JP3700834B2 - 衝突形態判定装置及びこれを用いた乗員保護装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車両の衝突形態判定装置及びこれを用いた乗員保護装置に関する。特に、車両の衝突形態が対称的であるか、非対称的であるかを簡易かつ迅速に判定可能な衝突形態判定装置、及び車両が非対称衝突したときに確実に乗員保護を図ることができる乗員保護装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両に搭載されるエアバッグ装置等の乗員保護装置は、車両に搭載された減速度計等により検出される減速度の時間的変化に基づいて、例えばエアバッグ装置の起動タイミグの調整やインフレータの展開出力の調整が行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車両衝突の形態としては図1に示すように、車両10の前方全面が衝突対象物と衝突する正突(A)や車両の前面中央に電信柱等が衝突するポール衝突(B)のような左右対称型の衝突と、車両の正面の片側で衝突対象物と衝突するオフセット衝突(C)のような非対称型の衝突がある。車両衝突の際における乗員の移動方向や移動量、移動のタイミング等は、衝突の対称・非対称によって異なる。
【0004】
よって、単に車両に生じる減速度の時間的変化に基づいて、乗員保護装置を適切に駆動させることには限界がある。また、衝突の初期から乗員保護装置をより的確なタイミングで駆動させるためには車両の衝突形態が対称であるか、否かを知ることができれば、これを乗員の保護に活用できる。
【0005】
車両の衝突形態を判別する装置の1つとして、例えば出願人は車両の前方左右に配置された2つの減速度センサ(フロントセンサ)及び車両本体中央側に配置される減速度センサ(フロアセンサ)により検出される減速度に基づいて、車両に加わる衝撃に応じてエアバック装置の点火判定時期やエアバックの出力状態を制御して乗員保護を確実に行うようにした装置を提案している(特開平11−286257号公報及び特開2000−219098号公報)。
【0006】
上記のような乗員保護装置を備える車両であれば、車両の衝突形態を考慮して乗員を確実に保護できる。しかしながら、車両の衝突時において、乗員保護をより確実に実行するといった観点から、乗員保護装置が適切に駆動されるよう多段階の設定がなされていることが望ましい。
【0007】
本発明は車両衝突の初期において対称性の衝突か、非対称性の衝突かを、判定する衝突形態判定装置を提供することを第1の目的とし、さらにこのような衝突形態判定装置を用いてより適切な乗員保護を図ることを可能とした乗員保護装置を提供することを第2の目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は請求項1に記載される如く、車両内の所定位置に配設され、当該車両の前後方向における車両減速度を所定の周期で検出する第1減速度検出手段と、前記車両が衝突した際の前記車両減速度の第1ピークを検出する第1ピーク検出手段と、前記第1減速度検出手段より前側で車両の左側及び右側の各々に配設され、前記車両前後方向における左及び右減速度を所定の周期で検出する第2減速度検出手段と、前記左及び右減速度各々の左及び右平均車両減速度を算出する平均減速度算出手段と、前記第1ピーク検出手段により前記車両減速度の第1ピークが検出されたときの前記左及び右平均車両減速度に基づいて、前記車両の衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかの判定を行う対称・非対称判定手段とを含む、構成により達成される。
【0009】
請求項1記載の発明によれば、安定的に検出される車両減速度の第1ピークを第1ピーク検出手段が検出することで車両が衝突状態となったことが確認され、さらに平均減速度算出手段が算出した左及び右平均車両減速度を用いて、車両の衝突形態が判定される。よって、車両衝突の初期に、対称衝突したか、又は非対称衝突したかを確実に判定することができる。
【0010】
また、請求項2に記載される如く、請求項1記載の衝突形態判定装置において、前記第1ピーク検出手段は、前記第1減速度検出手段により検出された車両減速度の波形に、ウェーブレット変換処理を施して得たウェーブレット位相が、初めてπを越えた後、πを下回る値を示したことに基づいて前記波形の第1ピークを検出する、構成とすることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、ウェーブレット変換を用いるので、車両減速度の第1ピークを確実に検出することができる。なお、ウェーブレット変換を用いるとウェーブレット変換後の位相が2πからゼロに転じたときを車両減速度のピーク時刻として検出できる。よって、ウェーブレット変換後の位相が、初めてπを越えた後、πを下回る値を示したときに第1ピークがあったとの判断ができる。
【0012】
また、請求項3に記載される如く、請求項2記載の衝突形態判定装置において、前記第1ピーク検出手段は、前記ウェーブレット位相が、さらにπを越えたことにより前記波形の第1ボトムまで検出したことに基づいて前記波形の第1ピークを検出する、構成としてもよい。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、車両減速度の第1ピーク後の第1ボトムまで確認してから第1ピークがあったことを検出する。よって、車両減速度の第1ピークをより確実に検出できる。なお、ウェーブレット変換を用いるとウェーブレット変換後の位相がゼロからπとなった時刻に車両減速度のボトムを検出できる。よって、ウェーブレット変換後に位相が初めてπを越えた後、πを下回る値を示し、さらにπとなったときが第1ボトムの時刻となる。
【0014】
また、請求項4に記載される如く、請求項1から3のいずれかに記載の衝突形態判定装置において、平均減速度算出手段は、移動平均法を用いて最新の前記左及び右平均車両減速度を各々算出する、構成とすることが好ましい。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、刻々と変化する前記左及び右減速度を用いて常に最新の前記左及び右平均車両減速度が算出されるので、確実な対称・非対称判定が可能となる。
【0016】
また、請求項5に記載される如く、請求項4記載の衝突形態判定装置において、前記対称・非対称判定手段は、前記左平均車両減速度と前記右平均車両減速度との左右比に基づいて前記車両の衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかの前記判定を実行するものとすることができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、前記左平均車両減速度と前記右平均車両減速度との左右比は車両前方の衝突状態をよく反映するので、対称・非対称判定手段により衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかを確実に判定することができる衝突形態判定装置となる。
【0018】
上記のような衝突形態判定装置は、車両が対称衝突又は非対称衝突したことを確実に判定するので、乗員保護装置の駆動にこれを適用することで確実な乗員保護が実行できることにもなる。
【0019】
このような乗員保護装置は、請求項6に記載される如く、請求項1から5のいずれかに記載の衝突形態判定装置を含む乗員保護装置であって、前記対称・非対称判定手段による対称又は非対称の判定結果を用いて、乗員保護の緊急度を判定するシビアリティ判定手段を備える、構成として具現化できる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段が、車両が対称又は非対称衝突したとの前記衝突形態判定装置側の判定結果を用いて、乗員保護の緊急度を判定するので乗員保護が確実になされる乗員保護装置となる。
【0021】
また、請求項7に記載される如く、請求項6記載の乗員保護装置において、前記シビアリティ判定手段は、前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と、前記車両の衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とに基づいて、前記乗員保護の緊急度を判定する、構成としてもよい。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段が左右比と衝突側の平均車両減速度を用いてシビアリティ判定するので、適切な乗員保護が可能な乗員保護装置となる。
【0023】
そして、請求項8に記載される如く、請求項7記載の乗員保護装置において、前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と前記車両の衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とで形成したシビアリティ判定マップを備え、前記シビアリティ判定マップには、前記左右比に対して衝突の対称性を判断するために定めた第1閾値と、非対称衝突した車両について乗員保護の観点から許容限界平均車両減速度として定めた第2閾値とが設定され、前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と、前記衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とで特定される特定点が、前記第1閾値及び第2閾値で囲まれるシビアリティ判定領域に属したか、否かにより前記乗員保護の緊急度を判定する、構成とすることができる。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段は、シビアリティ判定マップ上で特定点がシビアリティ判定領域に属したか、否かという簡易な判断により、早期に乗員保護の緊急度を判定できる。
【0025】
なお、上記第1閾値及び第2閾値は、全車両に対して設定される共通の値ではなく、車種毎に独自に設定される個別の値である。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下本発明の好ましい実施の形態を図に基づいて説明する。
【0027】
図2は本発明の第1実施例である衝突形態判別装置20のハード構成の概略を示す構成図である。図3は同衝突形態判定装置20が車両10に搭載されたときの様子を例示する図である。また、図4は同衝突形態判定装置20の概略構成を機能ブロックを用いて示す図である。
【0028】
本実施例の衝突形態判別装置20は、図2及び図3に示すように、車両10の中央部コンソール近傍に取付けられ車両の前後方向における車両減速度(以下、フロアGと称す)を検出するフロアセンサ22と、車両10左右のサイドメンバの前方(クラッシュゾーン)に各々取付けられて車両の前後方向における左右での減速度(以下、フロントLG、RG)を検出する左右フロントセンサ24、26とを含む。これら左フロントセンサ24及び右フロントセンサ26は、フロアセンサ22と同様に、各々の側で車両前後方向における減速度を検出する。これらのセンサには電子センサを用いることが望ましい。
【0029】
衝突形態判別装置20は、フロアセンサ22により検出されるフロアG、並びに左フロントセンサ24により検出されるフロントLG及び右フロントセンサ26により検出されるフロントRGに基づいて車両10の衝突形態を判別するマイクロコンピュータ40を含む。マイクロコンピュータ40はCPU42を中心として構成されており、所定の処理プログラムを記憶したROM44と、一時的にデータの記憶をするRAM46と入出力回路(I/O)48を含む。
【0030】
ここで図3を参照して説明すると、本実施では左及び右フロントセンサ24、26それぞれからの減速度信号は、配線25、27を介してマイクロコンピュータ40側に入力されるようになっている。よって、左及び右フロントセンサ24、26側で検出された減速度の生データ、及びフロアセンサ22側の車両減速度の生データはマイクロコンピュータ40側で一括して処理される構成である。このように、マイクロコンピュータ40側で一括処理することは、左及び右フロントセンサ24、26側で予め処理したデータを送信する場合と比較して高度なデータ処理が可能となるので好ましい。
【0031】
上記CPU42は、例えば車両のイグニッションスイッチ(IGスイッチ)がオンされた以降、或いはアクセルペダルの踏込みがあった以降等を開始時期とし、これ以後継続的に所定の周期的(例えば2KHz)で、フロアセンサ22により検出されるフロアG及び左右フロントセンサ24、26により検出されるフロントLG、RGを常時監視するように設定されている。CPU42はフロアセンサ22並びに左及び右フロントセンサ24、26により検出される3つの減速度、フロアG、フロントLG及びフロントRGを用いて、前記車両10が衝突状態となったときに、正突等の対称衝突であるか、又は非対称衝突であるかを判定する衝突形態判定部30を実現する。このCPU42が有する構成は、図4に示した衝突形態判別装置20の機能ブロック図により明らかにされている。
【0032】
図4において、フロアセンサ22により検出されるフロアG及び左右フロントセンサ24、26により検出されるフロントLG、RGは、信号入力部28を介して衝突形態判定部30へ供給される。衝突形態判定部30は、フロアGの減速度波形における第1ピークを検出する第1ピーク検出部34、フロントLG、RG各々の最新の平均値を算出する平均減速度算出部32、及び対称・非対称判定部36を備えている。
【0033】
第1ピーク検出部34は後述するウェーブレット変換処理を用いてフロアG波形の第1ピークを検出する。この第1ピークが検出されることで車両が衝突状態となったことを確認できる。この第1ピーク検出部34で第1ピークが検出されると、その検出信号は対称・非対称判定部36へ供給される。
【0034】
平均減速度算出部32は、刻々と検出されるフロントLG、RGに基づいて左右各々の平均車両減速度を算出し、対称・非対称判定部36へ供給する。対称・非対称判定部36は、第1ピーク検出部34からの上記検出信号及び平均減速度算出部32からの左及び右平均車両減速度を用いて、車両の衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかの判定を行う。
【0035】
以下、更に図4に示した衝突形態判別装置20についてより詳細に説明するが、その前に図5に基づいて本実施例において車両が対称性衝突したのか、非対称衝突したのかを検出するために用いる手法について説明する。
【0036】
図5には上段から順に、(A)左フロントセンサ24により検出されるフロントLG、(B)右フロントセンサ26により検出されるフロントRG、及び(C)フロアセンサ22により検出されるフロアGの各減速度波形の一例が示されている。
【0037】
車両10の前側左右に配設されている左右フロントセンサ24、26は、車両衝突時において早期に衝撃を受けるので、一般に早く車両の衝突を検出できる。しかし、衝突後に車両の破壊が進むことに伴って、左右フロントセンサ24、26が配設されている周辺状態も早めに変形する。この点に配慮してフロントLG及びフロントRGを車両の衝突形態判定に用いることが必要となる。
【0038】
一方、フロアセンサ22は、車両本体内に配設されているので左右フロントセンサ24、26と比較すると衝突の検出は若干遅れるが、車両中央側に至るような破壊が生じるまではフロアGを安定的に検出する。
【0039】
本実施例の衝突形態判別装置20は、フロアGを用いて車両の衝突を正確に検出する。そして、車両の衝突を早期かつ確実に検出して乗員保護を図る観点から、フロアG波形の第1ピークを用いて車両の衝突を検出する。この第1ピークは車両の衝突初期に検出されるものであり、このときの車体は殆ど破壊されていない状態である。よって、このような時点で車両の衝突を検出し、乗員保護装置を駆動させることができれば確実な乗員保護が実現できる。
【0040】
本実施例では、信号入力部28を介して供給されるフロアGの検出信号に、第1ピーク検出部34がウェーブレット(Wavelet)変換処理を施し、その第1ピーク(第1極大値)を確実に検出する。ここで、第1ピーク検出部34によるウェーブレット変換処理を用いた第1ピークを検出する方法について、図6及び図7を用いて説明する。
【0041】
ウェーブレット変換は、フーリエ変換が定常な正弦波の重ね合わせとして時系列信号を表すのに対し、時間的に局在した波(ウェーブレット)の重ね合わせとして表現する方法であり、非定常信号のスペクトル解析、音声認識・合成、画像の情報圧縮、ノイズ除去、異常の検出等の様々な分野で近年広く応用されているデータ変換方法である。
【0042】
第1ピーク検出部34では、入力された信号に対して積分の基底として所定の複素関数を用いて積和演算し、ウェーブレット変換値の実数部Rと虚数部Iとに基づいてその大きさの位相θを演算する。この演算された位相θに基づいて第1極大値の時刻を検出する。以下、第1ピーク検出部34におけるウェーブレット変換法を用いた第1ピーク検出原理について簡単に説明する。
【0043】
時系列信号X(t)のウェーブレット変換係数(a,b)は、時間的にも周波数的にも局在した基本ウェーブレット関数ψ(t)を用意し、これを次式(1)に示すようにa倍スケール変換した後に原点bだけシフト変換(平行移動)して得られる相似関数の組ψa,b(t)を基底関数とする式(2)に例示する展開をする。なお、スケール変換パラメータaは、変換周波数fに対して逆関数に比例する関係を有している。
【0044】
ψa,b(t) = a− 1 / 2ψ((t−b)/a)……(1)
X(a,b) = X(t)ψa,b(t) ……(2)
本実施例では、基本ウェーブレット関数ψ(t)として、実数部Rに対して虚数Iがπ/2だけ位相がずれた複素関数として次式(3)に示すGabor関数を用いている。ここで、式(3)中のω0は周波数fによって定まる定数(ω0=2πf)であり、αも定数である。
ψ(t)=exp(−αt2+iω0t)
=exp(−αt2)・(cos(ω0t)+isin(ω0t))…(3)
式(3)において、α=πとしたときのGabor関数の時間軸上の表現を図6に示す。図示するように、Gabor関数は、時間軸上の−T〜Tの範囲に局在しており、実数部と虚数部の波形の位相がπ/2だけずれている。時系列信号X(t)に対するウェーブレット変換は、具体的には、スケール変換パラメータa(式(3)中ではω0)を適当に選択した関数と時系列信号X(t)との積和演算となる。演算の区間としては、波形が局在している範囲(図6中−T〜Tの範囲)である。この範囲はウインドウと称される。
【0045】
時系列信号X(t)のGabor関数によるウェーブレット変換X(a,b)は、Gabor関数が複素関数であることから複素数になる。図7にウェーブレット変換X(a,b)の実数部Rと虚数部Iと大きさPと位相θとの関係を示す。大きさPは次式(4)により算出され、位相θは式(5)により求められる。ここで、大きさPは、ウェーブレット変換X(a,b)の便宜的な大きさを意味し、無次元量である。また、位相θは実数部Rと虚数部Iの大きさと符号とにより0〜2πの範囲となる。
【0046】
P=√(R2+I2) ……(4)
θ=tan−1(I/R)…(5)
時系列信号X(t)の周波数に近い変換周波数fの位相θ(t)では、時系列信号X(t)の振幅が極大(ピーク)となる時刻に2πからゼロに変化し、極小(ボトム)となる時刻にπとなる。
【0047】
本実施例の第1ピーク検出部34は、最初に現われる第1ピーク(第1極大値)の時刻t1を検出し、これを衝突形態判定において車両衝突が有ったとの確認に用いる。さらに、最初に現われる第1ボトム(第1極小値)の時刻t2が検出されるまで待てば、第1ピークを出現したことをより確実に確認できる。
【0048】
すなわち、位相θが最初にπを越え、続いてπを下回ったことを確認することで、位相θが2πからゼロに転じたとして、第1ピークとなった時刻t1を間接的に知る。そして、この後に続く位相θがπとなる時刻に第1ボトムが現われるのである。
【0049】
先に示した図5の最下段(D)は、その上段(C)に示したGセンサ22で検出されたフロアG波形にウェーブレット変換の処理を施して求めたウェーブレット位相波形である。前述したようにウェーブレット変換法を用いることで、2πからゼロに反転する時刻t1において第1ピークを検出でき、続いてπを越える時刻t2において第1ボトムを検出できる。
【0050】
本実施例では、図5でウェーブレット位相が最初にπとなる時刻t0から、前記平均減速度算出部32がフロントLG及びフロントRGの左及び右均車両減速度LV(t)、RV(t)を算出するようにしている。フロントLG及びフロントRGから左及び右平均車両減速度LV(t)、RV(t)を求め、衝突の対称性を判断するために行われる処理について説明する。
【0051】
本発明者等は衝突形態が対称か、非対称かを正確に判定するための検討をし、統計処理における移動平均法を利用すると衝突の初期において精度良く衝突形態を判断できることを確認した。よって、本実施例の衝突形態判定部30は前記平均減速度算出部32を用いて左及び右平均車両減速度LV(t)、RV(t)を求め、これを用いる。
【0052】
ここで、再び図5の(A)及び(B)を用いて本実施例で平均減速度算出部32が行う移動平均処理について簡単に説明する。前述したようにフロントLG及びRGはCPU42により常時監視されている。この2つの減速度フロントLG及びRGに対して平均減速度算出部32は以下のようなサンプリング処理を行う。
【0053】
先ず平均減速度算出部32は、両減速度毎に所定サンプリング回数、例えば連続して検出された20回分の加算を行ってサンプリング和を得る。これをそのサンプリング回数(20)で除して平均減速度を得る。この平均減速度を最新なデータとなるように更新する。
【0054】
図5(A)のフロントLGを例に取り説明すると、例えば現時刻Teでサンプリングした減速度を最新なものとして含み、直前の20回においてサンプリングされた減速度を加算して20回分のサンプリング和を得る。このサンプリング和を20で除して、平均減速度LV(t)を得る。現時刻Te(最新の検出時刻)は刻々と変化するので、常に直前20回のサンプリングにおける左平均減速度LV(t)を得るように平均減速度の算出を継続して更新する。
【0055】
本実施例では、反体側のフロントRGに対する平均減速度RV(t)についても同様に、平均車両減速度を求めている。なお、このように平均車両減速度を求めるためにサンプリングの時間区間は移動平均幅Wと称される。
【0056】
上記平均車両減速度を求める他の方法として積分演算の処理を用いてもよい。ここでも図5のフロントLGを例に取り説明する。例えば現時刻Teから所定前の時刻(T−ΔT)までの所定時間区間TERMを積分区間としてフロントLGを時間により積分して減速度積分値を得る。この減速度積分値を(T−ΔT)で除すことで上記平均減速度LV(t)を得ることができる。この積分処理による所定時間区間TERMは上記移動平均幅Wに相当する。
【0057】
そして、対称・非対称判定部36が上記のように求めた左平均車両減速度LV(t)及び右平均車両減速度RV(t)に基づいて衝突の対称性・非対称性を判定する。対称・非対称判定部36は、先ず右平均車両減速度RV(t)と左平均車両減速度LV(t)との大小比較を行う。
【0058】
つぎに、大きい方の平均車両減速度で小さい方の平均車両減速度を除して、0〜1の左右比を算出する。この左右比は正突等の対称性がある衝突形態では1に近い値となり、オフセット衝突のように非対称性衝突では0に近い値となる。
【0059】
対称・非対称判定部36は、所定の閾値を左右比0〜1の間に有し、算出された左右比がこの閾値より1に近いと対称性衝突、算出された左右比が閾値より0に近いと非対称性衝突との判定を行う。ここでの閾値は車両毎に衝突試験、シミュレーション等を行った結果に基づいて予め衝突形態判別装置20内のROM44等に記憶されている。
【0060】
前述したように、フロントR及びフロントLは車両の衝突初期の状態を検出するが、これに移動平均法による処理を施して得た平均車両減速度LV(t)、RV(t)は平滑化されて客観性が高いデータとなっている。よって、対称・非対称判定部36は、車両の衝突形態を精度よく判定することができる。
【0061】
以上のように、衝突形態判別装置20は、第1ピーク検出部34を用いて車両10が衝突初期の状態となったことを確認し、平均減速度算出部32から供給される右平均車両減速度RV(t)と左平均車両減速度LV(t)とで車両衝突の対称性を判定する対称・非対称判定部36を備えるので、車両衝突の初期において確実に車両の衝突形態を判定することができる。上記のような衝突形態判別装置20を、エアバック装置等の乗員保護装置に適用すれば乗員の保護に有効である。
【0062】
そこで、上記衝突形態判別装置20をエアバック装置に適用した場合の例を本発明の第2実施例として説明する。図8はエアバック装置の概要構成を示す図である。なお、図8において前記衝突形態判別装置20で説明した部位には同一符号を用い、マイクロコンピュータ40がエアバック装置全体の制御まで実行するように設定されている。
【0063】
図8に示すエアバック装置50では、エアバック52とこのエアバック52にガスを供給する2個のインフレータ54、54と、図示しないガス発生剤に点火する点火装置56、56と、前記マイクロコンピュータ40からの起動信号に基づいて点火装置56に通電して点火する駆動回路58、58とを備える。2個のインフレータ54を備えるのは、これらを同時に作動させてエアバック52を高速で展開させる高出力の場合と、これらを時間差をもって展開する低出力の場合があるためである。高出力とするか、低出力とするかは車両の衝突形態に応じて決定される。
【0064】
本エアバック装置50は乗員保護の緊急度を判定するシビアリティ判定手段51を備えている。このシビアリティ判定手段51は、一般に車両が非対称衝突したときに乗員保護の緊急度が高いので、衝突側のフロントセンサの減速度(RG又はLG)を参照して乗員保護の緊急度を判定する。このシビアリティ判定手段51により、車両が非対称衝突状態であり乗員保護の緊急度が高いとされた場合には、高出力でエアバック52を高速で展開させることになる。
【0065】
図8において、前記衝突形態判別装置20はエアバック装置50を適切に駆動させるための前処理装置として採用されている。本実施例では、車両衝突形態の検出結果及び衝突側の平均車両減速度(RV(t)又はLV(t))が衝突形態判別装置20からエアバック装置50側のシビアリティ判定手段51に供給される。
【0066】
なお、ここでの衝突側とはより大きな減速度が検出された側であり、衝突形態判別装置20において左右比を求める前に行った大小比較で大きいと判定された側である。図5は衝突側が左(L)側が衝突側である。
【0067】
シビアリティ判定手段51は、図9に例示するシビアリティ判定マップを用いて乗員保護の緊急度を判定する。図9に示すシビアリティ判定マップは、衝突の対称・非対称性を示す左右比を縦軸、衝突側の平均車両減速度(RV(t)又はLV(t))を横軸に形成されている。図9は左側衝突に用いるシビアリティ判定マップを示している。
【0068】
このシビアリティ判定マップには、2つの閾値が設定されている。第1閾値THFは左右比に対して設定される閾値である。この第1閾値THFは前述した衝突形態判別装置20で用いた所定の閾値に相当する。第2閾値THSは衝突側の平均車両減速度に対して設定される閾値である。この第2閾値THSは非対称衝突であると判定されたときに乗員保護の緊急度に基づいて設定されている。第2閾値THSは車両毎にオフセットの衝突試験、シミュレーション等を行い、乗員保護の緊急度が高く、エアバックの高出力展開が必要である平均車両減速度(許容限界平均車両減速度)として設定される。そして、シビアリティ判定マップには第1閾値及び第2閾値で囲まれるシビアリティ判定領域SEVが形成される。
【0069】
シビアリティ判定手段51は、車両が衝突したときに上記シビアリティ判定マップを用いて、左右比と衝突側平均車両減速度(RV(t)又はLV(t))とで特定される点が、前記シビアリティ判定領域SEVに属したときに乗員保護の緊急度が高いとして、エアバック52が高出力で展開されるように駆動回路58、58を設定する。
【0070】
以下さらに、前記エアバック装置50についてその動作を説明する。図10はマイクロコンピュータ40がエアバック装置のシビアリティ判定まで実行するルーチンについて示すフローチャートである。このルーチンは、例えば車両のIGスイッチがオンされたとき等から実行される。
【0071】
上記衝突判別処理ルーチンが実行されると、マイクロコンピュータ40のCPU42は、フロアセンサ22からフロアGを読込む(ステップ100)。このときに左及び右フロントセンサ24、26からのフロントLG、RGを読込むようにしてもよい。第1ピーク検出手段34はフロアG波形にウェーブレット変換処理を施し、第1ピークの検出準備に入る(ステップ102)。ウェーブレット位相が最初にπを越えたときに、平均減速度算出部32がフロントLG、RGから左及び右平均車両減速度LV(t)、RV(t)の算出を開始する(ステップ106)。上記ステップ100で左及び右フロントセンサ24、26からのフロントLG、RGを読込んでいないときには、このステップ106で読込みを開始する様にしてもよい。
【0072】
続くステップ108とステップ110は、フロアG波形の第1ピークを検出するステップである。本ルーチンでは、ウェーブレット位相が最初にπを下回ったこと(ステップ108)及びその後にπを越えたこと(ステップ110)まで検出して、第1ピークを確認する。前述したようにこのステップ110は第1ピークをより確実に検出するために設けたものであり、省略してもよい。
【0073】
上記のように第1ピークが確認されると、対称・非対称判定部36は左平均車両減速度LV(t)及び右平均車両減速度RV(t)の大小比較を行った後(ステップ112)、左右比を算出してシビアリティ判定部51へ供給する(ステップ114)。
【0074】
さらに、シビアリティ判定部51は上記左右比及び大きい方の平均車両減速度RV(t)又はLV(t)とで特定された特定点が、シビアリティ判定マップ内のシビアリティ判定領域SEVに属したか、否かを判別する。特定点がシビアリティ判定領域SEVに属しているときには乗員保護の緊急度が高いのでエアバックが高出力展開されるように設定して(ステップ118)、本ルーチンによる処理を終了する。
【0075】
なお、特定点がシビアリティ判定領域SEVに属していないときには、乗員保護の緊急度が低いと予想される。よって、図10に示すように低出力展開を設定して(ステップ120)、本ルーチンによる処理を終了する。但し、本ルーチンによる処理が終了した後においても、更に車両の状態が変化する場合も予想される。よって、このような場合を想定して本ルーチンで特定点がシビアリティ判定領域SEVに属していないと判定された場合には、ステップ120でさらに他の衝突形態を対象とした判定を行い、適切なシビアリティ判定が実行されるようにすることが望ましい。
【0076】
以上説明したエアバック装置50のシビアリティ判定手段までの構成は、乗員保護装置を的確に起動させるための一起動装置と捉えることができる。すなわち、他の起動装置と共に多段に設けるという形態で本発明を利用することでより確実な乗員保護が実現できる。
【0077】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0078】
なお、特許請求範囲の第1減速度検出手段はフロアセンサ22に、第2減速度検出手段はフロントセンサ24、26に、第1ピーク検出手段は第1ピーク検出部34に、平均減速度算出手段は平均減速度算出部32に、対称・非対称判定手段は対称・非対称判定部36に、シビアリティ判定手段はシビアリティ判定部51に、それぞれ対応している。
【0079】
【発明の効果】
以上詳述したところから明らかなように、請求項1記載の発明によれば、車両衝突の初期に、対称衝突したか、又は非対称衝突したかを確実に判定することができる。
【0080】
また、請求項2記載の発明によれば、ウェーブレット変換を用いるので、車両減速度の第1ピークを確実に検出することができる。
【0081】
また、請求項3記載の発明によれば、車両減速度の第1ピークをより確実に検出できる。
【0082】
また、請求項4記載の発明によれば、刻々と変化する前記左及び右減速度を用いて常に最新の前記左及び右平均車両減速度が算出されるので、確実な対称・非対称判定が可能となる。
【0083】
また、請求項5記載の発明によれば、対称・非対称判定手段により衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかを確実に判定することができる衝突形態判定装置となる。
【0084】
また、請求項6に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段が、車両が対称又は非対称衝突したとの前記衝突形態判定装置側の判定結果を用いて、乗員保護の緊急度を判定するので乗員保護が確実になされる乗員保護装置となる。
【0085】
なお、請求項7に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段が左右比と衝突側の平均車両減速度を用いてシビアリティ判定するので、適切な乗員保護が可能な乗員保護装置となる。
【0086】
また、請求項8に記載の発明によれば、シビアリティ判定手段は、シビアリティ判定マップ上で特定点がシビアリティ判定領域に属したか、否かという簡易な判断により、早期に乗員保護の緊急度を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車両の衝突形態を示し、(A)は正突、(B)はポール衝突、(C)はオフセット衝突について示す図である。
【図2】第1実施例の衝突形態判定装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
【図3】図2に示す衝突形態判定装置のハード構成の概略を示す構成図である。
【図4】図2に示す衝突形態判定装置が車両に搭載されている様子を例示した図である。
【図5】(A)は左フロントセンサにより検出されるフロントLG、(B)は右フロントセンサにより検出されるフロントRG、(C)はフロアセンサにより検出されるフロアGの各減速度波形例を示し、(D)は(C)にウェーブレット変換の処理を施して求めたウェーブレット位相波形である。
【図6】Gabor関数の時間軸上の表現を例示する説明図である。
【図7】ウェーブレット変換X(a,b)の実数部Rと虚数部Iと大きさPと位相θとの関係を示す説明図である。
【図8】第2実施例のエアバック装置の概要構成を示す図である。
【図9】シビアリティ判定マップ例を示す図である。
【図10】第2実施例のエアバック装置により実行されるシビアリティ判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 車両
20 衝突形態判定装置
22 フロアセンサ
24 左フロントセンサ
26 右フロントセンサ
30 衝突形態判定部
32 平均減速度算出部
34 第1ピーク検出部
36 対称・非対称判定部
50 エアバック装置
51 シビアリティ判定部
Claims (8)
- 車両内の所定位置に配設され、当該車両の前後方向における車両減速度を所定の周期で検出する第1減速度検出手段と、
前記車両が衝突した際の前記車両減速度の第1ピークを検出する第1ピーク検出手段と、
前記第1減速度検出手段より前側で車両の左側及び右側の各々に配設され、前記車両前後方向における左及び右減速度を所定の周期で検出する第2減速度検出手段と、
前記左及び右減速度各々の左及び右平均車両減速度を算出する平均減速度算出手段と、
前記第1ピーク検出手段により前記車両減速度の第1ピークが検出されたときの前記左及び右平均車両減速度に基づいて、前記車両の衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかの判定を行う対称・非対称判定手段とを含む、
ことを特徴とする衝突形態判定装置。 - 請求項1記載の衝突形態判定装置において、
前記第1ピーク検出手段は、前記第1減速度検出手段により検出された車両減速度の波形に、ウェーブレット変換処理を施して得たウェーブレット位相が、初めてπを越えた後、πを下回る値を示したことに基づいて前記波形の第1ピークを検出する、ことを特徴とする衝突形態判定装置。 - 請求項2記載の衝突形態判定装置において、
前記第1ピーク検出手段は、前記ウェーブレット位相が、さらにπを越えたことにより前記波形の第1ボトムまで検出したことに基づいて前記波形の第1ピークを検出する、ことを特徴とする衝突形態判定装置。 - 請求項1から3のいずれかに記載の衝突形態判定装置において、
平均減速度算出手段は、移動平均法を用いて最新の前記左及び右平均車両減速度を各々算出する、ことを特徴とする衝突形態判定装置。 - 請求項4記載の衝突形態判定装置において、
前記対称・非対称判定手段は、前記左平均車両減速度と前記右平均車両減速度との左右比に基づいて前記車両の衝突形態が対称であるか、又は非対称であるかの前記判定を実行することを特徴とする衝突形態判定装置。 - 請求項1から5のいずれかに記載の衝突形態判定装置を含む乗員保護装置であって、
前記対称・非対称判定手段による対称又は非対称の判定結果を用いて、乗員保護の緊急度を判定するシビアリティ判定手段を備える、ことを特徴とする乗員保護装置。 - 請求項6記載の乗員保護装置において、
前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と、前記車両の衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とに基づいて、前記乗員保護の緊急度を判定することを特徴とする乗員保護装置。 - 請求項7記載の乗員保護装置において、
前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と前記車両の衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とで形成したシビアリティ判定マップを備え、
前記シビアリティ判定マップには、前記左右比に対して衝突の対称性を判断するために定めた第1閾値と、非対称衝突した車両について乗員保護の観点から許容限界平均車両減速度として定めた第2閾値とが設定され、
前記シビアリティ判定手段は、前記左右比と、前記衝突側の左平均車両減速度又は右平均車両減速度とで特定される特定点が、前記第1閾値及び第2閾値で囲まれるシビアリティ判定領域に属したか、否かにより前記乗員保護の緊急度を判定することを特徴とする乗員保護装置。
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