JP3699884B2 - 超電導限流素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電力システムなどにおいて過大電流を制限するために用いられる超電導限流素子に関し、より詳しくは、本発明は、過電流により限流素子が常伝導転移した際の超電導薄膜線路の断線を防止し、素子の許容電圧を向上させた超伝導限流素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
超電導薄膜を用いた限流素子は、過電流に対して外部トリガなしで1ミリ秒以内の高速動作するという優れた特徴を持つが、現状では素子に印加できる電圧(以下では「許容電圧」と呼ぶ)が電力系統に比べ小さく、許容電圧向上が課題となっている。また、実際のシステムにおいては省スペース、低コスト化の観点から、コンパクトな素子が望ましい。
【0003】
そのための施策のひとつとして、素子の単位長さ当たりの許容電圧を向上させることが有効である。しかしながら、素子に印加する電圧が大きすぎると、超電導薄膜が過電流により超電導状態から常伝導状態に転移した際、熱衝撃より基板に亀裂が生じ超電導薄膜が断線してしまうことがあった。これにより素子の単位長さ当たりの許容電圧が制限されていた。
【0004】
これに対して、本発明者は、断線を防止するために、基体上に作製した導電性薄膜と、基体上に作製された超電導薄膜とを断続的に設けたコンタクト層を介して並列接続した限流素子を提案した(例えば、特開平11−20845号公報)。この構造によれば、超電導薄膜に加わる熱負荷を導電性薄膜に分散することができ、単位長さ当たりの許容電圧を大幅に向上できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者がその後、さらに独自の試作評価を行った結果、この素子においてもさらに印加電圧を大きくしていくと超電導薄膜の断線が生じる場合があることが分かった。そして、この断線は、超電導薄膜線路上のコンタクト層の近傍で生じることが多く、また、超電導薄膜線路の端から断線が始まっていることが多いことが判明した。
【0006】
以下、断線の過程について、本発明者が独自に得た知見について図面を参照しつつ説明する。
【0007】
図19は、本発明者が本発明に至る過程で試作した素子の構成を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0008】
図19に表した限流素子は、基体101の上に導電性薄膜102が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線106Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体103、超電導薄膜線路104、コンタクト層105が積層され、さらにその上を覆うように配線106Bが設けられた構成を有する。ここで、コンタクト層105は、超電導薄膜線路104と配線106Bとの電気的コンタクトを確保する役割を有する。
【0009】
図20は、配線106Bを取り除いた状態を表す平面図である。同図から分かるように、コンタクト層105は、配線106A及び106Bのパターンと一致するように選択的に設けられている。すなわち、断続的に設けられたコンタクト層105の形状は矩形であり、その幅は超電導薄膜線路104の幅と同じである。
【0010】
このような限流素子において、電流は、矢印Iで表した方向に流される。そして、電流量が臨界値(臨界電流)Ic以下の場合は、電流はストライプ状の超電導薄膜線路104を流れる。しかし、電流量が臨界値Icを超えると、超電導薄膜線路104は常伝導状態に遷移して抵抗が増大し、結果として電流を制限することができる。この限流動作の際には、素子に供給される電流は超電導薄膜線路104からコンタクト層105、配線106B及び106Aを介して導電性薄膜102に分散され、熱負荷を低減することができる。
【0011】
しかし、超電導薄膜線路104の超電導特性を面内方向において完全に均一とすることは困難である。このため臨界電流Icに「ばらつき」がある。
【0012】
図21は、このように臨界電流Icにばらつきがある場合の電流の経路を例示した概念図である。すなわち、同図は、超電導薄膜線路104の臨界電流Icが小さい領域Aと大きい領域Bとが分布した例を表す。
【0013】
このような限流素子に過電流が流れると、臨界電流Icの小さい領域Aが先に常伝導転移し、電流のほとんどは導電性薄膜へ分流する。一方、Icの大きな領域Bはこの時点では超電導状態であるため、電流は超電導薄膜線路104を流れる。したがって電流の経路は図中の矢印で示すようになる。
【0014】
しかし、この限流素子では図20に表したように断続的に設けられたコンタクト層105の形状が矩形であり、その幅は超電導薄膜線路104の幅と同じであった。そのため、超電導薄膜線路104に流れ込む際、線路端に電流が集中する。そして、この電流集中に起因して領域Bが常伝導転移した際、線路端の熱衝撃が線路中央部より大きくなる。そのためコンタクト層の近傍で超電導薄膜線路104に断線が生じる場合が多いことが判明した。
【0015】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものである。すなわち、その目的は、電流集中による断線を防止するためになされたもので、電流集中を緩和する、あるいは電流集中しても線路端の熱衝撃が小さくなるようにし、許容電圧を向上させた限流素子を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の超電導限流素子は、導電性薄膜と、超電導薄膜線路と、前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを前記超電導薄膜線路の主面上に設けられた電流注入領域を介して接続する配線と、を備え、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記電流注入領域の幅は、前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0017】
本発明はIcに「ばらつき」がある場合に効果が大きい。すなわち、Icに「ばらつき」があると超電導薄膜線路の一部が常伝導状態に遷移し、超電導薄膜線路から導電性薄膜に電流が分流する。そして、常伝導状態に遷移した領域を迂回して導電性薄膜から超電導状態の超電導薄膜線路へ電流が注入される。
【0018】
これまでの限流素子においては、電流注入領域が超電導薄膜線路の端まで設けられていたため線路端に電流および熱衝撃が集中しやすかったが、本実施形態により電流集中を緩和することができる。
【0019】
ここで、前記電流注入領域と前記配線との間に設けられたコンタクト層をさらに備え、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記コンタクト層の幅は、超電導薄膜線路の幅よりも狭いものとすることができる。つまり、コンタクト層のパターン形状により電流注入領域を規定することができる。
【0020】
または、前記超電導薄膜線路と前記配線との間に設けられた絶縁膜をさらに備え、前記絶縁膜は、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いコンタクトホールを有するものとしても良い。つまり、絶縁膜のコンタクトホールの形状により電流注入領域を規定することができる。
【0021】
この場合に、絶縁膜と前記超電導薄膜線路との間に設けられたコンタクト層をさらに備えたものとしても良い。
【0022】
また、本発明の第2の実施の形態によれば、導電性薄膜と、超電導薄膜線路と、前記超電導薄膜線路の主面上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を介して前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを接続する配線と、を備え、前記超電導薄膜線路の長手方向にみた前記コンタクト層の長さは、超電導薄膜線路の中央部において短く、線路端部において長く形成されたことを特徴とする超電導限流素子が提供される。
【0023】
この実施形態によれば、、超電導薄膜線路端に電流集中が生じた状態で常伝導状態に転移した場合においても線路端の熱負荷を低減することが可能である。
【0024】
さらに、この実施形態と前述した第1実施形態とを組み合わせて実施するとさらに効果的である。
【0025】
また、前述したいずれの実施形態においても、前記導電性薄膜および前記超電導薄膜線路を電気絶縁性材料により被覆することができる。これにより、素子の温度が許容限度以上に上昇することを防止し、超電導薄膜が断線を防止して許容電圧を向上させることができる。
【0026】
なお、本願明細書において、「電流注入領域」とは、超伝導薄膜線路の主面に対して配線から電流が実質的に流入する領域をいい、線路の側面は含まない。また、超電導薄膜線路と配線との間にコンタクト層などが設けられている場合も含む。
【0027】
ここで、本発明の限流素子を構成する超電導薄膜としては、RE・M2・Cu3・O7−x系の酸化物超伝導体(ここで、REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等から選ばれる少なくとも一種類の元素を、MはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも一種類の元素を表す。また、添字xは酸素欠損を表し、通常は1以下の数である。)、Bi系、Tl系等の酸化物超電導体を使用できる。
【0028】
また、本発明において、超電導薄膜の作製方法としては蒸着法、レーザーアブレーション法、スパッタ法、CVD法等の各種薄膜形成法が適用可能である。また、超電導薄膜を作製する基体としは酸化物および絶縁層で被覆された金属を使用できる。酸化物としてはSrTiO3、LaAlO3、Al2O3、YSZ、LaSrGaO4、MgO等が使用でき、中でも熱伝導率が高く超電導薄膜と熱膨張係数の近い材料が好ましい。また、ハステロイ等のNi合金、Ni、AgおよびAg合金、各種クラッド材に電気絶縁のためのYSZ、Y2O3、CeO2等の酸化物層で被覆したものも基体として用いることができる。
【0029】
一方、超電導薄膜と並列接続する導電性薄膜の材料はAg、Au、Pt、Ni、Cu、Cr、Co等の材料およびこれらの合金が適用可能であり、所望の抵抗に応じて材料を選択する。そして導電性薄膜の基体としてはAlN、アルミナ、SiC、Si等の高熱伝導率を持つ材料が適用可能である。
【0030】
一方、コンタクト層の材料としては、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、In(インジウム)等の超電導薄膜と反応しにくい金属が適用可能である。また、コンタクト層の厚さは電流バイパス時の発熱を抑制するために厚いほうがよく少なくとも50nm以上好ましくは1μm以上さらに好ましくは10μm以上が良い。またコンタクト層以外の超電導薄膜線路の上に、抵抗調整のための上記金属等の層を設けてもよい。厚さは所望の抵抗を得るために0〜10μm程度の間で設定する。
【0031】
さらに外部との電気絶縁性を高めるために超電導薄膜線路の上およびコンタクト層、抵抗調整用金属層、導電性薄膜の上に絶縁性被膜を設けることが望ましい。絶縁被膜の材料としては超電導薄膜の基体と同様の酸化物のほか、AlN(窒化アルミニウム)、TiN(窒化チタン)、SiC(炭化シリコン)、BN(窒化ボロン)、ダイアモンド、Y2O3等が適用可能である。
【0032】
あるいは熱伝導率の大きい絶縁グリース(例えば商品名:アピエゾングリース、シリコングリース等)を用いても良い。大面積の素子の場合、グリースのほうが作業性、コストの面で有利である。このような熱伝導率の高いグリースで被覆する場合には、熱容量が大きいほうが限流素子の温度上昇を抑制できるため、厚みは少なくとも0.1mm以上、さらに好ましくは1mm以上、さらに好ましくは5mm以上設けると良い。許容温度上昇以下に抑制するためには、限流素子の動作時間が長いほど絶縁性被膜の厚さを大きくしたほうが良い。
【0033】
また、超電導薄膜線路と導電性薄膜との接続に用いる配線の材料にはIn、In合金、はんだなど、圧着あるいは加熱により電気的に接続できるものが適用可能である。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる限流素子の構成を概念的に例示する説明図である。すなわち、同図(a)はその要部平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0036】
図1に例示した限流素子も、図19〜図21に関して前述したものと類似した積層構造を有する。すなわち、基体1の上に導電性薄膜2が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線6Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体3、超電導薄膜線路4が積層され、さらにその上を覆うように配線6Bが設けられた構成を有する。ここで、超電導薄膜線路4と配線6Bとの間には図示しないコンタクト層5を設けても良い。
【0037】
本発明の第1の実施の形態においては、配線6Bから超電導薄膜線路4に対して電流が流れ込む電流注入領域Cのパターン形状を制限する。より具体的には、電流注入領域Cの幅W1は、超電導薄膜線路4の幅W2よりも狭い。電流は、この電流注入領域Cを介して超電導薄膜線路4に流入する。このようにすることにより、分流用の導電性薄膜2から超電導薄膜線路4へ電流が転流する際の線路端部の電流集中を緩和することができる。
【0038】
すなわち、導電性薄膜2から配線6Bを介して超電導薄膜線路4に流入する電流の経路は、電流注入領域Cを介して図1に矢印で表した如くとなる。つまり、線路4の中央付近から電流が導入されるため、超電導薄膜線路4の端における電流集中を緩和することができる。その結果として、図21に関して前述したような超電導薄膜線路4の端における電流集中は解消され、熱衝撃による線路4の断線を防止することができる。これにより、限流素子の単位長さ当たりの許容電圧を向上することができる。
【0039】
本発明者の検討によれば、線路端での電流の集中量を低減するためには、電流注入領域Cの幅W1を超電導薄膜線路4の幅W2の80%以下とすること好ましく、70%以下とするとさらに好ましいことが分かった。
【0040】
一方、電流注入領域の幅W1を小さくしすぎると、超電導薄膜線路4との間の接触部の抵抗が増大して発熱が無視できなくなる。このため、幅W1は、線路の幅W2の30%以上とすることが好ましい。また、後に実施例としても詳述するように、電流注入領域Cのパターン形状は楕円の他にも、例えば、円形、矩形、多角形、その他各種の形状を適宜採用することができる。
【0041】
本発明において、電流注入領域Cを規定する方法としては、後に詳述するように、線路4と配線6Bとの間にコンタクト層を設け、そのパターン形状を規定する方法や、さらに絶縁膜を設け、その絶縁膜に開口したコンタクトホールを電流注入領域とする方法などがある。
【0042】
図2は、後に第1実施例として詳述する具体例を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0043】
図2に例示した具体例も、図19〜図21に関して前述したものと類似した積層構造を有する。すなわち、基体1の上に導電性薄膜2が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線6Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体3、超電導薄膜線路4、コンタクト層5が積層され、さらにその上を覆うように配線6Bが設けられた構成を有する。ここで、コンタクト層5は、超電導薄膜線路4と配線6Bとの電気的コンタクトを確保する役割を有する。
【0044】
この限流素子において、電流は、矢印Iで表した方向に流される。そして、配線6Bと超電導薄膜線路4との間の電気的なコンタクトは、コンタクト層5により確保されている。本具体例においては、このコンタクト部の幅、線路4の幅よりも小さくする。
【0045】
図3は、配線6Bを取り除いた状態を例示する平面図である。同図に表した具体例においては、超電導薄膜線路4の中央付近に楕円形状のコンタクト層5が設けられ、コンタクト層5の幅W1が超電導薄膜線路104の幅W2より小さくされている。そして、図2に示すように配線6Bを用いて導電性薄膜2と超電導薄膜線路4とが接続される。
【0046】
本具体例によれば、線路4と配線6Bとの電流注入領域をコンタクト層5の形状により決定することができる。そして、線路4の中央付近から電流が導入されるため、超電導薄膜線路4の端における電流集中を緩和することができる。
【0047】
また、これとは別に、後に第4乃至第5の実施例として詳述するように、配線6Bと超電導薄膜線路4との間に絶縁性の薄膜を挿入し、この薄膜に開口した所定のパターンのコンタクトホールによって配線6Bと線路4とを接続するものとしても良い。
【0048】
一方、本発明の第2の実施の形態として、電流が集中した場合の超電導薄膜線路端の熱負荷を低減するために、超電導薄膜線路の長手方向(電流供給方向I)のコンタクト層の長さを、超電導薄膜線路の中央部より線路端において大きくしても良い。これにより電流が集中しやすい部分に低抵抗金属があるために熱負荷を低減することができる。この実施形態に関しては、後に第5の実施例として詳述する。
【0049】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態について、実施例を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0050】
(第1の実施例)
まず、本発明の第1の実施例について説明する。
【0051】
本実施例においては、図2及び図3に表した構造の限流素子を試作した。
【0052】
図4は、本実施例にかかる限流素子の製造手順を表す工程断面図であり、図2(b)に対応する断面図である。同図においては、図1乃至図3に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
本実施例においては、まず、幅50mm、長さ140mmのAlN多結晶基板1の上に500nm厚のNi(ニッケル)薄膜2をスパッタ法で作製し、線幅2mmのIn(インジウム)線6Aを10mm間隔で圧着した。両端の10mmの部分は電流導入端子とした。
【0054】
一方、幅10mm、長さ120mmのAl2O3単結晶基板3の上にスパッタ法によりCeO2バッファ層(図示せず)を厚さ30nm堆積した後、YBCO(YBa2Cu3O7−x:イットリウム・バリウム・銅・酸素)薄膜4を300nmの膜厚になるようにレーザーアブレーション法により作製した。
【0055】
次に、図2及び図3に関して前述したように、YBCO薄膜線路4の幅W2より小さい短径3mm、長経7mmの楕円形状のAg電極5を厚さ10μm、スパッタ法によりマスクを用いて作製した。そして、Ag電極5とYBCO薄膜4の接触抵抗低減のために400℃、30分のアニールを行った。
【0056】
次に、図4(a)に表したようにAl2O3単結晶基板3をAlN多結晶基板1の上に載置し、図4(b)に表したようにYBCO薄膜線路4上のAg電極部5とIn線6AとをIn線6Bを用いて並列接続した。これにより、線路4とNi薄膜2とが電気的に接続される。
【0057】
このように作製したYBCO薄膜限流素子は液体窒素温度において50Armsの連続通電が可能であった。この素子を液体窒素中で冷却し図5に表す試験回路に接続し50Hz、500Vrmsの条件で、限流特性を調べた。
【0058】
図6は、本実施例による限流素子の典型的な限流特性を表すグラフである。すなわち、同図の上半分は電流特性、下半分は電圧特性を表す。電流特性において破線で表した曲線は限流素子がない場合の電流波形を表し、実線は、この条件において限流素子に流れる電流を表す。
【0059】
図6から分かるように、ピーク電流が1200Aの短絡電流が流れるところを、本実施例の限流素子は200Aで限流し始め、最大でも400Aに抑制できる。また、限流素子の単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。このような試験を20回繰り返したところ図6と同様な限流特性が再現性良く得られた。
【0060】
限流特性を評価した後、限流素子を液体窒素から取り出して室温まで昇温した後、テスターにより抵抗を調べたところ試験前と同様の1Ωを示した。また、光学顕微鏡によりその表面を観察したところ、断線や焼損などの損傷がないことが確認された。
【0061】
(第2の実施例)
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例においては、矩形の電流注入領域を有する限流阻止を試作した。
【0062】
図7は、本実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、また、図8は、完成状態の限流素子の要部を表す概念図である。いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【0063】
また、図7及び図8においても、図1乃至図4に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0064】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図7に素子の一部を示すように7mm×3mmの矩形のAg電極5をマスクを用いて厚さ10μmスパッタし400℃、30分のアニールを行った。そして、図8に示すようにIn線6Bを配線することより、線路4と、AlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0065】
すなわち、本実施例の素子においては、図7に表したように、電流注入領域として作用するコンタクト層5が矩形に形成され、且つ超電導薄膜線路4の幅方向にみた時に、コンタクト層5の幅は、線路4の幅よりも狭い。このようにコンタクト層5を形成した場合にも、導電性薄膜2から超電導薄膜線路4に電流が流入する際の線路端での電流の集中を防ぐことができる。
【0066】
この素子に50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べた結果、短絡電流1200Aのところ、500A以下に抑制できることが分かった。また、単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。そして、同様な試験条件で20回繰り返し試験した後、液体窒素から取り出し素子表面の観察を行ったところ、断線などの損傷を受けていないことが分かった。
【0067】
(比較例)
第1実施例と同様な方法でYBCO薄膜を作製した後、図19及び図20に表したようにYBCO薄膜線路104の端まで10mm×3mmのAg電極105をスパッタ法によりマスクを用いて厚さ10μm設け、400℃、30分のアニールを行った。そして、図19に表したようにAlN基板101の上のNi薄膜102とIn線106Bを用いて並列接続した。
【0068】
この素子に50Hzの交流を電圧を増加させながら繰り返し試験を行い、限流特性を調べた。印加電圧400Vrms(単位長さ当たりの印加電圧:47V/cm)の条件にて、1回目は過電流を抑制したが、2回目には臨界電流より小さい電流においても電圧発生が観測され、限流素子の電気抵抗が増大していることが分かった。そこで、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、目視においてもAg電極105の近傍においてYBCO線路104に断線が生じていることが分かった。
【0069】
(第3の実施例)
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
【0070】
本実施例も、第1実施形態の具体例として実施したものである。
【0071】
図9〜図11は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。図9〜図11においても、図1乃至図8に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0072】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図9に示すようにYBCO薄膜線路4の端まで10mm×3mmの大きさで厚さ10μmのAg電極5をマスクを用いてスパッタ法により作製した。そして接触抵抗低減のために400℃、30分のアニールを行った。
【0073】
次に、図10に表したような楕円形状の開口を有する厚さ10μmのCeO2薄膜7をスパッタ法によりマスクを用いて作製した。このCeO2薄膜7は絶縁膜として作用する。
【0074】
そして、図11に表したように、In線6Bを形成して、線路4と、AlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0075】
本実施例の限流素子においては、絶縁膜であるCeO2薄膜7に設けられた楕円形状のコンタクトホールを介して線路4に電流が注入するため、YBCO薄膜線路4の端での電流集中を解消することができる。
【0076】
この素子を液体窒素で冷却し図5に表した試験回路を用いて50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、500A以下に抑制できることが分かった。また、同条件で20回の繰り返し試験の結果も同様な特性を示した。次に、液体窒素から取り出し表面を観察した結果、断線などの損傷を受けていないことが分かった。
【0077】
(第4の実施例)
次に、本発明の第4の実施例について説明する。
【0078】
図12〜図15は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。図12〜図15においても、図1乃至図11に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0079】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図12に表したように、YBCO薄膜4全面に厚さ40nmのAg薄膜5Aをスパッタ法により作製した。なお、このAg薄膜5AとYBCO薄膜線路4の臨界温度直上90Kの抵抗は10Ωとなり、YBCO薄膜線路4のみの場合の臨界温度直上の抵抗20Ωの2分の1となった。
【0080】
次に、図13に表したようにスパッタ法によりマスクを用いて、厚さ10μmの楕円形状の第2のAg電極5Bを設けた。ここで、第2のAg電極5Bの幅W1は、線路4の幅W2よりも短いものとする。
【0081】
次に、マスクを交換して図14に表した示すように第2のAg電極5B以外の部分に絶縁のためにCeO2薄膜7を厚さ10μm設けた。
【0082】
そして、図15に表したようにIn線6Bを配線し、楕円形状のAg電極5BとAlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0083】
この限流素子を液体窒素で冷却し、図5の試験回路を用いて50Hz、400Vrmsの条件で限流特性を調べた。その結果、400A以下に抑制できることが分かった。同条件で20回、試験を繰り返した場合も同様の特性が得られた。その後、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、断線などの損傷を受けていないことが確認された。
【0084】
(第5の実施例)
次に、本発明の第5の実施例について説明する。
【0085】
本実施例は、本発明の第2の実施形態の具体例として実施したものである。
【0086】
図16は、本実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、また、図17は、完成状態の限流素子の要部を表す概念図である。いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【0087】
また、図16及び図17においても、図1乃至図15に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0088】
本実施例においても、第1実施例と同様な方法でYBCO薄膜4を作製した後、YBCO薄膜4の上に図16に示すようにYBCO薄膜線路の中央部から端部に向かって連続的に幅が大きくなるパターン形状を有するAg電極5をスパッタ法によりマスクを用いて作製した。これにより電流が集中しやすい部分に低抵抗金属があるために熱負荷を低減することができる。ここで、電極5の厚さは10μmとした。そして400℃、30分のアニールを行った後、図17に示すようにIn線6Bを用いて、線路4とAlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0089】
この素子に50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、短絡電流1200Aを600Aに抑制可能であることが分かった。また、単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。そして、同様な条件で20回繰り返し試験したところ、いずれの場合も過電流を抑制し限流動作を確認した。この限流素子を試験後に液体窒素から取り出し光学顕微鏡にて表面観察をしたところ、断線や焼損などの損傷はないことが分かった。
【0090】
(第6の実施例)
次に、本発明の第6の実施例について説明する。
【0091】
図18は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、同(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。図18においても、図1乃至図13に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0092】
本実施例においては、第1実施例と同様の超電導限流素子において、図18に表したように超電導薄膜線路4および導電性薄膜2を絶縁性グリース(商品名:アピエゾングリース)8により被覆した。その厚さは約2mmとした。
【0093】
この限流素子について、第1実施例より大きい600Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、限流素子がない場合の短絡電流1400Aを400Aに抑制できることが分かった。単位長さ当たりの許容電圧は70V/cmであった。また、素子抵抗から素子の最大温度上昇を見積もると約250Kであった。このような試験を20回繰り返した後に限流素子を液体窒素から取り出し、トルエン等の有機溶剤によりグリースを取り除き、表面を光学顕微鏡で観察したところ、超電導薄膜の断線や焼損などは見られなかった。
【0094】
(比較例)
第1実施例の素子を絶縁性グリースで被覆せずに、600Vrmsの条件で限流試験を行った際、放電による光が観測された。そのときの素子に発生した最大電圧から抵抗を見積り、素子温度に換算すると、約350Kであった。そこで、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、目視においても超電導薄膜および導電性薄膜に多数の断線が観測された。
【0095】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0096】
例えば、基板、導電性薄膜、超電導薄膜線路、コンタクト層、配線などの各種の要素の材料や寸法は、当業者が適宜変更して本発明と同様の効果を得ることができる。
【0097】
また、前述した各実施例は、組み合わせることも可能であり、例えば、第5実施例に関して前述したコンタクト層5のパターン形状と、第3実施例に関して前述した絶縁膜7のパターン形状を組み合わせて、実施することも可能である。さらに、この際に、コンタクト層5や絶縁膜7のコンタクトホールのパターン形状は図示したものには限定されず、その他、各種の形状を用いることができる。
【0098】
また、第6実施例は、第1実施例にかかる限流素子に限られず、その他第2乃至第5実施例のいずれの限流素子についても同様に適用して同様の効果を得ることができる。
【0099】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、限流素子の超電導薄膜線路に対する電流注入領域を制御することにより、線路に流入する電流経路を調節し、線路の端における電流集中を緩和することができる。
【0100】
また、本発明によれば、コンタクト層のパターン形状を工夫することにより、電流が集中する部分の線路の熱負荷を低減できる。
【0101】
さらに、本発明によれば、絶縁性被覆を設けることにより、超電導薄膜および導電性薄膜の温度上昇を抑制できる。
【0102】
すなわち、本発明によれば、超電導薄膜の断線を防止することができ、許容電圧の向上が可能となり、産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の限流素子の構成を概念的に例示する説明図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図2】本発明の限流素子の具体例を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図3】配線6Bを取り除いた状態を例示する平面図である。
【図4】本発明の第1実施例にかかる限流素子の製造手順を表す工程断面図であり、図2(b)に対応する断面図である。
【図5】試験回路を表す概念図である。
【図6】第1実施例による限流素子の典型的な限流特性を表すグラフである。
【図7】本発明の第2実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図8】第2実施例の完成状態の限流素子の要部を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図9】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図10】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図11】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図12】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図13】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図14】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図15】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図16】本発明の第5実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図17】第5実施例の完成状態の限流素子の要部を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図18】本発明の第6実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、同(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図19】本発明者が本発明に至る過程で試作した素子の構成を表す概念図であり、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのC−C’線断面図である。
【図20】配線106Bを取り除いた状態を表す平面図である。
【図21】臨界電流Icにばらつきがある場合の電流の経路を例示した概念図である。
【符号の説明】
1、101 導電性薄膜の基体
2、102 導電性薄膜
3、103 超電導薄膜の基体
4、104 超電導薄膜線路
5、105 コンタクト層
6、106 配線
7 絶縁性薄膜
8 電気絶縁性被膜
【発明の属する技術分野】
本発明は電力システムなどにおいて過大電流を制限するために用いられる超電導限流素子に関し、より詳しくは、本発明は、過電流により限流素子が常伝導転移した際の超電導薄膜線路の断線を防止し、素子の許容電圧を向上させた超伝導限流素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
超電導薄膜を用いた限流素子は、過電流に対して外部トリガなしで1ミリ秒以内の高速動作するという優れた特徴を持つが、現状では素子に印加できる電圧(以下では「許容電圧」と呼ぶ)が電力系統に比べ小さく、許容電圧向上が課題となっている。また、実際のシステムにおいては省スペース、低コスト化の観点から、コンパクトな素子が望ましい。
【0003】
そのための施策のひとつとして、素子の単位長さ当たりの許容電圧を向上させることが有効である。しかしながら、素子に印加する電圧が大きすぎると、超電導薄膜が過電流により超電導状態から常伝導状態に転移した際、熱衝撃より基板に亀裂が生じ超電導薄膜が断線してしまうことがあった。これにより素子の単位長さ当たりの許容電圧が制限されていた。
【0004】
これに対して、本発明者は、断線を防止するために、基体上に作製した導電性薄膜と、基体上に作製された超電導薄膜とを断続的に設けたコンタクト層を介して並列接続した限流素子を提案した(例えば、特開平11−20845号公報)。この構造によれば、超電導薄膜に加わる熱負荷を導電性薄膜に分散することができ、単位長さ当たりの許容電圧を大幅に向上できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者がその後、さらに独自の試作評価を行った結果、この素子においてもさらに印加電圧を大きくしていくと超電導薄膜の断線が生じる場合があることが分かった。そして、この断線は、超電導薄膜線路上のコンタクト層の近傍で生じることが多く、また、超電導薄膜線路の端から断線が始まっていることが多いことが判明した。
【0006】
以下、断線の過程について、本発明者が独自に得た知見について図面を参照しつつ説明する。
【0007】
図19は、本発明者が本発明に至る過程で試作した素子の構成を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0008】
図19に表した限流素子は、基体101の上に導電性薄膜102が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線106Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体103、超電導薄膜線路104、コンタクト層105が積層され、さらにその上を覆うように配線106Bが設けられた構成を有する。ここで、コンタクト層105は、超電導薄膜線路104と配線106Bとの電気的コンタクトを確保する役割を有する。
【0009】
図20は、配線106Bを取り除いた状態を表す平面図である。同図から分かるように、コンタクト層105は、配線106A及び106Bのパターンと一致するように選択的に設けられている。すなわち、断続的に設けられたコンタクト層105の形状は矩形であり、その幅は超電導薄膜線路104の幅と同じである。
【0010】
このような限流素子において、電流は、矢印Iで表した方向に流される。そして、電流量が臨界値(臨界電流)Ic以下の場合は、電流はストライプ状の超電導薄膜線路104を流れる。しかし、電流量が臨界値Icを超えると、超電導薄膜線路104は常伝導状態に遷移して抵抗が増大し、結果として電流を制限することができる。この限流動作の際には、素子に供給される電流は超電導薄膜線路104からコンタクト層105、配線106B及び106Aを介して導電性薄膜102に分散され、熱負荷を低減することができる。
【0011】
しかし、超電導薄膜線路104の超電導特性を面内方向において完全に均一とすることは困難である。このため臨界電流Icに「ばらつき」がある。
【0012】
図21は、このように臨界電流Icにばらつきがある場合の電流の経路を例示した概念図である。すなわち、同図は、超電導薄膜線路104の臨界電流Icが小さい領域Aと大きい領域Bとが分布した例を表す。
【0013】
このような限流素子に過電流が流れると、臨界電流Icの小さい領域Aが先に常伝導転移し、電流のほとんどは導電性薄膜へ分流する。一方、Icの大きな領域Bはこの時点では超電導状態であるため、電流は超電導薄膜線路104を流れる。したがって電流の経路は図中の矢印で示すようになる。
【0014】
しかし、この限流素子では図20に表したように断続的に設けられたコンタクト層105の形状が矩形であり、その幅は超電導薄膜線路104の幅と同じであった。そのため、超電導薄膜線路104に流れ込む際、線路端に電流が集中する。そして、この電流集中に起因して領域Bが常伝導転移した際、線路端の熱衝撃が線路中央部より大きくなる。そのためコンタクト層の近傍で超電導薄膜線路104に断線が生じる場合が多いことが判明した。
【0015】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものである。すなわち、その目的は、電流集中による断線を防止するためになされたもので、電流集中を緩和する、あるいは電流集中しても線路端の熱衝撃が小さくなるようにし、許容電圧を向上させた限流素子を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の超電導限流素子は、導電性薄膜と、超電導薄膜線路と、前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを前記超電導薄膜線路の主面上に設けられた電流注入領域を介して接続する配線と、を備え、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記電流注入領域の幅は、前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0017】
本発明はIcに「ばらつき」がある場合に効果が大きい。すなわち、Icに「ばらつき」があると超電導薄膜線路の一部が常伝導状態に遷移し、超電導薄膜線路から導電性薄膜に電流が分流する。そして、常伝導状態に遷移した領域を迂回して導電性薄膜から超電導状態の超電導薄膜線路へ電流が注入される。
【0018】
これまでの限流素子においては、電流注入領域が超電導薄膜線路の端まで設けられていたため線路端に電流および熱衝撃が集中しやすかったが、本実施形態により電流集中を緩和することができる。
【0019】
ここで、前記電流注入領域と前記配線との間に設けられたコンタクト層をさらに備え、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記コンタクト層の幅は、超電導薄膜線路の幅よりも狭いものとすることができる。つまり、コンタクト層のパターン形状により電流注入領域を規定することができる。
【0020】
または、前記超電導薄膜線路と前記配線との間に設けられた絶縁膜をさらに備え、前記絶縁膜は、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いコンタクトホールを有するものとしても良い。つまり、絶縁膜のコンタクトホールの形状により電流注入領域を規定することができる。
【0021】
この場合に、絶縁膜と前記超電導薄膜線路との間に設けられたコンタクト層をさらに備えたものとしても良い。
【0022】
また、本発明の第2の実施の形態によれば、導電性薄膜と、超電導薄膜線路と、前記超電導薄膜線路の主面上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を介して前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを接続する配線と、を備え、前記超電導薄膜線路の長手方向にみた前記コンタクト層の長さは、超電導薄膜線路の中央部において短く、線路端部において長く形成されたことを特徴とする超電導限流素子が提供される。
【0023】
この実施形態によれば、、超電導薄膜線路端に電流集中が生じた状態で常伝導状態に転移した場合においても線路端の熱負荷を低減することが可能である。
【0024】
さらに、この実施形態と前述した第1実施形態とを組み合わせて実施するとさらに効果的である。
【0025】
また、前述したいずれの実施形態においても、前記導電性薄膜および前記超電導薄膜線路を電気絶縁性材料により被覆することができる。これにより、素子の温度が許容限度以上に上昇することを防止し、超電導薄膜が断線を防止して許容電圧を向上させることができる。
【0026】
なお、本願明細書において、「電流注入領域」とは、超伝導薄膜線路の主面に対して配線から電流が実質的に流入する領域をいい、線路の側面は含まない。また、超電導薄膜線路と配線との間にコンタクト層などが設けられている場合も含む。
【0027】
ここで、本発明の限流素子を構成する超電導薄膜としては、RE・M2・Cu3・O7−x系の酸化物超伝導体(ここで、REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等から選ばれる少なくとも一種類の元素を、MはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも一種類の元素を表す。また、添字xは酸素欠損を表し、通常は1以下の数である。)、Bi系、Tl系等の酸化物超電導体を使用できる。
【0028】
また、本発明において、超電導薄膜の作製方法としては蒸着法、レーザーアブレーション法、スパッタ法、CVD法等の各種薄膜形成法が適用可能である。また、超電導薄膜を作製する基体としは酸化物および絶縁層で被覆された金属を使用できる。酸化物としてはSrTiO3、LaAlO3、Al2O3、YSZ、LaSrGaO4、MgO等が使用でき、中でも熱伝導率が高く超電導薄膜と熱膨張係数の近い材料が好ましい。また、ハステロイ等のNi合金、Ni、AgおよびAg合金、各種クラッド材に電気絶縁のためのYSZ、Y2O3、CeO2等の酸化物層で被覆したものも基体として用いることができる。
【0029】
一方、超電導薄膜と並列接続する導電性薄膜の材料はAg、Au、Pt、Ni、Cu、Cr、Co等の材料およびこれらの合金が適用可能であり、所望の抵抗に応じて材料を選択する。そして導電性薄膜の基体としてはAlN、アルミナ、SiC、Si等の高熱伝導率を持つ材料が適用可能である。
【0030】
一方、コンタクト層の材料としては、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、In(インジウム)等の超電導薄膜と反応しにくい金属が適用可能である。また、コンタクト層の厚さは電流バイパス時の発熱を抑制するために厚いほうがよく少なくとも50nm以上好ましくは1μm以上さらに好ましくは10μm以上が良い。またコンタクト層以外の超電導薄膜線路の上に、抵抗調整のための上記金属等の層を設けてもよい。厚さは所望の抵抗を得るために0〜10μm程度の間で設定する。
【0031】
さらに外部との電気絶縁性を高めるために超電導薄膜線路の上およびコンタクト層、抵抗調整用金属層、導電性薄膜の上に絶縁性被膜を設けることが望ましい。絶縁被膜の材料としては超電導薄膜の基体と同様の酸化物のほか、AlN(窒化アルミニウム)、TiN(窒化チタン)、SiC(炭化シリコン)、BN(窒化ボロン)、ダイアモンド、Y2O3等が適用可能である。
【0032】
あるいは熱伝導率の大きい絶縁グリース(例えば商品名:アピエゾングリース、シリコングリース等)を用いても良い。大面積の素子の場合、グリースのほうが作業性、コストの面で有利である。このような熱伝導率の高いグリースで被覆する場合には、熱容量が大きいほうが限流素子の温度上昇を抑制できるため、厚みは少なくとも0.1mm以上、さらに好ましくは1mm以上、さらに好ましくは5mm以上設けると良い。許容温度上昇以下に抑制するためには、限流素子の動作時間が長いほど絶縁性被膜の厚さを大きくしたほうが良い。
【0033】
また、超電導薄膜線路と導電性薄膜との接続に用いる配線の材料にはIn、In合金、はんだなど、圧着あるいは加熱により電気的に接続できるものが適用可能である。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる限流素子の構成を概念的に例示する説明図である。すなわち、同図(a)はその要部平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0036】
図1に例示した限流素子も、図19〜図21に関して前述したものと類似した積層構造を有する。すなわち、基体1の上に導電性薄膜2が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線6Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体3、超電導薄膜線路4が積層され、さらにその上を覆うように配線6Bが設けられた構成を有する。ここで、超電導薄膜線路4と配線6Bとの間には図示しないコンタクト層5を設けても良い。
【0037】
本発明の第1の実施の形態においては、配線6Bから超電導薄膜線路4に対して電流が流れ込む電流注入領域Cのパターン形状を制限する。より具体的には、電流注入領域Cの幅W1は、超電導薄膜線路4の幅W2よりも狭い。電流は、この電流注入領域Cを介して超電導薄膜線路4に流入する。このようにすることにより、分流用の導電性薄膜2から超電導薄膜線路4へ電流が転流する際の線路端部の電流集中を緩和することができる。
【0038】
すなわち、導電性薄膜2から配線6Bを介して超電導薄膜線路4に流入する電流の経路は、電流注入領域Cを介して図1に矢印で表した如くとなる。つまり、線路4の中央付近から電流が導入されるため、超電導薄膜線路4の端における電流集中を緩和することができる。その結果として、図21に関して前述したような超電導薄膜線路4の端における電流集中は解消され、熱衝撃による線路4の断線を防止することができる。これにより、限流素子の単位長さ当たりの許容電圧を向上することができる。
【0039】
本発明者の検討によれば、線路端での電流の集中量を低減するためには、電流注入領域Cの幅W1を超電導薄膜線路4の幅W2の80%以下とすること好ましく、70%以下とするとさらに好ましいことが分かった。
【0040】
一方、電流注入領域の幅W1を小さくしすぎると、超電導薄膜線路4との間の接触部の抵抗が増大して発熱が無視できなくなる。このため、幅W1は、線路の幅W2の30%以上とすることが好ましい。また、後に実施例としても詳述するように、電流注入領域Cのパターン形状は楕円の他にも、例えば、円形、矩形、多角形、その他各種の形状を適宜採用することができる。
【0041】
本発明において、電流注入領域Cを規定する方法としては、後に詳述するように、線路4と配線6Bとの間にコンタクト層を設け、そのパターン形状を規定する方法や、さらに絶縁膜を設け、その絶縁膜に開口したコンタクトホールを電流注入領域とする方法などがある。
【0042】
図2は、後に第1実施例として詳述する具体例を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【0043】
図2に例示した具体例も、図19〜図21に関して前述したものと類似した積層構造を有する。すなわち、基体1の上に導電性薄膜2が設けられ、その上に複数のストライプ状の配線6Aが設けられ、これらの配線と直交する方向にストライプ状の基体3、超電導薄膜線路4、コンタクト層5が積層され、さらにその上を覆うように配線6Bが設けられた構成を有する。ここで、コンタクト層5は、超電導薄膜線路4と配線6Bとの電気的コンタクトを確保する役割を有する。
【0044】
この限流素子において、電流は、矢印Iで表した方向に流される。そして、配線6Bと超電導薄膜線路4との間の電気的なコンタクトは、コンタクト層5により確保されている。本具体例においては、このコンタクト部の幅、線路4の幅よりも小さくする。
【0045】
図3は、配線6Bを取り除いた状態を例示する平面図である。同図に表した具体例においては、超電導薄膜線路4の中央付近に楕円形状のコンタクト層5が設けられ、コンタクト層5の幅W1が超電導薄膜線路104の幅W2より小さくされている。そして、図2に示すように配線6Bを用いて導電性薄膜2と超電導薄膜線路4とが接続される。
【0046】
本具体例によれば、線路4と配線6Bとの電流注入領域をコンタクト層5の形状により決定することができる。そして、線路4の中央付近から電流が導入されるため、超電導薄膜線路4の端における電流集中を緩和することができる。
【0047】
また、これとは別に、後に第4乃至第5の実施例として詳述するように、配線6Bと超電導薄膜線路4との間に絶縁性の薄膜を挿入し、この薄膜に開口した所定のパターンのコンタクトホールによって配線6Bと線路4とを接続するものとしても良い。
【0048】
一方、本発明の第2の実施の形態として、電流が集中した場合の超電導薄膜線路端の熱負荷を低減するために、超電導薄膜線路の長手方向(電流供給方向I)のコンタクト層の長さを、超電導薄膜線路の中央部より線路端において大きくしても良い。これにより電流が集中しやすい部分に低抵抗金属があるために熱負荷を低減することができる。この実施形態に関しては、後に第5の実施例として詳述する。
【0049】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態について、実施例を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0050】
(第1の実施例)
まず、本発明の第1の実施例について説明する。
【0051】
本実施例においては、図2及び図3に表した構造の限流素子を試作した。
【0052】
図4は、本実施例にかかる限流素子の製造手順を表す工程断面図であり、図2(b)に対応する断面図である。同図においては、図1乃至図3に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
本実施例においては、まず、幅50mm、長さ140mmのAlN多結晶基板1の上に500nm厚のNi(ニッケル)薄膜2をスパッタ法で作製し、線幅2mmのIn(インジウム)線6Aを10mm間隔で圧着した。両端の10mmの部分は電流導入端子とした。
【0054】
一方、幅10mm、長さ120mmのAl2O3単結晶基板3の上にスパッタ法によりCeO2バッファ層(図示せず)を厚さ30nm堆積した後、YBCO(YBa2Cu3O7−x:イットリウム・バリウム・銅・酸素)薄膜4を300nmの膜厚になるようにレーザーアブレーション法により作製した。
【0055】
次に、図2及び図3に関して前述したように、YBCO薄膜線路4の幅W2より小さい短径3mm、長経7mmの楕円形状のAg電極5を厚さ10μm、スパッタ法によりマスクを用いて作製した。そして、Ag電極5とYBCO薄膜4の接触抵抗低減のために400℃、30分のアニールを行った。
【0056】
次に、図4(a)に表したようにAl2O3単結晶基板3をAlN多結晶基板1の上に載置し、図4(b)に表したようにYBCO薄膜線路4上のAg電極部5とIn線6AとをIn線6Bを用いて並列接続した。これにより、線路4とNi薄膜2とが電気的に接続される。
【0057】
このように作製したYBCO薄膜限流素子は液体窒素温度において50Armsの連続通電が可能であった。この素子を液体窒素中で冷却し図5に表す試験回路に接続し50Hz、500Vrmsの条件で、限流特性を調べた。
【0058】
図6は、本実施例による限流素子の典型的な限流特性を表すグラフである。すなわち、同図の上半分は電流特性、下半分は電圧特性を表す。電流特性において破線で表した曲線は限流素子がない場合の電流波形を表し、実線は、この条件において限流素子に流れる電流を表す。
【0059】
図6から分かるように、ピーク電流が1200Aの短絡電流が流れるところを、本実施例の限流素子は200Aで限流し始め、最大でも400Aに抑制できる。また、限流素子の単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。このような試験を20回繰り返したところ図6と同様な限流特性が再現性良く得られた。
【0060】
限流特性を評価した後、限流素子を液体窒素から取り出して室温まで昇温した後、テスターにより抵抗を調べたところ試験前と同様の1Ωを示した。また、光学顕微鏡によりその表面を観察したところ、断線や焼損などの損傷がないことが確認された。
【0061】
(第2の実施例)
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例においては、矩形の電流注入領域を有する限流阻止を試作した。
【0062】
図7は、本実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、また、図8は、完成状態の限流素子の要部を表す概念図である。いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【0063】
また、図7及び図8においても、図1乃至図4に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0064】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図7に素子の一部を示すように7mm×3mmの矩形のAg電極5をマスクを用いて厚さ10μmスパッタし400℃、30分のアニールを行った。そして、図8に示すようにIn線6Bを配線することより、線路4と、AlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0065】
すなわち、本実施例の素子においては、図7に表したように、電流注入領域として作用するコンタクト層5が矩形に形成され、且つ超電導薄膜線路4の幅方向にみた時に、コンタクト層5の幅は、線路4の幅よりも狭い。このようにコンタクト層5を形成した場合にも、導電性薄膜2から超電導薄膜線路4に電流が流入する際の線路端での電流の集中を防ぐことができる。
【0066】
この素子に50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べた結果、短絡電流1200Aのところ、500A以下に抑制できることが分かった。また、単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。そして、同様な試験条件で20回繰り返し試験した後、液体窒素から取り出し素子表面の観察を行ったところ、断線などの損傷を受けていないことが分かった。
【0067】
(比較例)
第1実施例と同様な方法でYBCO薄膜を作製した後、図19及び図20に表したようにYBCO薄膜線路104の端まで10mm×3mmのAg電極105をスパッタ法によりマスクを用いて厚さ10μm設け、400℃、30分のアニールを行った。そして、図19に表したようにAlN基板101の上のNi薄膜102とIn線106Bを用いて並列接続した。
【0068】
この素子に50Hzの交流を電圧を増加させながら繰り返し試験を行い、限流特性を調べた。印加電圧400Vrms(単位長さ当たりの印加電圧:47V/cm)の条件にて、1回目は過電流を抑制したが、2回目には臨界電流より小さい電流においても電圧発生が観測され、限流素子の電気抵抗が増大していることが分かった。そこで、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、目視においてもAg電極105の近傍においてYBCO線路104に断線が生じていることが分かった。
【0069】
(第3の実施例)
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
【0070】
本実施例も、第1実施形態の具体例として実施したものである。
【0071】
図9〜図11は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。図9〜図11においても、図1乃至図8に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0072】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図9に示すようにYBCO薄膜線路4の端まで10mm×3mmの大きさで厚さ10μmのAg電極5をマスクを用いてスパッタ法により作製した。そして接触抵抗低減のために400℃、30分のアニールを行った。
【0073】
次に、図10に表したような楕円形状の開口を有する厚さ10μmのCeO2薄膜7をスパッタ法によりマスクを用いて作製した。このCeO2薄膜7は絶縁膜として作用する。
【0074】
そして、図11に表したように、In線6Bを形成して、線路4と、AlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0075】
本実施例の限流素子においては、絶縁膜であるCeO2薄膜7に設けられた楕円形状のコンタクトホールを介して線路4に電流が注入するため、YBCO薄膜線路4の端での電流集中を解消することができる。
【0076】
この素子を液体窒素で冷却し図5に表した試験回路を用いて50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、500A以下に抑制できることが分かった。また、同条件で20回の繰り返し試験の結果も同様な特性を示した。次に、液体窒素から取り出し表面を観察した結果、断線などの損傷を受けていないことが分かった。
【0077】
(第4の実施例)
次に、本発明の第4の実施例について説明する。
【0078】
図12〜図15は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。図12〜図15においても、図1乃至図11に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0079】
本実施例においては、第1実施例と同様な寸法、方法でYBCO薄膜4を作製した後、図12に表したように、YBCO薄膜4全面に厚さ40nmのAg薄膜5Aをスパッタ法により作製した。なお、このAg薄膜5AとYBCO薄膜線路4の臨界温度直上90Kの抵抗は10Ωとなり、YBCO薄膜線路4のみの場合の臨界温度直上の抵抗20Ωの2分の1となった。
【0080】
次に、図13に表したようにスパッタ法によりマスクを用いて、厚さ10μmの楕円形状の第2のAg電極5Bを設けた。ここで、第2のAg電極5Bの幅W1は、線路4の幅W2よりも短いものとする。
【0081】
次に、マスクを交換して図14に表した示すように第2のAg電極5B以外の部分に絶縁のためにCeO2薄膜7を厚さ10μm設けた。
【0082】
そして、図15に表したようにIn線6Bを配線し、楕円形状のAg電極5BとAlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0083】
この限流素子を液体窒素で冷却し、図5の試験回路を用いて50Hz、400Vrmsの条件で限流特性を調べた。その結果、400A以下に抑制できることが分かった。同条件で20回、試験を繰り返した場合も同様の特性が得られた。その後、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、断線などの損傷を受けていないことが確認された。
【0084】
(第5の実施例)
次に、本発明の第5の実施例について説明する。
【0085】
本実施例は、本発明の第2の実施形態の具体例として実施したものである。
【0086】
図16は、本実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、また、図17は、完成状態の限流素子の要部を表す概念図である。いずれの図においても、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【0087】
また、図16及び図17においても、図1乃至図15に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0088】
本実施例においても、第1実施例と同様な方法でYBCO薄膜4を作製した後、YBCO薄膜4の上に図16に示すようにYBCO薄膜線路の中央部から端部に向かって連続的に幅が大きくなるパターン形状を有するAg電極5をスパッタ法によりマスクを用いて作製した。これにより電流が集中しやすい部分に低抵抗金属があるために熱負荷を低減することができる。ここで、電極5の厚さは10μmとした。そして400℃、30分のアニールを行った後、図17に示すようにIn線6Bを用いて、線路4とAlN基板1の上のNi薄膜2とを並列接続した。
【0089】
この素子に50Hz、500Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、短絡電流1200Aを600Aに抑制可能であることが分かった。また、単位長さ当たりの許容電圧は60V/cmであった。そして、同様な条件で20回繰り返し試験したところ、いずれの場合も過電流を抑制し限流動作を確認した。この限流素子を試験後に液体窒素から取り出し光学顕微鏡にて表面観察をしたところ、断線や焼損などの損傷はないことが分かった。
【0090】
(第6の実施例)
次に、本発明の第6の実施例について説明する。
【0091】
図18は、本実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、同(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。図18においても、図1乃至図13に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0092】
本実施例においては、第1実施例と同様の超電導限流素子において、図18に表したように超電導薄膜線路4および導電性薄膜2を絶縁性グリース(商品名:アピエゾングリース)8により被覆した。その厚さは約2mmとした。
【0093】
この限流素子について、第1実施例より大きい600Vrmsの条件で限流特性を調べたところ、限流素子がない場合の短絡電流1400Aを400Aに抑制できることが分かった。単位長さ当たりの許容電圧は70V/cmであった。また、素子抵抗から素子の最大温度上昇を見積もると約250Kであった。このような試験を20回繰り返した後に限流素子を液体窒素から取り出し、トルエン等の有機溶剤によりグリースを取り除き、表面を光学顕微鏡で観察したところ、超電導薄膜の断線や焼損などは見られなかった。
【0094】
(比較例)
第1実施例の素子を絶縁性グリースで被覆せずに、600Vrmsの条件で限流試験を行った際、放電による光が観測された。そのときの素子に発生した最大電圧から抵抗を見積り、素子温度に換算すると、約350Kであった。そこで、限流素子を液体窒素から取り出し表面観察した結果、目視においても超電導薄膜および導電性薄膜に多数の断線が観測された。
【0095】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0096】
例えば、基板、導電性薄膜、超電導薄膜線路、コンタクト層、配線などの各種の要素の材料や寸法は、当業者が適宜変更して本発明と同様の効果を得ることができる。
【0097】
また、前述した各実施例は、組み合わせることも可能であり、例えば、第5実施例に関して前述したコンタクト層5のパターン形状と、第3実施例に関して前述した絶縁膜7のパターン形状を組み合わせて、実施することも可能である。さらに、この際に、コンタクト層5や絶縁膜7のコンタクトホールのパターン形状は図示したものには限定されず、その他、各種の形状を用いることができる。
【0098】
また、第6実施例は、第1実施例にかかる限流素子に限られず、その他第2乃至第5実施例のいずれの限流素子についても同様に適用して同様の効果を得ることができる。
【0099】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、限流素子の超電導薄膜線路に対する電流注入領域を制御することにより、線路に流入する電流経路を調節し、線路の端における電流集中を緩和することができる。
【0100】
また、本発明によれば、コンタクト層のパターン形状を工夫することにより、電流が集中する部分の線路の熱負荷を低減できる。
【0101】
さらに、本発明によれば、絶縁性被覆を設けることにより、超電導薄膜および導電性薄膜の温度上昇を抑制できる。
【0102】
すなわち、本発明によれば、超電導薄膜の断線を防止することができ、許容電圧の向上が可能となり、産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の限流素子の構成を概念的に例示する説明図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図2】本発明の限流素子の具体例を表す概念図である。すなわち、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図3】配線6Bを取り除いた状態を例示する平面図である。
【図4】本発明の第1実施例にかかる限流素子の製造手順を表す工程断面図であり、図2(b)に対応する断面図である。
【図5】試験回路を表す概念図である。
【図6】第1実施例による限流素子の典型的な限流特性を表すグラフである。
【図7】本発明の第2実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図8】第2実施例の完成状態の限流素子の要部を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図9】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図10】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図11】本発明の第3実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図12】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図13】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図14】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図15】本発明の第4実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図16】本発明の第5実施例にかかる限流素子の製造途中の状態を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図17】第5実施例の完成状態の限流素子の要部を表す概念図であり、(a)はその平面図、(b)はそのA−A’線断面図である。
【図18】本発明の第6実施例にかかる限流素子の製造工程を表す概念図であり、同(a)はその平面図、同図(b)はそのA−A’線断面図である。
【図19】本発明者が本発明に至る過程で試作した素子の構成を表す概念図であり、同図(a)はその平面図、同図(b)はそのC−C’線断面図である。
【図20】配線106Bを取り除いた状態を表す平面図である。
【図21】臨界電流Icにばらつきがある場合の電流の経路を例示した概念図である。
【符号の説明】
1、101 導電性薄膜の基体
2、102 導電性薄膜
3、103 超電導薄膜の基体
4、104 超電導薄膜線路
5、105 コンタクト層
6、106 配線
7 絶縁性薄膜
8 電気絶縁性被膜
Claims (6)
- 導電性薄膜と、
超電導薄膜線路と、
前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを前記超電導薄膜線路の主面上に設けられた電流注入領域を介して接続する配線と、
を備え、
前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記電流注入領域の幅は、前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いことを特徴とする超電導限流素子。 - 前記電流注入領域と前記配線との間に設けられたコンタクト層をさらに備え、
前記超電導薄膜線路の幅方向にみて、前記コンタクト層の幅は、超電導薄膜線路の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1記載の超電導限流素子。 - 前記超電導薄膜線路と前記配線との間に設けられた絶縁膜をさらに備え、
前記絶縁膜は、前記超電導薄膜線路の幅方向にみて前記超電導薄膜線路の幅よりも狭いコンタクトホールを有することを特徴とする請求項1記載の超電導限流素子。 - 前記絶縁膜と前記超電導薄膜線路との間に設けられたコンタクト層をさらに備えたことを特徴とする請求項3記載の超電導限流素子。
- 導電性薄膜と、
超電導薄膜線路と、
前記超電導薄膜線路の主面上に設けられたコンタクト層と、
前記コンタクト層を介して前記導電性薄膜と前記超電導薄膜線路とを接続する配線と、
を備え、
前記超電導薄膜線路の長手方向にみた前記コンタクト層の長さは、超電導薄膜線路の中央部において短く、線路端部において長く形成されたことを特徴とする超電導限流素子。 - 前記導電性薄膜および前記超電導薄膜線路を電気絶縁性材料により被覆したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の超電導限流素子。
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