JP3755616B2 - 自動変速機の故障判定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の故障判定装置に関し、特に、前進走行中におけるギヤ比を検知しそのギヤ比から、前進走行レンジにおいて締結される摩擦締結要素又は油圧調整手段の故障を判定するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両の自動変速機には、エンジンの出力軸に連結されるトルクコンバータと、このトルクコンバータの出力軸に連結される変速ギヤ機構と、この変速ギヤ機構の複数の回転部材を回転拘束する複数の摩擦締結要素と、複数の摩擦締結要素へ夫々供給される油圧を調整する油圧調整手段と、予め設定した所定の変速マップに基づいて車両の走行状態に応じた変速段となるように油圧調整手段を制御する制御手段等が設けられている。
【0003】
自動変速機の故障を判定する技術として、特開平1−172663号公報には、車両の走行中に自動変速機の入力回転数と出力回転数とを検出し、その時のギヤ比と出力回転数とから入力回転数を推定し、検出入力回転数と推定入力回転数とを比較することにより、自動変速機の故障を判定する技術が記載されている。
【0004】
また、特開平714222号公報には、判断基準範囲設定手段で判断基準範囲を設定し、車両の実際の走行状態が予め設定された検出許可領域内にあるときに、変速後の実際のエンジン回転速度が判断基準範囲から外れている場合に自動変速機が故障であると判定する自動変速機の故障検出装置が記載されている。この故障検出装置では、エンジン回転数とトルクコンバータのタービン回転数とに差があっても、高い精度で故障を検出できるので、タービン回転数センサを設けずに故障を検出できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記前者の公報の故障判定技術では、比較的簡単な構成でもって自動変速機の故障を判定することが可能であるが、自動変速機が故障したことを検知し得るのみであって、故障した摩擦締結要素や、故障した油圧制御系の機器を特定することが難しいという問題がある。
前記後者の公報の故障検出装置では、故障した摩擦締結要素や油圧調整用のソレノイド等を特定可能になるが、故障検出の為の演算処理が複雑化し、その演算処理負荷が高くなるという問題がある。
本発明の目的は、簡単な制御により一部の摩擦締結要素又は油圧調整手段の一部の機器(特に、ライン圧供給用の機器)の故障を検出可能にすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の自動変速機の故障判定装置は、トルクコンバータと、変速ギヤ機構と、複数の摩擦締結要素と、複数の摩擦締結要素へ夫々供給される油圧を調整する油圧調整手段と、予め設定した所定の変速マップに基づいて車両の走行状態に応じた変速段となるように油圧調整手段を制御する制御手段とを備えた自動変速機の故障を判定する故障判定装置において、車両の走行中に変速ギヤ機構の実際のギヤ比を検知するギヤ比検知手段と、ギヤ比検知手段で検知されたギヤ比が、前進走行レンジにおける1速段のギヤ比よりも大きいときに、複数の摩擦締結要素のうちの前進走行レンジにおいて締結される摩擦締結要素又は油圧調整手段の少なくとも一部が故障であると判定する故障判定手段とを備えたものである。
【0007】
前記ギヤ比検知手段は、例えば、自動変速機のトルクコンバータのタービン回転数と自動変速機の出力軸の回転数とから実際のギヤ比を検知する。但し、タービン回転数は、タービン回転数センサで検出してもよく、また、エンジン回転数にトルクコンバータにおける滑りを加味して求めてもよい。また、自動変速機の出力軸の回転数は、センサで検出してもよく、車速から求めてもよい。
故障判定手段は、検知された実際のギヤ比が、前進走行レンジにおける1速段のギヤ比よりも大きいときに、複数の摩擦締結要素のうちの前進走行レンジにおいて締結される摩擦締結要素又は油圧調整手段の少なくとも一部が故障であると判定する。
【0008】
例えば、前進走行レンジの1速段のとき、摩擦締結要素であるフォワード・クラッチが故障してその締結力が低下した場合や、複数の摩擦締結要素に供給すべく油圧調整手段で調整されるライン圧が低下した場合には、フォワード・クラッチにおける滑りが生じるため、自動変速機の出力軸の回転数が低下する。
そのため、変速ギヤ機構の実際のギヤ比が増加して、実際のギヤ比が前進走行レンジにおける1速段のギヤ比(変速ギヤ機構における最大のギヤ比)よりも大きくなるので、フォワード・クラッチ又は油圧調整手段の少なくとも一部(つまり、ライン圧調整用の機器)が故障であると判定することができる。
但し、前進走行レンジの1速段に限らず、2速段や3速段や4速段のときにも、フォワード・クラッチが締結され、その締結力が低下すると、前記と同様に、実際のギヤ比が前進走行レンジにおける1速段のギヤ比よりも大きくなるので、前記同様の故障であると判定することができる。
【0009】
請求項2の自動変速機の故障判定装置は、請求項1の発明において、前記車両の車速を検出する車速検出手段を設け、前記故障判定手段は車速検出手段で検出された車速が所定値以上のときにのみ判定を行うことを特徴とするものである。車速検出手段は、ドライブシャフトに固定した歯付きディスクを電磁ピックアップで検出する構成のものであるが、この車速検出手段の低車速における検出精度は比較的低いことから、また、NレンジからDレンジに切換えたときに油圧系の応答遅れで摩擦締結要素が未だ完全に締結してない状態では故障判定の精度が低下することから、前記故障判定手段は車速が所定値以上のときにのみ判定を行うように構成してある。
【0010】
請求項3の自動変速機の故障判定装置は、請求項1の発明において、前記故障判定手段で故障が判定されたときには、その故障をドライバーに報知する報知手段を設けたことを特徴とするものである。故障判定手段で故障が検出されたとき、その故障を報知手段でドライバーに報知するので、自動変速機の故障が一層悪化しないうちに、自動変速機を修理する等の対策を講ずることができる。
【0011】
請求項4の自動変速機の故障判定装置は、請求項1の発明において、前記故障判定手段で故障が判定されたときに、その故障情報を記憶する記憶手段を設けたことを特徴とするものである。故障情報を記憶手段に記憶させることができるので、その故障情報を故障部位の修理に活用したり、ドライバーへの報知に活用したりすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、自動車に搭載される自動変速機2は、トルクコンバータ3と変速ギヤ機構4とからなる。但し、図1にはトルクコンバータ3と変速ギヤ機構4の上半分のみを図示してある。エンジン1の出力軸1aがポンプ31に連結され、タービン32は変速ギヤ機構4の入力軸4aに連結され、変速ギヤ機構4の出力軸4bは自動車のドライブシャフト5に連結されている。
【0013】
トルクコンバータ3は、ポンプ31とタービン32とステータ33とロックアップクラッチ35とを有し、ステータ33はワンウェイクラッチ34を介して回転可能であり、トルクコンバータ3のフロント室3aのフロント圧がリヤ室3bのリヤ圧よりも高いときにはロックアップクラッチ35は非締結状態となり、フロント圧がリヤ圧よりも低いときには締結状態となる。
変速ギヤ機構4には、フロント遊星歯車機構41、リヤ遊星歯車機構42、バンドブレーキ43、リバースクラッチ44、ハイクラッチ45、フォワードクラッチ46、オーバーランクラッチ47、ローアンドリバースクラッチ48、フォワードOWC49a(尚、OWCはワンウェイクラッチである)、ローOWC49b等が設けられ、図示のように連結されている。
【0014】
変速ギヤ機構4のクラッチやブレーキ等の摩擦締結要素に供給する油圧を調整する油圧調整装置50が設けられ、この油圧調整装置50を制御する制御ユニット51が設けられ、制御ユニット51で駆動制御されるディスプレイ52もインストルメントパネルに設けられている。制御ユニット51には、車速センサ53で検出した車速信号SV、エンジン1のスロットル開度をスロットル開度センサ54で検出したスロットル開度信号STVO、エンジン回転数をエンジン回転数センサ55で検出したエンジン回転数信号SNe 、タービン回転数をタービン回転数センサ56で検出したタービン回転数信号SNt 、シフトレバーの操作位置を検出するインヒビタ57からのレンジ信号SR、等が供給されている。
【0015】
制御ユニット51は、入出力インターフェイス、CPUとRAMとROMとを含むマイクロコンピュータ、油圧調整装置50の複数のソレノイドを駆動する複数の駆動回路、ディスプレイ52の為の駆動回路等が設けられている。前記ROMには、車速とスロットル開度とをパラメータとして設定した変速マップ及びこの変速マップに基づいて自動変速機2を制御する変速制御の制御プログラムと、後述の故障判定制御の制御プログラム等が予め格納されている。前記RAMには、前記の制御を実行する為に必要な種々のメモリ類および自動変速機2の故障についての故障情報を格納する為の故障情報メモリ等が設けられる。
【0016】
次に、前記油圧調整装置50について簡単に説明する。
図2に示すように、油圧調整装置50には、エンジン1で駆動されるオイルポンプ61、フィードバックACC 62( 尚、ACC はアキュムレータである)、プレッシャ・レギュレータ・バルブ63、プレッシャ・モディファイヤ・バルブ64、モディファイヤACC ・バルブ65、ライン圧ソレノイド66、シレトレバーで操作されるマニュアル・バルブ67が設けられ、バルブ63,64とライン圧ソレノイド66とでライン圧が調整される。
【0017】
更に、油圧調整装置50には、変速段切換えの為に、パイロットバルブ70、シフトソレノイド71a,71b、オーバーラン・クラッチ・ソレノイド72、シャトル・シフト・バルブ73、ファースト・レジューシング・バルブ74、オーバーラン・クラッチ・レジューシング・バルブ75、オーバーラン・クラッチ・コントロール・バルブ76、シフト・バルブ77a及び4−2リレーバルブ78、シフト・バルブ77b及び4−2シーケンスバルブ79、2−3タイミング・バルブ80、N−DACC 81、2−3ACC 82、1−2ACC 83、3−4/N−RACC 84、シャトル・シフト・バルブ85、ACC コントロール・バルブ86、サーボ・チャージャ・バルブ87等が設けられている。
【0018】
更に、油圧調整装置50には、ロックアップクラッチ35の切換えの為に、ロックアップ・ソレノイド90、ロックアップ・コントロール・ソレノイド91、ロックアップ・モディファイヤ・バルブ92、コンバータ・リリーフ・バルブ93、ロックアップ・コントロール・バルブ94等が設けられている。尚、図2の実線は油路を示し、符号95aは自動変速機2の前部の潤滑部、符号96はオイルクーラ、符号95bは自動変速機2の後部の潤滑部を示す。
【0019】
前進走行レンジ(Dレンジ)における1速段〜4速段のときの、前記クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素の締結状態と作動状態は、図3に示す通りである。
次に、1速段〜4速段のときの油圧供給態様について説明する。
1速段のとき、オイルポンプ61で発生した吐出圧は、ライン圧ソレノイド66とバルブ63,64とでライン圧P0に調整され、マニュアル・バルブ67、2−3ACC 82、パイロットバルブ70、コンバータ・リリーフバルブ93に供給される。そのライン圧P0はマニュアル・バルブ76から油路aを介してN−DACC 81に作用し、フォワード・クラッチ46を締結する。
【0020】
ここで、シフト・ソレノイド71a,71bがONであるためパイロット圧P10,P19 が立ち、油路bから油路cに供給されたライン圧P0と、油路dから油路eに供給されたライン圧P0は、シフトバルブ77a,77bで夫々遮断される。また、オーバーラン・クラッチ・ソレノイド72がOFFであるためパイロット圧P24 はドレーンされ、オーバーラン・クラッチ・コントロール・バルブ76を介して、ライン圧P0がオーバーラン・クラッチ・レジューシング・バルブ75に供給され、そのライン圧P0による油圧P37 がオーバーランクラッチ圧としてオーバーラン・クラッチ47を締結する。一方、コンバータ・リリーフ・バルブ93に供給されたライン圧P0による油圧P30 はコンバータ圧に変換され、ロックアップ・コントロール・バルブ94を介してトルクコンバータ3に圧送され、後部潤滑に使用され、一部は分岐して前部潤滑に使用される。
【0021】
2速段のとき、1速段のときと同様に、ライン圧P0はマニュアル・バルブ67から油路aを介してN−DACC 81に作用し、フォワード・クラッチ46を締結する。ここで、シフトソレノイド71aがOFFであるためパイロット圧P10 はドレーンされ、シフト・バルブ77aは、油路dのライン圧P0を油路fを介して1−2ACC 83に供給し、1−2ACC 83を介してバンド・ブレーキ43に締結圧が作用しバンド・ブレーキ43が締結される。そして、シフト・ソレノイド71b及びオーバーラン・クラッチ・ソレノイド72がONであるためパイロット圧P19,P24 が立ち、シフト・バルブ77bとオーバーラン・クラッチ・コントロール・バルブ76は、油路e,dのライン圧P0を遮断する位置を保持する。
【0022】
3速段のとき、1速段のときと同様に、ライン圧P0はマニュアル・バルブ67から油路aを介してN−DACC 81に作用し、フォワード・クラッチ46を締結する。シフト・ソレノイド71aがOFFであるためパイロット圧P10 はドレーンされ、シフト・バルブ77aは油路dのライン圧P0を油路fを介して1−2ACC 83に供給し、1−2ACC 83を介してバンド・ブレーキ43が締結される。シフト・ソレノイド71bがOFFであるためパイロット圧P19 はドレーンされ、シフト・バルブ77bは油路eのライン圧P0を油路gに供給し、その油圧がハイクラッチ45に作用しハイクラッチ45が締結され、ライン圧P0が2−3ACC 82に作用して圧力調整された油圧が油路h,i,jを介してバンドブレーキ43の開放側にも作用する。
【0023】
一方、オーバーラン・クラッチ・ソレノイド72がOFFであるためパイロット圧P24 はドレーンされ、オーバーラン・クラッチ・コントロール・バルブ76は、油路dのライン圧P0を油路kに供給し、オーバーラン・クラッチ・レジューシング・バルブ75を介してオーバーランクラッチ圧が供給されてオーバーランクラッチ47が締結される。尚、ロックアップソレノイド90のデュティ比が5%のときは、コンバータ圧がコンバータフロント室に作用し、ロックアップクラッチ35は非締結状態になる。
【0024】
4速段のとき、1速段のときと同様に、ライン圧P0は、マニュアル・バルブ67から油路aを介してN−DACC 81に作用し、フォワード・クラッチ46を締結する。シフト・ソレノイド71aがONであるためパイロット圧P10 が作用し、油路dのライン圧P0はシフト・バルブ77a、油路e、シフト・バルブ77b、シフトバルブ77a、油路fを介して1−2ACC 83に供給され、1−2ACC 83を介してバンド・ブレーキ43の締結側に作用し、バンド・ブレーキ43が締結される。シフト・ソレノイド71bがOFFであるためパイロット圧P19 はドレーンされ、シフト・バルブ77bは油路eのライン圧P0を油路gに供給し、その油圧がハイクラッチ45に作用しハイクラッチ45が締結され、ライン圧P0が2−3ACC 82に作用して圧力調整された油圧がバンドブレーキ43の開放側にも作用する。
【0025】
一方、オーバーラン・クラッチ・ソレノイド72がONであるためオーバーラン・クラッチ・コントロール・バルブ76にパイロット圧P24 が作用し、油路dのライン圧P0が、シフトバルブ77a,油路e,シフトバルブ77b,シフトバルブ77a,油路m,油路nを介して3−4/N−RACC 84に供給され、その3−4/N−RACC 84を介してバンドブレーキ43の締結側に供給される。尚、ロックアップソレノイド90のデュティ比が5%のときは、コンバータ圧がコンバータフロント室に作用し、ロックアップクラッチ35は非締結状態になる。
【0026】
図4〜図7は、変速ギヤ機構4の作動説明の為に概念的に示したもので、入力軸4aからの駆動力の伝達経路を太い実線で図示してあり、図4は1速段の状態、図5は2速段の状態、図6は3速段の状態、図7は4速段の状態を示す。
1速段のときには、図4に示すように、入力軸4aへの駆動力は、リヤ遊星歯車機構42のサンギヤ42aに伝達されてサンギヤ42aを右回り(矢印の方向)に回転させ、ピニオンギヤ42bを左回転させる。そのため、ピニオンギヤ42bの左回転によりリングギヤ42dも左回転しようとするが、フォワードOWC49a、フォワードクラッチ46を介してローOWC49bが作用するため、リングギヤ42dは左回転しない。その結果、ピニオンギヤ42bは左回転で自転し、プラネタリキャリア42cを右公転させる。それ故、プラネタリキャリア42cにより出力軸4bが右回りに駆動される。
【0027】
2速段のときには、図5に示すように、1速段のときと同様に、入力軸4aへの駆動力は、リヤ遊星歯車機構42のサンギヤ42aに伝達されてサンギヤ42aを右回り(矢印の方向)に回転させ、ピニオンギヤ42bを左回転させ、プラネタリキャリア42cを右公転させる。このプラネタリキャリア42cは、フロント遊星歯車機構41のリングギヤ41dと一体であるため、フロントのリングギヤ41dも右回転する。ここで、フロント遊星歯車機構41のサンギヤ41aはバンド・ブレーキ43でロックされて回転しないので、ピニオンギヤ41bは右回りに自転しながら公転し、プラネタリキャリア41cは右回転する。このプラネタリキャリア41cの右回転は、フォワード・クラッチ46とフォワードOWC49aを介してリヤのリングギヤ42dに伝達され、そのリングギヤ42dを右回転させ、このリングギヤ42dの右回転の分だけ、1速段のときよりも出力軸4bの回転数が増して2速段となる。
【0028】
3速段のときには、図6に示すように、入力軸4aへの駆動力は、ハイクラッチ45のドラムに伝達され、ハイクラッチ45を介してフロントのプラネタリキャリア41cに伝達され、そのプラネタリキャリア41cが右回転する。そのプラネタリキャリア41cの右回転は、フォワード・クラッチ46とフォワードOWC49aとオーバーランクラッチ49bとを介してリヤのリングギヤ42dに伝達され、リングギヤ42dを右回転させる。一方、入力軸4aの駆動力はリヤのサンギヤ42aに伝達され、そのサンギヤ42aが右回転するが、そのサンギヤ42aとリングギヤ42dとが同速度で右回転するため、リヤのピニオンギヤ42cは自転することなく、サンギヤ42a及びリングギヤ42dと一体で右回転する。こうして、2速段よりも高速の3速段となる。
【0029】
4速段のときには、図7に示すように、入力軸4aへの駆動力は、ハイクラッチ45のドラムに伝達され、ハイクラッチ45を介してフロントのプラネタリキャリア41cに伝達され、そのプラネタリキャリア41cが右回転する。ここで、バンド・ブレーキ43が締結されるため、フロントのサンギヤ41aは回転せず、フロントのピニオンギヤ41bは右回りに自転しながら公転し、フロントのリングギヤ41dの回転を増速させ、その回転駆動力はリヤのプラネタリキャリア42cに伝達され、そのプラネタリキャリア42cの駆動力が出力軸4bに伝達される。こうして、3速段よりも高速の4速段となる。
【0030】
次に、自動変速機2の故障を判定する故障判定制御について説明する。
この故障判定制御においては、前進走行レンジにおいて走行中に、ライン圧を調整する為の機器(バルブ63,63、ライン圧ソレノイド66)の故障により、ライン圧P0が低下し、その結果フォワード・クラッチ46においてスリップが生じたり、又はフォワード・クラッチ46の摩擦性能が低下してスリップが生じたりして、変速ギヤ機構4のギヤ比(変速比)が1速段のギヤ比よりも大きくなったときに故障であると判定する。
【0031】
図8は故障判定制御のルーチンのフローチャートであり、図中符号Si(i=1,2,・・・)は各ステップを示し、この制御は微小時間おきのインターバル割り込み処理にて実行される。
自動車のイグニションスイッチの投入により制御が開始されると、最初に初期設定が実行され、この初期設定においてフェイルフラグFFがリセットされるとともに計時用のカウンタTM1,TM2がリセットされる(S1)。次に、車速センサ53の検出信号SV、タービン回転数センサ56の検出信号SNt 、インヒビタ57のインヒビタ信号SR等が読み込まれる(S2)。
【0032】
次に、S3において前記読み込んだ検出信号SV,SNt,SR に基づいて、車速V、タービン回転数Nt、シフトレンジR、変速ギヤ機構4のギヤ比Grが演算される。この場合、変速ギヤ機構4の出力軸4bの回転数は車速Vに所定の定数を乗算して求め、ギヤ比Grは、タービン回転数Nt/出力軸4bの回転数、として演算される。次に、Dレンジ(前進走行レンジ)か否か判定し(S4)、その判定が No のときにはS6へ移行する。Dレンジである場合には車速Vが所定車速(例えば、5Km/h)以上か否か判定し(S5)、その判定が No のときにはS6へ移行する。S6ではカウンタTM1,TM2をリセットしてS2へリターンする。
【0033】
S5の判定がYes の場合には、ギヤ比Grが1速段の所定のギヤ比(例えば、1.70)よりも大きいか否か判定し(S7)、その判定が No で変速ギヤ機構4が正常である場合には、S8においてカウンタTM2がカウントアップされ、次のS9ではカウンタTM2のカウント値TM2が所定値T2(例えば、4秒に相当する値)よりも大きいか否か判定し、最初のうちはその判定が No であるので、そのままリターンする。その後時間経過していってS9の判定がYes になるとフェイルフラグFFをリセットし、カウンタTM1をリセットしてリターンする。
【0034】
S7の判定がYes で変速ギヤ機構4が異常である場合には、カウンタTM1がカウントアップされ(S11)、次のS12ではカウンタTM1のカウント値TM1が所定値T1(例えば、3秒に相当する値)よりも大きいか否か判定する。最初のうちはその判定が No となるので、そのままリターンする。そのうちに時間経過していってS12の判定がYes になると、S13においてフェイルフラグFFを1にセットするとともにカウンタTM2をリセットし、次に、S14においてRAMに設けた故障情報メモリに自動変速機故障を示す故障コードを格納し、次にS15において、ディスプレイ52に「自動変速機故障」と表示してからリターンする。尚、この故障判定制御は、イグニションスイッチがOFFとなるまで継続されるが、S15を実行後にはS15を繰り返し実行してもよい。
【0035】
以上説明した故障判定制御においては、Dレンジで走行中に、変速ギヤ機構4のギヤ比Grが1速段のギヤ比よりも大きくなる状態が例えば3秒間継続したか否かを判定するという簡単な制御でもって、自動変速機2の故障(特に、ライン圧調整用機器の故障やフォワード・クラッチ46の故障)を確実に検知することができる。そして、ディスプレイ52をインストルメントパネルに装備し、自動変速機2の故障を検知したときには、自動変速機が故障である旨をディスプレイ52に表示してドライバーに報知するので、自動変速機2の故障が一層悪化しないうちに修理する等の対策を講ずることができる。
【0036】
但し、ディスプレイ52の代わりに、故障表示ランプをインストルメントパネルに設けておき、自動変速機2の故障を検知したときには、その故障表示ランプを点灯させてもよい。
更に、2次電池でバックアップされたRAMに故障情報メモリを設けておき、自動変速機2の故障を検知したときには、その故障コードを故障情報メモリに格納するようにしたので、走行停止後にも、その故障コードから自動変速機の故障を知ることができるし、また、その故障コードに基づいて、自動変速機2が故障であることをディスプレイ52に表示させたりすることができる。
尚、前記実施形態においては、タービン回転数センサ56を設けたが、このタービン回転数センサ56を省略し、エンジン回転センサ55の検出信号SNe から求められるエンジン回転数Neに1.0 未満の所定の定数(変速段毎に異なる値に設定してある)を掛けてタービン回転数を求めるように構成してもよい。
【0037】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、車両の走行中に変速ギヤ機構の実際のギヤ比を検知するギヤ比検知手段と、ギヤ比検知手段で検知されたギヤ比が、前進走行レンジにおける1速段のギヤ比よりも大きいときに、複数の摩擦締結要素のうちの前進走行レンジにおいて締結される摩擦締結要素又は油圧調整手段の少なくとも一部が故障であると判定する故障判定手段とを設けたので、摩擦締結要素であるフォワード・クラッチの故障、又は、油圧調整手段の少なくとも一部(つまり、ライン圧調整用の機器)の故障を検知することができる。
【0038】
請求項2の発明によれば、請求項1と同様の効果を奏するが、車速検出手段を設け、故障判定手段は検出された車速が所定値以上のときにのみ故障判定を行うので、実際のギヤ比の検知精度が高いときだけ判定するようにし、また、油圧系の応答遅れに起因する摩擦締結要素の締結が不完全な状態での判定を行わないようにして、故障判定の信頼性を確保できる。
【0039】
請求項3の発明によれば、請求項1と同様の効果を奏するが、故障判定手段で故障が判定されたときには、その故障をドライバーに報知する報知手段を設けたので、故障の発生をドライバーに早期に報知して、故障が一層悪化しないうちに、自動変速機を修理する等の対策を講ずることができる。
【0040】
請求項4の発明によれば、請求項1と同様の効果を奏するが、故障判定手段で故障が判定されたときに、その故障情報を記憶する記憶手段を設けたので、故障情報を記憶手段に記憶させることができ、その故障情報を故障部位の修理に活用したり、ドライバーへの報知に活用したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機とその制御系の構成図である。
【図2】油圧調整装置の油圧回路図である。
【図3】変速段毎の摩擦締結要素の締結や作動の状態を示す図表である。
【図4】変速ギヤ機構(1速段のときの駆動力伝達系を含む)の斜視図である。
【図5】変速ギヤ機構(2速段のときの駆動力伝達系を含む)の斜視図である。
【図6】変速ギヤ機構(3速段のときの駆動力伝達系を含む)の斜視図である。
【図7】変速ギヤ機構(3速段のときの駆動力伝達系を含む)の斜視図である。
【図8】故障判定制御のルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
2 自動変速機
3 トルクコンバータ
4 変速ギヤ機構
46 フォワード・クラッチ
50 油圧調整装置
51 制御ユニット
52 ディスプレイ
53 車速センサ
56 タービン回転数センサ
57 インヒビタ
63 プレッシャ・レギュレータ・バルブ
64 プレッシャ・モディファイヤ・バルブ
66 ライン圧ソレノイド
Claims (4)
- トルクコンバータと、変速ギヤ機構と、複数の摩擦締結要素と、複数の摩擦締結要素へ夫々供給される油圧を調整する油圧調整手段と、予め設定した所定の変速マップに基づいて車両の走行状態に応じた変速段となるように油圧調整手段を制御する制御手段とを備えた自動変速機の故障を判定する故障判定装置において、
車両の走行中に変速ギヤ機構の実際のギヤ比を検知するギヤ比検知手段と、
前記ギヤ比検知手段で検知されたギヤ比が、前進走行レンジにおける1速段のギヤ比よりも大きいときに、複数の摩擦締結要素のうちの前進走行レンジにおいて締結される摩擦締結要素又は油圧調整手段の少なくとも一部が故障であると判定する故障判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動変速機の故障判定装置。 - 前記車両の車速を検出する車速検出手段を設け、前記故障判定手段は車速検出手段で検出された車速が所定値以上のときにのみ判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の故障判定装置。
- 前記故障判定手段で故障が判定されたときには、その故障をドライバーに報知する報知手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の故障判定装置。
- 前記故障判定手段で故障が判定されたときに、その故障情報を記憶する記憶手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の故障判定装置。
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