JP3750580B2 - 汚染物質の拡散防止構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は、汚染された土壌や地下水に含まれる有害物質等や、処分場内に投入された廃棄物から溶出した有害物質等が外界へ漏出・拡散し、周囲の環境を汚染してしまうことを防止するための鋼矢板壁を利用した汚染物質の拡散防止構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
工場プラントの配管の破損等に伴い、有害な化学物質などが漏出したり、あるいは汚染物質の不法投棄により、土壌あるいは地下水が汚染される事例があるが、外界への汚染物質の拡散を防止するため、鋼矢板やコンクリート系の地中連続壁体が用いられる場合がある。
【0003】
また、汚染物質の最終処分を行うために建設される廃棄物処分場においても、同様に汚染物質の漏出を防止するための遮断構造として、同様の構造体が用いられることが多い。
【0004】
特に近年は、環境に対する社会ニーズの高まりに伴い、汚染物質の拡散防止に関する要求性能も厳しいものとなりつつあり、万が一に備えて、フェイル・セイフの思想が盛り込まれた構造が提案されるようになってきた。
【0005】
さらに、単に拡散防止を図ることができるだけではなく、拡散防止構造の性能低下に対する監視可能な構造に対する要求も著しく、汚染物質の拡散に対するリスク管理が重要なテーマとなっている。
【0006】
そこで、従来技術として、漏出防止のための壁体構造を二重にし、拡散防止構造の信頼性を高めるとともに、さらに、二重の壁体内の水位と壁体外の水位差を利用し、水位差によって拡散防止を図るものが開発されている。また、二重壁体内部を利用し、汚染物質を含む漏出水を監視することも考えられている。
【0007】
例えば、特開平8−246485号公報記載の発明では、内壁と外壁との間に中空部を有する二重構造壁体を汚染物質の拡散防止壁体としており、この中空部に滞留させた水の水質を管理することで、内壁からの汚染水の漏出状況を把握するようにしている。
【0008】
その場合の漏出状況の把握については、汚染水の採取位置を管理することで対応している。さらに、二重壁体内部の水位を、この二重壁体によって囲まれた領域内の水位より高くし、内壁を挟んだ内外の水位差によって内壁からの汚染水の漏出防止を図っている。
【0009】
水位差を利用する漏出防止技術において、壁体によって囲まれた領域内の水位を壁体外の水位以下に低下させるという考え方があるが、壁体で囲まれた領域が大きく、領域内部の水位を低く保つためには、非常に規模の大きい内水処理施設が必要となるため、壁体内部という比較的狭い範囲の水位を管理する方が容易であるという発想が中空壁体を利用する理由となっている。
【0010】
また、特開平9−47737号公報記載の発明も、内壁と外壁からなる二重壁体という点で上記特開平8−246485号公報記載の発明の構造と同様であり、中空部に内壁部からの浸出水を揚水可能なモニタリング領域と、浸出水をモニタリング領域に誘導する誘導領域を設けている。
【0011】
この場合も、常時は、二重壁体内部の水位を二重壁体によって囲まれた領域内の水位より高くして汚染物質が中空部内に浸出するのを防止し、モニタリングの際、必要に応じて二重壁体内部の水位を低下させることとしている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
内壁からの汚染水の漏出を防止するために、二重壁体内の中空部の水位が高く保たれている状態では、漏出箇所は必ず水中となるため、その位置を目視で確認することはできず、どうしても滞留水の水質の確認作業に頼ることになるので、漏出位置の特定作業に手間がかかるという問題がある。
【0013】
一方、目視等による確認のために、中空部内の水位を低下させることは、水位差を利用した漏出防止構造としては、その効果を失うことにつながる。
【0014】
また、水質検査に頼った漏出箇所の有無把握方法に関する問題としては、漏出する汚染物質が非常に微量な場合には、滞留水によって汚染物質が中空部全体に希釈されてしまい、水質調査による汚染物質自体の測定が非常に困難となることが挙げられる。
【0015】
さらに、汚染物質の漏出発生時期と水質調査実施時期に隔たりがあれば、たとえ漏出した汚染物質量が多く、その濃度が高い場合であっても、内部水で汚染物質が拡散してしまう影響により、どの位置で漏出が発生したかの特定が困難となる。
【0016】
中空部のサイズに関する課題としては、中空部の範囲が比較的大きい場合に、壁体に作用する土圧に抵抗させるためには、二重壁の壁厚が厚くなるという経済的欠点を有する。
【0017】
この欠点を解消するために中空部内に砕石等を投入することも考えられるが、その場合には砕石等によって漏出箇所の目視による確認は全くできなくなり、中空部の壁体連続方向の範囲を狭く設定して対応するとしても、水質確認の箇所数が増えるという問題がある。
【0018】
また、リスク管理の観点からは、二重壁体内の中空部水位が壁体によって囲まれた水位より高いということは、汚染物質の拡散現象等によって、万が一、中空部内に滞留している水が汚染された場合には、外界との水位差が考慮されていないことの他、内水量も比較的多い状態であることから、外界への漏洩のリスクが高くなるという問題がある。
【0019】
以上のように、従来技術は水位差による漏出防止と漏出状況の把握が同時に満足できるものではなく、さらには漏出に対するリスク管理が困難という課題を有している。
【0020】
また、特開平8−246485号公報記載の発明の場合も、特開平9−47737号公報記載の発明の場合も、主としてコンクリート系の地中連続壁体を利用することを考えているが、コンクリート系の地中連続壁体を利用する場合には、海面廃棄物処分場のように、水面上に遮水壁体を構築することは困難であり、適用範囲が限定されてしまうという欠点がある。
【0021】
これを解消すべくプレキャストコンクリートによる壁体を用いることも考えられるが、その場合には、プレキャスト部材の海底地盤への打設の問題やプレキャスト部材どうしの継ぎ目の遮水の問題等、課題が多く、現実的ではない。
【0022】
さらに、特開平9−47737号公報記載の発明の場合の場合、二重壁体の構築方法として、地中連続壁体構築後において、その内部を切削することにより中空部を構築するものとされているが、非常に手間がかかる構築方法であり、さらに切削に伴うクラックの発生の懸念もある。
【0023】
本願発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、汚染物質の壁体からの漏出防止の要求と、漏出状況の容易なる確認の要求を同時に満たし、かつ、汚染物質の漏洩に対するリスク管理が容易な構造を提供することを目的としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1に係る汚染物質の拡散防止構造は、対向する側壁部と該側壁部どうしを連結する隔壁部から構成され、前記側壁部と隔壁部とで囲まれる中空部を有する鋼矢板壁体が、汚染領域を汚染領域外から隔離するように構築され、前記中空部内の水位が前記鋼矢板壁体を挟む内外の水位より低い状態に維持されており、前記隔壁部には中空部どうしを鋼矢板壁体の連続方向に連通させる通水部が設けられ、前記鋼矢板壁体の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内の水を揚水するための揚水装置が設けられ、該揚水装置が設けられている位置と異なる位置の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内に水を注水するための注水装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0025】
汚染物質の拡散防止壁体として中空の二重壁体を利用する点では、前述した従来技術と同様であるが、鋼矢板の壁体に限定しているのは、海上等でも施工が容易であるといった施工面の利点の他、少なくとも鋼矢板本体は損傷を受け難く止水性が高いこと、また万が一、壁体の損傷等により漏出があった場合でも、ひび割れの生じる可能性があるコンクリート壁体などと比べ、漏出位置や漏出状況の把握が容易であるという利点があるためである。
【0026】
鋼矢板壁体で汚染領域を汚染領域外から隔離するというのは、鋼矢板壁体を閉合させて汚染領域を取り囲む場合に限らず、例えば汚染領域が一方向に連続する場合には対向する2つの鋼矢板壁体で汚染領域を挟む場合なども含む意味である。
【0027】
また、本願発明では、鋼矢板壁体の損傷等による汚染物質の万が一の漏出を防ぐことと、漏出状況を容易に監視することの両者の要求を同時に満足させることについて、中空部の水位が鋼矢板壁体を挟む内外の水位より低い状態に維持されるようにしている。
【0028】
このような水位関係においては、壁体の漏出防止機能低下などにより、壁体内部の中空部に向かって、汚染領域側からの汚染物質を含む水等の浸出があったとしても、汚染領域外側の水位が中空部の水位より高いため、この水位差によって汚染領域外への漏出を確実に防ぐことができる。
【0029】
また、壁体の漏出防止機能が低下した場合についても、隔壁部によって中空部が適宜隔離されているため、機能が低下した部分の中空部においてのみ水位が上昇することとなり、その範囲を容易に確認することができる。さらに、この中空部の水位が比較的低い場合には、側壁部からの漏出状況は直接目視でも確認でき、漏出箇所を特定することも非常に容易である。
【0030】
リスク管理の観点からは、汚染領域外との水圧差によって汚染水の漏出を防止できる利点から、壁体破損により中空部内の水位が上昇しても、中空部の水を揚水することは何ら問題とならず、かえって、汚染水量が少なくなるため汚染領域外への漏出リスクは少なくなる。
【0031】
なお、本願発明における「汚染物質」とは、土壌・地下水汚染の原因となっている有害物質や廃棄物処分場の廃棄物から溶出する有害物質が外界に漏出・拡散し、土壌・地下水・河川水・海洋水等、周辺環境を汚染してしまう恐れがある物質のことを指す。
【0032】
また、本願発明では、隔壁部に中空部どうしを鋼矢板壁体の連続方向に連通させる通水部が設けられている。
【0033】
隔壁に通水部を設け、適当な間隔をおいて通水部が設けられていない隔壁を配置することで、鋼矢板壁体を複数のエリアに分割することができ、その場合、各エリア毎で汚染物質等の漏出を管理すればよい。
【0034】
各エリア毎に分けられるため、鋼矢板壁体の継手部における汚染物質等の漏出防止機能が低下した場合においても、そのエリアの特定は水位の上昇を観測したり、あるいは内部水の水質検査により汚染物質の濃度を測定することで容易に発見できる。
【0035】
この場合において、内部水位が低いということは、微量の汚染物質の漏出があった場合でも、内部水による希釈によって汚染物質が発見しづらくなる可能性が少ないというメリットがある。
【0036】
隔壁部に設けられる通水部の形状は、円孔、スリット等が挙げられ、その設けられる位置や箇所数については限定するものではないが、基本的には中空部内の水面より下となるように配慮する必要がある。
【0037】
また、本願発明では、鋼矢板壁体の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内の水を揚水するための揚水装置が設けられている。
【0038】
中空部内水位以深において、汚染物質が漏出している場合においても、揚水装置によって水を汲み上げることで、目視等によりその位置を特定することができる他、当該鋼矢板壁体を挟む内外水位が低下した場合に、必要に応じて、中空部内の水位をさらに低下させることが可能となる。
【0039】
本願発明では、隔壁部に通水部が設けられているため、1箇所にて揚水することで、通水部によって連通された範囲の中空部全体の水位を管理することができる。
【0040】
さらに、本願発明では、鋼矢板壁体の揚水装置が設けられている位置と異なる位置の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内に水を注水するための注水装置が設けられている。
【0041】
この場合、注水装置から注水し、揚水装置から揚水すれば、通水部が設けられていない隔壁間を一つのエリアとして、注水位置と揚水位置の間に流れが生じることとなる。この注入される水は汚染されていないため、鋼矢板壁体の汚染物質漏出防止機能が低下した場所があれば、その上流では水質の変化はなく、漏出防止機能低下場所の下流においてのみ水質変化が見られるため、機能低下位置の特定が非常に容易となる。
【0042】
具体的には、複数箇所において漏出防止機能低下が発生していた場合でも、中空部内での水質の差異が複数箇所で発生する。さらに、機能低下が発生した時からかなり後において水質調査を実施しても、上流からは常に汚染されていない水が供給されることにより、機能低下箇所を挟んで上流・下流で必ず水質の差異が発生する。これらいずれの場合も、汚染された中空部内の水は揚水されるため、中空内に滞留することはなく、リスク管理上も非常に有効である。
【0043】
このように、従来技術の課題として示した問題である、機能低下範囲の推定はできても、汚染物質の拡散により内部水の濃度が一様となってしまうことで、機能低下の位置の特定が困難である課題や、中空内部における汚染された水の滞留によるリスク管理上の問題についてはその心配が全くない。
【0044】
本請求項に関し、前述の注水装置および揚水装置による注水量、揚水量や、隔壁部に設けられる通水部の大きさについては、漏出する汚染物質の濃度や量に応じて、流れの上流、下流において水質の差異が発生しやすくなるように設定すればよい。
【0045】
すなわち、隔壁部に設けられた通水孔を通過する水の流速(移流速度)と、汚染物質が拡散しようとする速度(拡散速度)の関係から、移流速度の方が拡散速度より大きくなるように前記の各項目を設定すればよい。
【0046】
請求項に係る発明は、請求項に係る汚染物質の拡散防止構造において、前記注水装置と前記揚水装置との間の水の流路に、汚染物質浄化手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0047】
すなわち、前記注水装置と前記揚水装置間の水の流路において、汚染物質を含む水を浄化することができる浄化装置などが設けられている場合であり、ここでいう水の流路は、鋼矢板壁体の中空部内だけを指すものではなく、注水装置と揚水装置が水管等で連結されている場合においてはこの水管をも含む。
【0048】
汚染物質浄化手段としては、例えば、鋼矢板壁体の中空部において、分解や無害化を促進するための反応材や、汚染物質を吸着することができる物質、または、水に溶けている汚染物質を固形化し沈殿させることができるものをカートリッジ化した浄化装置を設置することができる。
【0049】
また、注水装置と揚水装置が水管等で連結されている場合には、この間に浄化のための装置を組み込んだり、揚水装置から浄化施設へ水を送り込み、浄化された水を注水装置に供給することも可能である。
【0050】
請求項に係る発明は、請求項1または2に係る汚染物質の拡散防止構造において、隔壁部に設けられた前記通水部に、通水部の開口状態を調節するための弁が設けられていることを特徴とするものである。
【0051】
このように、通水部の開口状態を調整することで、前記鋼矢板壁体の中空部内に発生する流れの上流、下流において、水質の差異が発生しやすい条件を状況に応じて設定することが容易になる。
【0052】
さらに、万が一、鋼矢板壁体の漏出防止機能が著しく低下した場合においても、その範囲の通水部を弁により閉鎖し、隣接する鋼矢板壁体中空部への汚染物質の拡散を防止することも可能である。
【0053】
【発明の実施の形態】
図1は本願発明の汚染物質の拡散防止構造の全体形状を概略的に示したもので、フランジ端部に継手部を有するH形鋼矢板2を連結して行くことで、図1(a) に示すように対向する側壁部5(H形鋼矢板2のフランジ部)と隔壁部3(H形鋼矢板2のウェブ部)から構成される鋼矢板二重壁体1を形成し、この鋼矢板二重壁体1を汚染領域bを取り囲むように構築することで、汚染領域bを汚染領域外cから隔離している。
【0054】
図1(b) は図1(a) のA−A断面図であり、鋼矢板二重壁体1を構成するH形鋼矢板2を不透水地盤dまで打設し、かつ鋼矢板二重壁体1の中空部aの水位を鋼矢板二重壁体1を挟む内外の水位の何れに対しても低くなるようにしている。
【0055】
鋼矢板二重壁体1の止水性が確保されている場合には、汚染領域bからの鋼矢板二重壁体1内部への漏水はなく、汚染物質の浸出もない。
【0056】
鋼矢板二重壁体1の止水性に問題がある場合や、漏出防止機能が低下した場合には、汚染物質を含んだ水が鋼矢板二重壁体1の内部へ浸出してくる。その場合、水位を低く抑えていた中空部aの水位が漏水分だけ上昇することになるが、鋼矢板二重壁体1が隔壁部3を有するため、漏出位置の中空部のみ、あるいは中空部どうしを連通させている場合にはその範囲のみの水位が上昇することになり、漏出箇所を早期に判断することができる。
【0057】
また、もともと中空部aの水位を低く抑えてあるため、漏水があればその漏水箇所を目視その他により容易に発見できる可能性が高い。
【0058】
漏出箇所については、鋼矢板二重壁体1について補修を行うことなどによって対処することができ、また汚染物質を含んだ漏出水については鋼矢板二重壁体1の中空部aを通じて揚水し、必要な処理を行うことができる。
【0059】
一方、汚染領域外cとの関係においては、汚染領域外c側の側壁部5の止水性が確保されていれば、汚染領域外cへの汚染物質を含んだ漏出水の浸出はない。
【0060】
また、仮に汚染領域外c側の側壁部5の止水性に問題があった場合も、汚染領域外cの水位が中空部aの水位より高いので、中空部a内に汚染物質を含んだ水が浸出したとしても、その汚染物質を含んだ水が汚染領域外c側に浸出することはなく、逆に汚染領域外c側から汚染されていない水が中空部a内に浸出することになる。なお、その場合も鋼矢板二重壁体1について補修を行うことなどによって漏水に対処することができる。
【0061】
さらに、図示した例では、中空部a内の水位を不透水地盤dの上端レベルより低く設定しており、万が一、鋼矢板二重壁体1の継手部において漏出防止機能が低下していたとしても、内部水が存在する範囲が不透水層位置であり、その点からも外部への漏出の恐れがない。
【0062】
本願発明で鋼矢板壁体を構築するために用いられる鋼矢板については、鋼矢板どうしを継手等により連結することによって、対向する側壁部とこれらを連結する隔壁部を構成し、さらに側壁部と隔壁部によって中空部を形成できるものであれば、その形状については限定されない。
【0063】
例えば、図2に示すようなH形鋼矢板2であれば、H形鋼矢板2のフランジ部が側壁部5として、またウェブ部が隔壁部3にあたる。この場合には、各H形鋼矢板2のウェブ部つまり隔壁部3によって、側壁部5にかかる土圧を保持することができるため、特に中空部において砕石等を投入し、側壁部5の保持を図るといった必要はない。
【0064】
また、図3に示すように、一般的に用いられているU形鋼矢板12aとU形鋼矢板の背面部分にに半切のU型鋼矢板を溶接するなどして加工製作した異形U形鋼矢板12bを組み合わせたようなものも考えられる。
【0065】
この場合においても、隔壁部13の設置間隔や、隔壁部13として用いられる鋼矢板の数、つまりは隔壁部13の長さについて、実際に供される場所の土圧等を配慮した配置にすることにより、H形鋼矢板と同様に、中空部に砕石等を投入する必要はなくなる。
【0066】
図1の実施形態における鋼矢板二重壁体1構築の施工手順としては、汚染範囲bを遮断するように、H形鋼矢板2を不透水地盤まで打設する。汚染物質の拡散を図るために、鋼矢板二重壁体1を閉合し、当該汚染範囲bを囲むことで汚染領域外cと遮断する場合もあるが、特に閉合しなくとも拡散防止が図れる場合等には、拡散防止に必要な部分のみに用いることもできる。
【0067】
打設後、嵌合によって形成された中空部a内に土砂が詰まっている場合には、土砂をウォータージェット等により除去する。その後、中空部a内に水が滞留している場合には、必要とされる位置まで内部水位を低下させるが、内部水位の低下に伴って生じる水圧差により、中空部においてボイリングが発生する恐れがある場合には、内部水位を低下させる前に、底面部にコンクリート6を打設する等の措置を行う。
【0068】
なお、鋼矢板二重壁体1の継手部においては、汚染物質および汚染物質を含む水等の漏出を防止できるような処理を施すものとする。
【0069】
図4は、本願発明に用いるH形鋼矢板の組み合わせ例を示したもので、(a) は通水部4のないH形鋼矢板2a、(b) は下部に通水部4を設けたH形鋼矢板2bである。
【0070】
この通水部4のないH形鋼矢板2aと通水部4を設けたH形鋼矢板2bを適宜組み合わせることにより、図5に示すように適当な間隔をおいて通水部4が設けられていない隔壁が存在することになり、その範囲を一つのエリアとして、汚染物質の拡散防止のための管理を行うことができる。
【0071】
すなわち、鋼矢板二重壁体1の継手部における汚染物質等の漏出防止機能が低下した場合においても、そのエリアの特定は水位の上昇を観測したり、あるいは内部水の水質検査により汚染物質の濃度を測定することで容易に発見できる。
【0072】
図6は、本願発明の一実施形態を示したもので、通水部4が設けられていない隔壁間を一つのエリアとして、注水装置7と揚水装置8を設け、その間に水の流れが生じるようになっている。
【0073】
注入される水は汚染されていないため、鋼矢板二重壁体1の汚染物質漏出防止機能が低下した場所(例えば、図中Xで示す箇所)があれば、その上流では水質の変化はなく、漏出機能低下場所の下流においてのみ水質変化が見られることになる。
【0074】
複数箇所において漏出防止機能低下が発生していた場合でも、中空部内で水質の差が複数箇所で生ずるため、これらを比較することで、複数の漏出箇所を発見することができる。
【0075】
また、仮に水質調査時期が遅れても、上流からは常に汚染されていない水が供給されることにより、機能低下箇所を挟んで上流・下流にて必ず水質の差異が発生し、かつ汚染された中空部内の水は揚水されるため、中空内に滞留することはなく、リスク管理上も非常に有効である。
【0076】
以上の各図等に記載した形態を適宜組み合わせると、汚染物質の拡散防止構造として、様々な利点が生まれる。
【0077】
図1に示したような、汚染領域をH形鋼矢板で囲む構造において、フランジ部に通水孔を全く設けないH形鋼矢板を1箇所のみとし、その他全てのH形鋼矢板においてはフランジ部に通水孔が設けられている構造も本願発明の実施形態の一例として挙げられる。
【0078】
この場合、前記通水孔を有しないフランジによって形成される隔壁を挟んで、注水装置と揚水装置を設けることにより、H形鋼矢板で形成される壁体内部全てが水の流路となり、たった2箇所の注水・揚水装置の設置で、全ての鋼矢板壁体に対し、漏出防止機能の低下を監視することが可能である。
【0079】
また、同構造において、揚水装置のみを稼動させることで全てのH形鋼矢板壁体の内部の水位を低下させることも可能なため、鋼矢板壁体完成直後の漏出防止性能の確認手段として、揚水装置を活用することも可能である。
【0080】
万が一、完成直後あるいは供用後の時間の経過に伴い、鋼矢板壁体の漏出防止性能の低下が見られた場合には、当該性能低下箇所を有する中空部内のみに止水用材料を投入し、機能回復を図ることが可能である。
【0081】
この場合、モルタルやアスファルト等の材料を当該中空部に注入することが考えられるが、注入された材料が通水孔を透過し、隣接する中空部へ流入してしまう恐れがある。このような場合、当該中空部に通じる通水孔に弁が設けられていれば、これを閉じることで、隣接する中空部への流入防止を図ることが可能となる。
【0082】
なお、本願発明において、鋼矢板を組み合わせることで中空部が形成される構造である場合には、予め中空部に面する鋼面を塗装し、防食加工を施しておくことも容易である。例えば、重防食塗装を施しておいた場合には、中空部内の水によって鋼矢板壁体の腐食が内部から進展することを抑制することができ、さらに漏出防止に対する信頼性は高まる。
【0083】
【発明の効果】
本願発明の汚染物質の拡散防止構造では、中空部の水位が鋼矢板壁体を挟む内外の水位より低い状態に維持されるようにしており、壁体の漏出防止機能低下などにより、壁体内部の中空部に向かって、汚染領域側からの汚染物質を含む水等の浸出があったとしても、汚染領域外側の水位が中空部の水位より高いため、この水位差によって汚染領域外への漏出を確実に防ぐことができる。
【0084】
また、中空の二重壁体を形成する鋼矢板の壁体を用いることで、海上等でも施工が容易であるといった施工面の利点の他、少なくとも鋼矢板本体は損傷を受け難く止水性が高いこと、また万が一、壁体の損傷等により漏出があった場合でも、ひび割れの生じる可能性があるコンクリート壁体などと比べ、漏出位置や漏出状況の把握が容易であるという利点がある。
【0085】
また、壁体の漏出防止機能が低下した場合についても、隔壁部によって中空部が適宜隔離されているため、機能が低下した部分の中空部においてのみ水位が上昇することとなり、その範囲を容易に確認することができる。さらに、この中空部の水位が比較的低い場合には、側壁部からの漏出状況は直接目視でも確認でき、漏出箇所を特定することも非常に容易である。
【0086】
リスク管理の観点からは、汚染領域外との水圧差によって汚染水の漏出を防止できる利点から、壁体破損により中空部内の水位が上昇しても、中空部の水を揚水することは何ら問題とならず、かえって、汚染水量が少なくなるため汚染領域外への漏出リスクは少なくなる。
【0087】
また、隔壁部に中空部どうしを鋼矢板壁体の連続方向に連通させる通水部が設けられているので、鋼矢板壁体を複数のエリアに分割して管理することができる。
【0088】
また、鋼矢板壁体の少なくとも1箇所に揚水装置が設けられていることで、中空部内水位以深において、汚染物質が漏出している場合においても、揚水装置によって水を汲み上げることで、目視等によりその位置を特定することができる他、当該鋼矢板壁体を挟む内外水位が低下した場合に、必要に応じて、中空部内の水位をさらに低下させることが可能となる。
【0089】
さらに、揚水装置に加え注水装置が設けられており、注水位置と揚水位置の間の流れを利用して、汚染物質の漏出箇所等をより効率良く、正確に把握することができ、また汚染された中空部内の水は揚水されることで、リスク管理上も非常に有効である。
【0090】
請求項に係る発明では、注水装置と揚水装置との間の水の流路に、汚染物質浄化手段が設けられていることで、汚染物質の漏出防止と浄化を同時に管理することができる。
【0091】
請求項に係る発明では、隔壁部に設けられた通水部に開口状態を調節するための弁が設けられていることで、鋼矢板壁体の中空部内に発生する流れを調整することができ、より効率の良い管理を行うことができるとともに、万が一、鋼矢板壁体の漏出防止機能が著しく低下した場合においても、その範囲の通水部を弁により閉鎖するなどして、汚染物質の拡散を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明の汚染物質の拡散防止構造の全体形状を概略的に示したもので、(a) は水平断面図、(b) はそのA−A断面図である。
【図2】 本願発明で用いる鋼矢板の全体形状の形態例を示したもので、(a) はH形鋼矢板単体の水平断面図、(b) は接続状態の水平断面図である。
【図3】 本願発明で用いる鋼矢板の全体形状の他の形態例を示したもので、(a) は接続される異形U形鋼矢板とU形鋼矢板の水平断面図、(b) は接続状態の水平断面図である。
【図4】 本願発明に用いるH形鋼矢板の組み合わせ例を示す斜視図である。
【図5】 図4のH形鋼矢板の組み合わせによるエリアの特定例を示したもので、(a) は水平断面図、(b) は鉛直断面図である。
【図6】 本願発明の一実施形態を示したもので、(a) は水平断面図、(b) は鉛直断面図である。
【符号の説明】
a…中空部、b…汚染領域、c…土留め壁外部の地盤、d…不透水性地盤、1…鋼矢板二重壁体、2…H形鋼矢板、3…隔壁部(ウェブ)、4…通水部、5…側壁部(フランジ)、6…コンクリート、7…注水装置、8…揚水装置、12a…U形鋼矢板、12b…異形U形鋼矢板、13…隔壁部、15…側壁部

Claims (3)

  1. 対向する側壁部と該側壁部どうしを連結する隔壁部から構成され、前記側壁部と隔壁部とで囲まれる中空部を有する鋼矢板壁体が、汚染領域を汚染領域外から隔離するように構築され、前記中空部内の水位が前記鋼矢板壁体を挟む内外の水位より低い状態に維持されており、前記隔壁部には中空部どうしを鋼矢板壁体の連続方向に連通させる通水部が設けられ、前記鋼矢板壁体の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内の水を揚水するための揚水装置が設けられ、該揚水装置が設けられている位置と異なる位置の少なくとも1箇所に、該鋼矢板壁体の中空部内に水を注水するための注水装置が設けられていることを特徴とする汚染物質の拡散防止構造。
  2. 前記注水装置と前記揚水装置との間の水の流路に、汚染物質浄化手段が設けられていることを特徴とする請求項記載の汚染物質の拡散防止構造。
  3. 隔壁部に設けられた前記通水部には、通水部の開口状態を調節するための弁が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の汚染物質の拡散防止構造。
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