JP2004314768A - 衝突形態判別装置 - Google Patents

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裕次郎 宮田
Noribumi Iyoda
紀文 伊豫田
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Abstract

【課題】フロアセンサの出力信号のみを用いる簡易な構成で、衝突の初期段階を的確に検出すると共に、衝突形態を高精度に判別できる衝突形態判別装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の衝突形態判別装置は、車両本体の略中央部に配置され、車両前後方向の車両減速度を検出するフロアセンサ22と、前記車両減速度の波形の立ち上がり時点を検出する立ち上がり手段32と、前記車両減速度の波形が、前記立ち上がり時点から第1ピークに達するまでの時間を第1ピーク時間tpとして検出するピーク時間検出手段32と、前記車両減速度を前記立ち上がり時点から時間積分した減速度積分値が、予め設定した要求積分値Vmと等しくなった時間を要求時間tmとして検出する要求値時間検出手段34と、前記第1ピーク時間tpと前記要求時間tmとの比に基づいて、前記車両の衝突形態がハード衝突かソフト衝突かを判定する形態判定手段36とを含むことを特徴とする。
【選択図】 図6

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の衝突形態を判別する衝突形態判別装置に関し、より詳細には、衝突形態としてハード衝突とソフト衝突とを判別するのに好適な衝突形態判別装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、車両中央部に配設された加速度センサ(フロアセンサ)と、車両前方の配設された加速度センサ(サテライトセンサ)とを備え、サテライトセンサの複数の検出値に基づいて衝突形態を判定し、判定した衝突形態に応じて乗員保護装置の起動感度やフロアセンサの測定感度を変更する乗員保護装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−30873号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来技術では、エアバック等の起動判定用のフロアセンサに加えて、衝突形態の判別にサテライトセンサを用いているため、構成が比較的複雑でありコストの観点からも課題がある。
【0005】
また、サテライトセンサは、衝突の初期段階を可能な限り早く検出すべくより車両前方に搭載することが望ましいが、サテライトセンサをより車両前方に搭載すると低速衝突時にも衝撃を受けやすくなるため、衝突形態の判別を的確に判断できない場合も考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、フロアセンサのみを用いた簡易な構成で、衝突の初期段階を的確に検出すると共に、衝突形態を高精度に判別できる衝突形態判別装置の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、請求項1に記載する如く、車両本体の略中央部に配置され、車両前後方向の車両減速度を検出する減速度検出手段と、
前記車両減速度の波形の立ち上がり時点を検出する立ち上がり手段と、
前記車両減速度の波形が、前記立ち上がり時点から第1ピークに達するまでの時間を第1ピーク時間tpとして検出するピーク時間検出手段と、
前記車両減速度を前記立ち上がり時点から時間積分した減速度積分値が、予め設定した要求積分値Vmと等しくなった時間を要求時間tmとして検出する要求値時間検出手段と、
前記第1ピーク時間tpと前記要求時間tmとの比に基づいて、前記車両の衝突形態がハード衝突かソフト衝突かを判定する形態判定手段とを含むことを特徴とする、衝突形態判別装置により達成される。
【0008】
本発明によれば、第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比を用いることにより、種々存在する衝突形態から車両が衝突した際の形態がハード衝突かソフト衝突かを一度の判定で判別することができる。また、車両本体の中央部に配置された減速度検出手段による1つの車両減速度に基づいて車両の衝突形態判別をすることが可能であり、構成を簡素化できる。
【0009】
また、請求項2に記載する如く、前記立ち上がり手段は、前記車両減速度の波形にウェーブレット変換処理を施して得たウェーブレット位相角θがπを超え、且つ、前記車両減速度が予め設定した閾値GTHを超えた時点を、立ち上がり時点として検出することが好ましい。本発明によれば、車両減速度の波形に発生しうる急制動時や悪路走行時のノイズによる影響を受けることなく、高精度に車両減速度の立ち上がりを検出することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照して説明する。
【0011】
先ず、本発明による衝突形態判別装置20の説明に先立って、衝突形態判別装置20により判別される衝突形態について図1を参照して説明する。車両衝突の形態としては、図1に示すように、車両がその前面で衝突対象物と衝突する正突(A)、車両が衝突対象物に対して斜め方向に衝突する斜突(B)、車両がその前面中央で電信柱等3と衝突するポール衝突(C)、さらには車両がその正面の片側で衝突対象物4と衝突するオフセット衝突(D)がある。また、オフセット衝突(D)には、硬い衝突対象物と衝突するORB(Offset Rigid Barrier)と、変形する衝突対象物と衝突するODB(Offset Deformable Barrier)とがある。
【0012】
ここで、上述の各種衝突形態は、正突及びORB型衝突を含むハード衝突と、斜突、ポール衝突及びODB型衝突を含むソフト衝突とに分類される。ハード衝突の場合とソフト衝突の場合とでは、乗員を保護すべきタイミング等が異なる。そこで、本発明による衝突形態判別装置20は、以下に詳説する如く、車両衝突時にハード衝突とソフト衝突とを判別することを可能とすることで、乗員の保護を効果的に図ることを可能とする。
【0013】
図2は、本発明による衝突形態判別装置20の一実施例を示す機能ブロック図を示す。本実施例の衝突形態判別装置20は、図2に示すように、フロアセンサ22を備えている。フロアセンサ22は、車両の中央部の適切な箇所(例えば、車両の中央部コンソール近傍のフロアトンネル内)に配設され、車両の中央部(即ち、配設箇所)における車両の前後方向の加速度(以下、「フロアG」という)を検出する。
【0014】
衝突形態判別装置20は、マイクロコンピュータを中心に構成されている。衝突形態判別装置20には、フロアセンサ22の出力信号が入力される。尚、当然に、衝突形態判別装置20は、フロアセンサ22を内蔵する電子制御装置(ECU)として具現化されてもよい。
【0015】
衝突形態判別装置20は、ピーク時間検出部32を備える。ピーク時間検出部32は、後述する如く、フロアGの波形(フロアセンサ22の出力信号)にウェーブレット変換を施して、フロアGの立ち上がりの発生時点(即ち、衝突の開始時点)を検出すると共に、フロアGの第1ピークの発生時点を検出する。また、ピーク時間検出部32は、上記各検出結果に基づいて、フロアGの立ち上がり時刻から、フロアGの第1ピークの発生時刻までの時間を第1ピーク時間tpとして算出する。尚、ウェーブレット変換の詳細については、本明細書内の発明の詳細な説明の欄の最終段に「付記」として説明する。
【0016】
衝突形態判別装置20は、また、要求値時間検出部34を備える。要求値時間検出部34は、後述する如く、フロアGを所定の積分区間で時間積分して得た減速度積分値Vfが予め設定した要求積分値Vmと等しくなった時間を要求時間tmとして検出する。
【0017】
衝突形態判別装置20は、また、形態判定部36を備える。形態判定部36は、後述する如く、第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比に基づいて、ハード衝突とソフト衝突とを判別する。
【0018】
図3は、フロアセンサ22により検出されるフロアG波形、ウェーブレット位相角θの波形及び減速度積分値Vfの波形の一例を示した図である。図3において、フロアGの波形は、実線(符合Gfにより指示)により、このフロアGの波形にウェーブレット変換を施して得たウェーブレット位相角θの波形は、破線により、減速度積分値Vfの波形は、2点鎖線により示されている。
【0019】
本実施例のピーク時間検出部32は、フロアGが所定の閾値GTH(例えば、15m/s)を超え、且つ、ウェーブレット位相角θがπを超えた時点を、フロアG波形の立ち上がり時点t0として検出する。また、フロアG波形の立ち上がり時点t0を検出すると、ピーク時間検出部32は、その後、ウェーブレット位相角θが2πから0に変化する時刻(即ち、ウェーブレット位相角θがπを超えた以降の、πを下回った時点)を、第1ピークの時刻tp1として検出する。そして、ピーク時間検出部32は、第1ピーク時間tpを、tp=tp1−t0により算出する。このようにして算出された第1ピーク時間tpは、形態判定部36へ供給される。
【0020】
本実施例では、衝突形態の判別の開始時点となるフロアG波形の立ち上がりが、所定の閾値GTHによる判定と共に、ウェーブレット位相角θがπを超えたか否かの判定によって検出されるので、急制動や悪路のようなノイズの影響を受けることなく、正確な立ち上がり時刻t0を得ることができる。
【0021】
本実施例の要求値時間検出部34は、立ち上がり時点t0からフロアセンサ22の出力信号を時間積分し始め、減速度積分値Vf(図3の2点鎖線参照)を算出する。要求値時間検出部34は、立ち上がり時点t0から、減速度積分値Vfが所定の要求積分値Vmと等しくなるまでの時間を要求時間tmとして検出する。即ち、要求値時間検出部34は、ピーク時間検出部32がフロアG波形の立ち上がりを検出した時点t0で減速度積分値Vfの算出を開始し、減速度積分値Vfが所定の要求積分値Vmに達するのに要する時間tmを算出する。このようにして算出された要求時間tmは、形態判定部36へ供給される。
【0022】
ここで、要求積分値Vmとは、乗員保護装置の起動時点(即ち、フロアGが所定の起動判定用の閾値を超える時点)よりも前に減速度積分値Vfが到達可能な値である一方、後述する図4に示す傾向を示す要求時間tmを得るのに充分な値である。この要求積分値Vmは、車種毎に衝突試験、シミュレーションを行い設定することが好ましく、例えば0.7〜0.8m/sの範囲内で設定される。尚、一般的な傾向として、正突の場合が最も早くこの要求積分値Vmに達し、ポール衝突が最も遅く、ORB、ODB、斜突の場合はその間の時間となる。従って、高速正突した場合の要求時間における減速度積分値Vfが、要求積分値Vmとして予め設定されてよい。
【0023】
本実施例の形態判定部36は、ピーク時間検出部32が検出した第1ピーク時間tpと、要求値時間検出部34が検出した要求時間tmとの比kx(=tp/tm)を算出する。形態判定部36は、このようにして算出した比kxを、車両(本実施例の衝突形態判別装置20が搭載された車両)及び衝突対象物(他車両や電柱等の障害物)の硬さを表わす指標として、ハード衝突とソフト衝突とを判別する。
【0024】
図4は、実際の車両衝突試験データに基づく第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比kxのプロット図である。本図では、横軸に要求時間tm、縦軸に第1ピーク時間tpをとっている。また、本図では、衝突形態の相違に応じて、各プロット点に符号が付されている(即ち、正突:G、ORB:J、ODB:C、ポール衝突:B、斜突:E)。また、本実施例では、要求積分値Vm=0.75m/sとしている。
【0025】
図4に示すように、正突の場合には、減速度積分値Vfが比較的早い段階で要求積分値Vmに達し(即ち、要求時間tmが比較的小さい)、また、比較的遅い段階で要求積分値Vmに達する場合には、第1ピーク時間tpが比較的大きい傾向にある。一方、ODB、ポール衝突及び斜突のようなソフト衝突の場合には、比較的遅い段階で要求積分値Vmに達し、且つ、第1ピーク時間tpが比較的小さい傾向にある。また、ハード衝突であるORBの場合には、同じくハード衝突である正突の場合に比して、ソフト衝突の場合と同様、比較的遅い段階で要求積分値Vmに達するが、ソフト衝突の場合とは異なり、第1ピーク時間tpが比較的大きい傾向にある。
【0026】
この試験結果から、ハード衝突に係るプロット点とソフト衝突に係るプロット点を、傾きが一定の直線(第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比kxが一定の直線)により仕切ることが可能であることが確認できる。従って、図4に示すように、適切な直線(ハード衝突に係るプロット点とソフト衝突に係るプロット点を適切に仕切る直線)を閾値Thr(本試験データでは、比kx=0.4)として設定することにより、ハード衝突とソフト衝突とを一度の判定により判別可能であることが理解できる。即ち、第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比kxのプロット点は、図5に示すように、衝突の形態の種類毎に異なるある一定の分布傾向を示し、特にハード衝突に係るプロット点とソフト衝突に係るプロット点とは、適切な傾きの直線を境界として区別可能であることが理解できる。
【0027】
そこで、本実施例の衝突形態判別装置20では、上述の如く、フロアセンサ22の出力信号に基づいて、第1ピーク時間tp及び要求時間tmを算出し、これらの比kxを所定の閾値Thrと比較することで、ハード衝突とソフト衝突とを判別することを可能とする。尚、所定の閾値Thrは、図4に示すように、衝突試験データに基づいて車種毎に設定されてよい。
【0028】
次に、本実施例の衝突形態判別装置20により実行される処理の流れを図6のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
ステップ100では、先ず、フロアセンサ22の出力信号に基づいて、ウェーブレット位相角θを算出する処理が実行される。ウェーブレット位相角θは、フロアセンサ22の出力信号にウェーブレット変換処理を施すことにより得られる。
【0030】
ステップ110では、フロアセンサ22の出力信号に基づいて、フロアGが所定の閾値GTH(例えば、15m/s)を超えたか否か、及び、ウェーブレット位相角θがπを超えたか否かを判断する処理が実行される。本ステップ110での判断処理は、フロアセンサ22のサンプリング周期毎(例えば、0.5ms)に実行されてよい。従って、本ステップ110により、フロアG波形の初回の立ち上がりが検出される。本ステップ110によりフロアG波形の立ち上がりが検出されると、当該検出時刻tをフロアG波形の立ち上がり時刻t0として、以後のステップ120及びステップ130の処理が並列的(同時)に実行される。
【0031】
ステップ120では、フロアG波形の初回のピーク(即ち、第1ピーク)を検出する処理が実行される。具体的には、本ステップ120では、現時刻tから0.5ms前(即ち、一回前の周期)に算出されたウェーブレット位相角θ[t−0.5ms]がπよりも大きく、且つ、現時刻tのウェーブレット位相角θ[t]がπよりも小さいか否かが継続的に判断される。本ステップ120では、これらの条件が満たされた場合、当該時刻tが第1ピークの時刻tp1とされる。本ステップにより第1ピークの発生時刻tp1が検出されると、第1ピーク時間tpが、tp=t−t0により算出される。
【0032】
ステップ130は、減速度積分値Vfが要求積分値Vmを超える時点を検出する処理が実行される。具体的には、本ステップ130では、上記ステップ110で検出された立ち上がり時刻t0から現時刻tまでを積分区間として、フロアセンサ22の出力信号を時間積分することで、減速度積分値Vfが算出される。また、本ステップ130では、減速度積分値Vfが要求積分値Vmより大きくなるまで、算出した減速度積分値Vfと要求積分値Vmとが比較される。尚、当然に、本ステップ130の比較処理は、立ち上がり時刻t0以降、フロアセンサ22のサンプリング周期毎(例えば、0.5ms)に実行されてよい。本ステップ130により要求積分値Vmを超える減速度積分値Vfが検出されると、要求時間tmが、当該検出時刻tから立ち上がり時刻t0を引くことにより算出される(即ち、tm=t−t0)。
【0033】
上記ステップ120及びステップ130の双方の処理が終了すると、次に、ステップ140において、上記ステップ120及びステップ130で得られた第1ピーク時間tp及び要求時間tmに基づいて、これらの比kx=tp/tmが算出される。
【0034】
続くステップ150では、上記ステップ140で算出した比kx=tp/tmが所定の閾値Thrより大きいか否かを判断する処理が実行される。比kx=tp/tmが所定の閾値Thr以下の場合、衝突形態がソフト衝突であると判断して、ステップ160に進む。一方、比kx=tp/tmが所定の閾値Thrにより大きい場合、衝突形態がハード衝突であると判断して、ステップ170に進む。
【0035】
ステップ160では、衝突形態がソフト衝突である場合の乗員保護装置の起動処理が実行される。具体的には、フロアGがソフト衝突用のために予め設定された閾値を超えた際に、所定の乗員保護装置を起動させる処理が実行される。例えば、フロアGがソフト衝突用の閾値を超えた時点で、エアバックを展開させるインフレータが点火される。従って、例えば、ソフト衝突用の閾値を比較的低い値に設定した場合、ソフト衝突であると判断された時点(上記ステップ150)で乗員保護装置の起動判定用の閾値がより低い閾値へと変更されるので、中高速域でのソフト衝突時に適切なタイミングで確実に乗員保護装置を起動させることができる。
【0036】
一方、ステップ170では、衝突形態がハード衝突である場合の乗員保護装置の起動処理が実行される。具体的には、フロアGがハード衝突用のために予め設定された閾値を超えた際に、所定の乗員保護装置を起動させる処理が実行される。例えば、フロアGがハード衝突用の閾値を超えた時点で、エアバックを展開させるインフレータが点火される。従って、例えば、ハード衝突用の閾値を比較的高い値に設定した場合、ハード衝突であると判断された時点(上記ステップ150)で乗員保護装置の起動判定用の閾値がより高い閾値へと変更されるので、低速域でのハード衝突時に乗員保護装置が起動されることがない。
【0037】
尚、本実施例では、上述の如く、フロアGの立ち上がり時点から、第1ピーク時間tp及び要求時間tmの何れか遅いほうの時間(通常的には、要求時間tm)が経過した時点(上記ステップ120及び上記ステップ130の終了時点)で、衝突形態の判定が可能とされている。しかしながら、要求積分値Vmは、上述の如く、車両が衝突した際における乗員保護装置起動の判断限界である要求時間tmに対応して予め設定されている。従って、本実施例では、フロアGが乗員保護装置の起動判定用の閾値を超えるまでには、衝突形態の判定が確実に終了されている。
【0038】
以上説明したように本実施例によれば、上述の如く第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比kxを指標として衝突形態を判断することにより、ハード衝突とソフト衝突とを高精度に判別することができる。これにより、ハード衝突とソフト衝突とよって異なる乗員保護の要求に的確に応じることができる。即ち、本実施例によれば、ハード衝突とソフト衝突とよって、車両衝突の際における乗員の移動方向や移動量、移動のタイミング等が異なることを考慮して、エアバックの起動タイミングやエアバックの展開出力等を調整することが可能となる。例えば、本実施例では、上述の如く、判定した衝突形態に応じて乗員保護装置の起動判定用の閾値を可変とすることで(即ち、ハード衝突用の閾値又はソフト衝突用の閾値間の切り換えを実行することで)、ハード衝突とソフト衝突の相違に応じてエアバックの起動タイミングを調整することが可能とされている。また、ハード衝突とソフト衝突の相違に応じて、例えばエアバックを展開させるインフレータの数を変更することで、エアバックの展開出力を調整することも可能である。
【0039】
また、本実施例では、上述の如く、フロアセンサ22の出力信号のみを用いて、ハード衝突とソフト衝突とを的確に判断することが可能とされている。従って、本実施例によれば、車両左右のサイドメンバの前方に別途新たな加速度センサを設けることなく、簡易な構成で高精度に衝突形態を判断することができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0041】
例えば、上述の実施例では、第1ピーク時間tpの要求時間tmに対する比kx(=tp/tm)を用いるものであったが、当然に、逆に第1ピーク時間tpに対する要求時間tmの比tm/tp(車両及び衝突対象の軟らかさ(潰れ易さ)を示す指標)を用いて形態判別を行うことも可能である。
【0042】
また、上述の実施例では、傾き(比kx)が一定の直線により、ハード衝突に係るプロット点とソフト衝突に係るプロット点とを仕切ることが可能であるため、衝突形態判別用の閾値Thrを一定の値に設定しているが、衝突形態判別用の閾値Thrを可変値とすること(即ち、曲線や不連続の直線や折れ線等によりハード衝突に係るプロット点とソフト衝突に係るプロット点とを仕切ること)も可能である。この場合、例えばピーク時間検出部32により検出された第1ピーク時間tpの値に応じて、要求値時間検出部34が検出する要求時間tmに対する衝突形態判別用の閾値が設定されることになり、当該第1ピーク時間tpに応じた閾値はマップ等に定義されていてよい。
【0043】
[付記]
最後に、本実施例のピーク時間検出部32においてフロアセンサ22の出力信号に対して施されるウェーブレット変換処理について、図7及び図8を参照して説明する。
【0044】
ウェーブレット変換は、フーリエ変換が定常な正弦波の重ね合わせとして時系列信号を表すのに対し、時間的に局在した波(ウェーブレット)の重ね合わせとして表現する方法であり、非定常信号のスペクトル解析、音声認識・合成、画像の情報圧縮、ノイズ除去、異常の検出等の様々な分野で近年広く応用されているデータ変換方法である。
【0045】
本実施例のピーク時間検出部32では、入力された信号に対して積分の基底として所定の複素関数を用いて積和演算し、ウェーブレット変換値の実数部Rと虚数部Iとに基づいてその大きさの位相θを演算する。
【0046】
時系列信号X(t)のウェーブレット変換係数(a,b)は、時間的にも周波数的にも局在した基本ウェーブレット関数ψ(t)を用意し、これを次式(1)に示すようにa倍スケール変換した後に原点bだけシフト変換(平行移動)して得られる相似関数の組ψa,b(t)を基底関数とする式(2)に例示する展開をする。なお、スケール変換パラメータaは、変換周波数fに対して逆関数に比例する関係を有している。
【0047】
ψa,b(t) = a ψ((t−b)/a)……(1)
X(a,b) = ∫X(t)ψa,b(t) ……(2)
本実施例では、基本ウェーブレット関数ψ(t)として、実数部Rに対して虚数Iがπ/2だけ位相がずれた複素関数として次式(3)に示すGabor関数を用いている。ここで、式(3)中のωは周波数fによって定まる定数(ω=2πf)であり、αも定数である。
Figure 2004314768
式(3)において、α=πとしたときのGabor関数の時間軸上の表現を図7に示す。図示するように、Gabor関数は、時間軸上の−T〜Tの範囲に局在しており、実数部と虚数部の波形の位相がπ/2だけずれている。時系列信号X(t)に対するウェーブレット変換は、具体的には、スケール変換パラメータa(式(3)中ではω)を適当に選択した関数と時系列信号X(t)との積和演算となる。演算の区間としては、波形が局在している範囲(図7中−T〜Tの範囲)である。この範囲はウインドウと称される。
【0048】
時系列信号X(t)のGabor関数によるウェーブレット変換X(a,b)は、Gabor関数が複素関数であることから複素数になる。図8にウェーブレット変換X(a,b)の実数部Rと虚数部Iと大きさPと位相θとの関係を示す。大きさPは次式(4)により算出され、位相θは式(5)により求められる。ここで、大きさPは、ウェーブレット変換X(a,b)の便宜的な大きさを意味し、無次元量である。また、位相θは実数部Rと虚数部Iの大きさと符号とにより0〜2πの範囲となる。
【0049】
P=√(R+I) ……(4)
θ=tan−1(I/R)…(5)
時系列信号X(t)の周波数に近い変換周波数fの位相θ(t)では、時系列信号X(t)の振幅が極大(ピーク)となる時刻に2πからゼロに変化し、極小(ボトム)となる時刻にπとなる。
【0050】
本実施例のピーク時間検出部32は、最初に現われる第1ピーク(第1極大値)の時刻tpを検出する。なお、さらにその後に現われるボトム(極小値)の時刻tbが検出されるまで待てば、第1ピークが出現したことをより確実に確認できる。
【0051】
すなわち、位相θが最初にπを超え(立ち上がり時点)、続いてπを下回ったことを確認することで、位相θが2πからゼロに転じたとして、第1ピークとなった時刻tpを間接的に知る。そして、この後に続く位相θがπとなる時刻にボトムが現われるのである。
【0052】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したようなものであるから、以下に記載されるような効果を奏する。即ち、本発明によれば、車両中央部に配設される単一の加速度センサの出力信号のみを用いる簡易な構成で、衝突の初期段階を的確に検出すると共に、衝突形態を高精度に判別できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】衝突対象との車両の衝突形態の種別を示す図である。
【図2】本発明による衝突形態判別装置20の一実施例を示す機能ブロック図を示す。
【図3】フロアセンサ22の出力信号Gfの波形、ウェーブレット位相角θの波形及び減速度積分値Vfの波形の一例を示した図である。
【図4】実際の車両衝突試験データに基づく第1ピーク時間tpと要求時間tmとの比kxのプロット図である。
【図5】各衝突形態での比kxの分布傾向を示す図である。
【図6】本実施例の衝突形態判別装置20により実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】Gabor関数の時間軸上の表現を例示する説明図である。
【図8】ウェーブレット変換X(a,b)の実数部Rと虚数部Iと大きさpと位相θとの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
20 衝突形態判別装置
22 フロアセンサ(加速度センサ)
32 ピーク時間検出部
34 要求値時間検出部
36 形態判定部

Claims (2)

  1. 車両本体の略中央部に配置され、車両前後方向の車両減速度を検出する減速度検出手段と、
    前記車両減速度の波形の立ち上がり時点を検出する立ち上がり手段と、
    前記車両減速度の波形が、前記立ち上がり時点から第1ピークに達するまでの時間を第1ピーク時間tpとして検出するピーク時間検出手段と、
    前記車両減速度を前記立ち上がり時点から時間積分した減速度積分値が、予め設定した要求積分値Vmと等しくなった時間を要求時間tmとして検出する要求値時間検出手段と、
    前記第1ピーク時間tpと前記要求時間tmとの比に基づいて、前記車両の衝突形態がハード衝突かソフト衝突かを判定する形態判定手段とを含むことを特徴とする、衝突形態判別装置。
  2. 前記立ち上がり手段は、前記車両減速度の波形にウェーブレット変換処理を施して得たウェーブレット位相角θがπを超え、且つ、前記車両減速度が予め設定した閾値GTHを超えた時点を、立ち上がり時点として検出する、請求項1記載の衝突形態判別装置。
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