JP3736647B2 - 農業用殺菌剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は新規な農業用殺菌剤に関する。さらに詳しくは、それ自体無毒性または毒性が極めて少なく、耐熱性、耐候性が高く、微粒子でかつ付着性が強く、殺菌スペクトルが広範囲であり、薬害がなく、例えば石灰ボルドー液に見られる土壌の酸性化等の土壌汚染、環境汚染がない等の特徴を有する農業用殺菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
農業用殺菌剤としては、ベノミル、カルベンダジム、チオフォネートメチル等のベンゾイミダゾール系、トリアジメホン、トリアジメノール等のトリアゾール系、シネブ、マンネブ、チラム等のジチオカルバメート系、キャプタン、プロシミドン、イソプロジオン等のイミド系、IBP、エディフェンホス等の有機リン系、ブラストサイジンS、カスガマイシン等の抗生物質系、TPN、DPC等の有機化合物、および銅剤、無機硫黄剤、有機スズ剤、有機ヒ素剤等の無機化合物等が現在使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
既存の農薬の多くは毒性が高く、農薬散布時の作業者の健康に悪影響を及ぼす。また散布された農薬のほとんどは河川、湖に流入して、生態系に悪影響を及ぼすこととなる。さらにこれら農薬に汚染された河川水は水道水の水源として利用される場合が多い。農薬の使用量は大量であり、人間の健康に与える影響は非常に大である。
既存の農薬、特に有機系農薬は、耐熱性、耐紫外線性に弱く、使用された農薬の一部は太陽照射により分解される。このため十分に農薬としての効果を発揮できない場合が多い。既存の農薬の中で、銅剤は比較的毒性が少なく、耐熱性、耐紫外線性も良く、広範囲の菌に対して薬効を示すが、薬害がある。また銅剤はそれ自体酸性であり、しかも水に難溶性であるため、土壌の表層部に残存して土壌を酸性化し、作物の発育を低下させるという問題がある。
したがって本発明は、毒性が少ないか無毒性に近く、薬害がなく、熱、紫外線に対して安定であり、土壌、河川等の環境を実質的に汚染することのない、無機系の新規な農薬の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記式(1)〜(3)
(M1 2+)1−x(M2 2+)x(OH)2 (1)
(M1 2+)1−x(M2 2+)xO (2)
[(M1 2+)1−y(M2 2+)y]1−zM3+ zO (3)
[式中、M1 2+はMg2+および/またはCa2+を、M2 2+はCu2+および/またはZn2+を、M3+はAl3+、Fe3+ の三価金属イオンを示し、x,yおよびzはそれぞれ0.001≦x<0.5、0.001≦y≦1、0<z<0.5の範囲の数を示す。]
からなる群から選ばれた少なくとも一種の固溶体を有効成分として含有することを特徴とする農業用殺菌剤を提供する。
【0005】
本発明者は、既存の農薬は有機化合物がほとんどであり、それらは安全性、薬害、耐熱性、耐紫外線性および環境汚染等の見地から問題を有することに鑑み、比較的安全性の高い銅と亜鉛の無機化合物に着目した。農薬として銅および亜鉛化合物としては、ボルドー液(塩基性硫酸塩が有効成分)、塩基性塩化銅、水酸化第二銅、塩基性リン酸・硫酸銅等のいわゆる銅剤、それ自体では薬効が弱く、そのため単独で使われることはなく、銅剤やヒ素剤の薬害防止剤、石灰硫黄含有剤の協力剤として使われる硫酸亜鉛が一般的である。
銅剤は薬害があり、薬効は比較的高いが十分とは言えず、しかも酸性であるため、土壌汚染による作物収量低減の問題がある。既存の亜鉛化合物は薬効はほとんど無く、しかも銅剤と同じく酸性であり、土壌酸性化という問題を有する。本発明者は種々研究の結果、銅剤や亜鉛化合物のような既存農薬の欠点を、銅および/または亜鉛を含有する式(1)〜(3)に示す固溶体により全て克服できることを見いだした。
【0006】
式(1)〜(3)の固溶体は、それ自体アルカリ性であり、土壌を酸性化するという問題を生ずることがない。また水に対する溶解度が既存の銅剤等に比して比較的高いため、有効成分である銅イオンまたは亜鉛イオンの濃度が適度に高く、しかも微粒子であることから付着力が強く、農業用殺菌剤としての薬効が著しく高い。また本発明の農業用殺菌剤は薬害がほとんど認められないという利点をも有している。
本発明の農業用殺菌剤の主成分であるCa(OH)2、MgO、Al2O3等は、いずれも極めて安全性の高い化合物であり、それらに固溶するCu(OH)2やCuOも比較的毒性が低く、Zn(OH)2やZnOは極めて安全性が高い化合物に属する。このため、本発明の農業用殺菌剤の中でも、特に亜鉛を含有する式(1)〜(3)の化合物は安全性が高い上に薬効が高いという特徴を有する。
式(1)〜(3)の化合物の中では、式(1)の化合物が安全性および酸性土壌をアルカリ性に改善する効果が高いという点で最も好ましい。
【0007】
本発明の式(1)〜(3)の化合物は、本発明者が発見した新規な化合物であり、特開平6−41441号公報、特開平6−72709号公報および特開昭48−69797号公報にそれぞれ開示されている。さらに式(1)〜(3)の化合物が抗微生物剤として有効なことも、本発明者が発見し、特開平6−72816号公報、特開平6−65011号公報および特願平6−79714にそれぞれ開示もしくは出願されている。
本発明者は、式(1)〜(3)の化合物が農業用殺菌剤としても有用であることを発見したものであり、式(1)の化合物は、Ca(OH)2および/またはMg(OH)2に薬効成分としての銅イオンおよび/または亜鉛イオンが固溶した、Ca(OH)2またはMg(OH)2と同じ結晶構造を有する化合物である。このため式(1)の化合物は、粉末X線回折法により測定するとCa(OH)2、Mg(OH)2と実質的に同じ回折パターンを与える。
式(3)の化合物は、CuOおよび/またはZnOにAl等の三価金属が固溶した、またはさらにMgおよび/またはCaの二価金属が固溶したM2+−M3+−O系固溶体である。粉末X線回折パターンは二価金属酸化物、例えばCuOとかZnOに相当するものであり、三価金属酸化物例えばAl2O3の回折パターンはM2+に固溶しているためほとんど現れない。
【0008】
農業用殺菌剤として有効に作用する主成分は、式(1)〜(3)の化合物から水に溶出してくる銅イオンおよび/または亜鉛イオンである。このため式(1)および式(2)のxの値、および式(3)のyの値が固溶体を形成する範囲で大きくなる程、農業用殺菌剤としての効果が高くなる傾向にある。したがって本発明農業用殺菌剤のxの範囲は0.001≦x<0.5、好ましくは0.001≦x<0.4、さらに好ましくは0.01≦x≦0.2であり、yの範囲は0.001≦y≦1、好ましくは0.01≦y≦0.9、さらに好ましくは0.6≦y≦0.8である。
【0009】
本発明の農業用殺菌剤は、スラリー状、ケーキ状、粉末状のいずれの形態で施用されてもよい。式(1)〜(3)の固溶体は、平均二次粒子径が約0.1〜5μm、好ましくは約0.1〜2μmの微粒子で得ることが容易であり、かつ粒子表面がプラスに荷電しているため、植物に対する付着性および固着性が優れている。このことは、農薬としての効果をより持続的に発揮させる点で効果的である。またスラリー状、ケーキ状、粉末状のいずれの形態であっても、水に簡単によく分散し、沈降しにくいため、作業性、長時間の保存安定性に優れているという利点がある。
【0010】
本発明の農業用殺菌剤は、懸濁剤、水和剤、粉剤等を用いて製剤形態とすることもできる。その際必要に応じて、界面活性剤、分散剤、増量剤等を併用することもできる。界面活性剤および分散剤をより具体的に例示すると次の通りである。リグニンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、(アルキル)ナフタレンスルホン酸塩およびこれらの縮合物、フェノールスルホン酸塩およびその縮合物、スチレンスルホン酸塩およびその縮合物、マレイン酸とスチレンスルホン酸との縮合物の塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルサルフェートの塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤および分散剤。増量剤としては次のものが例示される。ベントナイト、タルク、クレー、珪藻土、無定形二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等。
【0011】
本発明の農業用殺菌剤は、低薬量で広範囲の植物の病原に対して殺菌力を有すると共に土壌中の病原に対しても殺菌力を有する。植物病原を次に例示する。べと病、えき病等の藻菌綱、うどんこ病等の子のう菌綱、さび病、たんそ病等の担子菌綱、いもち病、こくはん病等の不完全菌綱、バクテリア類、マイコプラズマ様微生物、ウイロイド等。しかもほどんどの植物に対して薬害がほどんどなく、高い安全性を示す。
本発明の農業用殺菌剤の使用濃度は、植物の種類、病原の種類等により多少の変動はあるが、通常約50ppm〜5000ppm程度、好ましくは約100〜2000ppm程度である。散布方法としては、人力噴霧器、動力噴霧器、ミスト機、スピードスプレーヤー、空中散布機等慣用の方法が適宜採用される。
以下本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0012】
実施例1
硝酸カルシウムと硝酸亜鉛の混合水溶液2リットル(Ca2+=0.95モル/リットル、Zn2+=0.05モル/リットル)を、2モル/リットルの水酸化ナトリウムの水溶液2.2リットルに撹拌下に加え、約25℃で反応させた。得られた白色沈澱を減圧濾過後水洗し、乾燥し、粉砕した。再び水に懸濁させた後、ホモジナイザーで5分間分散処理した。反応物を1部採り乾燥した後、化学分析、粉末X線回折およびレーザー回折法により粒度分布を測定した。化学組成はCa0.95Zn0.05(OH)2であった。粉末X線回折パターンはわずかに高角度側にシフトしているが、Ca(OH)2と同じであり、Zn(OH)2がCa(OH)2に固溶していることがわかる。粉末を超音波で分散させた後測定した平均2次粒子径は0.62μmであった。
Ca0.95Zn0.05(OH)2の粉末を再び水に懸濁させて2000ppmおよび500ppm含有するスラリーを調整した。これをホモジナイザーで5分間分散処理して、供試薬液を調整した。これを旧葉にべと病が発生した状態のトマトの新葉梢(5以上の葉の表裏)にトリガー噴霧器を用いて散布(40ミリリットル/3本)した。散布7日後に各葉梢の上位5葉についてべと病のコロニーを調査し、一葉当たりの平均コロニー数を求め防除価を測定した。
防除価=[(無処理1葉当平均コロニー数)−(処理区1葉当平均コロニー数)]/(無処理1葉当平均コロニー数)
結果を表1に示す。
【0013】
実施例2
硝酸カルシウムと硝酸第2銅の混合水溶液2リットル(Ca2+=0.95モル/リットル、Cu2+=0.05モル/リットル)を、2モル/リットルの水酸化ナトリウムの水溶液2.2リットルに撹拌下に加え、約30℃で反応させた。得られた青色沈澱を減圧濾過後水洗し、乾燥し、粉砕した。このものの化学組成はCa0.95Cu0.05(OH)2であった。粉末X線回折パターンはわずかに高角度側にシフトしているが、Ca(OH)2と同じであり、Cu(OH)2がCa(OH)2に固溶していることがわかる。平均2次粒子径は0.76μmであった。Ca0.95Cu0.05(OH)2の乾燥粉末に水を加えて、2000ppmおよび500ppm含有するスラリーを調整後、それぞれについてホモジナイザーで10分間分散処理して供試薬液を調整した。これを実施例1と同様の方法できゅうりのうどんこ病に対する防除効果を評価した。結果を表1に示す。
【0014】
実施例3
硝酸マグネシウムと硝酸亜鉛の混合水溶液2リットル(Mg2+=0.9モル/リットル、Zn2+=0.1モル/リットル)に、当量の水酸化ナトリウム(2モル/リットル)の水溶液を加えて得られた沈澱を、120℃で2時間オートクレーブを用いて水熱処理した。ついで得られた沈澱を減圧濾過後水洗し、乾燥し、粉砕した後、電気炉で約500℃で1時間焼成した。焼成粉末の化学組成はMg0.9Zn0.1Oであった。粉末X線回折パターンはMgOよりわずかに低角度側にシフトしているが、MgOと同じであり、ZnがMgOに固溶していることがわかる。粉末を超音波で分散させた後測定した平均2次粒子径は0.46μmであった。
この粉末100gに対してポリカルボン酸を1gの割合で加え、再び水に懸濁させて粉末を1000ppm含有するスラリーを調整した。これをホモジナイザーで10分間分散処理して、供試薬液を調整した。これをうどんこ病が旧葉に100%が発生した状態のトマト3本の新葉梢(5以上の葉の表裏)にトリガー噴霧器を用いて散布(50ミリリットル/3本)した。散布10日後に、散布トマトと無散布トマトについてうどんこ病の発生に対する防除価を測定した。
結果を表2に示す。
【0015】
実施例4
実施例3において、硝酸亜鉛の代わりに硝酸第2銅を用いた以外は実施例3と同様に操作して、焼成粉末を作成した。焼成粉末の化学組成はMg0.9Cu0.1Oであった。粉末X線回折パターンはMgOよりわずかに低角度側にシフトしているが、MgOと同じであり、CuがMgOに固溶していることがわかる。粉末を超音波で分散させた後測定した平均2次粒子径は1.2μmであった。
この粉末を実施例3と同様に操作して、濃度100ppmの供試薬液を調整し、トマトに散布した。10日後に得られたうどんこ病に対する防除価を表2に示す。
【0016】
実施例5
化学組成がZn0.7Al0.3(OH)2(CO3)0.15・0.55H2Oであり、平均2次粒子径が0.57μmであるハイドロタルサイト類化合物の粉末を、電気炉を用い、400℃で1時間焼成した。焼成物はZnOに相当するX線回折パターンを示し、化学組成はZn0.7Al0.3Oで平均2次粒子径は0.92μmであった。この物を、20%のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと12%のリグニンスルホン酸カルシウムを含有する水に500ppmの濃度となるように加え、撹拌機により分散して供試薬液を調整した。この供試薬液を、せん孔細菌病が旧葉に100%発生した状態の桃の新葉梢(5以上の葉の表裏)に対し、噴霧器を用いて散布(40ミリリットル/3区)した。散布後14日目に散布区と無散布区についてせん孔細菌病の防除価を測定した。結果を表3に示す。
【0017】
実施例6
化学組成がMg0.5Cu0.2Al0.3(OH)2(CO3)0.15・0.55H2Oであり、平均2次粒子径が0.70μmであるハイドロタルサイト類化合物の粉末を、電気炉を用い、400℃で1時間焼成した。焼成物はMgOに相当するX線回折パターンを示し、化学組成はMg0.5Cu0.2Al0.3Oで平均2次粒子径は1.1μmであった。この物を、実施例5と同様に操作して濃度500ppmの供試薬液を調整した。この供試薬液について、せん孔細菌病に対する防除価を実施例5と同様に操作して測定した。結果を表3に示す。
【0018】
rile)
防除価:3区平均防除価
薬害:葉にハン点とか枯れが生じたか否かを目視で評価した。
【0019】
【0020】
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、毒性が少ないかまたは無毒性に近く、薬効が高く、薬害がなく、熱、紫外線に対して安定であり、土壌、河川等の環境汚染を実質的に生じることのない新規な農業用殺菌剤が提供される。
Claims (1)
- 下記式(1)〜(3)
(M1 2+)1−x(M2 2+)x(OH)2 (1)
(M1 2+)1−x(M2 2+)xO (2)
[(M1 2+)1−y(M2 2+)y]1−zM3+ zO (3)
[式中、M1 2+はMg2+および/またはCa2+を、M2 2+はCu2+および/またはZn2+を、M3+はAl3+、Fe3+ の三価金属イオンを示し、x,yおよびzはそれぞれ0.001≦x<0.5、0.001≦y≦1、0<z<0.5の範囲の数を示す。]
からなる群から選ばれた少なくとも一種の固溶体を有効成分として含有することを特徴とする農業用殺菌剤。
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JP20422894A JP3736647B2 (ja) | 1994-08-05 | 1994-08-05 | 農業用殺菌剤 |
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