JP3717007B2 - 新規なバリウム粉末製剤、それを用いた上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液、およびこれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なバリウム粉末製剤、それを用いた上部消化管の主として二重造影用極超高濃度バリウム懸濁液であって造影剤として用い、特に早期胃癌、消化性潰瘍の診断領域に適用される極超高濃度バリウム懸濁液、およびこれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食道及び胃十二指腸のX線検査、殊に二重造影には胃管を用いた高度の撮影手技の習得が必要である。原因として、造影剤である硫酸バリウム懸濁液(以下、場合によりバリウムと称すことがある)の朦朧化、胃粘膜への付着過多または不足になり易い等があり、改善が求められて久しいが、中々良いバリウムが市販されていない現状である。最近数年間は高濃度(High Density.HD)をトレード・マークとする新製剤が続々と発売されているが、それらは何れも実用濃度はせいぜい200w/v%前後であり、本質的に言って、前記の欠点は殆ど改善されていない。
【0003】
胃粘膜の環境は特殊で極めて厳しい。遊離の酸、多少の粘液が常に存在する。殊に粘膜表面はそれを保護する粘液層(Mackintoshの Barrier Mucus、勝山の表層粘液ゲル層 Surface Mucous Gel Layer 、SMGL)に被われてその素顔を容易には現さない。従来から定評のあるバリウム濃度140W/V%のバリウム(バリトゲンDX、商品名:株式会社伏見製薬所製)を用いた場合でも、胃管で遊離の胃粘液を除去できたとしても、なかなか上手い二重造影は出来ないので、更に前記粘液層を洗い去る為に、何回も繰り返す激しいローリングを加えなければならなかった。
【0004】
ローリングとは、透視台を水平に倒しておき、患者の体を側臥位になるように90°づつ右と左へ交互に転がすような体位転換操作の事である。また、粘液が多いと、胃管から吸引除去する必要がある。しかし粘稠な胃粘液の吸引除去は実際にはなかなか困難で、胃ゾンデの挿入の難易にも個人差があって、思うようには抜けない事もある。またゾンデ挿入の刺激で、二次的に予期しないような激しい胃液分泌や蠕動を誘発したりして、目的に反する逆の結果になる事すらある。二重造影で必要な空気量も大きい注射器で計りながら胃管から徐々に注入する。この操作中の胃蠕動や粘液分泌を抑制する為に、相当量の副交感神経節遮断剤の筋肉注射、時に静脈注射が予め併用されるのが常である。この様に煩瑣な手技を要する検査法は、実際には一部の専門家にしか実施されていないのが現状である。
【0005】
その詳しい操作を述べた成書、雑誌等の文献量は、我が国では膨大なものになっている。その内容も、例えば、二重造影の際のローリング法も、体位転換の位置、方向、角度等、ストマップと云う図解入りの詳しい解説が屡々述べられている。
【0006】
唯不思議な事に、ローリングの動きの速度について、はっきりと書かれた文献がない。なるべく速く転がすように、揺さぶるようにとか、洗うように、或いはハワイのフラダンスのように腰を振れとか等の表現しかない。詳しく書いてあるように見えるが、甚だ曖昧な表現を含んでいるから、文献通り実施するのに不都合が生ずる。
【0007】
上記のように胃二重造影法は、その手技の個人差が甚だしいのは事実である。複雑な胃粘膜の環境、使用するバリウム濃度の差、又それぞれの造影剤に固有の様々な粘弾性、ローリングの方法の違い等、各種各様の条件が微妙に絡み合っているからである。二重造影のローリングの力学という視点で考えると、バリウム濃度が140W/V%以下の場合は、粘液層を除去する為に、胃粘膜への薄く好ましいバリウムの付着状態になるまで、速い速度のローリングを何回も繰り返して実施する必要がある。しかし、余り繰り返すと、バリウム濃度が粘液との混合で極端に低下してしまって、付着不足と言う失敗も考えられる。
最近新発売の、バリウム濃度が200W/V%以上と称する高濃度製剤の共通の欠点は、沈降しやすくヘドロが溜る事である。これでは粘弾性が高過ぎて流れ難く、逆に厚化粧になり、粘膜ひだは造影するが胃小区は全く出ないと言う結果になる。米国製のバリウム濃度が250W/V%と称する超高濃度製剤(商品名:EZ−HD)はこの傾向があり、ローリングをいくら速くしても何回繰り返しても厚化粧を解消出来ない。
【0008】
中国製のX線双重造影用硫酸バリウム(国営青島東風化工厂制造)が高濃度剤として発売されている。その技術資料には、用途は食道、胃のX線二重造影検査に使用と記載されている。使用前に500gの粉末を適量の水を加えて5分間攪拌すると懸濁液となり、服用時に再攪拌して、均等濃度にし、発泡剤(青島3号)を併用することにより、良い効果が得られると記載されている。バリウム濃度稀釈表をみると、280W/V%300gに水39mlで調整され、その総量は107ml、粘度は〜300厘泊(m・pas秒)となっている。1cp=1m・pas秒であるから、本出願人の極超高濃度バリウムの同じ280W/V%の粘度150cp(表7を参照)の倍の粘度を示している。
本出願人の分析によると比表面積は0.206m2 /gで、粒度分布は10μmに尖鋭なピークを示す大粒子製剤であり小粒子を殆ど含んでいない。その走査型電顕像を見ると天然産の重晶石を砕いた、所謂粉砕粒子製剤である。不明の添加物の添加率は0.05%と極めて小さい。最大の問題点は粉砕粒子であることで、外観白色度が普通の製剤より悪く、純硫酸バリウム以外の好ましくない夾雑物混入の恐れがある。次に、小粒子を含まない為に大粒子の特徴として沈降しやすい欠点は否めない。本件の基本大粒子に良く似ているが、それより稍大きい粒子である。濃度表示法は添加物を無視した算定である。この硫酸バリウムは上記のように見掛け粘度が倍高く、単純な物性しか具備していない。
【0009】
また、高濃度バリウム関連の他の技術が提案されている(特開昭60−54919号公報、レントゲン造影剤中の造影成分として適する、高められた流動性及び密度を有する硫酸バリウムの製造法、この方法によって得られた生成物及びこれから製造されたレントゲン造影剤)。
この技術の要旨は、先ず原料の純硫酸バリウム(合成品)を予め硫酸アンモニウム他の塩類で含浸し、800〜1200℃の高温焼結処理をすると、結晶の角がとれて表面が丸みを帯び平滑になるので、原料のかさ密度を大きく下げることができるというものである。原料の粒度は1〜5μmが好ましく、この処理を施した原料に適当量(3%)の数種の複合助剤を添加した粉末製剤の懸濁液は、濃度200W/V%で、せいぜい1000mPas秒を有することを特徴とするものである。1cp=1m・pas秒であるから、この硫酸バリウムは全く問題にならない高粘度である。また、発明の詳しい説明の欄中で、天然産の重晶石を粉砕した硫酸バリウム、所謂粉砕粒子について『残念なことに医薬書籍(薬局方)の純度要求を一般に満たさない。これは通常余りに多くの重金属を含有する』とイー・ミラー(E.Miller)の説を引用している。
【0010】
また、高濃度バリウム関連の他の技術が提案されている(特開昭60−61537号公報、レントゲン造影剤)。
このレントゲン造影剤は、バリウム懸濁液の粘度を減少し安定性を高める、界面活性剤としてのリグニンスルホン酸、及びクエン酸アルカリを添加した、粒度分布上で大小の双峰性を示す粉末製剤である。従来この二種の添加物は、それぞれ個々に粘度低減効果のあることは公知のことである(前者は西ドイツ特許第2028025号に、後者は米国特許第3216900号)が、両者を併用することによる相乗効果を企図したものである。双峰性の粒度分布についても、1976年の本出願人の大阪医科大学誌第35巻95号を引用して公知としている。
その結果、2.5g/ml(250W/V%)の濃度の粘度が、60秒(DAB8)となっている。前記中国製の硫酸バリウムの250W/V%が80〜110秒であるから、相当低い事は事実としても、260W/V%以上の極超高濃度の粘度については全く記載がなく、臨床使用成績も具体的なことは触れられていない。
【0011】
【発明が解決すべき課題】
本発明の目的は、従来からのバリウムのように、頻回の激しいハイスピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作が無用で、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に抽出できるような、原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の遮断剤の注射も行わないでワンタッチ二重造影法が可能であり、しかも、ハイ・コントラスト、高電圧撮影による朦朧化の低減、粘液量が多い場合でも緩速ローリングの胃粘膜の清掃が達成されるとともに、造影剤の服用量の低減で飲み易く、便秘などの副作用も軽減されるので、検査手技の平易化、患者の身体的な負担の軽減に役立ち、体位転換の困難な老人や重症患者、更に身体障害者等の胃X線検査に有用であり、更に早期胃癌の発見、胃潰瘍等の上部消化管の診断が可能となるような、新規なバリウム粉末製剤、上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液、およびこれらの製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の粒度分布を有する大、中、小の純硫酸バリウム粒子を原料とし、これに天然の長鎖分子構造を有する高分子多糖類であるトラガントとカラギーナンの2種の添加剤を所定の割合で所定量添加し、特定の捏和条件下で捏和することによりトラガントとカラギーナンの分子を適当に切断して各粒子に被覆処理した後、乾燥・消毒して得られる大、中、小の基本バリウム粒子を特定割合で混合して得られるバリウム粉末製剤、このバリウム粉末製剤を水に極超高濃度で懸濁させたバリウム懸濁液により、課題を解決できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の請求項1の発明は、純硫酸バリウムの大粒子、中粒子と小粒子にトラガントおよびカラギーナンから成る複合添加剤を用いて被覆処理された基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1重量比で混合したバリウム粉末製剤であって、原料の純硫酸バリウム粒子は、大粒子、中粒子及び小粒子のいずれもコールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、ピーク値が好ましくは大粒子は8μm、中粒子は2.0〜2. 5μm、小粒子は0.8〜1.0μm、その比表面積の比が大粒子:中粒子:小粒子=1:2.8〜3.3:6.9〜7.5であり、且つ各基本粒子に含まれる前記複合添加剤は、基本大粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:10、基本中粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:9±1、基本小粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:0.9±0.1であり、トラガントの粘度低減効果がカラギーナンの2.5倍として、下記の式で計算した各基本粒子の実効T(トラガント)添加率の比が前記比表面積の比と同じく基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=1:2.8〜3.3:6.9〜7.5であることを特徴とする新規のバリウム製剤である。
式;
実効T添加率=(トラガント添加率)+(カラギーナン添加率)×1/2.5
但し、添加率の単位は重量%である。
【0014】
コールター・カウンターによる粒度分布測定の概略は、0.2μm濾紙を通過させた3. 2%NaCl液を電解質とし、その内部抵抗5〜10KΩ(実測設定)、0.5〜20.2μmを16に分けた各分劃について、細孔(10、30、100μmの3段階)を通過した粒子数を計測する。なお同時通過も補正し、かつ予め測定した上記電解質の バックグラウンド(Back Ground 、僅かに残存する極めて微細な塵粒子)を減算した。通過した全粒子を球と見なし、各分劃毎に通過粒子の表面積と体積を求める。体積に純硫酸バリウムの比重4.5を乗じると重量が分かる。各分劃の表面積と重量をそれぞれ積算して、通過した全粒子の総表面積と総重量が得られる。前者を後者で除したものがm2 /gの単位の比表面積である。ピーク2. 52μmの中粒子の例では、全通過粒子の総表面積は1373206μm2 、また総重量は2050992.9μg、従って、前者を後者で除して比表面積、0.66953m2 /gが得られる。
【0015】
表1にコールター・カウンターを用いて実測した例および中粒子の粒度分布と比表面積の求め方を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
図1に大粒子、中粒子、小粒子の粒度分布を計測し、その計測に基づいて求めた比表面積の関係の例を示す。
【0018】
粉末状バリウム製剤は、従来からよく問題になって来た事柄であるが、製造ロットによって造影能の落ちることがある。粉末製剤の粘度など物理的性質にばらつきが起こり、それが原因で胃粘膜付着性の過不足、朦朧化の増強などをもたらすことがある。原料である純硫酸バリウムはその化学的組成や純度に関しては、日本薬局方によって厳しく規制されているが、粒度や粘度など物理的性状に関する規制は、殆ど無いと言ってもよい程緩やかである。その為か、ロット別の物理的性質のばらつきが実際にはなかなか改善されない。これは使用者側から見れば、積年の未解決課題と言わざるを得ない。本発明においても原料純硫酸バリウムの中粒子と小粒子はロット毎の粒度のばらつきは避けることが出来ず、その結果、請求項2に挙げたような物理的4特性に現れる好ましくない影響に対応する必要が生じた。本発明者は研究の結果、0.8〜20μm位の範囲の粉体である硫酸バリウムを、常に好ましい理想的な粒度分布を示す大、中及び小の3段階に分級する工程が、現在、極めて困難であると言う避け難い現実に直面した。
【0019】
本発明の原料の純硫酸バリウムの大、中及び小粒子の粒度分布の中で、中粒子と小粒子のピークにはそれぞれ好ましくは2.0〜2.5μm、0.8〜1.0μmという巾が設けてある。原料粒子にこの変動の範囲の設定は、ばらつきのある現実を認めた上で対応した工夫で、コールター・カウンターの測定誤差を意味するものではない。大粒子のピークは好ましくは8μmであり、一定であることは、用いた大粒子の純硫酸バリウムがばらつきのない原料であることを意味している。その故に、粒度分布の測定から算出される比表面積も一定になり範囲は設定していない。また大、中、小各粒子の比表面積の比を求める際に、粒度のばらつきのない大粒子の比表面積を基準にした理由でもある。これに反して中粒子と小粒子の原料純硫酸バリウムは、それぞれ上記の範囲のばらつきがあったので、大粒子の比表面積を1とした場合、中粒子のそれは2.8〜3.3倍、小粒子は6.9〜7.5倍の比率になり、中粒子と小粒子の粒度のばらつきに対応して、複合添加物の実効T添加率も特定範囲の変動を余儀なくされた訳である。
【0020】
基本粒子における比表面積対応添加率の粘度低減効果を表2に示す。
原料大粒子の粒度分布はピーク8μmでばらつきがないから、粒度分布実測値から求められる比表面積は0.23m2 /gと単一の数値となる。中粒子の粒度分布ではピークが図1に示すように平坦に近くハッキリしないのと、前述の様に実際に提供される純硫酸バリウムはロットによってピークが変動しており、最大から最小のもの迄の巾は2.5〜2.0μmで、その実測値から計算される比表面積も0.664〜0.759m2 /gの範囲を持つ。従って、大粒子の比表面積0.23m2 /gと中粒子の比表面積との比率も1:2.8〜3.3の範囲になる。中粒子の実効T添加率は、基本大粒子の実効T添加率を1として、その2.8〜3.3倍の範囲の中でなければならない。しかし恣意的にこの範囲内なら何でもいいと言う意味では決してない。あくまで原料中粒子の粒度分布の実測値から求められる比表面積の値が重要で、個々のロット毎の粒度分布を実測し、その変動(ばらつき)に対応して、上記範囲内で変動する比表面積を求め、中粒子への実効T添加率の倍率を選定すべきである。また範囲を示す数値は、最大の中粒子の場合と最小の中粒子の場合の比表面積であり倍率であるから、中間の粒度を示すロットの場合は、上記の範囲内で、実測から計算される異なった中間の比表面積や倍率になる事は当然である。
【0021】
原料小粒子も粒度分布に巾があり、ピークで1.0〜0.8μm、比表面積で1.587〜1.725m2 /gの範囲が設定される。実際の原料小粒子は最小の0.8μmにピークを持ったロットの方が非常に多く、稀にしか1.0μmのロットには遭遇しなかった。従って、大粒子の場合と同様に粒度に巾を持たせないで置いても、実際には余り不都合は起こらないかも知れない。しかし、1.0μm以下の極小粒子は、懸濁した場合、見掛け粘度も上昇しやすく、比表面積も大きく、耐酸性も悪くなり易い。粘度低減効果を高める為には、実効T添加率をより高くしなければならず、それがまた動的弾性率(G’)、動的損失率(G”)、降伏値など押し上げるので、付着過多、粘液による凝集、朦朧化などの要因になり易い。小粒子でも大きい方の1.0μmの場合は、大、中と混合した時の粘度低減効果が、極小のそれよりは優れているばかりでなく、後述の造影能に深く係わる、粘性4係数値も低めに抑える事が出来る大変好ましい原料なのである。このように1.0μmの原料小粒子は望ましい大きさなので、敢えて0.8〜1.0μmの範囲を設定し、以下中粒子の場合と同様に、比表面積にも上記の範囲を設定し、これに対応した大粒子実効T添加率に対する、小粒子実効T添加率を選定する倍率も6.9〜7.5倍となった。ロットによりピークが0.9μmなど中間の場合は、中粒子の場合と同様に、粒度分布の実測によって比表面積を求め、以下中粒子の場合に述べたのと同様に実効T添加率の倍率を選定する。
【0022】
【表2】
【0023】
本発明の請求項2の発明は、請求項1記載のバリウム粉末製剤を水に分散して得られる、下記の物理的特性を有することを特徴とする上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液である。
添加物を含めない純硫酸バリウム重量/容積の%で表示される濃度の範囲は260W/V%から290W/V%である。
見掛け粘度ηap(cp) : 70〜250
降伏値Y0 (dyne/cm2):1.5〜6.6
動的弾性率G’(dyne/cm2) : 5 〜19
動的損失率G”(dyne/cm2) : 1 〜6.2
但し、見掛け粘度は二重円筒型回転粘度計(エミラー型)により、4倍のローターを使用した剪断速度750sec-1、測定温度24±1℃における測定値を示し、その他の測定は円錐−平板型粘度計(島津製レオメーターRM−1型)により、円錐角40 、円錐板半径4cm、円錐先端=平板間距離175μm、トーション・バネ係数2.205×106 (dyne・ cm/rad )、測定温度24±1℃の条件の結果である。動的粘弾性測定用の機器にはキャリメド(英国製)の様な高級機があり、バネでなく空気ベアリングによる応力制御方式の自動化された粘度計であるが、その円錐角10 、円錐先端=平板間距離55μmである。このように円錐平板間の距離が接近し過ぎていると、粗大粒子であるバリウム懸濁液、しかもその極超高濃度のものを計るのには不適当である。上記の島津のレオメーター位の距離の方が、特に動的測定の場合、測定中に起こる無理な接近に起因すると思われる振動波形の揺らぎや、過剰な応力制御による振幅の人工的抑圧現象が起こらず、忠実な粘弾性波形が描かれるように思われる。
上記のG′とG″の値は、平板の振動数が0.55 Hertzにおける測定値である。
ここに挙げた4特性とも、260〜290W/V%の濃度の変動に対応したそれぞれの上限値と下限値を示すものであり、例えば中間の濃度270W/V%の場合は、各係数ともその中間値を示すことは言うまでもない。
【0024】
極超高濃度バリウムの濃度の上限は290W/V%であり、それを越えて300W/V%になると、見掛け粘度は300cp、G′が97dyne/cm2、G″が 87dyne/cm2と急上昇して、比較的低いのは降伏値の12dyne/cm2だけとなり、造影剤として使用は無理となる。極超高濃度バリウムの濃度の下限は260W/V%としてあるが、260W/V%以下でも勿論造影剤として使用できる。好ましいバリウム濃度は270W/V%で、見掛け粘度が100cp前後、降伏値、G”が6dyne/cm2以下と充分低くて流れ易く、G’が時に30dyne/cm2と上がり僅かに付着過多になる傾向がある。特に好ましいバリウム濃度は260W/V%で、降伏値、G″が共に5dyne/cm2以下、見掛け粘度も70cpと、一口で言えば『切れがよく』最も飲用し易い粘弾性係数値である。200〜250W/V%の超高濃度バリウムで、近年市販され一般に良く知られている所謂HD(High Density)高濃度を標榜する数種の製剤は、懸濁安定性が悪くヘドロが生じ易いとか、胃壁付着過剰になり易いとかで、上部消化管の二重造影用製剤として満足すべき性能に達しているものは少ない。本発明の極超高濃度バリウムの懸濁安定性は抜群に優れており、ヘドロは殆ど生じないが、数日放置した場合僅かに生じていても、容器を1〜2分間振盪すれば容易に復元する。レオロジー的に言うと足場構造(Scaffolding Structure )を形成し沈澱しにくいのである。280〜290W/V%の極超高濃度で濃度の上限に近づいても、見掛け粘度的には充分飲用できるが、胃液が少ない場合には、稍厚化粧になる傾向は否めない。逆に胃液が非常に多い患者には適当に薄められる為か、付着性が失われず返って胃小区など良く示現する場合がある。
【0025】
本発明の請求項3の発明は、請求項2記載の極超高濃度バリウム懸濁液の一滴を、シャーレ内のpH1.2の塩酸液に滴下し、シャーレに水平の円運動を加えてよく拡散させた場合(耐酸性滴下試験)、肉眼的に全く凝集を起こさないことを特徴とする上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液である。
但し、対照として、別のシャーレに蒸留水(pH特定せず)を用意し、試料の一滴を滴下して同様に拡散させたものと比較し、両者が見分け難い程度に凝集を起こしていないことが必要である。白壁彦夫の従来の判定法はpH1.3〜pH3.95の範囲で、拡散処置がなく対照(蒸留水のような中性の水)も設けていないので、判定基準は相当ゆるい。因みに、現在市販されている粉末製剤のそれぞれの使用濃度の懸濁液(何れも200W/V%以下)とゾル製剤(145〜100W/V%)について、耐酸性滴下試験を試みると、全く凝集を起こさない銘柄は174W/V%のバリトゲン、ウムブラゾル−Aおよび140W/V%のバリトゲンDXで、合格はこの3銘柄[(株)伏見製薬所]のみである。この耐酸性滴下試験が造影剤にとって、どんなに厳格なものであるかが理解されよう。
【0026】
本発明の請求項4に記載の発明は、基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を後記の(A)〜(C)の工程により製造した後、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比でV型混合器により充分混合し、次いでアトマイザー(例えば、不二パウダル製のアトマイザー)で2次的凝集粒子を分散させ、必要に応じて包装することを特徴とする請求項1記載のバリウム粉末製剤の製造方法である。
【0027】
基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比の混合を選ぶ為に、以下の予備的実験を試みた。三者を種々の組み合わせの比率で混合し、最も粘度(見掛け粘度)低減効果が大きく、且つ同時に造影剤として胃小区示現率の良い組み合わせを探索した。単に物理的に粘度低減効果の最大の組み合わせを求めるよりも遥かに複雑で、臨床治験を繰り返しながら約700回の試作と治験を繰り返した研究の結果、良い組み合わせには濃度段階によっても相違があった。即ち極超高濃度(260 〜290 W/V%)では本発明のように4:2:2の混合、高濃度(160 〜200 W/V%)では3:4:2の大:中:小粒子の混合の組み合わせが良かった。因みに耐酸性滴下試験で凝集を起こさなかった174W/V%バリトゲンは出願者のオリジナルの製剤でやはり、大粒子:中粒子:小粒子=3:4:2になっている。但し、この場合の各粒子はより高率の添加剤が被覆されているので基本粒子ではない。
【0028】
もし基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比を僅かに変更した場合、例えば1.9:1:1とか、2.1:1:1の場合、まず粘度低減効果の最大の比率からずれて最高の見掛け粘度低減効果が得られなくなる。それに加えて、大、中、小混合粉末の懸濁液を考えると、基本中粒子と基本小粒子は、基本大粒子の増減した分だけ相対的に減ったり増えたりする。その結果、例えば基本小粒子と基本中粒子の比率が増すとき(大1.9の場合)、先に述べた造影能にかかわる粘弾性4係数の中、G’、特にG”と降伏値が増し、粘膜へのバリウムの付着過多とか朦朧化の起こる可能性が増し、請求項2に述べた粘弾性4係数値の許容範囲を越えることになる。経験的にも小粒子は混合率の微増でもG’G”を押し上げる。逆に基本小粒子と基本中粒子の比率が減るとき(大2.1の場合)、G’、G”および降伏値の低下、従って胃壁への付着不十分の可能性が起こる。又もし基本中粒子や基本小粒子の割合が、基本大粒子に対して2:1±0.1:1または2:1:1±0.1、更に複雑に2:1±0.1:1±0.1と変わった場合にも、前記の粘弾性4係数の微増か大幅増の何れかの可能性のみで、適度に低減される好都合な可能性は殆ど考えられない。要するに、2:1:1の混合比の変動は3種の基本粒子に相対比的、更には粘弾性係数に多次元的な影響が複雑に絡むので、この比を固定した方が賢明であると考えている。臨床治験も伴うので、妄りに結果の不透明な組み合わせ実験には制約があった。このように基本粒子の混合比変動に対する寛容度は極めて狭い上に、濃度にも適正混合比率の変化と言う制約を受けている。
【0029】
(A)基本大粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本大粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム大粒子のトラガント添加率0.015%、カラギーナン添加率0.15%(両者の比 1:10)で、且つ大粒子に対する粘度低減効果最大の実効T添加率0. 075%を有する複合添加剤を混合する。表2に示す様に、この実効T添加率は基本三粒子の比表面積対応添加率の基準になるもので、現在の8μmピークの原料大粒子のそれを示している。この添加率は、大粒子の比表面積が0.23m2 /gが小さいのに対応した添加率であるので、従来の粉末製剤のそれに比べ極めて小さい。基本三粒子共通の比表面積1m2 当たりの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00325gと言うことになる。即ち3mg強でよいのである。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料大粒子の13.5±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると夏期の暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの大粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で90±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は33±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動がある影響である。捏和開始後40±5分で液状化が起こるが(ニーダーの電流計が下がる)、更に続けて40分以上の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。
(4)そして、捏和によって仕上がった泥状の基本大粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本大粒子を得る。例えばドラム・ドライヤーの仕様は直径52cm、幅50cm、回転速度1回転2分、ドラム表面温度130℃以上がその一例の条件であるが、製造量の多寡、ドライヤーの大きさで仕様は変更される。乾燥前の水懸濁液の濃度は、ドライヤーに多数の細孔から連続滴下したり、或いは下部で接触させる方法等、処理量の多寡よって適当な然るべき接触法を選ぶ。
【0030】
(B)基本中粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本中粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム中粒子のトラガント添加率とカラギーナン添加率の比1:9±1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子で0.075%)に対する中粒子の実効T添加率の比が、大粒子と中粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する。
大粒子と中粒子の比表面積の比に1:2.8〜3.3の変動幅があるのは中粒子の粒度にばらつきのある為であることは既に述べた(詳しい説明は【0019】)。この比率に従って選ばれる中粒子に対する実効T添加率(基本大粒子で0.075%×2.8〜3.3)にも0.21〜0.25%の幅がある。比表面積1m2 当りの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00326gと言うことになるのは基本中粒子の場合も基本大粒子と同じである。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料中粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると、暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの中粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で60±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は37±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動のある影響である。捏和開始後20±5分で液状化が起こる(ニーダーの電流計が下がる)。液状化が大粒子より早く起こるが、更に続けて40分以上の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。液状化後の捏和時間が多少長すぎても温度の上昇がなければ、摩擦抵抗の少ない空回りであり余り支障はない。
(4)そして、捏和で仕上がった泥状の基本中粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本中粒子を得る。ドラム・ドライヤーによる処理等は前記基本大粒子の製造工程と同様である。
【0031】
(C)基本小粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本小粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム小粒子のトラガント添加率とカラギーナン添加率の比1:0.9±0.1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子で0.075%)に対する小粒子の実効T添加率の比が、大粒子と小粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する。
大粒子と小粒子の比表面積の比は1:6.9〜7.5で変動幅があるのは小粒子の粒度にばらつきのある為であることは既に述べた(詳しい説明の【0019】)。この比率に従って選ばれる小粒子に対する実効T添加率(基本大粒子で0.075%×6.9〜7.5)にも0.52〜0.56%の幅がある。比表面積1m2 当りの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00329gと言うことになるのは基本小粒子の場合も基本大粒子や基本中粒子と同じである(小数点以下5桁の微差は実測値の誤差からの計算による為)。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料小粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置し、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると、暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの小粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で90±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は40±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動がある影響である。捏和開始後25±5分で液状化が起こる(電流計が下がる)。液状化が中粒子より稍遅く起こるが、温度上昇は前の大中粒子より高い。液状化後更に続けて60分の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。捏和時間が多少長すぎても抵抗の少ない空回りである限り温度の上昇がなければ良いが、余りそれを続けることは好ましくない。粒子が小さい程、捏和の際の内部摩擦抵抗が大きくなる事を念頭に置いて練り込み過ぎない注意は必要であろう。
(4)そして、捏和によって仕上がった泥状の基本小粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本小粒子を得る。ドラム・ドライヤーによる処理等については、前記基本大中粒子の製造工程と同様である。
【0032】
図2の(A)に小粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。図2の(B)に中粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。図2の(C)に大粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。
【0033】
本発明の請求項5の発明は、請求項1記載のバリウム粉末製剤に所定量の水を加え、懸濁する事を特徴とする請求項2記載の上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液の調製方法である。
【0034】
後述の表7に本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の濃度の範囲、その調製に当たり本発明のバリウム粉末製剤100gに加えられる水分の量ml及び見掛け粘度(ηap)の例を示す。
【0037】
本発明において、原料となる純硫酸バリウムの大、中、小の各粒子にそれぞれトラガントとカラギーナンを所定の割合で混合した複合添加剤を所定量添加して、特定の捏和条件下で捏和することによりトラガントとカラギーナンの分子を適当に切断して各粒子に被覆処理し、予め可能な限り低粘性に仕立てて置く必要がある。低粘性化した、大、中、小の粒子をそれぞれ基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子と称し、この三段階の基本粒子を、適当な比率で混合することにより、後述のローラー・セオリーに従って更なる低粘性化を実現できる。
【0038】
本発明で用いる純硫酸バリウムは水に不溶な粒子であり、比重も4.5と非常に重い。これを沈殿しにくい安定な懸濁液とし、しかも高濃度で低粘性を保たせる為には、元来、負(−)の表面荷電(ζ電位)をしめす粒子の表面を、何らかの添加剤でコーティングして、適当に正(+)の側に変えてやる必要がある。それにより粒子同志の凝集を防ぐことが出来るだけでなく、水素イオン(H+ )が介在する酸性メディウムにおいても、即ちpH1.2と言うような強い胃酸に遭遇しても、決して凝集しないバリウム懸濁液にする事もできる。
【0039】
この為の添加剤は、天然産の多糖類で、前述のトラガントやカラギーナンが最もよい。問題はその添加状態にある。理想的な添加状態を考えてみると、ファン・デル・ワールスの吸着で、添加剤分子が完璧に粒子表面を覆っている事と、分散媒である水の方に添加剤が余分に残っていない事である。天然産多糖類は、アラビア・ゴムや澱粉が代表的な物質であるが、それが糊になる事は周知の事実である。糊とはゾル状の分散系が流れを失いゲル化して粘度が高くなった状態を意味する。
【0040】
トラガントやカラギーナンは、アラビアゴム等よりは遥かに高分子量であるから、分散媒の水に少しでも残っていると、直ちに懸濁液の粘度を上昇させる原因になる。粘度低減と懸濁安定性の為の折角の添加剤が、分散媒の水に残っていると、逆に粘度を押し上げる原因になるのは甚だしく矛盾している。従来のバリウム製剤は、その全部が余分の糊成分を分散媒に含んでおり、無益に粘度を上昇させており、理想の過不足なき添加とは程遠い状態である。
【0041】
特に、バリウム濃度が100〜150W/V%の瓶詰めゾル製剤は、長期間の懸濁安定化の為に分散媒に糊成分を多く含ませてある。バリウムの副作用に便秘はつきものであるが、その主な原因は、分散媒に余分に含まれる添加剤にある。大腸にバリウムが達し、生理的に激しい水分逆吸収を受ける際に、残存する糊成分が、バリウム粒子を兎糞状の大小の硬い塊りに固めるのである。
【0042】
(トラガント・ガムの特性)
トラガント・ガム(以下、トラガントと称す)はイラン、シリヤ、トルコなど中近東の半砂漠地帯に生育するアストラガルス(Astragalus)属の灌木の幹から浸出する水溶性粘質物で、自然乾燥して樹脂状となっている。品質に等級が付けられており、良質で夾雑物も少なく、淡白色で薄い5〜10cmのリボンと呼ばれるものはNO.1〜NO.6迄の高品位を占める。NO.1の分子は4500Å×19Åの細長い形をして分子量も80万以上と大きいから、粘度も約300cpと高い。褐色で1〜5cmの厚く脆いフレークと呼ばれるものは夾雑物も多く低品位である。フレークの品位はNO.26〜28で粘度も約100cpと低い。
【0043】
本発明で用いるトラガントはリボンのNO.1のいわゆる一級品(分子量84万)を用いることが好ましい。この最高級品は、イラン、イラク地域に多く採取されるが、特定地域の原産と言う事で品位の階級が付く訳ではない。最近は価格も上昇し、食品添加物としての使用が困難になっていると言われる。NO.1のような高品位のトラガントを添加した場合、バリウム懸濁液の動的弾性率G′を異常に押し上げる効果がある。見掛け粘度は、確かに非常に下がっても、G′が過剰に上昇し過ぎると、粘膜への付着過多、すなわち厚化粧になり、過ぎたるは及ばざるが如しと言う事になる。
【0044】
トラガントの主成分は、トラガカチンとバソリンで、他に水(10%)、セルロース(4%)、澱粉(3%)、無機質(3%)より成る。主成分トラガカチンはフコース、キシロース、ガラクトウロン酸からなる酸性多糖質と、ガラクトース、アラビノースよりなる中性多糖質との混合物である。バソリンはメチル基を持つ酸性多糖質で、バソリンの脱メチル化によりトラガカチンが生ずると言われる。バソリンは量的にトラガントの60〜70%を占め、水に不溶で膨潤してゲル状となる。トラガカチンは水可溶でコロイド性の親水ゾルをつくる。トラガントは0.5%以上の水溶液で構造粘性(非ニュートン性)を示す。リボンまたはフレークを粉砕すると粘度低下がみられるが、これは機械的衝撃により長鎖の分子構造に、分子開裂を起こす為であると言われている。この事から、添加で捏和という強い機械的外力が加わっても、同様の分子開裂を起こさせる事が充分に期待できるという点で、捏和工程は本発明において重要な意味をもつ。
【0045】
(カラギーナンの特性)
カラギーナンは、紅藻類のスギノリ科のスギノリ属、ツノマタ属、イリデァ属その他を水で抽出した多糖類で、その化学構造はガラクトース2個が1単位となり、多数連鎖状に結合している。白色もしくは淡いベージュ色の粉末で、分子量と粘度はトラガントに比べ低い。一般的に、κ(kappa)型、λ(Lambda)型およびι(Iota)型の3成分(Fraction)の混成物よりなり、単一の構造を持つものは少ないと言われる。分子量は一般的に10万〜80万といわれκ型よりもλ型の方が大きい。
【0046】
本発明に好ましく使用できるカラギーナンとして例えばジェヌゲルCJ(商品名:Jenugel CJ、コベンハーゲン・ペクチン社製)を挙げることができるが、これはカラギーナンの純分はλ型成分が約1/3で、元来フルーツゼリー用のゲル化仕様の混成物であり、夾雑物が多いと言う分析結果であった。λ型カラギーナンは3・6アンヒドロ基を殆ど持たず、ゲル化しにくく、カチオン(K+ ,Ca+ + )による影響が少なく、弾性も小さい等の特徴がある。要するに粘度低減効果はトラガントに相当劣るが、トラガント程には動的弾性率(G′)を過剰に押し上げる事はない性質を有する。トラガントに配合する場合、分子量の高い純粋のκ、λ或いはκι型よりも、適当に低分子量で、むやみにバリウム懸濁液の動的弾性率(G′)を押し上げる事のない、混合型で適度の夾雑物を含むものの方が適しているように考えられる。医薬品でも強心剤など合成の純製品より、生薬の方が薬理作用が緩和で、時と場合によっては実用に適しているのに似ている。
表3にカラギーナンの種類と性状を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
(二種類の複合添加剤)
共に天然産の長鎖分子構造をもつ高分子多糖類であるトラガントとカラギーナンの二種の添加物のそれぞれの特性を生かすような配合比率で複合添加すれば、充分に見掛け粘度を低減させながら、動的弾性率(G′)の過剰な上昇を防ぎ、厚化粧にならない切れのよいバリウム懸濁液を造る事が出来るのである。前者は見掛け粘度を最も効率的に低減出来、後者は動的弾性率(G′)、動的損失率(G″)などの動的特性の低減にも有効である。大、中、小の各原料粒子に、この二種の特性を生かすような配分での複合添加を行う事によって、基本粒子は造影剤として最も適合した粘弾性的特性を付与される。
【0049】
(原料粒子の比表面積に対応した添加率)
粒子の単位重量(1g)当たりの表面積、即ち比表面積は、粒子が小さくなるに従って、飛躍的に増加する。小粒子になる程高率の添加量が必要な半面、大粒子には、極めて低い添加量で済む。原料粒子の粒度分布を計測し、そのデーターから計算された大、中、小の各粒子の比表面積に、正確に比例した添加率を選ぶことが肝要である。
【0050】
(実効T添加率)
本発明においては、トラガントはカラギーナンの2.5倍の粘度低減効果をもつものと仮定し、二種複合添加剤の実効T添加率を決定した。2.5倍の根拠は、前記のジェヌゲルCJのカラギーナンの分子量が33万とみなし、前記NO.1のトラガントのそれが84万なので、両者の分子量の比2.5を採った。
例えば、実効T添加率は次のようにして求めた。結果をまとめて表2に示す。大粒子はトラガント添加率0.015%とカラギーナン0.15%の添加率(トラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:10)であり、カラギーナンは0.15%÷2.5=0.06%がその実効T添加率となる。従って大粒子の複合添加剤の実効T添加率は0.015%+0.06%=0.075%となる(表2を参照)。
【0051】
各粒子の実効T添加率の比は各粒子の比表面積の比と同じく大粒子:中粒子:小粒子=1:3.3:7.5の場合は、大粒子の実効T添加率を1とした時に、中粒子のそれは例えば3.3、小粒子のそれは例えば7.5の比率となるから、中粒子の実効T添加率は0.075%×3.3=0.25%、小粒子の実効T添加率は0.075%×7.5=0.5625%(四捨五入で0.56%)となる。
【0052】
中粒子はトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が凡そ1:10であるから、中粒子の実効T添加率0.25%を満足するためには、中粒子に対するトラガント添加率は0.05%、カラギーナン添加率は0.5%となる。
小粒子はトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が凡そ1:1であるから、小粒子の実効T添加率0.56%を満足するためには、小粒子に対するトラガント添加率は0.4%、カラギーナン添加率は0.4%となる。上記添加率の単位はいずれも重量%である。
【0053】
(捏和法)
本発明においては大、中、小の三段階の純硫酸バリウム粒子に、ニーダー(混練器)を用いて、適量の水を加え、適当な時間と温度条件の下に、それぞれ適量の複合添加剤を練り込む。捏和の工程で、液状化の確認、それ以後の充分な練り込みが重要である。複合添加剤の配分と添加率、加える水量、捏和時間、温度等の諸条件は、大、中、小の各粒子毎に、各々異なった設定が必要である。このようにすることにより従来のバリウムに比べ添加剤の添加率が1/2〜1/3と少ない添加率で、劇的な粘度低減効果を達成した基本粒子が得られる。
表4に示すように、市販バリウムに比べて、本発明における基本粒子の見掛け粘度は1/数100〜1/7と、劇的に粘度が低い。本発明における捏和法による粘度低減効果は他に比肩するものが無い。
【0054】
【表4】
【0055】
(ニーダーの構造)
本発明における捏和は、ニーダーによる物理的な捏和である。図3(A)はニーダーの外観を示す斜視図、図3(B)は心臓部の混練槽1の内部を示す図であり、互いに反対方向に回転する翼状(シグマー型)の二本の羽根2、3でニード(捏和)する。図示しない右側の三相交流電動機から、回転トルクが図示しない減速歯車を通じて、二本の羽根軸2、3に加えられる。羽根の回転速度は互いに異なっており、回転数は約50〜26r.p.mである。二本の羽根2、3がそれぞれ違う速度で回るので、内容が一部に集まらず均等に捏和される。混練槽1の容量は例えば小型ニーダーが3.8リットル、中型が20リットル、大型が60リットルであり、何れも試作用ニーダーである。300リットルの工業用の構造も殆ど同じで、ただ混練槽の横転方式が試験機では手動、工業用は電動片駆動式の相違がある位に過ぎない。因に、60リットルの大型試験機で純硫酸バリウムの小粒子を捏和する場合の純硫酸バリウム量は最大約30kgである。
【0056】
(捏和法の特異性)
何故、前記のように粘度を下げられるかの最大の理由は、添加物が粒子表面に過不足なく付着しているからであると考えられる。換言すると懸濁液の分散媒である水の方には、複合添加剤の成分、糊気が殆ど残っていないので、従来にない極超高濃度でもサラサラで、胃壁を伝わって流れ易いバリウムが得られるということになる。
これをレオロジー的に表現をすれば硫酸バリウム濃度260〜290W/V%において『降伏値が1.5〜6.6(dyne/cm2 )、周波数0.55Hzにおける動的損失率(G″)も1〜6.2(dyne/cm2 )、同じく動的弾性率(G′)も5〜19(dyne/cm2 )と低く、見掛け粘度は70〜250(cp)の範囲に収まり、流動曲線が反時計方向のチクソトロピーかニュートン流動に限りなく近似した低降伏値の曲線を示す』バリウムである。このバリウムは降伏値とG”が共に7(dyne/cm2 )以下と極めて低値で実際の胃透視に携わる臨床家の感覚で云うならば『切れのよいバリウム』の一語に尽きる。
【0057】
更に、分散媒中に糊気の少ないバリウムは大腸に達したとき、正常の生理的現象である水分の逆吸収に逢っても中々塊り難い。即ち従来の糊気の多いバリウム剤とは違い、大腸の逆吸収の環境、たとえばバリウム濃度290W/V%以上のバリウムになっても流動性を保ち得る訳で、非常に便秘が起こり難いのである。又、80歳以上の高齢者がバリウムを誤嚥して気管から肺に入る事がある。此の場合、肺の抹消まで進入したバリウムは中々喀出されず気管枝造影の様相を呈し、二次的肺炎等の感染症を引き起こして重篤な事態に至るおそれがある。直後は難を免れても、従来の糊気の多いバリウムは、肺の深部の肺胞に沈着して生涯排出されずに残る事が時々あった。本発明のバリウムは万一このような誤嚥を起こしても、去痰薬の投与等適当な処置を迅速にとれば、3〜4時間で殆ど完全に肺から除去する事が出来る。その理由は大腸の便秘の場合と同様で、乾燥に近い水分の減少に遭っても、糊気が少なく流動性を失わず、去痰薬がよく効き喀出され易いからである。
【0058】
(捏和法と従来の添加法との比較)
バリウムへの添加剤の添加は水を使用する湿式添加という言葉が、古くから使われてきた。昭和10年代半ば迄は、今日のような製剤はなく、医師が透視前にトラガントやアラビヤゴムと純硫酸バリウム末を一緒に丼鉢に入れて、水を少しづつ加えながら乳棒で練り込んだという歴史がある。バリウム粥(Barium meal )もその頃の名称で、流動しない感じの表現であろう。
【0059】
本発明における捏和法(Neader)と、別の代表的添加法のホモミキサー法(Homo-mixer)の両者によるバリウムの見掛け粘度、降伏値、耐酸性滴下試験の結果を表5に示す。50gのバリウム粉末に水17mlを添加して懸濁させ、バリウム濃度約175W/V%のバリウム試料懸濁液を作り粘度低減効果を比較した。
【0060】
表5に示す本発明に用いる前記基本中粒子(トラガント添加率0.05%、カラギーナン添加率0.4%)およびホモミキサー法により作られた2種のバリウム[商品名:バリトゲンDX(トラガント添加率は凡そ0.5%)およびウムブラゾル−A(コンドロイチン硫酸添加率凡そ1〜2%。実効T添加率に換算すると0.5〜1.0%位)]の三者に用いられる原料の中粒子純硫酸バリウムは、いずれも同じメーカー(株式会社伏見製薬所)のものである。
【0061】
1)ホモミキサー法は、多量の温水(80℃)に純硫酸バリウムとトラガントやコンドロイチン硫酸等の添加物を入れ、そこへ吊したステーターの中の高速回転(3600rpm)する鋼鉄製羽根タービンで激しいジェット流攪拌を起こし、その剪断力を利用した添加方法である。前記バリトゲンDX(以下DXと称す)もウムブラゾル−A(以下ウムブラと称す)もホモミキサー法で作られたものである。NO.1級トラガントを主添加物とするこのDXでは、トラガントをその儘投入したのでは、分子量84万の長鎖分子構造の為に、上手く添加出来ないので、予めNaOHを加える事によって化学的に分断する必要がある。更に、長時間(連続8時間以上)高温槽(80℃以上)中で激しくジェット流攪拌する必要がある。
【0062】
これに対して捏和法では、練り込みに伴う強い剪断力で、長鎖分子に機械的開裂を起こさせるので前処置も不要となり、練り込みも短時間(90±5分以内)で済み、特に加熱する必要性はない。
【0063】
表5に示すようにホモミキサー法によるDXは見掛け粘度128cpで、本発明に用いる捏和法による基本中粒子の18cpに比べ、粘度低減効果は僅か1/7.5に過ぎない。基本中粒子のトラガント添加率は0.05%で、それに複合添加のカラギーナン0.4%を加えた実効T添加率でも0.21%しかない。
DXのトラガント添加率は、約2%以下である。仮にその最小限推測値を0.5%として比較しても、DXは基本中粒子の凡そ2倍強のトラガントを必要とする事になる。
【0064】
高価なトラガントについては、基本中粒子はDXの1/10の少量添加で済むので、比較的安いカラギーナン(前記 Jenugel CJ )が余分(0.5%)に加わっても、基本中粒子の添加物コストは、捏和法の場合はホモミキサー法の凡そ3分の1の計算になる。
【0065】
降伏値も、表5に示すように、捏和法による基本中粒子は精密な円錐−平板型粘度計で計っても零であって、ホモミキサー法のDXの7.9dyne/cm2 とは比較にならぬ程小さい。造影剤の降伏値は低すぎて困ると云う事は全くない。基本中粒子と同一原料であるウムブラの見掛け粘度は50cpで、捏和法による基本中粒子の18cpに比べその粘度低減効果は約1/3である。ウムブラの添加物主剤はコンドロイチン硫酸である。ウムブラの純硫酸バリウム含量は、他剤に比べ最も少なく96%であるので、コンドロイチン硫酸の推測添加率は1〜2%になる。
それを実効T添加率に換算すると(0.5〜1.0)%位になるものと考えられ、捏和法による基本中粒子の実効T添加率0.21%に比べ、約3倍の実効T添加率になる。ウムブラの降伏値は、DXのそれの半分以下の3.5dyne/cm2 と相当に低いが、捏和法による基本中粒子の零には到底及ぶべくもない。耐酸性滴下試験でも、捏和法による基本中粒子は完全に非凝集であった[表5中(−)で示す]が、ホモミキサー法によるDXは僅かに凝集粒を認める[表5中(±)で示す]と云う瑕瑾があった。
【0066】
【表5】
【0067】
2)噴霧乾燥法(Dry-spray )もよく行われている添加法で、添加物を揮発性有機溶媒に溶かしたものと原料純硫酸バリウムの薄い懸濁液とを混ぜて、高圧で細孔から噴霧し、高温(約100〜200℃)の空気中を霧状で落下する乾燥過程で添加すると云う方法である。代表的バリウムとして、バリトップP(商品名、カイゲン社製)がある。バリトップPは1μm以下の小粒子製剤で、本発明に用いる基本小粒子と殆ど同じ粒度分布であるので、両者の見掛け粘度、降伏値、耐酸性滴下試験結果を、前記と同様に同じ濃度条件(50gのバリウム粉末に水17mlを添加して懸濁させた懸濁液について試験した)で比較した結果を表6に示す。
この噴霧乾燥法でも見掛け粘度は基本小粒子の20cpに対し、バリトップPは110cpで、捏和法に比べるとその粘度低減効果は約1/5に過ぎない。降伏値は2.2dyne/cm2 と充分に低いが、耐酸性滴下試験では、相当甚だしい凝集塊を生じ、酸に対して弱いという欠陥がある。捏和法による基本小粒子の耐酸性滴下試験は全く凝集を認めず、降伏値は3.5dyne/cm2 と充分低い。
【0068】
【表6】
【0069】
以上総括すると、捏和法は従来の他の二つ添加法と比べ、見掛け粘度及び降伏値の低減効果において、はたまた耐酸性において、従来法に比べ圧倒的に優位である事が明らかである。
【0070】
(本発明において添加剤の添加率が少なくてすむ事による利点)
市販バリウムの使用説明書に記載されている添加物の率は2〜6%と、本発明における添加剤の添加率の約10倍の高率である。市販バリウムの添加物には、トラガントやカラギーナンのような主な添加剤の他に甘味料、香料、浸透圧調整剤、消泡剤(シリコン)等の副添加剤も含まれている。普通、その内訳は殆ど明示されておらず、実際はどんな配分に成っているか不明である。有効成分の含量、純硫酸バリウム量は明記する義務があり、市販バリウムの場合、純硫酸バリウム量は99〜94%であり、残りの数%が、添加物という情報しか得られない。従って、実効T添加率などは到底計算する事は出来ない。
【0071】
唯、現在の市販バリウムの粘度に関係する主要添加物は、1%〜0.5%位であろうと推測されるので、本発明においては前述のように1/2〜1/3の少添加率で足りると考えたのであるが、この推測添加率は控え目である事を付言する。
このように、本発明において少添加率で済むと云う事は、製造コストの上で非常に有利であり、多量生産する程、ランニングコストの逓減効果が大きくなる。トラガントやカラギーナンのような有限の天然物を消費するので、出来る限り貴重な資源を無駄に使わない点でも、グローバルな資源保護に協力する事になる。
【0072】
【発明の実施の形態】
原料の純硫酸バリウム粒子は、コールター・カウンターにより測定した粒度分布のピーク値が、大粒子は8μm、中粒子は2〜2.5μm、小粒子は0.8〜1μmのものを使用する。それぞれの粒子の粒度分布は図1に例示すように大略正規分布のものを使用する。
【0073】
原料粒子の粒度分布測定の結果から、大、中、小粒子のそれぞれの比表面積を求める。大粒子の比表面積を1とした場合、大、中、小の比は1:2.8〜3.3:6.9〜7.5となるものを使用する。添加剤の添加率の比もこれと全く同一に設定する。但し二種の添加剤を用いる複合添加なので、トラガントの粘度低減効果がカラギーナンの2.5倍と仮定した実効T(トラガント)添加率の比が、上記の比表面積の比に合致するように、両添加物を配合する。但し、中粒子と小粒子の原料は、ロットにより粒度に僅かの変動巾があるので、それに対応した比表面積も変動巾がある。従って、添加剤の添加率もそれに対応して増減させねばならぬが、それには比較的低分子量で粘度への影響の少ないカラギーナンの添加率で加減する。
なお、各基本粒子の製造工程で述べた様に、粒子の大小にかかわらず、その表面積1m2 当たりの実効T添加量は、0.00327±0.00002g、すなわち3.27±0.02mgと極めて厳密に一定に設定されている。
【0074】
ニーダーで複合添加剤の捏和(練り込み)に使用する総水量は、大粒子では重量比で13.5±1%、中および小粒子ではそれぞれ15±1%とする。但し、この総水量は添加剤を膨潤させる為に必要な水、それにバリウム粉末の乾燥度が甚だしい季節に、予めバリウム粉末に噴霧する水も含むので、実際の捏和時に注ぐ水量は、其の分を除いた比較的少量(総水量の約20±5%)となる。
トラガント(一級品)とカラギーナン(前記Jenugel CJ)の粉末を各原料粒子につき、前記表2に示した配分比率で混合し、前記総水量の80±5%の蒸留水を投じ、室温で24時間以上(季節により調節する)膨潤させる。
【0075】
捏和操作はニーダーを回転しながら、各原料粒子、膨潤した添加剤、前記総水量となるような残りの少量の蒸留水の順に逐次投入する。添加物の投入完了時を捏和の開始とみなす。捏和時間は、大粒子は90±5分、中粒子は60±5分、小粒子は90±5分である。
但し、捏和中に、ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が始まる。大粒子の場合は40±5分、中粒子は20±5分、小粒子は25±5分で液状化を認める。この液状化開始後も、大、中粒子は約40分間、小粒子は約60分間の充分な練り込みの継続が必要である。力学的負荷のピークを確認の為に、ニーダーの電動機の交流電流をチェックする。例えば、捏和の開始時には1.6A、ピーク時は2.3Aが流れ、液状化完了時に再び1.6Aに戻る。
【0076】
捏和の温度条件は、開始時25±5℃とし、小粒子の場合は40±2℃迄、中粒子で37±2℃迄、大粒子は33±2℃迄、それぞれ徐々に上昇する。力学的負荷のピークを越えた液状化後の練り込みの間は、温度上昇が緩慢になり、以後は持続が稍低下する。ニーダーの外槽に温度センサーを挿入して、連続的変化をペン・レコーダーに描画し、温度管理をする。
前述のように図2の(A)、(B)、(C)にそれぞれ小粒子、中粒子、大粒子の捏和における時間と温度の関係を示す。
【0077】
捏和により仕上がった泥状の大、中、小の基本粒子は、それぞれ約100W/V%の水懸濁液とした後、ドラム・ドライヤーで加熱乾燥兼消毒処理を行うことにより二次的凝集の少ない、良く乾燥したそれぞれ粉末状の基本粒子が出来上がる。
更に具体的には、捏和で泥状に仕上げられた基本粒子は、一旦水で薄めて約100W/V%の懸濁液とした後、130℃以上の高圧水蒸気で加熱した鋼鉄製のドラム・ドライヤーに順次注いで急速に乾燥すると、よく分散した二次的凝集粒子の少ない乾燥粉末状の基本粒子が得られる。粉末の乾燥及び消毒に適合するドラム表面温度になるように、水蒸気圧とドラム回転数の条件を設定することが好ましい。ドラム回転速度は、極めて緩速で、2分間に1回転程度である。
【0078】
基本粒子を混合して本発明のバリウム粉末製剤を作るために、基本粒子の大、中、小の混合比率は、260〜290(W/V%)の極超高濃度用で基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比とする。
【0079】
大、中、小の基本粒子の混合には、例えばV型混合器で1時間処理する。
混合後、最終の仕上げ段階で、残存する二次的凝集粒子を分散させる為に、例えばアトマイザー(商品名:SAMPLE MILL 、不二パウダル社製KII−1型のスクリーン目を2mmに設定)を通過させることにより本発明のバリウム粉末製剤を作ることができる。
【0080】
本発明において、バリウム粉末製剤を水に懸濁させたバリウム懸濁液の濃度表示は、バリウム懸濁液に含まれる純硫酸バリウム分のみについて重量(g)/容積(ml)×100、即ちW/V%で表示され、その他の添加物重量は厳密に除かれる。本発明のバリウム懸濁液の濃度の範囲、その調製に当たり本発明のバリウム粉末製剤100gに加えられる水分の量ml及び見掛け粘度(ηap)の例を表7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の物理的性状(レオロジー的性状)の例を表8に示す。
【0083】
【表8】
【0084】
但し、見掛け粘度測定は、二重円筒型回転粘度計(エミラー型)により、4倍のローターを使用した剪断速度750Sec-1における測定値を示す。降伏値、G' 、G" などの測定は、円錐−平板型粘度計(島津レオメーターRM−1型)による。G′,G″は粘度計平板の振動周波数が0.55Hertzにおける測定値とする。但し、円錐半径は4cm、円錐角4°、バネ常数2.205×106 (dyne・cm/rad)、円錐端−平板距離175μmでの測定値である。
【0085】
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の一滴を、シャーレ内のpH1.2の塩酸液に滴下し、シャーレに水平の円運動を加えてよく拡散させた場合、肉眼的に全く凝集を起こさない事が条件である(耐酸性滴下試験法)。但し、対照として、蒸留水のシャーレを用意し、同様に滴下した状態と比べて、差のない事を条件とする。
【0086】
(基本粒子の検査)
基本粒子を作った段階でそれぞれの基本粒子の見掛け粘度の測定と耐酸性滴下試験等の必要な物性検査を行う。
A)見掛け粘度
上記の測定条件で行う。
【0087】
B)耐酸性滴下試験はシャーレにpH1.2の塩酸液を用意し、そこへ176±1W/V%の懸濁液(基本粒子粉末50gに蒸留水17mlを添加して懸濁させる)を調製し、その一滴をシャーレに滴下し、直ちにシャーレを水平に素早く円運動させ、滴下した試料を拡散させる。粒状の凝集の有無により判定する。凝集皆無が耐酸性テスト合格の必要条件である。因に、このテストを一般市販製剤について実施すると、バリウム粉末製剤で合格するのは、バリトゲンとウムブラゾルA(商品名、株式会社伏見製薬所製)のみで、バリトップP(商品名、株式会社カイゲン製)は凝集が甚だしかった。
【0088】
この耐酸性滴下試験は1970年に白壁がその著書「胃二重造影法」に提唱した方法を改良したものであり、白壁の場合はpH1.3から3.95であるが、本発明においてはpH1.2とし、対照の蒸留水と全く同様の非凝集性を求める、極めて厳しい判定基準を設定したものである。
【0089】
(ローラー・セオリーと基本粒子の三者混合による粘度低減効果)
このセオリーは、約20年前から発明者が唱導して来た理論で、大小の粒子を例えば6:4などの適当な比率で混合すると、著しく懸濁液の粘度が低減できるというものである。ローラーとは重量物を移動させる時に用いられるコロを意味する英語で、機械の軸受に使われるベアリング効果にも似ている。
【0090】
そして、更に実際の胃粘膜の微細な凹凸の変化(胃小区像)を克明に二重造影で描写する為には、その後の研究で、大粒子と小粒子の二者混合より、特定の大粒子、中粒子、小粒子の三者混合の方が優れていることを見いだした。その混合比率も極超高濃度バリウム懸濁液とするために、特定の小範囲に調整する必要があった。これらの基本粒子を混合し、二次的凝集粒子を再分散させて得られる本発明のバリウム粉末製剤は、適宜包装処理してよく、例えば一部の市販製剤と同様のインスタント調製の可能な容器にいれる事もできる。
【0091】
(良い造影剤としての物理的条件等の検定)
最終的に上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液として適当なものであるかを、次項の検査項目につき、バリウム粉末製剤のロット毎に試験して造影剤として不適等なものは除外する。
a)見掛け粘度測定(エミラー型粘度計4倍ローターで測定)
b)耐酸性滴下試験
c)静的測定:降伏値等を円錐−平板型粘度計で計測し流動曲線の作図
d)動的測定:動的弾性率(G′)及び動的損失率(G″)を同上型の粘度計で計測し粘弾性の周波数依存曲線の作図
e)細菌学的検査[(株)伏見製薬所の基準による]
【0092】
(硫酸バリウム懸濁液のレオロジー)
角砂糖を水に入れてかき混ぜると、澄んだ溶液になる。砂糖の分子と水の分子とはよく混じりあって、どの部分をとっても均質な単一の相になっている。このような溶液の粘性は純粘性(pure viscous)で単純なものである。しかし、水に溶けない物質、例えば粘土の塊を水に入れてかき混ぜると、濁った液になる。これは光学顕微鏡で見える程度の、或いは見えないにしても砂糖などの分子に比べれば、はるかに大きい粒子、“粗大粒子”となって水中に漂っている。この場合、水という連続相と、粘土の粒子という不連続相の二つの相からなる懸濁液(suspension)となるのである。硫酸バリウムも水に不溶で粘土と同様に、粗大粒子の水懸濁液となる。オストワルド(Ostwald)はこのような2相をもつ系を分散系と称した。一般に分散系における粒子の大きさと形態は、その系のレオロジー的性質に対してきわめて重要な影響をもっていると言われている。電顕像で見た硫酸バリウムの粒子径は0.1μmから数+μm程度であって、勿論、砂糖分子よりはるかに大きく、コロイド次元(いわゆる高分子化合物)の粒子より更にやや大きい。このように硫酸バリウム懸濁液は粗大粒子分散系に属し、粒子が粗大である故に色々の非ニュートン的現象が見られる。
【0093】
(レオロジーの静的測定法、見掛け粘度)
レオロジー的粘度測定は、試料の一定の速さの流れ、即ち定常流についての静的測定法による。図4に示すエミラー型の二重円筒回転粘度計を用い、内筒4(モーター5を含む部分と一体構造をなしてトーション・バネ6で吊してあるローター)を一定の速度[剪断速度Shearing rate 、D、図4中の式(1)で計算される)で回転させ、試料7を介して内筒4の受ける剪断応力(Shearing Stress 、S、図4中の式(2)で計算される]が、バネ6の捻れ角αに応じて振れる図示しない指針に表示される。チクソトロピー(揺変性流動)のある場合は、回転開始のスイッチをオンすると、暫く指針が下降を続ける。約10秒回し続けて指針が一定の値に落ち着いた点の値を読む。この粘度計は内筒のサイズが9段階揃えてあり、最も細いものには100倍、最も太いのには1倍を、指針の読み値のそれぞれに掛けて見掛け粘度(S/D、cp単位)が求められる。直読式の実用に便利な機器である。外筒8の外側を囲む図示しない恒温槽を利用し、常に24±1℃で測定した。
【0094】
(静的測定法による流動曲線)
剪断速度を段階的(10点)に上昇、及び下降させる事の出来る本格的な円錐−平板型粘度計(津島RM−1型)によって描いた。剪断速度(sec-1)の増減に対応する剪断応力(dyne/cm2 )を測定した。図5の(A)に示すように回転速度を次第に上昇する過程の上昇曲線と、減少する過程の下降曲線とで履歴曲線(Hystelesis loop )を描く。これが流動曲線(Flow curve)で、下降部分は殆ど直線を示すのが特徴的で、その延長と横軸(Stress軸)との交点が降伏値Yo(Yield value or Yield stress )である。それは応力の単位(dyne/cm2 )で表示される。
【0095】
(非ニュートン流体の流動曲線)
硫酸バリウムのような粗大粒子の高濃度懸濁液は、降伏値を持つ異常(構造)粘性を呈し、そのような非ニュートン流体の流動曲線の上昇部分のみを図5の(B)に示した。
図5の(B)の(a)は降伏値は持たない特殊な非ニュートン流動、(a′)は降伏値を伴う一般的非ニュートン流動で擬塑性流動(Pseudoplastic Flow)と呼ばれる。剪断速度の上昇に比べ剪断応力の上昇が鈍い、即ちチクソトロピー(Thixotropy、揺変性流動)で、構造破壊過程に外ならない。バリウムで良質のものは殆どこの(a′)型である。(b)は降伏値を持つがチクソトロピーを伴わず、上昇曲線と下降曲線が重なって直線になる塑性流動(Plastic Flow) で、粘土とか高分子のプラスティクなど可塑性の固体によく見られる。但し、非常に降伏値が低く、限りなく上昇下降両曲線が接近して直線になる型は、流動性がよくバリウムとして良質なものがあり、ニュートン流動に限りなく近いニュートン流動近似曲線とも言える。(c)の降伏値を伴って上昇曲線が上方に凸の流動はダイラタンシーである。粘度計の回転数を上げる、即ち剪断速度が上がるに従って、剪断応力もどんどん増す流動曲線で、これ正にチクソトロピーとは正反対の粘性挙動である。大部分のバリウム懸濁液は、濃度が極端に高くなると最後にはダイラタンシーになり、粘度計はストレスに堪えられずに停止するか、異常振動を起こして破壊される。
【0096】
バリウム懸濁液はダイラタンシーを起こすような濃度では使用不可能になる。造影剤として最も好ましい静的特性は、降伏値が出来るだけ低い事、ニュートン流動近似曲線でありながら僅かのチクソトロピーを同時に保っている事である。エミラ型の4倍ローターの見掛け粘度は、50〜300cp、最も好ましくは70〜100cpの間であるが、降伏値やG′,G″数値のように厳しい低値を採らせる必要は必ずしもない。50cp以下では懸濁性が悪くなり沈殿しやすく使い難くなる。100cp以上250cp迄は、降伏値が7(dyne/cm2) 以下と充分低ければ、余り飲みにくい訳ではなく、許容される見掛け粘度である。250cpを超えると服用しにくくなり、300cp以上は服用させるべきではない。
【0097】
(動的測定法による周波数依存曲線)
図6に示す円錐−平板型粘度計(島津レオメーターRM1型)では、平板9(Plate)に、水平方向の一定の捻れ角α(radian)で、0.175〜0.9(Hertz )の間の5段階の周波数の振動を与える。試料バリウム7を介して円錐10(cone)の方にも、別の捻れ角β(radian)の同じ振動数の振動が誘起される。図示しないペン・レコーダー記録紙上の二つの振動の正弦波形出力を、その高調波成分を除いた基本波成分について、両正弦波の位相差(φ)と振幅比(Ρ)とを、図上の計測によって求めた。11はトーションワイヤである。ここに得たφとPの値を、同図に示した円錐に関する運動方程式から導かれた二つの式(3)、(4)に代入して、5段階の各周波数における動的弾性率(G′)、動的損失率(G″)を求めた。更に式(5)、η′=G″/ω(poise )の関係式から動的粘性率(η′)も求められた。振動周波数を横軸(Hz)に、G′G″,η′の値を縦軸(dyne/cm2 & poise)にプロットして、三係数の周波数依存曲線を描いた。
動的弾性率(G′)や動的損失率(G″)の計算式は、図6に示したように、三角関数を含むものの、余り難しいものではなく、計算式のプログラムを記憶させた卓上電子計算機に、計測データを入力して簡単に求める事が出来る。
図7に極超高濃度バリウム懸濁液のG′G″,η′の周波数依存曲線の例を示す。
η’は図6中の式(5)で求められる動的粘性率(poise)を表す。
【0098】
高調波成分の除去には、低周波側の2段、0.175Hzと0.375Hzの僅かな正弦波形の歪みを、目測で正しい正弦波形に修正するに止めた。過去の研究過程に於いて、小野測器製のFFTアナライザ(Fast Fourier Transform Analyser )を利用して、毎秒2000点の極めて微細な波形分析による高調波除去、基本波の識別を実施していたが、1Hz以下の極く低い周波数帯の高調波は、余り細かい時定数の解析をする必要がなく、又、正弦波の非線形化の原因は、極超高濃度バリウムに特有の構造粘性、即ち非ニュートン性に起因するようにも考えられた。それ故に、肉眼的に明らかに正弦波ではないと識別出来る波形についてのみ、振幅に変更を加えないように留意して、記録紙上の正弦波形を雲型定規等を用いて修正した。動的粘弾性率G′と動的損失率G″の係数値は、0.55Hzの測定値で代表させた。
【0099】
(極超高濃度バリウム懸濁液のバリウム濃度の表示法)
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液のバリウム濃度(W/V%)は下記の計算式より算出したものである。
【0100】
【0101】
但し、
a:純硫酸バリウムの重量(g)、b:添加物の重量、c:付加する水の重量
Va:純硫酸バリウムの懸濁液中の容積、純硫酸バリウム(比重4.5)のa(g)は0.222 ×a(ml)である。
Vb:添加物の占める容積、この場合の添加物の比重は1.0と仮定する。
【0102】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の調製はインスタントに調製できる)
病院等の実際の使用に際しては、プラスティック・カップ詰めなどの本発明のバリウム粉末製剤に、指定量の水道水を注いで密栓した後に、よく振盪するだけで、260〜290W/V%の極超高濃度懸濁液がインスタントに調製できる。
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液は、懸濁安定性も良く、数日の冷蔵保管後も、同様に容器をよく振盪するだけで均等に分散させることができる。数年来、内外の新発売高濃度バリウムが次々登場していて、インスタント調製が可能なものもある。しかしそれらは懸濁液の安定性が悪く、ヘドロが容器の底に溜り易いという共通した欠点がある為、二重造影も厚化粧になり一般の評価は低い。よく振盪すると云っても、激しく高速で振るとか、超音波を掛けたりすると、かえって粘度が上昇する事もある。その理由は恐らく自然凝集している1μm以下の極小粒子を、過度に分散させる為ではないかと考えられる。従って、調製時の振盪は水平に回すようには充分動かしてよいが、上下に激しく振るバーテンダー式の攪拌の直後の使用は好ましくなく、その後1〜2時間してから使用する方がよい。
【0103】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液を用いた二重造影原理)
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の特徴は、極超高濃度なのに厚化粧にならず、胃粘膜表面の保護粘液を押し退けつつ(清掃流 Sweeping Flow)容易に流れ、薄く広がって付着する点にある。図8の(A)、(B)に示すように、260W/V%以上の極超高濃度バリウム懸濁液は、100W/V%の比重の約2倍近く重く、二重造影のローリングの力学を考えると、この重量差が粘液排除に非常に有効に働くのである。従来の濃度のバリウムでは、激しく速く洗っても(洗浄流 Washing Flow )、一回だけでは粘液の表層部分を少ししか排除できず、何度も繰り返す必要があった。それに対して極超高濃度バリウム懸濁液の合成ヴェクトルは粘液層深部へ向かい、掘り進むような力が働くから、粘液排除効率は重量差の単純計算以上に大きい。
【0104】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の役割は胃粘膜の清掃)
胃粘膜の環境は特殊で極めて厳しい。遊離の酸、多少の粘液が常に存在する。殊に粘膜表面はそれを保護する粘液層に被われてその素顔を容易には現さない。従来の140W/V%の前記バリトゲンDXの場合、前記のように胃管で遊離の胃粘液を除去できたとしても、なかなか上手い二重造影は出来ず、粘液層を洗い去る為に、何回も繰り返す激しいローリングを加えなければならないという問題があった。
【0105】
何の目的でローリングするかをもう一度、問い直して見ると、胃粘膜面をくまなく被っている保護粘液層を除去して、好ましいバリウム付着状態を実現する為である。粘液の除去操作に関しては、バリウム懸濁液の比重即ちその重力ポテンシャルと、ローリングによって胃粘膜上をバリウムが移動する加速度のトルクと云う二つの力学的因子が深く係わっている。
マッキントッシュ(Mackintosh)の豚胃の実験によると、バリウムの胃小区造影に好ましい付着は、図8の(B)に示すように粘液層を押し退けた後の粘膜表面に薄く付着した状態であるという。この実験は二重造影の原理を解明する上で重要な意義を持つものである。
【0106】
発明者はこの原理を踏まえて、臨床検査時のローリング速度とバリウム濃度との相関関係について二重造影原理の力学的解析を試みた。バリウム懸濁液の比重はバリウム濃度が高濃度になる程増加するので、濃度別の比重を表9に示し、次のように考察した。
【0107】
図9は胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図である。
【0108】
【表9】
【0109】
バリウムの重力ポテンシャルは、バリウム懸濁液の比重に依って決まる。比重が倍ならばポテンシャルも倍になる。280W/V%のバリウム懸濁液は前記バリトゲンゾル100W/V%の約2倍の比重を持つ。従って、図9の(A)に示すように、前者は後者の2〜3倍のローリング速度でローリングしても、胃粘膜表面への合成ベクトルは水平に近い方向になり、粘液除去に効果的な角度にならないのに対して、図9の(B)に示すように、実際に前者は後者の1/2〜1/3のローリング速度で、より粘液除去に効果的な角度から、同程度の剪断力を、粘液層の深部に向かって作用させる事が出来ると考えられる。このことは無胃管法の260W/V%の極超高濃度バリウムの造影で、背臥位から右下側臥位、次に再び背臥位と唯一回の体位転換に、片道2秒の超緩速ローリングで(角速度では45°/秒)A−クラス胃小区示現率が最近100%近くと撮影されている事により、立証されたものと確信する。
【0110】
極超高濃度バリウムが胃二重造影法で演ずる役割は、コントラストを増強する事の外に、胃粘膜面を緩速ローリングで清掃するという、従来、誰も余り考えなかった意外な働きであったのである。但し、上記の清掃力を保つ必須の条件として、バリウムが粘液を清掃した後に、直ちにその大部分が流れ去って、前記図8(B)に示すように薄化粧になる事が求められる。その為、見掛け粘度ηap、降伏値Yo、動的弾性率G′と動的損失率G″の4特性が、前述の程度の低い値を採るような“切れの良さ”と、耐酸性も充分良いという条件が必要となるのである。
【0111】
(極超高濃度バリウムは超緩速ローリングでよい)
ローリングの動きの速度について、はっきりと書かれた文献がない。ローリングの速さは円弧運動の速度であるから、角速度即ち毎秒何度と表10に示すように表現するのが最も科学的で、且つ実際に適合している。
【0112】
【表10】
【0113】
身体を900 回すに要する時間が0.5秒以下というのは、洗うような速いローリングであり、1.0秒以上は緩速ローリングである。従来の文献に、このような客観的なローリング速度の記載は全く見られない。極超高濃度である260W/V%以上の場合は、90°即ち片道2秒以上と云う超スローモーションでよい。
【0114】
胃二重造影法はその手技の個人差が甚だしいのは事実で、熟練者から見れば、何処が間違っているのかを指摘出来る筈である。しかし実際には、易しいようでこれが大変難しいのである。微に入り細に亙って込み入った手技であればある程になお大変である。複雑な胃粘膜の環境、使用するバリウム濃度の差、又それぞれの造影剤に固有の様々な粘弾性、ローリングの方法の違い等、各種各様の条件が微妙に絡み合っているからである。
【0115】
前記のように、最近新発売の、200W/V%以上と称する高濃度製剤の共通の欠点は、沈降しやすくヘドロが溜る事である。これでは粘弾性が高過ぎて流れ難く、逆に厚化粧で、粘膜ひだは造影するが胃小区は全く出ないと言う結果になる。
これとは逆に濃度が低い場合は、図9の(A)に示すように合成ベクトルは水平に近い方向になり、ローリングは上滑りするから、一回当たりの保護粘液層の除去量が少なく、頻回の体位転換を繰り返しながら、次第に粘液を除く事を余儀なくさせられる。
【0116】
(ワンタッチ二重造影手技で高胃小区示現率)
極超高濃度バリウムは、高比重による力学的な粘膜清掃力によって、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に描出できる。即ち、無胃管のワンタッチ二重造影法が可能であり、従来のバリウム濃度におけるように、頻回の激しい猛スピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作は無用になる。極超高濃度バリウムの場合、洗うような激しく速い体位転換は、徒にバリウムを飛散させる事になり、胃壁に均等に付着させる目的に反する結果を招く事になる。
【0117】
バリウムの臨床上の造影効果判定は、二重造影の胃小区示現率を指標とする。本発明の極超高濃度バリウムを用いて実際の治験で、唯一回、極くゆっくりとローリングするだけで胃小区を造影することができる。
表11に示したX線写真上のバリウムの評価基準により、260W/V%の極超高濃度バリウムを用いた時の胃後壁の二重造影写真について評価した。A、Ab、およびABを示現陽性のA級とし、具体的には図10に示した前庭部の全域またはそれに相当する面積以上の胃粘膜面に胃小区を認めるもので、検査数を分母としての%で示した。結果を表12にまとめて示す。260W/V%の極超高濃度バリウムを用いたルーチン検査27例中、Aクラスは25例でありAクラス93%の高い胃小区示現率が得られた。
更に、260W/V%の極超高濃度バリウムを用いた450例について検討した結果、図11に示すように高齢者になればなる程、高い胃小区示現率が得られた。この事に依って極超高濃度バリウムの臨床的価値は充分裏付けられていると考えられる。
【0118】
【表11】
【0119】
【表12】
【0120】
(無胃管、無遮断剤の検査)
本発明の極超高濃度バリウムを用いた上部消化管の検査法では、原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の副交感神経節遮断剤の注射も行わない。胃液除去の前処置は、患者を右下側臥位で、深呼吸の繰り返しで腹壁筋肉を伸縮させ(パンピング)幽門から十二指腸へ胃液を追い出す方法による。最近、年間600万件を越える胃集団検診を始め、忙しい大学、国公立病院、癌センター等の諸施設では、放射線技師のみによって行われる胃X線検査が激増している。このような場合は、技師が患者の身体に触れたり、注射する事は公式に許されていないから、絶対に無胃管法で無遮断剤でなければならない。更に近年、医療の大勢は高齢者を対照とする事が甚だしく増加し、患者の身体的または精神的負担を軽くする検査法の改善は、喫緊の要請である。これら諸条件に対応出来るのが無胃管、無遮断剤のワンタッチ二重造影法である。
【0121】
【発明の効果】
本発明の極超高濃度バリウムを用いることにより、従来からのバリウムのように、頻回の激しい猛スピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作が無用で、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に描出できる。
【0122】
原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の遮断剤の注射も行わないでワンタッチ二重造影法が可能である。
【0123】
しかも、ハイ・コントラスト、高電圧撮影であることによる朦朧化の低減、緩速ローリングによる胃粘膜の清掃が達成されるとともに、造影剤の服用量の低減で飲み易く、便秘などの副作用も軽減されるので、検査手技の平易化、患者の身体的な負担の軽減に役立ち、体位転換の困難な老人や重症患者、更に身体障害者等の胃X線検査にも有用であり、更に早期胃癌の発見、胃潰瘍等の上部消化管の診断が可能となるなどの効果を奏するので、医療産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 小、中、大粒子の粒度分布と比表面積を示すグラフである。
【図2】 (A)、(B)、(C)はそれぞれ小、中、大粒子の捏和における温度と時間の関係を示すグラフである。
【図3】 (a)はニーダーの外観を示す斜視図、(b)は混練槽を傾けた時の内部を示す説明図である。
【図4】 エミラー型二重円筒回転粘度計の断面を説明する断面図および剪断速度と剪断応力の計算式を示す図である。
【図5】 (A)は非ニュートン流体の流動の履歴曲線を示し、(B)は非ニュートン流体の剪断速度と剪断応力の関係を示すグラフである。
【図6】 円錐平板粘度計の断面を説明する断面図およびG’、G”、η’の計算式を示す図である。
【図7】 本発明の極超高濃度バリウム懸濁液のG’、G”、η’の周波数依存曲線である。
【図8】 (A)は本発明の極超高濃度バリウム懸濁液が胃粘膜表面を清掃する状態を説明する説明図、(B)は清掃後の本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の胃粘膜付着状態を説明する説明図である。
【図9】 (A)は従来濃度のバリウム懸濁液の胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図、(B)は本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図である。
【図10】 胃内面の各部位を示す説明図である。
【図11】 本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の年齢別、性別の胃小区示現率を示す棒グラフである。
【符号の説明】
1 混練槽
2、3 羽根
4 内筒(ローター)
5 モーター
6 トーション・バネ
7 試料
8 外筒
9 平板
10 円錐
11 トーション・ワイヤ
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なバリウム粉末製剤、それを用いた上部消化管の主として二重造影用極超高濃度バリウム懸濁液であって造影剤として用い、特に早期胃癌、消化性潰瘍の診断領域に適用される極超高濃度バリウム懸濁液、およびこれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食道及び胃十二指腸のX線検査、殊に二重造影には胃管を用いた高度の撮影手技の習得が必要である。原因として、造影剤である硫酸バリウム懸濁液(以下、場合によりバリウムと称すことがある)の朦朧化、胃粘膜への付着過多または不足になり易い等があり、改善が求められて久しいが、中々良いバリウムが市販されていない現状である。最近数年間は高濃度(High Density.HD)をトレード・マークとする新製剤が続々と発売されているが、それらは何れも実用濃度はせいぜい200w/v%前後であり、本質的に言って、前記の欠点は殆ど改善されていない。
【0003】
胃粘膜の環境は特殊で極めて厳しい。遊離の酸、多少の粘液が常に存在する。殊に粘膜表面はそれを保護する粘液層(Mackintoshの Barrier Mucus、勝山の表層粘液ゲル層 Surface Mucous Gel Layer 、SMGL)に被われてその素顔を容易には現さない。従来から定評のあるバリウム濃度140W/V%のバリウム(バリトゲンDX、商品名:株式会社伏見製薬所製)を用いた場合でも、胃管で遊離の胃粘液を除去できたとしても、なかなか上手い二重造影は出来ないので、更に前記粘液層を洗い去る為に、何回も繰り返す激しいローリングを加えなければならなかった。
【0004】
ローリングとは、透視台を水平に倒しておき、患者の体を側臥位になるように90°づつ右と左へ交互に転がすような体位転換操作の事である。また、粘液が多いと、胃管から吸引除去する必要がある。しかし粘稠な胃粘液の吸引除去は実際にはなかなか困難で、胃ゾンデの挿入の難易にも個人差があって、思うようには抜けない事もある。またゾンデ挿入の刺激で、二次的に予期しないような激しい胃液分泌や蠕動を誘発したりして、目的に反する逆の結果になる事すらある。二重造影で必要な空気量も大きい注射器で計りながら胃管から徐々に注入する。この操作中の胃蠕動や粘液分泌を抑制する為に、相当量の副交感神経節遮断剤の筋肉注射、時に静脈注射が予め併用されるのが常である。この様に煩瑣な手技を要する検査法は、実際には一部の専門家にしか実施されていないのが現状である。
【0005】
その詳しい操作を述べた成書、雑誌等の文献量は、我が国では膨大なものになっている。その内容も、例えば、二重造影の際のローリング法も、体位転換の位置、方向、角度等、ストマップと云う図解入りの詳しい解説が屡々述べられている。
【0006】
唯不思議な事に、ローリングの動きの速度について、はっきりと書かれた文献がない。なるべく速く転がすように、揺さぶるようにとか、洗うように、或いはハワイのフラダンスのように腰を振れとか等の表現しかない。詳しく書いてあるように見えるが、甚だ曖昧な表現を含んでいるから、文献通り実施するのに不都合が生ずる。
【0007】
上記のように胃二重造影法は、その手技の個人差が甚だしいのは事実である。複雑な胃粘膜の環境、使用するバリウム濃度の差、又それぞれの造影剤に固有の様々な粘弾性、ローリングの方法の違い等、各種各様の条件が微妙に絡み合っているからである。二重造影のローリングの力学という視点で考えると、バリウム濃度が140W/V%以下の場合は、粘液層を除去する為に、胃粘膜への薄く好ましいバリウムの付着状態になるまで、速い速度のローリングを何回も繰り返して実施する必要がある。しかし、余り繰り返すと、バリウム濃度が粘液との混合で極端に低下してしまって、付着不足と言う失敗も考えられる。
最近新発売の、バリウム濃度が200W/V%以上と称する高濃度製剤の共通の欠点は、沈降しやすくヘドロが溜る事である。これでは粘弾性が高過ぎて流れ難く、逆に厚化粧になり、粘膜ひだは造影するが胃小区は全く出ないと言う結果になる。米国製のバリウム濃度が250W/V%と称する超高濃度製剤(商品名:EZ−HD)はこの傾向があり、ローリングをいくら速くしても何回繰り返しても厚化粧を解消出来ない。
【0008】
中国製のX線双重造影用硫酸バリウム(国営青島東風化工厂制造)が高濃度剤として発売されている。その技術資料には、用途は食道、胃のX線二重造影検査に使用と記載されている。使用前に500gの粉末を適量の水を加えて5分間攪拌すると懸濁液となり、服用時に再攪拌して、均等濃度にし、発泡剤(青島3号)を併用することにより、良い効果が得られると記載されている。バリウム濃度稀釈表をみると、280W/V%300gに水39mlで調整され、その総量は107ml、粘度は〜300厘泊(m・pas秒)となっている。1cp=1m・pas秒であるから、本出願人の極超高濃度バリウムの同じ280W/V%の粘度150cp(表7を参照)の倍の粘度を示している。
本出願人の分析によると比表面積は0.206m2 /gで、粒度分布は10μmに尖鋭なピークを示す大粒子製剤であり小粒子を殆ど含んでいない。その走査型電顕像を見ると天然産の重晶石を砕いた、所謂粉砕粒子製剤である。不明の添加物の添加率は0.05%と極めて小さい。最大の問題点は粉砕粒子であることで、外観白色度が普通の製剤より悪く、純硫酸バリウム以外の好ましくない夾雑物混入の恐れがある。次に、小粒子を含まない為に大粒子の特徴として沈降しやすい欠点は否めない。本件の基本大粒子に良く似ているが、それより稍大きい粒子である。濃度表示法は添加物を無視した算定である。この硫酸バリウムは上記のように見掛け粘度が倍高く、単純な物性しか具備していない。
【0009】
また、高濃度バリウム関連の他の技術が提案されている(特開昭60−54919号公報、レントゲン造影剤中の造影成分として適する、高められた流動性及び密度を有する硫酸バリウムの製造法、この方法によって得られた生成物及びこれから製造されたレントゲン造影剤)。
この技術の要旨は、先ず原料の純硫酸バリウム(合成品)を予め硫酸アンモニウム他の塩類で含浸し、800〜1200℃の高温焼結処理をすると、結晶の角がとれて表面が丸みを帯び平滑になるので、原料のかさ密度を大きく下げることができるというものである。原料の粒度は1〜5μmが好ましく、この処理を施した原料に適当量(3%)の数種の複合助剤を添加した粉末製剤の懸濁液は、濃度200W/V%で、せいぜい1000mPas秒を有することを特徴とするものである。1cp=1m・pas秒であるから、この硫酸バリウムは全く問題にならない高粘度である。また、発明の詳しい説明の欄中で、天然産の重晶石を粉砕した硫酸バリウム、所謂粉砕粒子について『残念なことに医薬書籍(薬局方)の純度要求を一般に満たさない。これは通常余りに多くの重金属を含有する』とイー・ミラー(E.Miller)の説を引用している。
【0010】
また、高濃度バリウム関連の他の技術が提案されている(特開昭60−61537号公報、レントゲン造影剤)。
このレントゲン造影剤は、バリウム懸濁液の粘度を減少し安定性を高める、界面活性剤としてのリグニンスルホン酸、及びクエン酸アルカリを添加した、粒度分布上で大小の双峰性を示す粉末製剤である。従来この二種の添加物は、それぞれ個々に粘度低減効果のあることは公知のことである(前者は西ドイツ特許第2028025号に、後者は米国特許第3216900号)が、両者を併用することによる相乗効果を企図したものである。双峰性の粒度分布についても、1976年の本出願人の大阪医科大学誌第35巻95号を引用して公知としている。
その結果、2.5g/ml(250W/V%)の濃度の粘度が、60秒(DAB8)となっている。前記中国製の硫酸バリウムの250W/V%が80〜110秒であるから、相当低い事は事実としても、260W/V%以上の極超高濃度の粘度については全く記載がなく、臨床使用成績も具体的なことは触れられていない。
【0011】
【発明が解決すべき課題】
本発明の目的は、従来からのバリウムのように、頻回の激しいハイスピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作が無用で、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に抽出できるような、原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の遮断剤の注射も行わないでワンタッチ二重造影法が可能であり、しかも、ハイ・コントラスト、高電圧撮影による朦朧化の低減、粘液量が多い場合でも緩速ローリングの胃粘膜の清掃が達成されるとともに、造影剤の服用量の低減で飲み易く、便秘などの副作用も軽減されるので、検査手技の平易化、患者の身体的な負担の軽減に役立ち、体位転換の困難な老人や重症患者、更に身体障害者等の胃X線検査に有用であり、更に早期胃癌の発見、胃潰瘍等の上部消化管の診断が可能となるような、新規なバリウム粉末製剤、上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液、およびこれらの製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の粒度分布を有する大、中、小の純硫酸バリウム粒子を原料とし、これに天然の長鎖分子構造を有する高分子多糖類であるトラガントとカラギーナンの2種の添加剤を所定の割合で所定量添加し、特定の捏和条件下で捏和することによりトラガントとカラギーナンの分子を適当に切断して各粒子に被覆処理した後、乾燥・消毒して得られる大、中、小の基本バリウム粒子を特定割合で混合して得られるバリウム粉末製剤、このバリウム粉末製剤を水に極超高濃度で懸濁させたバリウム懸濁液により、課題を解決できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の請求項1の発明は、純硫酸バリウムの大粒子、中粒子と小粒子にトラガントおよびカラギーナンから成る複合添加剤を用いて被覆処理された基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1重量比で混合したバリウム粉末製剤であって、原料の純硫酸バリウム粒子は、大粒子、中粒子及び小粒子のいずれもコールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、ピーク値が好ましくは大粒子は8μm、中粒子は2.0〜2. 5μm、小粒子は0.8〜1.0μm、その比表面積の比が大粒子:中粒子:小粒子=1:2.8〜3.3:6.9〜7.5であり、且つ各基本粒子に含まれる前記複合添加剤は、基本大粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:10、基本中粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:9±1、基本小粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:0.9±0.1であり、トラガントの粘度低減効果がカラギーナンの2.5倍として、下記の式で計算した各基本粒子の実効T(トラガント)添加率の比が前記比表面積の比と同じく基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=1:2.8〜3.3:6.9〜7.5であることを特徴とする新規のバリウム製剤である。
式;
実効T添加率=(トラガント添加率)+(カラギーナン添加率)×1/2.5
但し、添加率の単位は重量%である。
【0014】
コールター・カウンターによる粒度分布測定の概略は、0.2μm濾紙を通過させた3. 2%NaCl液を電解質とし、その内部抵抗5〜10KΩ(実測設定)、0.5〜20.2μmを16に分けた各分劃について、細孔(10、30、100μmの3段階)を通過した粒子数を計測する。なお同時通過も補正し、かつ予め測定した上記電解質の バックグラウンド(Back Ground 、僅かに残存する極めて微細な塵粒子)を減算した。通過した全粒子を球と見なし、各分劃毎に通過粒子の表面積と体積を求める。体積に純硫酸バリウムの比重4.5を乗じると重量が分かる。各分劃の表面積と重量をそれぞれ積算して、通過した全粒子の総表面積と総重量が得られる。前者を後者で除したものがm2 /gの単位の比表面積である。ピーク2. 52μmの中粒子の例では、全通過粒子の総表面積は1373206μm2 、また総重量は2050992.9μg、従って、前者を後者で除して比表面積、0.66953m2 /gが得られる。
【0015】
表1にコールター・カウンターを用いて実測した例および中粒子の粒度分布と比表面積の求め方を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
図1に大粒子、中粒子、小粒子の粒度分布を計測し、その計測に基づいて求めた比表面積の関係の例を示す。
【0018】
粉末状バリウム製剤は、従来からよく問題になって来た事柄であるが、製造ロットによって造影能の落ちることがある。粉末製剤の粘度など物理的性質にばらつきが起こり、それが原因で胃粘膜付着性の過不足、朦朧化の増強などをもたらすことがある。原料である純硫酸バリウムはその化学的組成や純度に関しては、日本薬局方によって厳しく規制されているが、粒度や粘度など物理的性状に関する規制は、殆ど無いと言ってもよい程緩やかである。その為か、ロット別の物理的性質のばらつきが実際にはなかなか改善されない。これは使用者側から見れば、積年の未解決課題と言わざるを得ない。本発明においても原料純硫酸バリウムの中粒子と小粒子はロット毎の粒度のばらつきは避けることが出来ず、その結果、請求項2に挙げたような物理的4特性に現れる好ましくない影響に対応する必要が生じた。本発明者は研究の結果、0.8〜20μm位の範囲の粉体である硫酸バリウムを、常に好ましい理想的な粒度分布を示す大、中及び小の3段階に分級する工程が、現在、極めて困難であると言う避け難い現実に直面した。
【0019】
本発明の原料の純硫酸バリウムの大、中及び小粒子の粒度分布の中で、中粒子と小粒子のピークにはそれぞれ好ましくは2.0〜2.5μm、0.8〜1.0μmという巾が設けてある。原料粒子にこの変動の範囲の設定は、ばらつきのある現実を認めた上で対応した工夫で、コールター・カウンターの測定誤差を意味するものではない。大粒子のピークは好ましくは8μmであり、一定であることは、用いた大粒子の純硫酸バリウムがばらつきのない原料であることを意味している。その故に、粒度分布の測定から算出される比表面積も一定になり範囲は設定していない。また大、中、小各粒子の比表面積の比を求める際に、粒度のばらつきのない大粒子の比表面積を基準にした理由でもある。これに反して中粒子と小粒子の原料純硫酸バリウムは、それぞれ上記の範囲のばらつきがあったので、大粒子の比表面積を1とした場合、中粒子のそれは2.8〜3.3倍、小粒子は6.9〜7.5倍の比率になり、中粒子と小粒子の粒度のばらつきに対応して、複合添加物の実効T添加率も特定範囲の変動を余儀なくされた訳である。
【0020】
基本粒子における比表面積対応添加率の粘度低減効果を表2に示す。
原料大粒子の粒度分布はピーク8μmでばらつきがないから、粒度分布実測値から求められる比表面積は0.23m2 /gと単一の数値となる。中粒子の粒度分布ではピークが図1に示すように平坦に近くハッキリしないのと、前述の様に実際に提供される純硫酸バリウムはロットによってピークが変動しており、最大から最小のもの迄の巾は2.5〜2.0μmで、その実測値から計算される比表面積も0.664〜0.759m2 /gの範囲を持つ。従って、大粒子の比表面積0.23m2 /gと中粒子の比表面積との比率も1:2.8〜3.3の範囲になる。中粒子の実効T添加率は、基本大粒子の実効T添加率を1として、その2.8〜3.3倍の範囲の中でなければならない。しかし恣意的にこの範囲内なら何でもいいと言う意味では決してない。あくまで原料中粒子の粒度分布の実測値から求められる比表面積の値が重要で、個々のロット毎の粒度分布を実測し、その変動(ばらつき)に対応して、上記範囲内で変動する比表面積を求め、中粒子への実効T添加率の倍率を選定すべきである。また範囲を示す数値は、最大の中粒子の場合と最小の中粒子の場合の比表面積であり倍率であるから、中間の粒度を示すロットの場合は、上記の範囲内で、実測から計算される異なった中間の比表面積や倍率になる事は当然である。
【0021】
原料小粒子も粒度分布に巾があり、ピークで1.0〜0.8μm、比表面積で1.587〜1.725m2 /gの範囲が設定される。実際の原料小粒子は最小の0.8μmにピークを持ったロットの方が非常に多く、稀にしか1.0μmのロットには遭遇しなかった。従って、大粒子の場合と同様に粒度に巾を持たせないで置いても、実際には余り不都合は起こらないかも知れない。しかし、1.0μm以下の極小粒子は、懸濁した場合、見掛け粘度も上昇しやすく、比表面積も大きく、耐酸性も悪くなり易い。粘度低減効果を高める為には、実効T添加率をより高くしなければならず、それがまた動的弾性率(G’)、動的損失率(G”)、降伏値など押し上げるので、付着過多、粘液による凝集、朦朧化などの要因になり易い。小粒子でも大きい方の1.0μmの場合は、大、中と混合した時の粘度低減効果が、極小のそれよりは優れているばかりでなく、後述の造影能に深く係わる、粘性4係数値も低めに抑える事が出来る大変好ましい原料なのである。このように1.0μmの原料小粒子は望ましい大きさなので、敢えて0.8〜1.0μmの範囲を設定し、以下中粒子の場合と同様に、比表面積にも上記の範囲を設定し、これに対応した大粒子実効T添加率に対する、小粒子実効T添加率を選定する倍率も6.9〜7.5倍となった。ロットによりピークが0.9μmなど中間の場合は、中粒子の場合と同様に、粒度分布の実測によって比表面積を求め、以下中粒子の場合に述べたのと同様に実効T添加率の倍率を選定する。
【0022】
【表2】
【0023】
本発明の請求項2の発明は、請求項1記載のバリウム粉末製剤を水に分散して得られる、下記の物理的特性を有することを特徴とする上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液である。
添加物を含めない純硫酸バリウム重量/容積の%で表示される濃度の範囲は260W/V%から290W/V%である。
見掛け粘度ηap(cp) : 70〜250
降伏値Y0 (dyne/cm2):1.5〜6.6
動的弾性率G’(dyne/cm2) : 5 〜19
動的損失率G”(dyne/cm2) : 1 〜6.2
但し、見掛け粘度は二重円筒型回転粘度計(エミラー型)により、4倍のローターを使用した剪断速度750sec-1、測定温度24±1℃における測定値を示し、その他の測定は円錐−平板型粘度計(島津製レオメーターRM−1型)により、円錐角40 、円錐板半径4cm、円錐先端=平板間距離175μm、トーション・バネ係数2.205×106 (dyne・ cm/rad )、測定温度24±1℃の条件の結果である。動的粘弾性測定用の機器にはキャリメド(英国製)の様な高級機があり、バネでなく空気ベアリングによる応力制御方式の自動化された粘度計であるが、その円錐角10 、円錐先端=平板間距離55μmである。このように円錐平板間の距離が接近し過ぎていると、粗大粒子であるバリウム懸濁液、しかもその極超高濃度のものを計るのには不適当である。上記の島津のレオメーター位の距離の方が、特に動的測定の場合、測定中に起こる無理な接近に起因すると思われる振動波形の揺らぎや、過剰な応力制御による振幅の人工的抑圧現象が起こらず、忠実な粘弾性波形が描かれるように思われる。
上記のG′とG″の値は、平板の振動数が0.55 Hertzにおける測定値である。
ここに挙げた4特性とも、260〜290W/V%の濃度の変動に対応したそれぞれの上限値と下限値を示すものであり、例えば中間の濃度270W/V%の場合は、各係数ともその中間値を示すことは言うまでもない。
【0024】
極超高濃度バリウムの濃度の上限は290W/V%であり、それを越えて300W/V%になると、見掛け粘度は300cp、G′が97dyne/cm2、G″が 87dyne/cm2と急上昇して、比較的低いのは降伏値の12dyne/cm2だけとなり、造影剤として使用は無理となる。極超高濃度バリウムの濃度の下限は260W/V%としてあるが、260W/V%以下でも勿論造影剤として使用できる。好ましいバリウム濃度は270W/V%で、見掛け粘度が100cp前後、降伏値、G”が6dyne/cm2以下と充分低くて流れ易く、G’が時に30dyne/cm2と上がり僅かに付着過多になる傾向がある。特に好ましいバリウム濃度は260W/V%で、降伏値、G″が共に5dyne/cm2以下、見掛け粘度も70cpと、一口で言えば『切れがよく』最も飲用し易い粘弾性係数値である。200〜250W/V%の超高濃度バリウムで、近年市販され一般に良く知られている所謂HD(High Density)高濃度を標榜する数種の製剤は、懸濁安定性が悪くヘドロが生じ易いとか、胃壁付着過剰になり易いとかで、上部消化管の二重造影用製剤として満足すべき性能に達しているものは少ない。本発明の極超高濃度バリウムの懸濁安定性は抜群に優れており、ヘドロは殆ど生じないが、数日放置した場合僅かに生じていても、容器を1〜2分間振盪すれば容易に復元する。レオロジー的に言うと足場構造(Scaffolding Structure )を形成し沈澱しにくいのである。280〜290W/V%の極超高濃度で濃度の上限に近づいても、見掛け粘度的には充分飲用できるが、胃液が少ない場合には、稍厚化粧になる傾向は否めない。逆に胃液が非常に多い患者には適当に薄められる為か、付着性が失われず返って胃小区など良く示現する場合がある。
【0025】
本発明の請求項3の発明は、請求項2記載の極超高濃度バリウム懸濁液の一滴を、シャーレ内のpH1.2の塩酸液に滴下し、シャーレに水平の円運動を加えてよく拡散させた場合(耐酸性滴下試験)、肉眼的に全く凝集を起こさないことを特徴とする上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液である。
但し、対照として、別のシャーレに蒸留水(pH特定せず)を用意し、試料の一滴を滴下して同様に拡散させたものと比較し、両者が見分け難い程度に凝集を起こしていないことが必要である。白壁彦夫の従来の判定法はpH1.3〜pH3.95の範囲で、拡散処置がなく対照(蒸留水のような中性の水)も設けていないので、判定基準は相当ゆるい。因みに、現在市販されている粉末製剤のそれぞれの使用濃度の懸濁液(何れも200W/V%以下)とゾル製剤(145〜100W/V%)について、耐酸性滴下試験を試みると、全く凝集を起こさない銘柄は174W/V%のバリトゲン、ウムブラゾル−Aおよび140W/V%のバリトゲンDXで、合格はこの3銘柄[(株)伏見製薬所]のみである。この耐酸性滴下試験が造影剤にとって、どんなに厳格なものであるかが理解されよう。
【0026】
本発明の請求項4に記載の発明は、基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を後記の(A)〜(C)の工程により製造した後、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比でV型混合器により充分混合し、次いでアトマイザー(例えば、不二パウダル製のアトマイザー)で2次的凝集粒子を分散させ、必要に応じて包装することを特徴とする請求項1記載のバリウム粉末製剤の製造方法である。
【0027】
基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比の混合を選ぶ為に、以下の予備的実験を試みた。三者を種々の組み合わせの比率で混合し、最も粘度(見掛け粘度)低減効果が大きく、且つ同時に造影剤として胃小区示現率の良い組み合わせを探索した。単に物理的に粘度低減効果の最大の組み合わせを求めるよりも遥かに複雑で、臨床治験を繰り返しながら約700回の試作と治験を繰り返した研究の結果、良い組み合わせには濃度段階によっても相違があった。即ち極超高濃度(260 〜290 W/V%)では本発明のように4:2:2の混合、高濃度(160 〜200 W/V%)では3:4:2の大:中:小粒子の混合の組み合わせが良かった。因みに耐酸性滴下試験で凝集を起こさなかった174W/V%バリトゲンは出願者のオリジナルの製剤でやはり、大粒子:中粒子:小粒子=3:4:2になっている。但し、この場合の各粒子はより高率の添加剤が被覆されているので基本粒子ではない。
【0028】
もし基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比を僅かに変更した場合、例えば1.9:1:1とか、2.1:1:1の場合、まず粘度低減効果の最大の比率からずれて最高の見掛け粘度低減効果が得られなくなる。それに加えて、大、中、小混合粉末の懸濁液を考えると、基本中粒子と基本小粒子は、基本大粒子の増減した分だけ相対的に減ったり増えたりする。その結果、例えば基本小粒子と基本中粒子の比率が増すとき(大1.9の場合)、先に述べた造影能にかかわる粘弾性4係数の中、G’、特にG”と降伏値が増し、粘膜へのバリウムの付着過多とか朦朧化の起こる可能性が増し、請求項2に述べた粘弾性4係数値の許容範囲を越えることになる。経験的にも小粒子は混合率の微増でもG’G”を押し上げる。逆に基本小粒子と基本中粒子の比率が減るとき(大2.1の場合)、G’、G”および降伏値の低下、従って胃壁への付着不十分の可能性が起こる。又もし基本中粒子や基本小粒子の割合が、基本大粒子に対して2:1±0.1:1または2:1:1±0.1、更に複雑に2:1±0.1:1±0.1と変わった場合にも、前記の粘弾性4係数の微増か大幅増の何れかの可能性のみで、適度に低減される好都合な可能性は殆ど考えられない。要するに、2:1:1の混合比の変動は3種の基本粒子に相対比的、更には粘弾性係数に多次元的な影響が複雑に絡むので、この比を固定した方が賢明であると考えている。臨床治験も伴うので、妄りに結果の不透明な組み合わせ実験には制約があった。このように基本粒子の混合比変動に対する寛容度は極めて狭い上に、濃度にも適正混合比率の変化と言う制約を受けている。
【0029】
(A)基本大粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本大粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム大粒子のトラガント添加率0.015%、カラギーナン添加率0.15%(両者の比 1:10)で、且つ大粒子に対する粘度低減効果最大の実効T添加率0. 075%を有する複合添加剤を混合する。表2に示す様に、この実効T添加率は基本三粒子の比表面積対応添加率の基準になるもので、現在の8μmピークの原料大粒子のそれを示している。この添加率は、大粒子の比表面積が0.23m2 /gが小さいのに対応した添加率であるので、従来の粉末製剤のそれに比べ極めて小さい。基本三粒子共通の比表面積1m2 当たりの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00325gと言うことになる。即ち3mg強でよいのである。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料大粒子の13.5±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると夏期の暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの大粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で90±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は33±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動がある影響である。捏和開始後40±5分で液状化が起こるが(ニーダーの電流計が下がる)、更に続けて40分以上の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。
(4)そして、捏和によって仕上がった泥状の基本大粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本大粒子を得る。例えばドラム・ドライヤーの仕様は直径52cm、幅50cm、回転速度1回転2分、ドラム表面温度130℃以上がその一例の条件であるが、製造量の多寡、ドライヤーの大きさで仕様は変更される。乾燥前の水懸濁液の濃度は、ドライヤーに多数の細孔から連続滴下したり、或いは下部で接触させる方法等、処理量の多寡よって適当な然るべき接触法を選ぶ。
【0030】
(B)基本中粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本中粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム中粒子のトラガント添加率とカラギーナン添加率の比1:9±1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子で0.075%)に対する中粒子の実効T添加率の比が、大粒子と中粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する。
大粒子と中粒子の比表面積の比に1:2.8〜3.3の変動幅があるのは中粒子の粒度にばらつきのある為であることは既に述べた(詳しい説明は【0019】)。この比率に従って選ばれる中粒子に対する実効T添加率(基本大粒子で0.075%×2.8〜3.3)にも0.21〜0.25%の幅がある。比表面積1m2 当りの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00326gと言うことになるのは基本中粒子の場合も基本大粒子と同じである。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料中粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると、暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの中粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で60±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は37±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動のある影響である。捏和開始後20±5分で液状化が起こる(ニーダーの電流計が下がる)。液状化が大粒子より早く起こるが、更に続けて40分以上の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。液状化後の捏和時間が多少長すぎても温度の上昇がなければ、摩擦抵抗の少ない空回りであり余り支障はない。
(4)そして、捏和で仕上がった泥状の基本中粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本中粒子を得る。ドラム・ドライヤーによる処理等は前記基本大粒子の製造工程と同様である。
【0031】
(C)基本小粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本小粒子を製造する。
(1)まず、純硫酸バリウム小粒子のトラガント添加率とカラギーナン添加率の比1:0.9±0.1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子で0.075%)に対する小粒子の実効T添加率の比が、大粒子と小粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する。
大粒子と小粒子の比表面積の比は1:6.9〜7.5で変動幅があるのは小粒子の粒度にばらつきのある為であることは既に述べた(詳しい説明の【0019】)。この比率に従って選ばれる小粒子に対する実効T添加率(基本大粒子で0.075%×6.9〜7.5)にも0.52〜0.56%の幅がある。比表面積1m2 当りの実効T(トラガント)量を試算して見ると0.00329gと言うことになるのは基本小粒子の場合も基本大粒子や基本中粒子と同じである(小数点以下5桁の微差は実測値の誤差からの計算による為)。
(2)次に、得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料小粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を加え、室温(1〜30℃)で24〜30時間放置し、前記複合添加剤を膨潤させる。放置時間が24時間以内になると、寒い季節等には膨潤が未熟になるおそれがあり、また30時間以上になると、暑い季節には腐敗変質するおそれがあって良くない。残りの20±5%の蒸留水は、膨潤完了後に容器からニーダーへ複合添加物を移す時に、容器に付着している分を洗い流すのに使用したり、又、原料の純硫酸バリウムが乾燥し過ぎている場合に、捏和開始前に霧吹きで少し湿りを与える必要のあるときに備えて別に保管して置く。
(3)そして、純硫酸バリウムの小粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記の総水分量となるように、残りの蒸留水を、逐次ニーダーに注ぎ、下記の条件で90±5分間捏和する。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は40±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか稍低下するように温度管理する。上昇温度に±2℃の幅があるのは、季節により室温や湿度に変動がある影響である。捏和開始後25±5分で液状化が起こる(電流計が下がる)。液状化が中粒子より稍遅く起こるが、温度上昇は前の大中粒子より高い。液状化後更に続けて60分の充分な練り込みをしないと所期の粘度低減効果が得られない。捏和時間が多少長すぎても抵抗の少ない空回りである限り温度の上昇がなければ良いが、余りそれを続けることは好ましくない。粒子が小さい程、捏和の際の内部摩擦抵抗が大きくなる事を念頭に置いて練り込み過ぎない注意は必要であろう。
(4)そして、捏和によって仕上がった泥状の基本小粒子は、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、回転するドラム・ドライヤーに付着させ消毒を兼ねた加熱乾燥処理を行い、粉末状基本小粒子を得る。ドラム・ドライヤーによる処理等については、前記基本大中粒子の製造工程と同様である。
【0032】
図2の(A)に小粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。図2の(B)に中粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。図2の(C)に大粒子の捏和温度の時間的変化の例を示す。
【0033】
本発明の請求項5の発明は、請求項1記載のバリウム粉末製剤に所定量の水を加え、懸濁する事を特徴とする請求項2記載の上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液の調製方法である。
【0034】
後述の表7に本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の濃度の範囲、その調製に当たり本発明のバリウム粉末製剤100gに加えられる水分の量ml及び見掛け粘度(ηap)の例を示す。
【0037】
本発明において、原料となる純硫酸バリウムの大、中、小の各粒子にそれぞれトラガントとカラギーナンを所定の割合で混合した複合添加剤を所定量添加して、特定の捏和条件下で捏和することによりトラガントとカラギーナンの分子を適当に切断して各粒子に被覆処理し、予め可能な限り低粘性に仕立てて置く必要がある。低粘性化した、大、中、小の粒子をそれぞれ基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子と称し、この三段階の基本粒子を、適当な比率で混合することにより、後述のローラー・セオリーに従って更なる低粘性化を実現できる。
【0038】
本発明で用いる純硫酸バリウムは水に不溶な粒子であり、比重も4.5と非常に重い。これを沈殿しにくい安定な懸濁液とし、しかも高濃度で低粘性を保たせる為には、元来、負(−)の表面荷電(ζ電位)をしめす粒子の表面を、何らかの添加剤でコーティングして、適当に正(+)の側に変えてやる必要がある。それにより粒子同志の凝集を防ぐことが出来るだけでなく、水素イオン(H+ )が介在する酸性メディウムにおいても、即ちpH1.2と言うような強い胃酸に遭遇しても、決して凝集しないバリウム懸濁液にする事もできる。
【0039】
この為の添加剤は、天然産の多糖類で、前述のトラガントやカラギーナンが最もよい。問題はその添加状態にある。理想的な添加状態を考えてみると、ファン・デル・ワールスの吸着で、添加剤分子が完璧に粒子表面を覆っている事と、分散媒である水の方に添加剤が余分に残っていない事である。天然産多糖類は、アラビア・ゴムや澱粉が代表的な物質であるが、それが糊になる事は周知の事実である。糊とはゾル状の分散系が流れを失いゲル化して粘度が高くなった状態を意味する。
【0040】
トラガントやカラギーナンは、アラビアゴム等よりは遥かに高分子量であるから、分散媒の水に少しでも残っていると、直ちに懸濁液の粘度を上昇させる原因になる。粘度低減と懸濁安定性の為の折角の添加剤が、分散媒の水に残っていると、逆に粘度を押し上げる原因になるのは甚だしく矛盾している。従来のバリウム製剤は、その全部が余分の糊成分を分散媒に含んでおり、無益に粘度を上昇させており、理想の過不足なき添加とは程遠い状態である。
【0041】
特に、バリウム濃度が100〜150W/V%の瓶詰めゾル製剤は、長期間の懸濁安定化の為に分散媒に糊成分を多く含ませてある。バリウムの副作用に便秘はつきものであるが、その主な原因は、分散媒に余分に含まれる添加剤にある。大腸にバリウムが達し、生理的に激しい水分逆吸収を受ける際に、残存する糊成分が、バリウム粒子を兎糞状の大小の硬い塊りに固めるのである。
【0042】
(トラガント・ガムの特性)
トラガント・ガム(以下、トラガントと称す)はイラン、シリヤ、トルコなど中近東の半砂漠地帯に生育するアストラガルス(Astragalus)属の灌木の幹から浸出する水溶性粘質物で、自然乾燥して樹脂状となっている。品質に等級が付けられており、良質で夾雑物も少なく、淡白色で薄い5〜10cmのリボンと呼ばれるものはNO.1〜NO.6迄の高品位を占める。NO.1の分子は4500Å×19Åの細長い形をして分子量も80万以上と大きいから、粘度も約300cpと高い。褐色で1〜5cmの厚く脆いフレークと呼ばれるものは夾雑物も多く低品位である。フレークの品位はNO.26〜28で粘度も約100cpと低い。
【0043】
本発明で用いるトラガントはリボンのNO.1のいわゆる一級品(分子量84万)を用いることが好ましい。この最高級品は、イラン、イラク地域に多く採取されるが、特定地域の原産と言う事で品位の階級が付く訳ではない。最近は価格も上昇し、食品添加物としての使用が困難になっていると言われる。NO.1のような高品位のトラガントを添加した場合、バリウム懸濁液の動的弾性率G′を異常に押し上げる効果がある。見掛け粘度は、確かに非常に下がっても、G′が過剰に上昇し過ぎると、粘膜への付着過多、すなわち厚化粧になり、過ぎたるは及ばざるが如しと言う事になる。
【0044】
トラガントの主成分は、トラガカチンとバソリンで、他に水(10%)、セルロース(4%)、澱粉(3%)、無機質(3%)より成る。主成分トラガカチンはフコース、キシロース、ガラクトウロン酸からなる酸性多糖質と、ガラクトース、アラビノースよりなる中性多糖質との混合物である。バソリンはメチル基を持つ酸性多糖質で、バソリンの脱メチル化によりトラガカチンが生ずると言われる。バソリンは量的にトラガントの60〜70%を占め、水に不溶で膨潤してゲル状となる。トラガカチンは水可溶でコロイド性の親水ゾルをつくる。トラガントは0.5%以上の水溶液で構造粘性(非ニュートン性)を示す。リボンまたはフレークを粉砕すると粘度低下がみられるが、これは機械的衝撃により長鎖の分子構造に、分子開裂を起こす為であると言われている。この事から、添加で捏和という強い機械的外力が加わっても、同様の分子開裂を起こさせる事が充分に期待できるという点で、捏和工程は本発明において重要な意味をもつ。
【0045】
(カラギーナンの特性)
カラギーナンは、紅藻類のスギノリ科のスギノリ属、ツノマタ属、イリデァ属その他を水で抽出した多糖類で、その化学構造はガラクトース2個が1単位となり、多数連鎖状に結合している。白色もしくは淡いベージュ色の粉末で、分子量と粘度はトラガントに比べ低い。一般的に、κ(kappa)型、λ(Lambda)型およびι(Iota)型の3成分(Fraction)の混成物よりなり、単一の構造を持つものは少ないと言われる。分子量は一般的に10万〜80万といわれκ型よりもλ型の方が大きい。
【0046】
本発明に好ましく使用できるカラギーナンとして例えばジェヌゲルCJ(商品名:Jenugel CJ、コベンハーゲン・ペクチン社製)を挙げることができるが、これはカラギーナンの純分はλ型成分が約1/3で、元来フルーツゼリー用のゲル化仕様の混成物であり、夾雑物が多いと言う分析結果であった。λ型カラギーナンは3・6アンヒドロ基を殆ど持たず、ゲル化しにくく、カチオン(K+ ,Ca+ + )による影響が少なく、弾性も小さい等の特徴がある。要するに粘度低減効果はトラガントに相当劣るが、トラガント程には動的弾性率(G′)を過剰に押し上げる事はない性質を有する。トラガントに配合する場合、分子量の高い純粋のκ、λ或いはκι型よりも、適当に低分子量で、むやみにバリウム懸濁液の動的弾性率(G′)を押し上げる事のない、混合型で適度の夾雑物を含むものの方が適しているように考えられる。医薬品でも強心剤など合成の純製品より、生薬の方が薬理作用が緩和で、時と場合によっては実用に適しているのに似ている。
表3にカラギーナンの種類と性状を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
(二種類の複合添加剤)
共に天然産の長鎖分子構造をもつ高分子多糖類であるトラガントとカラギーナンの二種の添加物のそれぞれの特性を生かすような配合比率で複合添加すれば、充分に見掛け粘度を低減させながら、動的弾性率(G′)の過剰な上昇を防ぎ、厚化粧にならない切れのよいバリウム懸濁液を造る事が出来るのである。前者は見掛け粘度を最も効率的に低減出来、後者は動的弾性率(G′)、動的損失率(G″)などの動的特性の低減にも有効である。大、中、小の各原料粒子に、この二種の特性を生かすような配分での複合添加を行う事によって、基本粒子は造影剤として最も適合した粘弾性的特性を付与される。
【0049】
(原料粒子の比表面積に対応した添加率)
粒子の単位重量(1g)当たりの表面積、即ち比表面積は、粒子が小さくなるに従って、飛躍的に増加する。小粒子になる程高率の添加量が必要な半面、大粒子には、極めて低い添加量で済む。原料粒子の粒度分布を計測し、そのデーターから計算された大、中、小の各粒子の比表面積に、正確に比例した添加率を選ぶことが肝要である。
【0050】
(実効T添加率)
本発明においては、トラガントはカラギーナンの2.5倍の粘度低減効果をもつものと仮定し、二種複合添加剤の実効T添加率を決定した。2.5倍の根拠は、前記のジェヌゲルCJのカラギーナンの分子量が33万とみなし、前記NO.1のトラガントのそれが84万なので、両者の分子量の比2.5を採った。
例えば、実効T添加率は次のようにして求めた。結果をまとめて表2に示す。大粒子はトラガント添加率0.015%とカラギーナン0.15%の添加率(トラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:10)であり、カラギーナンは0.15%÷2.5=0.06%がその実効T添加率となる。従って大粒子の複合添加剤の実効T添加率は0.015%+0.06%=0.075%となる(表2を参照)。
【0051】
各粒子の実効T添加率の比は各粒子の比表面積の比と同じく大粒子:中粒子:小粒子=1:3.3:7.5の場合は、大粒子の実効T添加率を1とした時に、中粒子のそれは例えば3.3、小粒子のそれは例えば7.5の比率となるから、中粒子の実効T添加率は0.075%×3.3=0.25%、小粒子の実効T添加率は0.075%×7.5=0.5625%(四捨五入で0.56%)となる。
【0052】
中粒子はトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が凡そ1:10であるから、中粒子の実効T添加率0.25%を満足するためには、中粒子に対するトラガント添加率は0.05%、カラギーナン添加率は0.5%となる。
小粒子はトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が凡そ1:1であるから、小粒子の実効T添加率0.56%を満足するためには、小粒子に対するトラガント添加率は0.4%、カラギーナン添加率は0.4%となる。上記添加率の単位はいずれも重量%である。
【0053】
(捏和法)
本発明においては大、中、小の三段階の純硫酸バリウム粒子に、ニーダー(混練器)を用いて、適量の水を加え、適当な時間と温度条件の下に、それぞれ適量の複合添加剤を練り込む。捏和の工程で、液状化の確認、それ以後の充分な練り込みが重要である。複合添加剤の配分と添加率、加える水量、捏和時間、温度等の諸条件は、大、中、小の各粒子毎に、各々異なった設定が必要である。このようにすることにより従来のバリウムに比べ添加剤の添加率が1/2〜1/3と少ない添加率で、劇的な粘度低減効果を達成した基本粒子が得られる。
表4に示すように、市販バリウムに比べて、本発明における基本粒子の見掛け粘度は1/数100〜1/7と、劇的に粘度が低い。本発明における捏和法による粘度低減効果は他に比肩するものが無い。
【0054】
【表4】
【0055】
(ニーダーの構造)
本発明における捏和は、ニーダーによる物理的な捏和である。図3(A)はニーダーの外観を示す斜視図、図3(B)は心臓部の混練槽1の内部を示す図であり、互いに反対方向に回転する翼状(シグマー型)の二本の羽根2、3でニード(捏和)する。図示しない右側の三相交流電動機から、回転トルクが図示しない減速歯車を通じて、二本の羽根軸2、3に加えられる。羽根の回転速度は互いに異なっており、回転数は約50〜26r.p.mである。二本の羽根2、3がそれぞれ違う速度で回るので、内容が一部に集まらず均等に捏和される。混練槽1の容量は例えば小型ニーダーが3.8リットル、中型が20リットル、大型が60リットルであり、何れも試作用ニーダーである。300リットルの工業用の構造も殆ど同じで、ただ混練槽の横転方式が試験機では手動、工業用は電動片駆動式の相違がある位に過ぎない。因に、60リットルの大型試験機で純硫酸バリウムの小粒子を捏和する場合の純硫酸バリウム量は最大約30kgである。
【0056】
(捏和法の特異性)
何故、前記のように粘度を下げられるかの最大の理由は、添加物が粒子表面に過不足なく付着しているからであると考えられる。換言すると懸濁液の分散媒である水の方には、複合添加剤の成分、糊気が殆ど残っていないので、従来にない極超高濃度でもサラサラで、胃壁を伝わって流れ易いバリウムが得られるということになる。
これをレオロジー的に表現をすれば硫酸バリウム濃度260〜290W/V%において『降伏値が1.5〜6.6(dyne/cm2 )、周波数0.55Hzにおける動的損失率(G″)も1〜6.2(dyne/cm2 )、同じく動的弾性率(G′)も5〜19(dyne/cm2 )と低く、見掛け粘度は70〜250(cp)の範囲に収まり、流動曲線が反時計方向のチクソトロピーかニュートン流動に限りなく近似した低降伏値の曲線を示す』バリウムである。このバリウムは降伏値とG”が共に7(dyne/cm2 )以下と極めて低値で実際の胃透視に携わる臨床家の感覚で云うならば『切れのよいバリウム』の一語に尽きる。
【0057】
更に、分散媒中に糊気の少ないバリウムは大腸に達したとき、正常の生理的現象である水分の逆吸収に逢っても中々塊り難い。即ち従来の糊気の多いバリウム剤とは違い、大腸の逆吸収の環境、たとえばバリウム濃度290W/V%以上のバリウムになっても流動性を保ち得る訳で、非常に便秘が起こり難いのである。又、80歳以上の高齢者がバリウムを誤嚥して気管から肺に入る事がある。此の場合、肺の抹消まで進入したバリウムは中々喀出されず気管枝造影の様相を呈し、二次的肺炎等の感染症を引き起こして重篤な事態に至るおそれがある。直後は難を免れても、従来の糊気の多いバリウムは、肺の深部の肺胞に沈着して生涯排出されずに残る事が時々あった。本発明のバリウムは万一このような誤嚥を起こしても、去痰薬の投与等適当な処置を迅速にとれば、3〜4時間で殆ど完全に肺から除去する事が出来る。その理由は大腸の便秘の場合と同様で、乾燥に近い水分の減少に遭っても、糊気が少なく流動性を失わず、去痰薬がよく効き喀出され易いからである。
【0058】
(捏和法と従来の添加法との比較)
バリウムへの添加剤の添加は水を使用する湿式添加という言葉が、古くから使われてきた。昭和10年代半ば迄は、今日のような製剤はなく、医師が透視前にトラガントやアラビヤゴムと純硫酸バリウム末を一緒に丼鉢に入れて、水を少しづつ加えながら乳棒で練り込んだという歴史がある。バリウム粥(Barium meal )もその頃の名称で、流動しない感じの表現であろう。
【0059】
本発明における捏和法(Neader)と、別の代表的添加法のホモミキサー法(Homo-mixer)の両者によるバリウムの見掛け粘度、降伏値、耐酸性滴下試験の結果を表5に示す。50gのバリウム粉末に水17mlを添加して懸濁させ、バリウム濃度約175W/V%のバリウム試料懸濁液を作り粘度低減効果を比較した。
【0060】
表5に示す本発明に用いる前記基本中粒子(トラガント添加率0.05%、カラギーナン添加率0.4%)およびホモミキサー法により作られた2種のバリウム[商品名:バリトゲンDX(トラガント添加率は凡そ0.5%)およびウムブラゾル−A(コンドロイチン硫酸添加率凡そ1〜2%。実効T添加率に換算すると0.5〜1.0%位)]の三者に用いられる原料の中粒子純硫酸バリウムは、いずれも同じメーカー(株式会社伏見製薬所)のものである。
【0061】
1)ホモミキサー法は、多量の温水(80℃)に純硫酸バリウムとトラガントやコンドロイチン硫酸等の添加物を入れ、そこへ吊したステーターの中の高速回転(3600rpm)する鋼鉄製羽根タービンで激しいジェット流攪拌を起こし、その剪断力を利用した添加方法である。前記バリトゲンDX(以下DXと称す)もウムブラゾル−A(以下ウムブラと称す)もホモミキサー法で作られたものである。NO.1級トラガントを主添加物とするこのDXでは、トラガントをその儘投入したのでは、分子量84万の長鎖分子構造の為に、上手く添加出来ないので、予めNaOHを加える事によって化学的に分断する必要がある。更に、長時間(連続8時間以上)高温槽(80℃以上)中で激しくジェット流攪拌する必要がある。
【0062】
これに対して捏和法では、練り込みに伴う強い剪断力で、長鎖分子に機械的開裂を起こさせるので前処置も不要となり、練り込みも短時間(90±5分以内)で済み、特に加熱する必要性はない。
【0063】
表5に示すようにホモミキサー法によるDXは見掛け粘度128cpで、本発明に用いる捏和法による基本中粒子の18cpに比べ、粘度低減効果は僅か1/7.5に過ぎない。基本中粒子のトラガント添加率は0.05%で、それに複合添加のカラギーナン0.4%を加えた実効T添加率でも0.21%しかない。
DXのトラガント添加率は、約2%以下である。仮にその最小限推測値を0.5%として比較しても、DXは基本中粒子の凡そ2倍強のトラガントを必要とする事になる。
【0064】
高価なトラガントについては、基本中粒子はDXの1/10の少量添加で済むので、比較的安いカラギーナン(前記 Jenugel CJ )が余分(0.5%)に加わっても、基本中粒子の添加物コストは、捏和法の場合はホモミキサー法の凡そ3分の1の計算になる。
【0065】
降伏値も、表5に示すように、捏和法による基本中粒子は精密な円錐−平板型粘度計で計っても零であって、ホモミキサー法のDXの7.9dyne/cm2 とは比較にならぬ程小さい。造影剤の降伏値は低すぎて困ると云う事は全くない。基本中粒子と同一原料であるウムブラの見掛け粘度は50cpで、捏和法による基本中粒子の18cpに比べその粘度低減効果は約1/3である。ウムブラの添加物主剤はコンドロイチン硫酸である。ウムブラの純硫酸バリウム含量は、他剤に比べ最も少なく96%であるので、コンドロイチン硫酸の推測添加率は1〜2%になる。
それを実効T添加率に換算すると(0.5〜1.0)%位になるものと考えられ、捏和法による基本中粒子の実効T添加率0.21%に比べ、約3倍の実効T添加率になる。ウムブラの降伏値は、DXのそれの半分以下の3.5dyne/cm2 と相当に低いが、捏和法による基本中粒子の零には到底及ぶべくもない。耐酸性滴下試験でも、捏和法による基本中粒子は完全に非凝集であった[表5中(−)で示す]が、ホモミキサー法によるDXは僅かに凝集粒を認める[表5中(±)で示す]と云う瑕瑾があった。
【0066】
【表5】
【0067】
2)噴霧乾燥法(Dry-spray )もよく行われている添加法で、添加物を揮発性有機溶媒に溶かしたものと原料純硫酸バリウムの薄い懸濁液とを混ぜて、高圧で細孔から噴霧し、高温(約100〜200℃)の空気中を霧状で落下する乾燥過程で添加すると云う方法である。代表的バリウムとして、バリトップP(商品名、カイゲン社製)がある。バリトップPは1μm以下の小粒子製剤で、本発明に用いる基本小粒子と殆ど同じ粒度分布であるので、両者の見掛け粘度、降伏値、耐酸性滴下試験結果を、前記と同様に同じ濃度条件(50gのバリウム粉末に水17mlを添加して懸濁させた懸濁液について試験した)で比較した結果を表6に示す。
この噴霧乾燥法でも見掛け粘度は基本小粒子の20cpに対し、バリトップPは110cpで、捏和法に比べるとその粘度低減効果は約1/5に過ぎない。降伏値は2.2dyne/cm2 と充分に低いが、耐酸性滴下試験では、相当甚だしい凝集塊を生じ、酸に対して弱いという欠陥がある。捏和法による基本小粒子の耐酸性滴下試験は全く凝集を認めず、降伏値は3.5dyne/cm2 と充分低い。
【0068】
【表6】
【0069】
以上総括すると、捏和法は従来の他の二つ添加法と比べ、見掛け粘度及び降伏値の低減効果において、はたまた耐酸性において、従来法に比べ圧倒的に優位である事が明らかである。
【0070】
(本発明において添加剤の添加率が少なくてすむ事による利点)
市販バリウムの使用説明書に記載されている添加物の率は2〜6%と、本発明における添加剤の添加率の約10倍の高率である。市販バリウムの添加物には、トラガントやカラギーナンのような主な添加剤の他に甘味料、香料、浸透圧調整剤、消泡剤(シリコン)等の副添加剤も含まれている。普通、その内訳は殆ど明示されておらず、実際はどんな配分に成っているか不明である。有効成分の含量、純硫酸バリウム量は明記する義務があり、市販バリウムの場合、純硫酸バリウム量は99〜94%であり、残りの数%が、添加物という情報しか得られない。従って、実効T添加率などは到底計算する事は出来ない。
【0071】
唯、現在の市販バリウムの粘度に関係する主要添加物は、1%〜0.5%位であろうと推測されるので、本発明においては前述のように1/2〜1/3の少添加率で足りると考えたのであるが、この推測添加率は控え目である事を付言する。
このように、本発明において少添加率で済むと云う事は、製造コストの上で非常に有利であり、多量生産する程、ランニングコストの逓減効果が大きくなる。トラガントやカラギーナンのような有限の天然物を消費するので、出来る限り貴重な資源を無駄に使わない点でも、グローバルな資源保護に協力する事になる。
【0072】
【発明の実施の形態】
原料の純硫酸バリウム粒子は、コールター・カウンターにより測定した粒度分布のピーク値が、大粒子は8μm、中粒子は2〜2.5μm、小粒子は0.8〜1μmのものを使用する。それぞれの粒子の粒度分布は図1に例示すように大略正規分布のものを使用する。
【0073】
原料粒子の粒度分布測定の結果から、大、中、小粒子のそれぞれの比表面積を求める。大粒子の比表面積を1とした場合、大、中、小の比は1:2.8〜3.3:6.9〜7.5となるものを使用する。添加剤の添加率の比もこれと全く同一に設定する。但し二種の添加剤を用いる複合添加なので、トラガントの粘度低減効果がカラギーナンの2.5倍と仮定した実効T(トラガント)添加率の比が、上記の比表面積の比に合致するように、両添加物を配合する。但し、中粒子と小粒子の原料は、ロットにより粒度に僅かの変動巾があるので、それに対応した比表面積も変動巾がある。従って、添加剤の添加率もそれに対応して増減させねばならぬが、それには比較的低分子量で粘度への影響の少ないカラギーナンの添加率で加減する。
なお、各基本粒子の製造工程で述べた様に、粒子の大小にかかわらず、その表面積1m2 当たりの実効T添加量は、0.00327±0.00002g、すなわち3.27±0.02mgと極めて厳密に一定に設定されている。
【0074】
ニーダーで複合添加剤の捏和(練り込み)に使用する総水量は、大粒子では重量比で13.5±1%、中および小粒子ではそれぞれ15±1%とする。但し、この総水量は添加剤を膨潤させる為に必要な水、それにバリウム粉末の乾燥度が甚だしい季節に、予めバリウム粉末に噴霧する水も含むので、実際の捏和時に注ぐ水量は、其の分を除いた比較的少量(総水量の約20±5%)となる。
トラガント(一級品)とカラギーナン(前記Jenugel CJ)の粉末を各原料粒子につき、前記表2に示した配分比率で混合し、前記総水量の80±5%の蒸留水を投じ、室温で24時間以上(季節により調節する)膨潤させる。
【0075】
捏和操作はニーダーを回転しながら、各原料粒子、膨潤した添加剤、前記総水量となるような残りの少量の蒸留水の順に逐次投入する。添加物の投入完了時を捏和の開始とみなす。捏和時間は、大粒子は90±5分、中粒子は60±5分、小粒子は90±5分である。
但し、捏和中に、ニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、最高ピークに達した時に液状化が始まる。大粒子の場合は40±5分、中粒子は20±5分、小粒子は25±5分で液状化を認める。この液状化開始後も、大、中粒子は約40分間、小粒子は約60分間の充分な練り込みの継続が必要である。力学的負荷のピークを確認の為に、ニーダーの電動機の交流電流をチェックする。例えば、捏和の開始時には1.6A、ピーク時は2.3Aが流れ、液状化完了時に再び1.6Aに戻る。
【0076】
捏和の温度条件は、開始時25±5℃とし、小粒子の場合は40±2℃迄、中粒子で37±2℃迄、大粒子は33±2℃迄、それぞれ徐々に上昇する。力学的負荷のピークを越えた液状化後の練り込みの間は、温度上昇が緩慢になり、以後は持続が稍低下する。ニーダーの外槽に温度センサーを挿入して、連続的変化をペン・レコーダーに描画し、温度管理をする。
前述のように図2の(A)、(B)、(C)にそれぞれ小粒子、中粒子、大粒子の捏和における時間と温度の関係を示す。
【0077】
捏和により仕上がった泥状の大、中、小の基本粒子は、それぞれ約100W/V%の水懸濁液とした後、ドラム・ドライヤーで加熱乾燥兼消毒処理を行うことにより二次的凝集の少ない、良く乾燥したそれぞれ粉末状の基本粒子が出来上がる。
更に具体的には、捏和で泥状に仕上げられた基本粒子は、一旦水で薄めて約100W/V%の懸濁液とした後、130℃以上の高圧水蒸気で加熱した鋼鉄製のドラム・ドライヤーに順次注いで急速に乾燥すると、よく分散した二次的凝集粒子の少ない乾燥粉末状の基本粒子が得られる。粉末の乾燥及び消毒に適合するドラム表面温度になるように、水蒸気圧とドラム回転数の条件を設定することが好ましい。ドラム回転速度は、極めて緩速で、2分間に1回転程度である。
【0078】
基本粒子を混合して本発明のバリウム粉末製剤を作るために、基本粒子の大、中、小の混合比率は、260〜290(W/V%)の極超高濃度用で基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比とする。
【0079】
大、中、小の基本粒子の混合には、例えばV型混合器で1時間処理する。
混合後、最終の仕上げ段階で、残存する二次的凝集粒子を分散させる為に、例えばアトマイザー(商品名:SAMPLE MILL 、不二パウダル社製KII−1型のスクリーン目を2mmに設定)を通過させることにより本発明のバリウム粉末製剤を作ることができる。
【0080】
本発明において、バリウム粉末製剤を水に懸濁させたバリウム懸濁液の濃度表示は、バリウム懸濁液に含まれる純硫酸バリウム分のみについて重量(g)/容積(ml)×100、即ちW/V%で表示され、その他の添加物重量は厳密に除かれる。本発明のバリウム懸濁液の濃度の範囲、その調製に当たり本発明のバリウム粉末製剤100gに加えられる水分の量ml及び見掛け粘度(ηap)の例を表7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の物理的性状(レオロジー的性状)の例を表8に示す。
【0083】
【表8】
【0084】
但し、見掛け粘度測定は、二重円筒型回転粘度計(エミラー型)により、4倍のローターを使用した剪断速度750Sec-1における測定値を示す。降伏値、G' 、G" などの測定は、円錐−平板型粘度計(島津レオメーターRM−1型)による。G′,G″は粘度計平板の振動周波数が0.55Hertzにおける測定値とする。但し、円錐半径は4cm、円錐角4°、バネ常数2.205×106 (dyne・cm/rad)、円錐端−平板距離175μmでの測定値である。
【0085】
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の一滴を、シャーレ内のpH1.2の塩酸液に滴下し、シャーレに水平の円運動を加えてよく拡散させた場合、肉眼的に全く凝集を起こさない事が条件である(耐酸性滴下試験法)。但し、対照として、蒸留水のシャーレを用意し、同様に滴下した状態と比べて、差のない事を条件とする。
【0086】
(基本粒子の検査)
基本粒子を作った段階でそれぞれの基本粒子の見掛け粘度の測定と耐酸性滴下試験等の必要な物性検査を行う。
A)見掛け粘度
上記の測定条件で行う。
【0087】
B)耐酸性滴下試験はシャーレにpH1.2の塩酸液を用意し、そこへ176±1W/V%の懸濁液(基本粒子粉末50gに蒸留水17mlを添加して懸濁させる)を調製し、その一滴をシャーレに滴下し、直ちにシャーレを水平に素早く円運動させ、滴下した試料を拡散させる。粒状の凝集の有無により判定する。凝集皆無が耐酸性テスト合格の必要条件である。因に、このテストを一般市販製剤について実施すると、バリウム粉末製剤で合格するのは、バリトゲンとウムブラゾルA(商品名、株式会社伏見製薬所製)のみで、バリトップP(商品名、株式会社カイゲン製)は凝集が甚だしかった。
【0088】
この耐酸性滴下試験は1970年に白壁がその著書「胃二重造影法」に提唱した方法を改良したものであり、白壁の場合はpH1.3から3.95であるが、本発明においてはpH1.2とし、対照の蒸留水と全く同様の非凝集性を求める、極めて厳しい判定基準を設定したものである。
【0089】
(ローラー・セオリーと基本粒子の三者混合による粘度低減効果)
このセオリーは、約20年前から発明者が唱導して来た理論で、大小の粒子を例えば6:4などの適当な比率で混合すると、著しく懸濁液の粘度が低減できるというものである。ローラーとは重量物を移動させる時に用いられるコロを意味する英語で、機械の軸受に使われるベアリング効果にも似ている。
【0090】
そして、更に実際の胃粘膜の微細な凹凸の変化(胃小区像)を克明に二重造影で描写する為には、その後の研究で、大粒子と小粒子の二者混合より、特定の大粒子、中粒子、小粒子の三者混合の方が優れていることを見いだした。その混合比率も極超高濃度バリウム懸濁液とするために、特定の小範囲に調整する必要があった。これらの基本粒子を混合し、二次的凝集粒子を再分散させて得られる本発明のバリウム粉末製剤は、適宜包装処理してよく、例えば一部の市販製剤と同様のインスタント調製の可能な容器にいれる事もできる。
【0091】
(良い造影剤としての物理的条件等の検定)
最終的に上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液として適当なものであるかを、次項の検査項目につき、バリウム粉末製剤のロット毎に試験して造影剤として不適等なものは除外する。
a)見掛け粘度測定(エミラー型粘度計4倍ローターで測定)
b)耐酸性滴下試験
c)静的測定:降伏値等を円錐−平板型粘度計で計測し流動曲線の作図
d)動的測定:動的弾性率(G′)及び動的損失率(G″)を同上型の粘度計で計測し粘弾性の周波数依存曲線の作図
e)細菌学的検査[(株)伏見製薬所の基準による]
【0092】
(硫酸バリウム懸濁液のレオロジー)
角砂糖を水に入れてかき混ぜると、澄んだ溶液になる。砂糖の分子と水の分子とはよく混じりあって、どの部分をとっても均質な単一の相になっている。このような溶液の粘性は純粘性(pure viscous)で単純なものである。しかし、水に溶けない物質、例えば粘土の塊を水に入れてかき混ぜると、濁った液になる。これは光学顕微鏡で見える程度の、或いは見えないにしても砂糖などの分子に比べれば、はるかに大きい粒子、“粗大粒子”となって水中に漂っている。この場合、水という連続相と、粘土の粒子という不連続相の二つの相からなる懸濁液(suspension)となるのである。硫酸バリウムも水に不溶で粘土と同様に、粗大粒子の水懸濁液となる。オストワルド(Ostwald)はこのような2相をもつ系を分散系と称した。一般に分散系における粒子の大きさと形態は、その系のレオロジー的性質に対してきわめて重要な影響をもっていると言われている。電顕像で見た硫酸バリウムの粒子径は0.1μmから数+μm程度であって、勿論、砂糖分子よりはるかに大きく、コロイド次元(いわゆる高分子化合物)の粒子より更にやや大きい。このように硫酸バリウム懸濁液は粗大粒子分散系に属し、粒子が粗大である故に色々の非ニュートン的現象が見られる。
【0093】
(レオロジーの静的測定法、見掛け粘度)
レオロジー的粘度測定は、試料の一定の速さの流れ、即ち定常流についての静的測定法による。図4に示すエミラー型の二重円筒回転粘度計を用い、内筒4(モーター5を含む部分と一体構造をなしてトーション・バネ6で吊してあるローター)を一定の速度[剪断速度Shearing rate 、D、図4中の式(1)で計算される)で回転させ、試料7を介して内筒4の受ける剪断応力(Shearing Stress 、S、図4中の式(2)で計算される]が、バネ6の捻れ角αに応じて振れる図示しない指針に表示される。チクソトロピー(揺変性流動)のある場合は、回転開始のスイッチをオンすると、暫く指針が下降を続ける。約10秒回し続けて指針が一定の値に落ち着いた点の値を読む。この粘度計は内筒のサイズが9段階揃えてあり、最も細いものには100倍、最も太いのには1倍を、指針の読み値のそれぞれに掛けて見掛け粘度(S/D、cp単位)が求められる。直読式の実用に便利な機器である。外筒8の外側を囲む図示しない恒温槽を利用し、常に24±1℃で測定した。
【0094】
(静的測定法による流動曲線)
剪断速度を段階的(10点)に上昇、及び下降させる事の出来る本格的な円錐−平板型粘度計(津島RM−1型)によって描いた。剪断速度(sec-1)の増減に対応する剪断応力(dyne/cm2 )を測定した。図5の(A)に示すように回転速度を次第に上昇する過程の上昇曲線と、減少する過程の下降曲線とで履歴曲線(Hystelesis loop )を描く。これが流動曲線(Flow curve)で、下降部分は殆ど直線を示すのが特徴的で、その延長と横軸(Stress軸)との交点が降伏値Yo(Yield value or Yield stress )である。それは応力の単位(dyne/cm2 )で表示される。
【0095】
(非ニュートン流体の流動曲線)
硫酸バリウムのような粗大粒子の高濃度懸濁液は、降伏値を持つ異常(構造)粘性を呈し、そのような非ニュートン流体の流動曲線の上昇部分のみを図5の(B)に示した。
図5の(B)の(a)は降伏値は持たない特殊な非ニュートン流動、(a′)は降伏値を伴う一般的非ニュートン流動で擬塑性流動(Pseudoplastic Flow)と呼ばれる。剪断速度の上昇に比べ剪断応力の上昇が鈍い、即ちチクソトロピー(Thixotropy、揺変性流動)で、構造破壊過程に外ならない。バリウムで良質のものは殆どこの(a′)型である。(b)は降伏値を持つがチクソトロピーを伴わず、上昇曲線と下降曲線が重なって直線になる塑性流動(Plastic Flow) で、粘土とか高分子のプラスティクなど可塑性の固体によく見られる。但し、非常に降伏値が低く、限りなく上昇下降両曲線が接近して直線になる型は、流動性がよくバリウムとして良質なものがあり、ニュートン流動に限りなく近いニュートン流動近似曲線とも言える。(c)の降伏値を伴って上昇曲線が上方に凸の流動はダイラタンシーである。粘度計の回転数を上げる、即ち剪断速度が上がるに従って、剪断応力もどんどん増す流動曲線で、これ正にチクソトロピーとは正反対の粘性挙動である。大部分のバリウム懸濁液は、濃度が極端に高くなると最後にはダイラタンシーになり、粘度計はストレスに堪えられずに停止するか、異常振動を起こして破壊される。
【0096】
バリウム懸濁液はダイラタンシーを起こすような濃度では使用不可能になる。造影剤として最も好ましい静的特性は、降伏値が出来るだけ低い事、ニュートン流動近似曲線でありながら僅かのチクソトロピーを同時に保っている事である。エミラ型の4倍ローターの見掛け粘度は、50〜300cp、最も好ましくは70〜100cpの間であるが、降伏値やG′,G″数値のように厳しい低値を採らせる必要は必ずしもない。50cp以下では懸濁性が悪くなり沈殿しやすく使い難くなる。100cp以上250cp迄は、降伏値が7(dyne/cm2) 以下と充分低ければ、余り飲みにくい訳ではなく、許容される見掛け粘度である。250cpを超えると服用しにくくなり、300cp以上は服用させるべきではない。
【0097】
(動的測定法による周波数依存曲線)
図6に示す円錐−平板型粘度計(島津レオメーターRM1型)では、平板9(Plate)に、水平方向の一定の捻れ角α(radian)で、0.175〜0.9(Hertz )の間の5段階の周波数の振動を与える。試料バリウム7を介して円錐10(cone)の方にも、別の捻れ角β(radian)の同じ振動数の振動が誘起される。図示しないペン・レコーダー記録紙上の二つの振動の正弦波形出力を、その高調波成分を除いた基本波成分について、両正弦波の位相差(φ)と振幅比(Ρ)とを、図上の計測によって求めた。11はトーションワイヤである。ここに得たφとPの値を、同図に示した円錐に関する運動方程式から導かれた二つの式(3)、(4)に代入して、5段階の各周波数における動的弾性率(G′)、動的損失率(G″)を求めた。更に式(5)、η′=G″/ω(poise )の関係式から動的粘性率(η′)も求められた。振動周波数を横軸(Hz)に、G′G″,η′の値を縦軸(dyne/cm2 & poise)にプロットして、三係数の周波数依存曲線を描いた。
動的弾性率(G′)や動的損失率(G″)の計算式は、図6に示したように、三角関数を含むものの、余り難しいものではなく、計算式のプログラムを記憶させた卓上電子計算機に、計測データを入力して簡単に求める事が出来る。
図7に極超高濃度バリウム懸濁液のG′G″,η′の周波数依存曲線の例を示す。
η’は図6中の式(5)で求められる動的粘性率(poise)を表す。
【0098】
高調波成分の除去には、低周波側の2段、0.175Hzと0.375Hzの僅かな正弦波形の歪みを、目測で正しい正弦波形に修正するに止めた。過去の研究過程に於いて、小野測器製のFFTアナライザ(Fast Fourier Transform Analyser )を利用して、毎秒2000点の極めて微細な波形分析による高調波除去、基本波の識別を実施していたが、1Hz以下の極く低い周波数帯の高調波は、余り細かい時定数の解析をする必要がなく、又、正弦波の非線形化の原因は、極超高濃度バリウムに特有の構造粘性、即ち非ニュートン性に起因するようにも考えられた。それ故に、肉眼的に明らかに正弦波ではないと識別出来る波形についてのみ、振幅に変更を加えないように留意して、記録紙上の正弦波形を雲型定規等を用いて修正した。動的粘弾性率G′と動的損失率G″の係数値は、0.55Hzの測定値で代表させた。
【0099】
(極超高濃度バリウム懸濁液のバリウム濃度の表示法)
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液のバリウム濃度(W/V%)は下記の計算式より算出したものである。
【0100】
【0101】
但し、
a:純硫酸バリウムの重量(g)、b:添加物の重量、c:付加する水の重量
Va:純硫酸バリウムの懸濁液中の容積、純硫酸バリウム(比重4.5)のa(g)は0.222 ×a(ml)である。
Vb:添加物の占める容積、この場合の添加物の比重は1.0と仮定する。
【0102】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の調製はインスタントに調製できる)
病院等の実際の使用に際しては、プラスティック・カップ詰めなどの本発明のバリウム粉末製剤に、指定量の水道水を注いで密栓した後に、よく振盪するだけで、260〜290W/V%の極超高濃度懸濁液がインスタントに調製できる。
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液は、懸濁安定性も良く、数日の冷蔵保管後も、同様に容器をよく振盪するだけで均等に分散させることができる。数年来、内外の新発売高濃度バリウムが次々登場していて、インスタント調製が可能なものもある。しかしそれらは懸濁液の安定性が悪く、ヘドロが容器の底に溜り易いという共通した欠点がある為、二重造影も厚化粧になり一般の評価は低い。よく振盪すると云っても、激しく高速で振るとか、超音波を掛けたりすると、かえって粘度が上昇する事もある。その理由は恐らく自然凝集している1μm以下の極小粒子を、過度に分散させる為ではないかと考えられる。従って、調製時の振盪は水平に回すようには充分動かしてよいが、上下に激しく振るバーテンダー式の攪拌の直後の使用は好ましくなく、その後1〜2時間してから使用する方がよい。
【0103】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液を用いた二重造影原理)
本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の特徴は、極超高濃度なのに厚化粧にならず、胃粘膜表面の保護粘液を押し退けつつ(清掃流 Sweeping Flow)容易に流れ、薄く広がって付着する点にある。図8の(A)、(B)に示すように、260W/V%以上の極超高濃度バリウム懸濁液は、100W/V%の比重の約2倍近く重く、二重造影のローリングの力学を考えると、この重量差が粘液排除に非常に有効に働くのである。従来の濃度のバリウムでは、激しく速く洗っても(洗浄流 Washing Flow )、一回だけでは粘液の表層部分を少ししか排除できず、何度も繰り返す必要があった。それに対して極超高濃度バリウム懸濁液の合成ヴェクトルは粘液層深部へ向かい、掘り進むような力が働くから、粘液排除効率は重量差の単純計算以上に大きい。
【0104】
(本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の役割は胃粘膜の清掃)
胃粘膜の環境は特殊で極めて厳しい。遊離の酸、多少の粘液が常に存在する。殊に粘膜表面はそれを保護する粘液層に被われてその素顔を容易には現さない。従来の140W/V%の前記バリトゲンDXの場合、前記のように胃管で遊離の胃粘液を除去できたとしても、なかなか上手い二重造影は出来ず、粘液層を洗い去る為に、何回も繰り返す激しいローリングを加えなければならないという問題があった。
【0105】
何の目的でローリングするかをもう一度、問い直して見ると、胃粘膜面をくまなく被っている保護粘液層を除去して、好ましいバリウム付着状態を実現する為である。粘液の除去操作に関しては、バリウム懸濁液の比重即ちその重力ポテンシャルと、ローリングによって胃粘膜上をバリウムが移動する加速度のトルクと云う二つの力学的因子が深く係わっている。
マッキントッシュ(Mackintosh)の豚胃の実験によると、バリウムの胃小区造影に好ましい付着は、図8の(B)に示すように粘液層を押し退けた後の粘膜表面に薄く付着した状態であるという。この実験は二重造影の原理を解明する上で重要な意義を持つものである。
【0106】
発明者はこの原理を踏まえて、臨床検査時のローリング速度とバリウム濃度との相関関係について二重造影原理の力学的解析を試みた。バリウム懸濁液の比重はバリウム濃度が高濃度になる程増加するので、濃度別の比重を表9に示し、次のように考察した。
【0107】
図9は胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図である。
【0108】
【表9】
【0109】
バリウムの重力ポテンシャルは、バリウム懸濁液の比重に依って決まる。比重が倍ならばポテンシャルも倍になる。280W/V%のバリウム懸濁液は前記バリトゲンゾル100W/V%の約2倍の比重を持つ。従って、図9の(A)に示すように、前者は後者の2〜3倍のローリング速度でローリングしても、胃粘膜表面への合成ベクトルは水平に近い方向になり、粘液除去に効果的な角度にならないのに対して、図9の(B)に示すように、実際に前者は後者の1/2〜1/3のローリング速度で、より粘液除去に効果的な角度から、同程度の剪断力を、粘液層の深部に向かって作用させる事が出来ると考えられる。このことは無胃管法の260W/V%の極超高濃度バリウムの造影で、背臥位から右下側臥位、次に再び背臥位と唯一回の体位転換に、片道2秒の超緩速ローリングで(角速度では45°/秒)A−クラス胃小区示現率が最近100%近くと撮影されている事により、立証されたものと確信する。
【0110】
極超高濃度バリウムが胃二重造影法で演ずる役割は、コントラストを増強する事の外に、胃粘膜面を緩速ローリングで清掃するという、従来、誰も余り考えなかった意外な働きであったのである。但し、上記の清掃力を保つ必須の条件として、バリウムが粘液を清掃した後に、直ちにその大部分が流れ去って、前記図8(B)に示すように薄化粧になる事が求められる。その為、見掛け粘度ηap、降伏値Yo、動的弾性率G′と動的損失率G″の4特性が、前述の程度の低い値を採るような“切れの良さ”と、耐酸性も充分良いという条件が必要となるのである。
【0111】
(極超高濃度バリウムは超緩速ローリングでよい)
ローリングの動きの速度について、はっきりと書かれた文献がない。ローリングの速さは円弧運動の速度であるから、角速度即ち毎秒何度と表10に示すように表現するのが最も科学的で、且つ実際に適合している。
【0112】
【表10】
【0113】
身体を900 回すに要する時間が0.5秒以下というのは、洗うような速いローリングであり、1.0秒以上は緩速ローリングである。従来の文献に、このような客観的なローリング速度の記載は全く見られない。極超高濃度である260W/V%以上の場合は、90°即ち片道2秒以上と云う超スローモーションでよい。
【0114】
胃二重造影法はその手技の個人差が甚だしいのは事実で、熟練者から見れば、何処が間違っているのかを指摘出来る筈である。しかし実際には、易しいようでこれが大変難しいのである。微に入り細に亙って込み入った手技であればある程になお大変である。複雑な胃粘膜の環境、使用するバリウム濃度の差、又それぞれの造影剤に固有の様々な粘弾性、ローリングの方法の違い等、各種各様の条件が微妙に絡み合っているからである。
【0115】
前記のように、最近新発売の、200W/V%以上と称する高濃度製剤の共通の欠点は、沈降しやすくヘドロが溜る事である。これでは粘弾性が高過ぎて流れ難く、逆に厚化粧で、粘膜ひだは造影するが胃小区は全く出ないと言う結果になる。
これとは逆に濃度が低い場合は、図9の(A)に示すように合成ベクトルは水平に近い方向になり、ローリングは上滑りするから、一回当たりの保護粘液層の除去量が少なく、頻回の体位転換を繰り返しながら、次第に粘液を除く事を余儀なくさせられる。
【0116】
(ワンタッチ二重造影手技で高胃小区示現率)
極超高濃度バリウムは、高比重による力学的な粘膜清掃力によって、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に描出できる。即ち、無胃管のワンタッチ二重造影法が可能であり、従来のバリウム濃度におけるように、頻回の激しい猛スピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作は無用になる。極超高濃度バリウムの場合、洗うような激しく速い体位転換は、徒にバリウムを飛散させる事になり、胃壁に均等に付着させる目的に反する結果を招く事になる。
【0117】
バリウムの臨床上の造影効果判定は、二重造影の胃小区示現率を指標とする。本発明の極超高濃度バリウムを用いて実際の治験で、唯一回、極くゆっくりとローリングするだけで胃小区を造影することができる。
表11に示したX線写真上のバリウムの評価基準により、260W/V%の極超高濃度バリウムを用いた時の胃後壁の二重造影写真について評価した。A、Ab、およびABを示現陽性のA級とし、具体的には図10に示した前庭部の全域またはそれに相当する面積以上の胃粘膜面に胃小区を認めるもので、検査数を分母としての%で示した。結果を表12にまとめて示す。260W/V%の極超高濃度バリウムを用いたルーチン検査27例中、Aクラスは25例でありAクラス93%の高い胃小区示現率が得られた。
更に、260W/V%の極超高濃度バリウムを用いた450例について検討した結果、図11に示すように高齢者になればなる程、高い胃小区示現率が得られた。この事に依って極超高濃度バリウムの臨床的価値は充分裏付けられていると考えられる。
【0118】
【表11】
【0119】
【表12】
【0120】
(無胃管、無遮断剤の検査)
本発明の極超高濃度バリウムを用いた上部消化管の検査法では、原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の副交感神経節遮断剤の注射も行わない。胃液除去の前処置は、患者を右下側臥位で、深呼吸の繰り返しで腹壁筋肉を伸縮させ(パンピング)幽門から十二指腸へ胃液を追い出す方法による。最近、年間600万件を越える胃集団検診を始め、忙しい大学、国公立病院、癌センター等の諸施設では、放射線技師のみによって行われる胃X線検査が激増している。このような場合は、技師が患者の身体に触れたり、注射する事は公式に許されていないから、絶対に無胃管法で無遮断剤でなければならない。更に近年、医療の大勢は高齢者を対照とする事が甚だしく増加し、患者の身体的または精神的負担を軽くする検査法の改善は、喫緊の要請である。これら諸条件に対応出来るのが無胃管、無遮断剤のワンタッチ二重造影法である。
【0121】
【発明の効果】
本発明の極超高濃度バリウムを用いることにより、従来からのバリウムのように、頻回の激しい猛スピードのローリングで、胃粘膜面を執拗に洗いまくる操作が無用で、患者を透視台で、ゆっくりと一回ローリングするだけで、二重造影像に胃小区のような微細粘膜構造を簡単に描出できる。
【0122】
原則として無胃管法で、粘液分泌と胃の蠕動を抑制する為の遮断剤の注射も行わないでワンタッチ二重造影法が可能である。
【0123】
しかも、ハイ・コントラスト、高電圧撮影であることによる朦朧化の低減、緩速ローリングによる胃粘膜の清掃が達成されるとともに、造影剤の服用量の低減で飲み易く、便秘などの副作用も軽減されるので、検査手技の平易化、患者の身体的な負担の軽減に役立ち、体位転換の困難な老人や重症患者、更に身体障害者等の胃X線検査にも有用であり、更に早期胃癌の発見、胃潰瘍等の上部消化管の診断が可能となるなどの効果を奏するので、医療産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 小、中、大粒子の粒度分布と比表面積を示すグラフである。
【図2】 (A)、(B)、(C)はそれぞれ小、中、大粒子の捏和における温度と時間の関係を示すグラフである。
【図3】 (a)はニーダーの外観を示す斜視図、(b)は混練槽を傾けた時の内部を示す説明図である。
【図4】 エミラー型二重円筒回転粘度計の断面を説明する断面図および剪断速度と剪断応力の計算式を示す図である。
【図5】 (A)は非ニュートン流体の流動の履歴曲線を示し、(B)は非ニュートン流体の剪断速度と剪断応力の関係を示すグラフである。
【図6】 円錐平板粘度計の断面を説明する断面図およびG’、G”、η’の計算式を示す図である。
【図7】 本発明の極超高濃度バリウム懸濁液のG’、G”、η’の周波数依存曲線である。
【図8】 (A)は本発明の極超高濃度バリウム懸濁液が胃粘膜表面を清掃する状態を説明する説明図、(B)は清掃後の本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の胃粘膜付着状態を説明する説明図である。
【図9】 (A)は従来濃度のバリウム懸濁液の胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図、(B)は本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の胃二重造影のローリングに関する力学を説明する説明図である。
【図10】 胃内面の各部位を示す説明図である。
【図11】 本発明の極超高濃度バリウム懸濁液の年齢別、性別の胃小区示現率を示す棒グラフである。
【符号の説明】
1 混練槽
2、3 羽根
4 内筒(ローター)
5 モーター
6 トーション・バネ
7 試料
8 外筒
9 平板
10 円錐
11 トーション・ワイヤ
Claims (5)
- 純硫酸バリウムの大粒子、中粒子及び小粒子に、トラガント及びカラギーナンから成る複合添加剤を用いて被覆処理された基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比で混合したバリウム粉末製剤であって、原料の純硫酸バリウム粒子は、大粒子、中粒子及び小粒子のいずれもコールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、大粒子、中粒子及び小粒子の前記粒度分布のピーク値がそれぞれ8μm、2〜2.5μm、0.8〜1μmであり、その計測に基づいて大粒子、中粒子及び小粒子の比表面積を求め、且つ純硫酸バリウムの各粒子に添加される前記複合添加剤は、大粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率との比が1:10、中粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率との比が1:9±1、小粒子についてはトラガント添加率とカラギーナン添加率との比が1:0.9±0.1であり、トラガントの粘度低減効果がカラギーナンの2.5倍として下記の式で計算した大、中、小の各粒子の実効T(トラガント)添加率の比が、前に求めた大粒子、中粒子、小粒子の比表面積の比に全く同じである事を特徴とする新規なバリウム粉末製剤。
式;
実効T添加率=(トラガント添加率)+(カラギーナン添加率)×1/2.5
但し、添加率の単位は重量%である。 - 請求項1記載のバリウム粉末製剤を水に分散して得られる、下記の特性を有する事を特徴とする上部消化管造影用の極超高濃度バリウム懸濁液(純硫酸バリウム濃度260〜290W/V%)。
見掛け粘度 ηap(cp) :70〜250
降伏値 Y0 (dyne/cm2):1.5〜6.6
動的弾性率 G’(dyne/cm2):5〜19
動的損失率 G”(dyne/cm2):1〜6.2
但し、見掛け粘度は二重円筒型回転粘度計(エミラー型)により4倍ローターを使用した測定値で、他は円錐−平板型粘度計による測定値を示し、G’とG”は粘度計の平板の振動周波数が0.55 Hz における測定値で、濃度による変動のそれぞれ下限と上限を示す。 - 請求項2記載の極超高濃度バリウム懸濁液の一滴を、シャーレ内のpH1. 2塩酸液に滴下し、シャーレに水平の円運動を加えてよく拡散させた場合(耐酸性滴下試験)、肉眼的に全く凝集を起こさない事を特色とする上部消化管造影用極超高濃度バリウム懸濁液。
- 基本大粒子、基本中粒子および基本小粒子を下記の(A)〜(C)の工程により製造した後、基本大粒子:基本中粒子:基本小粒子=2:1:1の重量比で充分混合し、次いで粉砕して2次的凝集粒子を分散させ、必要に応じて包装する事を特徴とする請求項1に記載のバリウム粉末製剤の製造方法。(A)基本大粒子の製造工程 :下記の(1)〜(4)の工程により基本大粒子を製造する。
(1)コールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、前記粒度分布のピーク値が8μmの純硫酸バリウムの大粒子へのトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:10で、且つ大粒子に対する粘度低減効果最大の実効T(トラガント)添加率を有する複合添加剤を混合する工程。
(2)得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料大粒子の13.5±1重量%)の80±5%の蒸留水を注ぎ室温で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる工程。
(3)純硫酸バリウムの大粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記総水分量となるように残りの蒸留水を逐次ニーダーに投入して下記の条件で90±5分間捏和する工程。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中にニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は33±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか、やや低下するように温度管理をする。
(4)捏和により仕上がった泥状の基本大粒子に、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、ドラム・ドライヤーで加熱乾燥と消毒処理を行い、粉末状基本大粒子を得る工程。
(B)基本中粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本中粒子を製造する。
(1)コールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、前記粒度分布のピーク値が2〜2.5μmの純硫酸バリウムの中粒子へ対するトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:9±1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子の工程で前述)に対する中粒子の実効T添加率の比が、大粒子と中粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する工程。
(2)得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料中粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を注ぎ室温で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる工程。
(3)純硫酸バリウムの中粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記総水分量となるように残りの蒸留水を逐次ニーダーに投入して下記の条件で60±5分間捏和する工程。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中にニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は37±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか、やや低下するように温度管理をする。
(4)捏和により仕上がった泥状の基本中粒子に、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、ドラム・ドライヤーで加熱乾燥と消毒処理を行い、粉末状基本中粒子を得る工程。
(C)基本小粒子の製造工程:下記の(1)〜(4)の工程により基本小粒子を製造する。
(1)コールター・カウンターにより測定した粒度分布が正規分布を示し、前記粒度分布のピーク値が0.8〜1μmの純硫酸バリウムの小粒子へ対するトラガント添加率とカラギーナン添加率の比が1:0.9±0.1で、大粒子の実効T添加率(基本大粒子の工程で前述)に対する小粒子の実効T添加率の比が、大粒子と小粒子の比表面積の比と同率になるように複合添加剤を混合する工程。
(2)得られたトラガントとカラギーナンからなる複合添加剤に、下記(3)の捏和工程に必要な総水分量(原料小粒子の15±1重量%)の80±5%の蒸留水を注ぎ室温で24〜30時間放置して、前記複合添加剤を膨潤させる工程。
(3)純硫酸バリウムの小粒子、膨潤した前記複合添加剤および前記総水分量となるように残りの蒸留水を逐次ニーダーに投入して下記の条件で90±5分間捏和する工程。
25±5℃で捏和を開始すると、捏和中にニーダーの力学的負荷が徐々に上昇し、ピークに達した時に液状化が起こるが、液状化後も充分捏和すると、温度は40±2℃まで徐々に上昇してそのまま持続されるか、やや低下するように温度管理をする。
(4)捏和により仕上がった泥状の基本小粒子に、蒸留水を加えて100±10W/V%の水懸濁液とした後、ドラム・ドライヤーで加熱乾燥と消毒処理を行い、粉末状基本小粒子を得る工程。 - 請求項1記載のバリウム粉末製剤に所定量の水を加え、懸濁させることを特徴とする請求項2記載の上部消化管用極超高濃度バリウム懸濁液の調製方法。
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