JP3714032B2 - ワイヤカット放電加工装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ワイヤカット放電加工装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤカット放電加工装置は、他の工作機械では加工できない微細な切断加工が可能なことから、金型製造分野を中心にあらゆる製造現場に導入され、工作機械としての1つの分野を構成するに至っている。
【0003】
図10は従来のワイヤカット放電加工装置の放電加工部の近傍を示す斜視図、図11は図10の矢視XI−XI線から見た要部の断面図である。図10及び図11において、例えば直径0.25mmのワイヤ電極1と被加工体2との間に存在する放電加工間隙に、上部のノズル3と下部のノズル3とからポンプ4より供給された加工液5を噴射しつつ、上部の通電子6と下部の通電子6とに負の電圧を印加することによって、ワイヤ電極1が負に帯電し、また被加工体2に正の電圧が印加されると、ワイヤ電極1と被加工体2との間で生じる電位差により、放電を発生させる。ワイヤ電極1から被加工体2へ放電する際、ワイヤ電極1の温度の上昇を防ぐために、加工液5をワイヤ電極1に吹き付けることを行っている。このとき、加工液5の気化熱を伴う放電時の熱エネルギーにより被加工体2が溶融飛散され、被加工体2に加工溝7が形成されて例えば0.35mmの幅を有する開口部7aが形成される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のワイヤカット放電加工装置は以上のように構成されているので、ワイヤ電極1と加工溝7の溝壁との間隙は0.05mmである。一方、ワイヤ放電加工を行うときのノズル3と被加工体2との間隙は0.2mm程度であるので、加工液5を加工溝7に吹き付けても全ての加工液5が加工溝7に流入されず、加工溝7に入って開口部7aに流れる流れ5aと、ノズル3と被加工体2との間隙から漏れる流れ5bが生じる。このため、流れ5aの流量が減少し、被加工体2の中央まで加工液5が流れないので、ワイヤ電極1の中央部の冷却が十分に行えなくなり、ワイヤ電極1が断線し、加工速度が低下するという問題があった。
【0005】
また、流れ5aの流量が減少するので、加工溝7内に溜まった加工屑が容易に排出されなくなって加工溝7に付着したり、ワイヤ電極1が加工溝7内に浮遊している加工屑に放電したりすることもあり、このため加工精度が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、加工液を加工溝に十分に流入させてワイヤ電極の冷却を十分に行い、加工速度を高くすることができるワイヤカット放電加工装置を提供することを目的とする。
また、加工屑を容易に排出することで加工精度を向上させることができるワイヤカット放電加工装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るワイヤカット放電加工装置においては、被加工体に対して垂直に移動するワイヤ電極が貫通され、被加工体に対向して設けられたノズルから、ワイヤ電極に沿って加工液を供給しながらワイヤ電極と被加工体との間に放電を発生させて被加工体に加工溝を形成するワイヤカット放電加工装置において、ノズルの周りに被加工体に対向して設けられ、被加工体と対向する面に平坦部を有するノズルカバーを備えたものである。
【0010】
また、ノズルカバーとノズルとの隙間から加工液が漏れるのを防ぐ遮蔽部材を設けたものである。
【0012】
た、加圧された加工媒体の流入口と、ワイヤ電極に対向して配置された環状の噴出口から加工媒体をワイヤ電極に向けて噴出させる流通口とをノズルカバーに設けたものである。
【0013】
た、加圧された加工媒体の流入口と、被加工体に対向して配置された環状の噴出口から加工媒体を被加工体に向けて噴出させる流通口とをノズルカバーに設けたものである。
【0014】
また、加工媒体がノズルから供給される加工液と同じであるものである。
【0015】
また、加工媒体が気体であるものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1であるワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図、図2は図1の放電加工部の近傍を示す斜視図、図3は図2の矢視III−IIIから見た断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
図1〜図3において、ワイヤカット放電加工装置は、例えば直径0.25mmの黄銅からなるワイヤ11を送り出す供給ボビン12と、電磁ブレーキ13aに連結され、ワイヤ11に所定の張力を与えるブレーキローラ13と、ワイヤ11の走行方向を変更させるアイドルローラ14a,14b,14cと、ワイヤ送出ローラ15とを有し、これらローラ間にワイヤ11が掛け渡されている。ワイヤ11はアイドルローラ14bと14cとの間で垂直に延在し、被加工体16に対して移動している。
【0017】
ワイヤ11の垂直延在部には、上部のノズル17と下部のノズル17とにそれぞれ被加工体16に対向して設けられており、ワイヤ11は両ノズル17をそれぞれ貫通している。両ノズル17には加工液ポンプ18より加工液が供給される。両ノズル17の内側には、それぞれワイヤ11と導通接触する通電子19が設けられている。両ノズル17の周りには、それぞれ被加工体16に対向して設けられ、被加工体16と対向する平坦部20aを有するセラミック、樹脂などからなるノズルカバー20が、図示されないボルトなどの締め付け具で取り付けられている。ノズルカバー20は例えば、約80mmの外径を有し、その平坦部20aが被加工体16に対向して間隙約0.2mmをあけて配置されている。
【0018】
尚、上部の通電子19と下部の通電子19とに導通接触し、両通電子19の間に延在しているワイヤ11を、ワイヤ電極11aと称する。また、ワイヤ電極11aのうちで、被加工体16との間で放電加工を行う部位を放電加工部と称し、放電加工により被加工体16に加工溝22が形成されて例えば0.35mmの幅を有する開口部22aが形成される。両通電子19は加工電源としてのパルス電源ユニット23に電気的に接続されている。ワイヤ電極11aは上部と下部の両通電子19によって支持され、被加工体16との間に、例えば0.05mmの放電加工間隙を保っている。
【0019】
次に、動作について説明する。ワイヤ電極11aと被加工体16とが対向している放電加工間隙に、上部のノズル17と下部のノズル17とから加工液24を噴射しつつ、上部の通電子19と下部の通電子19とに負の電圧を印加することによってワイヤ電極11aが負に帯電し、また被加工体16に正の電圧が印加されると、ワイヤ電極11aと被加工体16との間に生じる電位差により、放電を発生させる。ワイヤ電極11aから被加工体16へ放電する際、ワイヤ電極11aの温度上昇を防ぐために、加工液24をワイヤ電極11aに吹き付けることを行っている。ワイヤ電極11aと被加工体16との間に存在する放電加工間隙において、放電時の熱エネルギーにより被加工体16が溶融飛散される。
【0020】
また、放電を継続的に行うためのワイヤ電極11aと被加工体16との相対移動は、通常、X−Yクロステーブル(図示せず)を位置制御することにより行われている。上部のノズル17と被加工体16の相対移動は、被加工体1の凹凸等に応じて、通常、Z軸制御により上部のノズル17が上下移動することにより所定値に保たれる。このようにして、被加工体16に加工溝22が形成される。
【0021】
加工液24は、ポンプ18で加圧されてノズル17内へ流入し、ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出される。噴出された加工液24は被加工体16の加工溝22へ流入する流れ24aと被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24bに分かれる。
しかし、ノズルカバー20を設けることにより、ノズルカバー20と被加工体16との間を流れるときに生じる流動抵抗が大きくなるので、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24bが減少し、加工液の流量全体でバランスが取れるように加工溝22の内側へ流入する流れ24aが増加する。
【0022】
図4は、ノズルカバー20の外径D1とノズル17の外径D2との直径比(D1/D2)と、ノズルカバー20と被加工体16との間を加工液24が流れるときに生じる流動抵抗R1とノズルカバー20がないときの加工液24が流れるときに生じる流動抵抗R2との流動抵抗比(R1/R2)との関係を示す説明図で、該関係を計算にて求めたグラフを示す。この計算はノズル外径を18.5mm、ノズル穴径を4mmとして計算したものである。直径比が1であるというのは、ノズルカバー20がないときに相当し、このときの流動抵抗比が1となっている。ノズルカバー20の外径が2倍となったときの流動抵抗比は約4倍、ノズルカバー20の外径が3倍になったときの流動抵抗比は約9倍となっている。
【0023】
このように、流動抵抗はノズルカバー20の平坦部20aの面積に比例し、ノズルカバー20を設けることにより、被加工体16とノズルカバー20との間隙の流動抵抗が増えるので、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる加工液24の流れ24bの流量が減少し、加工溝22へ流入する流れ24aの流量を増加できる。その結果、加工液24を加工溝22に十分に流入させることが可能となり、ワイヤ電極11aの冷却が行え、ワイヤ電極11aの断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝22へ流入する流れ24aの流量を増加できるので、加工屑を容易に排出することができ、加工屑への放電を防げ加工精度を向上させることができる。
【0024】
尚、この実施の形態1では、被加工体16の上部と下部のノズル17にそれぞれノズルカバー20を設けた例を示したが、上下いずれか一方のノズル17のみにノズルカバー20を設けてもよく、上記と同様の作用効果を奏する。
【0025】
また、ノズル17とノズルカバー20とは一体成形されたものでもよく、上記と同様の作用効果を奏する。
【0026】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2であるワイヤカット放電加工装置の放電加工部の断面図で、加工液の流れを示す説明図である。なお、ワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図及び放電加工部の近傍を示す斜視図は、図1及び図2のものと同様である。図5で示した符号のうち、図1、図2で示した符号と同一のものは、同じまたは相当品を示し、その説明を省略する。
【0027】
実施の形態2が実施の形態1の構成と異なるところは、ノズル17の周りに図示されないボルトなどの締め付け具で取り付けられ、被加工体16に対向して設けられ、被加工体16と対向する面に平坦部30aを有するセラミック、樹脂などからなるノズルカバー30が、その平坦部30aをノズル17の端面の配置(図5において被加工体16とノズル17との間隙S2で表示した位置)に比し、より接近して被加工体16に対して対向させて配置(図5において被加工体16とノズルカバー30との間隙S1で表示した位置)しているところ、及びノズル17の端部とノズルカバー30との間が、ゴム、樹脂、プラスチックなどからなる遮蔽部材としてのシール部材31で塞がれているところである。
【0028】
図5を用いて加工液24の流れを説明する。ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出された加工液24は、被加工体16の加工溝22へ流入する流れ24cと、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24dとに分かれる。流れ24dがノズルカバー30のエッジ部30bを通過するときに流れが縮流することにより、流動抵抗が生じる。この縮流による流動抵抗はS1/S2が小さくなるにつれて大きくなり、流れ24dの流量が減少し、加工液24の全体の流量でバランスが取れるように加工溝22内へ流入する流れ24cの流量が増加する。
【0029】
また、間隙S1を減少させることにより、被加工体16とノズル17とノズルカバー30とシール部材31とで形成される空間V1ができる。ノズル17から噴出した加工液24が直接加工溝22に流入しなかった流れは、被加工体16とノズルカバー30との間に漏れる流れ24dとなっていたが、空間V1ができることにより、その流れの一部は空間V1内で循環する流れ24eとなり、再度ノズル17から噴出される加工液24と合流して加工溝22へ流入しようとする。このため、空間V1がないときに比し、空間V1がある方が加工溝22へ流入する流れ24cの流量が増える。
【0030】
図6にS1をS2より小さくすることにより増える流動抵抗を計算にて求めたグラフを示す。この計算は全てS2=0.2mm、ノズルカバーと被加工体の間を漏れる流量は一定として計算したものである。横軸はS1/S2、縦軸はS1=0.19mmを基準としたときの流動抵抗に対する比である。S1=0.19mmを基準としたときの流動抵抗をとしたのは、ノズルカバーがない状態S2=0.20mmのときは全く狭くならないため、狭くなることによる流動抵抗は0となり、基準抵抗としてこの抵抗値で割ることができないためである。
このグラフよりS1/S2=0.5というのは、S1をS2の半分にしたときにノズルカバーがないときと同じ流量がこの間隙より漏れるときの抵抗を示しており、約80倍まで大きくなる。このようにノズルカバー30と被加工体16との間の流動抵抗が増加し、ノズルカバー30と被加工体16との間隙から漏れる流れ24dが減少し、加工液24が加工溝22へ流入しやすくなる。
【0031】
その結果、加工溝22に流入する加工液24の流れ24cの流量を増加させることができ、このため、ワイヤ電極11aの冷却を十分にすることが可能となり、ワイヤ電極11aの断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝22への加工液24の流入量が増えることにより、加工屑を容易に排出することが可能になり、加工屑への放電を防げ、加工精度を向上させることができる。
【0032】
尚、ノズル17とノズルカバー30との間の隙間から加工液24が漏れるのを防ぐ遮蔽部材として、シール部材31の替わりに、ノズル17とノズルカバー30との隙間の部分に図示しないカバーを設けてねじ止めするとか、隙間の部分に図示しない気体または液体で圧力をかけてもよく、上記と同様の作用効果を奏する。
【0033】
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3であるワイヤカット放電加工装置の放電加工部の断面図で、加工液の流れを示す説明図である。なお、ワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図及び放電加工部の近傍を示す斜視図は、図1及び図2のものと同様である。図7で示した符号のうち、図1、図2で示した符号と同一のものは、同じまたは相当品を示し、その説明を省略する。
【0034】
実施の形態3が実施の形態1の構成と異なるところは、ノズル17の周りに図示されないボルトなどの締め付け具で取り付けられ、被加工体16に対向して設けられ、被加工体16と対向する面に平坦部40aを有するセラミック、樹脂などからなるノズルカバー40が、ポンプ18で加圧されて供給される加工液24の流入口40bと、ノズル17に沿って設けられ、被加工体16に対向して配置された噴出口40cから加工液24を被加工体16に向けて噴出させる流通口40dとを有しているところである。
【0035】
図7を用いて加工液24の流れを説明する。ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出された加工液24は、被加工体16の加工溝22へ流入する流れ24fと、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24gとに分かれる。ワイヤ電極11aと加工溝22の溝壁との間隙は0.05mmであるのに対し、ノズル17と被加工体16との間隙は0.2mmぐらいあり、加工液24を加工溝22に吹き付けても全部の加工液が加工溝22に入らず、ノズル17と被加工体16との間隙から漏れる流れ24gの方に多く流れる。
【0036】
しかし、ノズルカバー40に設けられた流通口40dから噴出口40cを介して噴出される加工液24の流れ24hにより、液体で形成された壁が形成されて流れ24gが遮られる。このため、流れ24gが空間V2内で循環する流れ24iとなり、再度ノズル17から噴出されてくる加工液24と合流し、加工溝22へ流入しようとする。そのため、流れ24gを遮るようにする流れ24hがないときと比べて、加工溝22へ流入する流れ24fの流量が増える。
【0037】
その結果、加工溝22に流入する流れ24fの流量を増加させることができ、このため、ワイヤ電極11aの冷却を十分にすることが可能となり、ワイヤ電極11aの断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝22への加工液24の流入量が増えることにより、加工屑を容易に排出することが可能になり、加工屑への放電を防げ、加工精度を向上させることができる。
【0038】
また、ノズル17及びノズルカバー40を被加工体16に近づけることなく加工溝22へ流入する流れ24fの流量を増加することができるため、被加工体16に凹凸がある場合には、ノズル17やノズルカバー40を被加工体16から離して加工していても、加工液24を加工溝22に十分流入させてワイヤ電極11aの冷却を行うことが可能となる。
【0039】
また、ポンプ(図示せず)を1台にして、バイパス(図示せず)をノズル17とノズルカバー50とに接続して加工液24を供給してもよく、上記と同様の効果を奏する。この場合は、特別に別の加工液を供給する構造にする必要がなく、加工液及びポンプを共有化することができるため、構造も簡単にすることができる。
【0040】
尚、流入口40bにはポンプ18により加圧された気体を流入させてもよく、上記と同様の効果を奏する。
【0041】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4であるワイヤカット放電加工装置の放電加工部の断面図で、加工液の流れを示す説明図である。なお、ワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図及び放電加工部の近傍を示す斜視図は、図1及び図2のものと同様である。図8で示した符号のうち、図1、図2で示した符号と同一のものは、同じまたは相当品を示し、その説明を省略する。
【0042】
実施の形態4が実施の形態1の構成と異なるところは、ノズル17の周りに図示されないボルトなどの締め付け具で取り付けられ、被加工体16に対向して設けられ、被加工体16と対向する面に平坦部50aを有するセラミック、樹脂などからなるノズルカバー50が、ポンプ18より供給されて流入口50bから流入した加工液24を全周に漏れなく供給する開口部50cと、この開口部50cから加工液24を流入させ、ノズル17の下方に配置された噴出口50dから加工液24をワイヤ電極11aに向けて噴出させる流通口50eを有しているところである。
【0043】
図8を用いて加工液24の流れを説明する。加工液24はポンプ18で加圧されノズル17内へ流入し、ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出される構造となっている。噴出された加工液24は被加工体16の加工溝22へ流入する流れ24jと、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24kとに分かれる。ワイヤ電極11aと加工溝22の溝壁との間隙は0.05mmであるのに対し、ノズル17と被加工体16との間隙は0.2mmぐらいあり、加工液24を加工溝22に吹き付けても全部の加工液が加工溝22に入らず、ノズル17と被加工体16との間隙から漏れる流れ24kの方に多く流れる。
【0044】
しかし、ポンプ18で加圧され、ノズルカバー50に設けられた流通口50eから噴出口50dを介して噴出される加工液24の流れ24lにより、ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出される加工液24が周りから加圧され、ノズル17の噴出口17aから離れても広がりにくくなる。また、加工液24の周りをノズルカバー50の噴出口50dから噴出される加工液24の流れ24lで覆われているため、被加工体16に接触しても飛び散りにくくなり、このため、流れ24lがないときに比べて被加工体16の加工溝22に流入しやすくなる。
【0045】
その結果、加工溝22に流入する加工液24の流れ24jの流量を増加させることができ、このため、ワイヤ電極11aの冷却を十分にすることが可能となり、ワイヤ電極11aの断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝22へ流入する流れ24jの流入量が増えることにより、加工屑を容易に排出することが可能になり、加工屑への放電を防げ、加工精度を向上させることができる。
【0046】
また、ノズル17及びノズルカバー50を被加工体16に近づけることなく加工溝22へ流入する流れ24mの流量を増加することができるため、被加工体16に凹凸がある場合には、ノズル17やノズルカバー50を被加工体16から離して加工していても、加工液24を加工溝22に十分流入させてワイヤ電極11aの冷却を行うことが可能となる。
【0047】
また、ポンプ(図示せず)を1台にして、バイパス(図示せず)をノズル17とノズルカバー50とに接続して加工液24を供給してもよく、上記と同様の効果を奏する。この場合は、特別に別の加工液を供給する構造にする必要がなく、加工液及びポンプを共有化することができるため、構造も簡単にすることができる。
【0048】
尚、流入口50bにはポンプ18より加圧された気体を流入させてもよく、上記と同様の効果を奏する。
【0049】
実施の形態5.
図9は、この発明の実施の形態5であるワイヤカット放電加工装置の放電加工部の断面図で、加工液の流れを示す説明図である。なお、ワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図及び放電加工部の近傍を示す斜視図は、図1及び図2のものと同様である。図9で示した符号のうち、図1、図2で示した符号と同一のものは、同じまたは相当品を示し、その説明を省略する。
【0050】
実施の形態5が実施の形態1の構成と異なるところは、ノズル17の周りに図示されないボルトなどの締め付け具で取り付けられ、被加工体16に対向して設けられ、被加工体16と対向する面に平坦部60aを有するセラミック、樹脂などからなるノズルカバー60が、ポンプ18より供給されて流入口60bから流入した加工液24を全周に漏れなく供給する開口部60cと、この開口部60cから加工液24を流入させ、平坦部60aに配置された噴出口60dから加工液24を被加工体16に向けて噴出させる流通口60eとを有しているところである。
【0051】
図9を用いて加工液24の流れを説明する。加工液24はポンプ18で加圧されてノズル17内へ流入し、ノズル17からワイヤ電極11aに沿って噴出される構造となっている。噴出された加工液24は被加工体16の加工溝22へ流入する流れ24pと、被加工体16の加工溝22へ入らずに漏れる流れ24qとに分かれる。ワイヤ電極11aと加工溝22の溝壁との間隙は0.05mmであるのに対し、ノズル17と被加工体16との間隙は0.2mmぐらいあり、加工液24を加工溝22に吹き付けても全部の加工液が加工溝22に入らず、ノズル17と被加工体16との間隙から漏れる流れ24qの方に多く流れる。
【0052】
しかし、ポンプ18で加圧され、ノズルカバー60に設けられた流通口60eから噴出口60dを介して噴出される加工液24の流れ24rが、被加工体16とノズルカバー60との間隙に高圧力の液体膜を張るようになる。このため、ノズルカバー60と被加工体16の間隙に漏れていた加工液の流れが遮られ、この遮られた加工液の流れがノズルカバー60とノズル17と被加工体16で形成された空間V3内で循環する流れ24sとなり、再度ノズル17からの噴出される加工液24と合流して加工溝22へ流入されるので、被加工体16の加工溝22に流入しやすくなる。
【0053】
その結果、加工溝22に流入する流れ24pの流量を増加させることができ、このため、ワイヤ電極11aの冷却を十分にすることが可能となり、ワイヤ電極11aの断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝22への加工液24pの流入量が増えることにより、加工屑を容易に排出することが可能になり、加工屑への放電を防げ、加工精度を向上させることができる。
【0054】
また、ノズル17及びノズルカバー60を被加工体16に近づけることなく加工溝22へ流入する流れ24pの流量を増加することができるため、被加工体16に凹凸がある場合には、ノズル17やノズルカバー60を被加工体16から離して加工していても、加工液24を加工溝22に十分流入させてワイヤ電極11aの冷却を行うことが可能となる。
【0055】
また、ポンプ(図示せず)を1台にして、バイパス(図示せず)をノズル17とノズルカバー60とに接続して加工液24を供給してもよく、上記と同様の効果を奏する。この場合は、特別に別の加工液を供給する構造にする必要がなく、加工液及びポンプを共有化することができるため、構造も簡単にすることができる。
【0056】
尚、流入口60bにはポンプ18より加圧された気体を流入させてもよく、上記と同様の効果を奏する。
【0057】
【発明の効果】
この発明は、以上に説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
【0058】
この発明に関わるワイヤカット放電加工装置によれば、ノズルの周りに被加工体に対向して設けられ、被加工体と対向する面に平坦部を有するノズルカバーを備えたことにより、被加工体とノズルカバーとの間隙の流動抵抗が増えるので、被加工体とノズルカバーとの間隙に漏れる加工液の流れの流量が減少し、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加でき、このため、加工液を加工溝に十分に流入させることが可能となり、ワイヤ電極の冷却が行え、ワイヤ電極の断線を防げ、加工速度を高くすることができる。
また、加工溝へ流入する加工液の流れの流量が増えることにより、加工屑を容易に排出することが可能となり、加工屑への放電を防げ加工精度を向上させることができる。
【0061】
また、ノズルカバーとノズルとの隙間から加工液が漏れるのを防ぐ遮蔽部材を設けたことにより、被加工体とノズルカバーと遮蔽部材とノズルとで形成される空間を形成し、加工溝に流入しない加工液のうちの一部の流れは、該空間内で循環する流れとなり、ノズルから供給される加工液と合流して加工溝へ流入しようとするため、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加できる。
【0063】
た、加圧された加工媒体の流入口と、ワイヤ電極に対向して配置された環状の噴出口から加工媒体を前記ワイヤ電極に向けて噴出させる流通口とを前記ノズルカバーに設けたことにより、ノズルからワイヤ電極に沿って供給される加工液が、噴出口から噴出される加工媒体の流れで加圧されて覆われるため、被加工体に接触しても飛び散りにくくなるので、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加できる。
【0064】
た、加圧された加工媒体の流入口と、被加工体に対向して配置された環状の噴出口から加工媒体を前記被加工体に向けて噴出させる流通口とを前記ノズルカバーに設けたことにより、流通口から噴出口を介して噴出される加工媒体の流れが、被加工体とノズルカバーとの間隙に高圧力の液体膜を張るようになるため、ノズルカバーと被加工体との間隙に漏れていた加工液の流れが遮られ、この遮られた加工液の流れがノズルカバーとノズルと被加工体で形成された空間内で循環する流れとなり、ノズルから供給される加工液と合流し、加工溝へ流入しようとするため、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加できる。
【0065】
また、加工媒体がノズルから供給される加工液と同じであることにより、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加できる。
【0066】
さらにまた、加工媒体が気体であることにより、加工溝へ流入する加工液の流れの流量を増加できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1を示すワイヤカット放電加工装置の概要を示す説明図である。
【図2】 図1の放電加工部の近傍を示す斜視図である。
【図3】 図2の矢視III−III線から見た断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図4】 ノズルカバーの直径に対する流動抵抗を計算にて求めたグラフである。
【図5】 この発明の実施の形態2を示すワイヤカット放電加工装置の放電加工部を示す断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図6】 ノズルカバーと被加工体との間隙に対する流動抵抗を計算にて求めたグラフである。
【図7】 この発明の実施の形態3を示すワイヤカット放電加工装置の放電加工部を示す断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図8】 この発明の実施の形態4を示すワイヤカット放電加工装置の放電加工部を示す断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図9】 この発明の実施の形態5を示すワイヤカット放電加工装置の放電加工部を示す断面図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図10】 従来のワイヤカット放電加工装置の放電加工部の近傍を示す斜視図で、加工液の流れを示す説明図である。
【図11】 図10の矢視XI−XI線から見た要部の断面図である。
【符号の説明】
11a ワイヤ電極
16 被加工体
17 ノズル
20,30,40,50,60 ノズルカバー
20a,30a,40a,50a,60a 平坦部
22 加工溝
24 加工液
31 遮蔽部材
40b,50b,60b 流入口
40c,50d,60d 噴出口
40e,50e,60e 流通口

Claims (4)

  1. 被加工体に対して垂直に移動するワイヤ電極が貫通され、前記被加工体に対向して設けられたノズルから、前記ワイヤ電極に沿って加工液を供給しながら前記ワイヤ電極と前記被加工体との間に放電を発生させて前記被加工体に加工溝を形成するワイヤカット放電加工装置において、ノズルカバーの平坦部をノズルと被加工体との間隙より小さい間隙で前記被加工体と対向して配置させ、且つ加圧された加工媒体の流入口と、前記ノズルカバーの内周面に設けられ前記ワイヤ電極に対向して配置された環状の噴出口から前記加工媒体を前記ワイヤ電極に向けて噴出させる流通口とを前記ノズルカバーに設けたことを特徴とするワイヤカット放電加工装置。
  2. 被加工体に対して垂直に移動するワイヤ電極が貫通され、前記被加工体に対向して設けられたノズルから、前記ワイヤ電極に沿って加工液を供給しながら前記ワイヤ電極と前記被加工体との間に放電を発生させて前記被加工体に加工溝を形成するワイヤカット放電加工装置において、ノズルカバーの平坦部をノズルと被加工体との間隙より小さい間隙で前記被加工体と対向して配置させ、且つ加圧された加工媒体の流入口と、前記ノズルカバーの平坦部に設けられ前記ワイヤ電極に対向して配置された環状の噴出口から前記加工媒体を前記被加工体に向けて噴出させる流通口とを前記ノズルカバーに設けたことを特徴とするワイヤカット放電加工装置。
  3. 加工媒体がノズルから供給される加工液と同じであることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項に記載のワイヤカット放電加工装置。
  4. 加工媒体が気体であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項に記載のワイヤカット放電加工装置。
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