JP3736717B2 - 高強度鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学組成がマルテンサイト系ステンレス鋼に類似している高強度鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から様々な産業分野でマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。このマルテンサイト系ステンレス鋼としては、一般に、SUS420J2やSUS440C系(JIS規格)などが使用されている。このようなマルテンサイト系ステンレス鋼は、通常、焼入れ・焼戻しして使用される。マルテンサイト系ステンレス鋼を焼入れするに当っては、電気炉を用いて焼入温度に加熱して急冷する。これにより高い硬さと高強度を有するマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、電気炉を用いて加熱しているので、熱処理に長時間かかる。また、この長時間の熱処理に起因して鋼部品の変形が大きくなり易い。さらに、マルテンサイト系ステンレス鋼では、例えばSUS440Cのオーステナイト化温度幅が1150〜1200℃であるなど、そのオーステナイト化温度幅が狭く、しかも、上記したように熱処理時間が長いので、残留オーステナイトが急に増加したりする。このため、実用的には安定した品質を確保しにくいという問題がある。なお、電気炉による熱処理は一般にバッチ処理であるため、インライン化が困難であるという問題もある。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、短時間の熱処理で高強度鋼を得られる高強度鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の高強度鋼の製造方法は、Cを0.60重量%以上0.70重量%以下、Siを0.35重量%以下、Mnを0.60重量%以上0.80重量%以下、Crを12.50重量%以上13.50重量%以下含有し、残部Fe、及び、不可避的不純物からなる鋼を、この鋼に通電することにより焼入温度に加熱し、冷却することを特徴とするものである。
【0006】
ここで、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、この鋼の表面層のみをこの焼入温度に加熱してもよい。
【0007】
また、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、この鋼の全体をこの焼入温度に加熱してもよい。
【0008】
さらに、上記鋼に通電するに当り、この鋼を誘導加熱することによりこの鋼に通電してもよい。
【0009】
さらにまた、上記鋼に通電するに当り、この鋼に電極を接触させて通電してもよい。
【0010】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、1000℃以上1100℃以下の範囲内の温度に加熱してもよい。
【0011】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度で焼入温度まで加熱してもよい。
【0012】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、50℃/秒以上200℃/秒以下の範囲内の加熱速度で焼入温度まで加熱してもよい。
【0013】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内の焼入温度に加熱し、この加熱した直後に冷却してもよい。
【0014】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内の焼入温度に加熱し、この焼入温度に所定時間保持した後に冷却してもよい。
【0015】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内のオーステナイト化温度に加熱し、この加熱後に所定の焼入温度まで放冷し、この放冷後に急冷してもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の高強度鋼の化学組成を、SUS440C鋼(JIS規格)の化学組成と比較して表1に示す。本発明の高強度鋼の化学組成を有し、後述する熱処理が施される前の鋼を、ここでは本発明鋼と呼ぶ。
【0018】
【表1】
表1に示すように、本発明の高強度鋼はSUS440C鋼に比べてC量が低く、Si量も低い点に特徴がある。また、Mn量を0.60〜0.80重量%の範囲内に限定した点にも特徴がある。さらに、NiとMoを添加せずに、Cr量を12.50〜13.50重量%の範囲内に限定した点にも特徴がある。
【0019】
このように化学成分を限定した理由を説明する。
【0020】
Cは、高周波焼入れしたときの硬さを高くし、焼入層に強度や耐摩耗性を付与するために必要な元素であり、このため、0.60重量%以上添加した。しかし、Cの添加量が多くなり過ぎると素地の炭化物粒径が大きくなり、高周波熱処理の際の短時間加熱によっては素地に炭化物が十分に固溶しない。この結果、高周波焼入れの際に素地のC濃度が高くならずに低いままであるので、オーステナイト化温度は低下せず、焼入性が低下する。また、炭化物粒径が大きくなると機械加工性も低下する。さらに、Cの添加量が、0.60重量%以上0.70重量%以下の範囲内であると素地に微細な炭化物が十分に分布し、高周波熱処理の際の短時間・急速加熱によっても微細な炭化物が素地に十分に固溶してオーステナイト化温度が低下する。以上のような理由から、Cの含有量を0.70重量%以下とした。
【0021】
Siは、製鋼過程において脱酸剤として添加されるが、添加し過ぎると素地が固溶強化されて冷間鍛造性や切削加工性を低下させるので、0.35重量%以下とした。
【0022】
Mnは、焼入性を向上させる元素であるので、下限を0.60重量%とした。しかし、添加し過ぎると機械加工性を低下させるだけでなく、焼入れ後の残留オーステナイトが増加して硬度が低下し、しかも、素材コストが増加する。このため、上限を0.80重量%とした。
【0023】
Crは、耐食性を向上させるために必要な元素であるので、下限を12.50重量%とした。しかし、添加量が増加すると炭化物が大きくなり、高周波熱処理の際の短時間加熱によっては素地に炭化物が十分に固溶せず、高周波焼入性が低下する。また、添加量が増加すると、その分、素材コストも増加する。このため、上限を13.50重量%とした。
【0024】
なお、不可避的な不純物元素以外は材料コストを増加させるので、上記した元素以外の元素は積極的には添加しないこととした。
【0025】
本発明鋼のオーステナイト化温度は、1000℃以上1100℃以下の温度範囲内である。一方、SUS440C鋼のオーステナイト化温度は、1150℃以上1200℃以下の温度範囲内である。従って、本発明鋼のオーステナイト化温度はSUS440C鋼のそれに比べて低い。しかも、本発明鋼では、オーステナイト化温度幅が100℃であり、SUS440C鋼のオーステナイト化温度幅(50℃)に比べると2倍である。このため、熱処理し易く、熱処理する際のエネルギーコストも低くできる。また、オーステナイト化温度、即ち焼入温度が低いので、その分、変形を抑えられることとなる。
【0026】
図1、図2、及び図3を参照して、本発明鋼の熱処理方法を説明する。
【0027】
図1は、本発明鋼を焼入温度に加熱した直後に急冷する熱処理を示すグラフである。図2は、本発明鋼を焼入温度に加熱した後にこの焼入温度で所定時間保持し、その後に急冷する熱処理を示すグラフである。図3は、本発明鋼を焼入温度に加熱した後に所定の温度まで放冷し、その後に急冷する熱処理を示すグラフである。
【0028】
上述したように、本発明鋼のオーステナイト化温度は1000℃以上1100℃以下の温度範囲内であるので、焼入温度Qtは1000℃以上1100℃以下の温度範囲内である。また、本発明鋼を焼入温度にまで加熱する際には、高周波誘導加熱を利用してもよいし、本発明鋼に電極を接触させてて直接に電流を通しても(直接通電しても)よい。また、本発明鋼を用いて製造した鋼部品のサイズや用途等に応じて、この鋼部品の表面層のみを焼入温度に加熱して硬化させるのか、もしくは、この鋼部品の全体を焼入温度に加熱して硬化させるのかを決める。
【0029】
図1に示す熱処理では、本発明鋼を室温Rtから焼入温度Qtに加熱した直後に急冷する。室温Rtから焼入温度Qtまで加熱する速度は、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度とする。加熱速度は、(Qt−Rt)/t1から求める。この求め方は、図2と図3で示す熱処理の場合も同様である。急冷する際は、本発明鋼に冷却液を噴射して急冷する。
【0030】
図2に示す熱処理では、本発明鋼を室温Rtから焼入温度Qtに加熱した後にこの焼入温度に所定時間(t2秒間)保持し、その後に急冷する。このように焼入温度に所定時間保持する理由は、保持時間に依存して焼入後の本発明鋼の硬さが変わるからである。この点については、図11を参照して後述する。また、室温Rtから焼入温度Qtまで加熱する速度は、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度とする。急冷する際は、本発明鋼に冷却液を噴射して急冷する。
【0031】
図3に示す熱処理では、本発明鋼をオーステナイト化温度Mtに加熱した後に所定の焼入温度Qtまでt3秒間で放冷し、その後に急冷する。ここでは、移動焼入れを行ったので、本発明鋼が加熱コイルを通過してから冷却ジャケットに到達するまでにt3秒を要し、この間(t3秒間)が放冷となった。また、室温Rtからオーステナイト化温度M tまで加熱する速度は、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度とする。急冷する際は、本発明鋼に冷却液を噴射して急冷する。
【0032】
上述したように、本発明鋼は、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度で急速加熱できる。一方、SUS440C鋼を室温から焼入温度までに加熱する速度は、10℃/秒以上50℃/秒以下の範囲内の加熱速度である。従って、本発明鋼は、SUS440C鋼に用いられない50℃/秒を超える加熱速度で加熱できることとなる。このため、本発明鋼を用いて誘導加熱もしくは直接通電すると、短時間の熱処理で高強度鋼を得られることとなる。
【0033】
また、電気炉を使って本発明鋼を熱処理する場合、焼入温度までの加熱速度は非常に遅く、このため、変形も大きくなり易い。しかし、図1から図3までに示す熱処理では、本発明鋼が急速に焼入温度まで加熱されるので、変形を低減できる。なお、目的とする硬さによっては焼入温度から放冷してもよく、これにより変形をいっそう抑えられる。
【0034】
図4から図14までを参照して、本発明鋼を熱処理して得られた高強度鋼の機械的性質を説明する。表2に、以下の実験で使用した本発明鋼の化学組成を示す。なお、表2には、比較例として使用したSUS440C鋼(JIS規格)の化学組成も示す。
【0035】
【表2】
先ず、図4を参照して、本発明鋼を熱処理して得られた高強度鋼の硬さ及び残留オーステナイト量に及ぼす焼入温度及び加熱速度の影響について説明する。
【0036】
図4は、本発明鋼を熱処理した後の硬さ及び残留オーステナイト量に及ぼす焼入温度(ここでは、オーステナイト化温度)及び加熱速度の影響を表わすグラフである。
【0037】
ここでは本発明鋼を、図1に示す方法で熱処理し、本発明鋼の表面層を焼入温度に加熱した直後に急冷した。図4の上半分は表面の残留オーステナイト量と焼入温度との関係を表わし、下半分は表面のビッカース硬さと焼入温度との関係を表わす。この図の横軸はオーステナイト化温度を表わし、上の辺には「℃」の目盛が刻まれており、下の辺には「K」の目盛が刻まれている。また、この図の縦軸は、上半分が残留オーステナイト量を表わし、下半分がビッカース硬さ(300g)を表わす。図中の黒丸(●)は、本発明鋼を1℃/秒の加熱速度で室温から焼入温度まで加熱したものを表わし、三角形(△)は、50℃/秒の加熱速度で室温から焼入温度まで加熱したものを表わし、白丸(○)は、200℃/秒の加熱速度で室温から焼入温度まで加熱したものを表わす。また、図中の逆三角形(▽)は、SUS440C鋼を200℃/秒の加熱速度で室温から焼入温度まで加熱した場合の比較データである。なお、残留オーステナイト量の測定は、周知のX線回折法で行った。
【0038】
図4に示すように、本発明鋼を1℃/秒という遅い加熱速度で加熱した場合は、焼入温度が約1050℃を超えると残留オーステナイト量が急激に増加し、硬さが低下する。一方、本発明鋼を50℃/秒の加熱速度で加熱した場合は、焼入温度が約1100℃に近付くと残留オーステナイト量が増加するものの、加熱速度が1℃/秒の場合の半分程度である。本発明鋼を200℃/秒の加熱速度で加熱した場合は、焼入温度が1000℃以上1100℃以下の範囲内では、残留オーステナイト量が少なく、十分な硬さを得られた。なお、SUS440C鋼を200℃/秒の加熱速度で加熱した場合、高い硬さが得られる焼入温度は1150〜1200℃の範囲内になったが、その最高硬さは本発明鋼の最高硬さよりも低かった。
【0039】
従って、上記の実験から、短時間の熱処理という点を考慮すると、本発明鋼を50℃/秒以上の加熱速度で加熱することが好ましいといえる。
【0040】
図5を参照して、本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さを得られるオーステナイト化温度との関係を説明する。
【0041】
図5は、本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さを得られるオーステナイト化温度との関係を示すグラフである。
【0042】
ここでは本発明鋼を、図1に示す方法で熱処理し、本発明鋼の表面層を焼入温度に加熱した直後に急冷した。図5の横軸は加熱速度(K/秒)を表わす。また、縦軸はオーステナイト化温度を表わし、右には「℃」の目盛が刻まれており、左には「K」の目盛が刻まれている。図中の白丸(○)は、炭化物の球状化が施された本発明鋼を試験片とした場合であり、図中の黒丸(●)は、炭化物の球状化が施されていない本発明鋼を試験片とした場合である。また、図中の逆三角形(▽)は、SUS440C鋼を試験片とした場合である。なお、残留オーステナイト量の測定は、周知のX線回折法で行った。
【0043】
図5に示すように、炭化物の球状化が施された本発明鋼では、加熱速度が速くなるほど、最高硬さを得られるオーステナイト化温度が高くなった。また、炭化物の球状化が施されていない本発明鋼では、加熱速度が約50K/秒までは、最高硬さを得られるオーステナイト化温度は一定であるが、加熱速度が約50K/秒を超えると、加熱速度が速くなるほど、最高硬さを得られるオーステナイト化温度が高くなった。なお、SUS440C鋼では、最高硬さを得られるオーステナイト化温度は、本発明鋼の場合よりも高い。従って、本発明鋼とSUS440C鋼に最高硬さを得る熱処理を施した場合、本発明鋼のほうがSUS440C鋼よりも変形が少ないと考えられる。
【0044】
図6を参照して、本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さとの関係を説明する。
【0045】
図6は、本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さとの関係を示すグラフである。
【0046】
ここでは本発明鋼を、図1に示す方法で熱処理し、本発明鋼の表面層を焼入温度に加熱した直後に急冷した。図5の横軸は加熱速度(K/秒)を表わし、縦軸は最高硬さ(HV300g)を表わす。図中の白丸(○)は、炭化物の球状化が施された本発明鋼を試験片とした場合であり、図中の黒丸(●)は、炭化物の球状化が施されていない本発明鋼を試験片とした場合である。また、図中の逆三角形(▽)は、SUS440C鋼を試験片とした場合である。
【0047】
図6に示すように、炭化物の球状化が施された本発明鋼では、加熱速度によらず、最高硬さはほぼ一定のHV740前後であった。また、炭化物の球状化が施されていない本発明鋼では、加熱速度が約60K/秒までは、最高硬さが少しずつ高くなったが、加熱速度が約60K/秒を超えると、加熱速度が速くなるほど、最高硬さが急激に低くなった。なお、SUS440C鋼の最高硬さは、どの加熱速度でも本発明鋼の最高硬さよりも低い。
【0048】
次に、図7、図8を参照して、本発明鋼の疲労試験の結果をSUS440C鋼の疲労試験結果と比較して説明する。ここでは、周知の小野式回転曲げ疲労試験機を用いて疲労試験をした。
【0049】
図7は、本発明鋼とSUS440C鋼の疲労試験結果を比較して示すグラフであり、横軸は繰返し回数を表わし、縦軸は振幅応力(N/mm2 )を表わす。図8は、この疲労試験で用いた試験片の熱処理方法を示すグラフであり、オーステナイト化温度(焼入温度)までの加熱速度は50℃/秒とした。なお、この疲労試験に用いた試験片の全長は280mm、平行部の直径は12mm、両端のチャック部の直径は25mmである。
【0050】
試験片を高周波焼入れするに当っては、周波数を80kHzとして18秒間で焼入温度まで加熱し、0.5秒間放冷した後、冷却水を12秒間噴射して焼入れした。その後、電気炉を用いて180℃で1時間の焼戻しをした。
【0051】
図中の白丸(○)は、焼入温度を1000℃にした本発明鋼の疲労試験結果を表わし、白三角形(△)は、焼入温度を1050℃にした本発明鋼の疲労試験結果を表わし、白四角形(□)は、焼入温度を1100℃にした本発明鋼の疲労試験結果を表わす。一方、図中の黒丸(●)は、焼入温度を1050℃にしたSUS440C鋼の疲労試験結果を表わし、黒三角形(▲)は、焼入温度を1100℃にしたSUS440C鋼の疲労試験結果を表わし、黒四角形(■)は、焼入温度を1150℃にしたSUS440C鋼の疲労試験結果を表わす。
【0052】
図7に示すように、本発明鋼とSUS440C鋼の疲労強度を比較した場合、平均して本発明鋼の方が優れている。この実験では、1050℃で焼入れした本発明鋼の疲労強度が最も優れていた。この実験結果から、優れた疲労強度を得たい場合は、本発明鋼を1050℃で焼入れるのが好ましいことが判明した。
【0053】
図9を参照して、本発明鋼の摩耗試験の結果をSUS440C鋼の摩耗試験結果と比較して説明する。ここでは、周知の西原式摩耗試験機を用いて圧縮荷重250kgf、回転数720rpmで摩耗試験をした。なお、摩耗試験に用いた試験片はリング状のものであり、外径30mm、内径16mm、厚さ8mmである。
【0054】
図9は、本発明鋼とSUS440C鋼の摩耗試験結果を比較して示すグラフであり、横軸は摩耗距離(m)を表わし、縦軸は摩耗減量(mg)を表わす。図10は、この摩耗試験で用いた試験片の熱処理方法を示すグラフであり、オーステナイト化温度(焼入温度)までの加熱速度は50℃/秒とした。
【0055】
試験片を高周波焼入れするに当っては、周波数を80kHzとして18秒間で焼入温度まで加熱し、0.5秒間放冷した後、冷却水を8秒間噴射して焼入れした。その後、電気炉を用いて180℃で1時間の焼戻しをした。
【0056】
図中の白丸(○)は、焼入温度を1000℃にした本発明鋼の摩耗試験結果を表わし、白三角形(△)は、焼入温度を1050℃にした本発明鋼の摩耗試験結果を表わす。一方、図中の黒丸(●)は、焼入温度を1050℃にしたSUS440C鋼の摩耗試験結果を表わし、黒三角形(▲)は、焼入温度を1100℃にしたSUS440C鋼の摩耗試験結果を表わす。
【0057】
図9に示すように、本発明鋼とSUS440C鋼の耐摩耗性を比較した場合、焼入温度にもよるが、両者ともにほぼ同程度の耐摩耗性を有している。この実験では、1000℃で焼入れした本発明鋼と1050℃で焼入れしたSUS440C鋼の耐摩耗性がほぼ同程度のものであり、また、1050℃で焼入れした本発明鋼と1100℃で焼入れしたSUS440C鋼の耐摩耗性がほぼ同程度のものであった。この実験結果から、本発明鋼の耐摩耗性を高めたい場合は、本発明鋼を1050℃で焼入れるのが好ましいことが判明した。
【0058】
図11を参照して、図2に示すヒートパターンで本発明鋼を熱処理したときの保持時間と硬さの関係を説明する。
【0059】
図11は、図2に示すヒートパターンで本発明鋼を熱処理したときの保持時間と硬さの関係を示すグラフであり、横軸は保持時間(秒)を表わし、縦軸はビッカース硬さを表わす。この実験では、焼入温度を1050℃とし、室温から焼入温度までの加熱速度を50℃/秒とした。
【0060】
図11に示すように、焼入温度に保持する保持時間が長くなるほど、高い硬さが得られた。この実験結果から、目的に応じて本発明鋼の硬さを変えたい場合は、焼入温度に保持する保持時間を変更すればよいことが判明した。
【0061】
図12から図14を参照して、本発明鋼及びSUS440C鋼を高周波焼入れした場合と炉加熱焼入れした場合の疲労試験結果及び摩耗試験結果を比較して説明する。
【0062】
図12は、疲労試験結果を示すグラフであり、図13は疲労試験片の表面残留応力を示すグラフである。図14は、摩耗試験結果を示すグラフである。
【0063】
高周波焼入れでは、80kHz、200kWで誘導加熱して急冷した。また、炉加熱焼入れでは真空炉を用いて加熱して急冷した。両者ともに焼入後、電気炉で焼戻し(180°×1時間)をして試験片とした。疲労試験では、小野式回転曲げ疲労試験機(294N・m、3000rpm)を用いて行い、S−N線図を作成した。また、残留応力は、微小部X線応力測定装置(リガク製、PSPCシステム)を用いて測定した。摩耗試験では、西原式摩耗試験機(圧縮荷重2450N、すべり度9%(720rpm)、大気中、潤滑有り(タービン油)、相手材SUJ2)を用いて行い、摩耗減量曲線を求めた。
【0064】
図12に示すように、疲れ限度は、本発明鋼を高周波焼入れしたときが約920N/mm2 で最も高く、次に、本発明鋼を炉加熱焼入れしたときが約850N/mm2となった。SUS鋼の疲れ限度は、炉加熱焼入れしたときが約825N/mm2となり、高周波焼入れしたときが約810N/mm2 となった。
【0065】
本発明鋼とSUS440C鋼の表面圧縮残留応力を比較すると、図13に示すように、本発明鋼を高周波焼入れしたときの表面圧縮残留応力が最も大きい。これが、本発明鋼を高周波焼入れしたときの疲れ限度が高い理由の一つと考えられる。
【0066】
また、摩耗試験結果では、図14に示すように、上記したいずれの試験片の摩耗量も少なく、鋼材や熱処理方法による顕著な差はみられなかった。
【0067】
以上説明したように、高周波誘導加熱などを利用して本発明鋼を熱処理すると、短時間で本発明鋼を高強度鋼にすることができる。また、焼入温度やこの焼入温度に保持する時間を変更することにより本発明鋼の耐摩耗性や硬さが変わるので、熱処理条件を適宜に選択することにより、本発明鋼を、目的に合った特性を有する高強度鋼にすることができる。
【0068】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の高強度鋼の製造方法によれば、所定の化学組成の鋼に通電してこの鋼を焼入温度に加熱し、この加熱された鋼を冷却して高強度鋼を製造するので、電気炉を使用して加熱する場合に比べて短時間の熱処理で製造できる。
【0069】
ここで、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、この鋼の表面層のみをこの焼入温度に加熱する場合は、表面層が硬くて内部は靭性に富んだ高強度鋼を得られる。
【0070】
また、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、この鋼の全体をこの焼入温度に加熱する場合は、全体が硬い高強度鋼を得られる。
【0071】
さらに、上記鋼に通電するに当り、この鋼を誘導加熱することによりこの鋼に通電する場合は、短時間で迅速に加熱できるので、熱処理時間が短くて変形の少ない高強度鋼を製造できる。
【0072】
さらにまた、上記鋼に通電するに当り、この鋼に電極を接触させて通電する場合も、短時間で迅速に加熱できるので、熱処理時間が短くて変形の少ない高強度鋼を製造できる。
【0073】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、1000℃以上1100℃以下の範囲内の温度に加熱する場合は、SUS440Cなどのマルテンサイト系ステンレス鋼に比べて焼入温度が低いので、熱処理し易く、また、熱処理する際のエネルギーコストの低い高強度鋼を製造できる。
【0074】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、10℃/秒以上250℃/秒以下の範囲内の加熱速度で焼入温度まで加熱する場合は、短時間で迅速に加熱されるので、熱処理時間が短くて変形の少ない高強度鋼を製造できる。
【0075】
さらにまた、上記鋼を焼入温度に加熱するに当り、50℃/秒以上200℃/秒以下の範囲内の加熱速度で焼入温度まで加熱する場合は、いっそう短時間で迅速に加熱されるので、熱処理時間が短くて変形のさらに少ない高強度鋼を製造できる。
【0076】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内の焼入温度に加熱し、この加熱した直後に冷却する場合は、加熱の直後に冷却されるので、熱処理時間が短くて済む。
【0077】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内の焼入温度に加熱し、この焼入温度に所定時間保持した後に冷却する場合は、焼入温度に保持する時間を変更するだけで硬さの異なる高強度鋼を製造できる。
【0078】
さらにまた、上記鋼を1000℃以上1100℃以下の範囲内のオーステナイト化温度に加熱し、この加熱後に所定の焼入温度まで放冷し、この放冷後に急冷する場合は、放冷するので、その分、変形を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明鋼を焼入温度に加熱した直後に急冷する熱処理を模式的に示すグラフである。
【図2】本発明鋼を焼入温度に加熱した後にこの焼入温度で所定時間保持し、その後に急冷する熱処理を模式的に示すグラフである。
【図3】本発明鋼を焼入温度に加熱した後に所定の温度まで放冷し、その後に急冷する熱処理を模式的に示すグラフである。
【図4】本発明鋼の熱処理後の硬さ及び残留オーステナイト量に及ぼす焼入温度及び加熱速度の影響を表わすグラフである。
【図5】本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さを得られるオーステナイト化温度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明鋼を焼入する際の加熱速度と最高硬さとの関係を示すグラフである。
【図7】本発明鋼とSUS440C鋼の疲労試験結果を比較して示すグラフである。
【図8】図7の疲労試験で用いた試験片の熱処理方法を示すグラフである。
【図9】本発明鋼とSUS440C鋼の摩耗試験結果を比較して示すグラフである。
【図10】図9の摩耗試験で用いた試験片の熱処理方法を示すグラフである。
【図11】図2に示すヒートパターンで本発明鋼を熱処理したときの保持時間と硬さの関係を示すグラフである。
【図12】本発明鋼及びSUS440C鋼を高周波焼入れした場合と炉加熱焼入れした場合の疲労試験結果を比較して示すグラフである。
【図13】本発明鋼及びSUS440C鋼を高周波焼入れした場合と炉加熱焼入れした場合の疲労試験片の表面残留応力を示すグラフである。
【図14】本発明鋼及びSUS440C鋼を高周波焼入れした場合と炉加熱焼入れした場合の摩耗試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
Qt 焼入温度
Rt 室温
t1 加熱時間
t2 放冷時間
t3 保持時間
Claims (2)
- C 0.60重量%以上0.70重量%以下
Si 0.35重量%以下
Mn 0.60重量%以上0.80重量%以下
Cr 12.50重量%以上13.50重量%以下
残部Fe、及び、不可避的不純物からなる鋼を、該鋼に通電することにより1000℃以上1100℃以下の範囲内の焼入温度に50℃/秒以上200℃/秒以下の範囲内の加熱速度で加熱し、この加熱後に冷却し、20%以下の残留オーステナイト量を有する高強度鋼を製造することを特徴とする高強度鋼の製造方法。 - 前記焼入温度を1000℃以上1050℃以下の範囲内の温度とし、
残留オーステナイト量を20%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼の製造方法。
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