JP3724435B2 - アノードの投入方法及び炉の設計方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫化銅鉱の製錬における炉へのアノードの投入方法及び炉の設計方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、硫化銅鉱の製錬法としては、熔錬炉(S炉)、分離炉(CL炉)、製銅炉(C炉)の各々を樋を介して連結し、連続的に製錬処理を行う方法(いわゆるMI法)が知られている。この方法においては、まず銅精鉱を熔錬炉において熔融して、硫化銅および硫化鉄を主成分とするカワと、原料中の脈石や熔剤や酸化鉄等を主成分とするカラミとを生成する。ついで、カラミとカワを分離炉において分離する。そして、カワを製銅炉において酸化させて粗銅を生産する。こうして得られた粗銅(熔体)を精製炉に収納し、ここで酸化還元を行って銅の品位を向上させる。さらに、この熔体を略直方体形状のアノードに鋳造して、該アノードを電解槽中に挿入して電解精製を行うことで、電気銅が製造される。
【0003】
ところで、電解精製を行うとアノードは電解液中に溶解していき、厚さが徐々に薄くなり薄板状になっていく。アノードが薄くなり過ぎると電解槽に落下するおそれがあるため、アノードがある程度の厚さになったときに、電解精製を終了してアノードを回収する。このとき得られた薄板状のアノード(以下、残基アノードという。重量50〜110kg)は、銅熔錬工程に繰り返されて再度炉内で熔解される。この残基アノードを投入する炉としては、該残基アノードの熔解に熱が必要であることから、熱過剰の製銅炉に投入することが好ましい。しかし、前記薄板状の残基アノードをそのまま製銅炉に投入すると、残基アノードが炉床に衝突して損傷を与えるおそれがある。これに対して、特開平11−1727号公報に開示されているように、残基アノードの先端部を若干折り曲げて、製銅炉内に投入する方法が提案されている。この方法によれば、上述した残基アノードを製銅炉に損傷を与えることなく投入することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、電解精製で使用済みのアノードの中には、電解精製途中で抜き出され、前記残基アノードに比べて厚さや重量の大きいものがある(以下、広義の残基アノードという。)。この広義の残基アノードや、鋳造時の重量や形状が規格外のアノード(以下、廃アノードという)については、上述したように単に先端を折り曲げて、そのまま製銅炉内に投入するだけでは、製銅炉の炉床への衝突を回避することができないという問題があった。
【0005】
これらの重量のあるアノード(重量110kg以上のアノード)は、精製炉に投入していたが、精製炉は熱不足であるので、これらのアノードを熔解するために多量の熱を必要とする。このため、精製炉を加熱するための多量の燃料が必要であり、コスト高になってしまうという問題があった。また、アノードの重量によって、投入する炉を代える必要があるため、作業負担が大きいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、前記広義の残基アノードや廃アノードであっても炉床に損傷を与えることなく炉内に投入することのできるアノードの投入方法または炉の設計方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載した発明は、略矩形板状のアノードの先端部を折り曲げて、該アノードを炉の熔湯内にスロープを介して投入するアノードの投入方法であって、前記熔湯の深さがD(cm)、前記スロープの高さがH(cm)、スロープの傾斜角度がβ(°)、前記アノードの厚さがb(cm)であるときに、前記アノードの折り曲げ角度α(°)と、前記アノードの折り曲げられた先端部の長さc(cm)とを、
式(1):D>A×(csinα/b) B +0.06(H−190)
の関係を満たすように設定することを特徴とする構成とした。ただし、前記A、Bは
式(2):A=−1051(sinβ)2+2028sinβ−839.3
式(3):B=7.378(sinβ)2―11.64sinβ+3.806
により与えられる。
【0008】
上記のように構成すると、アノードの折り曲げ角度αと、先端部の長さcを、上述した式(1)〜式(3)により算出することにより、炉内に投入したアノードが炉床に衝突することを防止できる。したがって、アノード投入により炉床が損傷するおそれがなくなる。また、上述した式(1)〜式(3)は、前記残基アノード(重量50〜110kg)のみならず、この残基アノードよりも重い広義の残基アノードや廃アノード(重量110kg以上)にも適用することができるため、アノードの重量に応じて投入する炉の種類を代える必要がなくなり、工程を簡略化することができる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、前記アノードを投入する炉は、製銅炉であることを特徴とする構成とした。上記のように構成すると、前記アノードを精製炉で熔解するための多量の燃料が不要となる。一方、製銅炉においては、炉内で発熱反応が発生していて熱過剰になっているため、前記アノードを熔解するために加熱する必要が無い。また、前記アノードは、製銅炉の温度を適正温度に保つ冷剤として機能させることができるため、従来使用していた冷剤を不要とすることができる。したがって、コストを大幅に低減することができるとともに、エネルギー的にも効率を良くすることができる。
【0010】
請求項3に記載した発明は、前記スロープの斜度は、50°〜70°であることを特徴とする構成とした。上記のように構成すると、上述した式(1)から式(3)により、前記アノードが炉床に衝突するか否かの判別を極めて高い精度で判別することができる。
【0011】
請求項4に記載した発明は、前記アノードの投入には、硫化銅鉱の製錬における製銅炉の天井または側壁に設けられて、この製銅炉の内外を連通させる開口部と、この開口部に前記製銅炉の内外方向に離間して取り付けられて、前記開口部をそれぞれ独立して開閉する外シャッタおよび内シャッタと、前記開口部内に残基アノードを投入する投入機構とを備えたアノード投入装置を用いることを特徴とする構成とした。
【0012】
上記のように構成すると、外シャッタを開口し、内シャッタを閉鎖した状態で、投入機構によって前記アノードを開口部内に下降させた後、両シャッタの中間に配設された受け取り機構に係合することによりアノードを一旦停止させる。ついで、外シャッタを閉鎖した後に内シャッタを開口して前記アノードを製銅炉内に投入する。このように製銅炉内と外気との間で熱的に遮断した状態でアノードの投入を行うことができるため、製銅炉内の状態を適正な状態に保つことができる。また、前記受け取り機構の位置を調整することにより、前記スロープの高さHを最適な値に調整することができ、アノードの炉床への衝突をより確実に防止することができる。
【0013】
請求項5に記載した発明は、先端部が折り曲げられた略矩形板状のアノードを炉の熔湯内にスロープを介して投入する炉の設計方法であって、前記アノードの折り曲げ角度がα(°)、前記アノードの折り曲げられた先端部の長さがc(cm)、前記アノードの厚さがb(cm)、スロープの傾斜角度がβ(°)であるときに、前記熔湯の深さD(cm)と、前記スロープの高さH(cm)とを、
式(1):D>A×(csinα/b) B +0.06(H−190)
の関係を満たすように設定することを特徴とする構成とした。ただし、前記A、Bは
式(2):A=−1051(sinβ)2+2028sinβ−839.3
式(3):B=7.378(sinβ)2―11.64sinβ+3.806
により与えられる。
【0014】
上記のように構成すると、前記熔湯の深さD(cm)と、前記スロープの高さH(cm)とを、上述した式(1)〜式(3)により算出することにより、炉内に投入したアノードが炉床に衝突することを防止できる。したがって、アノード投入により炉床が損傷するおそれがなくなる。また、上述した式(1)〜式(3)は、前記広義の残基アノードや廃アノードにも適用することができるため、アノードの重量に応じて投入する炉の種類を代える必要が無くなり、工程を簡略化することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態におけるを図面と共に説明する。
図1は本発明の実施の形態におけるアノード1を製銅炉2内に投入する投入装置3の概略断面図である。同図に示したように、この投入装置3は、硫化銅鉱の製錬における製銅炉2の天井に設けられて、この製銅炉2の内外を連通させる貫通孔4と、この貫通孔4の内面に固定された略角筒形状のシュート5と、このシュート5に、前記製銅炉2の内外方向に離間して取り付けられ、かつたがいに独立して開閉される外シャッタ6および内シャッタ7と、前記シュート5の開口端上方までアノード1を搬送する搬送機構(図示せず)を備えている。ここで、前記装置3は、前記シュート5の内面が、製銅炉2の内外を連通させる開口部(スロープ)8となっている。
【0016】
また、この装置3により投入されるアノード1は、略長方形の薄板状に形成され、両肩部に突起が形成されて、この突起の下面が、移送時の取扱いを向上させるための係合部10とされている。
【0017】
そして、このアノード1は、折曲プレス21により、先端部9を折り曲げられる。図2は折曲プレス21の断面図、図3は折曲プレス21の平面図である。折曲プレス21は、第1フレーム22および第2フレーム23と、第1の対の案内部材24および第2の対の案内部材25によって該第1フレーム22および第2フレーム23によって支持された第1保持部材26および第2保持部材27と、第1保持部材26および第2保持部材27にそれぞれ取り付けられて、相互に協同して第1保持部材および第2保持部材を互いに接近させたり離間させる第1油圧シリンダ28および第2油圧シリンダ29を具備している。第1保持部材26は、上側に垂直面30が形成され、下側に傾斜面31が配された押圧面を有しており、第2保持部材27は垂直で第1保持部材の垂直面にのみ対向する押圧面32を有している。この第2保持部材27の下方に配設されているのは、第2フレーム23によって案内され、また第2フレーム23に支持された油圧シリンダ33によって作動される一対の折り曲げ部材34である。各折り曲げ部材34は、第1保持部材26の傾斜面31に合致する傾斜面35を有している。第1保持部材26および第2保持部材27の作動により、アノード1はそれらの間に挟持され、折り曲げ部材34の作動で、アノード1の下端(先端)10が折り曲げ部材34によって第1保持部材26の傾斜面31に対して押圧され、アノード1の下端10が所定の角度α、長さcで折り曲げられる。これらについては詳細を後述する。
【0018】
前記外シャッタ6は、シュート5の上端を閉鎖する板状のシャッタ本体11と、このシャッタ本体11を水平方向に前後動させるエアシリンダ12とから構成されている。
【0019】
これと同様に、内シャッタ7も、シュート5の上下方向略中間位置を閉鎖するシャッタ本体13と、これを駆動するエアシリンダ14とから構成されている。
【0020】
また、前記シュート5には、シャッタ本体11とシャッタ本体13との間において、シュート5内に投入されたアノード1を一端停止させる受取り機構15が設置されている。この受取り機構15は、アノード1の両肩部分に形成された係合部10の間隔よりも僅かに狭い間隔で離間され、シュート5の内部に投入されたアノード1の係合部10に係合する、平行に配置された2本の棒状の突起19を備えている。
また、前記装置3は、アノード1をシュート5内に投入するための投入機構16により投入される。前記投入機構16は、ロッドを上方にして配置された2本の昇降シリンダ17と、この昇降シリンダ17のロッドの下端に設けられ、アノードを把持するチャック18とを備えている。
【0021】
そして、製銅炉2は、内部に中空部を備えた略直方体形状に形成され、この中空部には、銅材を熔解した熔湯20が貯留されている。
前記アノード1は、前記熔湯20の深さがD(cm)、前記シュート5の開口部(スロープ)8の高さがH(cm)、スロープ8の傾斜角度がβ(°)、前記アノード1の厚さがb(cm)であるときに、前記アノード1の折り曲げ角度α(°)と、前記アノード1の折り曲げられた先端部9の長さc(cm)とを、
式(1):D>A×(csinα/b) B +0.06(H−190)
の関係を満たすように設定されている。ただし、前記A、Bは
式(2):A=−1051(sinβ)2+2028sinβ−839.3
式(3):B=7.378(sinβ)2―11.64sinβ+3.806
により与えられる。
【0022】
以下、アノード1を製銅炉2内に投入する方法について説明する。まず、投入機構16のチャック18に把持されたアノード1を、図示しない搬送機構によりシュート5の上方に位置させる。次に、外シャッタ6のエアシリンダ12が収縮してシャッタ本体11を移動させ、シュート5の上端部を開口状態とする。ついで、昇降シリンダ17が伸長してアノード1を下降させた後、チャック18を開放してアノード1をシュート5内に投入する。 すると、アノード1は、その両肩に形成された係合部10が、受取り機構15に備えられた突起19に係合し、シュート5内で一旦停止する。これによって、アノード1の下端が内シャッタ7を損傷することを防止することができる。
【0023】
ついで、エアシリンダ12が伸張して、シャッタ本体11によりシュート5の上端を閉塞した後、内シャッタ7のエアシリンダ14が収縮してシャッタ本体13がシュート5の内部から退避する。そして、受取り機構15の突起19が図示しない移動手段によりアノード1との係合位置から移動する。これにより、突起19とアノード1との係合が解除されて、アノード1が落下する。このようにして、アノード1を、シュート5内を挿通させて製銅炉2の内部に投入することができる。
【0024】
このように、内シャッタ7によりシュート5を閉塞した状態でシュート5内にアノード1を投入した後、外シャッタ6によりシュート5の開口端を閉塞した状態で内シャッタ7を開口させてアノード1を製銅炉2の内部に投入しても、炉床に激突せず、その損傷を防止できる。また、アノード1を製銅炉2の内部に投入しても、炉2内のヒートバランスをほとんど崩すことなく、製錬工程に対する悪影響が防止することができる。すなわち、高品位銅から構成されているアノード1を製銅炉2内に投入して再利用することが可能となり、元々熱余剰の製銅炉の冷剤として活用でき、エネルギー効率を向上することができる。
【0025】
上述したように、アノード1の折り曲げ角度αと、先端部10の長さcとは、上述した式(1)〜式(3)により算出されているため、詳細を後述するように、製銅炉2の熔湯20中に侵入したアノード1に効率的に旋回力が発生し、アノード1が炉床に衝突することを防止できる。したがって、アノード1の投入により炉床が損傷するおそれがなくなる。また、上述した式(1)〜式(3)は、前記残基アノード(重量50〜110kg)のみならず、この残基アノードよりも重い広義の残基アノードや廃アノード(重量110kg以上)にも適用することができるため、アノード1の重量に応じて投入する炉の種類を代える必要がなくなり、工程を簡略化することができる。なお、廃アノードとは、鋳造時にバリや反りが発生したり、不純物の多い少ないといった規格外のアノードや、電解最終段階にまで至らないアノード類を示す。また、式(1)〜式(3)の算出過程については、詳細を後述する。
【0026】
製銅炉2においては、炉内で発熱反応が発生していて熱過剰になっているため、前記アノード1を熔解するために加熱する必要が無い。また、前記アノード1は、製銅炉2の温度を適正温度に保つ冷剤として機能させることができるため、従来使用していた冷剤を不要とすることができる。具体的には、アノードを再熔解するにはアノード1トン当たり180Mcalの熱量が必要である。また、通常、残基アノードと廃アノードを合わせた発生量はアノード生産量の約18%に相当する。それゆえ、例えば、アノードの年間生産量が30万トンの銅製錬所では残基アノードと廃アノードを再熔解するために1年間で約9700Gcalの熱量が必要である。従来のように上記熱量を重油の燃焼熱で補償すると、重油の真発熱量の約50%が上記再熔解に利用可能であるので、約2000m3の重油を燃焼させなければならない。本実施の形態においては、上記再熔解に必要な熱量の全部に製銅炉の余剰熱を用いることができるので、プロセスの熱収支を大幅に改善することができる。したがって、コストを大幅に低減することができるとともに、エネルギー的にも効率を良くすることができる。
【0027】
なお、本実施の形態においては、MI法で使用する製銅炉2にアノード1を投入する場合について説明したが、本発明は、これに限らず、例えば、フラッシュコンバータ法であってもよい。また、アノード1は、製銅炉2内に投入することが好ましいが、これに限らず、転炉、精製炉に投入してもよい。また、アノード1は、廃アノードに限らず、重量のある広義の残基アノード(重量110kg以上)であってもよく、残基アノード(重量50〜110kg)であってもよい。また、アノード1を投入する装置3としては、上述したように外シャッタ6および内シャッタ7を備えているものが好ましいが、上述した式(1)〜式(3)を満たすように設計されていれば、これに限られない。
また、前記スロープ8の斜度は、50°〜70°であることが好ましい。このようにすると、上述した式(1)から式(3)により、前記アノード1が炉床に衝突するか否かの判別を極めて高い精度で判別することができる。
【0028】
また、上述した実施の形態においては、熔湯20の深さDや、スロープの高さH、傾斜角度β、アノード1の厚さbを定数として、アノード1の曲げ角度α、曲げ長さcを算出する場合について説明したが、アノード1の曲げ角度α、曲げ長さcを定数として、スロープ8の高さHや熔湯20の深さDを調整してもよい。このようにしても、アノード1が炉床に衝突することを防止できる。また、装置3が既設置の場合には、受け取り機構15の位置を調整することで、スロープ8の高さHを調整することができる。
【0029】
《実施例》
本発明者は、アノードが炉床に衝突する条件を算出するために模型による実験を行った。以下にその過程を図4〜図14を用いて説明する。
実際のアノード1および投入装置3と物理的に相似なアノード模型40および投入装置模型42を製作するためには、アノード模型40の運動の相似則を予め見極める必要がある。ところが、アノード1が湯面に達するまでと、アノード1が熔湯20に侵入した後とでは、アノード1が主として受ける力が異なっている。そこで、これらを個別に整理して相似条件を求め、その後モデルを統合する。
【0030】
まず、アノード1が湯面に達するまでの工程における、実際のアノード1とアノード模型40との相似条件を求める。ガスゾーンを落下するアノード1には慣性力と重力とが作用する。アノード1の代表長さをLとすると、重力Fgは式(4)、慣性力Fiは式(5)で表される。ここで、ρsはアノード1の密度、vは速度、gは重力加速度を表す。
式(4):Fg=ρs×g×L3
式(5):FL=ρs×L2×v2
実際のアノード1と物理的に相似なアノード模型40を作るには、両者のFg/FLを等しくすればよい。すなわち、アノード模型40のパラメータをプライム(’)で表記すると、式(6)が相似条件である。
式(6):Fg/FL=g×L/v2=g×L’/v’2
【0031】
ここで、アノード模型40の縮尺を1/k倍、落下距離をhとし、エネルギー保存則である式(7)を適用すると、相似条件として式(8)が得られる。
式(7):m×v2/2=m×g×h
式(8):1/k=L’/L=h’/h
それゆえ、1/k倍のアノード模型40は、実際のアノード1の1/k倍の高さから落下させれば良い。
【0032】
アノード1が熔湯20内に侵入した後の相似条件を求める。図4に示すように、熔湯20に侵入した後のアノード1には、主として慣性力Fiと抵抗力Fdが作用する。アノード1と粗銅は密度がほぼ等しいので重力や浮力は不要である。
慣性力Fiと抵抗力Fdはそれぞれ式(9)、式(10)で表される。
式(9):Fi=ρs×L×b×v2
式(10):Fd=ρL×c×L×v2×sinα
ここで、ρLは粗銅の密度を表し、bはアノード1の厚さ、αは曲げ角、cはアノード1の下端から曲げ位置までの距離を表す。bやcの代表寸法をLと別に定義したのは、これらを実験において可変にするためである。
【0033】
実際の投入装置3と力学的に相似な装置模型42を作るには、両者のFd/Fiを等しくすれば良い。さらに、粗銅とアノード1とは密度がほぼ等しい(ρL=ρs)ので、模擬浴41とアノード模型40の密度を等しくすれば相似条件が緩和される。その結果、相似条件として式(11)が得られる。
式(11):Fd/Fi=(c×sinα)/b=(c’×sinα’)/b’
また、アノード模型40の厚さを実際のアノード1の1/K倍とすると、式(12)が成り立つ。
式(12):1/K=b’/b=(c’×sinα’)/(c×sinα)
したがって、曲げ角をα=α’としてアノード模型40を製作した場合、厚みと同じ縮尺率で曲げ位置を決めればよい。要するに、湯深も含めて全体を同じ比率で縮小すればよい。
【0034】
以上の考察を総括すると、以下のようになる。縮尺1/k倍で製作したアノード模型40は、実際のアノード1の1/k倍の高さから落下させれば良い。縮尺1/K倍で製作したアノード模型40は、模型と密度が等しい浴中で実際のアノード1と相似の運動をする。それゆえ、模擬浴41とアノード模型40の密度を等しくして、一切を同じ縮尺1/k=1/Kで製作すればよい。
【0035】
アノード模型40および装置模型42は実際のアノード1および投入装置3の縮尺1/10で製作した。装置模型42の湯深は、実炉湯面上の想定落下点における湯深(約83cm)に倣い、スロープ43の長さは実機3のアノード吊り下げフック18以下の長さに倣った。また、スロープ43の斜度(傾斜角度)は実際のスロープ8と等しい58°の他に、50°、70°で試験した。
アノード模型40はアクリル樹脂(密度約1.18g/cm3)で製作し、模擬浴(熔湯)41にはアクリル樹脂と密度が等しい食塩水を用いた。ただし、静止したアノード模型40が浴中で浮上しないように、食塩水の密度はアクリル樹脂よりわずかに低い1.15g/cm3に調整した。食塩水は透明塩化ビニル製角形水槽(400mmL×250mmW×300mmH)に収容した(図5参照)。
【0036】
アノード模型40は、下端の曲げ部分44がスロープ43の上方を指すように、スロープ43上に配置した。この向きは実際の装置3と同じである。滑落後のアノード模型40の運動は、CCDカメラを用いて毎秒125フレームで撮影した。試験は各模型40とも5回以上行い、画像から侵入深さの平均値を求めた。同一試験条件における侵入深さの変動は概ね±0.5cm以内であった。
実機におけるガスゾーンの高さ(模擬浴41の上面からスロープ43の下端までの高さ)は溶湯の深さDの1倍から5倍に相当する値を採りうる。装置模型42を用いた予察実験の結果によると、ガスゾーンの高さを1×Dから5×Dの間で変化させてもアノード模型40の侵入深さに実験誤差よりも大きな相異が生じなかった。そこで、装置模型42においてガスゾーンの高さを3.5×Dに相当する290mmに固定して、以下の実験を行った。
【0037】
図6は浴中を運動する板厚1mmのアノード模型40の連続写真をトレースした図である。図6の左側には平板アノード模型45の運動、右側には下端から16mmの位置で30°折り曲げたアノード模型40の運動を示した。また、各画像の左下に記した時間は、一番上の写真の撮影時刻を0とした場合の経過時間である。アノード模型40の下端を折り曲げた結果、上向きの旋回力が生じ、水底との衝突が回避されたことがわかる。
【0038】
アノード模型40の厚さb、アノード模型40下端から曲げ位置までの距離c、曲げ角αを変化させて、これらの変数と侵入深さとの関係を調査した。図7は実機同様の58°のスロープ43を用いた場合の結果、図8は50°のスロープ43を用いた場合の結果である。なお、アノード模型40が底面に衝突した事例は×で示した。また、アノード模型40のb、c及び侵入深さの単位はmmで表示した。縮尺1/10のアノード模型40を用いたので、単位をcmに置き換えるだけで実機1におけるこれらの値が得られる。αは特に断りがない限り30°である。さらに、図7,図8の横軸には実機におけるアノード1の重量も記した。ただし、アノード1の見かけ密度を8.0g/cm3 とみなして換算した。これらの図は、cとαを適宜選択すれば鋳造時に生じた廃アノード(350kg)1も製銅炉(C炉)2で処理できることを示している。
【0039】
図7,図8に共通の特徴は以下の3点である。すなわち、
(i)板厚bが増大するほど侵入深さが増す。
(ii)アノード模型40下端から曲げ位置までの距離cが長くなるほど侵入深さが減少する。
(iii)曲げ角度αが増大するほど侵入深さが増大する。
これらのうち、(i)はアノード模型40の慣性力が増大するほど侵入深さが増大することを示しており、(ii)と(iii)はアノード模型40が浴41から受ける抵抗力が増大するほど侵入深さが減少することを示している(式(9)、(10)参照)。
【0040】
一方、図7と図8を比較すると、各模型40ともスロープ43の斜度(傾斜角度)が大きくなるほど深く侵入することがわかる。スロープ43の斜度が70°になると侵入深さが更に増す。その原因は、スロープ43が急峻になるほど浴面に対する侵入角が大きくなり、その分浴中で旋回しなければならない角度が増すことである。ゆえに、スロープ43の斜度を緩めて、処理可能なアノード模型40の形状(c、α)と重量(b)の範囲を広げることが望ましい。
【0041】
侵入深さに及ぼすスロープ43の斜度の影響を総括し、図9に示す。侵入深さはbが大きいほどスロープ43の斜度に敏感になり、逆にcやαが大きいほど鈍感になる。なお、図9には傾き1と2の勾配を三角形で図示した。実験データによると、実際の装置3におけるスロープ8を1°緩くする毎に、実際のアノード1の侵入深さが1−2cm浅くなると考えられる。
【0042】
式(11)に示した無次元数Fd/Fiは模擬浴41に侵入したアノード模型40の運動を支配する重要なパラメータである。端的に示せば、Fd/Fiが増大するほど、アノード模型40の旋回力が増すため侵入深さが浅くなる。スロープ43の斜度が50°、58°、70°の各場合について、侵入深さとFd/Fiとの関係を整理して、順に図10,図11,図12を得た。
【0043】
これらの図は、スロープ模型43の斜度を一定とすると、侵入深さがFd/Fiによってほぼ一意的に決まることを示している。特に斜度が50°および58°の場合は、極めて高い精度で侵入深さの推算と、底面との衝突/非衝突の判別が可能である。一方、斜度が70°の場合はプロットのばらつきが目立ち、衝突/非衝突の判別にもやや難がある。プロットのばらつきの特徴から、抵抗力を受ける面が小さい(cが小さい)ために旋回力の発達が遅いアノード模型40ほど深く侵入する傾向が見られる。ゆえに、斜度70°の事例は安定した旋回運動を実現することの重要性を示している。以上の事情を勘案すれば、斜度70°のプロットを近似する曲線も実用に値する。
【0044】
図13は、スロープの高さ190mmH(基準値)の場合と、スロープ43の高さ240mmH(基準値+50mm)の場合との、侵入深さの比較である。図14は、スロープ43の高さ190mmH(基準値)の場合と、スロープ43の高さ 290mmH(基準値+100mm)の場合との、侵入深さの比較である。これらの図によれば、スロープ43の落差の増加にともなって侵入深さが増大するという一般的傾向が見られる。これらの図の実線を縦軸方向に+3、+6それぞれ平行移動させて、B=A+3、C=A+6の破線をそれぞれ引くと、全てのプロットは破線の下方に位置づけられる。それゆえ、実機においてスロープ8の落差を50cmH、100cmH増加させると、アノード1の侵入深さは3cm、6cm程度増大すると判断できる。
【0045】
以上のようにして、前記アノードの折り曲げ角度がα(°)、前記アノードの折り曲げられた先端部の長さがc(cm)、前記アノードの厚さがb(cm)、スロープの傾斜角度がβ(°)と、前記熔湯の深さD(cm)と、前記スロープの高さH(cm)との関係式として、式(1)〜式(3)を得た。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載した発明によれば、アノードが前記残基アノード(重量50〜110kg)よりも重たい広義の残基アノードや廃アノードを炉内に投入する場合であっても、これらのアノードが炉床に衝突することを防止でき、アノード投入により炉床を損傷するおそれがなくなる。また、アノードの重量に応じて投入する炉の種類を代える必要がなり、工程を簡略化することができる。
【0047】
請求項2に記載した発明によれば、前記アノードを製銅炉の冷剤として使用することができ、これらのアノードを精製炉で熔解するための多量の燃料が不要となるため、コストやエネルギーを大幅に節約することができる。また、前記アノードを再熔解に必要な熱量の全部に製銅炉の余剰熱を用いることができるので、プロセスの熱収支を大幅に改善することができる。
【0048】
請求項3に記載した発明によれば、前記アノードが炉床に衝突するか否かの判別を極めて高い精度で判別することができる。
請求項4に記載した発明によれば、炉内のヒートバランスをほとんど崩すことなく、製錬作業への悪影響を防止することができる。
【0049】
請求項5に記載した発明によれば、アノードが前記残基アノード(重量50〜110kg)よりも重い広義の残基アノードや廃アノードを炉内に投入する場合であっても、これらのアノードが炉床に衝突することを防止でき、アノード投入により炉床を損傷するおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態におけるアノードの投入装置を示す斜視図である。
【図2】 本発明の実施の形態におけるアノードの折曲げ機構を示す正面図である。
【図3】 図2に示す折曲げ機構の平面図である。
【図4】 アノードが受ける力を示す説明図である。
【図5】 実験装置を示す概略断面図である。
【図6】 実験結果を示す説明図である。
【図7】 スロープの傾斜角度58°における、アノードの厚さ、曲げ角度、曲げ長さと侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図8】 スロープの傾斜角度50°における、アノードの厚さ、曲げ角度、曲げ長さと侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図9】 スロープの傾斜角度と侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図10】 スロープの傾斜角度50°における、無次元数Fd/Fiと侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図11】 スロープの傾斜角度58°における、無次元数Fd/Fiと侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図12】 スロープの傾斜角度70°における、無次元数Fd/Fiと侵入深さとの関係を示すグラフである。
【図13】 スロープの落差の違いによる侵入深さの比較を示すグラフである。
【図14】 スロープの落差の違いによる侵入深さの比較を示すグラフである。
【符号の説明】
1 アノード
2 製銅炉
5 シュート
8 開口部(スロープ)
10 先端部
Claims (5)
- 略矩形板状をなすアノードの先端部を折り曲げて、該アノードを炉の熔湯内にスロープを介して投入するアノードの投入方法であって、前記熔湯の深さがD(cm)、前記スロープの高さがH(cm)、スロープの傾斜角度がβ(°)、前記アノードの厚さがb(cm)であるときに、前記アノードの折り曲げ角度α(°)と、前記アノードの折り曲げられた先端部の長さc(cm)とを、
式(1):D>A×(csinα/b) B +0.06(H−190)
の関係を満たすように設定することを特徴とするアノードの投入方法。ただし、前記A、Bは、
式(2):A=−1051(sinβ)2+2028sinβ−839.3
式(3):B=7.378(sinβ)2―11.64sinβ+3.806
により与えられる。 - 前記アノードを投入する炉は、製銅炉であることを特徴とする請求項1に記載のアノードの投入方法。
- 前記スロープの斜度は、50°〜70°であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアノードの投入方法。
- 前記アノードの投入には、硫化銅鉱の製錬における製銅炉の天井または側壁に設けられて、この製銅炉の内外を連通させる開口部と、この開口部に前記製銅炉の内外方向に離間して取り付けられて、前記開口部をそれぞれ独立して開閉する外シャッタおよび内シャッタと、前記開口部内に残基アノードを投入する投入機構とを備えたアノード投入装置を用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のアノードの投入方法。
- 先端部が折り曲げられた略矩形板状のアノードを炉の熔湯内にスロープを介して投入する炉の設計方法であって、前記アノードの折り曲げ角度がα(°)、前記アノードの折り曲げられた先端部の長さがc(cm)、前記アノードの厚さがb(cm)、スロープの傾斜角度がβ(°)であるときに、前記熔湯の深さD(cm)と、前記スロープの高さH(cm)とを、
式(1):D>A×(csinα/b) B +0.06(H−190)
の関係を満たすように設定することを特徴とする炉の設計方法。ただし、前記A、Bは、
式(2):A=−1051(sinβ)2+2028sinβ−839.3
式(3):B=7.378(sinβ)2―11.64sinβ+3.806
により与えられる。
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