JP3697767B2 - 板幅方向に磁気特性の極めて安定した方向性けい素鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は板幅方向に磁気特性の極めて安定した方向性けい素鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は周知のごとく、変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、板面に{110}面、圧延方向に<001>軸が揃った2次再結晶粒によって構成されている。このような結晶方位の2次再結晶粒を発達させるためには、インヒビターとよばれる微細なMnS, MnSe, AlN等のような析出物を鋼中に分散させ、高温仕上焼鈍中に他方位の結晶粒成長を効果的に抑制することが必要である。そのためにはインヒビター分散形態をコントロールすることが有利で、このコントロールは熱間圧延に先立つスラブ加熱中にこれらの析出物を一たん固溶させ、その後適当な冷却パターンの熱間圧延を施すことにより行われる。この熱間圧延の役割は、スラブ鋳造組織を再結晶により微細化させ、2次再結晶に最適な集合組織を得ることにある。
【0003】
そこで、従来はインヒビターの固溶あるいは組織の微細化を個々に達成することに主眼が置かれていた。
例えばインヒビターの固溶に関して特開昭63−109115号公報には、スラブ表面温度を1420〜1495℃の温度域に5〜60分間保持するに際し、1320℃以上において、1420〜1495℃の温度域に達するまで8℃/分以上の昇温速度で昇温することにより、表面欠陥が少なく特性の良好な一方向性けい素鋼板が得られるとの開示がある。この方法により確かにインヒビターの完全固溶は達成でき、原理的にはスラブ表面における粒の粗大化も抑制され、表面性状も改善できる。しかしスラブのような重量物に対して均一にこのような条件を達成することは実際には困難であり、特にスラブ全長にわたって結晶粒粗大化を完全に抑制することは不可能で、組織の均一性を保証するためには熱間圧延時に何らかの結晶粒微細化の処理を加えることが必要である。
【0004】
一方組織微細化に関しては、例えば特開昭54−120214号公報(一方向性珪素鋼板の製造方法)に示された、1190〜960 ℃での再結晶高圧下圧延による方法、特開昭55−119126号公報(一方向性珪素鋼板の熱延法)で開示された、1230〜960 ℃でγ相を3%以上含んだ状態での30%以上の高圧下圧延による方法、特開昭57−114614号公報で開示された、粗圧延開始温度を1250℃以下にする方法および特開昭59−93828 号公報(方向性けい素鋼板用スラブの熱間圧延方法)で開示された、1050〜1200℃で歪速度が5S -1以下、圧下率を15%/パス以上とする方法などが既に知られている。これらはいずれも1200℃付近の温度域で、高圧下圧延を行って、組織微細化をはかるという点で共通している。すなわち、これらはいずれも「鉄と鋼」67 (1981) S1200 に発表されている再結晶限界に関する知見あるいはそれと同一の技術思想に基づいている。この知見の示すところは、高温での圧延は再結晶には全く寄与せず、低温の再結晶域での大きな歪付加のみが再結晶に寄与する点にある。すなわち高温加熱したスラブでも再結晶による組織微細化を狙うためには、1250℃以下に冷却後圧延することが必須であることを示している。上記の技術における加熱に関しては、いずれの場合も1250℃以上としており、上限は特に規定していない。長時間炉内に保持することにより、インヒビターを固溶して、スラブでの粒成長はある程度容認し、熱間圧延により微細粒化するという点が共通している。
【0005】
しかしながらインヒビターを完全固溶させるためにスラブを高温加熱し、微細粒化のため低温圧延するにはホットストリップミル上に冷却装置が必要であり、また低温の熱間圧延のためにミルパワーが余計に必要となるなど、省エネと高生産性を目的とする、ホットストリップミルの思想と矛盾する。また低温圧延の効果に関しても必ずしも明確でなかった。
つまりこれらの方法を実工程に適用するには、得られる効果に比べて余りにも問題が多かった。
【0006】
そこで、新たに特開平3−115526号公報(磁気特性及び表面性状の優れた一方向性けい素鋼板の製造方法)、特開平3−115527号公報(磁気特性及び表面性状の優れた一方向性けい素鋼板の製造方法)に開示されるように、インヒビターの完全固溶及び表面清浄改善に有利な高温加熱を適用した条件下でも、完全微細均一な組織が得られる高温での熱間圧延方法が発明された。
【0007】
ところが近年、コストダウンのためのロール材質、ロール径の改良、材料幅の多様化につれて、一部で上記発明でもカバーしきれない再結晶不良の発生が特に板幅方向の端部近辺にて散見されるようになってきた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記した再結晶不良の発生を有利に防止し、板幅方向に磁気特性の極めて安定した方向性けい素鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、板幅方向の再結晶不良は、スラブの粗大粒が残存して熱間圧延での再結晶が十分でない場合に発生することから高温加熱・高温圧延を適用した熱間圧延条件について実験検討を重ねた結果、粗圧延中の再結晶を有効に発生させるための条件を新規に見出し、この発明を完成したものである。
すなわち、この発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0010】
C:0.10wt%以下およびSi:2.0 〜4.0 wt%を含有する方向性けい素鋼板用スラブを、フェライト単相温度領域に加熱し、熱間圧延を施したのち、そのまま、または熱延板焼鈍後、中間焼鈍を挟む1回または2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで仕上げ焼鈍して2次再結晶せしめる一連の工程により方向性けい素鋼板を製造するにあたり、
熱間圧延工程の粗圧延段階にて、上記温度領域に加熱し終えたスラブにつき、その加熱炉から抽出後3分間以内に粗圧延を開始し、該粗圧延での1パス目の圧延を、圧下率:10〜60%の範囲で、かつ、平均板幅方向伸び率:RW、圧延方向伸び率:Rlおよび平均歪み速度:
の間の関係が次式
【化2】
を満たす範囲で行うことを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。
【0011】
ここで、板幅方向伸び率は、Rw =W1 /W0 、圧延方向伸び率は、Rl =H0 /H1 ×1/Rw とし、平均歪み速度は、
【化3】
で定義したもので、変形中の時間で総歪量を除した値である。
ただし、
W0 :粗圧延入側板幅 (mm)
W1 :粗圧延1パス目出側板幅 (mm)
H0 :粗圧延入側板厚 (mm)
H1 :粗圧延1パス目出側板厚 (mm)
L:被圧延材と圧延ロールの接触長さ (mm)
V:被圧延材の通板速度 (mm/s)
である。
【0012】
【発明の実施の形態】
発明者らはフェライト単相領域のけい素鋼の圧延に関して鋭意研究を行い、その圧延過程で、再結晶の進行度合は、従来報告されているところの歪量、温度によって影響されるだけでなく、その歪み速度ととりわけ変形様式に著しく依存することを発見した。
【0013】
以下にこの発明を完成するに至った実験結果について説明する。
まずC:0.05wt%(以下単に%であらわす)、Si:3.32%、Mn:0.06%、S:0.02%を含む(フェライト単相領域温度:1300℃以上)160mm 厚のけい素鋼スラブを1410℃の温度に均熱したのち、ただちに圧下率50%の圧延変形(歪み速度=7/s)を行い20秒間後に水冷して組織観察を行ったところ、組織はほぼ全面が微細な再結晶粒で覆われていた。一方、同一材料をやはり1410℃の温度に均熱したのちただちに圧縮率50%の単純圧縮変形(歪み速度7/s)を行い20秒間後に水冷して組織観察を行ったところ、再結晶はほとんど生じていないことが観察された。
【0014】
すなわち、一方向に圧縮され一方向にのみ伸びる圧延変形では再結晶が進行するのに対し、圧縮は一方向であるが多方向に伸びる圧縮変形では再結晶の進行が極めて遅滞するのである。この理由は明らかではないが恐らくけい素鋼では変形様式において圧延変形の方が圧縮変形より再結晶核の生成が容易になるためと考えられる。
【0015】
ところで熱間圧延、特に粗圧延においては材料の圧延方向の伸びに対して幅広がりが無視できないことが知られている。そこでSi:3.1 %、C:0.06%、Mn:0.06%、Al:0.03%、N:0.007 %を主成分とする(フェライト単相領域温度:1340℃以上)200 mm厚、900 mm幅のスラブを鋳造し、実験室規模で1410℃の温度に均一加熱後3分間以内に40%の圧下率で圧下させる粗圧延の1パス目を模擬する実験を行った。この時、1パス後の組織を観察すると板幅方向端部付近に再結晶の十分進行しない領域が観察されるものがあった。これは、実際の操業においては熱延板のバンド組織となって、板幅方向の特定位置での磁気特性劣化につながるものである。
【0016】
さらに圧延速度、摩擦率、圧下率、ロール径および材料の板幅、板厚などを変化させて材料の圧延方向への伸び率(Rl )と幅方向への伸び率(Rw )との比(Rl /Rw )を種々に変化させて、同様に材料の再結晶の進行度合いを評価した。その結果が図1である。
図1は再結晶率に及ぼす変形条件の影響を示すグラフである。
【0017】
このとき圧延時の材料温度は中心で1320〜1410℃の範囲にばらついていたものであるが、図1から明らかなように再結晶の進行程度は歪み速度と上記の伸び率比(Rl /Rw )に密接に関係し、再結晶率を100 %近くに安定させるためには、板幅方向伸び率:Rw 、圧延方向伸び率:Rl および平均歪み速度:
【外3】
間の関係式
【化4】
の値を30s -1 以上にすることが重要であることがわかる。
すなわち、再結晶率を向上させるためには、歪み速度に応じて材料の幅広がりを一定値以下に抑えなければならないことが明確になったのである。
なお、上記において、圧延後の材料の形状は必ずしも正しい矩形形状とはならないので、もっとも板幅の広がった部分を材料の板幅とした。
以上の基本的知見を基にこの発明は構成されたのである。
【0018】
つぎに、この発明の構成用件についてさらに詳述する。
フェライト単相領域へのスラブ加熱には通常ガス加熱または誘導加熱などの電気的加熱が単独あるいは併用して用いられるが、少なくとも最終段階の加熱はより高温まで短時間で加熱の可能な誘導加熱が好ましい。
【0019】
粗圧延は通常3〜5パスで行われるが、スラブを加熱炉から抽出後粗圧延開始までの時間が3分間を超えて経過すると、温度の低下によりこの発明の効果が薄れることがあるので加熱炉から抽出後粗圧延開始までの時間は3分間以下とすることが必要である。また粗圧延の2パス目以降は1パス目の圧延によりγ相の出現が促進されるので、1パス目で再結晶率を向上させるための処理として、上記した
【化5】
を満足する圧延を行うことが重要である。
【0020】
また、圧下率については図2に示すように10%以下では圧延による歪みの導入が十分でないため好ましくない。一方、圧延後段での最低限の圧下率を確保するためにその上限を60%に定める。ここで、図2は、3.2 %Si鋼における1360℃の温度での圧延圧下率と蓄積歪量との関係を示すグラフである。
【0021】
ここで、上記における材料の幅伸びは公知の方法で制御できる。すなわち圧下率が大きいほど、圧延ロール径が大きいほど、スラブ板厚に対する板幅が小さいほど、ロールと材料の摩擦率が大きいほど幅伸びは増大するので上記の1つまたは2つ以上の因子を適当に組み合わせることでよい。
なお、この発明の実施にあたって、材料温度は内部温度で通常1350℃程度の高温となるが、けい素鋼はこのような高温での変形抵抗が小さいため、幅伸びは普通鋼の経験式に比し大きめの値を示すので厳密には幅伸びを実測することが好ましい。
【0022】
以上のプロセスは粗圧延前あるいは加熱前に予備変形を与えるプロセスに適用してももちろん有効である。
【0023】
ついで、この発明の対象とするけい素鋼素材の成分組成範囲の限定理由および好適成分組成範囲について以下に述べる。
【0024】
C:0.10%以下
Cは、熱間圧延、冷間圧延中の組織の均一微細化のみならず、ゴス方位の発達に有用な成分であるが、0.10%を超えて含有させると脱炭が困難になり、かえってゴス方位に乱れが生じるので、その含有量は0.10%以下とする。なお、下限は0.01%とすることが好ましい。
【0025】
Si:2.0 〜4.0 %
Siは、鋼板の比抵抗を高め鉄損の低減に有効に寄与するが、含有量が4.0 %を超えると冷間圧延性が損なわれ、一方2.0 %に満たないと比抵抗が低下するだけでなく、2次再結晶、純化のために行われる最終仕上げ焼鈍中にα−γ変態によって結晶方位のランダム化を生じ、十分な鉄損低減効果が得られなくなる。したがって、その含有量は2.0 〜4.0 %の範囲とする。
【0026】
Mn:0.01〜1.0 %
Mnは、特に限定するものではないが熱間脆化を防止するためには、少なくとも0.01%を含有させることが好ましいが、過剰に含有させると磁気特性を劣化させるので、含有量の上限は1.0 %とすることがよい。
【0027】
インヒビターとしてMnS 、MnSeを用いる場合。
S,Seのうちから選ばれる少なくとも1種:0.005 〜0.06%
S,Seは、方向性けい素鋼板の2次再結晶を制御するインヒビター形成成分として重要な成分である。抑制力の観点からは、少なくとも0.005 %は含有させることが好ましく、0.06%を超えて含有させるとその効果が損なわれる。したがって、それらの含有量はそれぞれ0.005 〜0.06%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
インヒビターとしてAlN を用いる場合。
Al:0.005 〜0.10%、N:0.004 〜0.015 %
AlおよびNの含有量の範囲も、MnS, MnSe の場合と同様の理由によりそれぞれ上記の範囲とすることがよい。
【0029】
なお、インヒビターとしては、上記したMnS, MnSe およびAlN のうちから選ばれる1種または2種以上を併用して用いることができる。
また、インヒビター成分としては、上記したS,SeおよびAlのほか、Cu, Sn, Sb, Mo, TiとよびBi等も有利に作用するので、それぞれ少量併せ含有させることもできる。それらの成分の含有量の好適範囲はそれぞれ、Cu, Snが0.01〜0.15%、Sb, Mo, Ti, Biが0.005 〜0.1 %の範囲であり、これらの各インヒビター成分についても、1種もしくはそれ以上の複合使用が可能である。
【0030】
【実施例】
Si:3.0 %、C:0.055 %、Mn:0.06%、Se:0.02%、Al:0.022 %、N:0.008 %、Sb:0.05%及び残部は実質的にFeよりなるけい素鋼を220mm 厚、1020mm幅のスラブに連続鋳造した。なおこの成分では約1320℃以上の温度で組織が全相フェライト単相となる。
上記スラブをガス炉にて1100℃の温度に加熱したのち、誘導加熱炉で1380℃の温度に加熱した。その後3分間以内に3ないし4パスの粗圧延を行うに際して、1パス目の板幅方向伸び率:Rw 、圧延方向伸び率:Rl 及び平均歪み速度:
を種々に変えて粗圧延及び仕上げ圧延を行い、2回の冷間圧延ののち、脱炭焼鈍及び仕上げ焼鈍を施した0.35mm厚の製品について、幅方向に10分割してそれぞれ磁気特性を測定しばらつきの標準偏差(δB8 )を調査した。
【0031】
粗圧延条件および標準偏差(δB8 )を表1にまとめて示す。
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、粗圧延1パス目における
【化6】
の値が30S −1 以上のこの発明の適合例は、その値が30S −1 未満の比較例に比し、製品での板幅方向の磁気特性のバラツキが特段に優れていることがわかる。
【0033】
【発明の効果】
この発明は、方向性けい素鋼板のエッジ部の2次再結晶不良を防止し、板幅方向の磁気特性のバラツキを減少させるため、その製造工程において、熱間圧延での粗圧延1パス目の圧延条件を特定するものであり、
この発明によれば、板幅方向に極めて安定した磁気特性を有する方向性けい素鋼板が得られ、製品歩留の向上に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】再結晶率に及ぼす変形条件の影響を示すクラフである。
【図2】圧延圧下率と蓄積歪量との関係を示すグラフである。
Claims (1)
- C:0.10wt%以下およびSi:2.0〜4.0wt%を含有する方向性けい素鋼板用スラブを、フェライト単相温度領域に加熱し、熱間圧延を施したのち、そのまま、または熱延板焼鈍後、中間焼鈍を挟む1回または2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで仕上げ焼鈍して2次再結晶せしめる一連の工程により方向性けい素鋼板を製造するにあたり、
熱間圧延工程の粗圧延段階にて、上記温度領域に加熱し終えたスラブにつき、その加熱炉から抽出後3分間以内に粗圧延を開始し、該粗圧延での1パス目の圧延を、圧下率:10〜60%の範囲で、かつ、平均板幅方向伸び率:RW、圧延方向伸び率:Rlおよび平均歪み速度:
の間の関係が次式
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