JP3740714B2 - シロキサン化合物及びその製造方法、並びに硬化性組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はシロキサン化合物及びその製造方法、並びに硬化性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機樹脂にシリル基を導入することにより、塗膜の硬度、耐酸性等の改善が従来より試みられている。更に近年、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン、及びこれらを部分加水分解縮合したオリゴマーを単独でコーティング剤として用いたり、或いはこれらを樹脂と配合して用いることが検討されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、シリル基が導入された有機樹脂では、塗膜の硬度、耐薬品性等の物性が未だ充分ではない。また、アルコキシシラン及びこれらを部分加水分解縮合したオリゴマーのうちケイ素に直結した有機基を有するものは、得られる塗膜の硬度等の物性が充分ではない。これは架橋が充分ではないためと考えられる。一方、有機基が全て酸素原子を介してケイ素と結合しているアルコキシシランであっても、例えばテトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等、従来検討されているものは、やはりいずれも得られる塗膜の硬度、耐薬品性等の物性が充分ではない。これは、加水分解及び縮合の程度を充分上げるに至っていないためと考えられる。有機基が全て酸素原子を介してケイ素と結合しているアルコキシシランのうちテトラメトキシシランはこれらのアルコキシシランのうちでは得られる塗膜の硬度、耐薬品性等の物性は、優れたものとなる。しかしながら、毒性が強く取扱いも困難で危険である上、硬化性組成物とした場合の液は非常にゲル化しやすく保存安定性に問題がある。また、毒性軽減等を目的としてオリゴマーとした場合は樹脂等各種有機成分との相溶性にも問題があり、塗膜とすることさえ困難である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討したところ、特定示性式で表されるシロキサン化合物は、各種成分との相溶性にも優れ、単独或いは他成分と配合して、上記課題を解決しうる極めて有用な硬化性組成物を供すること、またこのシロキサン化合物は各種溶媒中での安定性に非常に優れること、を見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1) 以下の示性式で表されるシロキサン化合物、
【0005】
SiOa(OH)b(OR1)c(OR2)d
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0<c、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)である。R1はメチル基、R2はエチル基、イソプロピル基、ブチル基、1−エトキシ−2−プロピル基、1−メトキシ−2−プロピル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−エトキシエトキシエチル基、及び2−プロポキシエチル基からなる群より選択された基を表す。)
(2) 前記示性式において、0.85≦a≦1.4、0.5≦b≦0.9、0<c、0<d、0.2≦c+d≦1.0であるシロキサン化合物。
(3) Si(OR1)4で示されるアルコキシシランを加水分解縮合して
【0006】
【化4】
(ただしnは2以上8以下の整数)で表されるオリゴマーとし、これにR2OHで表されるアルコールを加えてエステル交換する工程を含むことを特徴とする上記の示性式で表されるシロキサン化合物の製造方法、及び
【0007】
(4) 上記の示性式で表されるシロキサン化合物を、これと相溶性のある化合物と配合してなる硬化性組成物、に存する。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のにおけるシロキサン化合物は、以下の示性式で表されるものである。
【0008】
【化5】
SiOa(OH)b(OR1)c(OR2)d
【0009】
ここで、0.8≦a≦1.6、好ましくは0.85≦a≦1.4である。a<0.8のとき、これを硬化して得られる硬化物は、不透明となり、透明塗膜を得るのには適さない。また、1.6<aのとき、液の粘度が高く不安定でゲル化しやすい。また、塗膜化等の操作が困難となることがある。
0.3≦b≦1.3、好ましくは0.5≦b≦0.9である。b<0.3の場合、これを塗膜化したものは、耐沸騰水性に劣る。すなわち沸騰水中で煮沸を続けると、3時間程度で膜が基板から剥離したり消失する等の現象が見られ、実用化が困難である。1.3<bの場合、これを硬化して得られる硬化物は、不透明となる場合がある。0.5≦b≦0.9の範囲で、特に透明度の高く耐沸騰水性にも優れた塗膜を得ることができる。
【0010】
0.2≦c+d≦1.9、好ましくは0.2≦c+d≦1.0である。c+d<0.2の場合、これを塗膜化したものは、耐沸騰水性が充分でない。1.9<c+dの場合、これを硬化して得られる硬化物は、不透明となりなすい。0.2≦c+d≦1.0で、特に透明度の高く耐沸騰水性にも優れた塗膜を得ることができる。
【0011】
後述するR2がエチル基の場合、1.1≦a≦1.3、0.6≦b≦0.8、0.7≦c+d≦0.9の範囲で、特に液特性、塗膜特性の優れたものとすることができる。
これらの値は、本発明のシロキサン化合物が各種の溶媒中で存在している場合、その溶媒の種類によっても更に好ましい範囲を適宜選択することができる。また、所望の液特性、硬化物の特性により適宜選択すればよい。更に、本発明のシロキサン化合物を他成分と配合して硬化性組成物とする場合は配合する成分や、用いられる用途、塗膜方法等によっても適宜選択すればよい。
【0012】
R1はメチル基である。R 1 がメチル基の場合、特に硬化物の硬度、耐薬品性等の物性に優れる。R2は−OR 1 とエステル交換しうるアルコールの残基であり、具体的にはエチル基、イソプロピル基、ブチル基、1−エトキシ−2−プロピル基、1−メトキシ−2−プロピル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−エトキシエトキシエチル基及び2−プロポキシエチル基等が挙げられる。
【0013】
これらの有機基の種類により反応性や液特性を制御することが可能なので、シロキサン化合物の用途及び目的に応じて適宜選択すればよい。例えば硬化温度、配合する他成分の種類等に応じたものとすればよい。一般に、C数の小さい有機基が硬化速度、硬化物の硬度に優れる傾向にあり、R2がエチル基の場合特にこれらの点に優れる。一方用途、塗工方法によってはあまり硬化速度が大きいことが望ましくないこともあり、また配合成分との相溶性調整の目的で特定の有機基を導入するのがよい場合もある。いずれの場合にも、上記の示性式で表される本発明のシロキサン化合物を好適に用いることができる。
本発明のシロキサン化合物を得るための方法は特に限定されずいずれの方法で得られたものも該当するが、例えば、本発明の製造方法により得ることができる。すなわち、Si(OR1)4で示されるアルコキシシランを加水分解縮合して
【0014】
【化6】
(ただしnは2以上8以下の整数)で表されるオリゴマーとし、これにR2OHで表されるアルコールを加えてエステル交換する工程を含む製造方法により得ることができる。
ここで、Si(OR1)4で示されるアルコキシシランを加水分解縮合して
【0015】
【化7】
(ただしnは2以上8以下の整数)で表されるオリゴマーとするに際しては、公知の方法を採ることができる。
たとえば、Si(OR1)4で示されるアルコキシシランに所定量の水を加えて必要に応じ酸触媒等の存在下に、副生するR1OHを留去しながら加水分解及びこれに引き続く縮合反応を進行させることにより
【0016】
【化8】
(ただしnは2以上8以下の整数)で表されるオリゴマーとなる。この際添加する水の量によりnを変化させることができるので、目的に応じて適宜選択すればよい。なお、こうして得られるオリゴマーは、通常はnの値の異なる化合物の混合物であるが、特に分離する等の手段を採ることは要さず、そのまま以下のエステル交換を行えばよい。
【0017】
次に、こうして得られたオリゴマーに、R2OHで表されるアルコールを加えてエステル交換する。このエステル交換を行う際に、水を存在させておけば、エステル交換の進行と同時にオリゴマーにOH基が生じ、直接本発明のシロキサン化合物を得ることができるので好ましい。あるいは、エステル交換したものを更に加水分解してOH基を付与し、本発明のシロキサン化合物を得ることもできる。
【0018】
ここでR2OHで表されるアルコールの添加量及び水の添加量は、所望のシロキサン化合物の組成により計算することができるが、過剰量であってもさしつかえない。
【0019】
本発明のシロキサン化合物は、このように予めオリゴマーとしたものをエステル交換する製造方法による他、Si(OR1)4で示されるアルコキシシランを加水分解縮合する際に、R2OHで表されるアルコール及び水を存在させることによっても得ることができる。
なお、本発明のシロキサン化合物として、d=0のものを得るには、例えばエステル交換しない溶媒中でのアルコキシシラン及び/又はそのオリゴマーの加水分解を、本発明のシロキサン化合物を得る程度に進行させればよい。
【0020】
このようにして得ることのできる本発明のシロキサン化合物は、各種の有機成分、無機成分との相溶性に優れる。ここで、相溶性とは、外観状均一な一液となり、基板への塗布等の作業に供することができる状態をいい、かならずしもシロキサン化合物が完全に溶解しているものに限られず、コロイド、エマルジョンとして分散している状態をも含むものである。
【0021】
従って、本発明のシロキサン化合物を、これと相溶性のある化合物、すなわち各種の有機、無機成分と配合し、有用な硬化性組成物とすることができる。特に、各種の樹脂成分や、シランカップラー等の有機化合物と配合すれば、有機−無機ハイブリッド組成物を容易に得ることができ、極めて有用である。例えば、基材への塗布、含浸、粉体・粒状物等の表面処理にも好適である。もちろん、本発明のシロキサン化合物を単独で硬化性組成物として用いることもでき、常温硬化でも高硬度のガラス質を得ることができる。本発明のシロキサン化合物は長期にわたり液の粘度を低く抑えることができるため単独で塗膜化用途に用いた場合、膜厚を極めて均一なものとすることができ、スピンコート等の用途にも好適である。なお、これら硬化性組成物には必要に応じて公知の触媒成分を添加し硬化を促進することもできる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により、更に本発明を詳細に説明する。
実施例1
メタノール37重量部にテトラメトキシシラン(Si(OCH3)4で示される)117重量部を溶解し、0.05%塩酸11.1重量部を加えたものを、65℃、2時間加熱し加水分解縮合反応を進行させた後、更に昇温してメタノールと未反応のテトラメトキシシランとを除去した。GPC分析により重合度2〜8のオリゴマーが確認された。水の仕込み量及びガスクロマトグラフィーで測定した生成メタノール量により示性式を求めたところ、いずれもSiO0.8(OCH3)2.4を得た。
【0023】
こうして得られたオリゴマー30.77重量部に対し、エタノール62.4重量部、マレイン酸0.308重量部、水6.519重量部を添加したものを室温下、透明な均一の液状物となるまで攪拌した。
【0024】
この、液状物中のシロキサン化合物の示性式を、以下の方法により求めた。
(1)29Si−NMRにより、Si原子に結合しているO原子の数を求め、下記の示性式(A)における、係数aの値を求める。
(2)13C−NMRのチャートに於けるメタノール、メトキシ基及びエトキシ基の3つのピークの積分比より、下記の示性式(A)における、係数c及びdの値を求める。(反応の前提を、以下の通りとして計算を行った。
【0025】
【化9】
【0026】
(3)b=4−(2a+c+d)より、下記の示性式(A)におけるbの値を求める。
SiOa(OH)b(OCH3)c(OC2H5)d ・・・・・・(A)
シロキサン化合物の示性式におけるa〜dの経時変化を、表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例2〜5
エタノールに代えて、各々プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセトン及びテトラヒドロフランを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。同様の方法で得たシロキサン化合物の示性式におけるa〜dの経時変化を、表2〜5に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
実施例6
実施例1で得た液状物の調液後の時間と、この液状物にガラス基板を浸漬してから3mm/秒で引上げ、150℃で1時間加熱硬化して得られた塗膜の外観及び耐沸騰水性(基板ごと沸騰水中で3時間煮沸した後の膜の様子)を、表6に示す。これら塗膜の鉛筆硬度(JIS K5651に準拠した。以下同じ。)はいずれも9Hであった。
調液後3日後及び5日後の液について、150℃での1時間加熱硬化に代えて室温下に6日放置して硬化した以外は上記の操作と同様の操作を行ったところ、外観透明、鉛筆硬度9Hで耐沸騰水性試験後も透明な塗膜を得た。
【0034】
【表6】
【0035】
実施例7
実施例1で得られた液状物の調液後3日目の液81重量部を、シランカップラー(化学式CH2=CHSi(OCH3)3で示される、信越化学工業(株)製「KBM−1003」)17重量部と混合したところ、均一の液状物とすることができ、相溶性に優れていた。実施例6同様の操作による基板の引上げ及び150℃での1時間加熱硬化を行って得られた透明な塗膜の鉛筆硬度は9Hであった。また5%硫酸を滴下して24時間を経た後も、塗膜の外観に変化は見られず耐薬品性に優れていた。
【0036】
実施例8
実施例1で得られた液状物の調液後3日目の液46重量部を、ヒドロキシ基含有アクリル樹脂53重量部と混合したところ、均一の液状物とすることができ、相溶性に優れていた。これを混合後12時間放置したのち基板に塗布し、150℃で2時間加熱硬化したところ、透明な塗膜を得ることができた。
実施例9
マレイン酸の代わりにアルミニウムアセチルアセトネートを用いた以外は実施例1同様の操作を行った。同様の方法により求めたa〜d及びc+dの値を表7に示す。
【0037】
【表7】
【0038】
比較例1
実施例1で得られた液状物の調液直後のa〜d及びc+dを実施例1同様の方法によりもとめたところ、a=0.8,b=0,c=2.4,d=0 ∴c+d=2.4であった。この液状物を実施例6同様の方法により150℃1時間加熱硬化で塗膜化したところ、塗膜の外観は白化していた。
【0039】
実施例9
実施例1で得られた液状物の調液直後8日目の液を用い、3000rpmでスピンコートした。400℃でベーク後の膜厚平均値は4020Åで、膜厚均一性は±1.4%と均一性に優れていた。
【0040】
比較例2
実施例1で得られた液状物の調液直後60日後の液を用い、実施例1同様の方法によりaの値を求めたところ、a=1.7であった。液は粘度が高く流動性が低く、実施例9同様の方法で得られた膜は膜厚平均値が4900Å、膜厚均一性は±4.2%と均一性に劣っていた。
【0041】
【発明の効果】
各種成分との相溶性、各種溶媒中での安定性に優れ、単独或いは他成分と配合して極めて有用な硬化性組成物を供することのできる新規なシロキサン化合物を得る。
Claims (4)
- 以下の示性式で表されるシロキサン化合物。
SiOa(OH)b(OR1)c(OR2)d
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0<c、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)である。R1はメチル基、R2はエチル基、イソプロピル基、ブチル基、1−エトキシ−2−プロピル基、1−メトキシ−2−プロピル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−エトキシエトキシエチル基、及び2−プロポキシエチル基からなる群より選択された基を表す。) - 前記示性式において、0.85≦a≦1.4、0.5≦b≦0.9、0<c、0<d、0.2≦c+d≦1.0であることを特徴とする請求項1記載のシロキサン化合物。
- 請求項1または2記載のシロキサン化合物を、これと相溶性のある化合物と配合してなる硬化性組成物。
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1995
- 1995-06-23 JP JP15789795A patent/JP3740714B2/ja not_active Expired - Lifetime
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