JP3745744B2 - 金属構造体の製造方法およびその方法により製造した金属構造体 - Google Patents

金属構造体の製造方法およびその方法により製造した金属構造体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属構造体の改質方法に関し、特に、脆化しにくく、硬度およびクリープ耐性に優れた金属構造体を製造するための焼鈍し方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼鈍しは、金属構造体などを加熱し、保温した後、温度を降下させる操作をいい、金属構造体の塑性加工適性の改善、残留内部応力の除去および結晶粒の調整などを目的とする熱処理である。焼鈍しの条件は、ニッケル(Ni)からなる金属構造体の場合、一般に700℃〜900℃程度にまで加熱し、1時間〜2時間保持した後、徐冷する。このような加熱処理により、ニッケル(Ni)は再結晶するため、結晶サイズが10nm程度であるナノ結晶材料、または、さらに結晶サイズの小さいアモルファス材料は、数μm〜数10μmのサイズにまで結晶が肥大化する。また、比較的無秩序であった初期構造は、焼鈍しにより再構成され、より安定な平衡状態に達し、残留するすべての内部応力が本質的に除去される。
【0003】
改良した焼鈍し処理方法として、荷重下において安定な機械特性が得られる熱処理方法が知られている(特許文献1参照)。この方法は、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)などの金属と、サッカリンおよび2−ブチン−1,4−ジオールなどで被覆したワイヤを、比較的穏やかに熱処理し、弾力性のある金属構造体を製造する方法である。
【0004】
熱処理の温度は、ワイヤに被覆した金属材料の結晶が肥大化する変態温度より0℃〜150℃高い温度が有効である。たとえば、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)からなる金属材料を被覆したワイヤでは、金属材料の変態温度が266℃であるため(特許文献1、図4参照)、熱処理の温度は266℃〜416℃が有効である。したがって、この方法では、ニッケル(Ni)の通常の焼鈍し温度である700℃〜900℃より低温で熱処理される。
【0005】
ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)からなる金属構造体の場合、330℃で10分間の焼鈍し処理をすることにより、平均粒径16nmのナノ結晶材料またはアモルファス材料は、結晶が肥大化し、平均粒径78nmの結晶材料となる。その結果、焼鈍しにより、金属構造体の降伏強度、弾性率および温度安定性が改質する。
【0006】
半導体技術の進歩に伴い、半導体基板などに形成された回路の電気的な検査に必要なコンタクトプローブの重要性が増している。コンタクトプローブは、半導体基板などの回路に押し当てて使用されることから、回路との接続の信頼性を高め、回路に損傷を与えないようにするために、バネ機能を有する。したがって、コンタクトプローブには、脆化しにくく、破壊されにくいという特性と、高い硬度が要求される。また、コンタクトプローブは繰り返し使用するため、検査後の除荷時に、元の形状にまで復元する特性が要求される。すなわち、除荷後、変形として残る量(以下、「クリープ量」という。)が小さく、バネを一定量ストロークさせたときに発生するバネ加重が加重時間とともに変化しない特性が要求される。すなわち、クリープ耐性に優れた金属構造体を使用する必要がある。特に、検査する半導体基板が50℃〜125℃程度以上の高温の状態にあっても、クリープ耐性を維持していることが要求される。
【0007】
【特許文献1】
特表2001−516812号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
金属構造体に焼鈍し処理を施すと、残留内部応力が減少し、硬度が高まるなどの優れた改質効果が得られるが、焼鈍し処理の条件によっては、金属構造体が脆化し、硬度が低下するため、破壊しやすくなる。本発明の課題は、硬度を維持しつつ、脆化しにくく、クリープ耐性の良好な金属構造体を製造するための焼鈍し方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の金属構造体の製造方法は、回路に接触する接触部と、接触部を支持するバネ部と、バネ部を電気的に接続する接続部とを備え、電鋳により形成したニッケル−マンガンの合金からなる金属構造体の製造方法であって、電鋳後、150℃以上250℃以下で焼鈍し処理を施し、焼鈍し処理後の金属材料の結晶子サイズ130nm以下であることを特徴とする。かかる金属構造体は、回路の電気的な検査に使用するコンタクトプローブに好適である。本発明の金属構造体は、かかる方法により製造したことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
(金属構造体の製造方法)
本発明の金属構造体の製造方法は、金属材料の結晶が肥大化する温度以下の温度で焼鈍し処理を施す工程を備えることを特徴とする。金属材料のクリープ耐性を向上させる方法には、結晶内の残留応力を下げる方法と、結晶粒径を肥大化する方法とがある。金属材料の結晶が肥大化する温度より高温で熱処理した場合には、結晶内の残留応力が下がるが、同時に結晶も肥大化する。このため、金属材料のクリープ耐性は向上するが、結晶の肥大化に伴い、金属材料の硬度の低下や、脆化が生じやすくなる。一方、金属材料の結晶が肥大化する温度以下で焼鈍し処理を施す本発明の製造方法によるときは、結晶内部の残留応力が減少するため、金属材料のクリープ耐性は向上するが、結晶が肥大化しないため、金属材料の硬度は維持され、脆化が小さい。
【0011】
焼鈍しは、金属材料の結晶が肥大化する温度以下の温度で行なう。この温度より高温になると、結晶は肥大化し、金属材料の硬度の低下や、脆化が生じやすくなる。具体的には、金属構造体がニッケル−マンガン(Ni−Mn)の合金からなる場合には、結晶が肥大化する温度は260℃であるため、焼鈍しは260℃以下の温度で行なう。この場合、250℃〜260℃の範囲は、一部の結晶が肥大化を開始する過渡領域であるため、焼鈍し温度は、150℃〜250℃が好ましく、200℃〜230℃がより好ましい。焼鈍し温度が150℃未満であるときは、結晶内の残留応力を十分に低減することが難しい。一方、焼鈍し温度が250℃より高温になると、結晶の内部応力を低減し、クリープ耐性を向上させることはできるが、硬度の低下や、脆化が生じやすくなる。
【0012】
焼鈍し時間は、金属材料および焼鈍し温度などによっても異なるが、一般に、低温で焼鈍し処理を施すときは、結晶の肥大化を抑制できるため、結晶内の残留応力を十分に低減し、金属材料のクリープ耐性を高める観点から、長時間の焼鈍し処理が好ましい。一方、高温で焼鈍し処理を施すときは、結晶内の残留応力を効率よく低減することができるため、結晶の肥大化を抑制する観点から、短時間の焼鈍し処理が好ましい。たとえば、金属構造体が、ニッケル−マンガン(Ni−Mn)の合金からなる場合の焼鈍し時間は、焼鈍し温度が150℃であるときは10時間〜30時間が好ましい。一方、焼鈍し温度が250℃であるときは0.5時間〜2時間の焼鈍し処理が好ましい。
【0013】
本発明において、焼鈍し処理が施される金属材料は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、金(Au)および白金(Pt)からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。これらの中でも、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)または鉄(Fe)がより好ましく、合金としては、ニッケル−コバルト(Ni−Co)、コバルト−マンガン(Co−Mn)、ニッケル−マンガン(Ni−Mn)、ニッケル−鉄(Ni−Fe)、コバルト−鉄(Co−Fe)、チタン−タングステン(Ti−W)またはニッケル−コバルト−マンガン(Ni−Co−Mn)がより好ましい。
【0014】
(金属構造体)
本発明の金属構造体は、金属材料の結晶が肥大化する温度以下の温度で焼鈍し処理が施されていることを特徴とする。また、本発明の金属構造体は、少なくとも2種類以上の金属材料からなり、金属材料の結晶が肥大化する温度以下の温度で焼鈍し処理が施されているものでもよい。これらの金属構造体は、硬度低下や脆化が少なく、クリープ耐性に優れている。金属材料で被覆するときは、電気メッキ法、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)または金属の電界もしくは無電界メッキ法など、一般に知られている各種の方法により行なうことができる。たとえば、物理的蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法を使用することができ、スパッタリング法により厚さ寸法が250nm〜600nmの金属材料層を形成することができる。
【0015】
本発明は、微細構造体の態様において効果が大きい。本発明は、微細ではない金属構造体においても有効であるが、特に最小造作寸法が数μm〜数100μm程度の微細構造体において、本発明の結晶サイズを肥大化させないことによる材料自体の均質化の効果が顕著に表れる傾向がある。したがって、本発明の金属構造体は、コンタクトプローブとして好ましく使用することができる。コンタクトプローブは、そのバネ部などに数μm〜数100μm程度の微細構造を持ち、脆化しにくく、硬度およびクリープ耐性に優れた材料を使用する必要があるためである。
【0016】
コンタクトプローブの一例を図1に示す。コンタクトプローブは、被検査回路に接触するプランジャ部1と、一端においてプランジャ部1を支持するバネ部2と、バネ部2の他端をリード線に電気的に接続するリード線接続部3とを備える。コンタクトプローブは、プローブカード内に配置され、検査に際しては、プランジャ部1を被検査回路に押し当てて使用する。
【0017】
コンタクトプローブの製造方法の1例を、図2に示す。まず、図2(a)に示すように、導電性を有する基板21の表面にレジスト膜22を形成する。基板としては、SUS、CuまたはAlなどの導電性基板を用いることができる。また、Siまたはガラスなどからなる非導電性基板上に、Ti、Al、Cuもしくはこれらの合金からなる導電層をスパッタリングなどにより形成したものを用いることができる。
【0018】
つぎに、所望のコンタクトプローブのパターンを有するマスク23を用い、UVまたはX線24を照射する。その後、レジスト膜22のうち露光箇所22aを現像により除去すると、図2(b)に示すような、樹脂型22bが得られる。樹脂型22bを形成した後、図2(c)に示すように、樹脂型22bに金属層25を形成する。金属層25の形成は電鋳により行なうことができる。電鋳とは、金属溶液を用いて導電性基板上に、ニッケル(Ni)などからなる金属層を形成することをいう。
【0019】
つぎに、研磨または研削により所望の厚さに揃えた後、酸素プラズマによるアッシングなどにより、基板21上の樹脂型22bを除去し、つづいて、ドライエッチングなどにより基板21を除去する。最後に、金属層25中の結晶が肥大化する温度以下の温度で焼鈍し処理を施すと、図2(d)に示すような本発明のコンタクトプローブが得られる。このような方法により、脆化しにくく、硬度およびクリープ耐性に優れたコンタクトプローブを製造することができる。また、プランジャ部とスプリング部とリード線接続部とが一体となったコンタクトプローブを容易に製造することができ、コンタクトプローブの微細化、複雑化にも対応できると共に、組立の作業も不要となる。
【0020】
【実施例】
実施例1
図2(a)に示すように、SUS基板21の表面にX線レジスト膜22を形成した。つぎに、コンタクトプローブのパターンを有するマスク23を介して、X線24で露光し、パターンをX線レジスト膜22に転写した。コンタクトプローブのパターンを有するマスクは、図3に示すような形状を有し、L1550μm、W1000μm、T182μm、T265μmであった。その後、レジスト膜22のうち露光箇所22aを現像により除去し、図2(b)に示すような樹脂型22bを得た。つづいて、図2(c)に示すように、樹脂型22bにニッケル−マンガン合金からなる金属層25を形成した。金属層25の形成は電鋳により行なった。電鋳には、スルファミン酸ニッケル水溶液に、スルファミン酸マンガン、ホウ酸、サッカリンナトリウム、2−ブチン−1,4−ジオール、ラウリル硫酸ナトリウムを配合したメッキ液を使用した。
【0021】
電鋳後、研磨により60μmの厚さに揃え、アッシングにより樹脂型22bを除去し、つづいて、基板21を剥離して、図2(d)に示すようなコンタクトプローブを得た。得られたコンタクトプローブにおける金属結晶子サイズを測定すると、約13nmであった。このコンタクトプローブを、200℃に温度を保持した恒温槽内で1時間加熱し、その後、室温にて自然冷却させることにより、焼鈍し処理を施した。焼鈍し処理後のコンタクトプローブにおける金属結晶子サイズを測定すると、13nmを維持していた。
【0022】
つぎに、マイクロ加重試験機(Fischer社製H−100)により、コンタクトプローブのクリープ耐性を評価した。クリープ耐性の評価は、コンタクトプローブを85℃の状態で、50mNの一定加重を1時間(3600秒間)かけ続けたときの変形量を測定することにより行なった。その結果を図4に示す。
【0023】
図4の結果に基づき、遅れ変形量をつぎの式により求めた。
遅れ変形量(μm)=1時間後の変形量−初期変形量
測定結果から明らかなとおり、焼鈍し処理を施さなかったコンタクトプローブの変形量は、時間が経つにつれて次第に増加し、加重をかけて1時間経過したときの遅れ変形量は45μmに達した。これに対して、200℃で1時間の焼鈍し処理を施した本発明のコンタクトプローブは、初期変形量では同等であったが、加重をかけて1時間経過後の遅れ変形量は2μm程度であった。したがって、本発明の焼鈍し処理を施したコンタクトプローブは、結晶が肥大化することなく、焼鈍し処理を施さなかったコンタクトプローブに比べて、より高いクリープ耐性を示すことがわかった。
【0024】
実施例2
本実施例では、実施例1で製造した焼鈍し前のコンタクトプローブについて、焼鈍し時間を1時間に固定し、温度を150℃、200℃、230℃、250℃、300℃と変化させて焼鈍し処理を施し、それぞれについてクリープ耐性を評価した。クリープ耐性の評価方法は、実施例1と同様であり、コンタクトプローブを85℃の状態で、50mNの一定加重を1時間(3600秒間)かけ続けたときの変形量を測定した。その結果を図5に示す。
【0025】
本実施例においては、焼鈍し処理を施さなかったコンタクトプローブの初期変形量(120μm)から±10%の変形量(108〜132μm)が製品としての許容範囲であるとして評価した。図5の結果から明らかなとおり、1時間の焼鈍し温度が150〜250℃であったコンタクトプローブが、かかる許容範囲内にあり、特に200〜230℃の範囲で焼鈍し処理を施したコンタクトプローブは、非常に良好なクリープ耐性を示した。焼鈍し処理温度が300℃の場合は、クリープ耐性が一見良好に見えるが、初期変形量が著しく低下しており、金属が硬くなり、脆化していた。このため、実装の際または連続繰り返し使用したときなどに、コンタクトプローブの折れが多発し、好ましくなかった。
【0026】
実施例3
本実施例では、実施例1で製造した焼鈍し前のコンタクトプローブについて、150℃、200℃、250℃、260℃、300℃の温度条件で焼鈍し処理を施し、金属結晶子サイズの測定を行なった。その結果を、図6に示す。図6の結果から明らかなとおり、250℃の焼鈍し処理では、僅かに結晶が成長を始め、260℃では結晶子サイズはほぼ10倍に肥大化した。また、300℃の焼鈍し処理では、結晶子サイズは600nmに達し、結晶が完全に肥大することがわかった。したがって、結晶の肥大化する温度は260℃であり、実施例2の結果も考慮すると、本発明の効果を有効に発揮するための焼鈍し温度は、金属材料の結晶が肥大化する温度以下の温度であることがわかった。
【0027】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0028】
【発明の効果】
本発明の焼鈍し方法によれば、硬度を維持しつつ、脆化が少なく、クリープ耐性の良好な金属構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のコンタクトプローブを示す斜視図である。
【図2】 本発明のコンタクトプローブの製造方法を示す工程図である。
【図3】 コンタクトプローブのパターンを有するマスクの平面図である。
【図4】 コンタクトプローブの変形量の経時変化を示す図である。
【図5】 コンタクトプローブの変形量の経時変化を示す図である。
【図6】 焼鈍し温度と金属結晶子サイズの関係を示す図である。
【符号の説明】
1 プランジャ部、2 バネ部、3 リード線接続部。

Claims (3)

  1. 回路に接触する接触部と、該接触部を支持するバネ部と、該バネ部を電気的に接続する接続部とを備え、電鋳により形成したニッケル−マンガンの合金からなる金属構造体の製造方法であって、電鋳後、150℃以上250℃以下で焼鈍し処理を施し、焼鈍し処理後の金属材料の結晶子サイズ130nm以下であることを特徴とする金属構造体の製造方法。
  2. 前記金属構造体が、回路の電気的な検査に使用するコンタクトプローブであることを特徴とする請求項1に記載の金属構造体の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法により製造したことを特徴とする金属構造体。
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