JP3724390B2 - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。より詳述すれば、本発明は、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、めっき密着性および摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は塗装後の耐食性に優れるとともに電気めっき鋼板よりも低コストで製造できることから、従来より、自動車や家電製品等に広く使用されている。
【0003】
この合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行った後に合金化炉で加熱し、めっき母材である鋼板に含有されるFeをめっき層中に拡散させ、めっき皮膜全体をZn−Fe合金化することによって、製造される。このめっき皮膜中のFe濃度は、厚さ方向の全域にわたって均一ではなく、一般的に、鋼板に近い部分からめっき表層に向かうにつれてFe濃度が減少する。この合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成するZn−Fe合金には、一般的に、Fe濃度が高いものから順にΓ相、Γ1 相、δ1 相、ζ相がある。
【0004】
一方、例えば自動車用鋼板に求められる性能としては、耐食性とともに、主として、成形性、塗装性、溶接性さらにはめっき密着性等がある。塗装性や溶接性は、それぞれ塗装条件や溶接条件を最適化することによって、ユーザによる使用時に多少なりとも補うことが可能である。しかしながら、成形性やめっき密着性は、めっき鋼板の製造工程においてその良否が決定されてしまい、ユーザによる使用時に補うことは殆どできない。このため、成形性やめっき密着性が良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することは、特に重要な課題である。
【0005】
ここで、鋼板の成形の際に問題となる性能としては、細かく見ると、主にパウダリング性および摺動性を挙げることができる。
前述したΓ相およびΓ1 相は硬く脆い性質であり、例えば合金化溶融亜鉛めっき鋼板が自動車用外装材として使用された場合には、跳ね上げられた小石等の衝突による衝撃により剥離を起こす、いわゆるチッピング現象の起点となる。
【0006】
また、めっき皮膜の表層に生成するζ相は、軟質であることからプレス加工時の金型との摺動抵抗が大きく、加工性を劣化させる原因となる。
Γ相およびΓ1 相の生成を抑制するためには、めっき皮膜中のFe比率を小さくすればよい。しかしながら、めっき皮膜のFe比率を低減すると、めっき皮膜の表層のζ相の生成が助長され、摺動性が劣化してしまう。
【0007】
このように、Γ相、Γ1 相とζ相との双方の生成をいずれも抑制すること、すなわち、めっき皮膜の密着性 (剥離性) と摺動性とをいずれも向上させることは技術的に難しく、その具体的手段はこれまであまり研究されなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
めっきの合金化の際、ζ相の生成温度域である低温域を回避し、比較的高温で処理を行うことにより、皮膜表層のζ相の生成を抑制する方法は既に知られている。例えば特許公報第2770824 号には、溶融めっき浴中のAl濃度、めっき浴への侵入板温、および合金化温度を適度に設定することによりζ相の生成を抑制し、摺動性を向上させる発明が開示されている。
【0009】
摺動性を向上させる手段としてこの他に表面粗度を低下させることが有効であることも知られている。例えば特開平5−331606号公報には、溶融めっき浴中のAl濃度、めっき浴への侵入板温を適度に設定し、合金化温度を比較的低温化することによりめっき表面の平滑性(粗度)を向上させる発明が開示されている。
【0010】
しかし、これらの発明では、摺動性の改善が示されてはいるものの、もうひとつのめっき主要性能である密着性については何ら言及されていない。
一方、特開平5−125485号公報には、母材成分およびめっき浴温度を規定することによって、めっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する発明が開示されているが、加工性に必要なめっき表面の摺動性の改善については何ら言及されていない。
【0011】
また、特開平8−74020 号公報には、めっき密着性を損なうことなく表面平滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する発明が開示されているが、この発明を実施するには2つのめっき浴が必要であるため、工業的規模で実施するには不利である。
【0012】
また、特開平9−241812号公報には、めっき皮膜中の鉄の濃度勾配が表層側から地鉄側に向かって上昇する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。しかし、この鋼板の製造に際しては、溶融亜鉛めっき後のめっき表面に電気Feめっきを行う必要があり、また合金化処理についても現在の実操業レベルと比較してかなり長い時間行う必要がある。このため、現状では量産は極めて困難である。
【0013】
また、特開平2000−17417 号公報には、密着性および摺動性を両立させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されており、めっき表面の凹部の面積率を特定域に規定することによって摺動性が改善されることが示されている。一方、密着性については合金化度 (めっき皮膜中のFeの比率) が8〜13%(本明細書においては特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする)の範囲で良好となると規定しているものの、これは通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板のFe比率であり、現状の合金化溶融亜鉛めっき鋼板と比較し密着性が十分に向上しているとは考えられない。
【0014】
ここに、本発明の目的は、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、めっき密着性および摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、摺動性を向上するためには、めっき表層ζの生成の抑制およびめっき表層の平滑性向上を図り、さらに、耐チッピング性をはじめとするめっき密着性を向上するためには、Γ相およびΓ1 相の生成を抑制するだけでは不十分であり、母材鋼板とめっき相との界面の凹凸を適度な大きさに制御することにより、めっき密着性(特に耐低温チッピング性)とめっき表面摺動性(特に摩擦係数)とがいずれも良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができるという、新規かつ重要な知見に基づいてなされたものである。
【0016】
すなわち、母材とめっき層との界面の凹凸が大きくなるほどめっき密着性が向上する。ただし、界面の凹凸が大きくなるとめっき表面の凹凸(粗度)も大きくなる。一方、めっき皮膜の凹凸が小さいほど摺動性が向上する。このように、めっき皮膜の密着性とめっき表面の摺動性とは二律背反の関係にあるが、めっき浴中のAl濃度および合金化温度をいずれも最適化することによって、めっき皮膜の密着性とめっき表面の摺動性とを高いレベルで両立させることができる。
【0017】
本発明の対象とするのは、めっき付着量:30〜100g/m2、合金化度:8.0〜11.5%、めっき層の表面粗度(Ra):0.9μm以下の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、この鋼板のめっき表面に対し垂直に切断した切断面の観察視野における水平方向基準長さ(L1)と、同一観察視野での同区間における母材とめっき層とがなす界面の接触長さ(L2)との比率(L2/L1)の値が1.015〜1.08であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0018】
ここに、本発明は、Al濃度が0.115〜0.142%であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、下記の(1)式〜(3)式により規定され、かつ524℃以上である合金化温度で合金化処理することを特徴とする上記の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0019】
T1(℃)≧−860 ×Al+600 ・・・・・(1)
T2(℃)≦−860 ×Al+640 ・・・・・(2)
T3(℃)≧ 1500 ×Al+305 ・・・・・(3)
ただし、(1) 式〜(3) 式における「Al」は、めっき浴中に存在するAlの質量%を示す。
【0020】
また、本発明の対象とするのは、めっき付着量:30〜100g/m2、合金化度:8.0〜11.5%、めっき層の表面粗度(Ra):0.9μm以下の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、この鋼板のめっき表面に対し垂直に切断した切断面の観察視野における水平方向基準長さ(L1)と、同一観察視野での同区間における母材とめっき層とがなす界面の接触長さ(L2)との比率(L2/L1)の値が1.015〜1.08であり、さらにめっき母材のP含有量が200ppm以上であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0021】
別の観点からは、本発明は、Al濃度が0.119 〜0.140 質量%であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、下記(4) 式〜(6) 式により規定される合金化温度で合金化処理することを特徴とする上記の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0022】
T1(℃)≧−1600×Al+ 0.1×P+693 ・・・・・(4)
T2(℃)≦−1400×Al+0.05×P+702 ・・・・・(5)
T3(℃)≧ 600×Al+0.05×P+412 ・・・・・(6)
ただし、(4) 式〜(6) 式における「Al」は、めっき浴中に存在するAlの質量%を示し、Pは母材のP含有量を示す。
【0023】
この本発明にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、合金化温度が520 ℃以上であることが望ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の実施の形態を説明する。
本実施の形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、(1) めっき付着量:30〜100g/m2 、(2) 合金化度:8.0 〜11.5%、(3) めっき層の表面粗度 (Ra) :0.9 μm 以下、(4) 任意の断面における母材とめっき層との界面における接触長さ:観察視野水平方向基準長さの1.015 〜1.08倍、(5)Al 濃度が0.115 〜0.142 %であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、(1) 〜(3) 式により規定される合金化温度で合金化処理されてなるものである。以下、これらの発明特定事項(1) 〜(5) について順次説明する。
【0025】
(1) めっき付着量:30〜100 g/m2
めっき付着量が30g/m2未満であると耐食性が低下する。一方、めっき付着量が100 g/m2超であるとパウダリング性が低下する。そこで、本実施の形態では、めっき付着量は、30g/m2以上100g/m2 以下と限定する。
【0026】
(2) 合金化度:8.0 〜11.5%
めっき皮膜と母材である鋼板との界面にΓ1 相が厚く存在すると、めっき密着性および耐パウダリング性が低下する。また、めっき皮膜の合金化度(めっき皮膜中に占めるFeの質量%) が高くなった場合、Γ1 相が厚く成長する。そこで、本実施の形態では合金化度の上限を11.5%と限定する。
【0027】
一方、ζ相が過度にめっき表層に存在すると摺動性が低下する。このζ相はめっき皮膜の合金化度が低くなると存在し易くなる。そこで、本実施の形態では、合金化度の下限を8.0 %と限定する。
【0028】
(3) めっき層の表面粗度 (Ra) :0.9 μm 以下、および(4) 任意の断面における母材とめっき層との界面における接触長さ(L2):観察視野水平方向基準長さ(L1)の1.015 〜1.08倍
本発明者の知見によれば、溶融亜鉛めっき処理後の合金化の際に高温で処理を行うと、合金化の初期反応速度にばらつきが生じ、これにより、界面の凹凸が大きくなる。一方、高温で合金化処理を行うと、めっき自体の表面の粗度(凹凸)が小さくなる。
【0029】
めっき鋼板の表面粗度は、これらめっき皮膜と母材との界面における凹凸と、めっき皮膜の表面における凹凸との和であると考えられる。
本発明者の知見によれば、合金化温度を 510〜520 ℃ (=520 ℃近傍) 以上とすることにより、界面の凹凸を確保しながら、摺動性を良好に保つことができる表面粗度を有する鋼板を製造することができる。このようなめっき層の表面粗度(Ra)としては、0.9 μm 以下であることが望ましい。
【0030】
また、図1は、めっき皮膜−母材界面の断面SEM 像の模式図である。図1には、太線により「めっき皮膜−母材界面長さL2」を示し、横軸には「観察視野水平方向基準長さL1」を示している。
【0031】
めっき皮膜の密着性は、本発明で規定する接触長さ(L2)を満足することにより、めっき皮膜−母材界面条件において良好となる。すなわち、接触長さ(L2)/観察視野水平方向基準長さ(L1)が1.015 未満では十分なアンカー効果を得ることができず、密着性が低下する。一方、接触長さ(L2)/観察視野水平方向基準長さ(L1)が1.08超では、表面粗度が増大するため、摺動性が低下する。このため、本実施の形態では、接触長さ(L2)/観察視野水平方向基準長さ(L1)は1.015 以上1.08以下と限定する。
【0032】
(5)Al 濃度が0.115 〜0.142 %であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、前述した(1) 式〜(3) 式により規定される合金化温度で合金化処理されてなる。
【0033】
めっき皮膜の粗度は、めっき浴中のAl濃度による影響も受けるため、合金化温度のみを管理しても所望の値に制御することはできない。これに対し、本実施の形態では、Al濃度が0.115 〜0.142 %であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、前述した(1) 式〜(3) 式により規定される範囲を満足する合金化温度で合金化処理することにより、良好な性能を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0034】
また、この合金化温度は、めっき表面の粗度を低下させ、プレス加工の際の摩擦抵抗を抑制する観点から524 ℃以上であることが望ましい。一方、めっき皮膜と母材との界面にΓ1 相が厚く存在するとめっき密着性および耐パウダリング性が低下する。非常に高温で合金化処理を行った場合にΓ1 相が厚く成長するため、合金化温度の上限を540 ℃とすることが望ましい。
【0035】
なお、この合金化溶融亜鉛めっき鋼板が、Pを200ppm以上含有するいわゆる高張力鋼を母材鋼板とする場合には、上記(1) 式〜(3) 式により規定される合金化温度ではなくて、下記(4) 〜(6) 式により規定される合金化温度で合金化処理されることが望ましい。すなわち、P添加鋼は、一般の軟鋼と比較すると、合金化反応が進行し難いためである。
【0036】
T1(℃)≧−1600×Al+ 0.1×P+693 ・・・・・(4)
T2(℃)≦−1400×Al+0.05×P+702 ・・・・・(5)
T3(℃)≧ 600×Al+0.05×P+412 ・・・・・(6)
ただし、(4) 〜(6) 式における「Al」は、めっき浴中に存在するAlの質量%を示し、Pは母材のP含有量を示す。
【0037】
このように、本実施の形態により、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、めっき密着性および摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提供される。
【0038】
【実施例】
次に、本発明を実施例1および実施例2を参照しながら、より具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
▲1▼実施方法
めっき母材として0.8mm 厚のIF鋼 (主要添加物成分:C:0.03%、Si:0.01%、Mn:0.27%、P:0.008 %、S:0.002 %) を用い、めっき浴中Al濃度を0.113 〜0.142 %として溶融亜鉛めっきを行った。なお、めっき浴温度は460 ℃であり、めっき浴侵入板温は470 ℃であった。溶融亜鉛めっき後直ちに誘導加熱炉を用いて合金化処理を行った。
【0040】
この際、めっき付着量およびめっき皮膜中のFe濃度を変化させて、サンプルを作成し、下記の評価方法にしたがって評価した。
▲2▼評価方法
(a)めっき皮膜−母材界面長さ
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面SEM 写真(2000 倍程度)のめっきを画像データとしてコンピュータに取り込み、めっき界面および前記界面の両端を結ぶ直線を同一太さ(写真内1μm 相当)の線に模式化した後、画像解析により両者の線の面積比をもって、めっき皮膜−母材長さとした。
【0041】
なお、観察視野水平方向基準長さ(L1)としては倍率2000倍にて1視野あたり50μm ×10視野としL1=0.5mm の値を用いた。
(b)表面粗度
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の中心線平均粗さ(Ra、カットオフ値=0.8mm)を接触式表面粗度計を用いて測定した。
【0042】
(c)耐低温チッピング性
・塗装条件
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成した後、カチオン電着:膜厚20μm を形成し、さらにその電着板に中塗り塗料、上塗り塗料をそれぞれ35μm 塗装した。
【0043】
・グラベロ試験条件:
−20℃、エアー圧3kg/cm2にて玄武岩50g(粒径2.4 〜4.8mm)を塗装したサンプルに垂直に衝突させた後、サンプル表面にテープを貼付した後に剥離し、最大剥離径の10点平均を測定した。
【0044】
評価は次の3投階で行った。
○:剥離径3mm未満
△: 〃 3mm以上5mm未満
×: 〃 5mm以上
上記評価○印が現行の量産品の良好レベルであるため、剥離径3mm未満を満足するか否かを基準として、十分な耐低温チッピング性を有するか否かを判断した。
【0045】
(d)平板摺動性試験
サンプルを25mm×300mm の大きさの板に切断した後、下記条件で平板引抜き試験を行って、摩擦係数を測定した。
【0046】
・塗油条件:蒸気脱脂後に塗油(スギムラ化学製プレトーン303P、5g/m2)し、一晩立てかけた後に、下記条件で平板引抜き試験を行った。
・ビード形状:平−平
・ビード研磨:#1000エメリー
・押さえ圧:8kN
・引き抜き速度:200mm/min 、摺動距離:100mm 、押さえ長さ:50mm
評価は、測定された摩擦係数について下記3段階を基準として行った。
【0047】
◎:摩擦係数0.124 未満
○: 〃 0.125 未満
×: 〃 0.125 以上
上記評価○印が現行の量産品の良好レベルであるため、摩擦係数0.124 未満を満足するか否かを基準として、十分な摺動性を有するか否かを判断した。
【0048】
(e)パウダリング性試験
下記条件による円筒絞り加工後に側壁部にテープを貼付して剥離し、剥離前後における重量変化を測定した。
【0049】
・円筒絞り条件:
ブランク直径90mm、ダイス直径52mm、ポンチ直径50mm、絞り比2.0
評価は、測定された摩擦係数について下記2段階を基準として行った。
【0050】
○:めっき剥離量:15以下(mg/サンプル)
×:めっき剥離量:15超(mg/サンプル)
上記評価○印が現行の実プレスにおいて害を及ぼさないレベルであるため、めっき剥離量:15以下(mg/サンプル) を満足するか否かを基準として、十分なパウダリング性を有するか否かを判断した。
【0051】
(f)皮膜組成
めっき付着量および皮膜中Fe%は、原子吸光法を用い分析した。
これらの試験結果を表1にまとめて示す。
【0052】
【表1】
【0053】
また、図2〜図8は、これらの試験結果をグラフにまとめて示すグラフである。すなわち、図2は、合金化温度と合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜−母材界面の粗さ(L2/L1比)との関係を示すグラフである。図3は、比(L2 /L1) とチッピング剥離径との関係を示すグラフである。図4は、合金化温度とチッピング剥離径との関係を示すグラフである。図5は、合金化温度とめっき表面の粗度Raとの関係を示すグラフである。図6は、めっき表面粗度と摺動性(めっき表面摩擦係数)との関係を示すグラフである。図7は、合金化温度と摺動性(めっき表面摩擦係数)との関係を示すグラフである。さらに、図8は、摺動性、めっき密着性が良好な浴中Al濃度、合金化温度領域を示すグラフである。図中、前述の(1) 式〜(3) 式によってデータを整理して示す。
【0054】
表1および図2〜図8から、本発明で規定する条件を満足することにより、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、めっき密着性および摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供できたことがわかる。
【0055】
(実施例2)
▲1▼実施方法
めっき母材として、表2に示す鋼組成を有する高張力鋼を用い、めっき浴中Al濃度を0.117 〜0.143 で溶融亜鉛めっきを行った。なお、めっき浴温度は460 ℃であり、めっき浴侵入板温は470 ℃であった。溶融亜鉛めっき後直ちに誘導加熱炉を用いて合金化処理を行った。
【0056】
【表2】
【0057】
この際、めっき付着量およびめっき皮膜中のFe濃度を変化させて、めっきおよび合金化処理したサンプルを作成し、下記の評価方法にしたがって評価した。
▲2▼評価方法
(a) めっき皮膜−母材界面長さ
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面SEM 写真(2000 倍程度)のめっきを画像データとしてコンピュータに取り込み、めっき界面および前記界面の両端を結ぶ直線を同一太さ(写真内1μm 相当)の線に模式化した後、画像解析により両者の線の面積比をもって、めっき皮膜−母材長さとした。
【0058】
(b) 表面粗度
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の中心線平均粗さ(Ra、カットオフ値=0.8mm)を接触式表面粗度計にて測定した。
【0059】
(c) 耐低温チッピング性
上記条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成した (脱脂→水洗→化成液に42℃、120 秒浸漬処理→水洗→乾燥) 後、カチオン電着:膜厚20μm を形成し、さらにその電着板に中塗り塗料および上塗り塗料をそれぞれ35μm 塗装した。
【0060】
・グラベロ試験条件:
−20℃、エアー圧2.7kg/cm2 にて玄武岩50g(粒径2.4 〜4.8mm)を塗装したサンプルに垂直に衝突させた後、サンプル表面にテープを貼付して剥離し、最大剥離径10点平均を測定した。そして、評価は次の3投階で行った。
【0061】
○:剥離径3mm未満
△: 〃 3mm以上5mm未満
×: 〃 5mm以上
上記○印が現行の量産の良好レベルであるため、剥離径3mm未満を基準として、十分な耐低温チッピング性を有するか否かを判断した。
【0062】
(d) 平板摺動性試験
サンプルを25mm×300mm の板に切断した後、平板引抜き試験を行って、摩擦係数を測定した。
【0063】
・塗油条件:蒸気脱脂後に塗油(スギムラ化学製プレトーン303P、5g/m2)し、一晩立てかけ後に平板引抜き試験を行った。
・ビード形状:平−平
・ビード研磨:#1000エメリー
・押さえ圧=8kN
・引き抜き速度:200mm/min 、摺動距離:100mm 、押さえ長さ:50mm
評価は、測定された摩擦係数について下記の3段階で行った。
【0064】
◎:摩擦係数0.124 未満
○: 〃 0.125 未満
×: 〃 0.126 以上
上記評価○印が現行の量産品の良好レベルであるため、摩擦係数0.125 未満を満足するか否かを基準として、十分な摺動性を有するか否かを判断した。
【0065】
(e) パウダリング性試験
円筒絞り後側壁部にテープを貼付して剥離し、剥離の前後における重量変化を測定した。
【0066】
円筒絞り条件:ブランク直径90mm、ダイス直径52mm、ボンチ直径50mm、絞り比 2.0
評価は、測定された摩擦係数について下記2段階を基準として行った。
【0067】
○:めっき剥離量:15以下(mg/サンプル)
×:めっき剥離量:15超(mg/サンプル)
上記評価○印が現行の実プレスにおいて害を及ぼさないレベルであるため、めっき剥離量:15以下(mg/サンプル) を満足するか否かを基準として、十分なパウダリング性を有するか否かを判断した。
【0068】
(f)皮膜組成
めっき付着量および皮膜中Fe%は、原子吸光法を用い分析した。
これらの試験結果を表3にまとめて示す。
【0069】
【表3】
【0070】
また、SEM によるめっき皮膜−母材界面の観察結果は図1とほぼ同様であった。また、図9は、浴中Al濃度および合金化温度と皮膜性能との関係 (鋼中P濃度:240ppm、付着量:42〜59g/m2、Fe%:8.3 〜11.5) を示すグラフである。図中、前述の(4) 式〜(6) 式によってデータを整理して示す。
【0071】
表3および図9から、本発明で規定する条件を満足することにより、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、めっき密着性および摺動性に優れた高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供できたことがわかる。
【0072】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明により、例えば自動車用防錆表面処理鋼板として用いるのに好適な、耐チッピング性に代表される優れためっき密着性と、めっき表面が平滑であることに起因した優れた摺動性とをともに兼備した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができた。
【0073】
かかる効果を有する本発明の意義は、極めて著しい。
【図面の簡単な説明】
【図1】めっき皮膜−母材界面の断面SEM 像の模式図である。
【図2】合金化温度と合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜−母材界面の粗さ(L2/L1比)との関係を示すグラフである。
【図3】 L2/L1比とチッピング剥離径との関係を示すグラフである。
【図4】合金化温度とチッピング剥離径との関係を示すグラフである。
【図5】合金化温度とめっき表面の粗度Raとの関係を示すグラフである。
【図6】めっき表面粗度と摺動性(めっき表面摩擦係数)との関係を示すグラフである。
【図7】合金化温度と摺動性との関係を示すグラフである。
【図8】摺動性、めっき密着性が良好な浴中Al濃度、合金化温度領域を示すグラフである。
【図9】浴中Al濃度および合金化温度と皮膜性能との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- めっき付着量:30〜100g/m2、合金化度:8.0〜11.5質量%、めっき層の表面粗度(Ra):0.9μm以下の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板のめっき表面に対し垂直に切断した切断面の観察視野における水平方向基準長さ(L1)と、同一観察視野での同区間における母材とめっき層とがなす界面の接触長さ(L2)との比率(L2/L1)の値が1.015〜1.08である合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、Al濃度が0.115〜0.142質量%であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、下記(1)式〜(3)式により規定される温度T1、T2、T3を満足し、かつ524℃以上である合金化温度で合金化処理することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
T1(℃)≧−860×Al+600 ・・・・・(1)
T2(℃)≦−860×Al+640 ・・・・・(2)
T3(℃)≧1500×Al+305 ・・・・・(3)
ただし、(1)式〜(3)式における「Al」は、めっき浴中に存在するAlの質量%を示す。 - めっき付着量:30〜100g/m2、合金化度:8.0〜11.5質量%、めっき層の表面粗度(Ra):0.9μm以下の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板のめっき表面に対し垂直に切断した切断面の観察視野における水平方向基準長さ(L1)と、同一観察視野での同区間における母材とめっき層とがなす界面の接触長さ(L2)との比率(L2/L1)の値が1.015〜1.08であり、さらにめっき母材のP含有量が200ppm以上である合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、Al濃度が0.119〜0.140質量%であるめっき浴を用いて溶融亜鉛めっきを行った後に、下記(4)式〜(6)式により規定される温度T4、T5、T6を満足する合金化温度で合金化処理することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
T1(℃)≧−1600×Al+0.1×P+693 ・・・・・(4)
T2(℃)≦−1400×Al+0.05×P+702 ・・・・・(5)
T3(℃)≧600×Al+0.05×P+412 ・・・・・(6)
ただし、(4)式〜(6)式における「Al」は、めっき浴中に存在するAlの質量%を示し、Pは母材のP含有量を示す。 - 前記合金化温度は520℃以上である請求項2に記載された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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