JP3883029B2 - 軟磁性鋼板 - Google Patents
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Description
【従来の技術】
近年、電子機器の普及に伴い、これら電子機器からの漏洩磁束が人体に与える影響や、他の電子機器に与える影響が問題となっており、磁気シールドの必要性が高まっている。このような磁気シールド用材料として代表的なものに純鉄およびパーマロイがある。
【0002】
【発明が解決すべき課題】
しかしながら、純鉄は安価であるものの最大透磁率は10000(Gauss/Oe)程度であり、磁気シールド用材料として十分な特性を有しているとはいいがたい。一方、パーマロイは優れた透磁率を有しているがNiを45〜80%含有しているため非常に高価である。このような背景から、透磁率が高く、かつ安価な磁気シールド用材料が求められているのが現状である。
【0003】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、透磁率が高く、かつ安価な鋼板を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の骨子は、S含有量を0.0009%以下とし、SbとSnの含有量をSb+Sn/2で0.001〜0.005 %(但し、 Sb+Sn/2 = 0.005 %を除く)とすることにより透磁率の高い磁性材料を得るものである。
【0005】
すなわち、前記課題は、重量%でC:0.005%以下、Si:1.5%以下、Al:0.1%以上0.5%未満、S:0.0009%以下(0を含む)、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Sb+Sn/2=0.001〜0.005 %(但し、 Sb+Sn/2 = 0.005 %を除く)を含有し、残部がFe 及び不可避不純物からなる板厚0.1〜2mmの軟磁性鋼板によって解決される。
【0006】
本明細書においては、特に断らない限り、鋼の成分を示す%は重量%であり、ppmも重量ppmである。
【0007】
(発明に至る経緯とSb、Sn、S含有量の限定理由)
本発明者等は、透磁率が高く、磁気シールド性の優れた鋼板について鋭意検討を重ねた。
最初に、直流磁気特性に及ぼすSの影響を調査するため、C:0.0025%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.01%、Al:0.25%、N:0.0021%とし、S量をtr.〜15ppmの範囲で変化させた鋼を実験室にて真空溶解し、熱延後、酸洗し、板厚0.8mmまで冷間圧延後、750℃×2min間の仕上焼鈍を施し、さらにシールド構体加工時の降伏点伸びを防止する観点から1.5%の調圧を施した。引き続き調圧板を内径33mm−外径45mmのリングサンプルに加工し、さらに100%N2雰囲気にて800℃×2hrの磁性焼鈍を施すことにより磁気シールド材を得た。
【0008】
図1にS量と最大透磁率(μm)との関係を示す(×印)。ここで、直流磁気特性は上記リングサンプルを用い、JIS C2504に準拠して測定した。
図1より、Sを低減していくと透磁率の向上が達成されることがわかる。これは、S低減により粒成長性が向上したためである。
【0009】
しかし、S量が9ppm以下となると透磁率の向上は緩やかとなり、S量をさらに低減したとしても透磁率は15000(Gauss/Oe)程度にしかならない。
【0010】
本発明者らは、S≦9ppmの極低S材において透磁率の向上が阻害されるのは、MnS以外の未知の要因によるものではないかと考え、光学顕微鏡にて組織観察を行った。その結果、S≦9ppmの領域で鋼板表層に顕著な窒化層が認められた。これに対し、S>9ppmの領域では窒化層は軽微となっていた。この窒化層は、窒化雰囲気で行った磁性焼鈍時に生じたものと考えられる。
【0011】
上記、S低減に伴う窒化反応促進の原因に関しては次のように考えられる。すなわち、Sは表面および粒界に濃化しやすい元素であることから、S>9ppmの領域では、Sが鋼板表面へ濃化し、磁性焼鈍時の窒素の吸着を抑制しており、一方、S≦9ppmの領域ではSによる窒素吸着の抑制効果が低下したためと考えられる。
【0012】
本発明者らは、この極低S材において顕著に生じる窒化層が鋼板表層部の結晶粒の成長を妨げ、透磁率の向上を抑制するのではないかと考えた。このような考えの基に、本発明者らは窒素吸着の抑制が可能でかつ極低S材の優れた粒成長性を妨げることのない元素を添加することができれば、極低S材の透磁率はさらに向上するのではないかという着想を抱き、種々の検討を加えた結果、Sbの極微量添加が有効であることを発見した。
【0013】
図1に、前記×印で示したサンプルの成分に40ppmのSbを添加したサンプルについて同一の条件で試験をした結果を○印で示す。(○印に対応する点のS量は、左から、1、3、6、9、10、11、13ppmである。)Sbの透磁率向上効果に着目すると、S>9ppmの領域では、Sb添加により透磁率は500(Gauss/Oe)程度しか向上しないが、S≦9ppmの領域では、Sb添加により透磁率は2000(Gauss/Oe)程度向上しており、S≦9ppmにおいて、Sbの透磁率向上効果に臨界性が認められる。また、このサンプルではS量によらず窒化層は認められなかった。これはSbが鋼板表層部に濃化し窒素の吸着を抑制したためと考えられる。
【0014】
次にSbの最適添加量を調査するため、C:0.0015%、Si:0.15%、Al:0.20%、Mn:0.30%、P:0.01%、S:0.0005%、N:0.0018%としSb量をtr.〜600ppmと変化させた鋼を実験室にて真空溶解し、熱延後、酸洗し、板厚0.8mmまで冷間圧延後、750℃×2min間の仕上焼鈍を施し、さらに1.5%の調圧を施した。引き続き調圧板を内径33mm−外径45mmのリングサンプルに加工し、さらに100%N2雰囲気にて800℃×2hrの磁性焼鈍を施すことにより磁気シールド材を得た。図2にSb量と最大透磁率との関係を示す。実測データである○印に対応するSb量は、左から、0、12、20、30、44、60、81、93、240、340、440、600ppmである。
【0015】
図2より、Sb量が10ppm以上の領域で透磁率が向上していることがわかる。しかし、Sbをさらに添加し、Sb>50ppmとなった場合には、透磁率は再び低下することもわかる。
【0016】
このSb>50ppmの領域での透磁率低下原因を調査するため、光学顕微鏡による組織観察を行った。その結果、表層細粒組織は認められなかったものの、平均結晶粒径が若干小さくなっていた。この原因は明確ではないが、Sbが粒界に偏析しやすい元素であるため、Sbの粒界ドラッグ効果により粒成長性が低下したものと考えられる。
【0017】
以上のことより Sb は 10ppm 以上、 50ppm 未満とする。
【0018】
以上の透磁率向上効果はSbと同様な表面偏析型元素であるSnを20ppm以上添加した場合にも認められ、100ppm以上の添加で透磁率が若干低下した。このことよりSnは20ppm以上、 100ppm 未満とする。
【0019】
さらに、SbとSnを複合添加した場合にもSb+Sn/2で10ppm以上添加した場合に透磁率が向上し、Sb+Sn/2で50ppm以上添加した場合に若干の透磁率の低下が認められた。このことよりSbとSnを複合添加した場合にはSb+Sn/2で10ppm以上、 50ppm 未満とする。
また、S含有量に付いては、Sb、Snの効果が臨界的に増加する範囲である9ppm以下に限定する。
【0020】
(板厚の限定理由)
板厚は2mm超となると成形性が低下するため2mm以下とする。また、0.1mm未満となった場合には冷間圧延が困難となるだけでなく、シールド構体とした場合の剛性確保が困難となるため下限を0.1mmとする。
【0021】
(その他の成分の限定理由)
C: Cは磁気時効の問題があるため0.005%以下とする。
Si: Siは、1.5%超となると飽和磁束密度が低下するため上限を1.5%とする。Mn: Mnは熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために、0.05%以上必要であるが、1.0%以上になると飽和磁束密度が低下するため0.05〜0.5%とする。
【0022】
Al: Alは0.5%以上となると飽和磁束密度が低下し、高磁場域のシールドを行う場合に磁束が漏洩し易くなる。このため含有量を0.5%未満とする。また、0.1%未満の場合にはAlNの微細化により粒成長性が低下し、透磁率が低くなるため下限を0.1%とする。
P: Pは鋼板の打ち抜き性を改善するために必要な元素であるが、0.2%を超えて添加すると鋼板が脆化するため0.2%以下とする。
N: Nは0.005%以上となると透磁率を低下させるため、0.005%以下とする。
【0023】
(製造方法)
本発明においては成分が本発明の範囲内であれば、製造方法は通常の軟磁性鋼板を製造する方法でかまわない。すなわち、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し所定の成分に調整後鋳造し、熱間圧延を行う。次いで一回の冷間圧延、もしくは中間焼鈍をはさんだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚とした後に、仕上焼鈍を行う。仕上焼鈍後、シールド構体加工時の降伏点伸びを防止するため0.5%〜7%程度の調圧を施すことが望ましい。その後、シールド構体に加工し、750〜900℃で2hr程度の磁性焼鈍を施す。
【0024】
【実施例】
転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し表1の成分(成分値は重量%)に調整後鋳造し、板厚2.0mmまで熱間圧延を行い、酸洗後、板厚0.5mmまで冷間圧延を行った。その後、750℃×2minの仕上焼鈍を行い、1.5%の調圧を施した後、100%N2雰囲気にて800℃×2hrの磁性焼鈍を施した。
【0025】
直流磁気特性は外径45mm、内径33mmのリング試験片を用いて測定した。各鋼板の磁気特性を表1に併せて示す。表1における最大透磁率は、磁束密度(Gauss)/磁化力(Oe)である。
【0026】
表1より、本発明の鋼板組成を有するNo. 1〜 No. 4、 No. 7、 No. 8、 No.10の鋼板(本発明鋼板)は、高い最大透磁率を有し、しかも高い磁束密度を有することが分かる。
【0027】
これに対し、No.12の鋼板は、S含有量が本発明の範囲を超えているので、最大透磁率が低い。
No.13の鋼板はSb+Sn/2の値が本発明の範囲を下回っており、No. 5、 No. 6、 No. 9、 No.11 、No.14の鋼板は、Sb+Sn/2の値が本発明の範囲を超えているので、共に最大透磁率が低い。
【0028】
No.15の鋼板は、Alの含有率が本発明の範囲を超えているので、最大透磁率は高いものの、磁束密度が低くなっている。
No.16の鋼板は、Alの含有量が本発明の範囲を下回っているので、最大透磁率が低くなっている。
【0029】
No.17の鋼板は、Siの含有率が本発明の範囲を超えているので、最大透磁率は高いものの、磁束密度が低くなっている。
No.18の鋼板は、Mnの含有率が本発明の範囲を下回っているので、最大透磁率が低くなっている。
No.19の鋼板は、Mnの含有率が本発明の範囲を超えているので、最大透磁率は本発明鋼に近いものの、磁束密度が低くなっている。
【0030】
No.20の鋼板は、Cの含有量が本発明の範囲を超えているので、最大透磁率が低くなっている。
No.21の鋼板は、Nの含有量が本発明の範囲を超えているので、最大磁束密度が低くなっている。
【0031】
【表1】
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、重量%でC:0.005%以下、Si:1.5%以下、Al:0.1%以上0.5%未満、S:0.0009%以下(0を含む)、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Sb+Sn/2=0.001〜0.005 %(但し、 Sb+Sn/2 = 0.005 %を除く)を含有し、残部がFe 及び不可避不純物からなる板厚0.1〜2mmの軟磁性鋼板であるので、透磁率が高い物が安価に得られる。
【0033】
本軟磁性鋼板は、磁気シールド材をはじめとして、高い透磁率が必要とされる電気材料に広く使用するのに好適である。また、電子部品のヨーク等、優れた直流磁気特性が要求される電気材料としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】S含有量と最大透磁率の関係を示す図である。
【図2】 Sb含有量と最大透磁率の関係を示す図である。
Claims (1)
- 重量%でC:0.005%以下、Si:1.5%以下、Al:0.1%以上0.5%未満、S:0.0009%以下(0を含む)、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Sb+Sn/2=0.001〜0.005%(但し、 Sb+Sn/2 = 0.005 %を除く)を含有し、残部がFe 及び不可避不純物からなる板厚0.1〜2mmの軟磁性鋼板。
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