JP3745724B2 - 昇華性材料の蒸着用ルツボおよび該ルツボを使用した蒸着方法 - Google Patents

昇華性材料の蒸着用ルツボおよび該ルツボを使用した蒸着方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、昇華性材料の蒸着用ルツボ、特に有機EL素子の製造に使用される昇華性材料の蒸着用ルツボに関する。さらに本発明は、該ルツボを使用した昇華性材料の蒸着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機EL素子を構成する昇華性材料を蒸着させ、有機EL素子を製造するには、一般にルツボを使用して昇華性材料を昇華させる。この際、昇華性材料はルツボの高温部分から優先的に昇華する。従って、昇華性材料は、ルツボと接触している部分が先に蒸発し、安定な蒸気分布が得られない。このため、蒸着の際の膜厚などの再現性が問題となる。
【0003】
例えば、図1(a)に示すような広口ルツボ(10)では、ルツボの高温部分である壁面(12)から優先的に昇華性材料(14)が蒸発し、図1(b)に示すように、ルツボ内の材料(14)が塊になって徐々に細くなる。このような、蒸着中にルツボ内の材料の形状が変化する場合、蒸着において重要な蒸気流分布は材料の形状に依存して変化してしまう。また、材料の形状は蒸着の条件(即ち、成膜の条件)に左右されるため、結果として安定な蒸気流分布を得ることが困難であった。例えば、蒸着を繰り返して成膜を行うと、それぞれの成膜で材料の形状が異なるために、蒸着を繰り返すたびに膜厚が変化する。従って、ロット毎に膜厚の再現性を得るためには、ロット毎に材料を補充し、材料の形状を一定に保つ必要があった。
【0004】
また、ルツボ内の温度の不均衡による昇華しやすい部分と昇華しにくい部分とが生じることを防ぎ、有機化合物を略均一に加熱するための方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この文献には、熱容量の大きい物質を有機化合物で覆い、これを加熱して有機化合物を蒸着させることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−323367号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述の方法は、ルツボ内で材料を均一に加熱することは達成できるが、蒸発された材料の蒸気流分布を安定化するにはまだ不十分である。
【0007】
従って、本発明は、昇華性材料の蒸着において、成膜レートのような蒸着条件の変動を伴わず、発生された蒸気の蒸気流分布を安定化させ、昇華性材料を均一な膜厚で堆積できる装置および方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その第一は、ルツボ容器と、ルツボ容器に設けられた首部と、該首部に設けられた平板とを備え、ルツボ容器および首部に熱容量の大きな物質を添加したルツボに関する。熱容量の大きな物質はセラミックス、金属、またはセラミックスを被覆した金属のような物質を使用することが好ましい。
【0009】
本発明の第二は、上記第一の発明のルツボを使用した昇華性材料の蒸着方法に関する。具体的には、本発明の方法は、ルツボ容器と、ルツボ容器に設けられた首部と、該首部に設けられた平板とを備えるルツボに、昇華性材料および熱容量の大きな物質を充填する工程、該ルツボを真空中において加熱し、昇華性材料を昇華させて被蒸着面に付着させる工程とを具備し、昇華性材料および熱量の大きな物質が蒸着用ルツボの首部を満たすまで充填されている。本発明の方法では、熱容量の大きな物質はセラミックス、金属、またはセラミックスを被覆した金属のような物質を使用することが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を図面を参照して詳細に説明するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面の記載された態様に限定されない。
【0011】
本発明の第一は、昇華性材料の蒸着用ルツボに関する。本発明は、成膜レートのような条件の変動がなく、且つ蒸気流を安定化させる装置(蒸着用ルツボ)を提供する。
【0012】
本発明の蒸着用ルツボに先立ち、発明者らは、蒸気流を安定化させるルツボとして、図2に示されるような蒸気流補正板(24)を備える蒸着用ルツボ(20)を試作した。この蒸着用ルツボ(20)は、ルツボ容器(22)と、該ルツボ容器の開口部を覆う蒸気流補正板(24)と、該補正板(24)をルツボ容器の縁部(29)で固定するためのサイドリング(26)とを具備する。補正板(24)には、昇華性材料の蒸気を取り出すための開口部(27)が設けられている。このような補正板を設けることにより、蒸気流分布は安定し、蒸着を繰り返しても昇華性材料の補充を行わずに膜厚の再現性が向上した。しかし、この蒸着用ルツボでは、蒸着を繰り返すにつれて開口部(27)が閉塞し、成膜レートが変動するという問題が生じた。
【0013】
そこで、発明者らは、さらに研究を重ね、成膜レートのような条件の変動がなく、且つ蒸気流を安定化できる蒸着用ルツボを得ることができた。本発明の蒸着用ルツボは、例えば図3に示すような構造を有する。
【0014】
本発明の蒸着用ルツボの一態様は、ルツボ容器(32)と、該容器の上部に設けられた首部(34)と、該首部に設けられた平板(36)とを具備する。本発明の蒸着用ルツボ(30)は、ルツボ容器(32)の上部に、ルツボ容器の径(図3のa)よりも小さい径(図3のd)を有する首部(34)を有することが特徴である。本明細書において、ルツボ容器の径とは、ルツボ容器の径のうち最大の部分をいい、例えば円筒形状の場合は、図3のaに示される径をいう。また、首部の径とは、ルツボ容器に設けられた首部(32)の径のうち最大の部分をいい、例えば円筒形状の場合は、図3のdに示される径をいう。
【0015】
この態様の蒸着用ルツボは、上記構成を持てばどのような形状を有していてもよいが、成形の容易さなどから円筒形を有することが好ましい。
【0016】
本発明の蒸着用ルツボにおいて、首部は、後述するように、熱容量の大きな物質を保持できることが重要である。従って、ルツボ容器の径よりも小さく、この要件を満たすものであればどような形状であってもよい。例えば、図2の開口部が熱容量の大きな物質を保持できる首部として機能する蒸着用ルツボなどであってもよい。
【0017】
さらに、ルツボ容器および首部の寸法などは、成膜レートのような条件の変動がなく、且つ蒸気流を安定化できれば特に制限されないが、例えば、円筒形の蒸着用ルツボの場合、ルツボ容器の径(図3のa)と首部の径(図3のd)の割合は、a:d=30:1〜5:3、好ましくはa:d=20:1〜5:2である。また、円筒形の蒸着用ルツボの場合、ルツボ容器の高さ(図3のb)と首部の高さ(図3のc)の割合はb:c=8:1〜20:1、好ましくはb:c=10:1〜15:1である。また、本発明の蒸着用ルツボの大きさは、ルツボ容器の径(図3のa)が10〜60mmであることが好ましく、蒸着用ルツボの高さ(図3のb+c)が20〜120mmであることが好ましく、首部の径(図3のd)が2〜6mm、好ましくは3〜4mmである。
【0018】
さらに、本発明の蒸着用ルツボには、平板(36)を設けることが好ましい。この平板(36)は、発熱源に設置するために設けるものであるが、例えばヒーターに接触させ、首部(34)を効率よく加熱することもできる。従って、円筒形のルツボの場合、平板(36)の径は、図3に示すようにルツボ容器の径(図3のa)よりも大きくすることが好ましい。具体的には、平板の径は14〜70mmであることが好ましい。
【0019】
本発明の蒸着用ルツボ(30)には、蒸着に使用する昇華性材料の他に、熱容量の大きな物質を充填することが好ましい。本発明において、熱容量の大きな物質とは、首部付近の温度を高温に保ち、首部に昇華性材料が付着し、首部が閉塞するのを防ぎ、ルツボを加熱する際に、外部の熱源からの熱をルツボ内部まで迅速に伝えることができる、熱伝導率の高い物質をいう。
【0020】
本発明の熱容量の大きな物質の一態様は、粒子状の形態を有するものである。粒子状の形態では、熱容量の大きな物質の粒径は、0.1〜5mm、好ましくは0.1〜3mm、より好ましくは、約1mmである。
【0021】
この熱容量の大きな物質は、首部の内部(40)を満たすように充填することが好ましい。本発明では、熱容量の大きな物質は、首部(40)を満たせば十分であるが、ルツボ容器の内部(38)にも充填することが好ましい。これは、ルツボ容器の内部(38)の熱伝達を良好に保つために有効である。熱容量の大きな物質を首部(34)とルツボ容器の内部(38)に充填した様子を図4に示した。図4には、熱容量の大きな物質(42)と、昇華性材料(44)とを充填した状態を示す。このように、熱容量の大きな物質(42)を首部の内部(40)を満たすように充填することで、首部付近の温度を高温に保ち、首部に昇華性材料が付着し、首部が閉塞するのを防ぐ。これにより、成膜レートの変動を防止し、且つ蒸気流分布の安定化を図ることができる。また、熱容量の大きな物質をルツボ容器の内部(38)にも充填することによりルツボ内の温度も均一となり、昇華性材料の均一な蒸発が達成できる。
【0022】
本発明の熱容量の大きな物質の第二のの態様として、熱容量の大きな物質を多孔性で、且つ首部の内部の大きさ加工し、首部の内部に詰められるようにしたものを挙げることができる。この場合の熱量の大きな物質の寸法は、先の首部の寸法と同じである。
【0023】
本発明の熱容量の大きな物質の第三の態様として、例えば、図2の蒸気流補正板(24)を熱容量の大きな物質とし、その開口部(27)も多孔性の熱容量の大きな物質でできたものを挙げることができる。この態様では、広口の従来のルツボにも、本発明のルツボと同様の効果を付与することができる。このような蒸気流補正板を取り付けたルツボは、上記第二の態様の、多孔性の熱容量の大きな物質を首部に取り付けた本発明のルツボと同一視することができる。従って、本発明の範囲には、このような第三の態様の熱容量の大きな物質でできた蒸気流補正板を取り付けたルツボも含まれる。第三の態様の熱容量の大きな物質の寸法は、例えば円筒形のルツボの場合、ルツボの開口部(即ち、本態様の補正板を取り付ける部分)の大きさを持っていればよい。また、第三の態様の熱容量の大きな物質は、上記図3に示すようなルツボの首部(34)の寸法を有する、細孔を有する開口部を備える。
【0024】
本発明のルツボに使用する熱容量の大きな物質は、昇華性材料にヒーターからの熱を効率よく伝播できるものであれば特に限定されない。例えば80〜400W/mkの熱伝導率を有する物質を挙げることができる。具体的には、セラミックス、金属、セラミックスを被覆した金属などから好適に選択することができる。セラミックスは、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、炭素(例えば活性炭、カーボンブラック、グラファイトなど)のような、金属酸化物、金属窒化物、炭化物、炭素から選択することができる。金属の例としては、金、タンタル、銅、またはタングステンを挙げることができる。セラミックスを被覆した金属には、上記金属に上記セラミックスをCVD法、スパッタ法などで被覆したものを挙げることができる。本発明では、熱容量の大きな物質は、炭化ケイ素などのセラミックスが好ましい。
【0025】
本発明の蒸着用ルツボは、特に昇華性材料を蒸着するのに適する。昇華性材料としては、例えば40℃〜450℃、好ましくは50〜400℃で昇華できる物質であれば特に限定されない。本発明では、上記温度範囲で昇華可能な有機化合物、好ましくは、有機EL素子の製造に使用される有機化合物、例えば正孔注入層および正孔輸送層、電子注入層および電子輸送層、有機発光層などに使用されるものを挙げることができる。具体的には、正孔注入層に使用される銅フタロシアニン(CuPc)、有機発光層に使用される4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)、電子注入層に使用されるアルミニウムキレート(Alq3)を例に挙げることができる。
【0026】
本発明の蒸着用ルツボの材料は特に限定されないが、石英、BN、PBN、AlN、モリブデン(Mo)などを使用することができる。
【0027】
本発明の第二は、昇華性材料の蒸着方法に関する。本発明の蒸着方法では、上記第一の発明の蒸着用ルツボを使用する。本発明の方法は、(1)上記第一の発明の蒸着用ルツボに、昇華性材料および熱容量の大きな物質を充填する工程、および、(2)該ルツボを真空中において加熱し、昇華性材料を昇華させて被蒸着面に付着させる工程とを具備する。
【0028】
第一の工程は、蒸着用ルツボに昇華性材料と熱容量の大きな物質を添加する工程である。この工程は、上記第一の発明で説明した蒸着用ルツボに、所定量の昇華性材料を添加し、次いで、熱容量の大きな物質を添加することにより行う。なお、蒸着用ルツボ、昇華性材料、熱容量の大きな物質の詳細は、第一の発明で説明したとおりである。
【0029】
蒸着用ルツボへの昇華性材料と熱容量の大きな物質の添加は、首部とルツボ容器の両方へ、熱容量の大きな物質を添加する場合には、まず昇華性材料を秤量して加えた後、熱容量の大きな物質を蒸着用ルツボの首部を満たすように加える。次いで、ルツボに振動を加え、昇華性材料および熱容量の大きな物質をルツボ内部へ落とし込み、充填率を上げる。振動を加えることで生じた上部の空間へさらに熱容量の大きな物質を充填し、再度振動を加え、さらに充填率を上げる。この操作を繰り返し、蒸着用ルツボの首部内部が熱容量の大きな物質で満たされるまで材料の充填を行う。本発明のルツボを用いて昇華性材料の蒸気流の安定化を図るためには、首部には、熱容量の大きな物質のみを充填することが好ましい(図4参照)。
【0030】
本発明では、首部とルツボ容器の両方へ、熱容量の大きな物質を添加する場合には、上記のように昇華性材料と熱容量の大きな物質を別々に添加してもよいが、これらを予め混合しておき、混合物を蒸着用ルツボに振動を加えながら充填率を上げて充填してもよい。この場合においても、本発明のルツボを用いて昇華性材料の蒸気流の安定化を図るためには、首部には、熱容量の大きな物質のみを充填することが好ましい。昇華性材料と熱容量の大きな物質の混合物は、例えば、昇華性材料の溶液(昇華性材料を適切な溶媒、例えば水性溶媒、脂肪族または芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素のような有機溶媒などに溶かしたもの)に、熱容量の大きな物質を添加して攪拌し、溶媒を除去し、さらに乾燥することにより得ることができる。
【0031】
また、細孔性でルツボの首部(図3の(34))の大きさを有する熱容量の大きな物質を使用する場合には、蒸着用ルツボへ昇華性材料を秤量して加え、熱容量の大きな物質を首部へ詰めることにより、蒸着用ルツボへ昇華性材料と熱容量の大きな物質の添加を行うことができる。
【0032】
さらに、広口ルツボに細孔性の開口部を有する蒸気流補正板(蒸気熱容量の大きな物質の第三の態様)を取り付けた蒸着用ルツボの場合、広口のルツボに昇華性材料を秤量して加え、これに該蒸気流補正板を取り付けることで蒸着用ルツボへ昇華性材料と熱容量の大きな物質の添加を行うことができる。
【0033】
昇華性材料と熱容量の大きな物質の割合は特に限定されないが、容積比で1:8〜1:1900とすることが好ましい。
【0034】
第二の工程は、昇華性材料および熱容量の大きな物質を充填した蒸着用ルツボを真空中において加熱し、昇華性材料を昇華させて被蒸着面に付着させる工程である。
【0035】
図4に示すように、昇華性材料と熱容量の大きな物質を、蒸着用ルツボの首部まで満たしたルツボを、図5に示すような加熱装置(50)に装着する。なお、図5に示す加熱装置は、有機EL素子の製造に用いられる蒸着装置の間接加熱式蒸着源である。この蒸着源は、Wヒーター(52)、トップリフレクター(54)、サイドリフレクター(56)およびボトムリフレクター(58)を備える。蒸着用ルツボを加熱装置(50)に装着し、真空ポンプ(図示せず)により、蒸着装置を真空に保ち、Wヒーター(52)に通電することより蒸着用ルツボを加熱する。加熱された昇華性材料は、昇華されて真空に保たれた蒸着装置内で基板上に付着し、堆積し、昇華性材料の膜が形成される。本発明では、図4に示すように、昇華性材料と熱容量の大きな物質の割合は、上述のように、容積比として昇華性材料を熱容量の大きな物質よりも多く充填することが好ましい。後述のように、蒸着操作を繰り返すにつれ、昇華性材料の量は減少するが、昇華性材料を補充することなく、ルツボ内の昇華性材料がなくなるまで、安定して成膜を繰り返すことができる。
【0036】
本発明では、蒸着用ルツボを加熱すると、ルツボの壁から、ルツボ容器および首部に充填された熱容量の大きな物質に熱が伝播され、熱容量の大きな物質が加熱される。熱容量の大きな物質は熱伝導率が高いため、中心部分まで連鎖的に熱を伝播し、ルツボおよび首部の内部まで効率よく均一に加熱される。このような均一な加熱により、昇華性材料がルツボ内部および壁面近傍で均一に昇華される。
【0037】
さらに、熱容量の大きな物質を充填した本発明の蒸着用ルツボは、蒸気流分布を安定化することができる。この理由を、図6を参照して説明する。図6(a)は、昇華性材料と熱容量の大きな物質を蒸着用ルツボの首部まで満たしたルツボを加熱したときの状態を表しており、この図に示されるように、蒸着用ルツボを加熱すると、蒸気群が首部上部の蒸発表面(首部の上部の開口部分(41))から放出される。図6(b)から図6(e)は、繰り返し成膜を行った場合の、蒸着用ルツボ内の昇華性材料および熱容量の大きな物質の状態を観察した結果を示すものである。
【0038】
図6(b)に示されるように、昇華性材料と熱容量の大きな物質を充填した直後は、これらは混合された状態にある。この蒸着用ルツボを加熱すると、ヒーターに近いルツボの壁近傍から蒸発が始まるが、短時間で蒸着用ルツボ内部が均一の温度に達する。この際、蒸着用ルツボの首部は、ルツボ容器より細いため、より迅速に均一な温度に達し、ルツボ容器内の温度の不均一に影響されることなく一定のレートで昇華性材料を昇華・放出することができる。このように昇華性材料が蒸発されることにより1回目の蒸着が行われる。
【0039】
次に、次回の蒸着のために蒸着用ルツボを冷却する。この状態を図6(c)に示す。この図に示されるように、蒸着用ルツボが冷却されると蒸気になっていた昇華性材料(44)が凝集する。その際、昇華性材料は蒸気のときに近傍に存在していた熱容量の大きな物質(42)と共に凝集する。凝集体は蒸着用ルツボの首部の下方部分とルツボ容器の下方部分(図6(c)のmixで表される部分)までの範囲に固定される。即ち、蒸着用ルツボの首部の上方部分と、ルツボ容器の下部に昇華性材料(44)を含まない、熱容量の大きな物質(42)の領域が生じ、その他の部分(図6(c)のmixで表される部分)に凝集体が固定される。このような固定は、昇華性材料特有の現象である。従って、本発明の方法は、昇華性材料の蒸着方法に最適となる。
【0040】
さらに蒸着操作を繰り返すと、図6(d)に示されるようにルツボ容器の下部に熱容量の大きな物質(42)が堆積し、その上部に、昇華性材料が昇華して容積が減少した分の空隙(46)が生じる。蒸着の条件である成膜レートを低く抑える場合、蒸着用ルツボ内の昇華性材料が全て蒸発することはなく、図6(c)で説明したような、凝集体が蒸着用ルツボの中央部付近に固定される状態が続くため、首部の上部には、熱容量の大きな物質(42)が保持されることになる。さらに蒸着操作を繰り返すと、図6(e)に示されるように、熱容量の大きな物質がルツボ容器に堆積し、凝集体が首部の下方部分とルツボ容器の上部に固定される。この場合でも、成膜レートを低く抑える場合、蒸着用ルツボ内の昇華性材料が全て蒸発することはないので、首部の上部には、熱容量の大きな物質(42)が保持される。
【0041】
このように、首部の上部に熱容量の大きな物質が保持されることにより、この部分が蒸気の整流部分として働き、蒸発表面が固定される(即ち、昇華性材料の形状が一定に保たれる)ため、蒸着を繰り返しても蒸気流分布が一定になると考えられる。
【0042】
本発明の蒸着方法の条件は、以下の通りである。成膜レートは、上記のような蒸着用ルツボの状態を保持するために低いことが好ましい。例えば成膜レートは、0.1〜0.5nm/s、好ましくは0.2nm/sである。蒸着の際の真空度は、10−4Pa〜10−5Pa、好ましくは10−5Paである。蒸着の温度は、昇華性材料により異なるが、150℃〜350℃である。
【0043】
このように、本発明では、蒸着用ルツボに首部を設け、この首部にまで熱容量の大きな物質を充填することにより、蒸着用ルツボ内部の温度を均一に保つと共に、蒸着表面の形状を一定に保ち、蒸気流分布の安定化を図ることができる。また、このような蒸着用ルツボを用いることにより成膜レートの変動を起こすことなく一定の膜厚で蒸着を行うことが可能である。
【0044】
特に、本発明の蒸着方法は、有機EL素子の製造に好適であり、特性の安定した有機EL素子を提供することができる。
【0045】
【実施例】
以下に本発明を実施例に従ってさらに詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
以下の実施例では、熱容量の大きな物質として粒径1mmの炭化ケイ素(SiC)を用い、昇華性材料としてAlq3(アルミキレート)を用いた。
【0047】
(1)材料の充填
昇華性材料としてAlq3を1g秤量し、図3に示すような細首タイプの石英ルツボ(寸法:a=15mm、b=18.5mm、c=1.5mm、d=4mm)に充填した。続いて熱容量の大きな物質(SiC:/粒径約1mm)(以下、ボールと称する。)をルツボの首部の内部(40)一杯まで入れた。ルツボを振動させボールをルツボの内部に落とし込み、充填率を上げ、首部に空き領域を生じさせ、この部分に更にボールを充填した。この作業を繰り返し、ルツボの首部一杯まで昇華性材料とボールを充填した(図4参照)。熱容量の大きな物質の量は、1gであった。
【0048】
次に、このルツボを図5に示す間接加熱式蒸着源にセットした。
【0049】
(2)成膜条件
成膜は3室型(L/L、有機チャンバー、メタルチャンバー)蒸着装置で行った。チャンバーの到達真空度は10−5Paのオーダーであった。ガラス基板(設置した基板は最大50cm角である。)を有機チャンバーに移動した後、蒸発源の加熱を開始した。膜厚レートの変動、膜厚および相対膜厚の測定を行った。これらのうち膜厚および相対膜厚の測定に関しては、成膜レートは水晶振動子で観測しながら、0.2nm/sになるように制御し、成膜レート0.2nm/sで膜厚が110nmになるように、ガラス基板上に蒸着を行った。この条件で、蒸着温度は、約280℃であった。
【0050】
本実施例では、基板にガラスを使用したが、本発明はこれに限定されず、種々の材料の表面に蒸着を行うことができる。例えば、プラスチックフィルムのような材料の基板に蒸着が可能である。
【0051】
膜厚の測定は、基板中央位置の光学膜厚を分光光度計で測定した。各ロットの膜厚は基板中央位置の一点の値である。膜厚分布は基板中央から15mm以内の範囲で測定した。
【0052】
有機膜はやわらかく、表面荒さ計で測定すると針圧によっては膜が削れること、さらに、基板のそりによってベースラインがとりにくいことから、測定誤差が大きい(表面荒さ計測定値の標準偏差の相対値は約1.4%である。)。これに対して、光学測定の誤差は一桁小さい(標準偏差の相対値は約0.16%である。)ことから、有機膜厚の定常的な測定は分光光度計で行った。
【0053】
なお、新しい昇華性材料を用いて成膜を行った場合、その膜厚を測定する際には、あらかじめ膜厚の異なる3種類のサンプルを作製し、同じサンプルで表面荒さ計による絶対膜厚測定と、分光光度計による膜厚の光学測定を行った。そして、絶対膜厚に対する吸光度の検量線を作成して、基準膜厚の吸光度を決定した。同じ材料については、以降、光学測定のみを行い、予め作成した検量線を用いて膜厚を決定した。
【0054】
繰り返し成膜を行う場合、成膜毎に昇華性材料の重量を計測し、昇華性材料の補充はせずに、成膜を繰り返した。その際、成膜時のツーリングファクタ(Tooling Factor)(T.F.(%)=(基板中央膜厚)/(膜厚計が読み取った膜厚)×100)は固定した。
【0055】
(3)膜厚分布
膜厚分布は蒸発面積とルツボ壁などの遮蔽物によって決定されるが、本発明のようにルツボとボールで昇華性材料を蒸発させる場合は、点蒸発源を開口部(図3の41)の面積で積分したものになると考えられる。図7に、本発明で使用した蒸発源(91)、防着板(92、93)、基板(94)、振動子(96)の位置関係を示した。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様の昇華性材料を用い、図2に示す蒸気流補正板を備えたルツボを使用して蒸着を行った。蒸着の条件等は実施例1と同様である。なお、本比較例では、熱容量の大きな物質を使用しないで蒸着を行った。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同様の昇華性材料を用い、図1に示す広口ルツボを使用して蒸着を行った。蒸着の条件等は実施例1と同様である。なお、本比較例では、熱容量の大きな物質を使用しないで蒸着を行った。
【0058】
(結果)
上記実施例および比較例について以下に示す試験結果を得た。
【0059】
1)成膜レートの変化
本発明の方法で成膜する際の成膜レートの変化を測定した。その結果を図8に示す。図に示されるように、本発明の蒸着用ルツボを用いた本発明の蒸着方法では、急激な成膜レートの変化は生じなかった。
【0060】
一方、比較例1に示したルツボを使用して蒸着を行うと、時間経過と共に成膜レートに変動が生じた。特に、成膜開始から2200秒付近で成膜レートが大きく変動した。これは、昇華性材料が開口部に付着し、開口部を閉塞したためと考えられる。
【0061】
2)蒸着を繰り返した際の膜厚の変化
上記実施例の蒸着用ルツボを用いた場合と、比較例2で示したルツボを用いた場合について、蒸着を繰り返した際の膜厚の変化を測定した。結果を図9に示した。本発明のルツボを用いた蒸着方法では、図に示されるように、ルツボ内の昇華性材料の残量にかかわらず、ほぼ一定した膜厚を達成できた。
【0062】
一方、図に示されるように、比較例2の方法で成膜した場合、膜厚は成膜を繰り返す毎に大きく変化した。
【0063】
特に、本発明の方法では成膜毎の膜厚再現性は±3%であるが、比較例2の方法では±16%であり、本発明の方法は膜厚再現性に優れることがわかる。
【0064】
3)相対膜厚の分布
相対膜厚の分布を図7に示す装置を用いて測定した。図10に成膜した単層膜の膜厚分布を示した。図10のx方向でプラス方向に距離が増加するに従って膜厚が減少するのは、蒸発源をx軸上の−63mmの位置に配置しているためである。
【0065】
蒸着膜の均一性は式(1)で表される。
ε=(dmax−dmin)/d (1)
max:最大膜厚
min:最小膜厚
:基準位置膜厚(基板中央位置の膜厚)
【0066】
基板中央から15mm以内の範囲で、最大相対膜厚偏差εは、0.09 であり膜厚が均一であることがわかった。本実施例で使用した蒸着装置は、蒸発源−基板角度が13°あるが、蒸着源の真上に基板を配置した場合は、さらに有効面積が広がると予想される。
【0067】
上述のように、本発明の蒸着用ルツボを使用した蒸着方法では、成膜レートの安定化が図れ、成膜毎の膜厚再現性が良好であった。特に、本発明の方法では、成膜毎にルツボの蒸発表面を観測すると、首部の上方部分にSiCが常に露出しており、昇華性材料が蒸発表面に凝集していることはなかった。また、本発明の方法では、ルツボ内の昇華性材料の量が蒸着操作を繰り返して変化した場合でも蒸気流分布が安定化されているため、膜厚の変動を小さく抑えることができた。
【0068】
【発明の効果】
本発明の蒸着用ルツボは、蒸気流分布の安定化が可能であり、蒸着による膜厚の再現性を確保することができる。
【0069】
本発明の蒸着方法は、成膜レートの変動を起こすことなく、蒸気流分布を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、昇華性材料を充填した従来の広口蒸着用ルツボの示す概略図であり、(b)は、加熱により昇華性材料が昇華した後の状態を示す概略図である。
【図2】比較例1で使用するルツボの概略図である。
【図3】本発明の蒸着用ルツボの概略断面図である。
【図4】本発明の蒸着用ルツボに熱容量の大きな物質と昇華性材料を充填した状態を表す概略図である。
【図5】蒸発源の概略図である。
【図6】本発明の蒸着用ルツボを用いて蒸着を繰り返した際の、ルツボ内部の状態を示す概略図である。
【図7】本発明で使用する蒸着装置の蒸発源、基板などの配置を示す概略図である。
【図8】成膜レートの変化を示す図である。
【図9】昇華性材料の基板上での膜厚の変化を示す図である。
【図10】昇華性材料の基板上での相対膜厚を示す図である。
【符号の説明】
10、20、30 ルツボ
12、22、32 ルツボ容器
14、44 昇華性材料
24 蒸気流補正板
26 サイドリング
27、41 開口部
28、38 ルツボ内部
29 ルツボ容器縁部
34 首部
36 平板
40 首部の内部
44 熱容量の大きな物質
50 加熱装置
52 Wヒーター
54 トップリフレクター
56 サイドリフレクター
58 ボトムリフレクター
91 蒸発源
92、93 防着板
94 基板
96 水晶振動子

Claims (4)

  1. 昇華性材料を蒸着させるための蒸着用ルツボであって、該ルツボが、ルツボ容器と、該ルツボ容器の上部に設けられた首部と、該首部に設けられた平板とを具備し、前記ルツボ容器および前記首部に熱容量の大きな物質を添加したことを特徴とする蒸着用ルツボ。
  2. 前記熱容量の大きな物質が、セラミックス、金属およびセラミックスを被覆した金属から選択されることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用ルツボ。
  3. 昇華性材料の被蒸着面への蒸着方法であって、
    (1)ルツボ容器と、該ルツボ容器の上部に設けられた首部と、該首部に設けられた平板とを具備する蒸着用ルツボに昇華性材料および熱容量の大きな物質を添加する工程、および
    (2)真空下で、前記蒸着用ルツボを加熱し、昇華性材料を昇華させ、被蒸着面に昇華性材料を付着させる工程、
    を具備し、前記昇華性材料および熱量の大きな物質が前記蒸着用ルツボの首部を満たすまで充填されていることを特徴とする蒸着方法。
  4. 前記熱容量の大きな物質が、セラミックス、金属およびセラミックスを被覆した金属から選択されることを特徴とする請求項3に記載の蒸着方法。
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