JP3748716B2 - 遠心鋳造用プリメルト・フラックス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遠心鋳造における鋳型内の溶融金属の表面を被覆保護するフラックスの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
遠心鋳造において、鋳型内に注入された溶融金属(溶湯)は、遠心力の作用で鋳型の内周面に沿って層状に押し付けられ、その状態を保持したまま冷却凝固して中空円筒状鋳造体(管体)を形成する。その鋳造品質の改善・安定化を目的としてフラックスが使用されている。鋳型内の溶湯に投与されたフラックスは、溶湯の保有熱により溶融滓化して溶湯表面を被覆し、大気の接触を遮断して溶湯の酸化を防止すると共に、溶湯に対する押湯保温および清浄化(非金属介在物の吸収除去)等の作用をなし、鋳造品質を高めることを可能にする。
上記遠心鋳造用フラックスとして、珪砂(SiO2 ),アルミナ(Al2 O3 ),炭酸カルシウム(CaCO3 ),炭酸マグネシウム(MgCO3 ),弗化カルシウム(CaF2 )、その他の化合物の粉末を、設定塩基度に基づく配合量比で混合した粉末混合物(粒度:約100 〜300 メッシュ)が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
フラックスの溶湯被覆効果をよりよく発揮させるには、投与されたフラックスが速やかに溶解し良好な流動状態のもとに溶湯表面を一様に被覆することが必要である。しかし、従来のフラックスは、溶融速度は十分でなく、投与して完全に溶融滓化するまでに、約100秒前後の時間(溶湯表面温度:約1500〜1600℃)を要する。フラックス粉末として100〜300メッシュの微細粒度に調整されたものが使用されているが、微細化だけでは溶融速度を十分に高めることはできない。200メッシュを越えるような微細粉末では、粒子同士が凝集して溶湯表面に浮遊し易く、却って溶融滓化の遅延を招く原因ともなる。また、そのような微細粉末は、粉体輸送性が悪く、フラックス投与作業の自動化が困難である。
本発明は、遠心鋳造に関する上記問題を解消するための改良されたフラックスを提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の遠心鋳造用フラックスは、設定塩基度に基づいて配合された、シリカ,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,弗化カルシウムの各化合物を含む粉末化合物を加熱溶融し、その冷却固化物を粉砕処理して得られた粉末からなり、重量%で、SiO 2 :25〜30% , Al 2 O 3 :2.5〜3.5% , CaO:35〜45% , MgO:4.5〜5.5% , CaF 2 :8〜15% , Li 2 O:2〜9% , 残部はFeO及びMnOからなり、塩基度 [ CaO / (SiO 2 +Al 2 O 3 ) ] :1.2〜1.5である組成を有している。
【0005】
従来の遠心鋳造用フラックスが、原料粉末(シリカ,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,CaF2 等の化合物粉末)の単なる混合物であるのに対し、本発明のフラックスは、その粉末混合物を加熱溶融する工程を経由して製造され、本明細書ではこれをプリメルト・フラックスと称している。
原料粉末の混合物中に存在する炭酸カルシウム(CaCO3 ),炭酸マグネシウム(MgCO3 )等の炭酸塩は、加熱溶融工程で、下記の熱分解反応を生起してCO2 を分離する。従って、本発明のプリメルト・フラックスには、CaCO3 ,MgCO3 等の炭酸塩は存在しない。
CaCO3 →CaO+CO2 ↑
MgCO3 →MgO+CO2 ↑
【0006】
炭酸塩(CaCO3 ,MgCO3 等)を含む従来のフラックスは、溶湯に投与されて溶湯の保有熱で、炭酸塩の分解反応(吸熱反応)を生じる。このため、溶融滓化が遅延し、しかも生成するCO2 ガスは溶湯に対する酸素供給源となる。これと異なって、本発明のフラックスは、そのような熱分解反応はなく、溶融滓化に要する時間が短縮され、かつCO2 ガスによる溶湯の酸化汚染の懸念も解消される。
【0007】
また、従来のフラックス(複数種の化合物粉末の混合物)では、各化合物粉末の融点(SiO 2 : 約2230℃, Al2 O 3 : 約2020℃, CaO:約2572℃,CaF:約1360℃)や比重(SiO 2 : 約2.3, Al 2 O 3 : 約3.99, CaO:約3.4, CaF: 約3.2 )等の相違を付随し、この成分間の物性の差異は、フラックスの迅速・均一な溶融滓化を妨げる要因となる。本発明のプリメルト・フラックスは、複数種の化合物が融合一体化されている効果としてそのような不具合が解消される。
プリメルト工程を経由して得られる本発明フラックスの溶融滓化性の改善効果は顕著であり、従来のフラックス(溶融滓化時間:約100秒)に比し、わずか数秒(4〜6秒)(いずれも溶湯温度:1500 〜1600℃)で溶融滓化を達成することができ、溶湯への投与後、速やかに溶湯表面を一様に被覆保護する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のプリメルト・フラックスは、従来のフラックスと同じように、シリカ,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,弗化カルシウム,その他の化合物(酸化鉄,酸化マンガン等)から適宜選択される化合物粉末を原料として製造される。これらの化合物を設定塩基度に基づいて、適当な量比で配合して原料粉末混合物とする。なお、炭酸カルシウム等の炭酸塩は、事前に焙焼処理(約700〜800℃)に付し、熱分解反応によりCaO,MgO等の粉末に変換したうえで、他の化合物粉末と配合するようにしてもよい。
【0009】
原料粉末混合物は電気炉等の加熱装置で加熱溶融される。処理温度は、1200〜1300℃であり、設定温度域で適当時間(例えば,0.5 〜1 Hr)加熱保持することにより、溶融処理を達成する。生成した溶融物の冷却は、炉中冷却または大気中放冷としてよい。その冷却固化物を、ボールミル、その他の粉砕手段により適宜の粒度に粉砕し分級して目的とするプリメルト・フラックスを得る。
【0010】
本発明のプリメルト・フラックスは、下記の成分組成を有する(構成成分の量比はすべて重量基準である)。
SiO2:25〜30%,Al2O3:2.5〜3.5%,CaO:35〜45%,MgO:4.5〜5.5%,CaF2:8〜15%,Li2O:2〜9%,残部:FeO及びMnO、塩基度=CaO/(SiO2+Al2O3):1.2〜1.5。
【0011】
CaOおよびSiO2 はフラックスの基本成分である。SiO2 は溶融フラックスの均質性を高め、CaOは、SiO2 のネットワークを切断してフラックスの流動性を高める作用を有する。Al2 O3 は、フラックスのガラス化を助長して溶湯との濡れ性を高め、MgOは溶湯表面に対するフラックスの冶金的濡れ性を良好にする。また、CaF2 はフラックスの低融点化すると共に、流動性,非金属介在物の吸収除去効果を高める。Li2 Oもフラックスの粘性を下げ、流動性を良好化する。更に、塩基度が1.2〜1.5の範囲に調節されていることにより、フラックスの低融点が確保され、フラックスの流動性、溶湯浄化作用を良好に保持することができ、また鋳造終了後においては、鋳造物の表面に残留したフラックス固化物の剥離が容易化される。FeO,MnO等は、フラックス固化物の剥離性を高める効果を有する。
【0012】
本発明のプリメルト・フラックスの粉体粒度は、従来のフラックス(粒度:100 〜300 メッシュ)に比し、20〜200メッシュの比較的粗粒の粒度構成とすることができ、このような比較的粗い粒度であっても、良好な溶融滓化性が確保される。しかも、その粒度構成においては、従来の微細粉末と異なって良好な粉体流動性を有するので、フラックスの投与操作の自動化が可能になる。例えば、図1のように、回転駆動ローラ(1)に水平載置した鋳型(2)の鋳込み口から溶湯ホッパー(3)を介して鋳型内に溶湯(M)を鋳込む一方、他端の鋳込み口に配置したフラックス投与ホッパー(4)により鋳型内の溶湯(M)にフラックス(F)を投与する。フラックス(F)は良好な粉体輸送性を有するので、自重によりホッパー内を降下し自動的に鋳型内溶湯に供給され、供給量はバルブ(電磁弁等)(5)により任意に調節される。フラックスの溶湯に対する投与のタイミングや投与量等は従来の遠心鋳造の常法に従って設定すればよい。
【0013】
本発明のプリメルト・フラックスは、鋳造物の冷却凝固に伴って固化した後の剥離性も良好である。すなわち、鋳造物の表面に生成するフラックス固化物は鋳造物の降温過程で漸次剥落していくので、鋳造物の内面に対する付着残留は殆どなく、付着残留している場合でも、ウエス等で軽く拭うことにより容易に除去することができる。また、従来のフラックスを使用した鋳造物の内面は、仕上げ加工に約2mm前後の研削代を必要とするが、本発明のフラックスを使用して得られる鋳造物の内面鋳肌は極めて平滑美麗であるので、機械加工の必要は殆どなく、それを必要とする場合でも、研削代はごく微量である。
【0014】
【実施例】
(1)供試フラックスの製造
シリカ,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,弗化カルシウム,酸化鉄,酸化マンガンの各粉末を混合する。混合粉末を電気炉に装入して加熱溶融(1300℃×0.5Hr)する。溶融物を大気中で自然放冷した後、固化物を粉砕処理(ボールミル)し、分級して供試フラックスA,Bを得る。
比較例として従来材に相当する供試フラックスa,b(原料粉末の混合物,プリメルト工程なし)を別途用意した。
フラックスA,B(プリメルト)の粒径は 20 〜200 メッシュ、フラックスa,b(原料粉末混合体)の粒径は 100〜300 メッシュである。
表1に各供試フラックスの組成を示す。フラックスa,b(いずれも混合粉末)の組成は、溶湯への投与(炭酸塩熱分解)後の値に換算して示している。
【0015】
(2)鋳造試験
鋳鋼材種:ステンレス鋳鋼(JIS G 5121 SCS 1相当材)
溶湯鋳込み温度:1640℃
鋳造管サイズ:内径 750, 長さ 5000,肉厚 110(mm)
フラックス投与量:20 kg
鋳型内溶湯に対するフラックスの投与は、遠心鋳造鋳型の側部に配置したホッパーを介して行った。
【0016】
各供試フラックスについて、溶融滓化時間,鋳造後のフラックス固化物の剥離性、鋳造管の内面の鋳肌性状(平滑性)および内面の機械研削代を比較評価し、表2に示す結果を得た。
溶融滓化時間は鋳造開始直後のフラックスで被覆された溶湯表面を放射温度計で測温して判定した。鋳造後の剥離性は、常温まで冷却降温した鋳造管の内面に観察されるフラックス固化物の付着残存量とその付着の強弱により評価し、管内面の鋳肌性状は平滑度合いを肉眼観察に基づいて評価した(○…良好,△…やや悪い,×…劣る)。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表2に示したように、発明例のフラックスA,Bは比較例のフラックスa,bに比し、極く短時間で溶融滓化している。また、フラックスA,Bは、鋳造後のフラックス固化物の付着残留が殆どなく、比較例のフラックスa,bに比し良好な剥離性を有している。更に、比較例のフラックスa,bを使用した鋳造管の内面は粗い鋳肌を呈し、仕上げ加工に1.5 〜2mm の研削代を必要としているのに対し、発明例のフラックスA,Bを使用した鋳造管は、機械加工を必要としない平滑美麗な鋳肌を有している。これはフラックスの卓抜した押湯保温効果を示すものであり、比較例との差異は歴然である。
【0020】
【発明の効果】
本発明の遠心鋳造用フラックスは、迅速に溶融滓化してすぐれた押湯保温効果を奏し、鋳造後の剥離性も良好である。本発明フラックスの改良された押湯保温効果により、鋳造管内面は著しく平滑美麗な鋳肌となり、仕上げ研削代を大幅に低減することができ、機械加工コストの節減,製品歩留りの向上等の効果が得られる。この鋳造品質の改善効果は、原料粉末混合物の加熱溶融(プリメルト)に要するコスト増分の不利を充分に補って余りあるものである。また、フラックス粉末の粒度調整により、溶湯への投与を自動化することも可能となり、遠心鋳造操業の効率化を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】遠心鋳造におけるフラックスの供給態様の例を示す正面説明図である。
【符号の説明】
1:回転駆動ローラ
2:鋳型
3:溶湯鋳込みホッパー
4:フラックス投与ホッパー
5:バルブ
F:フラックス
M:溶湯
Claims (2)
- 設定塩基度に基づいて配合された、シリカ,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,弗化カルシウムの各化合物を含む粉末化合物を加熱溶融し、その冷却固化物を粉砕処理して得られた粉末からなり、重量%で、SiO 2 :25〜30% , Al 2 O 3 :2.5〜3.5% , CaO:35〜45% , MgO:4.5〜5.5% , CaF 2 :8〜15% , Li 2 O:2〜9% , 残部はFeO及びMnOからなり、塩基度 [ CaO / (SiO 2 +Al 2 O 3 ) ] :1.2〜1.5である遠心鋳造用プリメルト・フラックス。
- 20〜200メッシュの粒度を有する請求項1に記載の遠心鋳造用プリメルト・フラックス。
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JP21779398A JP3748716B2 (ja) | 1998-07-31 | 1998-07-31 | 遠心鋳造用プリメルト・フラックス |
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Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP21779398A Expired - Lifetime JP3748716B2 (ja) | 1998-07-31 | 1998-07-31 | 遠心鋳造用プリメルト・フラックス |
Country Status (1)
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