JP3737232B2 - 空気静圧スピンドルの安全装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主軸に空気静圧スピンドルを用いた工作機械に係り、特に、回転中の主軸が加工開始位置を越えて前進しすぎた場合に発生する主軸の破損事故を確実に防止できるようにした空気静圧スピンドルの安全装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高精度、高速回転が要求される精密工作機械の主軸では、その軸受に空気静圧軸受が採用されているものがある。空気静圧軸受は、非接触であるから他の形式の軸受に較べて滑らかな回転を実現することができ、また、高速回転時の発熱も少ないなど、優れた特性を有している。他方、空気静圧軸受は、軸受隙間に介在する空気膜によって軸を支持するものであるから、起動時の安全性確保に特別の配慮が必要とされる。
【0003】
この種の空気静圧軸受により支持された主軸では、衝突、クラッシュ等により過大な力が衝撃的に加わると、空気膜で支えきれずに軸受面にメタル接触現象が発生し、重大な事故につながることがある。
【0004】
図4は、空気静圧スピンドルが採用されている研削盤のワーク軸1の空気静圧スラスト軸受を示す。軸受隙間eは、15μmほどのごく狭い隙間である。したがって、研削盤の場合、この空気静圧スピンドルの先端でワークを保持し、回転しながら加工開始位置まで前進させる場合、スピンドルが砥石に衝突しないようにする必要がある。
【0005】
従来、NC制御の研削盤では、加工開始位置の直前の位置でワーク軸、砥石軸の回転が規定の回転数に到達するのを待ってから、加工開始位置まで前進させるというように、位置制御により衝突を防止していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、NC位置制御により衝突を防止する場合、NCデータの入力ミスがあった場合や、減耗した砥石を新しい砥石に交換したような時に、加工開始位置を越えてワークを前進させてしまうようなことがしばしば起こり、スピンドルの破損事故にまで発展してしまうことがあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、回転中のスピンドルに衝撃が加わり、空気静圧軸受にメタル接触によるカジリが生じるのを確実に防止し、破損に対するスピンドルの安全性を高めることを可能とする空気静圧スピンドルの安全装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、空気静圧軸受により支持された主軸を有し、前記主軸に取り付けられた工作物または工具を前記主軸の軸方向に送るようにした工作機械において、前記主軸をスラスト方向の過大荷重から保護する空気静圧スピンドルの安全装置であって、前記工作物が加工開始位置に接近するにしたがって段階的に送り速度を減速させる送り速度切替手段と、前記工作物が、工作物と工具との間にエアカット量を見込んだ加工開始位置に到達したときに前記主軸を起動する回転起動手段と、前記主軸を回転駆動するモータの発生する起動トルクを起動開始から指令回転数に到達する間、無負荷状態の低トルクに制限する起動トルク制限手段と、を具備することを特徴とするものである。
【0009】
このように構成される本発明によれば、工作物が加工開始位置に近付くにしたがって、工作物の送り速度を大きく段階的に減速することにより、工具との衝突による過大なスラスト荷重を受けないようにすることができる。また、主軸が起動すると、起動トルクが無負荷状態に制限されているため、スラスト荷重が作用していると、実際にワーク軸は回転することができない。空気静圧軸受の場合、非回転状態でスラスト荷重が作用する分には、メタル接触によりかじりのような現象は生じないので、破損を回避することが可能となる。
【0010】
この安全装置の好適な実施形態によれば、主軸の回転数を検出し、前記主軸起動後の所定時間内に主軸の回転数が指令回転数に到達したか否かを判別する主軸回転数判別手段と、指令回転数に到達しない場合に警報を発する警報手段とを具備し、スラスト荷重が作用した場合には警報が発せられるようになっている。
【0011】
本発明の安全装置は、ワーク軸に空気静圧スピンドルを採用した研削盤に適用することができ、その場合、加工開始位置に送られた工作物が所定のエアカット量を見込んで砥石軸の砥石に接触するようにするとよい。この研削盤の場合、前記回転起動手段は、ワーク軸が指令回転数に到達した後、砥石軸の回転を起動することが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による空気静圧スピンドルの安全装置の一実施形態について添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明を研削盤に適用した実施形態を示す。10は空気静圧軸受により主軸を支持した空気静圧スピンドルが採用されているワーク軸、12は砥石軸を示す。ワークWは、ワーク軸10の先端部に真空チャック13、ワーク治具14を介して保持されるものである。ワーク軸10は移動台27に取り付けられており、この移動台27はサーボモータ15により駆動されるボールねじ25によって軸方向に送られるようになっている。ワークWの位置は、位置検出器11からNC制御装置20にフィードバックされ、x軸を送り軸として数値制御されるようになっている。砥石軸12では、駆動モータ16により駆動される回転軸の先端に砥石17としてダイヤモンド砥石が取り付けられている。
【0013】
NC制御装置20は、ワークWについての加工プログラム18に基づいて、ワークWの送り量、送り速度、ワーク軸10の回転数および砥石軸12の回転数を制御し、そのNC指令に基づいて、ワークWの前進、ワーク軸10の回転、砥石軸の回転,ワークWの後退といった一連の動作が自動で行われる。
【0014】
この実施形態では、ワークWが加工開始位置まで前進したときに砥石17に衝突しないように、また、誤って衝突した場合もワーク軸10に過大なスラスト過重が加わって、ワーク軸10または砥石軸12の空気静圧軸受が破損しないように保護するため、NC制御装置20は、ワークWが加工開始位置に接近するにしたがって段階的に送り速度を減速させる送り速度切替手段としての機能と、ワークWが前記加工開始位置に到達したときにワーク軸10を起動する回転起動手段としての機能を有している。
【0015】
また、ワーク軸10を回転駆動するモータのトルクの上限は、トルク制限装置22によって設定することができるようになっている。NC制御装置20は、加工プログラム18で指定された設定値に基づき、加工開始位置にワークWが到達したときの起動トルクを、起動直後の所定時間の間、無負荷状態の低トルクに制限することができる。
【0016】
また、NC制御装置20は、起動した後のワーク軸10の回転数をエンコーダ23の出力信号から検出し、ワーク軸10起動後の所定時間内にワーク軸10の回転数が指令回転数に到達したか否かを判別する。もし指令回転数に到達していなかったら、警報装置24に警報信号を出力し、これにより警報が発せられるようになっている。
【0017】
次に、図2を参照しながら、本実施形態の安全装置の動作について、詳細に説明する。
【0018】
図2において、AはワークWの加工量であり、この場合、表面の粗さのバラツキ等を考慮し、加工量Aにエアカット量Bを見込んでいる。例えば、加工量Aが50μmの場合、エアカット量Bは6μmに設定されている。
Eは加工終了位置であり、ワークWが加工終了位置Eまで削られると、ワークWの研削が終了するようになっている。
【0019】
機械原点からX軸座標をとると、前進途中のa点、b点は、x軸の送り速度が切り替わる位置である。この実施形態の場合、a点は、加工開始位置cから4.06mm手前の位置であり、ワークWは、a点までは1500mm/minの送り速度で送られた後、a点で90mm/minに減速される。b点は、加工開始位置cの直前の位置で、a点からb点までは4mmの距離である。このb点から送り速度は、さらに0.6mm/minに大きく減速される。加工開始位置cに到達すると、ワークWは砥石17に接触し、送り速度0.04mm/minで送られながら切削される。
【0020】
ここで、図3は、加工開始位置cに到達した後のワーク軸10の回転数とそのトルクならびに砥石軸12の回転数の変化を示すタイムチャートである。
【0021】
ワークWが加工開始位置cに到達すると、トルク制限装置22が作動し、図3(b)に示すように、モータの起動トルクは、無負荷状態に近い最低の設定値T0以上にならないように制限される。そして起動トルクが制限された状態で、ワーク軸10が起動し、回転を始める。このとき、ワークWの位置が加工開始位置cに正確に位置していれば、砥石17からワークWに加わる圧力はほとんど零であるため、図3(a)に示すように、ワーク軸10の回転数は上昇していき、所定時間t1経過後、指令回転数R1に到達する。NC制御装置20は、指令回転数に到達したことを検知してから、砥石軸12を起動する(図3(c))。その後、砥石軸12の回転数が指令値R2に到達したら、x軸の送りを前述した送り速度で開始し、ワークWの研削が行われる。
【0022】
これに対して、図2において、ワークWが加工開始位置cよりもさらにΔxだけ前の位置dに前進しすぎたような場合には、この位置dでは、ワークWには砥石17からスラスト荷重を受ける。この状態で、ワーク軸10が起動すると、起動トルクが無負荷状態T0に制限されているため、実際にワーク軸10は回転することができない。他方、ワーク軸10の空気静圧軸受には非回転状態でスラスト荷重が作用する分には、メタル接触によりかじりのような現象は生じないので、破損を回避することが可能となる。
【0023】
このようにワーク軸10は、回転できないため、所定時間経過後も、回転数は指令回転数R1に到達しない。NC制御装置20は、ワーク軸10が指令回転数R1に到達しないことを判別して、警報器24に警報信号を出力する。この警報により、オペレータは、ワーク軸10の指令位置に誤差があったことが知らされるので、事故に発展する前に機械を停止することができる。
【0024】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、送り速度を減速しながら工作物が工作物と工具との間にエアカット量を見込んだ加工開始位置に到達後、主軸が起動されるとともに、起動トルクが無負荷状態に制限される。これにより、実際に主軸にスラスト荷重が作用すると主軸は回転することができないため、空気静圧軸受にはメタル接触によるかじりのような現象が発生することがなく、確実に破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を研削盤に適用した一実施形態を示す構成説明図。
【図2】研削盤のワーク軸の位置の変化を説明する図。
【図3】ワーク軸の回転数、起動トルクならびに砥石軸の回転数の変化を示すタイムチャート。
【図4】主軸のスラスト荷重を支持する空気静圧軸受を示す模式図。
【符号の説明】
10 ワーク軸
12 砥石軸
13 真空チャック
14 ワーク治具
17 砥石
18 加工プログラム
20 NC制御装置
22 トルク制限装置
24 警報器
27 移動台
Claims (4)
- 空気静圧軸受により支持された主軸を有し、前記主軸に取り付けられた工作物または工具を前記主軸の軸方向に送るようにした工作機械において、前記主軸をスラスト方向の過大荷重から保護する空気静圧スピンドルの安全装置であって、
前記工作物が、工作物と工具との間にエアカット量を見込んだ加工開始位置に接近するにしたがって段階的に送り速度を減速させる送り速度切替手段と、
前記工作物が前記加工開始位置に到達したときに前記主軸を起動する回転起動手段と、
前記主軸を回転駆動するモータの発生する起動トルクを起動開始から指令回転数に到達する間、無負荷状態の低トルクに制限する起動トルク制限手段と、
を具備することを特徴とする空気静圧スピンドルの安全装置。 - 主軸の回転数を検出し、前記主軸起動後の所定時間内に主軸の回転数が指令回転数に到達したか否かを判別する主軸回転数判別手段と、
指令回転数に到達しない場合に警報を発する警報手段とを具備することを特徴とする請求項1に記載の空気静圧スピンドルの安全装置。 - 前記主軸は研削盤のワーク軸であり、加工開始位置に送られた工作物が所定のエアカット量を見込んで砥石軸の砥石に接触するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の空気静圧スピンドルの安全装置。
- 前記回転起動手段は、ワーク軸が指令回転数に到達した後、砥石軸の回転を起動することを特徴とする請求項3に記載の空気静圧スピンドルの安全装置。
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- 1997-02-05 JP JP02286497A patent/JP3737232B2/ja not_active Expired - Fee Related
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