JP3744777B2 - エネルギー吸収式ステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエネルギー吸収性能が安定したステアリング装置を簡単に実現する技術に関する。ここで「安定した」とはステアリング装置毎のばらつきが小さいことを言う。
【0002】
【従来の技術】
ステアリングシャフトが貫通するステアリングチューブをインナーチューブとアウターチューブで構成し、ステアリングシャフトにかかるエネルギーを両チューブが深く嵌り合うエネルギーに費やすことでステアリングシャフトにかかるエネルギーを吸収するステアリング装置が知られている。この種の装置では、インナーチューブとアウターチューブが相対的に変位し始めるときの荷重(以下変位開始荷重という)が所定の範囲内に調整されていることが求められる。
ステアリングシャフトを構成するインナーシャフトとアウターシャフト間の変位開始荷重を簡単な構造で安定させる技術が、特開昭56−8755号公報や実開昭56-6669号公報に記載されている。これらの公報に記載の技術では、アウターシャフトとインナーシャフトの間にピアノ線等の細材を介在させて両者を圧入する。これによって、変位開始荷重が安定し、ステアリングシャフト毎のエネルギー吸収性能のばらつきが小さく押さえられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に記載の技術をインナーチューブとアウターチューブ間に適用すれば、簡単な構造でステアリングチューブの変位開始荷重を所定の範囲に調整できるように思われる。しかしながら、実際にはそうはならない。
一つの理由は、上記公報に記載の技術では、インナーシャフトとアウターシャフト間に1本の細材を介在させるに過ぎない。そのために、周方向の一部ではインナーシャフト外面とアウターシャフト内面が直接に接触し、両シャフトの寸法公差や表面の仕上がり具合のばらつきが、ステアリングシャフトの変位開始荷重をステアリングシャフト毎にバラけさせてしまう。
もう一つの理由は、アウターチューブの場合には車体に取り付けなければならないところ、その取り付け構造がインナーチューブとアウターチューブの変位開始荷重をバラけさせてしまう。アウターチューブを車体に取り付ける場合、通常はブラケットが用いられる。このとき、アウターチューブ外面とブラケット内面の関係が、インナーチューブとアウターチューブ間の変位開始荷重に大きく影響する。例えば、ブラケット内面がアウターチューブ外面を強く拘束すれば、インナーチューブとアウターチューブ間の変位開始荷重は大きくなり、ブラケット内面がアウターチューブ外面を拘束しなければ、インナーチューブとアウターチューブ間の変位開始荷重は大きくならない。ブラケットがアウターチューブ外面を拘束する場合、拘束の程度がインナーチューブとアウターチューブ間の変位開始荷重に大きく影響し、変位開始荷重を所望の範囲内に収めようとすると、拘束の程度を厳しく管理することが必要となり、部品に許される寸法公差が非常に小さくなってしまう。
本発明は上記の問題の存在を発見したことから創作されたものであり、一つには、簡単な構造でインナーチューブ外面とアウターチューブ内面が直接には接触しないようにして変位開始荷重を安定させ、他の一つには、アウターチューブ外面とブラケット内面の関係がステアリングチューブの変位開始荷重に与える影響を小さくし、もって、車体に取り付けられた状態でのステアリングチューブの変位開始荷重を簡単に安定させることを目的とする。
【0004】
【課題を解決する為の手段と作用】
本発明のステアリング装置は、インナーチューブと、そのインナーチューブに圧入されたアウターチューブと、そのアウターチューブを車体に取り付けるブラケットを有している。
そのインナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面との間には、軸方向に伸びる複数本の細材が介在している。各々の細材はアウターチューブ内周面の周方向に沿って間隔をおいて配置されており、アウターチューブ内周面を周方向に観察すると「細材が介在する周方向位置」と「細材が介在しない周方向位置」が繰返して現れる。周方向に間隔をおいて配置されている複数本の細材が、インナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面が直接に接触することを禁止している。
そのブラケットは、長さ方向においてはインナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面との間に細材が介在している範囲内においてアウターチューブ外周面の一部に固定されている。アウターチューブとブラケットは、細材が介在しない周方向位置で相互に固定されており、細材が介在する周方向位置ではアウターチューブ外周面にブラケットが接触していないことを特徴とする。
【0005】
インナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面との間に、軸方向に伸びるとともに周方向に間隔をおいて配置されている複数本の細材が介在していると、両チューブの変位開始荷重が安定する。即ち、インナーチューブの外径、アウターチューブの内径、インナーチューブ外面の仕上がり具合やアウターチューブ内面の仕上がり具合に少々のばらつきがあって、インナーチューブとアウターチューブ間の変位開始荷重は安定する。これは、本出願人の一人が先に特願平11−239399号で出願したとおりである。
【0006】
この発明では、さらに、アウターチューブとブラケットは細材が介在しない周方向位置で固定され、細材が介在する周方向位置ではアウターチューブ外周面にブラケットが接触していないために、基本的には、アウターチューブとインナーチューブの関係にブラケットが影響せず、ブラケットによってアウターチューブとインナーチューブ間の変位開始荷重がばらつくことがない。
本発明によると、車体に取り付けられた状態でのステアリングチューブの変位開始荷重を簡単に安定させることができ、エネルギー吸収特性を簡単な構造で安定させることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態のいくつかを図面を参照しながら説明する。図1は組付け後のインナーチューブINとアウターチューブOUと細材Wの配置関係を模式的に示しており、インナーチューブINは断面円形の外形を備え、アウターチューブOUは断面円形の内形を備えている。アウターチューブOUの内径はインナーチューブINの外径よりも大きく、両者が同軸に嵌め合わされたときに両者間には周状の間隙Gが形成される。両チューブINとOU間の間隙Gには3本以上の細材Wが組付けられている。組付ける以前の細材Wの外径は前記した間隙Gの巾よりも大きく、3本以上の細材Wは前記間隙G内に押込まれている。3本以上の細材Wは、アウターチューブOUとインナーチューブINを同軸に保つ位置に配置されている。
【0008】
細材Wは両チューブINとOUよりも柔らかいものであり、この結果、組付け前には断面円形であったものが、組付けによって塑性変形している。
この逆に細材Wは両チューブINとOUよりも硬くてもよく、この場合には組付けによってチューブ側が塑性変形する。この場合、細材Wとしてピアノ線が好適に使用できる。
両チューブINとOUと細材Wの全部が同じ硬度であってもよく、この場合には全部の部品が塑性変形して組付けられる。
【0009】
図2と図3に示されるように、インナーチューブINとアウターチューブOUの圧入部の外側にブラケットBが固定されている。このブラケットBは、アウターチューブOUを車体に取り付けるためのものである。
図3に示すように、このブラケットBは、2本の溶接線WEによってアウターチューブOUの外面に溶接されている。溶接線WEはチューブの軸に平行に伸びている。
2本の溶接線WEの間でブラケットBはアウターチューブOUの外面よりも外周方向に大きく湾曲し、溶接された状態で、アウターチューブOUの外面とブラケットBの内面の間には、クリアランスCが確保される。
【0010】
図3に良く示されるように、溶接線WEは、細材Wが介在する周方向位置から外れた位置にある。細材Wが介在する周方向位置ではブラケットが存在しないか(車体側)あるいはクリアランスCによってブラケットBは離反している(運転手側)。
ブラケットBはチルト機構を介して車体に取り付けられる。図示32は車体の一部であるインスツルメントパネルであり、ボルト34でつるし金具33が固定されている。つるし金具33には紙面内で伸びる一対の長穴が設けられており、その長穴をスライドシャフト37の両端部が通過している。スライドシャフト37はチルトレバー35とカム機構36に連携しており、チルトレバー35が紙面垂直方向に揺動することで長穴内をスライドする。即ち、スライドシャフト37は矢印38に示す方向に平行移動する。ブラケットBはスライドシャフト37の両端に固定されているので、スライドシャフト37が平行移動すればそれに伴って平行移動する。以上の機構によって、アウターチューブOUは、ブラケットBによって、車体32からの距離が一定範囲内で変化可能となるように車体32に取り付けられている。
【0011】
ステアリングチューブの組付けの手順は、最初にアウターチューブOU外面にブラケットBを2本の溶接線WEに沿って溶接する。次いで、アウターチューブOU内にインナーチューブINと細材Wを圧入する。
溶接線WEは細材Wが介在しない周方向位置に設けられている。また、アウターチューブOUとブラケットBが溶接された状態で、アウターチューブOUの外面とブラケットBの内面の間に充分なクリアランス、即ち、アウターチューブOU内にインナーチューブINと細材Wを圧入することによってアウターチューブOUの外面が膨出しても、膨出したアウターチューブOU外面とブラケットB内面の間にクリアランスCが残るように設定されている。
【0012】
図4は比較例を示す。この場合、アウターチューブOUとブラケットBが溶接された状態で、アウターチューブOU外面とブラケットB内面の間にクリアランスを設けない。
【0013】
図5は、縦軸にアウターチューブOUとインナーチューブINを圧入するに要する荷重を示し(変位開始荷重に相当する)、横軸に圧入代を示している。圧入代とは、インナーチューブ外面とアウターチューブ内面の間隙距離と細材Wの直径の差を言う。例えば、0.2mmの間隙に0,4mmの細材が圧入される場合、圧入代は0.2mmである。なお、圧入によって、前記したように、細材又はチューブの塑性変形が起こり、圧入代に等しいだけアウターチューブOUが膨出するわけではない。圧入代が0.2mmの場合、アウターチューブ外面は0.1mm程度膨出する。
図4の場合、細材Wが介在する周方向位置においてアウターチューブOUの外面がブラケットBの内面によって拘束されているために、アウターチューブの膨出が拘束され、アウターチューブOUとインナーチューブINを圧入するに要する荷重が大きい。図4の場合、アウターチューブOU外面とブラケットB内面の間にクリアランスを設けないといっても、密着させることは困難であり、実際には100分の数mmオーダの隙間が存在する。しかしながら、この隙間はアウターチューブの膨出分に足らず、膨出との関係で言えばクリアランスがないということができる。
図3の場合、細材Wが介在する周方向位置においてアウターチューブOU外面とブラケットB内面は離反している為に、正確に言えば圧入時に生じるアウターチューブOUの膨出距離以上に離反しているために、アウターチューブOUの膨出が拘束されず、アウターチューブOUとインナーチューブINを圧入するに要する荷重は小さい。
【0014】
図5に、許容される圧入荷重の幅を示す。図4の比較例による場合、圧入荷重を目標範囲内に調整する為には、圧入代を範囲Aの中に入るように管理しなければならない。図3の場合、範囲Bが許される。明らかに範囲Bは範囲Aよりも広く、図3に示す実施例による場合には、図4に示す比較例による場合に比して、圧入代に関係するアウターチューブOUの内径、インナーチューブINの外径、細材Wの直径等の寸法管理が緩やかでよいことが確認される。また、図4の比較例による場合には、圧入代がばらついたときに細材が切断されてしまうことがある。図3の実施例によると、細材の切断が防止される。
【0015】
上記のように、本実施例では、先に溶接しておいて次に圧入する。逆に、圧入しておいて溶接することもできる。この場合にも、細材Wが介在しない周方向位置で溶接し、細材Wが介在する周方向位置ではアウターチューブOU外面とブラケットB内面が離反している関係で溶接することが必要である。溶接によってアウターチューブが歪むことが避けられないところ、上記の要件が満たされていると、溶接歪みがステアリングチューブの変位開始荷重に影響することが最小限度に押さえられる。
本実施例のように、溶接後に圧入する方が好ましく、この場合には、溶接によってアウターチューブOUの寸法がバラけても、図5の許容幅Bが大きいことから、変位開始荷重を許容幅内に収めやすい。
アウターチューブOUとインナーチューブINが寸法公差内でばらつくことが避けられないところ、圧入代を図5の許容幅A内に収めようとすると、太いアウターチューブOUには太いインナーチューブINを選択して用い、細いアウターチューブOUには細いインナーチューブINを選択して用いる必要があるのに対し、圧入代の許容幅がBまで広がると、アウターチューブに溶接歪みの影響がさけられないとしても、任意のアウターチューブOUに任意のインナーチューブINを用いることが可能となり、組付け作業が非常に簡易化される。
【0016】
上記では、アウターチューブOUにブラケットBが溶接されて固定される場合を説明したが、ボルト締め、クランプ締め等によってアウターチューブOUにブラケットBを固定することもできる。この場合にも、細材Wが介在しない周方向位置でアウターチューブOUとブラケットBが接触し、細材Wが介在する周方向位置ではアウターチューブOUとブラケットBが離反している構造が好ましく、こうすることによって、所望の変位開始荷重に調整するに必要な部品の寸法公差が幅広く確保される。
【0017】
図6〜8は、ブラケットの各種変形例を示す。図6のブラケットは、車体側に大きく湾曲し、細材Wが介在する周方向位置ではアウターチューブOUとブラケットBが離反している。図7のブラケットは分割されており、細材Wが介在する周方向位置ではブラケットBが存在しない。図8は、図7の分離したブラケットをブリッジB1で接続したブラケットを示し、この場合にも、細材Wが介在する周方向位置ではアウターチューブOUとブラケットBが離反している。
【0018】
アウターチューブ外面とブラケット内面を面的に密着させる場合、全面的に密着させることが困難で、わずかなクリアランスが存在する部位で溶接することが起こる。この場合、溶接強度が安定しない。本実施例では、アウターチューブとブラケットが周方向の2位置で相互に固定されるために、確実に接触している状態で溶接することができ、溶接強度が安定する。図7、図8において、C1はクリアランスを示し、元々クリアランスC1が予定されている為に、アウターシャフトとブラケットは溶接線WEに沿って必ず接触する。
【0019】
【発明の効果】
本発明によると、アウターチューブとブラケットは、細材が介在する周方向位置からはずれた位置で相互に固定されており、細材が介在する周方向位置ではアウターチューブ外面とブラケットが離反していることから、インナーチューブとアウターチューブを細材を介して圧入するときに、ブラケットがアウターチューブの変形を拘束しないことから、ステアリングチューブの変位開始荷重を所望の範囲に調整するに必要な部品の寸法公差が幅広く確保される。即ち、ロバストな技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インナーチューブとアウターチューブが細材を介して圧入された様子を模式的に示す。
【図2】 インナーチューブとアウターチューブが細材を介して圧入されたステアリングチューブがブラケットによって車体に取り付けられた状態の縦断面を示す。
【図3】 図2の横断面を示す。
【図4】 比較例の図3に対応する図を示す。
【図5】 圧入代と圧入荷重(変位開始荷重)の関係を、図3と図4の場合を対比して示す。
【図6】 ブラケットの第1変形例を示す。
【図7】 ブラケットの第2変形例を示す。
【図8】 ブラケットの第3変形例を示す。
【符号の説明】
IN:インナーチューブ
OU:アウターチューブ
W :細材
B :ブラケット
C :クリアランス
WE:溶接線
Claims (1)
- インナーチューブと、そのインナーチューブに圧入されたアウターチューブと、そのアウターチューブを車体に取り付けるブラケットを有し、
そのインナーチューブ外周面とそのアウターチューブ内周面との間に、軸方向に伸びる複数本の細材が介在しており、各々の細材はアウターチューブ内周面の周方向に沿って間隔をおいて配置されており、アウターチューブ内周面を周方向に観察すると「細材が介在する周方向位置」と「細材が介在しない周方向位置」が繰返して現れ、インナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面が直接に接触することを禁止しており、
そのブラケットは、長さ方向においてはインナーチューブ外周面とアウターチューブ内周面との間に細材が介在している範囲内においてアウターチューブ外周面の一部に固定されており、そのアウターチューブとそのブラケットは、前記細材が介在しない周方向位置で相互に固定されており、前記細材が介在する周方向位置ではアウターチューブ外周面にブラケットが接触していないことを特徴とするエネルギー吸収式ステアリング装置。
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