JP3716474B2 - 磁気シールド用鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電子機器等から漏洩する磁気をシールドするための磁気シールド用鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の普及に伴い、電子機器からの漏洩磁束が人体に与える影響や、他の電子機器に与える影響が問題となっており、このため磁気シールドの必要性が高まっている。
【0003】
磁気シールド用材料の代表的なものとしてパーマロイが挙げられるが、高価であること、また、低磁場のシールドには非常に効果的であるものの飽和磁束密度が低いことから高磁場のシールドに対しては効果的なシールドができないことが問題となっている。
【0004】
これに対し、純鉄系のシールド材料はパーマロイに比べると低磁場のシールド性能は劣るものの、安価であり、飽和磁束密度が高いことから高磁場シールドも可能であるというメリットがある。
【0005】
これまで純鉄系の材料においては、優れた磁気シールド性を得るため、鋼板の結晶粒径を粗大にすること、および鋼板中の介在物を極力低減することが試みられている。結晶粒径を粗大化させるためには、調圧を施した後に焼鈍することが有効であり、また、介在物を低減するためにはAlで十分に脱酸し、介在物を浮上分離することが有効である。
【0006】
例えば、特開平5−247604号公報には、Si:0.05%以下、Al:0.05%以下とし、5〜30%の調圧後に焼鈍することによりフェライト粒径を結晶粒度番号で2以下、7以上とする軟磁性鉄板が開示されている。また、特開平1−139739号公報には、Alで十分脱酸することにより、JIS−G0555に規定されている非金属介在物の面積率が(dA+dB+dC)≦0.1%とする純鉄が開示されている。
しかし、磁気シールド性の指標となる最大透磁率は、前者では19000程度、後者で16000程度であり、未だ満足することができる特性とはいえない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、安価でかつ磁気シールド性に優れた磁気シールド用鋼板を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、磁気シールド性を向上させる技術について鋭意検討した結果、鋼中の粗大な介在物量をコントロールすることにより粒成長性が向上し、優れたシールド特性が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、質量%で、
Si:0.05〜0.30%、
Al:0.004%以下(0%を含む)、
C:0.005%以下(0%を含む)、
S:0.02%以下(0%を含む)、
Mn:0.05〜0.5%、
P:0.005〜0.2%、
N:0.005%以下(0%を含む)、
を含み、残部実質的にFeからなり、5μm超の介在物を1000〜5000個/cm2の範囲で含むことを特徴とする磁気シールド用鋼板を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について実験結果に基づいて具体的に説明する。
まず、磁気シールド性に及ぼす脱酸方法の違いを明らかにするため、Si脱酸後真空脱ガスを行い、C:0.0020%、Si:0.11%、Mn:0.32%、P:0.100%、S:0.002%、Al:tr.、N:0.0020%に成分調整を行った鋼と、Al脱酸後真空脱ガスを行い、C:0.0021%、Si:0.01%、Mn:0.33%、P:0.100%、S:0.002%、Al:0.10%、N:0.0022%に成分調整を行った鋼を溶製した。なお、真空脱ガスは従来のシールド材と同様20分間程度行い、介在物をできるだけ浮上分離させた。
【0011】
これらの鋼を鋳造後、熱間圧延および冷間圧延を行って板厚1.0mmの冷延鋼板とし、この冷延鋼板に725℃×2分間の仕上焼鈍を施した後、1.5%の調圧を加え、さらに800℃×2時間の磁性焼鈍を施した。図1は、このようにして得た磁気シールド材の最大透磁率(μmax )を比較したものである。ここで、直流磁気特性は直流磁気特性は調圧後の鋼板を外径45mm、内径33mmのリングサンプルに加工した後、750℃×2時間の磁性焼鈍を施し、JIS C2550に準拠して測定した。
【0012】
図1より、最大透磁率はSi脱酸鋼のほうが高くなることがわかる。
脱酸方法により透磁率に差が生じた原因を解明するため、最初に、フェライト組織を光学顕微鏡にて観察したところ、Al脱酸鋼においては混粒組織を呈しており、これに対し、Si脱酸鋼では均一粗大粒となっていた。
【0013】
次に、この組織の差を鋼中介在物の観点から調査した。介在物観察はSEMを用いて行った。その結果、Al脱酸鋼においては2〜3μm程度の比較的粗大な介在物は低減しているものの、1μm以下の微細酸化物は多数残存していることが判明した。一方、Si脱酸鋼においては、3〜5μmの比較的粗大な介在物が多いものの、1μm以下の微細酸化物は少なくなっていることが判明した。一般に粒子径の小さいものほど粒界のピンニング力が大きいため、1μm以下の微細酸化物の差が、Al脱酸鋼とSi脱酸鋼における粒成長性の差となったものと考えられる。すなわち、鋼組織を均一粗大粒にして最大透磁率を高めるためには、粒成長を妨げる1μm以下の介在物を極力低減することが必要があることがわかる。このことは、もともと1μm以下の介在物が少ないSi脱酸鋼において、1μm以下の微細酸化物をさらに低減することができれば、より一層優れた磁気シールド用鋼板が得られる可能性を示唆している。
【0014】
本発明者らは、このSi脱酸鋼の粒成長性をさらに向上させるため、1次脱酸生成物を用い、鋼の凝固時に微細に晶出する1μm以下の二次脱酸生成物をこの粗大酸化物を核として凝集させることについて検討した。
【0015】
2次脱酸生成物を凝集させるための最適な一次脱酸生成物の大きさおよび量を決定するため、Si脱酸鋼の脱ガス時に溶鋼中への酸素吹き込み、その際の酸素吹き込み量および酸素吹き込み終了から鋳造までの時間を種々変化させることにより介在物の大きさおよび量を変化させた。
【0016】
図2はこのような手法にて、C:0.0020%、Si:0.11%、Mn:0.32%、P:0.100%、S:0.002%、Al:tr.、N:0.0020%の鋼を鋳造し、熱間圧延、冷間圧延を行い、板厚1.0mmの冷延鋼板を行うことにより一次脱酸生成物を粗大にした鋼を溶製し、鋳造後、熱間圧延、冷間圧延を行うことにより、板厚1.0mmの冷延鋼板とし、引き続き725℃×2分間の仕上焼鈍を施した後、2.0%の調圧を加え、さらに800℃×2時間の磁性焼鈍を施すことにより得られた磁気シールド材の鋼中介在物量と最大透磁率(μmax )との関係を示したものである。
【0017】
図2より、鋼中介在物の大きさが、3〜5μmの場合には、介在物量を変化させても透磁率は20000に達せず特性として満足できるものではない。一方、鋼中介在物の大きさが5μm超の場合には、介在物量が1000〜5000個/cm2 の場合に、最大透磁率が20000以上となり、単にSiで脱酸するよりも大幅に最大透磁率が高くなることがわかる。これらサンプルの組織を光学顕微鏡にて観察したところ、3〜5μmの介在物が5000個/cm2 未満、もしくは5μm超の鋼中介在物量が1000個/cm2 未満の場合には、結晶粒は十分に粗大となっておらず、一方、鋼中介在物量が5000個/cm2 超においては結晶粒が細粒となっていた。これに対し、5μm超の鋼中介在物量が1000〜5000個/cm2 においては均一な粗大粒となっていた。このことより、5μm超の鋼中介在物量を一定範囲に制御することにより安定した粒成長性が得られることが判明した。
【0018】
その原因を解明するために、粒成長性に及ぼす微細介在物の観察を行った。その結果、3〜5μmの介在物が5000個/cm2 未満もしくは5μm超の鋼中介在物量が1000個/cm2 未満の鋼板においては、1μm以下の酸化物が認められた。これに対し、5μm超の鋼中介在物量が1000〜5000個/cm2 の鋼板においては1μm以下の酸化物はほとんど認められなかった。このことより、5μm超の鋼中介在物量が1000〜5000個/cm2 において均一粗大粒が得られた原因は、粗大な一次脱酸生成物が増大し、これに伴い微細な二次脱酸生成物が低減したためと考えられる。
【0019】
3〜5μmおよび5μm超の鋼中介在物が5000個/cm2 超においては、酸化物は粗大となっているものの、その個数が多いため、この粗大酸化物自体が粒成長を阻害し、細粒が生じたものと考えられる。
【0020】
以上の結果より、本発明者らは、シールド材の介在物を極力低減するという従来の思想とは異なり、5μm超の鋼中介在物を比較的多数残存させることにより磁気シールド特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
次に、発明の成分について具体的に説明する。
本発明では、重量%で、Si:0.05〜0.30%、Al:0.004%以下(0%を含む)、C:0.005%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)、Mn:0.05〜0.5%、P:0.005〜0.2%、N:0.005%以下(0%を含む)とする。
【0022】
Siは脱酸のため0.05%以上添加するが、より安定した粗大酸化物を形成させるためには0.1%以上の添加が好ましい。また0.30%を超えると高磁場の磁束密度が低下するため、上限を0.30%とする。
【0023】
Alは脱酸材として添加すると微細なAl2 O3 を生成し、粒成長性を不安定にする。このためAlは少ないほど好ましく、0.004%以下とし、0%も含むものとする。
【0024】
Cは磁気時効の問題があるため少ないほうが好ましく、0.005%以下とし、0%も含むものとする。
Mnは熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために0.05%以上必要であるが、0.5%を超えると磁束密度が低下するため0.05〜0.5%とする。
【0025】
Sは磁気特性を劣化させるMnSを生成するため少ないほうが好ましく、0.02%以下とし、より好ましくは0.001%以下とし、0%も含むものとする。
【0026】
Pは鋼板の打ち抜き性を改善するために必要な元素であるため0.005%以上添加する。しかし、0.2%を超えて添加すると鋼板が脆化するため上限を0.2%とする。
【0027】
Nは0.005%を超えると磁気特性を劣化させるため、0.005%以下とし、0%も含むものとする。
次に、本発明の磁気シールド用鋼板の製造方法の一例について説明する。
【0028】
本発明においては、介在物として粗大な酸化物を形成させるためSi脱酸を行うことが重要となる。また、従来の磁気シールド材とは異なり、一次脱酸生成物として生成したSiO2 を粗大にし、SiO2 が浮上分離しないうちに鋳造を行うことも必要である。そのための一手法として、例えば、転炉で吹錬した溶鋼をSi脱酸し脱ガス処理する際に、溶鋼中へ酸素を吹き込み、もしくは酸化鉄を投入し、その後速やかに鋳造する。これにより鋼中介在物の大きさおよび量を所定の範囲内とすることができる。
【0029】
続いて熱間圧延および熱間圧延後の熱延板焼鈍を行うが、その条件は特に制限する必要はない。
次いで一回の冷間圧延、もしくは中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚とした後に、仕上焼鈍を行い、引き続き調圧を加える。この調圧率の下限は、従来の磁気シールド材より大幅に低く、0.5%以上であればよい。上限は加工性の観点から規制され、5%以下が好ましい。ただし、加工が施されないシールド材に関しては5%超でもかまわない。
【0030】
調圧後、シールド構体に加工され、750〜850℃で2時間程度の磁性焼鈍を施す。
これら一連の処理により、本発明の鋼板が得られる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
表1に示す組成の鋼となるように、表2中に示す酸素吹き込み条件で酸素量の調整を行った後に、板厚2.0mmまで熱間圧延を行い、酸洗後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行った。その後、730℃×2分間の仕上焼鈍を行い、さらに表2に示す調圧率で調圧後、磁性焼鈍を施した。
磁気特性は、外径45mm、内径33mmのリング試験片を用いて行った。各鋼板の磁気特性を表2に合わせて示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示すように、本発明の範囲内の組成および介在物量の鋼板は、最大透磁率が高く、磁気シールド性に優れていることが確認された。
一方、介在物量が本発明の範囲から外れる鋼板は最大透磁率が低く、本発明の範囲のものよりも磁気シールド性が劣ることが確認された。
【0035】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、安価で磁気シールド性に優れた磁気シールド用鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Si脱酸鋼およびAl脱酸鋼の最大透磁率を比較して示す図。
【図2】鋼中の介在物量と最大透磁率との関係を示す図。
Claims (1)
- 質量%で、
Si:0.05〜0.30%、
Al:0.004%以下(0%を含む)、
C:0.005%以下(0%を含む)、
S:0.02%以下(0%を含む)、
Mn:0.05〜0.5%、
P:0.005〜0.2%、
N:0.005%以下(0%を含む)、
を含み、残部実質的にFeからなり、5μm超の介在物を1000〜5000個/cm2の範囲で含むことを特徴とする磁気シールド用鋼板。
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JPH09176795A JPH09176795A (ja) | 1997-07-08 |
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