JP3731917B2 - ガスクラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
この発明は、クラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、半導体、その他電子デバイス等の基板表面の平坦化や清浄化処理に有用な、常温で気体物質のクラスターを用いての固体表面の処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、半導体等の電子デバイス等の基板表面の清浄化および平坦化などを目的に各種の気相反応方法が開発され、たとえばスパッタリング、真空蒸着、CVD、イオンビーム蒸着などの方法が実用化されてきている。
しかしながら、これら従来の方法の場合には、対象とする基板表面の損傷、劣化等の好ましくない影響を避けることが難しく、高精度、高品質な電子デバイスの製造等にとって大きな課題となっていた。
【0003】
すなわち、たとえば、基板表面を平坦化する方法としてAr(アルゴン)ガスなどの単原子または分子イオンを低角度で基板表面に照射し、スパッタリングすることによって平坦化する方法が知られている。しかしながら、この従来の方法の場合には、基板表面に存在した凸部が優先的に削られ、ある程度までは平坦化される一方で、スパッタリング前には存在しなかったさざ波状の起伏が新たに生じるため、イオンの入射角をある程度高角度にしてこれを抑制しなければならなかった。だが、このような入射角の抑制は、逆に凸部のスパッタリングの優先性を弱めるとともに、入射イオンにより基板表面の損傷を顕著なものとする。さらに、基板表面の損傷を抑えるためには入射エネルギーを100eV程度以下にする必要があるが、この場合にはイオン電流が極端に少なくなり、実用的なスパッタリング速度が得られなくなるという欠点があった。
【0004】
また、基板表面を清浄化する方法としてArなどの希ガス物質のイオンビームを基板表面に照射する乾式法や化学薬品に基板表面を侵食させる湿式法などが知られている。しかしながら、イオンビームを照射する方法では、入射エネルギーが100eV以下ではイオン電流が極端に少なくなるため、入射エネルギーを数keVと高くしたイオンビームを利用しなければならなかった。そのため、基板表面には欠陥を発生させたり、あるいはArが表面に注入され不純物原子となるため、清浄な表面が得られない等の欠点があった。
【0005】
このため、ULSI等の高度エレクトロニクスの発展へと向かうための基板技術として、イオンビームを用いながらも無損傷で基板表面を平坦化し、清浄化することのできる新しいイオンビーム技術の実現が強く望まれていた。
この発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来のイオンビーム技術の欠点を解消し、基板表面に欠陥を生じさせることのない無損傷表面平坦化、さらには清浄化を可能とする新しいイオンビーム表面処理方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決するものとして、常温および常圧で気体状の反応性物質の塊状原子集団または分子集団であり且つクラスターサイズが250から500であるガスクラスターイオンを基板表面に照射して反応させ、基板表面に薄膜を形成すると同時にその表面を平坦化し、平坦化と同時に表面に形成された薄膜を非反応性のガスクラスターイオンの照射、または、湿式法により除去して平坦な基板材料表面を露出させることを特徴とするガスクラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法を提供する。
【0007】
また、この発明は上記のガスクラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法において、平坦化と同時に表面に形成された薄膜を非反応性のガスクラスターイオンの照射、または、湿式法により除去して平坦な基板材料表面を露出させる方法を提供する。
【0008】
【作用】
すなわち、この発明では、前記した通りの常温および常圧で気体状の物質、たとえば酸化物、窒化物、炭化物、希ガス物質およびそれらの適度な割合での混合気体状の物質などを用い、これら物質のガスクラスターを形成し、これに電子照射してイオン化したガスクラスターイオンビームを固体表面に対して必要に応じて特定のサイズのビームを選別して照射することを特徴としている。
【0009】
この場合、クラスターは、通常数百個の原子または分子集団によって構成されているため、たとえ加速電圧が10kVでもそれぞれの原子または分子は、数十eV以下の超低速イオンビームとして照射されるので、極めて低損傷で固体表面を処理することができる。そして、このガスクラスターイオンビームを固体表面に照射すると、クラスターイオンを構成する分子または原子種相互の、そしてそれらの固体表面の原子との多段階での衝突により、横方向の運動成分を持った反射分子または原子を生じるため、これにより基板表面凸部の選択的なスパッタリングが生じる。この効果を利用することにより表面の平坦化を行うことができる。また、この平坦化現象は表面に集中的に与えられるエネルギーにより、結合力の弱い表面凸部に存在する原子を優先的にスパッタリングする効果からも得られる。さらに、この表面からの選択的なスパッタリング効果により、平坦化と同時に固体表面の不純物を除去して清浄化することも可能となる。
【0010】
そして、この発明では、常温および常圧で気体状の反応生物質の塊状原子集団または分子集団であるガスクラスターのイオンを基板表面に照射して反応させ、基板表面に薄膜を形成すると同時に、その表面を平坦化することや、平坦化と同時に表面に形成された薄膜をAr等の非反応性のガスクラスターイオンの照射、または、湿式法により除去して平坦な基板材料表面を露出させることも可能としている。
【0011】
なお、ガスクラスターそのものの生成については、すでにこの発明の発明者が提案しているように、加圧状態の気体を真空装置内に膨張型ノズルを介して噴出させることで生成可能である。このようにして生成したガスクラスターは、電子を照射してイオン化することができる。
なお、常温で気体状の物質としては、たとえば代表的なものとしては、CO2 、CO、N2 O、NOx 、Cx Hy Oz 、等の酸化物、O2 、N2 、その他各種のもの、さらにはAr、He等の希ガスが例示される。
【0012】
平坦化と同時に薄膜を形成する際の反応性のガスクラスターイオンとしては、平坦化の対象とする固体の種類によって、その固体表面との反応で生起するものを選択する。たとえば酸化膜を生成させる場合には含酸素の原子、分子集団からなるクラスターイオンを用いる。
これらの表面薄膜は、Ar(アルゴン)等非反応性のガスクラスターイオンによって除去される。また、フッ酸溶液等を用いる湿式法で除去してもよい。これによって平坦化された表面が露出することになる。
【0013】
以下、実施例を示してさらに詳しくこの発明のガスクラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法について説明する。
【0014】
【実施例】
実施例1
添付した図面の図1は、この発明のガスクラスターイオンビームを用いて、CO2 モノマーイオン、およびクラスターサイズ250以上のCO2 クラスターイオンを、加速電圧10kVの条件で照射した場合のPt薄膜表面の平均粗さを測定した結果を示したものである。
【0015】
平均粗さは、モノマーイオンを照射した場合は27Å以上にしか平坦化されていないのに対し、ガスクラスターイオンを2×1016ions/cm2 照射の場合には、照射前の48Åから8Åまで減少し、表面を大幅に平坦化することができた。この結果はCO2 クラスターをPt表面を平坦化した例であるが、絶縁膜、半導体を平坦化することもできる。
実施例2
CO2 モノマーイオンとクラスターサイズ250以上のCO2 クラスターイオンと、5×1015ions/cm2 の条件でPt薄膜表面に照射し、加速電圧を変化させてこの薄膜表面の平坦性を測定した。その結果を示したものが図2である。
【0016】
CO2 クラスターイオンの場合には、加速電圧が高いほど効果があり、加速電圧が5kV、つまり、構成原子1個あたりの持つエネルギーが20eV以下の極低エネルギーでも平坦化の効果があることが確認された。一方、CO2 モノマーイオンでは、加速電圧を大きくしても平坦化効果は顕著なものとならなかった。
実施例3
加速電圧10kV、5×1015ions/cm2 の条件で、CO2 ガスクラスターイオンのクラスターサイズを変化させた場合のPt薄膜表面の平坦性を測定した。その結果を示したものが図3である。
【0017】
Pt薄膜の場合、クラスターサイズ250程度のクラスターイオンによる平坦化効果が最も高いことが確認された。
実施例4
CO2 モノマーイオンとCO2 クラスターイオンを照射した後のPt薄膜表面のスパッタリング量と表面平坦性との関係によって検討した。
【0018】
図4はその結果を示したものである。
モノマーイオンの照射では、25Å以上のスパッタリングにより表面が粗化されていくのに対し、クラスターイオン照射では、さらに平坦化され、100Å以上のスパッタリングにより飽和することが確認された。
モノマーイオンの照射では得られないRa24Å以下の平坦性がクラスターイオンの照射により実現された。
実施例5
図5は、Niを強制的に6×1012atoms/cm2 付着させたSi基板に構成原子数250以上のCO2 クラスターイオン、およびCO2 モノマーイオンを加速電圧10kV、ドーズ量2×1015ions/cm2 の条件でSi基板に照射した場合のその前後での表面のNi濃度を全反射蛍光X線分析法によって測定した結果である。これにより深さ15nm程度までの極表面の不純物濃度を測定している。
【0019】
Ni不純物濃度はモノマーイオン照射ではほとんど減少していないのに対し、ガスクラスターイオン照射ではドーズ量の増加に伴い急速に減少している。ドーズ量が2×1015ions/cm2 のクラスター照射後のNi不純物濃度は1.3×1012atoms/cm2 であり、照射前の1/5まで減少することができる。ドーズ量を増やすことによりさらに不純物濃度を減少させることができる。
実施例6
CO2 モノマーイオンとCO2 クラスターイオンとを、加速電圧10kV、5×1015ions/cm2 の照射量の条件において、クラスターサイズを変化させながらCu薄膜表面に照射した。
【0020】
図6は、この際のクラスターサイズとCu薄膜表面の平坦性との関係を示したものである。
この図6からも明らかなように、Cu薄膜の場合、サイズ150程度のクラスターイオンによる平坦化効果が最も高いことが確認された。
実施例7
Ar(アルゴン)モノマーイオンとArクラスターイオンとを用い、加速電圧20kVで、実施例5と同様にして表面にCuを付着させたSi基板表面に照射し、照射前後での表面のCu濃度を測定した。
【0021】
その結果を示したものが図7である。図中のsmall クラスターは、クラスターサイズ1000程度のものを、large クラスターは、クラスターサイズ3000程度のものを示している。
Arモノマーイオンの照射ではCuはほとんど除去できないが、1×1015ions/cm2 のlarge クラスターの照射によって1/6〜1/10程度にまで除去することができること、small クラスターイオンがモノマーイオンと共存する場合にも除去効果が得られることが確認された。このことは、モノマーとクラスターとを完全に分離しなくとも、両者が共存する状態であっても、不純物の除去効果が得られることを示している。
実施例8
表1は、各種基板にサイズ250以上のCO2 クラスターを加速電圧10kVの条件で照射した場合の、その前後での表面平均粗さを測定した結果を示したものである。このように、クラスターイオン照射の場合には等価的に大電流のビームが得られるので、基板のチャージアップを抑制して、基板表面を平坦化することができる。
【0022】
このように、この発明の方法によって、基板表面に欠陥のない平坦であり清浄な表面が低温でも形成できるため、この清浄な表面を用いた単結晶成長が可能であり、さらにはこれらの材料を用いた電子デバイスのモノシリック化にも応用でき、その効果は大きい。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例9
表2は、CO2 クラスターイオンを加速電圧10kV、ドーズ量5×1015ions/cm2 の条件で照射した多結晶シリコン膜の表面に形式されたSiO2 膜の膜厚と、フッ酸溶液処理前後での表面平均粗さを示したものである。このフッ酸処理は、SiO2 膜が完全に除去できる時間行われている。比較のために、クラスターイオンを照射していない多結晶シリコン薄膜での値を併せて示している。
【0025】
クラスターイオンを照射していない試料の表面平均粗さは37Åであり、この値はフッ酸処理により変化しない。サイズ250、及び500のクラスターイオン照射により多結晶シリコン膜の表面平均粗さはそれぞれ、7Å、及び18Åに減少している。これと同時に、多結晶シリコン膜の表面には8〜6nmのSiO2 薄膜が形成されており、平坦化と同時にSiO2 薄膜が得られている。表面の平坦性はフッ酸除去により殆ど変化無く、平坦性が保たれている。
【0026】
CO2 クラスターイオン照射により形成された酸化膜をArクラスター照射により除去することができる。この場合、同一の照射装置内で供給ガスの種類を切り替えるだけで酸化膜除去の効果が得られる。以上のように、薄膜形成の効果を必要とせず、平坦化の効果のみを得たい場合には、クラスターイオン照射後に薄膜を除去することもできる。
【0027】
【表2】
【0028】
実施例10
加速電圧を変化させて、平均サイズ3000のArクラスターイオンをドーズ量3×1014ions/cm2 の条件で、実施例5と同様にして表面にCuを付着させたSi基板表面に照射した前後での表面のCuの濃度を測定した。
その結果を示したものが図8である。5kVの低加速電圧の場合にも、20kVで照射した場合と同様の清浄化の効果が得られることがわかる。この場合、構成原子1個あたりの平均エネルギーは2eV以下となり、低損傷での基板表面の清浄化が実現される。
実施例11
表3は、各種基板に平均サイズ3000のArクラスターを加速電圧20kV、ドーズ量1.3×1015ions/cm2 の条件で照射した場合の、その前後での表面粗さを測定した結果を示したものである。比較のために、同一の加速電圧、イオンドーズ量の単分子イオンを照射した場合の結果も合わせて示す。CO2 クラスター照射の場合と同様に、各種基板表面が平坦化される。Cu薄膜の場合には、照射前に見られた結晶粒による凸部がArクラスター照射により削られ、CO2 クラスター照射の場合よりも強い平坦化の効果が得られている。この場合、Arクラスターの構成原子1個当たりの平均エネルギーは7eV程度と非常に低エネルギーである。このため、ガスクラスターイオン照射により低損傷で基板表面が平坦化される。
【0029】
【表3】
【0030】
【発明の効果】
この発明により、以上詳しく説明した通り、超低速のガスクラスターイオンビームを照射することによって、表面損傷を生じることなく、より低温条件で基板表面の平坦化および清浄化が可能となる。また、平坦化と同時に反応性のガスクラスターイオンビームの照射により薄膜形成も可能とされ、非反応性ガスクラスターイオンビームで、あるいは湿式法によって、この薄膜を除去して平坦化された表面を露出することも可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるCO2 ガスクラスターイオンと、比較としてのモノマーイオンを照射した後のPt薄膜表面の平坦性を示した図である。
【図2】この発明によるCO2 ガスクラスターイオンと、比較としてのモノマーイオンを照射した後のPt薄膜表面の平坦性の加速電圧依存性を示した図である。
【図3】この発明によるCO2 のガスクラスターイオンと、モノマーイオン照射後のPt薄膜表面の平坦性のクラスターサイズ依存性を示した図である。
【図4】この発明によるCO2 のガスクラスターイオンと、モノマーイオン照射後のPt薄膜表面のスパッタリング量と表面平坦性との関係を示した図である。
【図5】この発明によるCO2 ガスクラスターイオンと比較としてのモノマーイオンを照射した後の表面のNi不純物濃度を示した図である。
【図6】この発明によるCO2 のガスクラスターイオンと、モノマーイオン照射後のCu薄膜表面の平坦性のクラスターサイズ依存性を示した図である。
【図7】この発明によるArのガスクラスターイオンと比較としてのモノマーイオンを照射した後の表面のCu不純物濃度を示した図である。
【図8】この発明によるArのガスクラスターイオンを照射した後の表面のCu不純物濃度の減少量(除去率)の加速電圧依存性を示した図である。
Claims (1)
- 常温および常圧で気体状の反応性物質の塊状原子集団または分子集団であり且つクラスターサイズが250から500であるガスクラスターイオンを基板表面に照射して反応させ、基板表面に薄膜を形成すると同時にその表面を平坦化し、平坦化と同時に表面に形成された薄膜を非反応性のガスクラスターイオンの照射、または、湿式法により除去して平坦な基板材料表面を露出させることを特徴とするガスクラスターイオンビームによる固体表面の平坦化方法。
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