードル弁の開弁圧をP0、流入絞りの径をd1、流出絞りの径をd2とすると、
d2/d1>{dP 2×PIL/((dNG 2−dNS 2)×(PIL−P0))−1}1/4
という式を満たすように流入絞りの径d1および流出絞りの径d2を設定することにより、コモンレールからインジェクタに供給される燃料供給圧が必要最低噴射圧PILとなるときにおいても、インジェクタから燃料噴射を可能としている。したがって、エンジン性能上必要な最低噴射圧やインジェクタの体格等、要求仕様に応じて燃料噴射可能な燃料噴射装置を定性的に容易に設計することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を示す実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施例によるディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射装置を図1および図2に示す。
図1に示すように、インジェクタ1の下端部に設けられた噴射ノズル2のノズルボディ11には図示しない噴孔を開閉するニードル弁20が往復移動可能に収容されている。ノズルボディ11およびインジェクタボディ13はディスタンスピース12を挟んでリテーニングナット14により結合されている。ニードル弁20の反噴射側にはプレッシャピン21、およびこのプレッシャピン21と反噴射側で接触あるいは連結する制御ピストン22が配設されている。プレッシャピン21はスプリング23内に貫挿されており、スプリング23はプレッシャピン21を図1の下方に付勢している。制御ピストン22の反噴射側には制御圧力室40が設けられている。
【0008】
燃料インレット70を通して図示しないコモンレールから高圧燃料が燃料供給通路61に供給され、この高圧燃料は、後述する流入絞り41を介して制御圧力室40に供給される。インジェクタ1内の余剰燃料は燃料排出通路64からインジェクタ外部に排出される。
電磁弁30は二方電磁弁であり、インジェクタボディ11の上方に配設されている。電磁弁30の弁部材31は、バルブボディ33に往復移動可能に支持されており、バルブボディ33に設けた弁座33aに着座可能である。弁部材31はスプリング37により弁座33aに向けて付勢されている。弁部材31内には軸方向両端に開口する圧力バランス室31aが設けられている。圧力バランス室31aの反制御圧力室側の一方の開口部は圧力バランス室31aを形成する弁部材31の内壁と摺動するバランスピストン32により封止されている。圧力バランス室31aの他方の開口部は制御圧力室側に開口しており、圧力バランス室31aは制御圧力室30と連通している。
【0009】
弁部材31のシート面積とバランスピストン32の断面積とはほぼ等しい。つまり、弁部材31が弁座33aに着座した図1に示す状態では、弁部材31が制御圧力室側の高圧燃料からリフト方向に受ける力と、圧力バランス室31aの高圧燃料から弁座33aへの着座方向に受ける力はほぼ等しくなっている。弁部材31の他の受圧面に働く燃料圧力は、制御圧力室側の高圧燃料および圧力バランス室31の高圧燃料に比較して極めて小さいので、弁部材31が電磁弁30の開弁方向および閉弁方向に受ける力はほぼ等しいと考えることができる。したがって、スプリング37の付勢力を小さくしても弁部材31は弁座33aに着座可能である。さらに、スプリング37の付勢力に抗して弁部材31をリフトするコイル34の吸引力も小さくできるので、電磁弁全体の体格を小型化できる。
【0010】
バランスピストン32は、圧力バランス室31aの他方の開口部を封止しており、圧力バランス室31aを形成する弁部材31の内壁と摺動可能である。エンジンが始動し、コモンレールからインジェクタ1に燃料が供給されると、バランスピストン32は圧力バランス室31aの圧力によりストッパ38に当接する。コイル34はコア35に巻回されており、コネクタ50のピン51からコイル34に駆動パルスが供給される。コイル34への通電をオンしたときに発生する磁力によりスプリング37の付勢力に抗してアーマチャ36とともに弁部材31が吸引され、弁部材31は弁座33aから離座する。
【0011】
図2に示すように、制御ピストン22の反噴射側に設けられた制御圧力室40は流入絞り41を介して燃料供給通路61と連通しているとともに、流出絞り42を介して圧力バランス室31aと連通している。流出絞り42の流路径は流入絞り41の流路径よりも大きい。つまり、流出絞り42の流路面積は流入絞り41の流路面積よりも大きい。弁部材31が弁座33aに着座している場合、制御圧力室40および圧力バランス室31aは燃料低圧側としての燃料排出通路62との連通を遮断されている。
【0012】
図1に示すように弁部材31が弁座33aに着座した状態では、制御圧力室40および圧力バランス室31aは燃料排出通路62との連通を遮断されている。弁部材31が弁座33aから離座すると、制御圧力室40の高圧燃料は流出絞り42から燃料排出通路62、63、64に流出し、インジェクタ1から例えば燃料タンクに還流される。
【0013】
次に、インジェクタ1の作動について説明する。
(1) コイル34への通電オフ時、弁部材31は弁座33aに着座しているので制御圧力室40および圧力バランス室31aと燃料排出通路62との連通は遮断されており、制御圧力室40および圧力バランス室31aの燃料圧力は高圧である。このとき、前述したように電磁弁30の開弁方向および閉弁方向に燃料圧力から弁部材31が受ける力はほぼ等しくなっている。
【0014】
(2) コイル34への通電をオンすると、弁部材31は弁座33aから離座し制御圧力室40は低圧側の燃料排出通路62と連通する。このとき、流出絞り42の流路面積が流入絞り41の流路面積よりも大きいので、制御圧力室40の燃料圧力が低下する。制御圧力室40の圧力が低下すると制御ピストン22とともにニードル弁20がリフトし、噴孔から燃料が噴射される。
【0015】
ここで、制御ピストン22の径をdP 、ニードル弁20のガイド径をdNG、ニードル弁20のシート径をdNS、コモンレールからインジェクタ1に供給される燃料供給圧をPC 、ニードル弁20の開弁圧をP0 とすると、噴射を開始するために必要な制御圧力室40の圧力PCC1 は次式(1) で示される。
PCC1 =(dNG 2 −dNS 2 )×(PC −P0 )/dP 2 ・・・(1)
式(1) において、開弁圧P0 は、制御圧力室40の圧力を考慮しない場合にニードル弁20をリフトさせるのに必要な燃料供給圧を示している。スプリング23の付勢力FS は、開弁圧P0 、ニードル弁20のガイド径dNGおよびニードル弁20のシート径dNSから次式(2) で表され、式(2) から開弁圧P0 を求めることができる。
【0016】
FS =(π/4)×(dNG 2 −dNS 2 )×P0 ・・・(2)
本実施例では、dNG=4mm、dNS=2.25mm、dP =5mm、FS =10.3kgf 、P0 =120kgf/cm2 である。
また、弁部材31が弁座33aから離座した状態において、図3に示すように、流入絞り41の流量をQ1 、流量係数をC1 、流出絞り42の流量をQ2 、流量係数をC2 とすると、制御圧力室40への流入量と制御圧力室40からの流出量とが平衡し、図4に示すように制御圧力室40の圧力PCCが一定の最低圧PCC2 となる定常状態ではQ1 =Q2 となり、最低圧PCC2 は次式(3) で表される。
【0017】
C1 ×d1 2×(PC −PCC2 )1/2 =C2 ×d2 2×PCC2 1/2 ・・・(3)
C1 =C2 と仮定すると、PCC2 は次式(4) のように表され、燃料供給圧PC とともにd2 /d1 の値によっても変化する。
PCC2 =PC /{1+(d2 /d1 )4 } ・・・(4)
図5において、点線は式(1) を示し、実線はd2 /d1 を変化させたときの式(4) を示す。インジェクタ1はPCC1 >PCC2 の領域で噴射可能であるから、図5において点線と各実線との交点における値よりも燃料供給圧PC が高くなれば噴射可能である。図5から判るように、d2 /d1 の値を大きくすると噴射可能な燃料供給圧PC の最小値が低下する。
【0018】
式(1) および式(4) をPCC1 >PCC2 に代入すると、次式(5) になる。
(dNG 2 −dNS 2 )×(PC −P0 )/dP 2
>PC /{1+(d2 /d1 )4 } ・・・(5)
式(5) を整理し燃料供給圧PC に代えてエンジン性能上必要な最低噴射圧PILを代入すると、次式(6) になる。
【0019】
したがって、制御ピストンの径dP 、ニードル弁のガイド径dNG、ニードル弁のシート径dNS、ニードル弁の開弁圧P0 、必要最低噴射圧PILが変更されても、式(6) を満足するようにd2 /d1 の値を設定することにより、インジェクタから燃料を噴射することができる。
【0020】
(3) コイル34への通電をオフすると、スプリング37の付勢力により弁部材31は弁座33aに着座し圧力バランス室40と燃料排出通路62との連通が遮断される。そして、制御圧力室40の圧力PCCが上昇し制御ピストン22とともにニードル弁20は噴孔閉塞方向に移動する。これにより噴孔からの燃料噴射が終了する。
【0021】
したがって、本発明の上記実施例で述べたことから判るように、制御ピストンの反噴射側に設けた制御圧力室と燃料低圧側とを電磁弁で断続し、燃料噴射量および燃料噴射時期を制御する燃料噴射装置において、式(6) を満たすように流出絞りおよび流入絞りの径を決定すれば、インジェクタの仕様やエンジン性能から要求される必要最低噴射圧が変化しても燃料を噴射可能な燃料噴射装置を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による燃料噴射装置を示す断面図である。
【図2】本実施例の主要部分を示す拡大断面図である。
【図3】燃料の流入側と流出側とに絞りを設けた制御圧力室の作動を示す模式的説明図である。
【図4】制御圧力室の圧力変化を示す特性図である。
【図5】流入絞りに対する流出絞りの流路径の比を変化させたときの噴射可能領域および噴射不可能領域を示す特性図である。
【符号の説明】
1 インジェクタ(燃料噴射装置)
20 ニードル弁
22 制御ピストン
30 電磁弁
40 制御圧力室
41 流入絞り
42 排出絞り
61 燃料供給通路
Claims (1)
- インジェクタの噴射ノズルの噴孔にコモンレールから供給される高圧燃料を供給可能な燃料供給通路と、
前記燃料供給通路と前記噴孔とを断続するニードル弁と、
前記ニードル弁の反噴射側に前記ニードル弁とともに往復移動可能に設けられた制御ピストンと、
前記制御ピストンの反噴射側に設けられ前記燃料供給通路と連通する制御圧力室と、
前記制御圧力室と燃料低圧側とを断続する電磁弁とを備え、
前記燃料供給通路と前記制御圧力室との間に流入絞りを設けるとともに前記制御圧力室と燃料低圧側との間に前記流入絞りよりも流路径の大きい流出絞りを設けたエンジンの燃料噴射装置の設計手法において、
前記制御ピストンの径をdP、前記ニードル弁のガイド径をdNG、前記ニードル弁のシート径をdNS、前記エンジンにて性能上必要な最低噴射圧である前記インジェクタの必要最低噴射圧をPIL、前記ニードル弁の開弁圧をP0、前記流入絞りの径をd1、前記流出絞りの径をd2とすると、
d2/d1>{dP 2×PIL/((dNG 2−dNS 2)×(PIL−P0))−1}1/4
という式を満たすように前記流入絞りの径d1、前記流出絞りの径d2を設定することにより、前記コモンレールから前記インジェクタに供給される燃料供給圧が前記必要最低噴射圧PILとなるときにおいても、前記インジェクタから燃料噴射を可能とすることを特徴とする燃料噴射装置の設計手法。
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