JP2012129400A - S/n転移型限流器 - Google Patents
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Abstract
【課題】S/N転移型限流器に於いて通常運転時の超電導時において常伝導電極と超電導体との接続部分の電力損失を減少させ、よって系統正常時・待機状態での電力損失を減少させる。
【解決手段】常時は超電導状態に保持されて電力系統間に接続され、事故発生時は超電導状態から常伝導状態への転移に基づく抵抗増大によって電力系統間に流れる故障電流の増加を抑制可能な超電導限流素子1を備えるS/N転移型限流器において、少なくとも超電導状態において超電導体3との接続面14に60度〜120度の方向から電流を流入させる流入電極4と、超電導体3との接続面14から60度〜120度の方向に電流を流出させる流出電極5を備えている。
【選択図】図1
【解決手段】常時は超電導状態に保持されて電力系統間に接続され、事故発生時は超電導状態から常伝導状態への転移に基づく抵抗増大によって電力系統間に流れる故障電流の増加を抑制可能な超電導限流素子1を備えるS/N転移型限流器において、少なくとも超電導状態において超電導体3との接続面14に60度〜120度の方向から電流を流入させる流入電極4と、超電導体3との接続面14から60度〜120度の方向に電流を流出させる流出電極5を備えている。
【選択図】図1
Description
本発明は、超電導体の超電導(Superconductor)/常伝導(Normal conductor)転移(S/N転移)を利用するS/N転移型の限流器に関する。
超電導体特有のS/N転移を利用した限流器として、S/N転移型限流器が知られている。超電導体は超電導状態では電気抵抗がほとんど0であるが、臨界電流値を超えるような電流が流れた場合に超電導体が常伝導状態に転移することによって発生する電気抵抗を利用してこの電流を抑制するものである。そのため、外部に故障検出回路を必要としない受動型の限流器である。
このS/N転移型限流器では、図25に示すように、薄膜状の超電導体101を備える超電導限流素子102の両端に板状の常伝導電極103を接続し、電流を超電導体101に対して平行な方向から流入させると共に、平行な方向に向けて流出させている。
笠原,他 「S/N転移型限流器の超電導素子電極における電流分布」,電気学会 基礎・材料部門 パルスパワー研究会 研究会資料,2008.12.26
しかしながら、上記のS/N転移型限流器では、超電導時において、流入側の常伝導電極103と超電導体101との接続部分ではその接続面積を十分に確保しても電流が接続面の手前側の部分(超電導体101の端の部分)に集中してしまう。そのため、ジュール損失が大きくなり、電力損失が大きくなる。
本発明は、超電導時において入流側の常伝導電極と超電導体との接続部分の電力損失を減少させることができるS/N転移型限流器を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、常時は超電導状態に保持されて電力系統間に接続され、事故発生時は超電導状態から常伝導状態への転移に基づく抵抗増大によって電力系統間に流れる故障電流の増加を抑制可能な超電導限流素子を備えるS/N転移型限流器において、少なくとも超電導状態において超電導体との接続面に対して60度〜120度の方向から電流を流入させる流入電極と、超電導限流体との接続面に対して60度〜120度の方向に電流を流出させる流出電極を備えるものである。
ここで、請求項2記載のS/N転移型限流器のように、流入電極及び流出電極は、電力系統側に接続される上面と超電導体に接続される底面とを有し、超電導体との接続面の長さを1とすると高さが1以上の多面体形状であることが好ましい。
また、請求項3のS/N転移型限流器は、超電導限流素子を複数備えており、直列又は並列、あるいは直列及び並列に接続したものである。
本発明のS/N転移型限流器によれば、超電導体と流入電極又は流出電極との接続部分での電流の集中を防止することができるので、電力損失を抑えることができる。
また、超電導限流素子を複数備え、各超電導限流素子を直列に接続することで電圧の容量を増加させることができ、各超電導限流素子を並列に接続することで電流の容量(臨界電流値)を増加させることができる。また、各超電導限流素子を直列に接続すると共に並列に接続することで、電流及び電圧の容量をともに増加させることができる。
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に本発明のS/N転移型限流器の実施形態の一例を示す。なお、図1において(B),(C)はそれぞれ(A)の対応部分を拡大した図である。S/N転移型限流器(以下、単に限流器という)は、常時は超電導状態に保持されて電力系統間に接続され、事故発生時は超電導状態から常伝導状態への転移に基づく抵抗増大によって電力系統間に流れる故障電流の増加を抑制可能な超電導限流素子1を備えている。
超電導限流素子1は、例えば基板2上に薄膜状の超電導体3を成膜したもので、超電導体3の材料としては、例えばイットリュウム系銅酸化物(YBCO:YBa2Cu3O7)である。ただし、超電導体3の材料としては、必ずしもYBCOに限るものではなく、例えばBi2Sr2Cu2O3やBi2Sr2CuO2系の超電導体、金属系の低温超電導体等の使用も可能である。また、薄膜状の超電導体3に限るものではなく、例えばテープ状、線状等の超電導体3でも良い。基板2は絶縁性のものであれば使用可能であり、例えばサファイア基板である。ただし、必ずしもサファイア基板に限るものではなく、例えばチタン酸ストロンチウムや酸化マグネシウムなどの酸化物基板等でも良い。
本実施形態では、超電導限流素子1は細長い長方形の板状を成している。ただし、超電導限流素子1の形状は、必ずしも長方形に限るものではなく、その他の形状でも良い。
超電導体3の表面には保護膜11が設けられている。本実施形態では超電導体3の表面の両端に保護膜11を設け、超電導体3の表面を保護すると共に、後述する流入電極4及び流出電極5との接着を良好にしている。保護膜11は例えば流入電極4及び流出電極5を接着する接着材6との相性を考慮して決定される。本実施形態の保護膜11はAgの蒸着膜である。ただし、Ag蒸着膜に限るものではなく、例えばAu蒸着膜、Au−Ag合金の蒸着膜等でも良い。保護膜11は流入電極4及び流出電極5を接着する位置よりも若干広い位置に設けられている。ただし、保護膜11を設けなくても超電導体3と流入電極4及び流出電極5との接着を良好に行うことが可能な場合等には保護膜11を設けなくても良い。
超電導体3の両端には、常伝導電極である流入電極4と流出電極5が接続されている。流入電極4及び流出電極5は、例えば銅電極である。ただし、流入電極4及び流出電極5の材料は必ずしも銅に限るものではなく、例えば、アルミニウム等でも良い。
少なくとも超電導限流素子1の超電導状態において、流入電極4は超電導体3との接続面14に対して60度〜120度の方向から電流を流入させるものであり、流出電極5は超電導体3との接続面14に対して60度〜120度の方向に電流を流出させるものである。電流の方向(角度θ)を接続面14に対して60度〜120度とすることで、電流の部分的な集中を抑制し、接続面14に対して電流を広く分散させることができる。なお、角度θを60度〜120度にすれば接続面14に対して電流を分散させてジュール損失を減少させるという効果を十分に得ることはできるが、角度θを80度〜100度にすることで電流をより分散させてジュール損失をより減少させることができることから角度θを80度〜100度とすることが好ましい。さらに、角度θを90度、即ち接続面14に対して垂直方向にすることで電流を更に分散させてジュール損失を更に減少させることができることから角度θを90度又はほぼ90度にすることが最も好ましい。本実施形態では流入電極4は超電導体3との接続面14にその垂直方向(θ=90度)から電流を流入させるものであり、流出電極5は超電導体3との接続面14からその垂直方向 (θ=90度)に電流を流出させるようにしている。
ここで、流入電極4及び流出電極5としては、超電導体3との接続面14に対して上述の方向に電流を流入又は流出させるものであれば特にその形状や大きさは制限されるものではないが、本実施形態では流入電極4及び流出電極5として、接続面14の長さ(図1の左右方向の寸法)を1とすると高さ(図1の上下方向の寸法:厚み)が1以上の直方体形状(立方体形状を含む)の電極を使用している。流入電極4及び流出電極5を当該形状にすることで、超電導体3との接続面14に対して垂直又は垂直に近い方向に電流を流入又は流出させることが可能であり、少なくとも60度〜120度の方向に電流を流入又は流出させることは可能である。なお、流入電極4及び流出電極5の幅(図1の紙面に対して垂直方向の寸法)は、電流の流れる方向に対して影響を与えないことから、接続面14の面積を確保できるように決定される。
ただし、流入電極4及び流出電極5の形状は、必ずしも上述の直方体形状に限るものではなく、電力系統側に接続される上面4a,5aと超電導体3に接続される底面4b,5b(接続面14)とを有し、超電導体3との接続面14の長さ(L)を1とすると高さ(H)が1以上の多面体形状であれば良い。例えば、側面が平行四辺形、上面,底面,前後面が長方形又は正方形の六面体形状(図22)、円柱形状(図23)、楕円柱形状(図24)、三角柱形状、五角柱形状、等でも良い。これらの場合にも、接続面14に対して電流を分散させることができる。
本実施形態では、流入電極4と流出電極5として同じ形状のものを使用している。ただし、流入電極4と流出電極5として異なった形状のものを使用しても良い。
流入電極4及び流出電極5を流れる電流の方向は、例えば市販の装置類を使用して解析可能である。例えば、市販の電磁界解析ソフトウェア(例えば株式会社JSOL製、JMAG-Studio9.0)を使用して解析可能である。解析結果に基づいて各電極4,5を設計する。
超電導体3と流入電極4及び流出電極5は接着材6によって接着されている。本実施形態では、接着材6としてインジウムが使用されている。即ち、インジウム板6を超電導体3と流入電極4又は流出電極5との間に挟み込んで常温で加圧し、インジウム板6を潰すようにして圧着する。インジウム板6の粘性によって超電導体3と流入電極4又は流出電極5とが接着される。熱をかけずに接着できるので、超電導体3の劣化を防止することができる。
図3に示すように、流入電極4は電力系統13の発電所側に接続され、流出電極5は電力系統13の電力消費地側に接続されている。1つの超電導限流素子1から限流器12を構成しても良いが、複数の超電導限流素子1から限流器12を構成しても良い(図4)。
流入電極4は超電導体3へと流れる電流を接続面14に対して垂直方向に流入させるので、電流は接続面14に対して広く分散しながら流れ、特定の部位への集中を抑制することができる(図1の矢印参照)。したがって、流入電極4と超電導体3との接続部分におけるジュール損失が減少し、電力損失を減少させることができる。
また同様に、流出電極5は超電導体3から流出した電流を接続面14に対して垂直方向に流すので、電流は接続面14に対して広く分散し、特定の部位への集中を抑制することができる。したがって、流出電極5と超電導体3との接続部分におけるジュール損失が減少し、電力損失を減少させることができる。
複数の超電導限流素子1をユニット化しても良い。複数の超電導限流素子1をユニット化した限流素子ユニット7を図5及び図6に示す。本実施形態では、例えば8枚の超電導限流素子1をパイプ状に組み付けてユニット化している。本実施形態では、横断面形状が8角形のパイプ10の外周面に超電導限流素子1を固着させることで、各超電導限流素子1をパイプ状に組み付けている。組み付けにパイプ10を使用することで、組み付けが容易になると共に、ユニットとしての剛性を確保することができ、また、内側に冷媒を循環させることが容易になる。ただし、超電導限流素子1を組み付ける数は8枚に限るものではなく、その他の枚数でも良い。また、パイプ10の各周面の全てに超電導限流素子1を固着させても良いが、全ての周面に固着させなくても良い。また、組み付けにパイプ10を使用しなくても良い。さらに、各超電導限流素子1を必ずしもパイプ状に組み付ける必要はなく、例えば同一平面上に複数の超電導限流素子1を並べるように組み付けても良く、その他でも良い。
各超電導限流素子1の流入電極4及び流出電極5は環状に並べられており、各電極4,5の上面に環状の集合電極(常伝導電極)8,8が巻回されている。集合電極8は、線状の導電体をコイル状に巻回したものでも良いし、板状の導電体を巻回したものでも良く、あるいはその他でも良い。集合電極8によって複数の超電導限流素子1を束ねることで複数の超電導限流素子1が並列に接続され、電流容量(臨界電流値)を増加させることができる。
超電導限流素子1は集合電極8を巻き締めることによってパイプ10の周面に固定される。即ち、集合電極8を超電導限流素子1を固定するベルトとして利用している。この様にすることで、温度変化による膨張・収縮が生じても超電導限流素子1の固定を維持することができると共に、繰り返しの着脱が可能となって超電導限流素子1やパイプ10等の繰り返しの使用が可能になる。ただし、超電導限流素子1をパイプ10に固定する手段としては集合電極8のベルト利用に限るものではなく、例えばインジウム等の柔らかい金属を接着材として使用したり、極低温用の接着材や樹脂等を使用しても良い。また、超電導限流素子1をパイプ10に対して着脱可能にしなくても良い。
限流素子ユニット7は、例えばソケット9に接続されて使用される。ソケット9には1対の接続電極(常伝導電極)9a,9aが設けられており、各電極9aに限流素子ユニット7の集合電極8を嵌め込むことで、限流素子ユニット7が回路に接続される。
限流素子ユニット7の冷却は、限流素子ユニット7全体を図示しない冷媒中に沈めるようにしても良いし、限流素子ユニット7内即ちパイプ10内に冷媒を循環させるようにしても良い。限流素子ユニット7内に冷媒を循環させる場合には、冷媒の循環量を調節することで超電導体3の冷却をコントロールすることが可能である。また、この場合には、基板2を冷却することで超電導体3を冷却するので、液体の冷媒が蒸発した気体層によって超電導体3の表面が覆われて断熱されることがないので、冷却をより良好に行うことができる。
複数のソケット9を直列及び並列に接続することで、複数の超電導限流素子1を直列及び並列に接続することができる。これにより、複数の超電導限流素子1が直列及び並列に接続される。複数の超電導限流素子1を直列に接続することで電圧の容量を増加させることができる。また、複数の超電導限流素子1を並列に接続することで電流の容量を増加させることができる。本実施形態では、直列及び並列に接続しているので、電圧の容量と電流の容量をともに増加させることができる。ただし、必ずしも直列と並列の両接続にする必要はなく、直列又は並列の接続にしても良い。つまり、限流器として必要な電圧,電流の容量になるように必要数の超電導限流素子1を接続すれば良い。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、上述の説明では、超電導体3の流入電極4及び流出電極5の接続位置及びその近傍に保護膜11を設けていたが、保護膜11を設ける位置はこれに限るものではなく、例えば超電導体3の表面全体に保護膜11を設けても良い。超電導体3の表面全体に保護膜11を設ける場合には、上述のように電極4,5の接着を良好にする機能(電気的接触)に加えて、超電導体3を外気による浸食から保護する機能(保護機能)、常伝導転移時に電流の一部を保護膜11に分流させて超電導体3の急激な温度上昇を抑制する機能(安定化材機能)を発揮させることができる。
電磁界解析ソフト(JMAG-Studio9.0)を用いた電磁界解析を行い、本発明によって超電導体3と流入電極4との接続面14において電流の集中を抑制できることを確認するための実験を行った。なお、実験は流入電極4のみについて行い、電流の流れる方向が逆である流出電極5については行っていないが、電流の流れる方向が逆であっても接続面14に対する電流の集中・分散については同様に考えられるので、流出電極5についても同様である。
(解析条件)
限流素子とCu電極について、有限要素法・境界要素法を組み合わせた2次元電磁界解析を行った。解析形状は図7の形状を想定した。図7の部材と本発明の部材の対応は、Y系超電導膜(YBCO薄膜):超電導体3、Cu電極:流入電極4、Ag蒸着膜(Ag膜):保護膜11、サファイア基板:基板2、Inハンダ:接着材6である。また、X方向:長さ方向、Y方向:厚み(高さ)方向、Z方向:幅方向である。このモデル素子の臨界電流値は70〜80Aとされている。節点数7390、要素数3395を基本として計算した。要素分割の妥当性を検討するため、特に電流が集中するAg蒸着膜の端部を中心にX軸方向(電流が流れる方向=図7の電流が流れる方向)に対し10倍の密度でメッシュ分割して解析したが、解析結果に変化はなかった。サファイア基板は電流が流れないためモデル化していない。境界条件として、Cu電極の左端に0Vの電位を、通電電流を臨界電流値と同じ80Aとなるように、電流密度を設定した。なお、2次元解析ではあるが、モデルは奥行き(幅)1mmの3次元モデルとして解析している。
限流素子とCu電極について、有限要素法・境界要素法を組み合わせた2次元電磁界解析を行った。解析形状は図7の形状を想定した。図7の部材と本発明の部材の対応は、Y系超電導膜(YBCO薄膜):超電導体3、Cu電極:流入電極4、Ag蒸着膜(Ag膜):保護膜11、サファイア基板:基板2、Inハンダ:接着材6である。また、X方向:長さ方向、Y方向:厚み(高さ)方向、Z方向:幅方向である。このモデル素子の臨界電流値は70〜80Aとされている。節点数7390、要素数3395を基本として計算した。要素分割の妥当性を検討するため、特に電流が集中するAg蒸着膜の端部を中心にX軸方向(電流が流れる方向=図7の電流が流れる方向)に対し10倍の密度でメッシュ分割して解析したが、解析結果に変化はなかった。サファイア基板は電流が流れないためモデル化していない。境界条件として、Cu電極の左端に0Vの電位を、通電電流を臨界電流値と同じ80Aとなるように、電流密度を設定した。なお、2次元解析ではあるが、モデルは奥行き(幅)1mmの3次元モデルとして解析している。
導電率は表1の値を用いた。ここで計算を収束させるために、超電導体の導電率を有限の値とした。また77Kにおいて超電導体との導電率の比を大きくするために、Ag、In、Cuにおいて導電率を3桁小さくしている。
なお、常伝導転移後の解析については、全体が発熱し、300Kで平衡した状態を仮定している。厳密に考えると、冷却と発熱から温度勾配が存在し、その温度により各部の導電率が変化しているはずであるが、ここでは常伝導時の傾向を掴むことを目的として300K平衡した時を仮定した解析を行った。
(解析結果)
(超電導状態における電流分布)
図8にCu電極部分を拡大した、77Kの超電導状態における電位分布を示す。超電導体は導電率が良いため電位勾配は発生せず、全体を見ると電位差は常伝導体であるCu電極部で生じている。
(超電導状態における電流分布)
図8にCu電極部分を拡大した、77Kの超電導状態における電位分布を示す。超電導体は導電率が良いため電位勾配は発生せず、全体を見ると電位差は常伝導体であるCu電極部で生じている。
図9に同じ部分の電流密度のベクトル表示を示す。77KにおいてはCu電極とInハンダが最初に接した点の電流密度ベクトルが一番大きく、電流はそこに集中して流れていることがわかる。また図9(B)より電流はCu電極から超電導体(超電導体3)への最短距離を流れ、Ag蒸着膜やInハンダの部分では左端の最短部を通過するのみである。図10にInハンダ上面での横方向(X軸方向)の各位置での電流密度を示す。このようにCu電極とInハンダが接した部分では、電流は電極部の約1/3でほとんどが超電導体に流れており、Cu電極の右の部分はほとんど電流が流れていないことを示している。
このケースで電極部下部のInハンダにおけるジュール損失を計算したところ0.423Wであった。
(300Kにおける電流分布)
図11にモデル全体が300Kの温度へ移行した場合の全体の電位分布を示す。300Kにおける超電導体はCu電極やAg蒸着膜と比べて1桁大きな抵抗率を持つため、電位勾配はこの超電導体でつくことになる。
図11にモデル全体が300Kの温度へ移行した場合の全体の電位分布を示す。300Kにおける超電導体はCu電極やAg蒸着膜と比べて1桁大きな抵抗率を持つため、電位勾配はこの超電導体でつくことになる。
図12に図9と同じCu電極付近の電流密度のベクトル表示を示す。77Kの時と違い電流はCu電極の右端に集中している。特に図12(B)に示すように大きな電流密度ベクトルが表示されている。このことは、電流は電気抵抗が一番小さくなる経路を選択するため、300Kにおいて一番導電率の大きいAg蒸着膜とCu電極の部分を結んだ最短のラインに集中して流れることによる。これにより電流はまずCu電極を流れ右端に集中し最短距離でAg蒸着膜に流れている。この電流の集中は限流素子(超電導限流素子1)全体が完全に常伝導転移した後はCu電極の長さは関係がないことを示している。
図13にInハンダ上面での横方向(X軸方向)の各位置での電流密度を示す。このようにCu電極とInハンダが接した部分では、Inハンダの右端に電流の集中があり、Cu電極の中央部分ではInハンダへは、ほとんど電流が流れていないことがわかる。
YBCO薄膜にAg蒸着膜を蒸着した端部(図7における右上丸囲み部分)における電流密度分布を図14に示す。図14(A)はAg蒸着膜の端部の拡大図であり、これを図14(B)に端部両側の要素を示す。このA−B間の要素に於ける電流密度の大きさは図14(C)のようになり、電流は導電率に厚さを乗じた抵抗値に反比例して流れている。このすぐ右のAg蒸着膜のないB−C間の要素に於ける電流密度の値を図14(D)に示す。このように厚さ方向に均一に電流が流れている。これよりAg蒸着膜端部において、Ag蒸着膜からYBCO薄膜への電流の転流はA−B間、B−C間ともに厚み方向の電流密度の差がないため、この区間でスムーズに分流されていることがわかる。
このように常伝導転移後、全体が300Kに昇温した場合の解析については、Inハンダ部分、Ag蒸着膜端部での電流集中より導電率が1桁低い超電導体で全体の9割以上の発熱が発生するため、損失(発熱)は超電導体が中心となり、電流集中により超電導体が破壊されることは無いと考えられる。
(電極構造を変化させたときの電流分布)
図15のように、(A)Cu電極の厚さを1/3にしたもの、(B)Cu電極の接触部を1/4にしたもの、(c)Cu電極の先端を削ったもの、(d)電極にくびれを持たせ電流の均一化を図ったもの、(e)立方体形状(2次元解析であるため幅を考慮したものではないが、長さと高さを同寸法にしているので、ここでは電流の流れる方向に対して影響しない幅については考慮せずにあえて立方体形状という)で上面より電流を通電したものについて解析を行った。評価の方法としては電流の集中によりジュール損失が電流値の二乗で増加することに着目し、いずれのケースでも使用量がほぼ同じIn部分で発生するジュール損失で比較した。
図15のように、(A)Cu電極の厚さを1/3にしたもの、(B)Cu電極の接触部を1/4にしたもの、(c)Cu電極の先端を削ったもの、(d)電極にくびれを持たせ電流の均一化を図ったもの、(e)立方体形状(2次元解析であるため幅を考慮したものではないが、長さと高さを同寸法にしているので、ここでは電流の流れる方向に対して影響しない幅については考慮せずにあえて立方体形状という)で上面より電流を通電したものについて解析を行った。評価の方法としては電流の集中によりジュール損失が電流値の二乗で増加することに着目し、いずれのケースでも使用量がほぼ同じIn部分で発生するジュール損失で比較した。
300Kにおいては、Ag蒸着膜およびYBCO薄膜の電位分布はいずれの電極形状でも図11に示したものとほぼ同じである。これは超電導体の導電率がAg蒸着膜に比べて1桁ほど小さいことによる。発生するジュール損失も超電導体部が他の部分より4桁以上大きいため、いずれの電極形状でもジュール損失はYBCO薄膜での値が問題となる。
以下は77Kでの解析結果を述べる。
77Kにおいて、図7でのInハンダ部分でのジュール損失は、約0.423Wであった。
図16(A)に図15(A)の電極厚みを1/3にしたときの電位分布を、図16(B)に電極付近の電流密度分布を示す。電極厚みが減ったため抵抗が大きくなり電位勾配がCu電極部で大きく出ている。電流も電極接続部の左側に集中している。このときInハンダ部分でのジュール損失は0.938Wと図16(A)の時と比べて約2倍の損失が発生する。これは、図9(A)と図16(B)の電流密度の分布を見ればわかるように、図16(b)の方がInハンダでの電流集中が大きいため、このような差が発生するものと思われる。
図17(A)に図15(B)の電極接続長を1/4にしたときの電位分布を、図17(B)に電極付近の電流密度分布を示す。電流密度ベクトルの様子は、図9とほぼ同様であり、接続部の長さは短くしてもあまり影響はないと言える。このときInハンダでのジュール損失は1.099Wと図9(A)の時の約2.6倍になっている。
図18(A)に図15(C)の電極先端部を削ったときの電位分布を、図18(B)に電極付近の電流密度分布を示す。いずれも図8と図9と同様であり電極を削った事によるデメリットは見られない。このときInハンダ部分でのジュール損失も0.490Wと図9(A)の時とほぼ同等であり、この形状であれば、通常のCu電極に比べ材料を3/4に削って同等の性能が得られることを示している。
図19(A)に図15(D)に示すくびれた形状の電極に通電したときの電位分布を、図19(B)にCu電極付近の電流密度分布を、そして図19(C)にはInハンダ部分のみでの電流密度分布を示す。Cu電極のくびれにより電流が長手方向に分散したことにより、Inハンダ部分ではほぼ均一に電流が分散して流れている。また、このときのInハンダ部分でのジュール損失は0.348Wと電流分散化の効果が現れている。
図15(D)の形状から、垂直方向に通電した場合に、電流が拡散して流れることが期待された。そこで図15(E)のように、立方体形状のCu電極に上部から電流が流れるようにしたときの解析結果を示す。図20(A)が電位分布で、図20(B)がCu電極付近の電流密度分布である。また図20(C)はCu電極とInハンダが接触した部分における電流密度分布である。期待通りにInハンダ部分で分散して超電導体に電流が流れている。この時、素子全体の電流密度分布を図20(D)に示す。電流はCu電極付近でAg蒸着膜から超電導体に流れ込んでいる。このケースでのInハンダ部分でのジュール損失は0.259Wと図9(A)の時と比べて6割程度に抑えられている。
In部分でのCu電極形状による損失値を表2(電極形状による77KでのInハンダ部分でのジュール損失の変化)に示す。
図15(E)の形状で77KにおけるAg蒸着膜および超電導体に流れ込む電流密度を求めた。図21に示す6点について電流密度を表3(図21における各要素での電流密度[A/m2])に示す。Inハンダ部分では端部を除いてB節点〜D節点の両側でほぼ均一な電流密度となっている。同様にAg蒸着膜でもInハンダに接する部分では、均一の電流密度でYBCO薄膜に電流が流れ込んでいる。Ag蒸着膜ではF節点とG節点と電流密度は減少しているが、YBCO薄膜を流れる電流に比べて4桁ほど小さい変化なので無視できる。YBCO薄膜に流れる電流値はE点より右側ではほとんど変化しない。YBCO薄膜の電流密度はA節点からD節点まで電流密度が少しずつ高くなっているが、E節点より右ではほぼ均一になっている。B節点とH節点の電流密度を比較すると4倍くらいの上昇でしかない。
また、In、Ag、YBCOいずれの部分でも厚み方向に電流密度の変化はなく、均一に流れている。
(結論)
以上のように、限流素子のCu電極部における電流分布を、超電導状態と常伝導状態において解析した。その結果、超電導体との接続面にその垂直方向から電流を流入させるCu電極の構造では、超電導体への電流が接続面にほぼ均一に流れ込み、電極下部のIn部分のジュール損失で比較した場合でもこれまでの構造と比較して約6割に抑えられることがわかった。即ち、本発明の有効性が確認できた。
以上のように、限流素子のCu電極部における電流分布を、超電導状態と常伝導状態において解析した。その結果、超電導体との接続面にその垂直方向から電流を流入させるCu電極の構造では、超電導体への電流が接続面にほぼ均一に流れ込み、電極下部のIn部分のジュール損失で比較した場合でもこれまでの構造と比較して約6割に抑えられることがわかった。即ち、本発明の有効性が確認できた。
また、Cu電極の形状を立方体形状とすることで、超電導体との接続面にその垂直方向から電流を流入させることができることも確認できた。一般的にCu電極の形状はその高さが高い直方体形状の方が立方体形状よりも電流の流れる方向を超電導体との接続面に対して垂直方向にし易いので、Cu電極の形状を、接続面の長さを1とすると高さが1以上の直方体形状とした場合も当然に、超電導体との接続面にその垂直方向から電流を流入させることができる。
なお、常伝導転移後、300Kで温度平衡した場合を想定した解析を行った結果、導電率が1桁低い超電導体で全体の9割以上の発熱が発生し、主な電位勾配は超電導膜部で生じる。Cu電極から超電導体へは1点に集中して流れ込むものの、損失としては超電導体のジュール損失が2桁大きいため、完全な常伝導転移後については電流集中によるCu電極部の破損は考慮しなくても良い。
1 超電導限流素子
3 超電導体
4 流入電極
5 流出電極
14 接続面
3 超電導体
4 流入電極
5 流出電極
14 接続面
Claims (3)
- 常時は超電導状態に保持されて電力系統間に接続され、事故発生時は超電導状態から常伝導状態への転移に基づく抵抗増大によって電力系統間に流れる故障電流の増加を抑制可能な超電導限流素子を備えるS/N転移型限流器において、少なくとも超電導状態において超電導体との接続面に対して60度〜120度の方向から電流を流入させる流入電極と、前記超電導体との接続面に対して60度〜120度の方向に電流を流出させる流出電極を備えることを特徴とするS/N転移型限流器。
- 前記流入電極及び前記流出電極は、前記電力系統側に接続される上面と前記超電導体に接続される底面とを有し、前記超電導体との接続面の長さを1とすると高さが1以上の多面体形状であることを特徴とする請求項1記載のS/N転移型限流器。
- 前記超電導限流素子を複数備え、直列又は並列、あるいは直列及び並列に接続したことを特徴とする請求項1記載のS/N転移型限流器。
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- 2010-12-16 JP JP2010280506A patent/JP2012129400A/ja active Pending
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