JP3754463B2 - ヘモグロビン含有リポソームの製法 - Google Patents

ヘモグロビン含有リポソームの製法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、生体内に投与するヘモグロビン含有リポソームに関する。本発明は、更に詳しくは生体内に投与したときのヘモグロビンの酸素親和性を著しく改善したヘモグロビン含有リポソームに関する。
【0002】
【従来の技術】
血液の代用となり得る薬剤として、ゼラチン分解産物の溶液、デキストラン溶液、ヒドロキシエチルスターチ溶液等の血漿増量剤が使用されている。しかし、これらの代用血漿は大量出血時の緊急時に血管内の血漿量を補充し、循環動態を維持する目的で開発された製剤で、天然の赤血球の酸素運搬能を代替することは出来ない。近年、こうした血漿増量剤とは異なり、天然赤血球類似の酸素運搬能を保持した代用血液として、人工酸素運搬体の研究開発が進められている。
当初の開発段階にあっては、フッ化炭素エマルジョン(Perfluorochemical:PFC[通称:Fluorocarbon])の酸素溶解能力(水の20倍)を利用した化学合成品が検討されたが、酸素運搬量が不足すること、および体内蓄積性が危惧されている。
【0003】
一方、酸素運搬体として天然赤血球由来ヘモグロビンを利用する試みも行われているが遊離ヘモグロビンの生体内半減期は極端に短く、末梢への酸素運搬も低く、腎毒性などの問題点が指摘されており、実用化は難しい。最近、こうした遊離ヘモグロビン溶液の問題点を改善した修飾ヘモグロビン(安定化ヘモグロビン、重合ヘモグロビン等)やリポソーム化ヘモグロビンの開発の検討が中心となりつつある。
【0004】
その例として、ヘモグロビンを含有するリポソームとして薄膜法により製造されたものがMillerらによって報告されている(米国特許第4,133,874号)。この方法によればヘモグロビン含有リポソームは、リポソーム形成脂質をクロロフォルム等の適当な有機溶媒に溶解し、得られた溶液から溶媒を留去して脂質薄膜を形成し、次にこれをヘモグロビン溶液を添加して超音波処理することによって得られる。
【0005】
しかしながら、これらヘモグロビンを原料とした人工赤血球には天然の赤血球に存在し、ヘモグロビンと結合することによりヘモグロビンの酸素親和性を調整し、赤血球の肺から末梢組織への酸素運搬を有効に機能させている物質(アロステリックエフェクター)である2,3−ジホスホグリセリン酸が欠如しているために酸素に対する親和性が非常に高く、生体における酸素運搬が十分に行われないという問題点がある。そのために遊離ヘモグロビンを利用した人工血液ではヘモグロビンにピリドキサールリン酸を化学的に結合させたり、あるいは分子内において架橋を行うことによりその親和性を下げる工夫をしている。
【0006】
しかしこれら修飾ヘモグロビンは天然のヘモグロビンとは分子構造が異なるため毒性面、代謝面において問題点があると考えられる。また、リポソーム含有ヘモグロビンでは2,3−DPGをヘモグロビンに添加したり、また鳥類のアロステリックエフェクターとして知られるイノシットヘキサリン酸(以後、IHPと称す)を添加する試みが行われている。しかし、2,3−DPGは非常に不安定であること、また、IHPは哺乳類において代謝経路が無く、また2価のイオンと非常に強固に結び付くなどの問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を鑑み以上の課題を解決しようとするものである。すなわち、ヘモグロビンの酸素親和性を改善し、特に体内に投与したときのヘモグロビンの酸素運搬能を改善したヘモグロビン含有リポソームを提供するものである。
【0008】
【問題を解決するための手段】
この上記課題は下記の構成からなる、本発明のヘモグロビン含有リポソームにより解決される。
【0009】
(1)脂質からなるリポソーム内に酵素活性を有するヘモグロビン溶液を取り込んでなるヘモグロビン含有リポソームにおいて、前記ヘモグロビン溶液内に、2,3−ジホスホグリセリン酸(以後、2,3−DPGと称す)を生ずる酵素反応基質が含まれていることを特徴とするヘモグロビン含有リポソーム。
【0010】
ここで、2,3−DPGを生ずる酵素反応基質の濃度が、0.05mM〜200mMであるヘモグロビン溶液を取り込んだヘモグロビン含有リポソームが好ましい。
【0011】
(2)脂質からなるリポソーム内に酵素活性を有するヘモグロビン溶液を取り込んでなるヘモグロビン含有リポソームにおいて、前記ヘモグロビン溶液内に、2,3−ジホスホグリセリン酸を生じる酵素反応基質、およびアデノシントリホスフェートおよび/またはびアデノシントリホスフェート(以後、ATPと称す)を生ずる酵素反応基質が含まれていることを特徴とする上記(1)に記載のヘモグロビン含有リポソーム。
【0012】
ここで、酵素反応基質のそれぞれの濃度が、0.05mM〜200mMであるヘモグロビン溶液を取り込んだヘモグロビン含有リポソームが好ましい。
【0013】
(3)上記2,3−DPGを生じる酵素反応基質が嫌気的解糖系中間物、またはその誘導体、または有機リン酸化合物またはその誘導体であることを特徴とする上記(1)および(2)記載のヘモグロビン含有リポソーム。
【0014】
(4)上記嫌気的解糖系中間物またはその誘導体がグルコース、グルコース−6−リン酸、グルコース−1、6−ジリン酸、フルクトース−6−リン酸、UDP−グルコース、L−グルコネート、キシリトール、ソルビトール、α−グリセロール、グルセルアルデヒド−3−リン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸、乳酸であり、有機リン酸化合物あるいはその誘導体がATP、アデノシンジホスフェート(ADP)、アデノシンモノホスフェート(AMP)、アデニン、イノシン、アデノシンである(1)および(2)記載のヘモグロビン含有リポソーム。
【0015】
ここでホスホエノールピルビン酸の添加濃度を1〜50mMとすることで2,3−DPG生成量を増大できより酸素運搬効率を改善できるので好ましい。
【0016】
(5)ヘモグロビン溶液内に、さらに有機リン酸化合物、無機リン酸化合物が含まれている(1)乃至(4)に記載のヘモグロビン含有リポソーム。
【0017】
ここで有機リン酸化合物の含有量(重量モル比)が、ヘモグロビン1モルに対し、0.05〜4モルであるヘモグロビン含有リポソームが好ましい。
【0018】
ここで無機リン酸化合物の濃度が0.1mM〜100mMであるヘモグロビン含有リポソームが好ましい。さらに、有機リン酸化合物が、イノシットヘキサリン酸であるヘモグロビン含有リポソームが好ましい。
【0019】
(6)ヘモグロビン溶液内に、さらに還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以後、NADHと称す)、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以後、NADと称す)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以後、NADPHと称す)、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以後、NADPと称す)よりなる群から選ばれる少なくとも1つが含まれている上記(1)乃至(5)に記載のヘモグロビン含有リポソーム。
【0020】
(7)洗浄赤血球を溶血後、赤血球膜成分を除去し、30〜60%(w/v)の濃縮ヘモグロビン溶液に、2,3−ジホスホグリセリン酸を生じる酵素反応基質等を添加して混和させ、ヘモグロビン溶液中の酵素失活が無い穏和な条件下でリポソーム化することを特徴とする上記(1)乃至(6)に記載のヘモグロビン含有リポソームの製法。
【0021】
ここで、ヘモグロビン溶液中の酵素失活がない穏和な条件が、40℃以下で50〜1800kg/cm2の圧で細隙から1〜数回吐出させることであるヘモグロビン含有リポソームの製法が好ましい。
【0022】
本発明はヘモグロビン含有リポソームの酸素親和性に対する問題を解決するために、2,3−DPGを生じる酵素反応基質を添加し、生体内におけるヘモグロビン含有リポソームの酸素運搬能を向上するものである。
【0023】
さらに本発明はヘモグロビン含有リポソームの酸素親和性に対する問題を解決するために、2,3−DPG、およびATPおよび/またはATPを生じる酵素反応基質を添加し、生体内におけるヘモグロビン含有リポソームの酸素運搬能を向上するものである。
【0024】
本発明に用いる2,3−DPGおよび/またはATPを生じる酵素反応基質は特に制限されず、生体内に存在する酵素の単数または複数の組み合わせとその基質の単数または複数の組み合わせによる酵素反応の結果、2,3−DPGまたはATPを生じるものであればよいが、解糖系中間体またはその誘導体および有機リン酸化合物またはその誘導体が好ましい。
【0025】
その中でも特に嫌気的解糖系糖代謝中間物である、グルコース、グルコース−6−リン酸、グルコース−1、6−ジリン酸、フルクトース−6−リン酸、UDP−グルコース、L−グルコネート、キシリトール、ソルビトール、α−グリセロール、グルセルアルデヒド−3−リン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸、乳酸等が使用できる。
【0026】
有機リン酸化合物としてATP、アデノシンジホスフェート(ADP)、アデノシンモノホスフェート(AMP)、その誘導体としてアデニン、イノシン、アデノシン等も使用できる。つまり生体に存在する酵素の単数または複数の組み合わせた酵素反応の際に2,3−DPGおよび/またはATPを生じるものであれば使用できる。
【0027】
本発明において、2,3−DPGおよび/またはATPを生じる酵素反応基質の濃度はそれぞれ0.01mM〜200mM、好ましくは0.1mM〜100mMである。0.01mMより少ないと酸素親和性調整効果が少なく、また200mMより多いとリポソーム化効率が低下するのであまり好ましくない。
【0028】
本発明に用いるリポソームの脂質原料としてはリポソームが形成できるものであれば特に制限はなく、天然のもの及び合成のものが利用できる、その例としてはレシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン等及びこれらを常法に従って水素添加したものがあげられ、これらを組み合わせて用いることも出来る。
【0029】
本発明に使用するヘモグロビンは、赤血球を常法によって溶血し膜除去した後、分画分子量1万の膜を利用した限外濾過により30%(w/v)以上に濃縮したものが使用される。ヘモグロビンは水溶液の形態で取り込まれ、その濃度は30〜60%(w/v)、特には40〜50%(w/v)が好ましい。この濃度とするのは、末梢組織への酸素運搬量はリポソーム内のヘモグロビン濃度に依存して増大するためリポソーム化が可能な範囲内で最も高濃度であることが好ましいからである。
【0030】
本発明において使用する赤血球は、ヒトに投与する場合にはヒト由来が好ましく、また、新鮮なもの程よいが、採血後4℃以下で50日以上保存したものでも充分に使用できる。
【0031】
本発明において、上述の酵素反応基質のみならずこれに加えてNADH、NAD、NADPH、NADP等の補酵素をヘモグロビン溶液に加えてもよい。その濃度はそれぞれ0.01mM〜10mMとするのが好ましい。
【0032】
本発明においては、リポソーム膜の構成成分として所望によりステロール類や脂肪酸などの電荷付与物質を添加して、膜構造の強化や体内消失時間の調整を計ることが出来る。また、リポソームにはヘモグロビンの酸化を防止するためにトコフェロール同族体すなわちビタミンEを添加してもよい。
【0033】
本発明のヘモグロビン含有リポソームは、洗浄赤血球を溶血後、赤血球膜成分を除去し、30〜60%(w/v)に濃縮し、この濃縮ヘモグロビン溶液に単数あるいは複数の酵素基質を添加、混和させ、ヘモグロビン溶液中の酵素失活がない穏和な条件下で、リポソーム化することによって得ることが出来る。なお、前記酵素失活が無い穏和な条件下とは、高圧吐出処理が好ましく、50〜1800kg/cm2の圧で細隙から1〜数回吐出させることである。また、処理温度は40℃以下に保持する。具体的な例としては、高圧吐出乳化機にマイクロフルイダイザー 110Y[Micorofluidizer 110Y](マイクロフルイダイザー社[maidrofluidics Co.])を用いる場合には480〜1450kg/cm2、パール細胞破砕機(パール社[Parr Co.])を用いる場合には80〜200kg/cm2であり、いずれも40℃以下、好ましくは氷冷下〜4℃で実施する。
【0034】
天然赤血球中には80〜100μg/ml血液の2,3−DPGが存在しその量はほぼ一定に保たれている。2,3−DPGはヘモグロビンと強く結合し、ヘモグロビンの酸素親和性をp50(ヘモグロビンの酸素飽和度が50%となる酸素分圧)=27〜30mmHgに保つため、肺から末梢細胞への赤血球による酸素運搬が効率良く行われる。また、2,3−DPGは脱酸素化したヘモグロビンとより強く結合するため、天然赤血球の特徴である酸素解離曲線のS字化(アロステリック効果)が起き、静脈の酸素分圧に対してその酸素運搬効率が敏感に反応することで生体の恒常性に寄与している。しかし、採血後時間の経過した血液あるいは赤血球膜を除去したヘモグロビン中にはこの2,3−DPGがほとんど存在せずその酸素親和性が非常に高くなり有効に酸素を運搬することが出来なくなる。
【0035】
しかし、本発明者の鋭意研究の結果、天然赤血球中に存在する解糖系の酵素の失活が無いような穏和な条件でヘモグロビンを酵素基質とともにリポソーム化することでヘモグロビン含有リポソーム中に2,3−DPGを生じることが出来、その酸素運搬力を天然の赤血球と同等かあるいはそれ以上にすることに成功した。
【0036】
そのメカニズムは次のように考えられる。つまり、上記のような穏やかな条件でリポソーム化を行えば、ヘモグロビン溶液中に残っている酵素は失活しないが、天然赤血球から膜成分を除去し、ヘモグロビンを取り出す過程、または精製、濃縮の工程で分子量1万以下の酵素基質や補酵素類など酵素反応に必要な物質も失われている。そのためそのままリポソーム化したのでは解糖系は動かず解糖系の中間物である2,3−DPGも生成しない。そこで、ヘモグロビン溶液にグルコース、アデニン、イノシン、NAD、ホスホエノールピルビン酸、無機リン酸等を添加してリポソーム化すると、まずアデニン、イノシン、無機リン酸からATPを生じこのATPとNADを補酵素としてグルコースの解糖系が動きだしその結果として2,3−DPGがリポソーム内で生成することで、ヘモグロビン含有リポソームの酸素親和性を調整できる。さらに代謝中間物であるホスホエノールピルビン酸の添加濃度を高めると解糖系内で逆反応が起こり、2,3−DPGの生成量が増大し酸素運搬効率の増大が可能となる。また天然の赤血球と同様にNADからNADHへの還元反応も起こるためリポソーム内に生じたメトヘモグロビンもこのNADH−チトクロームb5還元酵素により還元され、ヘモグロビンの経時酸化の抑制にも寄与しているものと推定される。
【0037】
本発明者は、従来、赤血球膜成分を除去したヘモグロビン溶液の不純物としてとらえられていた天然赤血球由来の解糖系酵素活性を有効に利用し、必要な基質並びに補酵素類を補充することで天然赤血球類似の解糖系由来2,3−DPGをヘモグロビン含有リポソーム内において生じさせることで、その酸素親和性を適正に調整したヘモグロビン含有リポソームを得た。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
なお、特に明示しない場合、調製の各工程は冷蔵状態(4℃)に維持し、無菌的環境で実施した。また、試薬・器具類は滅菌処理を行い、重金属イオン・無機イオン等の残留の無い無菌的超純水(15megΩ℃・cm at 25℃以上(パイロジェンフリー))を調製に使用した。
【0039】
(実施例1)
▲1▼赤血球膜除去ヘモグロビン溶液(SFH)の調製
濃厚赤血球製剤15L.を、連続遠心機を用いて生理食塩水で洗浄し、混在する血小板・白血球等の血漿成分を除去した洗浄赤血球を得た。この洗浄赤血球5L.に対して純水10L.を添加し溶血させた。孔径0.45μmの血漿分離器及び分画分子量30万(孔径5nm)のフィルターを用いて赤血球膜成分を除去し、ヘモグロビン濃度8%(w/v)の赤血球膜除去ヘモグロビン溶液(SFH溶液)、12L.を回収した。得られたSFH溶液は重炭酸ナトリウムを添加しpHを7.4に調整した後、ホローファイバー型ダイアライザー(テルモ社製、CL−C8N)を用いて純水に対して透析を行った後、限外濾過により濃縮し、ヘモグロビン濃度50%(w/v)の濃縮SFH溶液、1.8L.を得た。
【0040】
▲2▼濃縮SFH溶液への試薬添加
上述の工程を経て調整した濃縮SFH溶液200mlに対してβ−NAD(1mM、133mg)、D−グルコース(100mM、3.6g)、アデニン(2mM、54mg)、イノシン(5mM、268mg)、塩化マグネシウム・6水和塩(1mM、40mg)、リン酸2水素カリウム(9mM、247mg)、リン酸水素2ナトリウム(11mM、310mg)を添加し均一になるように混合した。
【0041】
▲3▼濃縮SFH溶液のリポソーム化
水素添加率90%以上の精製大豆由来フォスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール(Chol)、ミリスチン酸(MA)、トコフェロール(Toc)の均一混合粉末[HSPE:Chol:MA:Toc=7:7:2:0.28]45gに45mlの純水を加え、60−70℃に加温し膨潤させた。この膨潤脂質に▲2▼で調製したSFHを加え撹拌混合(15秒間)した。この脂質−濃縮SFH混合液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics co., Microfluidizer 110Y)を用いて、氷冷下、12000psi(約844kg/cm2)の圧力でリポソーム化した。
【0042】
▲4▼ヘモグロビン含有リポソームの精製
上記実施例 の処理液に対して、等量のデキストラン加生理食塩水(3%(w/v))を加え、遠心分離(10000rpm(13000g)×30分、at 4℃)を行った。効率良くヘモグロビンを含有したリポソームは、この遠心処理により沈殿物として回収された。リポソーム化されなかった遊離ヘモグロビン及び原料脂質を含む上澄はデカンテーションもしくは吸引により除去した、以上の洗浄操作を上澄中のヘモグロビンが肉眼的に認められなくなるまで繰り返した後、0.45μmのデュラポアメンブランフィルター(Millipore Ltd., Minitan system)を用いて濾過し、懸濁液中に混在する粗大粒子を除去した。濾液をホローファイバー型ダイアライザー(テルモ社製、CL−C8N)により限外濾過、濃縮しヘモグロビン濃度5%(w/v)の精製ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液600mlを得た。
【0043】
(実施例2)
実施例1−▲1▼で調製した濃縮SFH溶液200mlに対してβ−NAD(1mM、133mg)、D−グルコース(100mM、3.6g)、アデニン(2mM、54mg)、イノシン(5mM、268mg)、ホスホエノールピルビン酸Na(5mM、234mg)、塩化マグネシウム・6水和塩(1mM、40mg)、リン酸2水素カリウム(9mM、247mg)、リン酸水素2ナトリウム(11mM、310mg)を添加し均一になるように混合し、実施例1同様の方法でリポソーム化、精製、濃縮し、ヘモグロビン濃度5%(w/v)の精製ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液600mlを得た。
【0044】
(実施例3)
実施例1−▲1▼で調製した濃縮SFH溶液200mlに対してβ-NAD(1mM、133mg)、D−グルコース(100mM、3.6g)、アデニン(2mM、54mg)、イノシン(5mM、268mg)、ホスホエノールピルビン酸Na(10mM、468mg)、塩化マグネシウム・6水和塩(1mM、40mg)、リン酸2水素カリウム(9mM、247mg)、リン酸水素2ナトリウム(11mM、310mg)を添加し均一になるように混合し、実施例1同様の方法でリポソーム化、精製、濃縮し、ヘモグロビン濃度5%(w/v)の精製ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液600mlを得た。
【0045】
(実施例4)
実施例1−▲1▼で調製した濃縮SFH溶液200mlに対してβ−NAD(1mM、133mg)、D−グルコース(100mM、3.6g)、アデニン(2mM、54mg)、イノシン(5mM、268mg)、ホスホエノールピルビン酸Na(20mM、936mg)、塩化マグネシウム・6水和塩(1mM、40mg)、リン酸2水素カリウム(9mM、247mg)、リン酸水素2ナトリウム(11mM、310mg)を添加し均一になるように混合し、実施例1同様の方法でリポソーム化、精製、濃縮し、ヘモグロビン濃度5%(w/v)の精製ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液600mlを得た。
【0046】
(比較例)
実施例に準じて調製した濃縮SFHになにも添加しないで、同様な方法でリポソーム化、精製し、ヘモグロビン濃度5%(w/v)のコントーロール精製ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液600mlを得た。
【0047】
(試験例1)
リポソーム内ATP量の測定
上記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液10mlを37℃にてインキュベート、経時的に0.5mlサンプリングし、これに10%(w/v)・Triton X100−HEPES緩衝液(0.5M、pH7.4)2mlを加え撹拌後、さらにフレオン2mlを添加し約1分間撹拌した。この溶液を3000rpmで15分間遠心処理し、上清1.8mlを分画分子量5000の限外濾過膜にて除蛋白した。この除蛋白した溶液をODSカラム(センシュウ科学、ODS−1301−N)を用いた高速液体クロマトグラフィーによりATP量の定量を行った。結果を図1に示す。
【0048】
(試験例2)
リポソーム内2 , 3−DPG量の測定
上記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液10mlを37℃にてインキュベート、経時的に0.5mlサンプリングし、これに10%(w/v)・Triton X100−HEPES緩衝液(0.5M、pH7.4)2mlを加え撹拌後、さらにフレオン2mlを添加し約1分間撹拌した。この溶液を3000rpmで15分間遠心処理し、上清1.8mlを分画分子量5000の限外濾過膜にて除蛋白した。この除蛋白した溶液を2,3−DPGテスト「BMY」(ベーリンガーマンハイム(株))により2,3−DPG濃度を測定した結果を図2に示す。
【0049】
(試験例3)
ヘモグロビン含有リポソームの酸素親和性(p50)の測定
上記ヘモグロビン含有リポソームをヘモグロビン濃度0.05%(w/v)になるようにpH7.4(at 37℃、pCO2=40mmHg)のリン酸バッファーに懸濁し、酸素分圧を300mmHg〜0mmHg(pCO2=40mmHg)まで変化させその時の吸収スペクトルを測定し酸素飽和度及び酸素親和性(酸素飽和度50%の時の酸素分圧:p50)および酸素運搬効率(肺の酸素分圧を100mmHg、末梢組織の酸素分圧を40mmHgとしたときの酸素運搬を行っているヘモグロビンの割合:OTE)を算出した。結果を表1及び図3に示す。
【0050】
【表1】
Figure 0003754463
【0051】
(試験例4)
ヘモグロビン経時酸化の測定
ヘモグロビン濃度が5%(w/v)の上記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液1mlを、37℃でインキュベートし24時間後に下記の方法で酸化率を算出した。
【0052】
ヘモグロビン含有リポソームは浸透圧差に対して強く、この特徴を利用して天然赤血球と分離した。すなわち、ヘパリン添加全血に8〜10倍容の純水を添加、撹拌しマウス由来赤血球を溶血後、18000rpmで30分間(4℃)高速遠心を行いヘモグロビン含有リポソームを沈殿物として回収した。この操作を3回繰り返し、完全に血液成分を洗浄除去した。得られた試料に10%(w/v)・Triton X100−HEPES緩衝液(0.5M、pH7.4)2mlを加え撹拌後、さらにフレオン2mlを添加し約1分間撹拌した。この溶液を3000rpmで15分間遠心処理し、上清1.8mlに対しHEPES緩衝液(0.5M、pH7.4)を1ml加えて調製した溶液の可視領域(700nm〜460nm)における吸収スペクトルを測定し、酸化率を算出した。結果を図4に示す。
【0053】
【発明の効果】
本発明のヘモグロビン含有リポソームは、2,3−DPGがリポソーム内で生成され、ヘモグロビン含有リポソームの優れた酸素親和性と酸化抑制能を有する。さらに、ATPまたはATPを生ずる酵素反応基質を添加して、リポソーム内のATPの量を多くすることにより、このATPが消費されることによりグルコースの解糖系が動きだしその結果として2,3−DPGがリポソーム内でより多く生成される。
【0054】
そのため、本発明のヘモグロビン含有リポソームは優れた酸素親和性とメト化抑制能を有し、人工赤血球として有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】リポソーム内のATP量の測定結果を示す。
【図2】リポソーム内の2,3−DPG量の測定結果を示す。
【図3】リポソーム内の酸素親和性(p50)の測定結果を示す。
【図4】リポソーム内のヘモグロビンの経時酸化の測定結果を示す。

Claims (4)

  1. 洗浄赤血球を溶血後、赤血球膜成分を除去し、30〜60%(w/v)の濃縮ヘモグロビン溶液に、解糖系で2,3−ジホスホグリセリン酸を生じる酵素反応基質として、グルコース、グルコース−6−リン酸、グルコース−1、6−ジリン酸、フルクトース−6−リン酸、UDP−グルコース、L−グルコネート、キシリトール、ソルビトール、α−グリセロール、グルセルアルデヒド−3−リン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸、乳酸からなる嫌気的解糖系糖代謝中間物群より選ばれる基質を添加して混和させ、ヘモグロビン溶液中の天然赤血球中に存在する解糖系の酵素失活が無い穏和な条件である40℃以下でリポソーム化することを特徴とする、
    前記酵素活性を有し、かつ前記2,3−ジホスホグリセリン酸を生ずる酵素反応基質を含ませたヘモグロビン溶液を脂質からなるリポソーム内に取り込んでなり、2 , 3−ジホスホグリセリン酸によるヘモグロビンの酸素親和性を調整するアロステリックエフェクター機能を有するヘモグロビン含有リポソームの製法。
  2. 前記リポソーム内に取り込まれるヘモグロビン溶液に、さらにアデノシントリホスフェート(ATP)および/またはアデノシンジホスフェート(ADP)、アデノシンモノホスフェート(AMP)、アデニン、イノシン、アデノシンからなる群より選ばれるアデノシントリホスフェートを生ずる酵素反応基質を添加して、前記ヘモグロビン溶液内に含ませる、請求項1に記載のヘモグロビン含有リポソームの製法。
  3. 前記リポソーム内に取り込まれるヘモグロビン溶液内に、さらに還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸よりなる群の少なくとも1つを添加して、前記ヘモグロビン溶液内に含ませる、請求項1または2に記載のヘモグロビン含有リポソームの製法。
  4. 前記ヘモグロビン溶液のリポソーム化を、氷冷下〜4℃の温度下で行う請求項1ないし3のいずれかに記載の製法。
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