JP3712187B2 - 積層板原紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性に優れた積層板を提供するための積層板原紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層板原紙は、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等により加工され、積層板として、主にプリント回路配線基板に用いられている。近年、電子機器の小型化に伴い、プリント回路の密度が高くなり、半田付けの際に積層板が250℃近くまで加熱されるようになっている。また、環境問題に対応するため、鉛を含有しない半田を用いることが多くなり、より一層の耐熱性が積層板に求められるようになっている。
【0003】
積層板の半田付け加工は以下の順に実施される。ペースト状の半田を印刷する。その上に電子部品を実装する。 リフロー炉で過熱し半田を融解して、回路と部品を接着する。リフロー炉には約10分間滞留し、積層板の表面温度は、従来の鉛入り半田では最高230℃程度であったの対して、鉛を含有しない半田では最高250℃に達する。
【0004】
従来、積層板原紙には木材から製造されている晒しクラフトパルプが用いられているが、耐熱性などの特性に満足のゆく適性が得られていなかった。このため、α−セルロース含有量の高いパルプ、精製度の高い溶解パルプあるいはコットンリンターパルプを用いる方法(特開昭59-7952号公報、特開昭64-14398号公報)が開示されているが、これらのパルプを用いた場合、優れた耐熱性は得られるものの繊維が著しく屈曲しているため寸法安定性が著しく劣っていた。
【0005】
また、クラフトパルプの製造時の蒸解条件等を改良して、ヘミセルロース含有量を15%以下に低減することにより耐熱性を改善する方法(特開平2-175996号公報、特開平6-146193号公報)が開示されているが、パルプの生産性が悪かった。また、鉛を含有しない半田に対応するためには、耐熱性が不十分であった。
【0006】
さらに、クラフトパルプの製造時の漂白条件を改良して、残留リグニン量を多くすることにより、熱分解開始温度を330℃以上にする方法(特開平8-188979号公報)が開示されているが、白色度が70%以下となる欠点がある。
【0007】
金属合紙にポリアクリルアミド系樹脂、尿素系樹脂及びメラミン系樹脂とジシアンジアミドを添加することにより160℃での紙の焼き付きを防止する方法(特開昭59-89000)が開示されているが、パルプの適切な選択がなされていないため、250℃程度の高度な耐熱性については考慮されていない。
【0008】
以上に示した技術では、鉛を含有しない半田付けに対応可能な積層板原紙を提供することができなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、積層板の加工条件とその際の積層板原紙の熱分解挙動について検討を行った。現行の鉛を含有しない半田の加工条件を検討した結果、積層板を250℃、10分間保持した際の熱分解減少量が2%未満で、かつ膨れ及び変色が発生しなければ、耐熱性が十分であると考えられる。すなわち、紙を基材とする積層板の大半を占める、紙・フェノール積層板の場合、フェノール樹脂の耐熱温度は350℃程度と高く、250℃で分解する成分の大半は積層板原紙に由来すると考えられる。そこで、この温度条件での熱分解量を抑える方法の検討を行った。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、積層板の耐熱性に積層板原紙の熱分解ガスが、深く関与していることに着目して鋭意検討した結果、ジシアンジアミドを対パルプ0.5重量%以上5.0重量%未満含有し、パルプ中のヘミセルロース含有率が5.0重量%以上18重量%未満である晒しクラフトパルプから成る積層板原紙を使用することにより効果的に目標を達成しうることを見出した。
【0011】
【発明の実施の形態】
パルプ中のヘミセルロース含有量が積層板の耐熱性に影響することは知られており、一般にヘミセルロース含有量が少ないほど耐熱性は向上する。しかしながら、ヘミセルロース含有率が5.0重量%未満のパルプを使用すると、上述の250℃、10分間保持した際の積層板の熱分解量を2.0%未満に抑えることは可能であるが、このようなレベルまでパルプ中のヘミセルロース率を低減するには、蒸解や漂白の条件を過酷にする必要があり、このためパルプ繊維の屈曲及び損傷が著しく、積層板の寸法安定性が悪化する。
【0012】
本発明者らは、パルプ中にジシアンジアミドを含有させることにより積層板の耐熱性が改善されることを見出した。この耐熱性の改善の理由としては、ジシアンジアミドが214℃以上の高熱によって融解し、更に反応することによってメラミンが生成しパルプ繊維の表面を被覆することによると考えられる。また、積層板製造の過程で、フェノール樹脂中に含まれるメラミン樹脂、ホルムアルデヒド、フェノール樹脂と反応することによって、パルプ繊維とフェノール樹脂の密着性が向上することも一因と考えられる。
【0013】
これらの検討の結果、パルプ中のヘミセルロース含有率がは5.0重量%以上18重量%未満、好ましくは10重量%以上15重量%未満のパルプを用い、さらにジシアンジアミドを対パルプ0.5重量%以上5.0重量%未満含有する積層板原紙を使用することにより、積層板の250℃、10分間の熱分解量を2.0%未満に抑えることが可能となることを見出した。
【0014】
パルプ中のヘミセルロース含有率が5.0重量%未満の場合は、熱分解量を2.0%未満に抑えることは可能であるが、パルプ繊維の屈曲及び損傷が著しく、積層板の寸法安定性に欠陥が発生する。一方、ヘミセルロース含有率が18重量%以上の場合には、パルプ由来の熱分解量が多すぎてジシアンジアミドの添加によって熱分解量を2.0%未満に抑えることが出来ない。従って、寸法安定性等の他の品質を勘案すると、ヘミセルロース含有率が10重量%以上15重量%未満のパルプを積層板原紙として用いることが望ましい。
【0015】
パルプ中のヘミセルロース含有率を5.0重量%以上18重量%未満に調製する手段としては、特に制限はないが、ヘミセルロース含有率の少ない木材原料、ヘミセルロース含有率を減少させる蒸解方法や漂白方法が挙げられる。ヘミセルロース含有率の少ない木材原料としては、ユーカリ材、特にユーカリプタス グランディス、ユーカリプタス サリグナ、ユーカリ グロビュラス等が好ましく使用される。また、ヘミセルロース含有率を減少させる蒸解方法としては、比較的低温で、有効アルカリの添加率を増加させる方法等が挙げられる。さらに、ヘミセルロース含有率を減少させる漂白方法としては、酸素漂白条件の強化やヘミセルロース分解酵素の使用等が挙げられる。これらの条件を適宜組合せて、パルプ繊維の屈曲及び損傷が発生しないように、ヘミセルロース含有率を5.0重量%以上18重量%未満に調製することが好ましい。
【0016】
ジシアンジアミドの含有量は対パルプ当たり0.5重量%以上5.0%未満、好ましくは1.0重量%以上2.5重量%未満であることが望ましい。含有量が0.5重量%未満では、パルプ繊維全体を被覆することが出来ないため、十分な耐熱性向上の効果が得られなかった。また、2.5重量%以上含有してもその効果は頭打ちであり、5.0重量%以上添加した場合には原紙が硬くなり過ぎて、他の品質に悪影響を及ぼす。
【0017】
積層板原紙の製造方法としては、特に制限はない。一般的には、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)を長網抄紙機、ツインワイヤー型抄紙機で製造される。LBKPの濾水度には特に制限はないが、好ましくはCSF500〜600ml程度が望ましい。また、必要に応じて紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、填料等の添加物を加えることが可能である。坪量及び密度については、特に制限はないが、一般的に坪量90〜180g/m2、密度0.45〜0.55g/cm3の範囲で製造されている。
ジシアンジアミドの添加方法は特に制限が無く、ジシアンジアミドの温水溶液を用いてサイズプレス法、ロールコート法、スプレー塗布法等から適宜選択して実施することが可能である。
【0018】
【作用】
本発明によって積層板の耐熱性が改善される。その理由としては、パルプ中のヘミセルロース含有量を制限することにより、熱分解ガスの発生を防ぎ、更にジシアンジアミドを添加することにより、パルプ繊維とフェノール樹脂の密着性が向上し、その結果として積層板加熱時の膨れ及び変色が防止されると考えられる。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の効果を実施例によって示す。但し、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
実施例及び比較例に用いた試料は、以下に示す方法で製造して評価した。
【0020】
<積層板原紙の製造>
ヘミセルロース含有率の異なる各種パルプを用いて、手抄きにより坪量120g/m2、密度0.5g/cm3の原紙を製造した。この原紙に所定量のジシアンジアミドをテスト用サイズプレスコーターにより塗布して積層板原紙を製造した。
【0021】
<積層板の製造>
上記積層板原紙に水溶性フェノール樹脂(商品名:BSL2854、昭和高分子(株)製)を対原紙当たり25重量%となるように、ロールコーターで塗布乾燥した後、アルコール溶解性フェノール樹脂(商品名:BLS3122、昭和高分子(株)製)を対原紙当たり75重量%となるように、ロールコーターで塗布乾燥してプリプレグを得た。このプリプレグ8枚と上下両層に接着剤付き銅箔を積層して、熱圧プレスを行い、両面銅張り積層板を得た。
【0022】
<パルプ中のヘミセルロース含有率の測定>
ヘミセルロース含有率は、Tappiの標準法(T-249hm-85)に準拠して行った。パルプを加水分解して、ヘミセルロースの加水分解物である糖成分を高速液体クロマトグラフィーにより定量して算出した。
【0023】
<積層板原紙の熱分解減少量の測定>
熱分解減少量の測定は、リガク社製熱天秤を用いて行った。窒素ガス雰囲気下で、熱天秤の温度プログラムを105℃、10分間保持した後、10℃/minで250℃まで昇温し、250℃で10分間保持した。105℃、10分間保持後の重量と250℃、10分間保持後の重量の差から熱分解量を算出した。
【0024】
<積層板の耐熱性の評価>
積層板を送風乾燥機中で150℃、1時間予備加熱した後、250℃、10分間加熱して外観を評価した。
評価基準:○ 過熱前と外観が変わらない、× 変色、膨れ、剥離の何れかが発生した。
【0025】
<積層板の熱寸法安定性>
熱寸法安定性の評価は、押棒式熱膨張計を用いて行った。荷重5.0g、5℃/minで昇温及び冷却を行い、50℃から150℃までの温度範囲の熱膨張収縮率を測定して評価した。熱膨張収縮係数が2.0×10-7以下であれば○、これを越えると×とした。
【0026】
[実施例1]
南アフリカ産ユーカリチップ(ユーカリプタス グランディス及びユーカリプタス サリグナ)を用いて、有効アルカリ添加率18.0%、最高温度160℃、保持時間60分の条件でクラフト蒸解を行った後、酸素、塩素、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素による多段漂白を行い、ヘミセルロース含有率14重量%の広葉樹晒しクラフトパルプを得た。このパルプを用いて坪量125g/m2、密度0.50g/cm3の原紙を作製し、サイズプレスコーターによりジシアンジアミドを対パルプ当たり1.0重量%塗布した積層板原紙を得た。この積層板原紙の熱分解減少率は1.5%と低く、積層板に加工した際の耐熱性も良好であった。また、積層板の熱寸法安定性も良好であった。
【0027】
[実施例2]
南アフリカ産ユーカリチップ(ユーカリプタス グランディス及びユーカリプタス サリグナ)を用いて、有効アルカリ添加率24.0%、最高温度160℃、保持時間60分の条件でクラフト蒸解を行った後、酸素、塩素、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素による多段漂白を行い、ヘミセルロース含有率10重量%の広葉樹晒しクラフトパルプを得た。このパルプを用いて坪量125g/m2、密度0.50g/cm3の原紙を作製し、サイズプレスコーターによりジシアンジアミドを対パルプ当たり0.7重量%塗布した積層板原紙を得た。この積層板原紙の熱分解減少率は1.2%と低く、積層板に加工した際の耐熱性も良好であった。また、積層板の熱寸法安定性も良好であった。
【0028】
[実施例3]
南アフリカ産ユーカリチップ(ユーカリプタス グランディス及びユーカリプタス サリグナ)を用いて、有効アルカリ添加率14.0%、最高温度160℃、保持時間60分の条件でクラフト蒸解を行った後、酸素、塩素、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素による多段漂白を行い、ヘミセルロース含有率17重量%の広葉樹晒しクラフトパルプを得た。このパルプを用いて坪量125g/m2、密度0.50g/cm3の原紙を作製し、サイズプレスコーターによりジシアンジアミドを対パルプ当たり2.0重量%塗布した積層板原紙を得た。この積層板原紙の熱分解減少率は1.8%と低く、積層板に加工した際の耐熱性も良好であった。また、積層板の熱寸法安定性も良好であった。
【0029】
[比較例1]
ヘミセルロース含有率が4重量%と少ない溶解パルプを用いて積層板原紙を作製した。この原紙にはジシアンジアミドを塗布しなかった。この積層板原紙の熱分解減少率は1.9%と低く、積層板に加工した際の耐熱性も良好であった。但し、積層板の熱寸法安定性が不良なため、積層板原紙には不適当であった。
【0030】
[比較例2]
北海道産広葉樹雑木チップを用いて、有効アルカリ添加率15.0%、最高温度160℃、保持時間60分の条件でクラフト蒸解を行った後、酸素、塩素、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素による多段漂白を行い、ヘミセルロース含有率が21重量%の広葉樹晒しクラフトパルプを得た。このパルプを用いて坪量125g/m2、密度0.50g/cm3の原紙を作製し、サイズプレスコーターによりジシアンジアミドを対パルプ当たり2.5重量%塗布した積層板原紙を得た。この積層板原紙の熱分解減少率は2.5%と高いため、積層板に加工した際の耐熱性も不良であった。従ってこの原紙は積層板原紙には不適当であった。
【0031】
[比較例3]
実施例1で使用した原紙に、サイズプレスコーターによりジシアンジアミドを対パルプ当たり0.3重量%塗布した積層板原紙を得た。この積層板原紙の熱分解減少率は2.4%高いため、積層板に加工した際の耐熱性も不良であった。従って、この原紙は積層板原紙には不適当であった。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
表1から明らかなように、原紙中のヘミセルロース含有率とジシアンジアミドの添加量を限定した本発明の積層板原紙を基材とした、両面銅張り積層板の耐熱性及び熱寸法安定性は良好であった。
Claims (3)
- ジシアンジアミドを対パルプ0.5重量%以上5.0重量%未満含有し、かつパルプ中のヘミセルロース含有率が5.0重量%以上18重量%未満である晒しクラフトパルプを用いたことを特徴とする熱分解率の低い積層板原紙。
- パルプ中のヘミセルロース含有率が5.0重量%以上18重量%未満である晒しクラフトパルプを用いた積層板原紙にジシアンジアミド溶液を塗付してジシアンジアミドを対パルプ0.5重量%以上5.0重量%未満含有せしめることを特徴とする熱分解率の低い積層板原紙の製造方法。
- 請求項1記載の積層板原紙を用いて積層板に加工してなることを特徴とする耐熱性および熱寸法安定性の良好な積層板。
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