JP3697040B2 - 鋼の連続鋳造用浸漬ノズル及びそれを用いる鋼の連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼の連続鋳造用浸漬ノズル及びそれを用いる鋼の連続鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、タンディッシュから鋳型内への溶鋼注入は、タンディッシュに設けられた逆Y型2孔式吐出孔を有する耐火物製の浸漬ノズル(以下、2孔式浸漬ノズルと称す。)を介して行われている。浸漬ノズルの左右吐出孔から鋳型内に流出した溶鋼は鋳型短片に衝突した後、上下方向に分割され、一方は短片に沿って下向きの下降流となり、他方は上昇して溶鋼表面流となる。この溶鋼表面流が強すぎる場合には、溶鋼表面でパウダーの巻き込みが生じ、反対に溶鋼表面流が弱すぎる場合には、溶鋼表面への熱供給が不足し部分的に凝固したディッケルが鋳型内に持ち込まれる。さらに、短片下降流が強すぎる場合には、鋳型内下方に向かう溶鋼の浸入深さが深くなるため、溶鋼中の介在物は浮上しきれず鋳片内部に捕捉される。このため、浸漬ノズルには、溶鋼表面にパウダーの巻き込みとディッケルが生じない範囲の表面流速を与え、その上で溶鋼の浸入深さをできるだけ浅くすることが望まれている。例えば、特開昭61−14051号公報においては、図4(a)、(b)に示すように浸漬ノズルの先端部にスリット1を形成し、その両端に1対の溶鋼吐出孔2を設けた構造の浸漬ノズル3(以下、スリット式浸漬ノズルと称す。)が開発され、平均的な鋳型内の溶鋼流動をほぼ適正範囲に制御して鋳造することが開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなスリット式浸漬ノズルにおいても左右吐出孔から流出する溶鋼の流速は必ずしも同一ではなく、浸漬ノズル内における溶鋼流の乱れに起因して左右の吐出流に偏りが生じ、この偏りは時間と共に変化する。また、鋳造時間の経過とともに、溶鋼中のアルミナがスリット内壁に付着してくると、偏流現象はより激しくなる。このような偏流現象が発生した場合には、吐出流速の速い側で溶鋼の表面流速及び溶鋼の浸入深さが同時に増大するため、パウダー起因の表面欠陥やアルミナ起因の内部欠陥が多発し、鋳片品質は著しく低下する。即ち、従来のスリット式浸漬ノズルによる鋳型内の平均的な流動制御だけでは、浸漬ノズル内における溶鋼流の乱れやアルミナ付着に起因する偏流現象を防止し、鋳型内の溶鋼流動を常に適正な範囲に制御することはできない。
【0004】
本発明は、前述した従来のスリット式浸漬ノズルにおけるこれらの問題点を解決するもので、浸漬ノズルからの溶鋼吐出流を整流化し、鋳型内に均一に分散させると共に、アルミナ付着をも防止することにより、常に鋳型内の溶鋼流動を最適に制御できる鋼の連続鋳造用浸漬ノズル及びそれを用いる連続鋳造方法の提供を課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)ノズル先端部にスリットを形成し、その両端に1対の溶鋼吐出孔を設けた鋼の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、スリット間隔を吐出孔径の0.1〜0.4倍とし、かつ100〜250mm長さの多孔質耐火物をスリット近傍まで下げて配置し、その背面に設けたガス中空室から前記多孔質耐火物を通して不活性ガスを吹き込める構造とした鋼の連続鋳造用浸漬ノズルである。また、(2)前記(1)記載の浸漬ノズルを用いて、前記浸漬ノズルの多孔質耐火物から不活性ガスを吹き込みながら鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
スリット式浸漬ノズルでは、従来の2孔式浸漬ノズルに比べて溶鋼吐出面積が大きくなり、吐出流速が低下するため、溶鋼の表面流速及び溶鋼の浸入深さを効果的に低減することができる。しかし、スリットを設けて、溶鋼吐出面積を単純に増大させると、吐出孔やスリットの一部に負圧の領域が発生する。この負圧の領域は浸漬ノズル内における溶鋼流の乱れに起因して時間と共に変化する。このため、スリット式浸漬ノズルからの溶鋼吐出流は左右に大きく変動し、偏流現象が発生する。また、パウダーが吐出孔やスリットに発生した負圧の領域に引き込まれ、スリット内壁に付着し、これを起点として溶鋼中のアルミナが付着・堆積する。このように、鋳造時間の経過とともに、アルミナがスリット内壁に付着してくると、偏流現象はより激しいものとなる。
【0007】
そこで、本発明者らは、スリット式浸漬ノズルにおいて偏流現象が発生し難いスリット条件を検討するために、実機連続鋳造機の縮尺度1/1の水モデル実験装置を用いて、従来の2孔式浸漬ノズル及びスリット形状を種々変更したスリット式浸漬ノズルに関して、左右の吐出流速を小型プロペラ流速計により測定した。さらに、浸漬ノズルの吐出孔及びスリットに生じた負圧の領域へのパウダー引き込み現象を評価するために、水モデル実験装置の水面にはパウダーを模擬したシリコンオイルを浮かべ、その挙動を観察した。スリット形成による吐出流速の低減効果は、スリットがある場合の吐出流速をスリットがない場合の吐出流速で除した値(吐出流低減指標)により、また偏流現象は左右の吐出流速の差の絶対値を平均吐出流速で除した値(偏流指標)により評価した。図1は吐出流低減指標及び偏流指標に及ぼすスリット間隔Wの影響を示す。なお、吐出孔径はDとする。W/Dが0.1以上のスリットを形成することにより吐出流速を低減できる。これは、スリット間隔を広げると流動抵抗が小さくなり、吐出孔から流出していた水の一部がスリットを通って流出するようになるためである。また、W/Dが0.4を超えると偏流現象は顕著となり、さらに水面に浮かべたシリコンオイルが吐出孔やスリットの一部から引き込まれる現象が観察された。その原因は、W/Dが0.4を超えると、吐出孔及びスリットの一部に負圧の領域が形成され、その領域が時間と共に左右に変動するためである。以上の結果から、スリット式浸漬ノズルからの吐出流速を低減し、かつ偏流現象とアルミナ付着の原因となるパウダーの引き込み現象を同時に抑制するためには、スリットの間隔をW/Dで0.1〜0.4に規定することが有効である。なお、上記結果は全て先端部を凹型にしたスリット式浸漬ノズルに関するものであるが、先端部を半球状に湾曲させても同様の結果が得られ、両者に差は見られなかった。
【0008】
上記知見を基に、スリット間隔をW/Dで0.1〜0.4に規定したスリット式浸漬ノズルを用いて、溶鋼750tを連続鋳造した。鋳造前半には偏流現象の発生もなく鋳造は安定していたが、鋳造後半になると偏流現象が発生すると共に、ストッパーの開度が徐々に開き始めた。鋳造後のスリット式浸漬ノズルを調査したところ、スリット内壁にパウダーの付着はなく、アルミナのみが付着していることが明らかになった。これは、パウダー引き込みが起因したアルミナ付着ではなく、スリット間隔を比較的狭い範囲に規定したため、スリットで複雑な流れが生じ、溶鋼中のアルミナを付着させ易い流動条件になったためだと考えられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、このような鋳造後半で発生するスリット内壁へのアルミナ付着を防止する方法についても詳細な検討を行い、例えば、特開昭56−102357号公報、図4(c)に示したような従来の浸漬ノズル直胴部4のメニスカス位置5に設けた多孔質耐火物6を図2(a)、(b)に示すようにスリット1近傍まで下げ、その背面に配置したガス中空室7からこの多孔質耐火物6を通してArガスを直接スリットに吹き込むことを考案した。この場合、多孔質耐火物が長くなり過ぎると、溶鋼静圧の影響で多孔質耐火物の下部からArガスが供給されないため、アルミナがスリット内壁へ付着する。逆に、多孔質耐火物が短かくなり過ぎると、吐出孔より上部にArガスが供給されないため、ノズル直胴部でアルミナ付着が生じる。このため、多孔質耐火物の長さを種々変更したスリット式浸漬ノズル(ノズル底部に多孔質耐火物の下端を一致させた。)のアルミナ付着厚みを調査し、図3に示す。スリットの最大アルミナ付着厚みは多孔質耐火物の長さが250mmを超えると、またノズル直胴部の最大アルミナ付着厚みは多孔質耐火物の長さが100mmよりも短くなると、何れも大きく増加することが分かる。したがって、スリットとノズル直胴部へのアルミナ付着を同時に防止するためには、100〜250mm長さに規定した多孔質耐火物をスリット近傍まで下げて配置することが有効である。また、本発明のスリット式浸漬ノズルから吹き込まれたArガスは吐出孔やスリットで生じた激しい流れにより微細化され、鋳型内にArガスを微細に分散させる機能も有しており、メニスカスにおける大型Ar気泡の破裂現象(ボイリング)や鋳片への大型気泡捕捉に起因するふくれ欠陥をも抑制することが可能である。
【0010】
以上に示したように、本発明のガス吹き込み型のスリット式浸漬ノズルを用いて連続鋳造することにより、偏流現象及びアルミナ付着を確実に防止できるため、鋳型内の溶鋼流動を常に適正な範囲に制御できる。さらに、本発明のスリット式浸漬ノズルはArガス気泡を鋳型内で微細分散できる機能を有しているため、気泡系の欠陥をも防止できる。
【0011】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明について説明する。
〈実施例1〉
内径90mm、長さ1200mm、吐出孔径80mm、吐出孔角度35°、スリット間隔20mmのアルミナグラファイト製スリット式浸漬ノズルを用いて、鋳片サイズ250mm(厚み)×1830mm(幅)、炭素濃度30ppmの極低炭素鋼1250tを鋳造速度1.8m/minで鋳造した。スリット式浸漬ノズルにはArガス吹き込みを行うための200mm長さの多孔質耐火物がスリット近傍に配置してあり、そこからアルミナ付着防止用のArガスを6Nl/minで吹き込んだ。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断して1コイル単位とした。このスラブを常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的に0.7mm×幅1830mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。また、偏流現象の発生状況は鋳型内に埋め込んだ熱電対から両短片の溶鋼表面高さの差を検出することにより、アルミナ付着の状況はストッパー開度の変化と鋳造後に回収した浸漬ノズルへのアルミナ付着厚さにより評価した。その結果、鋳型の両短片の溶鋼表面高さの差は5mm以下で、偏流現象は見られなかったため、鋳片欠陥は全く発生しなかった。また、鋳造時のストッパー開度はほぼ一定であり、鋳造後にスリット式浸漬ノズルを回収し、アルミナ付着の発生状況を調査しても、スリット内壁へのアルミナ付着は殆ど観察されなかった。
〈比較例1〉
内径90mm、長さ1200mm、吐出孔径80mm、吐出孔角度35°、スリット間隔35mmのアルミナグラファイト製スリット式浸漬ノズルを用いて、鋳片サイズ250mm(厚み)×1830mm(幅)、炭素濃度30ppmの極低炭素鋼1250tを鋳造速度1.8m/minで鋳造した。スリット式浸漬ノズルにはArガス吹き込みを行うための270mm長さの多孔質耐火物をメニスカス位置に配置し、そこからアルミナ付着防止用のArガスを6Nl/minで吹き込んだ。その結果、鋳型の両短片の溶鋼表面高さの差は30mmにも達し、偏流現象が激しかったため、パウダーの巻き込みにより表面欠陥が発生した。また、鋳造時のストッパー開度は鋳造開始から徐々に開き、鋳造後に浸漬ノズルを回収し、アルミナ付着の発生状況を調査したところ、スリット内壁にアルミナが付着し、部分的にはスリットが完全に消失していた。
【0012】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によりアルミナ付着と偏流現象を防止した上で、鋳型内の溶鋼流動を最適に制御できるため、鋳片の品質が格段に向上すると共に、アルミナ付着に起因する種々の非定常作業を軽減できるため、操業性も大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】吐出流低減指標及び偏流指標に及ぼすスリット間隔の影響を示す図。
【図2】(a)は本発明のガス吹き込み型スリット式浸漬ノズルの正面断面図、(b)は本発明のガス吹き込み型スリット式浸漬ノズルの側面断面図。
【図3】スリット式浸漬ノズルのアルミナ付着厚みと多孔質耐火物長さの関係を示す図。
【図4】従来のスリット式浸漬ノズルの概略図で、(a)はその正面断面図、(b)は側面図、(c)は従来のガス吹込み型浸漬ノズルの正面断面図。
【符号の説明】
1…スリット
2…溶鋼吐出孔
3…スリット式浸漬ノズル
4…ノズル直胴部
5…メニスカス位置
6…多孔質耐火物
7…ガス中空室
Claims (2)
- ノズル先端部にスリットを形成し、その両端に1対の溶鋼吐出孔を設けた鋼の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、スリット間隔を吐出孔径の0.1〜0.4倍とし、かつ100〜250mm長さの多孔質耐火物をスリット近傍まで下げて配置し、その背面に設けたガス中空室から前記多孔質耐火物を通して不活性ガスを吹き込める構造とした鋼の連続鋳造用浸漬ノズル。
- 請求項1記載の浸漬ノズルを用いて、前記浸漬ノズルの多孔質耐火物から不活性ガスを吹き込みながら鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
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