JP3755876B2 - 選択マーカーを含まない組換え植物の作出方法、ならびに該方法により作出される組換え植物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、選択マーカーを取り除くことで安全性に配慮した組換え植物、特に経済的に重要なイネ品種「コシヒカリ」組み換え体の作出方法に関する。また本発明は、該方法により作出された組換え植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、遺伝子組換えにより作出されたダイズやトウモロコシがアメリカなどから輸入され始めたが、一般消費者はこれらに漠然とした不安感を抱き敬遠している。組換え作物の安全性論議の中で指摘されるのは、これらの輸入組換え作物が抗生物質抵抗性遺伝子を残存させている点である。これらに使われているカナマイシン抵抗性遺伝子は十分な安全性評価が行われているにもかかわらず、この点が最も問題視されている。さらに、イネの遺伝子組換えにおいて選択マーカーとして最も使われているハイグロマイシン抵抗性遺伝子については安全性に関するデータの蓄積が十分なされていない。そのため、イネにおいてはこの遺伝子を除去した組換え体を作出することが望ましい。
しかし、抗生物質抵抗性遺伝子の除去に主眼をおいた有用な遺伝子組換え作物の開発方法についての報告はまだ少ない。
【0003】
また、輸入組換え作物の除草剤抵抗性などの有用遺伝子が微生物に由来することも不安感をかき立てる一因となっていることから、植物本来が持つ有用遺伝子を用いることが望ましい。イネにおいては、植物本来が持つ有用遺伝子としてイネの核由来キチナーゼを再導入したイネがいもち病抵抗性を向上させた報告(Nishizawa Y.ら、1999. Theoret. and Appl.Genet.,99,383:383-390)はあるものの、イネの花器由来キチナーゼを再導入したイネでそのことを実証した報告はない。
これまで、遺伝子組換えにより有用形質を付与したイネについての報告はみられるが、実用レベルにまで至ったものはほとんど知られていない。
【0004】
その原因としては、以下のようなことが考えられる。
従来、イネの形質転換においてはエレクトロポレーション法(Harms,C.T.ら、1978. Theor.Appl.Genet.,53:57-63)、ポリエチレングリコール法(Hayashimoto,A.ら、1990. Plant Physiol.,93:857-863)、パーティクルガン法(Christou,P.ら、1991. Bio/technology,9:957-962)などの直接導入法が用いられていたが、これらの方法では一般にアグロバクテリウム法のような間接導入法に比べ、完全長の遺伝子導入が困難であったり、導入遺伝子のコピー数が多くなる傾向がある。そのため、発現そのものが不安定であったり、再分化当代には一過性の高い形質の発現がみられるものの、自殖後代にはジーンサイレンシング等により発現が抑制されてしまう場合が多い。その後、単子葉植物にアグロバクテリウム法を用いることが可能となり、イネにおいてもコピー数を低く抑え、インタクトな状態で安定して導入できるようになった(特許第2649287号、Hiei,Y.ら、1994. Plant J.,6:271-282)。
【0005】
しかし、有望個体の選抜場面では、再分化当代から目的形質の発現の高さにばかりに目が向けられた選抜方法が採られていることが多い。そのため、例えば再分化当代において高い病害抵抗性を示す個体が得られても、それが偶発的に低コピーのものでなければ、上記のように自殖後代でその高い病害抵抗性を均一に維持した集団を得ることができない。さらに、植物の病害抵抗性のような生物検定は評価にばらつきが生じやすく、再分化当代1株のみで行えばエスケープが出たり、逆に貴重な有望個体を失うことになる。一方、DNA分析は、PCR等を用いた導入遺伝子の検出により客観的で正確な判定を下すことができる。したがって、遺伝子組換えによる病害抵抗性等の付与を目標とする場合、遺伝的に固定した系統の選抜を優先させ、形質の均一な後代を複数個体用いて検定した方が、結果として精度が高く、効率的な選抜方法といえる。
【0006】
一方、遺伝子組換えにより作出した植物は、導入した遺伝子が植物の染色体上のどの位置に組み込まれたかよって発現量が異なり、必ずしも目的とする形質を十分に発揮するとは限らないが、植物の染色体上の特定位置に遺伝子を導入する方法は確立されていない。さらに、上述した理由から、導入した遺伝子が低コピー数でなければならないが、そのように調整できる方法はこれまでに知られていない。従って、低コピー数で、目的形質を十分に発現する組換え体を得るには、あらかじめ多数の組換え体を作出しその中から選抜していかなければならない。
【0007】
従来、培養が容易で再分化植物を得られやすいイネ品種である「日本晴」、「キヌヒカリ」、「ササニシキ」などを材料として有用な組換えイネを開発した報告は多い。しかしながら、日本で最も作付け面積が多い「コシヒカリ」については、遺伝子導入効率が低いため、その遺伝子組換え体を得ることが困難であった。
そのため、経済的に重要なイネ品種である「コシヒカリ」の組換え体を効率よく作出できる方法が必要とされる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、所望の形質を有し、かつ抗生物質抵抗性遺伝子等の選択マーカーを除去した植物、特に前記特徴を有するイネ品種「コシヒカリ」を効率よく作出する方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、所望の形質に関する目的遺伝子と選択マーカーとをコ・トランスフォーメーションにより対象とする植物に導入し、該植物の自殖後代をDNA分析により選抜し、選抜個体をさらに目的遺伝子による形質の発現について検定することで、所望の形質が付与され、かつ選択マーカーを含まない遺伝的に固定した植物系統を高精度かつ効率的に作出できることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち本発明は、選択マーカーを含まない組換え植物の作出方法であって、以下(a)〜(d)の工程を含む前記作出方法である;
(a)目的遺伝子および選択マーカーを植物に導入する工程、
(b)(a)の植物を自殖させる工程、
(c)自殖後代のDNA分析により、目的遺伝子を含み、かつ選択マーカーを含まない植物個体を選抜する工程、
(d)(c)で選抜した植物個体を用いて、目的遺伝子による形質の発現を検定する工程。
また本発明は、前記の組換え植物の作出方法により作出された組換え植物である。
【0011】
【発明実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明の組換え植物の作出方法
本発明の組換え植物の作出方法は、選択マーカーを含まない組換え植物の作出方法であって、以下(a)〜(d)の工程を含む前記作出方法であることを特徴とする;
(a)目的遺伝子および選択マーカーを植物に導入する工程、
(b)(a)の植物を自殖させる工程、
(c)自殖後代のDNA分析により、目的遺伝子を含み、かつ選択マーカーを含まない植物個体を選抜する工程、
(d)(c)で選抜した植物個体を用いて、目的遺伝子による形質の発現を検定する工程。
【0012】
本発明の組換え植物の作出方法(以下、「本発明の方法」と記す)を適用し得る植物としては、特に限定するものではないが、例えば単子葉植物、具体的にはイネを挙げることができる。また、イネ品種としては、例えば「日本晴」、「キヌヒカリ」、「ササニシキ」および特に経済的に重要なイネ品種である「コシヒカリ」を挙げることができるが、これらに限定されない。
以下、各工程について詳しく説明する。
【0013】
(a)目的遺伝子および選択マーカーを植物へ導入する工程
目的遺伝子および選択マーカーの植物への導入は、目的遺伝子および選択マーカーを対象植物にコ・トランスフォーメーションすることにより実施する。
【0014】
目的遺伝子としては、特に限定されるものではないが、例えば植物がイネの場合、病害抵抗性、出穂性や収量性等、量的形質に関与する遺伝子を用いることができる。特に植物がイネ品種「コシヒカリ」である場合、限定するものではないが、目的遺伝子として、イネのいもち病に対する抵抗性を向上させることが知られているキチナーゼをコードする遺伝子、コメの食味に影響を及ぼす因子の一つであるデンプン合成酵素をコードするwaxy遺伝子(この遺伝子をアンチセンス方向に導入し、胚乳中のアミロース含量を低下させると、コメの粘りがよくなり、一般に食味が良くなるとされる)、コメのアレルゲンをコードする遺伝子(この遺伝子をアンチセンス方向に導入し、そのアレルゲンを抑えることにより、コメにアレルギーのある人でも食べられるような低アレルゲン米を開発し得ると考えられている)を用いることができる。ここで、キチナーゼをコードする遺伝子としてイネの花器由来キチナーゼをコードするcDNA(WO98/29542[(株)オリノバ]、該cDNAと相同な遺伝子が三重大学および京都大学の共同研究により単離された)を、waxy遺伝子としてpWX15A((株)三井業際植物バイオ研究所)を具体例として挙げることができるが、これらに限定されず、前記遺伝子と同機能を有することが知られている遺伝子であれば、公知のデータベースから入手してこれを用いてもよい。また、コメのアレルゲンをコードする遺伝子は5,6種類あると推定されており、このうち現在までに単離されているもののなかから、例えばアレルゲンRA-17をコードする遺伝子や、解毒酵素・アミラーゼインヒビターの一種であると同定されている遺伝子(既知の小麦のアレルゲンとアミノ酸配列で93%の相同性を有する)を用いることができる。
【0015】
また、前記目的遺伝子は、一般消費者の不安感に配慮するという目的から、微生物などに由来するものではなく、植物由来のものが望ましい。また、発現効率の点からは同種植物由来であることが望ましい。従って、例えば植物がイネである場合、目的遺伝子はイネ由来のもの、例えばイネの花器由来キチナーゼをコードするcDNA(前掲)やwaxy遺伝子のアンチセンス遺伝子(前掲)を挙げることができる。
【0016】
さらに、前記目的遺伝子が未知の機能を有する遺伝子(配列)であった場合には、本発明の方法を用いて該遺伝子を導入した組換え植物を作出することにより、前記遺伝子の機能が解明されるだけでなく、同時に選択マーカーが付与された組換え植物を得ることができる。
【0017】
選択マーカーとしては、特に限定されないが、例えば抗生物質抵抗性遺伝子を挙げることができる。抗生物質抵抗性遺伝子としては、限定するものではないが、例えば植物がイネである場合、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子、ビアラフォス抵抗性遺伝子等を挙げることができる。ただし、これらの選択マーカーは形質転換細胞の効率的な選抜にのみ必要な遺伝子であり、その後は植物細胞内に残存させる意味のないものである。これらの安全性に関するデータ蓄積もまだ十分とはいえず、開発された組換え作物を一般消費者に少しでも理解してもらえるようにするには、このような不安要因を取り除くことが重要である。本発明の方法を用いて組換え植物を作出することにより、こうした問題点を解決することができる。
【0018】
前記目的遺伝子および前記選択マーカーの対象植物へのコ・トランスフォーメーションは、限定するものではないが、例えばエレクトロポレーション等による直接的導入法、またはアグロバクテリウム属細菌を介する間接的導入法を用いて実施することができる。しかしながら、遺伝子導入効率を考慮すると、後者のアグロバクテリウム属細菌を介する導入法が好適である。
【0019】
アグロバクテリウム属細菌を介する間接的導入法を用いる場合、前記コ・トランスフォーメーションは、当業者に公知の手法に従い、例えば目的遺伝子および選択マーカーを挿入したベクターを構築し、該ベクターを含むアグロバクテリウム属細菌を対象植物に感染させることにより実施できる。
【0020】
目的遺伝子および選択マーカーを挿入したベクターとしては、限定するものではないが、例えば、1つのアグロバクテリウム属細菌内に接続されていない2つのT-DNAを配置したベクター(以下、「コ・トランスフォーメーション用ベクター」と記す)を用いることができる。このコ・トランスフォーメーション用ベクターを用いることにより、遺伝子導入した植物の自殖後代において選抜マーカーを分離・除去することが可能となる。
【0021】
前記コ・トランスフォーメーション用ベクターは更に、スーパーバイナリー型のベクター(アグロバクテリウム・ツメファシエンス[Agrobacterium tumefaciens]菌系のうち、感染能力の強い病原性の菌系のVir領域の一部を、T-DNAを有するプラスミド中に配置することにより目的遺伝子の導入効率を高めたバイナリーベクター。詳細はHiei,Y.ら、1994. Plant J., 6:271-282を参照されたい)であってもよく、かかるベクターとしては、例えばオリノバ(株)により開発されたpSBシリーズのベクター(WO95/16031、Komari,T.ら、1996. Plant J.,10:165-174)を挙げることができる。
【0022】
前記コ・トランスフォーメーション用ベクターは、限定するものではないが、例えば、T-DNA領域に目的遺伝子を含む中間ベクターと、T-DNA領域に選択マーカーを含むアクセプターべクターとをそれぞれ構築し、これらをアグロバクテリウム属細菌中での相同組換えによって調整することにより構築することができる。これにより、2つのT-DNA領域をもったハイブリッドベクター(すなわち前記コ・トランスフォーメーション用ベクター)が形成される。
具体的には、後述の実施例1および2の工程(a)に記載した通りにして、目的遺伝子を含むコ・トランスフォーメーション用ベクターを構築する。
【0023】
尚、前記コ・トランスフォーメーション用ベクターを用いると一般に遺伝子導入効率が低くなることが知られているが、本発明の方法によれば、該ベクターを導入する植物の培養条件等の改良(後述)により、特に遺伝子導入効率が低いとされるイネ品種「コシヒカリ」においても遺伝的に安定した組換え体を高頻度で得ることができる。
前記ベクターは、前記目的遺伝子および前記選択マーカーの他に、例えばプロモーター等の他の配列を有していてもよい。
【0024】
用いられるプロモーターとしては、該プロモーターを導入した植物の細胞内で機能するものであれば特に制限はないが、目的とする導入形質が有効に発揮されるものを適宜使用するのがよい。例えば、植物としてイネを用いていもち病に対する抵抗性の導入を目的とする場合、葉茎あるいは穂で組織特異的に働くプロモーター、あるいは病原菌の感染により誘導されるプロモーターが適している。また、安全性配慮の観点からは目的遺伝子と同様に、植物に由来するものが望ましい。しかし、植物の形質転換に通常よく用いられるカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター等でも十分形質を発現させることが可能である。
【0025】
前記ベクターを含むアグロバクテリウム属細菌としては、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を用いることが好ましいが、これに限定されない。
アグロバクテリウム属細菌を感染させる植物の形態としては、限定するものではないが、例えばカルス、葉、胚軸、根、種子、懸濁培養細胞、プロトプラスト等があり、当業者であれば、当該植物の再分化系に応じて適宜選択することができる。植物がイネである場合、通常はイネの胚盤由来カルスを用いるが、安定した高い遺伝子導入効率を求めるには、完熟種子から誘導後概ね3週間以内の前記カルスを用いることが好ましい。尚、従来の培養方法では、培養細胞の生育の遅いイネ品種「コシヒカリ」で3週間以内にカルスを誘導することは困難であったが、本発明の方法においては「コシヒカリ」のカルスの培養条件に工夫を加えることにより、3週間以内で分裂活性が高く、遺伝子導入に適したカルスを誘導することを可能とした。従って、本発明の方法により、従来遺伝子導入効率が低かったイネ品種「コシヒカリ」においても、その組換え体を効率的に作出することが可能である。
【0026】
具体的には、イネ品種「コシヒカリ」のカルスを、以下に示す培養条件下で培養する。すなわち、カルス誘導培地として、N6基本培地の窒素濃度を抑制し、適当なアミノ酸を添加した培地(例えば、KSP培地[津川ら、1993.育種学雑誌43巻(別2)、121])を使用する。また、植物ホルモンとして2mg/Lの2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、糖として30g/Lマルトース、凝固剤として0.8%アガロースを使用する。表面殺菌したイネ品種「コシヒカリ」の玄米をこのカルス誘導培地に植え込む。この際、胚乳部分は培地中に完全に埋め込み、胚部分だけを露出させる。容器はシャーレを使い、ふたを粘着力の弱いビニルテープ等で覆って、緩やかな乾燥を促す。培養環境は28〜30℃の明室とする。このように培養することで、イネ品種「コシヒカリ」の完熟種子から、遺伝子導入に適した細かい粒状のカルスを3週間以内に誘導することができる。
【0027】
前記形態の植物へのアグロバクテリウム属細菌の感染、共存培養、植物の除菌、遺伝子導入された植物の選抜・増殖、選抜された植物からの植物体再分化は、当業者に公知の手法に従って実施することができる。
しかしながら、植物がイネ品種「コシヒカリ」である場合には、本発明者らが以前に開発した方法(Hashizumeら、1999. Plant Biotechnology,16:397-401)を用いることが好ましい。具体的には、後述の実施例1(a)中に記載した通りにして、イネ品種「コシヒカリ」のカルスに遺伝子を導入する。
その結果、再分化当代(T0)には、目的遺伝子と選択マーカーの両方を有する遺伝子導入植物が作出される。
【0028】
(b)遺伝子導入植物を自殖させる工程
その後、(a)の工程において得られた再分化当代(T0)の植物を、当業者に公知の手法に従って順化、栽培し、自殖後代を得る。例えば植物がイネである場合には、後述の実施例1(b)中に記載した通りにして自殖第1世代、T1を採取する。
【0029】
(c)自殖後代のDNA分析による選抜
上記(a)および(b)の工程で得られた遺伝子導入植物の再分化当代(T0)、自殖第1世代(T1)、自殖第2世代(T2)のDNAをそれぞれ分析し、最終的に選択マーカーを含まず、目的遺伝子を優性ホモの形で持つ遺伝的固定系統を選抜する。
【0030】
DNA分析は、各世代の植物の葉(特に植物がイネである場合、幼苗の葉)からの簡易法によるDNA抽出と、適切なDNA増幅・検出法との組み合わせで、導入した遺伝子の有無を調査することにより実施する。これにより多数の個体を取り扱うことができるうえ、早期に検定するため不要な系統を栽培する無駄を省くこともできる。
【0031】
DNA抽出に使用し得る簡易法としては、限定するものではないが、例えばSDS簡易抽出法を挙げることができる。尚、葉を抽出液に浸して砕く操作は従来手作業により行っているが、この方法では時間と労力がかかる上に、イネ等の繊維が発達した単子葉植物の葉では効率が悪い。したがって、DNA抽出は適切な粉砕機(例えばQIAGN社のMixer Mill MM 300)を用いて、機械的に粉砕する方法が効率の点で望ましい。
【0032】
適切なDNA増幅・検出法としては、限定するものではないが、例えばPCR法、LAMP法、I-CAN法を挙げることができる。特に、LAMP法(T.Notomi et al., Nucleic Acids Res., 20,1691-1696,e63(2000))は、増幅効率が高く、検出も簡便であるため、本工程の効率化という点では好ましい。
DNA分析による選抜は、例えば以下のようにして実施することができる。
まず、再分化当代(T0)では目的遺伝子と選択マーカーの両方を持つ個体を選抜する。
【0033】
自殖第1世代(T1)のDNA分析では、1因子遺伝・選抜マーカー分離型のT0を系統群として選抜し、その中から選択マーカーを含まないT1を新たな系統として選抜する。ここでいう1因子遺伝・選抜マーカー分離型とは、選択マーカーと分離した独立型の目的遺伝子が植物の染色体上の1座位にのみ組み込まれ、それ以外の座位(独立型の選択マーカーが入った座位、目的遺伝子と選択マーカーが連鎖した座位)が1ないし2であることをいう。
【0034】
自殖第2世代(T2)のDNA分析では、選択マーカーを含まないことの確認と、すべての個体で目的遺伝子のみ持つ遺伝的固定系統(T1)を選抜する。例えば、独立型の選択マーカーと独立型の選択マーカー(または連鎖した遺伝子)がそれぞれ1座位のT0を選抜した場合、3/16の確率で目的遺伝子のみを含むT1個体が得られ、そのうちの1/3から優性ホモ系統を得られる。
具体的には、DNA分析による選抜は、後述の実施例1中工程(c)に記載した通りにして実施することができる。
【0035】
(d)DNA分析により選抜した植物個体を用いて、目的遺伝子による形質の発現を検定する工程
上記のようにして選抜した優性ホモのT2個体を、当業者に公知の手法に従って、目的遺伝子による形質の発現検定に供する。
【0036】
目的遺伝子により植物に付与される形質がいもち病等の病害に対する抵抗性である場合、かかる病害抵抗性検定は、例えば、遺伝子導入イネにいもち病菌の胞子懸濁液を接種し、一定期間経過した後に前記イネの罹病率(抵抗性の程度)を調べて、その結果得られる抵抗性の程度を元品種と比較し、発病の抑制程度の大きい系統を選抜することにより実施する。ここでいもち病菌を接種するイネの部位としては、限定するものではないが、例えば葉、茎、穂、穂首を選択することができる。また、いもち病の接種法としては、限定するものではないが、例えば針で接種部位に胞子懸濁液を注入する手法を用いることができる。
具体的には、病害抵抗性検定は、後述の実施例1(d)中に記載した通りにして実施することができる。
【0037】
以上の操作により選抜された植物個体は、選抜マーカーを含まず、また該植物に導入した目的遺伝子により所望の形質を付与された、遺伝的に固定した組換え植物系統である。
【0038】
(2)本発明の組換え植物
本発明の組換え植物は、上記本発明の方法により作出された組換え植物であることを特徴とする。
本発明の組換え植物は、選択マーカーが除去されていることから、一般消費者の組換え作物に対する不安感を軽減するものである。
ここで植物とは、上記方法によって得られた植物体だけでなく、この植物体から得られる栄養繁殖物および種子等を含む概念である。
【0039】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕 選択マーカーを含まない、いもち病抵抗性イネ組換え体の作出
(a)遺伝子の導入
コ・トランスフォーメーション用ベクターの構築
コ・トランスフォーメーション用ベクターとして、スーパーバイナリーベクターpSB424(WO95/16031、Komari,T.ら、1996. Plant J.,10:165-174)を用いた。これは、中間ベクターpSB24とアクセプターベクターpSB4(いずれもオリノバ(株)から契約分譲により入手)の相同組換えによるハイブリッドベクターである。目的遺伝子として、イネの花器由来キチナーゼをコードするcDNA(WO98/29542[(株)オリノバ]、該遺伝子と相同な遺伝子を三重大学より入手)を用いた。また、そのプロモーターとして、プラスミドpBE7131-GUS(Mitsuhara,I.ら、1996. Plant Cell Physiol.,37:47-59)に含まれる高発現を示すプロモーター領域を用いた。
【0040】
具体的な構築は以下のように行った。
プラスミドpBE7131-GUSを制限酵素HindIIIとBamHIで消化した後、電気泳動にかけ、Prep-A-Gene DNA Purification Matrix Kit(BIO RAD)を用いて2.2Kbの高発現プロモーター領域を含む断片を回収した。このDNAを同じ制限酵素の組合せで消化した中間ベクターpSB24とDNA Ligation kit(Takara Co.)を使って連結させ、プロモーター領域を置換したサブクローンpSB25を得た。このサブクローンDNAを制限酵素BamHIとSacIで消化し、8.7Kbのベクター部分を回収した。このDNAをKlenow酵素(Boehringer Mannheim)を用いて平滑化し、アルカリホスファターゼ(ウシ小腸由来)(Takara Co.)を用いて脱リン酸化した。一方、イネの花器由来キチナーゼをコードするcDNAを含むプラスミドを制限酵素SmaIとEcoRVで消化し、1.3Kbの該cDNAを含む断片を回収し、平滑化した。
【0041】
上記のようにして得られた該cDNAを含む断片と高発現プロモーターに置換した中間ベクターをDNA Ligation kit(Takara Co.)を用いて連結し、クローンpSB25Chiを得た。挿入の方向性は、両者に存在するSphIサイトを利用して確認した。
【0042】
次に、アクセプターベクターpSB4を含むアグロバクテリウム属細菌LBA4404、中間ベクターpSB25Chiを含む大腸菌LE392、およびヘルパープラスミドpRK2013を含む大腸菌HB101の3種の菌をNutrient Agar(Difco)上で混合し、一晩28℃で共存培養した。
【0043】
その後、混合した菌を50mg/Lのスペクチノマイシンと50mg/Lのハイグロマイシンを含むAB培地(Chilton,M.-D.ら、1974. Proc.Natl.Acad.Sci. ,USA, 71:3672-3676)上に薄く条播する操作を数回繰り返し、両抗生物質に抵抗性のクローンを選抜した。このクローンは、pSB4由来のハイグロマイシン抵抗性とpSB25Chiに由来するスぺクチノマイシン抵抗性を合わせ持ったハイブリッドベクターを含むアグロバクテリウム属細菌で、LBA4404/pSB425Chiと命名した。ベクターpSB425Chiの構造を図1に示す。
【0044】
キチナーゼをコードする遺伝子の導入
水稲品種「コシヒカリ」(Oryza sativa L. var Koshihikari)の完熟種子を表面殺菌後、KA-1培地(KSP培地を基本とし、2mg/Lの2,4-D、30g/Lのマルトース、0.8%のアガロース)に植え込み、シャーレを野菜結束テープ(日東電工)で封をして28℃明室で培養した。3週間後、分裂活性の高い、細かい粒状のカルスが多数誘導された。
【0045】
上記のようにして得られたカルスを、上記▲1▼で作製したアグロバクテリウム属細菌LBA4404/pSB425Chi に感染させ、Hashizumeら(1999)の方法に従って、共存培養、カルスの除菌、遺伝子導入カルスの選抜・増殖および、カルスからの植物体再分化を行った。具体的な操作を以下に示す。
【0046】
まず、50mg/Lのハイグロマイシンを含むAB培地(Chilton,M.-D.ら、1974. Proc.Natl.Acad.Sci., USA, 71:3672-3676)上で増殖させアグロバクテリウムの菌体をミクロスパーテルで1さじとり、10mg/Lのアセトシリンゴンを含むKA-1液体培地(KSP培地を基本とし、2,4-Dを2mg/Lに、シュークロースをマルトース30g/Lに改変、pH5.8)20mLに、菌の塊がほぐれ、均一になるまで十分に懸濁した。この懸濁液を9cmのガラスシャーレに移した。次に、誘導したカルスをかごの形にしたステンレスメッシュ(網の大きさ:20メッシュ)に入れ、このメッシュごとカルス全体が浸るように1分30秒間菌懸濁液に漬けた。菌懸濁液を除去し、カルスを滅菌した濾紙の上に移し、余分な水分を取り除いた。KA-1co培地(KA-1培地に10g/Lのグルコース、10mg/Lのアセトシリンゴンを添加、1.5%バクトアガー、pH5.2)上に2枚の滅菌した濾紙を重ね置き、その上にカルスを互いに重ならないように置いた。28℃、暗室で3日間共存培養した後、滅菌水で液が透明になるまで余分な菌体をカルスから洗い落とし、250mg/Lのカルベニシリンを含むKA-1液体培地でリンスした。滅菌した濾紙で水切りし、カルスをKA-1se培地(KA-1培地に250mg/Lのカルベニシリン、50mg/Lのハイグロマイシンを添加、0.8%アガロース、pH5.8)に置床した。28-30℃、14時間日長の明室で3週間培養した後、すべてのカルスを新鮮なKA-1se培地に移植した。2〜3週間後、ハイグロマイシンによる選抜で生き残り、増殖してきたカルスをKA-2培地(KA-1培地に30g/Lのソルビトール、2g/Lのカザミノ酸、125mg/Lのカルベニシリン、50mg/Lのハイグロマイシンを添加、植物ホルモンを0.4mg/Lの2,4-D、0.5mg/Lのアブシシン酸(ABA)、0.1mg/Lのカイネチンに改変、0.8%アガロース、pH5.8)に1週間置いた後、KA-3培地(KA-2培地の植物ホルモンを0.5mg/Lの6-ベンジルアミノプリン(BAP)、0.2mg/Lのインドール酢酸(IAA)に、ハイグロマイシン濃度を25mg/Lに改変、0.8%アガロース、pH5.8)に移植し、3〜4週間で植物体に再分化させた。
【0047】
(b)自殖
その結果、ハイグロマイシン抵抗性を示す再分化当代の植物体(T0)を119個体得た。
これらの再分化させた幼苗を、個体別に育苗用培土(製品名「くみあい粒状培土クリーン2号」;成分:1kg当たり窒素0.27g、燐酸0.40g、カリ0.33g;製造:全農;販売:(株)三菱化学)を入れた1粒播き用多穴ポット(製品名「みのる式ポット」)に植えた。次に、このポットを密閉のできる容器(製品名「クリスタル・コンテナー」)に入れ、十分な湿度を保ち、25℃、14時間日長で1〜2週間順化、活着させた。その後、密閉容器から出し、個体別に220mL容量のプラスチックカップに鉢上げし、25〜35℃、14時間日長で栽培した。
4〜5ヶ月後、88系統から成熟した種子(自殖第1世代、T1)を個体別に採取した。
【0048】
(c)DNA分析による選抜
1次分析
再分化当代(T0)の幼苗の葉からSDS簡易抽出法により、ゲノムDNAを抽出した。具体的には下記の通り行った。
【0049】
2-5cm長の葉片を採取し、直径3mmの硬質ビーズと共に2.0mLマイクロチューブに入れた。硬質ビーズは、発達した硬い葉の場合はタングステンビーズ(QIAGEN、比重14.9g/mL)を、幼苗の柔らかい葉の場合はジルコニアビーズ(アズワン、比重5.5g/mL)を用いた。これに、120μLのSDS抽出液を入れ、ミキサーミルMM300(QIAGEN社製)を用いて、20Hz/sで2分間、さらにサンプルの向きを変えて20Hz/sで2分間振動させた。サンプルは15,000rpm、5分間遠心分離し、水層を採取する操作を2回繰り返し、夾雑物を除去した。これに100μLのイソプロパノールを加えて、さらに15,000rpm、10分間遠心分離し、水層を除去した。沈殿を70%エタノールで洗浄し、乾燥させた後、30μLの1/10TE(20μg/mLのリボヌクレアーゼ(Wako)含む)に溶解した。
【0050】
この溶液をテンプレート(1μL/本)としてPCRを行い、導入遺伝子に特異的な領域の増幅を図った。プライマーとして、以下の2つのオリゴヌクレオチド:
5'-gacacccgcaagcgtga-3'(配列番号1)および5'-ttgaacgccaccgtcgggtccgtt-3'(配列番号2)を用いてイネ花器由来キチナーゼをコードするcDNA(PCR産物300b)を、また以下の2つのオリゴヌクレオチド:5'-atgaaaaagcctgaactcaccgcga-3' (配列番号3)および5'-tccatcacagtttgccagtgataca-3'(配列番号4)を用いてハイグロマイシン抵抗性遺伝子(同500b)の検出を行った。
【0051】
酵素にはEx-Taq DNAポリメラーゼ(Takara Co.)を用い、MgCl2濃度は1.0mMとし、他は添付マニュアルに従って10μL/本の反応液を調整した。これをPCR Thermal Cycler MP(Takara Co.)にかけ、94℃-30秒を1回の後、[94℃-20秒、55℃-1分、72℃-2分]を1サイクルとして35回繰り返して増幅反応を行った。次いで、PCR産物を3.0%アガロースゲル電気泳動にかけて、T0個体における前記各遺伝子の存在を調べた。結果を下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(結果)
イネ花器由来キチナーゼをコードするcDNA、あるいはハイグロマイシン抵抗性遺伝子に特異的なDNAバンドが確認された。このバンドパターンの有無により、再分化当代(T0)119個体のうち、119個体(100%)すべてにハイグロマイシン抵抗性遺伝子が、102個体(85.7%)に花器由来キチナーゼをコードするcDNAが組み込まれていることが確認された。また、種子(T1)を採取できた88個体に限れば、78個体(88.6%)にキチナーゼをコードするcDNAが組み込まれていた。
【0054】
なお、本実施例では、SDS抽出法は粉砕機を用いて機械的に行ったが、この方法は従来の手作業による方法(メスで細断し、抽出液になじませながらマイクロチップでたたいてつぶす)に比較して、作業時間を半分以下(従来6時間要した工程を2〜2.5時間程度)に短縮することが可能であった。
【0055】
2次分析
自殖第1世代の種子(T1)を1系統当たり15〜20粒づつ1本植え用の多穴ポットに播種し、1週間後に幼苗の葉片を採取した。上記と同様の方法でDNAを抽出し、これをテンプレートとしてPCRによりDNAの1次分析を行った。有望な系統については1系統当たり30〜50粒に種子数を増やして、2次分析を行った。2次分析を終えた12系統のうち、5系統を1因子遺伝・選抜マーカー分離型のT0として選抜した。結果を下記表2に示す。
また、これらのT1を個体ごとに1つの系統として、前記工程(b)と同様に自殖第2世代(T2)を育成してその種子を採取した。
【0056】
【表2】
【0057】
3次分析
上記のようにして選抜したT0系統群のうち、選択マーカーを含まないT1系統のT2種子を1系統当たり30〜60粒播種し、同様に3次分析を行った。結果を下記表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
(結果)
3次分析を終えた3系統群3系統のうち、2系統群2系統が優性ホモであり、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子を含んでいないことが確認された。
【0060】
(d)発現形質の検定
上記で得られた優性ホモT2個体を220mLポットに1系統当たり10個体鉢上げし、4〜5葉期にイネいもち病菌(Magnaporthe grisea)に対する病害抵抗性検定を行った。
【0061】
まず最初に、前記いもち病菌(race003、007)を9cmシャーレに20mL注いだオートミール培地(50g/Lのオートミール、20g/Lのショ糖、12.5%バクトアガー)に移植し、28℃、暗室で培養した。2週間後に気中菌糸を除去し、BLBランプを1週間照射して、形成された胞子を収集した。
検定は精度を高めるため、以下の異なる接種方法で2回行った。
【0062】
茎における病害抵抗性検定
まず、胞子懸濁液(race003)を1×105個/mLの濃度で、上記で得られたT2ホモ系統のイネ組換え体および元品種のイネ(非組換え体)にまんべんなく噴霧接種し、26℃の接種箱に24時間静置した。その後日陰で乾かし、温室に移して2ヶ月後に罹病により枯死した茎の数を調査した。
【0063】
葉における病害抵抗性検定
次に、上記検定で生き残った茎の葉に、針で穴をあけ、その部分に胞子を密集させた素寒天片を塗り付ける針接種法を行った。接種後は同様に処理し、1週間後に以下に示す畑苗代における圃場抵抗性調査基準(浅賀、1981)(下記表4)により発病調査を行った。
茎および葉における結果を併せて下記表5に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
(結果)
その結果、2系統ともに対照の元品種「コシヒカリ」と比較して、茎での発病は20%減少し、葉での発病は病斑面積換算で対照40%に対し10%にまで減少した(表5)。噴霧接種した元品種「コシヒカリ」(図2右側)には著しい褐変症状を示し枯死する茎がしばしばみられるのに対し、コシヒカリ組換え体(図2左側)では枯死する茎が少なく、生き残った茎の生長も良好であった。これらのことにより、コシヒカリの大きな欠点であるいもち病に対する抵抗性を向上させた組換え体の遺伝的固定系統を作出できたことが確認できた。
【0067】
(e)後代集団における病害抵抗性の確認
次に、組換えイネにおける病害抵抗性が導入した遺伝子(キチナーゼ遺伝子)に起因していること、および後代で病害抵抗性形質が固定されていることの確認を試みた。
【0068】
(1) RT-PCR分析
イネの葉からQuick Prep Micro mRNA Purification Kit(アマシャムファルマシア)を用いて、mRNAを抽出した。このmRNA(5-10 ng/μL)を鋳型として、SuperScript One-step RT-PCR System (GIBCOBRL)を用いてRT-PCRを行った。プライマーはゲノムDNAのPCRと同じキチナーゼcDNA特異的なものを使った。反応液はサーマルサイクラーPC-700(アステック)にかけ、50℃で30分間cDNAを合成を行い、次に、94℃、2分間プレヒートした後、94℃、15秒−55℃、30秒−68 ℃、2分の反応を25回繰り返し、増幅した。増幅産物は3 %アガロースゲルで電気泳動した。結果を図4に示す。
【0069】
(2) ウエスタンブロット分析
イネの葉からSDS抽出液(75 mM Tris-HCl, pH 6.8、2.5 % SDS、8M 尿素、 7.5 % 2-メルカプトエタノール)で粗タンパク質を抽出した。150 mgのサンプルに対し、500 mLの抽出液を加え、ミキサーミルMM300(QIAGEN)で粉砕した。15,000 rpmで10分間遠心分離し、水層を新しいチューブに移し、3分間煮沸した。再度遠心分離し、上澄み液を回収した。それぞれのサンプルのタンパク濃度をプロテインアッセイキットII(BIO-RAD)で定量した。
【0070】
Laemmli法に従い、12.5 %のSDSポリアクリルアミドゲルにサンプル(20μg相当量)をのせ、20 mAの定電流で16時間電気泳動した。次にセミドライブロッティングによって、タンパク質を電気泳動転写膜(クリアブロットメンブレンP、ATTO)に転写した。ECLウエスタンブロット検出システム(アマシャムファルマシア)により、キチナーゼタンパク質の検出を行った。1次抗体((株)オリノバから分譲)は1000倍希釈、HRP標識2次抗体は5000倍希釈して用いた。結果を図5に示す。
【0071】
(結果)
RT-PCR分析(図4)においては、非形質転換イネおよびキチナーゼ遺伝子を含まないhomozygousな T1イネではキチナーゼ遺伝子特異的増幅産物は認められなかったのに対し、キチナーゼ遺伝子を含むイネではキチナーゼ遺伝子特異的増幅産物が確認できた。キチナーゼ遺伝子を含むイネの間で比較すると、heterozygousなT0 およびT1イネに比べ、homozygousな T1イネではキチナーゼ遺伝子の発現量が大きかった。また、その自殖第2世代(T2)集団での発現はhomozygousな T1イネと同程度で、病害抵抗性形質の安定した遺伝が確認された。
【0072】
ウエスタン分析(図5)においても、同様に、非形質転換イネに比べ、キチナーゼ遺伝子を含むイネでは目的のタンパク質が強く検出され、homozygousな T1イネとその後代集団(T2)では同程度の大きさであった。このことから、病害抵抗性はキチナーゼ遺伝子の導入により誘導されたことが裏付けられた。
以上より、本発明の遺伝性分析に基づいた固定系統選抜法は、安定した遺伝子発現をする後代集団の作出に有効であることが確認できた。
【0073】
〔実施例2〕 選択マーカーを含まない、waxy遺伝子を導入したイネ組換え体の作出
(a)遺伝子の導入
コ・トランスフォーメーション用ベクターの構築
コ・トランスフォーメーション用ベクターとして、スーパーバイナリーベクターpSB424(WO95/16031、Komari,T.ら、1996. Plant J.,10:165-174)を用いた。これは、中間ベクターpSB24とアクセプターベクターpSB4(いずれもオリノバ(株)から契約分譲により入手)の相同組換えによるハイブリッドベクターである。目的遺伝子として、イネのデンプン合成酵素をコードするcDNAを含むプラスミド、pWX15A((株)三井業際植物バイオ研究所から分譲により入手)を用いた。また、そのプロモーターとして、プラスミドpBE7131-GUS(Mitsuhara,I.ら、1996. Plant Cell Physiol.,37:47-59)に含まれる高発現を示すプロモーター領域を用いた。
【0074】
具体的な構築は以下のように行った。
イネのデンプン合成酵素をコードするcDNAを含むプラスミド、pWX15A(前掲)を制限酵素EcoRIで消化した後、電気泳動にかけ、Prep-A-Gene DNA Purification Matrix Kit(BIO RAD)を用いて2.0Kbの該cDNAを含む断片を回収し、Klenow酵素(Boehringer Mannheim)を用いて平滑化した。
【0075】
実施例1と同様にして高発現プロモーターに置換した中間ベクターを作成し、これと前記のcDNAを含む断片とをDNA Ligation kit(Takara Co.)を使って連結した。これを大腸菌LE392に形質転換し、得られたクローンの中からアンチセンス方向に1コピーのみ導入されたものを選抜し、pSB25Wxaとした。挿入の方向性およびコピー数は、制限酵素HindIIIとXhoIを同時処理して得られる断片の長さを利用して確認した。
【0076】
次に、アクセプターベクターpSB4を含むアグロバクテリウム属細菌LBA4404、中間ベクターpSB25Wxaを含む大腸菌LE392、およびヘルパープラスミドpRK2013を含む大腸菌HB101の3種の菌をNutrient Agar(Difco)上で混合し、一晩28℃で共存培養した。
【0077】
その後、混合した菌を50mg/Lのスペクチノマイシンと50mg/Lのハイグロマイシンを含むAB培地(Chilton,M.-D.ら、1974. Proc.Natl.Acad.Sci. ,USA, 71:3672-3676)上に薄く条播する操作を数回繰り返し、両抗生物質に抵抗性のクローンを選抜した。このクローンは、pSB4由来のハイグロマイシン抵抗性とpSB25Wxaに由来するスぺクチノマイシン抵抗性を合わせ持ったハイブリッドベクターを含むアグロバクテリウム属細菌で、LBA4404/pSB425Wxaと命名した。ベクターpSB425Wxaの構造を図3に示す。該ベクター中では、2.0Kbのwaxy遺伝子がアンチセンス方向に挿入されてる。
【0078】
次いで、実施例1と同様にして、水稲品種「コシヒカリ」(Oryza sativa L.var Koshihikari)の完熟種子から誘導したカルスを上記アグロバクテリウム属細菌LBA4404/pSB425Wxa に感染させて、感染カルスからの植物体再分化を行った。
(b)自殖
その結果、ハイグロマイシン抵抗性を示す再分化当代の植物体(T0)を77個体得た。
【0079】
(c)DNA分析による選抜
再分化当代の植物体(T0)について、実施例1と同様に、DNA分析による選抜を行った。アンチセンスwaxy cDNA遺伝子の検出には、以下の2つのオリゴヌクレオチド:5'-ttggcggtgatgtacttgtcc -3'(配列番号5)、5'- aggcagcactcgaggctccta-3'(配列番号6)をプライマーとして用いた。1次分析は省き、2次分析(T1集団の分析)から開始した。1系統あたり15〜20粒供試したDNA分析の結果、3つの1因子遺伝・選抜マーカー分離型T0の候補系統を選抜した。
【0080】
(d)形質発現検定
供試数を増やした最終的な2次選抜をせず、予備試験的に3つの候補T0から、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子を含まないT1を新たな系統として育成し、T2種子を採取した。その種子(胚乳部分)を1個体当たり10粒用いて、フリアーノの方法に準じてアミロース含量を求めた。なお、検量線はポテトアミロース(タイプIII、シグマ)を標本として作成した。結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
(結果)
8系統を調査した結果、非形質転換イネに比べてアミロース含量が低い個体が6系統みられ、最もアミロース含量が低いT51-3-4では、非形質転換イネの85 %程度の含有量だった(表6)。以上より、本発明の方法を用いてアンチセンス waxy cDNA 遺伝子を導入することにより、イネの胚乳中のアミロース含量を低下させ、食味の向上が期待できるコメを作出しうることが確認できた。
【0083】
【発明の効果】
本発明の方法により、選択マーカーが除去された組換え植物を作出することができる。とりわけ、本発明の方法により、経済的に重要品種であるが、従来遺伝子導入効率が低かったイネ品種「コシヒカリ」を含む広範なイネ品種に対して、遺伝的に固定した実用性の高い組換え体を効率よく作出することができる。
【0084】
【配列表】
【0085】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:イネ花器由来キチナーゼをコードするcDNAを検出する為に使用したプライマー。
配列番号2:イネ花器由来キチナーゼをコードするcDNAを検出する為に使用したプライマー。
配列番号3:ハイグロマイシン抵抗性遺伝子を検出する為に使用したプライマー。
配列番号4:ハイグロマイシン抵抗性遺伝子を検出する為に使用したプライマー。
配列番号5:アンチセンスwaxy遺伝子cDNAを検出する為に使用したプライマー。
配列番号6:アンチセンスwaxy遺伝子cDNAを検出する為に使用したプライマー。
【図面の簡単な説明】
【図1】コ・トランスフォーメーション用ベクターpSB425Chiの構造を示す図である。
【図2】いもち病菌(race003、007)の接種による発病の様子を示す写真である。
【図3】コ・トランスフォーメーション用ベクターpSB425Wxaの構造を示す図である。
【図4】 RT-PCR分析における電気泳動の結果を示す写真である。
【図5】ウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
Claims (6)
- 選択マーカーを含まないイネ品種「コシヒカリ」の組換え体の作出方法であって、以下(a)〜(d)の工程を含む前記作出方法;
(a)マルトース、及び 2,4-D を含むKSP培地を使用して、イネ品種「コシヒカリ」の完熟種子から3週間以内にカルスを誘導する工程、
(b)前記誘導開始後3週間以内のカルスに、2つのT−DNA領域に目的遺伝子および選択マーカーをそれぞれ含むハイブリッドベクターを用いて、前記目的遺伝子および選択マーカーをアグロバクテリウムにより導入し、自殖させる工程、
(c)自殖後代のDNA分析により、目的遺伝子を含み、かつ選択マーカーを含まない植物個体を選抜する工程、
(d)(c)で選抜した植物個体を用いて、目的遺伝子による形質の発現を検定する工程。 - 工程(c)において、DNA分析が目的遺伝子および選択マーカーそれぞれに特異的にハイブリダイズするプライマーを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
- 工程(c)において、1因子遺伝・選択マーカー分離型で選択マーカーを含まない自殖第1世代を選抜し、その自殖第2世代より選択マーカーを含まない目的遺伝子が優性ホモ系統の植物個体を選抜する、請求項1または2に記載の方法。
- 工程(a)において、 30g/L のマルトース、及び 2mg/L の 2,4-D を含むKSP培地を使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 目的遺伝子がイネの花器由来キチナーゼをコードする遺伝子またはwaxy遺伝子のアンチセンス遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項5に記載の方法により作出された、イネの花器由来キチナーゼをコードする遺伝子または waxy 遺伝子のアンチセンス遺伝子を優性ホモで含み、かつ選択マーカーを含まないイネ品種「コシヒカリ」の組換え体。
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