JP3708331B2 - 磁気軸受装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生産加工機械あるいは半導体装置のターボ分子ポンプなどに用いられる磁気軸受スピンドルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、機械加工の分野において、高速切削加工に対する要請が強くなっている。高速切削は生産効率を向上させ、切削抵抗の減少により加工精度の向上と工具の寿命を延ばす、また一体の原料から形状を一気に削り出すことで鋳型などの費用を削減できかつ工程の短縮化がはかれる、などの効果が期待されている。
【0003】
また最近の製品品質に対する要求は、加工面の品質すなわち形状精度や面粗度だけでなく、加工表面下の欠陥や変質層の有無まで問われるようになってきており、金属除去に伴う発生熱の影響が低く、切削抵抗が小さくできる高速切削の期待が大きい。
【0004】
加工機の性能を決定的に支配するスピンドルには、従来から主に玉軸受による支持構造が用いられてきた。前述した高速切削の要請に対して、潤滑方式の改良、セラミックス軸受の採用などにより、高速化に応えるための開発がなされている。
【0005】
一方、磁気浮上により非接触で回転体を支持する能動制御型の磁気軸受スピンドルが、玉軸受方式の限界を超える可能性を持つものとして、近年注目されている。
【0006】
図11はその磁気軸受スピンドルの一例であり、500はスピンドルの主軸、501はモータロータ、502はモータステータである。503と504はフロント側ラジアル軸受、505と506はリア側ラジアル軸受、507と508はスラスト軸受であり、それぞれ回転側のロータと固定側のステータから構成される。509,510はフロント側とリア側のラジアル変位センサー、511はスラスト変位センサー、512,513は保護ベアリング、514はケーシングである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
加工用スピンドルの基本性能は、通常DN値(主軸径×回転数)の大きさで評価される。
【0008】
玉軸受スピンドルの場合、近年様々な改良がなされているが、機械的な摺動潤滑をともなうために、寿命という点を考慮すれば、実用的にはDN値は250万程度が限界とされている。
【0009】
一方磁気軸受の場合、半永久的に使用可能である非接触回転の特徴を活かすことにより、玉軸受のDN値を大きく上回るスピンドルが実現できる可能性がある。前述した加工側の高速・高剛性の要請に応えるために、スピンドルの主軸径をより大きく、またより高速で回転させる試みがなされている。大きな主軸径が要望される理由は、主軸径が大きい程、高速時の慣性剛性(主軸の軸中心が一方向を保とうとする力学的効果)が大きく、またより大きな外径の刃具を把持できるからである。
【0010】
しかし非接触であるがゆえに低損失であると期待された磁気軸受は、高DN値を追求する取組みの結果、予想外の大きな摩擦損失が生じることが明らかとなった。その主たる要因は、ラジアル軸受の渦電流損によるものである。
【0011】
図12(イ)(ロ)は従来から用いられているラジアル軸受の原理図を示すもので、600は電磁鋼板から構成される回転子鉄芯(図11のロータ501に相当)、601は固定子鉄芯(図13のステータ502に相当)、602は巻線である。図中に磁束の流れを矢印603で示す。ラジアル磁気軸受は、上下左右の方向から磁気の力で回転子600を吸引して回転子を非接触で中心に保持する。
【0012】
さて回転子鉄芯中の一点は回転によって、図12(イ)に示すように、N→S→S→N(後述するようにN→S→N→Sの場合もある)と磁極604に面して磁束603の方向と大きさが変化するために、回転子鉄芯600には変動する誘起起電力が生じて渦電流が流れることになる。この渦電流損を小さくするために、回転子鉄芯600は、通常薄い電磁鋼板(珪素鋼板)を重ねあわせた積層構造が採用される。
【0013】
さて高DN値(大きな主軸径と高い回転数)のスピンドルの実現を見込み、磁気軸受の回転部を構成した場合、次のような課題が生じた。
【0014】
▲1▼渦電流損を低減するために、抵抗率が高く、鉄損が小さく、同じ材質ならば板厚の薄い電磁鋼板を採用した場合、遠心力によって発生する応力に対して、材料の機械的強度の限界から許容回転数に制約が生じた。遠心力によって発生する応力は、回転体の周速で決まるため、DN値にはおのずと限界が生ずる。
【0015】
▲2▼逆により高い回転数にまで耐える、同じ材質ならば板厚が大きく、抵抗率が低く、鉄損が大きい電磁鋼板を採用した場合、大きな渦電流損による発熱によって主軸に異常な温度上昇をもたらした。この温度上昇は、複合部品により構成される回転主軸の信頼性に多大な悪影響を与えた。磁気軸受の主軸は通常、モータ・磁気軸受の電磁鋼板とそれを側面から締結するリング、スラスト軸受の円盤、主軸内部を利用して設けられたツーリング部材等から構成される。主軸が高速・高温下の苛酷な条件下に晒されることにより、これらの複合部品の破壊・変形などのトラブルの要因となった。
【0016】
▲3▼ラジアル軸受の電磁石に流すバイアス電流を小さくする、あるいは電磁石の歯幅、軸方向の長さを小さくする、等によって損失を低減できる。しかし同時に剛性、負荷能力も低下してしまうため高DN値化は困難となる。
【0017】
本発明は渦電流損を低減させる上で、上記▲1▼〜▲3▼の方策では解消できなかった課題に対して、抜本的な解決策を与えるものである。
【0018】
さて本発明者は既に、渦電流損失の大きさが磁極の形状で決まる磁界の分布に依存することに着目し、磁極の内面とラジアル軸受の回転側であるロータの間に形成される磁束密度分布が、磁極端部から磁極中央に向けて傾斜した分布を持つように前記磁極の形状を形成することにより、回転子が磁極から磁極へ移り変わるときの磁束密度の変化率を小さくして、渦電流損と発熱の低減を図る方法を特願平10−118319号にて提案している。
【0019】
本発明は上記提案をさらに改善したもので、磁気軸受スピンドルのさらなる低損失化と高速・高剛性化(高DN値化)を同時に実現する磁気軸受装置を提供するものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気軸受装置は、軸受のステータには真円部を有する磁極が円周方向に複数個配置され、前記磁極と前記軸受のロータとは対向して隙間を設けて配置される磁気軸受装置において、隣合う磁極のうち互いに極が異なる2つの磁極の前記ロータと対向する面の外方に傾斜部が設けられ、前記傾斜部はα/ψ>0.15で定義されること、但し、前記2つの磁極間の中心と前記ロータの芯部とを結ぶ第1の線分と、前記磁極の傾斜部と前記真円部との交点と前記ロータの芯部とを結ぶ線分とでなす角をα、磁極の一個分がラジアル軸受として受け持つ角度をψとすることを特徴とする。
【0021】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図1は、本発明によるラジアル磁気軸受電磁石の第一の実施例(電磁石Aと呼ぶ)の原理図を示すものである。1はロータ、2はステータ部であり、このステータ部2は8極の独立した磁極から構成されたNSSN型を採用している。すなわち、4つのN極3a〜3dと4つのS極4a〜4dで構成され、同極の磁極がペアーで隣り合わせに並び円周方向で交互に配置された構成となっている。ここでふたつのN極3a、3bに注目すると、5、6はロータ1と同芯の真円部、7〜9はそれぞれの磁極を位置決めして締結するための連結部、10〜13は巻き線の収納部である。巻線は10〜13のみ図示し、他の磁極では省略している。14、15は異極同士(NとS)の磁極間の間隙部であるスロット部、16は同極間(NとN)のスロット部である。5〜16は他の磁極にも同様に形成されている。
【0022】
図2に磁極3aの部分拡大図を示す。実施例では、同極間のスロット部16のスロット幅S2を、異極間のスロット部14のスロット幅をS1=16deg比べて、かなり小さく、S2=4degに設定した。
【0023】
一方、本実施形態と比較するため図13に、上記スロット幅:S1=S2=16degとした従来のラジアル磁気軸受電磁石Bの原理図を示す。同図において、151はロータ、152はステータ部である。このステータ部も、4つのN極153a〜153dと4つのS極154a〜154dで構成され、同極の磁極がペアーで隣り合わせに並び、円周方向で交互に配置されたNSSN型の構成となっている。ここで一つの磁極153aに注目すると、155、156は巻き線の収納部(巻線は図示せず)である。157、158は異極間及び同極間の間隙部であるスロット部であり、それぞれのスロット幅は電磁石Aの場合とは異なり等しくなっている。
【0024】
上述した電磁石Aと電磁石Bの渦電流損失を、後述する損失解析によって求めた結果を以下の表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0003708331
【0026】
上記表1の結果から分かるように、磁極の同極間の間隙:S2を異極間の間隙S1よりも充分に小さくした電磁石A(本実施例)は、同極間、異極間共間隙が等しい電磁石B(従来例)と比べて、損失が大幅に低下している。
【0027】
この理由について、以下渦電流損失の理論解析により詳しく説明する。
I.渦電流損の解析
磁気軸受の渦電流損失の絶対値を求める従来の研究例は、現段階では見当たらないため、まず最初に電磁誘導論から直接解析解を導く。
【0028】
図3において、速度:v=rωで移動する平板導体に座標をとり、かつこの平板導体には
【0029】
【数1】
Figure 0003708331
【0030】
で表される磁束が鎖交しているものとする。
なお、上記(1)式において、ωはスピンドルの角加速度、rは主軸の半径、mは磁極配置で決まるもので、NSNS型の場合はm=4、NSSN型の場合はm=2である。
【0031】
また、電磁誘導論より
【0032】
【数2】
Figure 0003708331
【0033】
ここでJは電流密度
【0034】
【数3】
Figure 0003708331
【0035】
、σは導伝率である。電磁鋼板の一枚分に着目すると、板厚が十分に小さいために、y方向の電流密度:
【0036】
【数4】
Figure 0003708331
【0037】
、またz方向は均一とすると、
【0038】
【数5】
Figure 0003708331
【0039】
となる。
【0040】
【数6】
Figure 0003708331
【0041】
渦電流損:
【0042】
【数7】
Figure 0003708331
【0043】
が、厚みTの電磁鋼板(積層された全長では幅b)、円周方向の長さd、磁束が入る深さSの導体内で消費されるとして、時間平均とx方向 及びy方向の平均をとると、
【0044】
【数8】
Figure 0003708331
【0045】
であるため
【0046】
【数9】
Figure 0003708331
【0047】
ここで、時間とx方向の平均の項は、
【0048】
【数10】
Figure 0003708331
【0049】
y方向の平均の項は
【0050】
【数11】
Figure 0003708331
【0051】
これらの値を用いると、ラジアル磁気軸受の磁束密度分布を円周方向で正弦波近似した場合の渦電流損失:
【0052】
【数12】
Figure 0003708331
【0053】
が求まる。
【0054】
【数13】
Figure 0003708331
【0055】
であるため
【0056】
【数14】
Figure 0003708331
【0057】
以上、理解を容易にするため磁束密度分布曲線を正弦波で近似して説明したが、実際の磁気軸受の磁束密度分布の周期関数は、図4あるいは図14に示すように方形波もしくは台形波に近い。この場合は、(1)式の代わりに
【0058】
【数15】
Figure 0003708331
【0059】
このときの渦電流損失:
【0060】
【数16】
Figure 0003708331
【0061】
は、(8)式の代わりに次式になる。
【0062】
【数17】
Figure 0003708331
【0063】
また磁気軸受の回転子表面において、磁束の低い周波数成分は回転子内部まで入るが、高い周波数成分は入りにくい。そこで表皮深さ、すなわち損失を生じる体積は
【0064】
【数18】
Figure 0003708331
【0065】
に比例するとすると(10)式は
【0066】
【数19】
Figure 0003708331
【0067】
(11)式において、
【0068】
【数20】
Figure 0003708331
【0069】
は周期関数の種類(正弦波、台形波、方形波等)で決まるフーリエ係数である。
II.低損失化の効果
上記結果から、磁束密度分布に任意の周期関数を与えたときの渦電流損失の絶対値を求める基礎式(11式)が求まったため、本発明の第一の実施例(図1の電磁石A)に適用して計算をおこなった。また左右の磁極間の間隙が等しい軸受構造(図13の電磁石B)との対比のもとで、実施例の損失低減の効果を評価する。
【0070】
磁束密度分布の比較
図4は、上記実施例(電磁石A)のロータ回転角が0〜90度の区間で、異極間の間隙S1=16deg、同極間の間隙S2=4deg、同極間を近接させる角度Δθ=6degの場合の磁束密度分布を示す。間隙部0<θ<8deg(=S1/2)の全区間では、理論的にはB=0のはずである。しかし実際の電磁石では、漏れ磁束、電磁石のロータ内面端部の面取り加工などの影響により磁界の波形は幾分鈍化した波形になる。そのため本解析では5<θ<8degの微小な範囲で磁界の分布に傾斜角をもたせている。電磁石Aの同極側も同様である。また本発明と比較するため図13に示した従来の電磁石Bの磁束密度分布の場合も、上記理由により、図14に示すようにスロット幅(S1=S2=16deg)の区間で、同じ傾斜角をもたせている。
【0071】
渦電流損の計算結果
図5は、本発明の電磁石Aの渦電流損失低減の効果を、次の条件で求めた解析結果である。
【0072】
▲1▼磁極の異極側との間隙S1は、電磁石Bと同様にS1=16degに設定した。
【0073】
▲2▼磁極の同極側との間隙S2は、電磁石Bの場合(S2=16deg)を基準(Δθ=0)として、S1>S2となるように、S2を2Δθdegだけ小さくした。
【0074】
図5は、渦電流損失と上記Δθdegの関係を求めたものである。解析条件として、解析の対象とする電磁石A、B共、電磁鋼板の固有抵抗値(ρ=5.6×10-7Ωm)、磁束がロータに入る深度:sは、磁気軸受の電磁鋼板ロータの厚み(s=7mm)を用いる。また電磁鋼板は、高DN値化を狙いとして遠心力耐えるために、損失は大きいが敢えて高強度用(T=0.00035m)を用いている。また
【0075】
【数21】
Figure 0003708331
【0076】
そして、図5の解析結果から以下の点が得られた。
▲1▼同極間と異極間の間隙が等しい(S1=S2=16deg)の電磁石B(図13)の場合、Δθ=0であり、損失We=1.5kwである。
【0077】
▲2▼電磁石Aの同極間の間隙:S2を小さくしていくと、0<Δθ<4.0deg(=S1)の区間では、損失動力Weはなだらかに減少していく。しかしΔθ>4.0degになると損失は大幅に低下して、Δθ=6.5degで最小値:We=0.85kwになる。
【0078】
▲3▼但しこの場合、Δθ=0の場合と比較すると総磁束が増加するために、磁束密度の最大値を若干低減させてもよい。Δθ=0とΔθ=6.5degの場合の磁束密度分布の面積比較から、We=0.85→0.71kwになる。
【0079】
なおΔθ>6.5degとなると損失Weは再び増加していくが、これは計算上二つの磁極の磁束が重なり合う区間の磁束密度が一個分の磁束密度の最大値:B0を超えるからである。しかし磁束密度の最大値:B0を超えることは現実には有り得ず、解析上有効な区間は、Δθ≦6.5degである。
【0080】
▲4▼したがって本発明の適用により、Δθ=6.5degを選べば、同一の負荷能力と剛性を維持したままで、渦電流損失は1/2以下に低減できる。
【0081】
さてラジアル磁気軸受の設計の選択肢のなかで、回転数と主軸径が妥協できない条件であるとすれば、電磁鋼板の選択には強度と損失の点で、またバイアス電流、磁極の幅の選択では負荷能力・剛性と損失の点で相反する課題があることは前述した通りである。
【0082】
本発明は回転子鉄芯側(ロータ)ではなく、固定子側(ステータ)にある渦電流損の発生要因に着目したものである。渦電流損はロータの磁極に対向する面の磁束の方向と大きさが変化するために発生する誘起起電力によるものである。前述したように、ロータの一点に着目したとき、ロータの回転によって、このロータの一点に加わる磁束は、たとえばN→S→S→Nの順で方向と大きさが変化する。その結果ロータ表面には、変動する誘起起電力が生じて渦電流が流れる。この誘起起電力による渦電流の電流密度は、磁束密度の変化分の振幅に比例する。したがってロータで消費される渦電流損は、電流密度の2乗すなわち磁束密度の変化分の2乗に比例することになる。
【0083】
渦電流損失を求める基礎式(11)式を用いて説明するならば、磁束密度の変化率が大きい程、高調波成分を多く含むために、高い次数nでのフーリエ係数
【0084】
【数22】
Figure 0003708331
【0085】
が大きい。したがって、高調波成分の項:
【0086】
【数23】
Figure 0003708331
【0087】
は無視出来ないオーダーとなるのである。
さて本発明は、回転子の一点に注目したとき、損失を低減させる方策が下記(1)(2)の場合で異なる、という点に着目したものである。
【0088】
(1)磁束が異極間(N→SあるいはS→N)で移り変わる場合。
(2)磁束が同極間(N→NあるいはS→S)で移り変わる場合。
【0089】
本発明をNSSN型に適用したとき、磁束密度の急峻な変化を抑制する方策は異極側と同極側では異なる。すなわち、磁極単体の形状あるいは隣り合う磁極の相対位置関係を異極側と同極側で非対称となるように電磁石を構成する、というのが本発明のキーポイントである。
【0090】
前述した第一の実施例はその具体策を示すものであり、異極側の磁極端部との間隙をS1、同極側の間隙をS2としたとき、異極側は従来通りの間隙S1を保ちつつ、同極側に関してのみS2→0とする。もし異極同士を近接(S1→0)させれば、磁気回路はロータを介在せず、磁極同士で閉ループを描いてしまうために、磁気軸受としての機能が得られない。しかし同極同士を近接させる方法は、磁気軸受の基本性能に与える影響が少なく、かつ磁束密度分布が、図4で示すように、平坦化する効果をもつ。その結果、上記(2)による渦電流損失を大幅に低減できるのである。
【0091】
(実施の形態2)
図6は本発明の第二の実施例であり、磁極配置がNSSN型の電磁石に本発明を適用した場合において、二つの同極の磁極を一体構造にした場合を示す。
【0092】
51はロータ、52はステータ部であり、このステータ部52は8極の磁極から構成されたNSSN型を採用している。すなわち、4つのN極53a〜53dと4つのS極54a〜54dで構成され、同極の磁極がペアーで隣り合わせに並び、円周方向で交互に配置された構成となっている。ただしペアーで配置された同極の磁極(たとえば53aと53b)は機械的には一体構造になっている。
【0093】
ここでふたつのN極53a、53bに注目すると、54,55は異極側のスロット部、56、57はそれぞれの磁極を位置決めして締結するための連結部、58〜61は巻き線の収納部である。62は境界部A、63は境界部Bである。本実施例では、通常は機械的に分離している境界部Aが一体化しているために、磁束密度分布を一層平坦化できさらなる低損失化が図れる。また境界部Bも一体化しているために、磁極53a、53bを、組み立て時に単品の部品として取り扱うことができる。そのため本実施例の電磁石では、高密度巻線ができる後述する極分割工法の適用ができる。
【0094】
(実施の形態3)
図7は本発明の第三の実施例であり、磁極配置がNSSN型の電磁石に本発明を適用した場合において、上記(1)による渦電流損失の大幅低減を図ったものである。すなわち、異極側磁極の内面にゆるやかな傾斜部(磁束密度曲線の立ち上がり・立ち下がり区間)を形成することにより、磁束密度の急峻な変化を抑制する方策を施した場合を示す。
【0095】
71はロータ、72はステータ部であり、このステータ部72は8極の独立した磁極から構成されたNSSN型を採用している。すなわち、4つのN極73a〜73dと4つのS極74a〜74dで構成され、同極の磁極がペアーで隣り合わせに並び、円周方向で交互に配置された構成となっている。ここでふたつのN極73a、73bに注目すると、75、76は磁極73a、73b内面の両端部に形成された傾斜部、77、78は真円部、79,80は異極側スロット部、81〜83はそれぞれの磁極を位置決めして締結するための連結部、84〜87は巻き線の収納部、88は同極側のスロット部である。図8に磁極73aの部分拡大図を示す。
【0096】
実施例では、異極側磁極の端部から同芯部の区間:αはゆるやかな傾斜面を磁極内面に形成し、同極側の区間:βでは磁極内面の形状は従来通りのロータの軸芯に同芯円にしている。また異極間の間隙:S1は、第一の実施例と異なり、充分に小さくS1=6degに設定した。また同極間の間隙はS2=4degである。上記S1、S2を一定に保ったままで、立ち上がり区間:αに対する損失動力の解析結果を図9に示す。結果を要約すれば、
▲1▼磁極の内面に傾斜面をもたない電磁石の場合でも、前述したように磁界の波形は幾分鈍化した波形になる。波形の鈍化分:α=3degとして傾斜面をもたない電磁石の損失を求めると、We=1.17kwである。
【0097】
▲2▼立ち上がり区間をα=3degから増加させていくと、損失動力は大幅に低下していく。
【0098】
たとえばα= 3degから14degにすると、損失We=1.17→0.53kwに低下する。
【0099】
▲3▼但しこの場合総磁束が低下するために、同図の一点鎖線のグラフで示すように、磁束密度の最大値を、若干アップさせる必要がある。上記アップ分を考慮して損失の補正値(二点鎖線)を求めると、We=0.53→0.59kwになる。
【0100】
したがって本発明の適用により、立ち上がり区間:α=14degを選べば、同一の負荷能力と剛性を維持したままで、渦電流損失は1/2弱に低減できることがわかる。
【0101】
上記実施例では、回転子の一点がN→SあるいはS→Nに移り変わる際に、磁束密度はなだらかな勾配をもって変化する。すなわち磁束密度分布に、あたかもカム曲線のごとく、充分に長い立ち上がり区間(助走区間)と立ち下がり区間(減速区間)を設けることにより、渦電流損の発生を抑制して発熱の大幅な低減が図れるのである。
【0102】
また磁束密度分布に立ち上がり区間を設ける効果は、損失の低減だけではない。磁気軸受の負荷能力と剛性は磁束密度分布の総面積で決まるために、磁束密度分布が方形波に近い従来磁気軸受(図14…磁束密度分布は図示せず)と比べて、台形波に近い本実施例では総面積を大きくとれるために有利となる。
【0103】
なお上記第三の実施例では、磁極の異極側のみに傾斜面を形成し、同極側は第一の実施例と同様に磁極間を近接させる方法を用いている。同極の磁極を近接させる方法は、磁束密度分布の総面積を一層大きくとれるために、負荷能力・剛性の点で有利となる。
【0104】
しかし磁極間を近接させる方法の代わりに、同極側に傾斜面を形成しても損失低減を図ることはできる。この場合、同極側の磁束密度の変化率は異極側程大きくないために、傾斜面を形成する角度は充分小さくてもよい。すなわち、異極側に形成する傾斜面の角度:α1、同極側に形成する傾斜面の角度:α2としたとき、α1>α2となるように構成すればよい(図示せず)。
【0105】
さて上記第三の実施例は磁極の内面に傾斜面を形成して、磁極とロータ間の間隙(エアーギャップ)を円周方向で変化させることにより、磁束密度分布に立ち上がり特性を持たせたものであった。
【0106】
(実施の形態4)
図10は本発明の第四の実施例を示すものであり、たとえばN極→エアーギャップ→ロータ→エアーギャップ→S極と形成される磁気回路のなかで、巻線部から磁極端部に至る経路で磁路の幅(面積)が小さくなる部分を形成することにより、磁束密度分布に長い区間での立ち上がり特性を持たせたものである。したがって本実施例では、磁極の内面形状はロータと同芯円ででよい。
【0107】
91はロータ、92はステータ部であり、このステータ部92は8極の独立した磁極から構成されたNSNS型を採用している。すなわち、4つのN極93a〜93dと4つのS極94a〜94dが円周方向で交互に配置された構成となっている。ここでひとつのN極93aに注目すると、磁極のロータ側内面と巻き線の収納部97の間に、磁路の円周方向の幅が狭いくびれた部分:狭小部95,96が形成されている。97は異極側スロット部、98は同極側スロット部、99〜101はそれぞれの磁極を位置決めして締結するための連結部、102、103は巻線の収納部である(巻線は図示せず)。
【0108】
図10において、外周部に巻線を有する点aから磁極の端部bに至る経路で、角度αの区間で、磁路の幅がd1からd2に絞られている部分が磁極に形成されている。一方角度βの区間では、磁路の幅は充分大きく磁束を通すのに有効な通路となっている。上記磁極の形状により、磁極内面とロータ91の間で形成される磁束密度分布は円周方向で均一とならず、傾斜角を持つ疑似的な台形波となる。
【0109】
本発明の適用において、磁極がロータに面する部分以外の磁路形状の工夫、たとえば上記第四の実施例で示したように、磁路にくびれた部分(狭小部)を形成することにより、磁束密度分布を与えてもよいが、エアーギャップの設定で与える方法(第三の実施例)と組み合わせてもよい(図示せず)。
【0110】
さて立ち上がり・立ち下がり区間の大きさをどの程度に設定したらよいか、という点について考察する。第三の実施例を例にとると、図9のグラフから角度α=0の状態からαを大きくしていくと、損失は急激に低減することがわかる。ラジアル電磁石は通常複数個の磁極から構成されるが、高い精度を確保するためには、各磁極の損失(すなわち発熱量)を均一にしてスピンドルの熱変形を軸対称に保つ方が好ましい。したがって磁極形状の加工精度のばらつきなどを考慮すると、この急峻に変化する部分を避けて、曲線の変曲点であるα=7度以上で用いるのが好ましい。磁極の一個分がラジアル軸受として受け持つ角度をψ(=α+β+γ)として、実施例の場合のψ=45度の結果から得られる知見を一般化すれば、α/ψ>0.15となるように、立ち上がり・立ち下がり区間(たとえば傾斜面を形成する個所)を決めればよい。
【0111】
(実施の形態5)
本発明を適用する磁気軸受のステータに、モータで用いられているの極分割コアー工法を利用すれば、歯幅が大きくすなわちスロット幅が小さく、かつ傾斜面を持つ異形の磁極を適用できる。たとえば、図2の拡大図に示すように、歯幅B1を巻線部の幅B2よりも大きくとる場合でも、分割工法をもちいれば従来の磁気軸受電磁石ではできなかった巻線処理ができる。また磁極を単独のユニットで扱えるために、コイルを収納する空間いっぱいに高密度の巻線ができ、積層して組み立る作業も容易にできる。すなわち電磁石の歯幅を大きくとれることにより、磁極内面の傾斜面あるいは磁気抵抗に円周方向分布を与えるためのくびれた部分(図10の95)を充分に長い区間に余裕をもって形成できる。その結果、充分な長さの磁束密度の立ち上がり・立ち下がり区間を設けることができ、損失の大幅な低減が図れるのである。
【0112】
なお電動モータでは上記分割工法は公知であるが、本発明で提示したような低損失化を目的とする特殊な形状の磁極から構成される磁気軸受に、上記工法を適用した前例は現在のところ見あたらない。ちなみに極分割工法の一例を上げると、固定子を複数個のコアーピースに分割して、たとえばレーザによる金型内積層固着工法により高精度のコアーピースを積層して、各ピースに高密度巻線を行った後、レーザにより再び、高精度に合体したものである。
【0113】
また実施例では、加工用スピンドルを例にあげて説明したが、ターボ分子ポンプなどにも本発明を適用できる。
【0114】
【発明の効果】
本発明を用いれば、従来磁気軸受とほとんど変わらないシンプルな構成で、磁気軸受の回転子に発生する渦電流損失による発熱を大幅に低減することができる。その結果、主軸の温度上昇を抑制できるため、多くの複合部品で構成されるスピンドルの信頼性を向上させると共に、主軸の軸方向の伸びを押さえ、高い振れ精度を確保できる。
【0115】
また本発明は、磁気軸受スピンドルの高いDN値(主軸径×回転数)の実現を図る上で、極めて有力な手段を提供するものである。従来磁気軸受の高速時の課題が解消されるため、磁気軸受スピンドルが本来持っている基本的能力(高速・高剛性)を一層活かした形で、高速切削加工の要請に応えることができ、その実用的効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる第一の実施の形態であるラジアル磁気軸受の電磁石Aの原理図
【図2】図1の電磁石の部分拡大図
【図3】渦電流損失の解析モデルを示す図
【図4】本発明の第一の実施の形態である磁極の磁束密度分布を示す図
【図5】渦電流損失の解析結果で、近接角度に対する損失動力を示すグラフ
【図6】本発明にかかる第二の実施の形態であるラジアル磁気軸受の電磁石の原理図
【図7】本発明にかかる第三の実施の形態であるラジアル磁気軸受の電磁石の原理図
【図8】図6の電磁石の部分拡大図
【図9】渦電流損失の解析結果で、立ち上がり区間に対する損失動力を示すグラフ
【図10】本発明にかかる第四の実施の形態であるラジアル磁気軸受の電磁石の原理図
【図11】従来の磁気軸受スピンドルの正面断面図
【図12】従来のラジアル磁気軸受を示す図で(イ)は正面図、(ロ)は側面図
【図13】従来電磁石Bの原理図
【図14】図10の電磁石の磁束密度分布を示す図
【符号の説明】
1 ロータ
2 ステータ部
3a、3b N極
4a、4b S極

Claims (4)

  1. 軸受のステータには真円部を有する磁極が円周方向に複数個配置され、前記磁極と前記軸受のロータとは対向して隙間を設けて配置される磁気軸受装置において、隣合う磁極のうち互いに極が異なる2つの磁極の前記ロータと対向する面の外方に傾斜部が設けられ、前記傾斜部はα/ψ>0.15で定義されること、但し、前記2つの磁極間の中心と前記ロータの芯部とを結ぶ第1の線分と、前記磁極の傾斜部と前記真円部との交点と前記ロータの芯部とを結ぶ線分とでなす角をα、磁極の一個分がラジアル軸受として受け持つ角度をψとすることを特徴とする磁気軸受装置。
  2. 一つの磁極の端部とその隣り合わせにある同極側の磁極端部同士は機械的な接触状態に保たれていることを特徴とする請求項1記載の磁気軸受装置。
  3. 一つの磁極とその隣り合わせにある同極側の磁極は一体構造であることを特徴とする請求項1記載の磁気軸受装置。
  4. ステータは複数個のコアーピースにて構成されていることを特徴とする請求項1記載の磁気軸受装置。
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