JP3718115B2 - 拡散防止層用材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nb3Sn化合物系超電導線において低融点金属の拡散を防止する層となる、TaまたはTa基合金からなる拡散防止層用材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来から、化合物系超電導線の製造においては、例えば、Cuマトリクス中にNb線およびSn線を挿入してなる超電導複合材料と、Cuからなる安定化材とを複合組立した後、断面減少加工(いわゆる線引き加工)し、次いで、熱処理を施して低融点金属であるSnを拡散させてNb 3 Sn超電導化合物を得ている。
【0003】
この熱処理により、低融点金属が安定化材内にまで達して安定化材を汚染し、安定化材の電気伝導性および熱的伝導性が低下し、超電導コイルの働きが不安定になるという影響を及ぼしてしまう恐れがある。そこで、前記超電導複合材と安定化材との間にTaまたはTa基合金からなる拡散防止層を設けることが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、多くの場合、線引き加工後の超電導線の直径は1mm以下であり、内部に組み込まれている拡散防止層であるTaまたはTa基合金の厚さはその1/100以下となる。そのため、線引き加工の際に、TaまたはTa基合金が破断したり、さらには超電導線そのものが破断することがある。
【0005】
以上の点に鑑み、本発明の目的は、超電導線の製造工程における線引きの際に、拡散防止層であるTaまたはTa基合金層、あるいは超電導線そのものの破断を起こさないようにすることができるTaもしくはTa基合金からなる拡散防止層用材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る拡散防止層用材は、化合物系超電導線に含まれる低融点金属が熱処理などにより安定化材に拡散することを防止するために複合組立時に組み込むTaまたはTa基合金からなる拡散防止層用材であって、該拡散防止層用材に含まれる不純物元素であるイットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびトリウム(Th)の合計値が30.5ppb未満であるものである。
【0007】
本発明の請求項2に係る拡散防止層用材は、上記請求項1の拡散防止層用材において、化合物超電導線がNb3Sn化合物系超電導線であるものである。
【0008】
本発明の請求項3に係る拡散防止層用材は、上記請求項2の拡散防止層用材において、化合物超電導線が、SnまたはSn基合金の周囲にNbまたはNb基合金からなるフィラメントを配置してなる複合材から作製されるNb3Sn化合物系超電導線であるものである。
【0009】
本発明の請求項4に係る拡散防止層用材の製造方法は、化合物系超電導線に含まれる低融点金属が熱処理などにより安定化材に拡散することを防止するために複合組立時に組み込むTaまたはTa基合金からなる散防止層用材の製造方法であって、上記TaまたはTa基合金のTa原料としてTa鉱石を還元して得たTa粉末を用い、このTa粉末を電子ビーム溶解して得たインゴットを用いることによって、上記拡散防止層用材に含まれる不純物元素であるイットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびトリウム(Th)の合計値を30.5ppb未満に抑えるものである。
【0010】
本発明の請求項5に係る拡散防止層用材の製造方法は、上記請求項4の拡散防止層用材の製造方法において、電子ビーム溶解を2回以上行うものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、以前超電導線を作製する際に線引き加工によってTaまたはTa基合金からなる拡散防止層が波打ちなどの肌荒れを起こす原因として、Ta結晶粒の結晶方位やその粒径が影響していることを見いだし、拡散防止層用材の厚さ方向に粒径の小さな結晶粒が多数存在すればよいとの知見を得て、特開平10−69823号公報に開示されているように、拡散防止層用材の厚さd、拡散防止層用材の厚さ方向における結晶粒の個数n、結晶粒の平均粒径Rの関係をnR≦d(ただし、n≧10)が成り立つようにすることを提案した。
【0012】
しかし、上記公報に開示された拡散防止層用材を使用しても、図5の横断面図に示すように、場合によっては線引き加工工程で拡散防止層用材の破断7を起こすことが分かった。すなわち、Ta材料の不純物元素量を変化させると線引き加工後の波打ち現象を起こす前に、拡散防止層が破断し、最終寸法まで加工ができないという新たな現象があることが分かった。この現象は拡散防止層の外側に位置するCu安定化材から観察できるとともに、顕微鏡により超電導線の断面で観察することもできる。なお、図5において、1はNbなどのフィラメントを含む超電導複合材、3は安定化材である。
【0013】
本発明者らは、TaまたはTa基合金からなる拡散防止層の破断と該TaまたはTa基合金の不純物元素量との間の相関関係に着目し、拡散防止層用材の不純物元素量を低減化すればよいとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0014】
例えば、Ta材料を作製する際には粗原料として、Taスクラップを使用しているが、この中には添加元素としてTaの結晶粒を微細化させるためにイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などが添加されている場合がある。そのため、Ta材料の製造工程の一つである電子ビーム溶解工程でこれらの元素が残留し、最終製品でもppbオーダで含まれている。これらの元素は酸化物の形でTaの結晶粒界に偏析し、結晶粒界の強度を低下させている。従って、超電導線の線引き加工中に結晶粒界の破断が進行する。
【0015】
本発明の拡散防止層用材は、その作製工程におけるTaまたはTa基合金のインゴットの作製条件を操作することによって、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびトリウム(Th)の合計値が30.5ppb未満であるものである。
【0016】
拡散防止層用材の微量不純物元素の量を、グロー放電質量分析機(FIエレメンタルアナリシス社製、型式:VG9000)を用いて測定した。その測定結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
本発明の拡散防止用材の製造方法としては、TaまたはTa基合金のインゴットを得るために、粗原料として粉末のみを使用し、スクラップを使用しないこととする。
【0019】
Ta粉末の作製はつぎの通りである。すなわち、タンタル鉱石をフッ化カリウムと反応させてフッ化タンタルカリウム(K2TaF7)をつくり、つぎにナトリウムにより還元反応し、Taとフッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)を得る。温水によりKFおよびNaFを除去した後、Taを粉砕、水洗、酸洗し、真空熱処理によりTa粉末を得る。
【0020】
この原料は酸素や窒素などのガス不純物成分量が数千ppmと高いため、その量を低減化させるとともに、一定とするために電子ビーム溶解を行う。電子ビーム溶解は好ましくは2回、さらに好ましくは3回以上行う。電子ビーム溶解によりインゴットを作製した後、冷間鍛造により厚さ30mmのスラブとし、ついで冷間圧延などにより強加工を施して、900〜1100℃の温度範囲で2時間の最終焼鈍を行い、本発明の拡散防止層用材を得る。
【0021】
本発明においては、例えばNb3Sn、Nb3Alなどの化合物超電導線において、図1の断面図に示すように、従来と同様、超電導複合材1と安定化材3との間に本発明の拡散防止層用材2を配して用いることができる。図1に示した化合物超電導線における超電導複合材1は、Nb、SnおよびCuからなるもの、あるいは少なくともNbおよびAlからなるものである。Nb、SnおよびCuからなるものは、特にSnが漏洩しやすい。この点から、本発明の拡散防止層用材はNb3Sn超電導線に用いるのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の拡散防止層用材をNb3Sn超電導線に用いる場合、例えば図3に示すように、超電導複合材1は、SnまたはSn基合金10の周囲のCuマトリクス9中にNbまたはNb基合金からなるフィラメント8を配置している場合、あるいは、図4に示すように、CuおよびSnからなるブロンズマトリクス11中にNbまたはNb基合金からなるフィラメント8を配置している場合などが考えられる。図3に示した超電導複合材1中に含まれるSnの割合は、図4に示した超電導複合材1中に含まれるSnの割合よりも多く、漏洩Sn量が多くなる。この点から、本発明の拡散防止層用材は、図3に示した超電導複合材1を組み込んだNb3Sn超電導線に用いるのが好ましい。
【0023】
【実施例】
以下に、実施例を示すが、本発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1.
表1に示した拡散防止層用材Aにおける製造工程について述べる。
全量に占める割合として、Ta粉末100wt%を溶解原料として用い、電子ビーム溶解を行うことによって製造したTaインゴットを、冷間鍛造により厚さ30mmのスラブとし、1050℃で1時間の中間焼鈍をした。
【0024】
次に、冷間圧延を行い厚さ0.3mmの板材を得、1000℃で2時間、真空中で焼鈍を行った。
【0025】
さらに、この材料を管状に加工し、外径25mm、内径24.4mmのもの10本の拡散防止層用材A1〜A10を得た。
【0026】
また、拡散防止層用材A1〜A10の結晶粒の平均粒径、ビッカース硬さ、機械的特性(降伏強さ、引張り強さ及び伸び)を測定した。平均粒径は拡散防止層用材A1〜A10の板厚方向の断面を研磨し、研磨面を10%HNO3−20%HF−50%H2SO4−10%H2O溶液でエッチングし、結晶組織を現出させ、光学顕微鏡により450倍に拡大して測定した。ビッカース硬さは、松沢精機(株)製、型式:DMH−1を用い、荷重500g、保持時間15秒で測定した。機械的特性はインストロン型引張り試験機((株)オリエンテック製、型式:RTM−1)で測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
実施例2.
表1に示した拡散防止層用材Bにおける製造工程について述べる。
溶解原料としてTa粉末100%を用い、電子ビーム溶解を行って、インゴットを作製した。その他は実施例1と同様にして、拡散防止層用材B1〜B5を得た。また、実施例1と同様に、不純物元素量、結晶粒の平均粒径、ビッカース硬さ、降伏強さ、引張り強さおよび伸びを測定した。それらの結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
実施例3.
表1に示した拡散防止層用材Cにおける製造工程について述べる。
溶解原料としてTa粉末100%を用い、電子ビーム溶解を行って、インゴットを作製した。その他は実施例1と同様にして、拡散防止層用材C1〜C3を得た。また、実施例1と同様に、不純物元素量、結晶粒の平均粒径、ビッカース硬さ、降伏強さ、引張り強さおよび伸びを測定した。それらの結果を表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
比較例1.
表1に示した拡散防止層用材Dおよび拡散防止層用材Eにおける製造工程について述べる。
溶解原料としてTaスクラップ原料100%を用い、電子ビーム溶解を行って、インゴットを作製した。その他は実施例1と同様にして、拡散防止層用材D1〜D5およびE1〜E5を得た。また、実施例1と同様に、不純物元素量、結晶粒の平均粒径、ビッカース硬さ、降伏強さ、引張り強さおよび伸びを測定した。それらの結果を表5に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
実施例4.
上記実施例1ないし3、比較例1で得られたTa拡散防止層用材を含む超電導線を線引き加工した場合のTa拡散防止層用材の破断特性を評価した。
【0035】
図2に示すように、外径40mm、内径25mmのCuからなる安定化材6の内周に拡散防止層用材5を配した管に、Sn線の周囲のCuマトリクス中にNb線を挿入してなる直径7.3mmの超電導複合材4を7本挿入し、組み立てた。
【0036】
次いで、組み立てた超電導線の前駆体を線引き加工し、直径0.7mmの超電導線の母材を得た。通常、この母材に600℃〜750℃の温度で、50時間以上の熱処理を施すことにより、超電導線を得ることができる。
【0037】
ここで、超電導線の母材の断面を光学顕微鏡によって観察し、母材中の拡散防止層用材の破断を評価した。線引き加工工程の早期段階で破断した場合を1、線引き加工工程の終末段階で破断した場合を2、最終段階まで線引き加工ができたが最終検査により著しい破断が観測された場合を3、最終段階まで線引き加工ができ一部に破断が認められた場合を4、最終段階まで線引き加工ができ破断が認められなかった場合を5として評価し、その結果を表2〜5に示した。
【0038】
表1、表2〜5の結果から、Ta層中の不純物元素Y、Hf、ZrおよびThの含有量と破断とは相関があり、これら微量不純物元素の含有量を低減することにより、拡散防止層用材が、線引き加工工程中に破断するのを防止できることが分かる。表1の拡散防止層用材D,Eのように不純物元素Y、Hf、ZrおよびThの含有量の合計が多い場合には、表5のD1〜D5、E1〜E5のTa層の破断評価の点数が示すように信頼性が著しく低下するのに対して、表1の拡散防止層用材A,B,Cのように微量不純物元素の含有量が30.5ppb未満の場合には、表2〜表4のA1〜A10、B1〜B5、C1〜C3に示すように、Ta層の破断評価の点数が示すように信頼性が著しく向上する。
【0039】
なお、本実施例ではTaを用いた例を示したが、Ta基合金、Taを含むクラッド材、Ta基合金を含むクラッド材を用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0040】
また、本実施例ではNb3Sn化合物系超電導線の例を示したが、Nb3Al化合物系超電導線の場合にも同様の効果が得られる。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、化合物系超電導線に含まれる低融点金属が熱処理などにより安定化材に拡散することを防止するために複合組立時に組み込むTaまたはTa基合金からなる拡散防止層用材が、線引き加工工程中に破断するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の拡散防止層用材を用いた化合物超電導線の横断面図である。
【図2】 本発明の拡散防止層用材を用いて組み立てた、線引き加工前の超電導線の横断面図である。
【図3】 線引き加工前の超電導線に組み込む超電導複合材の一構造を示す横断面図である。
【図4】 線引き加工前の超電導線に組み込む超電導複合材の他の構造を示す横断面図である。
【図5】 線引き加工後において、拡散防止層用材が破断した状態を模式的に示す横断面図である。
【符号の説明】
1 超電導複合材、2 拡散防止層用材、3 安定化材、
4 線引き加工前の超電導複合材、5 線引き加工前の拡散防止層用材、
6 線引き加工前の安定化材、7 破断した拡散防止層用材、8 フィラメント、
9 Cuマトリクス、10 SnまたはSn基合金、11 ブロンズマトリクス。
Claims (5)
- 化合物系超電導線に含まれる低融点金属が熱処理などにより安定化材に拡散することを防止するために複合組立時に組み込むTaまたはTa基合金からなる拡散防止層用材であって、該拡散防止層用材に含まれる不純物元素であるイットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびトリウム(Th)の合計値が30.5ppb未満である拡散防止層用材。
- 化合物超電導線がNb3Sn化合物系超電導線である請求項1記載の拡散防止層用材。
- 化合物超電導線が、SnまたはSn基合金の周囲にNbまたはNb基合金からなるフィラメントを配置してなる複合材から作製されるNb3Sn化合物系超電導線である請求項2記載の拡散防止層用材。
- 化合物系超電導線に含まれる低融点金属が熱処理などにより安定化材に拡散することを防止するために複合組立時に組み込むTaまたはTa基合金からなる拡散防止層用材の製造方法であって、上記TaまたはTa基合金のTa原料としてTa鉱石を還元して得たTa粉末を用い、このTa粉末を電子ビーム溶解して得たインゴットを用いることによって、上記拡散防止層用材に含まれる不純物元素であるイットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびトリウム(Th)の合計値を30.5ppb未満に抑える拡散防止層用材の製造方法。
- 電子ビーム溶解を2回以上行う請求項4記載の拡散防止層用材の製造方法。
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