JP3733081B2 - フェノール樹脂系顕色剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノール樹脂系からなる顕色剤に関する。さらに詳しくは、特定のフェノール類よりなり、発色性能や耐水性に優れた感熱記録材料用顕色剤として有用なフェノール樹脂系顕色剤に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、フェノール樹脂は、優れた性能から、広範囲な分野で使用されている。また、特殊な構造をしたフェノール樹脂は特殊エポキシ樹脂の原料や感熱・感圧記録材料の顕色剤として用いられている。
たとえば、特開平9−278695号公報には、新規なフェノール三核体として、2,6-ビス[(4-ヒドキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール(融点211℃)が開示されており、その用途の一つとして感熱記録材料への使用が示されている。しかしながら、このトリメチル体を末端につけた場合、たとえば、フルオラン系発色剤と併用し印字した場合、印字色が黒色にならず、濃い赤紫色となり印字としては不鮮明になる。
【0003】
また、特開2001―96926号公報には、特異なフェノール三核体を混合してなる組成物を用いた感熱記録材料用顕色剤が開示されている。しかしながら、これらの物質は融点が200℃以上と高すぎ、感度が鈍くなることより発色の絶対値に劣るという欠点を有する。
また、感熱記録材料用顕色剤としては、ビスフェノールAやp-ヒドロキシ安息香酸エステルなどが用いられているが、前者は、ホルモン撹乱物質としての疑いがあり、また、後者は耐熱性、耐水性などの点で劣ることから、新規な顕色剤の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした現状に鑑み、顕色剤に対する各種の要求性能を満たし、かつ、人体や環境に対する影響が少ない上、比較的安価に製造しうる、感熱記録材料用顕色剤として有用なフェノール樹脂系顕色剤を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、感熱記録材料用顕色剤として有用なフェノール系樹脂を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、2,6−ジメチロール−p−置換フェノールと、2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類と反応させて得られ、フェノール三核体の分率が特定範囲にあるフェノール樹脂が、上記目的に添うものであり、適度な融点を有し、感熱記録材料用顕色剤として有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
即ち本発明は、一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノール1モルに対して、一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類2〜10モルを反応させて得られ、一般式(III)で表されるフェノール三核体の分率が35〜85%であることを特徴とするフェノール樹脂系顕色剤である。
【0007】
【化4】
【0008】
(式中、R1 はハロゲン原子,シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシル基、若しくは炭素数6〜8のアリール基、R2 は水素原子,ハロゲン原子,シアノ基又は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシル基を示し、2つのR2 は互いに同一でも、異なっていてもよい。)
【0009】
【化5】
【0010】
(式中、R3 は、水素原子,ハロゲン原子,シアノ基又は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシル基を示し、2つのR3 は互いに同一でも、異なっていてもよい。)
【化6】
【0011】
(式中、R1 〜R3 は一般式(I)および一般式(II)と同じである。)
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のフェノール樹脂系顕色剤は、(A)上記の一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノールと、(B)上記の一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類と反応させて得られる。
【0013】
上記一般式(I)において、R1 の中、ハロゲン原子としては、塩素原子やフッ素原子などが、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基が、炭素数1〜10のアルコキシル基としては、メトキシ基,エポキシ基,n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基,イソブトキシ基,sec−ブトキシ基,tert−ブトキシ基,tert−ブトキシ基、炭素数6〜8のアリール基としてはフェニル基が挙げられる。この中、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
一方、上記一般式(I)のR2 の中、ハロゲン原子,炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシル基としては、上記R1 の説明において例示したものと同じものを挙げることができる。この中、特に水素原子及び炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0014】
この一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノールとしては、2,6−ジメチロール−p−クレゾール;2,6−ジメチロール−4−エチルフェノール;2,6−ジメチロール−4−イソプロピルフェノール;2,6−ジメチロール−4−ブチルフェノール;2,6−ジメチロール−3,4,5−トリメチルフェノール;2,6−ジメチロール−p−フェニルフェノールなどを挙げることができる。
これらの中で、2,6−ジメチロール−p−クレゾール、2,6−ジメチロール−p−エチルフェノール、2,6−ジメチロール−4−ブチルフェノール、2,6−ジメチロール−p−フェニルフェノールが好ましく、入手の容易さなどの点から、2,6−ジメチロール−p−クレゾール及び2,6−ジメチロール−4−ブチルフェノールが特に好適である。
【0015】
この一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノールは、従来公知の方法により製造することができる。例えば水酸基に対して、2,6−位が無置換のp−置換フェノールに、アルカリの存在下、ホルムアルデヒドを反応させることにより、2,6−ジメチロール−p−置換フェノールを得ることができる。
【0016】
一方、(B)成分の一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類において、R3 の中のハロゲン原子,炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシル基としては、前記一般式(I)におけるR1 において例示したものと同じものを挙げることができる。該R3 としては水素原子及び炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0017】
前記一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類としては、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、m−エチルフェノールが好適である。その他、m−アミルフェノールなども挙げられるが、モノマーの除去に多大な工数がかかるなど実用的でない。
【0018】
感電記録材料用顕色剤としてトリスフェノール化合物(フェノール三核体)を用いることが知られているが、従来の感電記録材料用顕色剤におけるトリスフェノール化合物は、2,6−ジメチロール−p−置換フェノールとp−置換フェノールを反応させて得られるフェノール三核体であり、フェノール三核体を形成するフェノール類が限定されていた。
これに対して本発明では、p−位が水素原子のフェノール類、例えば安価なフェノールをも顕色剤を形成するためのフェノール類に用いることができるので極めて有利である。
また、本発明のように一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類である場合には、融点を110〜160℃に下げることができるので、取扱いが容易となる。
【0019】
本発明のフェノール樹脂系顕色剤の製造方法は、前記(A)成分の中から選ばれた一種の化合物1モルに対して、前記(B)成分の中から選ばれた一種の化合物を2〜10モル、好ましくは3〜7モルの中で、酸性触媒下、60〜120℃、好ましくは80〜100℃で反応させる。反応終了後、常圧〜減圧下で蒸留し、未反応のモノマーを除去する。しかるのち、反応器から取り出し、冷却後、粉砕することにより、目的のフェノール樹脂系顕色剤を得ることができる。この時、(A)成分の化合物1モルに対して(B)成分のモル数が2より小さいと、反応が不均一となり、生成するフェノール樹脂中に含まれるフェノール核体数3のユニットの分率が35%以下になり、融点もしくは軟化点が極めて低くなり、顕色剤として用いる場合、耐熱性に劣る。また、(A)成分の化合物1モルに対して(B)成分のモル数が10より大きいと、生成するフェノール樹脂中に含まれる前記一般式(III)で表されるフェノール三核体の分率が85%以上になり、結晶性が強くなりすぎ発色性が劣ることと、その物質の融点が200℃以上となることから扱い難くなる。ここで生成する反応物は、多少の高分子量物も副生成物として出来るものの、特開2001―96926号公報にて開示されているような特殊な混合を必要とせず、顕色剤に適した融点物質を得ることができる。
【0020】
こうして得られる本発明のフェノール樹脂系顕色剤は、白色性、耐水性、経日安定性に優れ、顕色剤としての高い発色能力を有し、かつ、人体や環境に対する影響が少ない上、比較的安価に製造しうることより、感熱記録材料用顕色剤として極めて有用である。
なお、顕色剤として有用な純物質を多種併用し融点を調整して配合することも考えられるが、こうした混合物の調整は本発明の意図するところではない。
【0021】
感熱記録材料において、本発明のフェノール樹脂系顕色剤と組み合わせて使用される発色性化合物等に関しては、特に制限はなく、従来から感熱記録材料における材料として慣用されている物質を用いることができる。発色性化合物として用いられる物質としては、フルオラン系、トリアリールメタン系、スピロ系、フルオレン系化合物などが挙げられる。
【0022】
本発明のフェノール樹脂系顕色剤を用いて感熱記録材料を作成する方法としては、特に制限はなく、従来から公知の方法で作成することができる。具体的には、本発明のフェノール樹脂系顕色剤、発色性化合物、増感剤、結合剤、充填剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、消泡剤などを含む感熱発色層形成用の水性塗工液を常法に従い調整し、紙、プラスチックシート、合成紙などの支持体の上に塗工し、乾燥処理をすることで感熱発色層を形成し、感熱記録材料を作成する。また、必要に応じ、感熱発色層と支持体の間に中間層を設けたり、感熱発色層の上にオーバーコート層を設けてもよい。
【0023】
【実施例】
次に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1
フェノール282g(3モル)を攪拌機、還流器付フラスコに入れ、60℃に加熱した。フラスコ中のモノマーが溶解したら、ゆっくりと攪拌を開始し、これに35重量%塩酸1.04gをゆっくり滴下・混合した。この混合溶液を80℃に昇温し、そのまま80℃に保持した。これに更に2,6−ジメチロール−p−クレゾール168g(1モル)を、約1時間かけてゆっくりと添加した。2,6−ジメチロール−p−クレゾールの添加が終了したら、内温を100℃まで昇温し、5時間100℃で還流・反応させた。反応後、フラスコ内を減圧にし、反応により生じた縮合水および未反応の余剰のモノマーを蒸留し除去した。モノマーを除去したのち、内容物をステンレスのパンの上に取り出して冷却・固化させ、さらにその固化物を粉砕し、フェノール樹脂系顕色剤207gを得た。このもののフェノール三核体の分率は、53%であった。また、DSC(示差熱分析計)による融点は113℃であった。
【0025】
得られたフェノール樹脂系顕色剤を用い、常法により、発色剤、増感剤、無機顔料およびバインダーと共に基紙に塗工し感熱記録紙を作成した。この感熱記録紙を160℃2秒間の条件で加熱発色させたところ、濃い黒色に発色した。この発色部について、色差計(ミノルタ社製・CT−210)によりLab値を測定したところ、Lab表記・L値は23.5であった。また、作成した感熱記録紙を80℃24時間加熱したが、外観上の変化は認められなかった。
【0026】
実施例2
フェノール564g(6モル)を攪拌機、還流器付フラスコに入れ、60℃に加熱した。フラスコ中のモノマーが溶解したら、ゆっくりと攪拌を開始し、これに35重量%塩酸1.04gをゆっくり滴下・混合した。この混合溶液を80℃に昇温し、そのまま80℃に保持した。この中に更に2,6−ジメチロール−p−ブチルフェノール210g(1モル)を約1時間かけてゆっくりと添加した。2,6−ジメチロール−p−ブチルフェノールの添加が終了したら、100℃で3時間の還流反応を行なった。以下、実施例1と同様の操作を行い、フェノール樹脂系顕色剤216gを得た。該フェノール樹脂系顕色剤のフェノール三核体の分率は71%であり、DSCによる融点は96℃であった。また、実施例1と同様の方法により感熱記録紙を作成し、発色させたところ、L値は23.8であった。
【0027】
比較例1
2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類に該当しない2,6−キシレノール610g(5モル)を攪拌機、還流器付フラスコに入れ、60℃に加熱した。フラスコ中のモノマーが溶解したら、ゆっくりと攪拌を開始し、これに35重量%塩酸1.04gをゆっくり滴下・混合した。この混合溶液を80℃に昇温し、そのまま80℃に保持した。この中に更に2,6−ジメチロール−p−クレゾール168g(1モル)を約1時間かけてゆっくりと添加した。2,6−ジメチロール−p−クレゾールの添加が終了したら、内温を100℃まで昇温した。以下、実施例1と同様の操作を行い、白色のフェノール樹脂300gを得た。該フェノール樹脂のフェノール三核体の分率は80%であり、DSCによる融点は171℃であった。また、実施例1と同様の方法により感熱記録紙を作成し、発色させたところL値は31.8であり、外観上は黒色ではなく茶色であった。
【0028】
比較例2
p−クレゾール1080g(10モル)を攪拌機、還流器付フラスコに入れ、60℃に加熱した。フラスコ中のモノマーが溶解したら、ゆっくりと攪拌を開始し、これに35重量%塩酸0.5gをゆっくり滴下・混合した。この混合溶液を80℃に昇温し、そのまま80℃に保持した。この中に更に2,6−ジメチロール−p−クレゾール84g(0.5モル)を約1時間かけてゆっくりと添加した。ジメチロール−p−クレゾールの添加が終了したら、内温を100℃まで昇温した。以下、実施例1と同様の操作を行い、白色のフェノール樹脂181gを得た。該フェノール樹脂のフェノール三核体の分率は89%であり、DSCによる融点は211℃であった。また、実施例1と同様の方法により感熱記録紙を作成し、発色させたところ、L値は30.4であり、外観は薄めの黒色であった。
【0029】
比較例3
フェノール94g(1モル)を攪拌機、還流器付フラスコに入れ、60℃に加熱した。フラスコ中のモノマーが溶解したら、ゆっくりと攪拌を開始し、これに35重量%塩酸1.04gをゆっくり滴下・混合した。この混合溶液を80℃に昇温し、そのまま80℃に保持した。この中に更に2,6−ジメチロール−p−クレゾール168g(1モル)を約1時間かけてゆっくりと添加した。2,6−ジメチロール−p−クレゾールの添加が終了したら、内温を100℃まで昇温した。以下、実施例1と同様の操作を行い、淡黄透明なフェノール樹脂156gを得た。該フェノール樹脂のフェノール三核体の分率は13%であり、DSCによる測定では融点を示す吸熱は観測されなかった。また、実施例1と同様の方法により感熱記録紙を作成し、作成した感熱記録紙を80℃24時間加熱したところ、外観上、黒色に発色し、極めて耐熱性・保存安定性の悪い状態であった。
【0030】
【発明の効果】
本発明のフェノール樹脂系顕色剤は、適度な融点を有し、白色性、耐熱性、保存安定性に優れるとともに、顕色剤として高い発色性を有し、しかも人体や環境に対する影響が少なく、かつ、比較的安価に合成できるので、感熱記録材料用顕色剤として極めて有用である。
また、本発明のフェノール樹脂顕色剤は、単に感熱記録材料用顕色剤のみに留まらず、エポキシ樹脂やウレタン樹脂の原料、感光材料の基材、酸化防止剤の基材などとしても有用である。
Claims (3)
- 一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノール1モルに対して、一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類を2〜10モル反応させて得られ、一般式(III)で表されるフェノール三核体の分率が35〜85%であることを特徴とするフェノール樹脂系顕色剤。
- 一般式(I)で表される2,6−ジメチロール−p−置換フェノールが、2,6−ジメチロール−p−クレゾール、2,6−ジメチロール−p−エチルフェノール、2,6−ジメチロール−p−ブチルフェノールおよび2,6−ジメチロール−p−フェニルフェノールから選ばれたものである請求項1に記載のフェノール樹脂系顕色剤。
- 一般式(II)で表される2つのo−位およびp−位が無置換であるフェノール類が、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノールおよびm−エチルフェノールから選ばれたものである請求項1記載のフェノール樹脂系顕色剤。
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