JP3758606B2 - 真空分析装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高真空(低い圧力)に保持すべき室の内部に低真空室(圧力が高い室)が配置された構造を有する分析装置に関する。この低真空室には外部からガスが導入され、また、低真空室と高真空室との間には小さい連通孔が存在する。典型的には、化学イオン化法によるイオン源室を内部に備えたガスクロマトグラフ質量分析装置がこのような分析装置に該当する。
【0002】
【従来の技術】
ガスクロマトグラフ質量分析装置において、クロマトグラフで分離された試料ガス分子をイオン化する方法には、化学イオン化(CI)法と電子衝撃イオン化(EI)法がある。CI法では、熱電子等により反応性ガスをまずイオン化し、それと接触させることにより試料ガス分子をイオン化する。EI法では、試料ガス分子に熱電子を直接衝突させて試料ガス分子をイオン化する。EI法では熱電子との衝突により試料ガス分子の一部が分解してしまうことがあるため、試料ガス分子の分子量測定を行う場合にはCI法が主に用いられる。
【0003】
ガスクロマトグラフ質量分析装置の概略構造を図1に示す。質量分析室11内にはイオン源12、四重極型や飛行時間型等の質量フィルタ13、それにイオン検出器14等が配置される。分析の際には、質量分析室11内は10-3〜10-4Pa程度の高真空に維持しなければならない。そこで、質量分析室11は、ターボ分子ポンプ15等の高真空ポンプと、その背圧を低下するためのロータリーポンプ16等の低真空ポンプにより2段排気される。
【0004】
イオン源12がCI法を用いたものである場合、そこには反応性ガスを導入しなければならない。そのため、イオン源12とその外側の質量分析室11との圧力差は非常に大きいものとなる。イオン源12には当然、イオンを質量フィルタ13に向けて放出するための通路が設けられている。
【0005】
図1のガスクロマトグラフ質量分析装置をイオン源側の正面から見た図を図2に示す。イオン源12には、反応性ガスを導入するためのガス供給管17が接続される。CI法では、メタン、イソブタン、アンモニアなど、試料に応じた反応性ガスが用いられる。図2には、2種の反応性ガスを切り換えてイオン源に導入するための配管例が示されている。
【0006】
質量分析において、或る試料の分析が終了し、別の種類の試料を分析しようとする際、それに応じて反応性ガスを変更しなければならないことがある。このとき、イオン源12及びガス供給管17内に残留する古い反応性ガスを一旦十分に排出した後に新しい反応ガスを導入する必要がある。そのため、従来は次のような方法がとられていた。
【0007】
まず図2に示すように、質量分析室11を排気するための真空ポンプ(ロータリーポンプ16)をイオン源12及びガス供給管17を排気するためにも利用する方法が考えられる。しかしこの方法では、イオン源12等を排気するために排気開閉弁22を開いた瞬間に質量分析室11の真空度が大きく低下してしまう。通常、質量分析室11内のイオン検出器14には高電圧が印加されており、質量分析室11の真空度が低下すると、最悪の場合、イオン検出器14が破損する。
【0008】
そこで図3に示すように、イオン源12等を排気するための専用のポンプ25を設ける方法が考えられる。しかし、この方法は当然コスト的に不利である。
【0009】
それに対し図4に示すように、配管は図2と同様にしつつ、ロータリーポンプ16とガス供給管17との間に排気抵抗管24を入れる方法がある。これにより、排気開閉弁22を開いた瞬間に質量分析室11の真空度が急激に低下するということが防止される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図4の装置では排気抵抗管24が存在するために排気に要する時間が長く、実用的な時間内にはイオン源12及びガス供給管17内の真空度を十分満足できるレベルにすることができないという問題があった。
【0011】
以上、ガスクロマトグラフ質量分析装置を例に挙げてその課題となる点を述べたが、このような課題は質量分析装置に限らず、高真空度が求められる分析室とその中に配置された、ガスが導入される低真空室という2重真空室構造を有する分析装置に共通するものである。以下、このような構造を有する分析装置を真空分析装置と呼ぶ。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、分析を行う高真空室の真空度を低下させることなく短時間でかつ十分な真空度まで低真空室及びガス供給管を排気することができる真空分析装置、特に質量分析装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係る真空分析装置は、
a)高真空室と、
b)該高真空室を排気するために、連結管により互いに直列に接続された高真空ポンプ及び低真空ポンプと、
c)該高真空室内に設けられた、高真空室との間に連通孔を有する低真空室と、
d)該低真空室内にガスを供給する、ガス供給開閉弁を有するガス供給管と、
e)該ガス供給管の該ガス供給開閉弁よりも低真空室側の部分と上記連結管とを接続し、排気開閉弁を備える低真空室排気管と、
f)上記低真空ポンプを運転しつつ、該排気開閉弁を間欠的に開閉する制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の構成は次の通りである。分析が行われる高真空室にはターボ分子ポンプ等の高真空ポンプが接続され、高真空ポンプにはその背圧を低下させるためにロータリーポンプなどの低真空ポンプが連結管を介して接続される。高真空室内には、高真空室との間に連通孔を有する低真空室が設けられており、その低真空室には、高真空室の外部と連通するガス供給管が接続されている。ガス供給管にはガス供給開閉弁が設けられている。
【0015】
低真空室排気管は、ガス供給管と、上記(高真空ポンプと低真空ポンプの間を接続する)連結管とを接続する。ここで、低真空室排気管は、ガス供給開閉弁よりも低真空室側のガス供給管に接続される。この低真空室排気管には排気開閉弁が設けられる。なお、低真空室排気管は後述のように低真空室内とガス供給管内の双方を排気するために用いられるが、本明細書では便宜上「低真空室排気管」と呼ぶ。
【0016】
上記各部の動作は次の通りである。高真空室は高真空ポンプとそれを補助する低真空ポンプにより排気され、高真空に維持される一方、低真空室にはガス供給管を通じてガスが供給される。
【0017】
この低真空室及びガス供給管の排気が必要になった時、まず、ガス供給管のガス供給開閉弁を閉鎖する。次に、排気開閉弁を開放すると、低真空ポンプにより低真空室及びガス供給管内が排気される。しかし、排気開閉弁を連続的に開放したままにすると、連結管内の圧力が上がり、高真空ポンプの背圧が低下して、高真空室内の圧力が上昇(真空度が低下)してしまう。そこで本発明では、制御部は、排気開閉弁を連続的に開放したままとするのではなく、間欠的に開閉する。これにより、高真空室内の圧力上昇(真空度低下)が防止される。
【0018】
制御部による排気開閉弁の間欠的開閉制御は、フィードバック制御としてもよいし、時間制御としてもよい。フィードバック制御とは、連結管又は高真空室に圧力測定手段を設け、その測定値が所定値以上とならないように開閉制御を行う方法である。時間制御は、排気開始後、所定の時間だけ開閉制御を行うという方法である。間欠的開閉制御が必要とされる時間は装置の構成によりほぼ定まっているため、予め実験を行っておくことによりこの時間を定めておくことができる。
【0019】
なお、この時間制御の際は、開閉制御を行っている間の排気開閉弁の開放の時間は、初めは短く、徐々に長くしてゆくことが望ましい。これは、初めは当然低真空室等と連結管との圧力差が大きいため、短時間の開放でも連結管内の圧力が上昇しやすいのに対し、その後、両者の圧力差が縮小した後は開放時間を長くして、排気の効率を上げることが望ましいということである。
【0020】
なお、間欠的開閉制御により高真空室内の圧力が大きな影響を受けない程度に低真空室内とガス供給管内の圧力が低下した後は、それらを更に十分に排気するために、排気開閉弁を開放したままとする。
【0021】
上記の真空分析装置の説明において、高真空室を「質量分析室」、低真空室を「イオン源」とすれば、上記質量分析装置に適用することができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明に係る真空分析装置によって、高真空室の圧力低下を防止しつつ、低真空室及びガス供給管内の排気を速やかに行うことができる。
【0023】
具体的に、上記従来技術の各真空分析装置と比較すると、本発明に係る真空分析装置は以下のような利点を持つ。図4の、排気抵抗管を用いた真空分析装置と比較すると、排気開閉弁の間欠的な開閉が終了し排気開閉弁が開放されたままになった後に、排気抵抗が格段に低くなる。これにより、実用的な時間内に低真空室内を十分満足できるレベルの真空度まで排気することができるようになる。図3の、低真空ポンプを2台備える真空分析装置と比較すると、別途低真空ポンプを使用しなくてもよいという点で有利であることは言うまでもない。
【0024】
【実施例】
本発明に係る真空分析装置の一実施例であるガスクロマトグラフ質量分析装置を説明する。本実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置の全体の構成は図1に示した通りである。なお、図1では四重極型質量フィルタ13を用いているが、その他に飛行時間型やエンドキャップ型等、種々の質量フィルタに対しても本発明を適用することができる。
【0025】
図5は、本実施例であるガスクロマトグラフ質量分析装置の配管図である。質量分析室11には高真空ポンプであるターボ分子ポンプ15が接続され、ターボ分子ポンプ15には、連結管28を介して、低真空ポンプであるロータリーポンプ16が接続される。この2段排気により、質量分析室11の内部は10-3〜10-4Paという低い圧力(高い真空度)に保持される。なお、連結管28内の圧力は数Pa程度である。質量分析室11の圧力は真空計26により、また、連結管28内の圧力は真空計27によりそれぞれ測定される。
【0026】
イオン源12には、ガス供給管17により反応性ガス源18が接続される。ガス供給管17には、イオン源12に導入される反応性ガスの導入量を調整するために反応性ガス導入抵抗管19が設けられる。図2には2種類の反応性ガス源18を使い分ける場合の例を示したが、1種類のみ又は3種類以上の反応性ガス源18を使用する場合でも、以下の説明はほぼ同様である。各反応性ガス源18には反応性ガス導入弁20が設けられる。
【0027】
連結管28とガス供給管17はイオン源排気管21により接続され、イオン源排気管21には排気開閉弁22が設けられる。排気開閉弁22は、イオン源12及びガス供給管17の排気を行う時(後述)以外は常時閉鎖されている。
【0028】
本実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置全体の動作を制御するために、制御部23が設けられている。上記両真空計26,27からの圧力信号はこの制御部23に送られ、また、制御部23からの制御信号が上記反応性ガス導入弁20及び排気開閉弁22にそれぞれ送られる。
【0029】
試料を分析する際は、その試料に応じた反応性ガス導入弁20を開放することにより、対応する反応性ガスがガス供給管17を通ってイオン源12に導入される。イオン源12内では試料がこの反応性ガスによりイオン化され、それがイオン源12から引き出されて質量分析室において測定される。
【0030】
分析開始前、及び、試料の変更に伴い反応性ガスを変更する時には、イオン源12及びガス供給管17内の排気を行わなければならない。制御部23は、次の手順でこれを行う。まず、反応性ガス導入弁20を閉鎖する。この時、ガス供給管17内の圧力は、通常は大気圧よりも高くなっている。次に、排気開閉弁22を間欠的に開閉する。
【0031】
排気開閉弁22の間欠的開閉制御をフィードバック法で行う場合、制御部23は、真空計27からの信号により連結管28内の圧力をモニターしつつ、次のような制御を行う。その際の連結管28内の圧力の変化を図6に示す。
【0032】
排気開閉弁22を開放後、連結管28内の圧力が予め定められた第1の所定値P1を超えた時点で排気開閉弁22を閉鎖する。連結管28内の圧力は、排気開閉弁22を閉鎖した直後はオーバーシュートによりやや上昇するが、その後、常時運転されているロータリーポンプ16により徐々に低下してゆく。この第1の所定圧力P1は、このオーバーシュートを見込んだ上でなおターボ分子ポンプの背圧が所定の限界値P0に達しないようにあらかじめ決定しておく。限界値P0は、ターボ分子ポンプの背圧がその値以上になると質量分析室内の圧力が所定の危険値以上に上がり、質量分析室内の検出器等の装置に悪影響を与えるような圧力値である。
【0033】
そして、連結管28内の圧力が第2の所定値P2(もちろん、第1の所定値P1よりも小さい)以下に下がったとき、排気開閉弁22を開放する。これによりイオン源12とガス供給管17内の圧力が下がる一方、連結管28内の圧力は上がる。連結管28内の圧力が上記第1の所定値P1を超えた時点で、制御部23は再度排気開閉弁22を閉鎖する。このような間欠的開閉を繰り返すことにより、イオン源12とガス供給管17の内部の旧反応ガスは徐々に排出されてゆく。イオン源12等の内部の排気が十分進むと、連結管28内の圧力は第1所定値P1以上に上がらないようになるため、排気開閉弁22は連続的に開放された状態となる。そして、連結管28内の圧力が第2の所定値P2よりも小さい第3の所定値P3以下になったとき、イオン源12等の排気が十分に行われたものとして、排気開閉弁22を閉鎖し、次の試料に対応した反応性ガス導入弁20を開放して、反応性ガスをイオン源12に導入する。
【0034】
なお、上記では連結管28内の圧力をモニターしつつ排気開閉弁22の開閉制御を行うとしたが、質量分析室内の圧力を(真空計26で)モニターしつつ開閉制御を行うようにしてもよい。質量分析室用の圧力計は一般に用いられているため、それをそのまま利用することができる点でメリットがある。
【0035】
排気開閉弁22の間欠的開閉制御を時間制御法で行う場合、制御部23は図7に示すようなタイミングで排気開閉弁22を開閉する。すなわち、最初は開放時間を短くしておき、徐々に開放時間が長くなるようにして、最後に連続的に開放する。この開閉タイミングのパターンは、各装置について上記フィードバック法で予め排気開閉弁22の開閉タイミングのパターンを採取しておき、それを用いるようにするとよい。四重極質量フィルタを用いた標準的なガスクロマトグラフ質量分析装置の場合、図7の開閉タイミングパターンの最初の開放時間t1は約10msec程度、次の開放時点までの閉鎖時間t2は数秒程度であり、このような開閉動作を数回繰り返すことにより、質量分析室内の高真空度を大きく低下させることなくイオン源とガス供給管内を十分に排気し、その後連続排気を行うことができるようになる。従って、間欠的開閉制御の制御時間、すなわち最初に排気開閉弁22を開放してから上記連続排気を開始するまでの時間t3は10秒程度である。その後、連続排気を行うことにより、数十秒後にはイオン源12及びガス供給管17内の真空度を十分満足できるレベルにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ガスクロマトグラフ質量分析装置の概略構造図。
【図2】 イオン源を排気するための従来の質量分析装置の配管図。
【図3】 2台の真空ポンプを用いた従来の質量分析装置の配管図。
【図4】 抵抗管を用いた従来の質量分析装置の配管図。
【図5】 本発明の一実施例であるガスクロマトグラフ質量分析装置の配管図。
【図6】 実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置の制御部が行うフィードバック制御を行う際の連結管内の圧力の変化を表す図。
【図7】 実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置の制御部が行う時間開閉制御の開閉タイミングパターンの図。
【符号の説明】
11…質量分析室
12…イオン源
13…質量フィルタ
14…イオン検出器
15…ターボ分子ポンプ
16、25…ロータリーポンプ
17…ガス供給管
18…反応性ガス源
19…反応性ガス導入抵抗管
20…反応性ガス導入弁
21…イオン源排気管
22…排気開閉弁
23…制御部
24…排気抵抗管
26…真空計(高真空用)
27…真空計(低真空用)
28…連結管

Claims (6)

  1. a)高真空室と、
    b)該高真空室を排気するために、連結管により互いに直列に接続された高真空ポンプ及び低真空ポンプと、
    c)該高真空室内に設けられた、高真空室との間に連通孔を有する低真空室と、
    d)該低真空室内にガスを供給する、ガス供給開閉弁を有するガス供給管と、
    e)該ガス供給管の該ガス供給開閉弁よりも低真空室側の部分と上記連結管とを接続し、排気開閉弁を備える低真空室排気管と、
    f)上記低真空ポンプを運転しつつ、該排気開閉弁を間欠的に開閉する制御を行う制御部と、
    を備えることを特徴とする真空分析装置。
  2. 更に、上記連結管内の圧力を測定する圧力計を備え、上記制御部は、連結管内の圧力が所定値以上に上昇しないように該排気開閉弁の間欠的開閉制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の真空分析装置。
  3. 更に、上記高真空室内の圧力を測定する圧力計を備え、上記制御部は、高真空室内の圧力が所定値以上に上昇しないように該排気開閉弁の間欠的開閉制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の真空分析装置。
  4. 上記制御部は、排気開閉弁を最初に開放した時点から所定の時間だけ上記間欠的開閉制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の真空分析装置。
  5. 上記制御部が行う排気開閉弁の間欠的開閉制御は、開放時間が初めは短く、徐々に長くしてゆくものであることを特徴とする請求項4に記載の真空分析装置。
  6. 上記高真空室が質量分析室であり、上記低真空室がイオン源であり、上記低真空室内に供給されるガスが試料をイオン化するための反応性ガスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の真空分析装置。
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