JP3697822B2 - 破断分離が容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼 - Google Patents

破断分離が容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼 Download PDF

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのコネクティングロッドのように、鍛造によって部品形状を与えられ、その後に2個以上の部品に破断分離して用いる部品の材料であって、破断分離が容易に行なえる熱間鍛造用の高強度非調質鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したコネクティングロッドのような、鍛造後に2個以上の部品に分離して用いる部品は、従来は、最終的な形状に一体で鍛造し、必要によっては仕上げ加工を施した後、機械加工によって2個に切断分離されていた。この製造方法によるときは、切断部分に切り代として余分な材料を要するとともに、切断後、内面を切削加工または研磨などによって仕上げる必要があり、その作業に多大な時間を要し、高いコストがかかっていた。
【0003】
これらの問題を解決する方策の一つとして、粉末焼結鍛造プロセスを採用することが提案されたが、粉末焼結鍛造は、プロセス自体が複雑であり、生産性が低く、コスト低減には結びつかない。
【0004】
一般の溶製材を熱間鍛造して得られる部品は、機械構造部品に要求される強度を与える20〜30HRCの硬さ範囲では、十分な靭性を有しているため、破断による分離を行なうと、破断面の一部に、衝撃試験時に見られるシアーリップのような大きな塑性変形が生じ、破断分離したままでは、破面を正確に合わせることが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、溶製材を熱間鍛造して一体の部品形状を与えたものを、2個以上に分離して使用する部品の材料として適切なものであって、分離のための作業時間を短縮し、材料の歩留まりを向上させるため、機械加工による切断を行なわなくても、衝撃により容易に破断分離することができるような、熱間鍛造用の高強度非調質鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の破断分離が容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼は、重量基準で、C:0.30〜0.60%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.05〜0.20%、Cu:0.03〜0.50%、Ni:0.03〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%、V:0.05〜0.50%、s−Al:0.010〜0.045%およびN:0.005〜0.025%を含有し、残部Feおよび不純物からなる合金組成を有し、熱間鍛造後に2個以上の部品に破断分離することが容易な鋼である。
【0007】
この熱間鍛造用の高強度非調質鋼は、上記した基本的な合金成分に加えて、Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.30%以下から選ばれる快削元素の、1種または2種以上を含有することができる。それにより、鍛造品の機械加工性が向上する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の破断分離が容易な熱間鍛造用の高強度非調質鋼は、熱間鍛造により部品形状にした後、2個以上の部品に破断分離させることが容易である。この破断は、主としてP添加による粒界破壊が要因として起こり、破断分離した破面の塑性変形量が小さく、破断面の密着性がよい。Pb、S、Te、CaおよびBiから選んだ快削元素の1種または2種以上を添加した合金組成を有するものは、鍛造品の機械加工がいっそう容易である。このように本発明の鋼は、自動車エンジンのコネクティングロッド等を製造する材料として好適に使用できる。
【0009】
以下に、本発明の破断分離が容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼を構成する合金成分の作用と、組成範囲の限定理由を説明する。
【0010】
C:0.30〜0.60%
Cは鍛造品の強度を確保するのに有効な元素であり、この効果を得るためには0.30%以上含有させることが必要である。過大になると硬さが高くなりすぎ、被削性が低下するので、0.60%以下とする必要がある。
【0011】
Si:0.05〜2.00%
Siは、鋼の溶製時に、脱酸剤として働く。その作用を確保し、かつ、含有量が多すぎると熱間加工性を低くするという弊害を避けるため、0.05〜2.00%の範囲から添加量を選ぶ。
【0012】
Mn:0.10〜1.00%、Cr:0.01〜0.50%
MnおよびCrは、パーライトの面積率を増加させるため、合金の硬さに大きく影響する。硬さが適切になるように、Mnは0.10〜1.00%、Crは0.01〜0.50%の範囲の添加量とする。
【0013】
P:0.05〜0.20%
Pは、粒界に偏析して靭性を低下させる元素であるから、その含有量を低く抑えられるのが普通であるが、鍛造品の破断分離を行なう本発明においては、塑性変形量を抑え、結果として破断面の密着性を向上させる働きをする成分として非常に有効であるから、0.05%以上の量を、積極的に添加する。しかし、あまり多量に添加すると、疲れ限度や熱間加工性を低下させるため、0.20%を限度とする。
【0014】
Cu:0.03〜0.50%、Ni:0.03〜0.50%
Cuは、析出硬化作用を示す元素であり、その結果、破断分離性を向上させる。過大に添加すると疲れ限度や熱間加工性を低下させるため、上記の0.03〜0.50%の範囲内の添加量をえらぶ。NiはCuと化合物を形成し、熱間加工性の低下を防ぐ。この作用を発揮させるため、NiはCuと同じ0.03〜0.50%の範囲内で、Cuとほぼ同量を添加する。
【0015】
V:0.05〜0.50%
Vは、Siと同様にフェライトを強化する元素であり、破断面の密着性を向上させる。またVは、疲労強度を大きく向上させるはたらきもある。これらの効果を得るために、0.05%以上のVの添加が必要である。多量の添加は経済的に不利となるため、0.50%を上限値として設定した。
【0016】
s−Al:0.010〜0.045%
s−Alは、溶製時に脱酸剤として作用する元素であり、0.010%以上添加する必要がある。多量の存在は熱間加工性や疲労強度を低下させるので、0.045%以下に限定する。
【0017】
N:0.005〜0.025%
NはVと窒化物を形成し、その窒化物の微細な析出により、フェライトを強化する働きのある成分であるから、Nもまた、Vと同様に、疲労強度の向上にとって有効な成分である。このような効果を得るためには、Nが0.005%以上含まれていることが必要である。しかし過剰に存在すると、圧延時に割れが発生しやすくなるなどの問題を生じるため、最大限0.025%までとする必要がある。
【0018】
Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.30%以下から選ばれる1種または2種以上
Pb、S、Te、CaおよびBiは、いずれも被削性を向上させる上で有効な元素であるから、鍛造品において被削性がさらに良好であることが要求される場合には、必要に応じて、これらのうちから選ばれる1種または2種以上を適量添加することが好ましい。添加量が多すぎると、熱間加工性や疲労限が低下するので、添加する場合、それぞれ、上記した限度、すなわちPbは0.30%、Sは0.20%、Teは0.30%、Caは0.01%、Biは0.30%を超えないようにする必要がある。
【0019】
【実施例】
表1(実施例)および表2(比較例)に示す合金組成の鋼を溶製し、インゴットに鋳造したものを熱間鍛造して、直径50mmの鍛造素材とした。この素材を1200℃で60分間加熱保持してから直径22mmの丸棒に熱間鍛造し、その鍛造品から試験片を切り出して、各種の試験に供した。一部の供試材については、ドリル加工能率を測定して、被削性を評価した。さらに一部の供試材については、高温で引張試験を行なって、熱間加工性を評価した。
【0020】
表1 実施例
Figure 0003697822
【0021】
表2 比較例
Figure 0003697822
【0022】
硬さは、上記の鍛造品の中心部の硬さを、ロックウェル硬度計で測定した値である。破断分離性の指標として、平行部直径10mm、切欠き底半径0.2mm、切欠き深さ1mmの切欠き引張試験片を用いて引張試験を行ない、試験片の塑性変形量を測定した。疲れ限度は、平行部直径8mmの平滑回転曲げ疲労試験片を用いて測定した。熱間加工性の評価は、直径6mmの試験片を1100℃で引っ張った後の、試験片の絞り値で評価した。被削性は、下記の条件によるドリル試験を行なって、ドリル加工能率として測定した。ドリル加工能率は、実施例のNo.1を100としたときの、相対的な値である。
工具:SKH51
送り:0.1mm/rev.
穴深さ:10mm
工具寿命判定:切削不能
【0023】
試験の結果を、表3(実施例)および表4(比較例)に示す。
【0024】
表3 実施例
Figure 0003697822
【0025】
表4 比較例
Figure 0003697822
【0026】
表のデータから、以下のことがわかる。
【0027】
比較例のNo.Aは、実施例のNo.1,2に比べてC含有量が低いため、塑性変形量は大きく、疲れ限度は低い。比較例のNo.Bは、C含有量が高すぎるために硬さが高くなりすぎており、ドリル加工能率が低い。
【0028】
比較例のNo.Cは、Si量が高すぎるために絞り値が低く、熱間加工性がよくない。また、硬さが高くなりすぎていて、ドリル加工能率が低い。
【0029】
比較例のNo.Dは、実施例No.1よりもP含有量が低いため、塑住変形量が大きい。それに対して比較例のNo.Eは、P含有量が高すぎるため、疲れ限度および絞り値が低下している。
【0030】
比較例のNo.Fは、Crを多量に含むため、比較例のNo.GはMnを多量に含むため、いずれも硬さが高くなりすぎており、ドリル加工能率が低い。
【0031】
比較例のNo.HはCuおよびNiの含有量が過大であるため、絞り値が低く、熱間加工性が低い。
【0032】
比較例のNo.IはV含有量が少ないため、実施例のNo.2と比べて硬さが低く、塑性変形量が大きいうえ、疲れ限度が低い。
【0033】
比較例のNo.Jは、s−Alを多量に含むため、比較例のNo.KはNを多量に含むため、実施例のNo.1にくらべ、疲れ限度および絞り値が著しく低い。
【0034】
Pbを過剰に漆加した比較例のNo.Lは、ほぼ同じレベルの合金元素を含む実施例のNo.1に比べて、疲れ限度および絞り値が著しく低下している。この結果から、被削性改善元素の過剰漆加は好ましくないことがわかる。
【0035】
実施例のNo.1〜No.7は、実用的な硬さ範囲、つまり20HRC以上30HRC以下において、疲れ限度、塑性変形量ともに、比較例のNo.A〜No.Lに比べてすぐれていることがわかる。また、実施例のNo.5〜No.7においては、Pb、S、Caの適度な添加により、疲れ限度が大きく低下することなく、被削性が改善されている。

Claims (2)

  1. 重量基準で、C:0.30〜0.60%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.05〜0.20%、Cu:0.03〜0.50%、Ni:0.03〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%、V:0.05〜0.50%、s−Al:0.010〜0.045%およびN:0.005〜0.025%を含有し、残部Feおよび不純物からなる合金組成を有し、部品形状に熱間鍛造した後に2個以上に破断分離することが容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼。
  2. 重量基準で、C:0.30〜0.60%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.05〜0.20%、Cu:0.03〜0.50%、Ni:0.03〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%、V:0.05〜0.50%、s−Al:0.010〜0.045%およびN:0.005〜0.025%を含有するとともに、Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.30%以下から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不純物からなる合金組成を有し、部品形状に熱間鍛造した後に2個以上に破断分離することが容易な熱間鍛造用高強度非調質鋼。
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