JP3696555B2 - 塩縮した天然繊維ならびにその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩縮した天然繊維およびその製造方法、ならびにこの塩縮した天然繊維を利用した金属・活性物質担持天然繊維素材に関し、特に、塩縮した野蚕絹糸および羊毛である天然繊維、該天然繊維の製造方法、ならびに該天然繊維を利用した抗菌性繊維素材および活性物質担持繊維素材に関する。塩縮(以下、捲縮と呼ぶこともある)とは、一般に、中性塩水溶液中に蛋白質繊維を浸漬処理することにより繊維長が収縮する現象を意味する。
【0002】
【従来の技術】
加熱した中性塩水溶液中に家蚕由来の絹糸を浸漬し、絹糸を塩縮して、新規な機能性を備えた家蚕絹糸を得ることは知られている。すなわち、家蚕絹糸を加熱した中性塩水溶液に浸漬すると、中性塩水溶液中に浸漬した初期の段階、通常20秒程度の短時間で、家蚕絹糸は膨潤し、繊維長が縮み、その結果、絹糸表面が不規則となり捲縮する。このような塩縮処理により、絹糸は柔らかくなり、また、糸嵩が増して、軽くソフトな肌ざわりになる。
【0003】
家蚕絹糸を塩縮処理する方法として、例えば、硝酸カルシウム水溶液で処理する方法が知られている(加藤弘、日本蚕糸学雑誌、59,271-279,280-287,341-349(1990))。この場合、比重:1.410〜1.420g/cm3の硝酸カルシウム水溶液(80℃)中に家蚕絹糸を浸漬すると、中性塩水溶液中に約1分浸漬する塩縮過程の初期で塩縮率が40%に達する(上記日本蚕糸学雑誌参照)。なお、従来用いた硝酸カルシウム水溶液の濃度は本発明表示の濃度、約1.3g/mLに対応する。このように、家蚕絹糸は、中性塩水溶液中への浸漬工程で塩縮するという特徴を有し、柔らかく、且つ、バルキー性の増した絹糸として利用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、野蚕幼虫が製造する絹糸の利用についての関心が高まっているが、この野蚕絹糸は、家蚕絹糸の場合と異なり、上記のような従来の塩縮処理条件では全く塩縮しない。
野蚕は、一般の農家が飼育する家蚕とは種を異にするものである。野蚕としては、例えば、柞蚕(Antheraea pernyi)、天蚕(Antheraea yamamai)、タサール蚕(Antheraea militta)、ムガ蚕(Antheraea assama)、エリサン、シンジュサン等のカイコを例示することができ、こうした野蚕の幼虫に由来する絹糸が野蚕絹糸である。
上記の野蚕絹糸の中で、素材の希少価値の面から最も関心が寄せられているのが天蚕絹糸である。天蚕は、わが国を原産地とし、江戸時代から飼育の記録があり長い歴史を持つこと、最近人工飼料が開発されて幼虫の飼育が容易であること、農家段階で一般的に飼育されていることから、飼育に関する情報が多い。
【0005】
家蚕(カイコ)幼虫が専ら桑の葉を食べるのに対して、柞蚕や天蚕等の野蚕はクヌギ、コナラ、カシワ、アベマキ等の葉を食べる。家蚕幼虫は養蚕農家が飼育するのに対して、野生の天蚕幼虫は自然状態で生育することが一般的である。天蚕種は、その孵化率が低く、繭糸から絹糸となる割合(糸歩)が極めて少なく、さらに、繭糸をとる作業が困難であるため、希少価値としての意義がある。柞蚕や天蚕等の野蚕の絹糸を家蚕絹糸に配合した絹織物は、野蚕絹糸の配合率が増加するにつれて、糸の滑りが抑えられ、縫目の滑脱抵抗が改善できるため好ましい。野蚕絹糸はまた、家蚕絹糸以上に、バルキー性、耐摩耗性にすぐれ、手触り時の風合感もよいため、実用天然繊維としての関心がもたれている。
【0006】
現代の実用繊維素材のうち、野蚕絹糸等の昆虫由来の絹蛋白質繊維は、一般に、衣料素材の中でも感性に富み、吸湿性と染色性ならびに手触り、風合いに優れた天然素材である。また、羊毛も、天然蛋白質特有の風合い感を持ち、染色性も良好なことから衣料素材として重要である。
野蚕絹糸は、その主要な結晶領域が分子内水素結合を特徴とするアラニン連鎖からなる安定した構造をもつため、また、羊毛は分子間がS-S結合で架橋されているため、化学薬品に対して安定である。野蚕絹糸や羊毛に対して、さらに嵩高性やバルキー性に優れた繊維素材とするために、家蚕絹糸の場合と同様の塩縮処理を施しても、上記の安定した構造のために収縮は起きないので、新しい塩縮技術の出現が望まれてきた。
【0007】
野蚕絹糸に対して家蚕絹糸と同様の塩縮処理をしても、野蚕絹糸が塩縮しないのは、家蚕絹糸と野蚕絹糸とのアミノ酸組成が全く異なるためと、分子間に-S-S-結合が形成されており安定な構造を有し、耐薬品性にも優れているためである。家蚕絹フィブロインの結晶構造はAla-Gly-Ala-Gly-Ala-Serであるのに対し、柞蚕等の野蚕の絹フィブロインの主要結晶構造はAlaの連鎖からなる-(Ala)n-である。このように、野蚕絹フィブロインでは、家蚕絹フィブロインとは異なり、その分子間、分子内にアラニン残基に基づく水素結合が3次元的にしっかりと形成されている。したがって、両者は、耐薬品性も、中性塩に対する溶解性も異なる。例えば、高濃度の硝酸カルシウム水溶液を用いて浸漬処理を行うと、家蚕絹糸では膨潤するが、野蚕絹糸では全く膨潤しない。これは、野蚕絹糸では、上述の通り分子間に-S-S-結合が形成されて形態安定化していること、また、結晶部分がAlaの連鎖で構成されており、Ala連鎖の分子間や分子内の水素結合が安定であることによるものである。
【0008】
また、羊毛の場合、中性塩処理しても膨潤することも塩縮することもないのは、分子間・分子内に水素結合があるためである。
さらに、野蚕絹糸等の絹蛋白質繊維や羊毛等の動物性蛋白質繊維には、染料の吸着座席となる塩基性基、酸性基、水酸基、無極性基が多く含まれているので、鮮やかで、深みのある色相に染色できる。この場合、染料の種類には、直接染料、酸性染料、バット染料、反応性染料等がある。また、染料としては、多種類の天然及び合成染料が知られているが、工業的に重要なものの大部分は合成染料である。こうした合成染料は、化学組成的に単一な構造の染料であり、安価にしかも多量に生産されている。また、合成染料を用いる染色においては、染色条件が同一でありさえすれば、毎回同一の色調に染色でき、好みによっては原色やけばけばしく彩度の高い色調も容易に発色させることが可能である。
【0009】
一般の染色技術では、染色時には染色浴の温度を高温にしなければならず、多大の熱エネルギーが必要となる。そのため、低温で、短時間で可能な濃色染色技術が開発されれば、省エネルギー、効率化の面から理想的な染色加工方法となるものと期待できる。通常、染色性を向上させるには、染料濃度を増加させるか、浴比を小さくするか、pHを低下させるか、或いは染色助剤濃度を高くするか等の染色加工上の工夫をしている。しかし、濃色染めを達成するために、浴比を小さくし、染色浴のpHを低下させると、染めむらが発生する危険があった。また、染着が急速すぎると染めムラが生じやすいし、反対に緩やか過ぎると容易には目的とする望みの濃さに染まらない等の問題点があった。そのため、野蚕絹糸や羊毛等の天然繊維について、簡単な前処理により染色性をさらに向上させる技術の出現が望まれていた。
【0010】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、バルキー性、耐摩耗性に優れ、手触り時の風合感がよく、さらには染料による染着性に優れた塩縮天然繊維(野蚕絹糸および羊毛)を提供すること、この塩縮した野蚕絹糸および羊毛の製造方法を提供すること、ならびに塩縮した野蚕絹糸や羊毛を利用した抗菌性繊維素材や活性物質担持繊維素材を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、野蚕幼虫由来の絹糸または羊毛について、繊維を繊維長方向に収縮させ、柔らかく、風合い感に優れた素材を製造するための技術の開発を進めてきた。その結果、野蚕絹糸や羊毛を中性塩水溶液で処理した後、凝固処理することにより、所望の塩縮した野蚕絹糸や羊毛を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の塩縮した天然繊維の製造方法は、天然繊維として野蚕絹糸または羊毛を中性塩水溶液中に浸漬し、引き続いて、取り出した天然繊維を、野蚕絹糸または羊毛の蛋白質が凝固する条件で、水単独または水/アルコールの混合水溶液からなる凝固浴中に浸漬し、塩縮・凝固した天然繊維を製造することを特徴とする。
【0012】
処理対象羊毛として、中性塩水溶液中に浸漬する前に尿素水溶液中に浸漬して分子間・分子内の水素結合を切断した羊毛を用いることが望ましい。
中性塩は、臭化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウム、および塩化カルシウムから選ばれることが望ましい。これらの中性塩の濃度は、0.8g/mLより高く6.0g/mL以下であることが望ましい。この中性塩濃度は中性塩の無水物に換算した値を意味する。
処理対象野蚕絹糸または羊毛は、グラフト重合用モノマーを用いて加工したグラフト加工野蚕絹糸もしくは羊毛、または反応性モノマーを用いて化学修飾加工した化学修飾加工野蚕絹糸もしくは羊毛であっても良い。
【0013】
グラフト重合用モノマーは、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(n-BMA)およびスチレン(St)から選ばれた疎水性ビニル化合物、または、メタクリルアミドおよびメタクリル酸2-ヒドロキシエチルから選ばれた親水性ビニル化合物であり、また、反応性モノマーは、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれたエポキシ化合物、または無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、および無水フタル酸のような酸無水物から選ばれた酸無水物であることが望ましい。
【0014】
また、本発明の塩縮した天然繊維(野蚕絹糸および羊毛)の製造方法は、羊毛を尿素水溶液中に浸漬して分子間・分子内の水素結合を切断し、引き続いて、得られた羊毛を中性塩水溶液中に浸漬して塩縮・凝固した羊毛を製造することを特徴とする。羊毛の場合、この中性塩水溶液中での浸漬処理により塩縮は起こり、十分実用可能であるが、実用可能な塩縮が起こらない場合には、前記したように、中性塩水溶液処理の後、さらに凝固浴による処理を行うことにより、塩縮反応が確実に完了する。この製造方法の場合も、使用される中性塩や羊毛は前記製造方法の場合と同様である。
【0015】
本発明によれば、上記製造方法に従って得られた塩縮した天然繊維(野蚕絹糸および羊毛)には抗菌性金属が多く吸着するので実用的な抗菌性繊維素材とすることができ、また、上記製造方法に従って得られた塩縮した天然繊維に、絹フィブロインを付着させ、この絹フィブロインを基質として、該基質中に酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒からなる活性物質を含有せしめて活性物質担持繊維素材とすることもできる。さらに、上記製造方法に従って得られた塩縮した野蚕絹糸または羊毛である天然繊維は、廃液中の金属を吸着する繊維素材としても有用である。
【0016】
本発明によれば、野蚕絹糸および羊毛を塩縮させることにより、これらの繊維は、柔らかく、伸びやすくなり、かつ、嵩高くなると共に、染料を多量に吸着する優れた染色挙動を示すようになる。その結果、ソフトで嵩高い繊維製品等を製造することができる。また、抗菌性金属等の金属イオンの吸着性が向上した野蚕絹糸や羊毛の製造が可能となる。
野蚕絹糸や羊毛を中性塩水溶液中に浸漬した後、取り出した野蚕絹糸や羊毛を水/アルコールからなる凝固浴に浸漬することにより蛋白質が凝固する。この過程で繊維は塩縮する。野蚕絹糸のように、分子間に水素結合のない絹蛋白質は、中性塩水溶液による膨潤処理後の凝固処理だけで所望の塩縮絹糸を製造することができる。一方、羊毛の場合、例えば、前処理として25℃で8Mの尿素水溶液中で所定時間処理することで分子間および分子内の水素結合を切断した後、加熱した中性塩水溶液中に所定時間浸漬することで、または、その後、所望により、凝固性のある水もしくは水/アルコールの混合水溶液中に所定時間浸漬することで塩縮した羊毛を製造することができる。
【0017】
本発明によれば、塩縮加工により野蚕絹糸や羊毛の微細構造が粗となるため、塩縮した野蚕絹糸や羊毛を低分子化合物を含んだ水溶液中に浸漬すると、この化合物は繊維内に容易に浸透し得る。そこで、塩縮加工した野蚕絹糸や羊毛を絹フィブロイン水溶液中に入れると、絹フィブロインが繊維内部に浸透したり、塩縮繊維の表面が絹フィブロインの薄膜で覆われる。このため、絹フィブロイン水溶液中に、水溶性の酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒等からなる活性物質を溶解させた混合水溶液を用いることにより、塩縮した野蚕絹糸や羊毛に絹フィブロインが付着すると共に、この絹フィブロインが基質となって、この基質中に活性物質を含ませることが可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の塩縮した野蚕絹糸および羊毛である天然繊維およびその製造方法、ならびにこの塩縮した天然繊維に抗菌性金属が吸着されてなる抗菌性繊維素材および塩縮した天然繊維に絹フィブロインが付着し、この絹フィブロインからなる基質中に酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒等の活性物質が含有されてなる活性物質担持繊維素材について、その好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明によれば、天然繊維としての柞蚕絹糸等の野蚕絹糸および羊毛に対して塩縮処理を行い、所望の塩縮率を有する塩縮野蚕絹糸および羊毛を製造することができる。
【0019】
野蚕絹糸の場合は、所定濃度の中性塩水溶液中に野蚕絹糸を所定温度で一定時間浸漬して膨潤処理をした後、取り出した野蚕絹糸を水単独または水/アルコールの混合溶液からなる凝固浴中に浸漬して、繊維長を収縮させ、塩縮・凝固処理を行い、塩縮した野蚕絹糸を製造する。一方、羊毛の場合は、好ましくは、所定濃度の尿素水溶液中に羊毛を所定温度で一定時間浸漬して分子間および分子内の水素結合を切断し、このように処理された羊毛を所定濃度の中性塩水溶液中に所定温度で一定時間浸漬して、繊維長を収縮させ、塩縮・凝固し、塩縮した羊毛を製造する。しかし、羊毛は、この工程だけでは、必ずしも塩縮・凝固反応が完了しないことがあるので、塩縮を確実に完了させるためには、さらに、凝固浴中に浸漬処理することにより塩縮を完成せしめることが望ましい。
【0020】
本発明では、塩縮処理する天然繊維として野蚕絹糸および羊毛を対象としたが、野蚕幼虫に由来する絹蛋白質の他に動物由来のケラチン(羊毛ケラチン)、コラーゲン、ゼラチンであっても処理対象とすることができ、また、その形態としては、絹繊維、絹繊維製品もしくはその繊維集合体、または動物繊維のケラチン繊維、ケラチン繊維製品もしくはその繊維集合体であってもよい。
中性塩としては、例えば、上記したように、臭化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウム、または塩化カルシウム等を挙げることができ、これらの中性塩は無水物でもよいし、水和物であっても同様に利用できる。水和物については、本明細書中では、例えば、硝酸カルシウム四水和物のように水が四分子結合した中性塩表示とした場合や、硝酸リチウムのように結合水のない中性塩の場合もあるが、濃度については、無水中性塩を水1mLに何g溶解するかとして表示するようにした。ただし、チオシアン酸リチウム水和物の場合は、結合水の水和数が不定のため、換算係数は求められなかった(以下の表1参照)。
【0021】
これらの中性塩のうち、臭化リチウムや硝酸カルシウムが好ましい。これらは、同一濃度における他の中性塩の場合と比べると、柞蚕絹糸を膨潤させる作用が強いので、また、中性塩水溶液中に浸漬した後に引き続いて凝固浴中に浸漬した際に、絹糸を収縮させる働きが優れているので特に好ましく用いられる。
次に、野蚕の代表として柞蚕を用いて、柞蚕絹糸の塩縮処理について説明する。
柞蚕絹糸を所望の程度まで膨潤させたり、塩縮させるためには、中性塩の濃度、処理温度および処理時間、また、凝固浴の処理条件を適切に設定する必要がある。
【0022】
中性塩水溶液の濃度は、一般に0.8g/mLより高く6.0g/mL以下、好ましくは1.0〜3.0g/mL、さらに好ましくは2.0〜3.0g/mLである。中性塩濃度が0.8g/mL以下であると、低温では塩縮は十分に起こらない。しかし、処理温度を90℃以上にすれば0.8g/mL以下でも塩縮処理に用いることはできるが、非経済的である。6.0g/mLを超えると、柞蚕絹糸等を塩縮するためには過酷な条件となり、その結果、ついには柞蚕絹糸等が溶解してしまう恐れがあるため、塩縮を効率的に起こすには不都合である。なお、3.0g/mLを超えると加熱温度が低くても極短時間に絹糸が収縮してしまい、塩縮率を制御することが困難となる場合がある。
【0023】
加熱処理温度は、一般に60〜95℃、好ましくは75〜95℃、さらに好ましくは80〜90℃で行うとよい。60℃未満だと塩縮は起こりにくく、95℃を超えると塩縮は起こるが柞蚕絹糸等の膨潤が進みすぎて塩縮率を制御することが困難となる。また、処理時間は、中性塩の種類、濃度とも関連するが、柞蚕絹糸等の収縮状況を観察しながら適宜調節すればよい。一般的には1分〜30分、好ましくは5〜30分であり、特に20分程度が安定した塩縮効果を発揮させる上で好都合である。
【0024】
中性塩水溶液の処理後の凝固浴処理において、水を凝固浴として用いると塩縮が起こりやすい。しかし、水中に浸漬すると塩縮率が大きな値となってしまって、所望の塩縮率が得られ難いときは、水とメタノール、エタノール等の従来公知のアルコールとの混合水溶液でアルコール濃度を、目的とする塩縮率に応じて適宜変えた混合水溶液で処理することが好ましい。この場合、アルコール濃度を高くすると、塩縮率を低下させることができる。
【0025】
柞蚕絹糸、羊毛を効率的に塩縮するための好ましい方法は、例えば、次の通りである。
柞蚕絹糸の塩縮:
一定濃度以上の中性塩水溶液中に柞蚕絹糸を浸漬し、温度が一定に設定できる振とう装置にこれを取り付け、中性塩水溶液の温度を80℃に設定する。柞蚕絹糸を80℃の中性塩水溶液中に20分間浸漬する。柞蚕絹糸は、この浸漬処理により膨潤するが、家蚕絹糸と違ってこの中性塩処理だけでは収縮することはない。そのため、膨潤した柞蚕絹糸を、中性塩水溶液から取り出した直後、水または水/アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)混合水溶液中に浸漬して塩縮・凝固させるとよい。処理後、柞蚕絹糸を取り出して流水で十分に洗浄し、絹糸内に残留している中性塩成分を除き、室温で乾燥させて、塩縮柞蚕絹糸を製造することができる。
【0026】
柞蚕絹糸の塩縮・捲縮は、中性塩処理した柞蚕絹糸を水または水/アルコール混合水溶液に浸漬する工程で著しく進む。その収縮程度は、水/アルコール混合水溶液の水、アルコール濃度を変えることで制御できる。収縮効果を高めるには、一般的に、アルコール濃度を下げること、すなわち水中で凝固させる方法が好ましい。
羊毛の塩縮:
羊毛の塩縮は、8M程度の濃度の尿素水溶液中に25℃で1時間程度浸漬し、還元反応により分子間の水素結合を破壊させ、続いて、80〜85℃の臭化リチウム水溶液等の中性塩水溶液中に30分浸漬することにより行われる。その後、所望により、水または水/アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)混合水溶液中に浸漬して塩縮反応を完了させる。かくして、所定の塩縮率を有する羊毛を製造することができる。
【0027】
本発明における塩縮処理対象としての野蚕絹糸および羊毛として、繊維にグラフト加工または化学修飾加工した野蚕絹糸や羊毛を用いることができる。グラフト加工用モノマー、化学修飾加工用化合物を適宜選択することによって加工された野蚕絹糸および羊毛を用いて塩縮処理すると、その塩縮率を制御することができるし、その加工率によっても塩縮率を制御することができる。
グラフト加工用モノマーとしてビニル化合物を利用することができ、このビニル化合物としては、疎水性モノマーと親水性モノマーとがある。例えば、上記したように、疎水性モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(n-BMA)またはスチレン(St)等が、また、親水性モノマーとしては、メタクリルアミドまたはメタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が例示できる。
【0028】
本発明における野蚕絹糸または羊毛へのグラフト加工は、次のように、前記ビニルモノマーを含む溶液または分散液に繊維を浸漬して処理することにより行うことができる。ビニルモノマーを含む溶液または分散液は、ビニルモノマーが水溶性であれば水溶液、水不溶性であれば界面活性剤により分散させ水分散液とすることが好ましい。具体的は方法としては、野蚕絹糸へのグラフト加工は、例えば、グラフト開始剤として過硫酸アンモニウム2.5% (owf)、グラフト加工用モノマー20〜80%(owf)を含み、85%蟻酸でグラフト加工系のpHを3.0に調整した混合溶液中(浴比1:20)に絹糸を浸漬し、処理することにより行われる。グラフト加工系の温度を常温から80℃まで20分間で昇温した後、40分間、同温度を保持して反応を進める。反応終了後、水洗し、ノイゲンHC(1cc/l:第一工業製薬(株)製)を添加した混合溶液中で、70℃で20分間洗浄し、絹糸表面に付いた試薬を除去する。水洗い後、風乾し、次いで、標準状態(20℃、65%RH)で調湿させて加工絹糸を作製した。
【0029】
本発明における野蚕絹糸または羊毛への化学修飾加工は、以下の方法により実施できる。
化学修飾加工用化合物として、酸無水物やエポキシ化合物を利用することができる。酸無水物としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、または無水フタル酸等のような二塩基酸無水物が、エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、またはグリセロールポリグリシジルエーテル等が例示できる。
柞蚕絹糸等の野蚕絹糸や羊毛にエポキシ化合物または酸無水物を有機溶媒中で化学結合させると、臭化リチウム等の濃厚な中性塩水溶液で加熱浸漬処理しても塩縮程度を軽減することができる。例えば、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業株式会社製、商品名:デナコールEX-313およびEX-314)のように3官能性エポキシ化合物や、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ化成工業株式会社製、商品名:デナコールEX-810)のような2官能性エポキシ化合物を用いて化学修飾加工した野蚕絹糸や羊毛を塩縮処理することにより、塩縮率を低く抑えることができる。
【0030】
野蚕絹糸や羊毛への化学修飾加工において、エポキシ化合物、酸無水物に対する有機溶媒としては、従来公知の有機溶媒を利用できる。このようなものとしては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ピリジン等が挙げられる。本発明においては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の使用が特に好ましい。
化学修飾加工は、例えば、エポキシ化合物を絹糸重量に対して20倍(浴比1:20と略記することもある)のジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、この溶液を逆流冷却器を付けた100mLのナス型フラスコに入れ、絹糸がDMF中に完全に浸漬するように留意しながら、ウォーターバス中で、75〜80℃で時間を変えて反応させることにより実施できる。なお、エポキシ化合物は、例えば、100mLのDMFに20g含まれるようにする。反応終了後、試料を取り出し、DMFで洗浄し、続いて55℃のアセトンで洗浄することで未反応試薬を除去する。最終的に水で洗浄し、乾燥後重量を測定し、化学修飾加工の有無を確認する。
【0031】
化学修飾加工は、通常60〜90℃の加熱下で行う。最も好ましい反応温度は70〜85℃である。反応温度が60℃より低すぎると反応効率が良くなく、反応温度が90℃を超えると反応が短時間に進んでしまい、反応量を制御でき難くなる等の問題がある。有機溶媒中におけるエポキシ化合物または酸無水物の濃度は5〜30%であればよい。濃度が5%未満となると反応効率が低下するという問題があり、また、30%を超えると、有機溶媒への酸無水物の溶解量が次第に減少する傾向にあり、かつ、反応温度を上げると短時間に反応効率が上がりすぎてしまい、加工効率を制御することが困難となるという問題がある。
なお、75℃以上の温度で化学加工処理する場合、溶媒が次第に蒸発し、これに伴い加工試薬濃度が変化し、野蚕絹糸や羊毛との反応性が変わってしまうことが懸念される。そのため、化学加工処理は逆流冷却器を付けたナス型フラスコ、三角フラスコ等内で行うことが望ましい。
【0032】
塩縮とは別に柞蚕絹糸等の野蚕絹糸または羊毛を伸長させることもできる。中性塩水溶液により膨潤処理した試料を中性塩水溶液から取り出し、流水で水洗いをした後、含水状態にある試料を機械的に引き伸ばし、標準状態において引き延ばした長さを試料が乾燥するまで保持することで、結果的には塩縮率を変化させることができる。
野蚕絹糸や羊毛の塩縮率は、中性塩の種類、濃度、処理温度、処理時間により、また、野蚕絹糸へのグラフト加工あるいは化学修飾加工等によっても影響を受ける。
【0033】
野蚕絹糸や羊毛の所望の塩縮率は、中性塩の種類、濃度、処理温度、処理時間を調整することで達成でき、また、一旦中性塩で十分に処理した後、水またはアルコール濃度の異なる水/アルコールの系に入れて凝固させることによっても可能である。ほとんどの場合、アルコールを含まない水だけの凝固浴を用いると高い塩縮率が得られ、アルコール100%を凝固浴としたときは、塩縮率が減少する。アルコール濃度をかえた凝固浴を用いると任意の塩縮率を有する野蚕絹糸や羊毛を製造できる。
柞蚕絹糸等の野蚕絹糸が膨潤する度合は中性塩の種類によって異なる。臭化リチウムや硝酸リチウム等のように、野蚕絹糸を溶解する作用の高い中性塩程膨潤が進むので、その分高い塩縮率が得られる。
本発明によれば、セリシンを除去する前の野蚕生糸であっても、セリシンを除去したあとの野蚕絹フィブロイン繊維であっても同様に塩縮させることができる。
【0034】
本発明においては、被染物の形態としては、動物性蛋白質繊維、その繊維製品、その繊維集合体を挙げることができる。すなわち、野蚕由来の絹蛋白質繊維、その繊維製品、その繊維集合体(例えば、不織布)の他、羊毛ケラチン繊維、その繊維製品、その繊維集合体等を挙げることができる。本発明で製造される塩縮野蚕絹糸や羊毛に対する染色方法は従来公知の染色技術でよく、通常の酸性染料で染色することができる。
【0035】
さらに、本発明によれば、塩縮した野蚕絹糸や羊毛を抗菌性金属イオンを含む水溶液中または廃水中に浸漬すると、塩縮前の野蚕絹糸や羊毛よりも多くの抗菌性金属イオンまたは廃水中の金属イオンを吸着することができる。抗菌性金属イオンを吸着したものは抗菌性繊維素材として活用できる。また、廃水中の金属を吸着するための繊維素材としても活用できる。前記したようにして得られた塩縮した野蚕絹糸や羊毛である天然繊維を、例えば、硝酸カリウムを含む0.5mMの硝酸銀(AgNO3)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、または抗菌性を有するその他の硝酸化した金属イオンの水溶液中に25℃で30時間浸漬することで、銀イオン、銅イオンあるいはその他の抗菌性金属イオンをこの天然繊維に吸着せしめることができる。金属イオンの吸着量を増加させるため、金属含有水溶液にアンモニア水溶液を加えてpHをアルカリ側の8.5に調整することが望ましい。
【0036】
さらにまた、本発明によれば、絹フィブロイン水溶液に水溶性の酵素、ホルモン、医薬品、生理活性物質、生体触媒等の活性物質を溶解させ、この溶液中に塩縮した野蚕絹糸や羊毛を浸漬し、これらの繊維表面を超薄の皮膜状の絹フィブロインで被覆させ、あるいは繊維内に絹フィブロインを浸透させることで、この絹フィブロイン基質中に含有された活性物質を繊維に担持させた活性物質担持繊維素材として利用でき、この活性物質を徐放させるようにすることができる。
活性物質を担持させるための塩縮率は、野蚕絹糸の場合には0〜40%であることが好ましく、また、羊毛の場合には0〜30%であることが好ましい。それぞれの繊維の塩縮率が、上限を超えると繊維製品等の全体が硬くなってしまう。かくして、堅くて粗悪な風合感の素材となるため、絹フィブロインを付着させる効果を発現させる上での塩縮効果は減少する。
【0037】
【実施例】
次に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例および比較例によって限定されるものではない。
なお、すべての中性塩は、和光純薬工業製のものを使用した。用いた中性塩の中には水和物となっているものもあるため、以下の例を含めて本明細書中では、中性塩の濃度(g/mL)を、中性塩に含まれる水の分子量を除いて無水物に換算して表示する。用いた中性塩の名称と分子量とを表1に示す。
【0038】
(表1)
(注)MW:分子量を意味する。
換算係数:水和物となっている中性塩の重量から無水物重量を求めるには、 中性塩重量に換算係数を掛けることで換算できる。
チオシアン酸リチウム水和物は、結合水の水和数が不定であり、分子量、換算計数を表示できないため、上記表中では便宜的に「?」を付し、無水物に換算しないで水和物重量で濃度表示することした。
【0039】
まず、以下の実施例および比較例記載の塩縮率、機械的特性、繊維への金属イオンの吸着方法、金属吸着量の定量、染色方法、染着率について説明する。
(1)塩縮率
野蚕絹糸や羊毛を加熱した濃厚な中性塩水溶液中に浸漬し、次いで、凝固浴に入れると、野蚕絹糸や羊毛試料は繊維長方向に任意に収縮する。次式を用いて塩縮率(%)を求めた。
塩縮率(%) = [(Li−Lf)/Li]×100
上式において、Liは収縮前の試料長を、また、Lfは収縮後の素試料を示す。
【0040】
(2)機械的特性
機械的特性として、試料の降伏点の伸度(%)、切断時の試料の強度と伸度(%)を測定した。測定条件は、試料長50mm、引張り速度10mm/min、チャートスケール250gであり、島津製インストロン(オートグラフAGS-5D)を使用して測定した。なお、測定値は測定25回の平均値で表示した。
(3)繊維への金属イオンの吸着方法
羊毛を、硝酸カリウムを含む0.5mMの金属塩水溶液(アンモニア水を加えてpHを11.4に調整)に室温で30時間浸漬することで金属を吸着させた。また、柞蚕絹糸を金属塩水溶液(pH8.5に調整)に浸漬することで柞蚕絹糸に金属イオンを吸着させた。
【0041】
(4)金属吸着量の定量
羊毛に吸着した金属イオンを、パーキンエルマー社製のプラズマ原子吸光スペクトロメーター (Inductive Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometer (ICP-AES)を用いて分析した。5〜10mgの試料をミクロウエーブ加水分解炉(MDS-81DCCEM)を用いて2mLの65%硝酸で完全に加水分解し、実験時にさらに10mLの水を加え、ICP-AES分析を行った。金属イオンの吸着量は、試料重量(g)あたりの金属イオン量をmmolで表示した。
【0042】
(5)染色方法
染料として、羊毛等を染色する際に一般的に使用される酸性染料を用いた。染色方法は、酸性染料Acid Orange 10(日本化薬株式会社製)を0.5%、酢酸を4%、無水硫酸ナトリウム(無水芒硝)を15%含み、浴比を1:100とした酸性浴に塩縮羊毛試料を投入した。染色は、40℃からはじめ、徐々に温度を上げて85℃まで30〜45分間で昇温させ、85℃で1時間処理することにより行った。
塩縮柞蚕絹糸の場合は、染料として酸性染料Acid Red 18(Scarlet 3R)(日本化成工業株式会社製)を用いて染色した。
【0043】
(6)染着率
染着率(%)は、羊毛等の試料の染着前および染着後における染色浴中の染料濃度変化から求めた。染着前、染着後における染色浴に対して、最大吸収波長505nmにおける吸光度を島津自記分光光度計(MPC-3100/UV-3100S)を用いて求め、予め作成した既知濃度−吸光度関係の検量線にあてはめて染色浴濃度を求めた。染着率は下記の式から計算した。
染着率(%)=[(染着前の染色浴濃度−染着後の染色浴濃度)/(染色前の染 色浴濃度)]×100
【0044】
(7)色差測定(L.a.b系)
L.a.b系は、Richard S. Hunterにより提唱されたものであり、色差計で用いられる尺度である。L.a.bの各値を指定すると「色」が表現できる。Lは明度に対応し、+aは赤み、+bは黄味を表す尺度指標である。+aは、a値が0から+方向に隔たることを意味する。本発明では、柞蚕絹糸、羊毛ともに赤系の染料による染色実験を行ったので、+a値を色差計で測定することにより、染料吸着度を便宜的に評価できる。
【0045】
実施例1:各種野蚕絹糸の塩縮
ムガ蚕、クリキュラ、エリ蚕、天蚕、柞蚕由来の絹糸を、濃度2.0g/mLの臭化リチウム(LiBr)水溶液中で、83℃で、20分間処理することで膨潤させた。その後、直ちに、膨潤試料を取り出し、水を用いた凝固浴中に浸漬して塩縮した。塩縮処理前後の繊維長変化から収縮率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0046】
(表2)
(注)中性塩の種類の欄で中性塩の後の( )内の数値は水1mL当たりに添加した中性塩をg単位で表示したものであり、中性塩濃度に符合する。
【0047】
ムガ蚕、エリ蚕、天蚕、柞蚕幼虫由来の野蚕絹糸あるいはクリキュラ絹糸はいずれも加熱した臭化リチウム水溶液中に浸漬することにより大幅に収縮した。これら試料の中でもムガ蚕絹糸は最大70%以上も収縮することが確認された。臭化リチウム以外の中性塩でも塩縮させたところ、いずれも塩縮効果は充分に得られた。一番安定した塩縮効果が得られたのは臭化リチウムであったため、以下の実施例および比較例では臭化リチウムを主として用いて実験を行うことにした。
【0048】
実施例2:柞蚕絹糸の塩縮
濃度が異なる中性塩水溶液をバイアル瓶に入れ、温度を一定に調整できる振とう装置にこれを取り付け、バイアル瓶中の中性塩水溶液の温度を80℃に調整した。約200mgの柞蚕絹糸を80℃の中性塩水溶液中に20分間浸漬し、膨潤させた。20分の浸漬処理の後、中性塩水溶液中で膨潤した柞蚕絹糸を取り出し、直ちに水もしくは水/メタノールの混合水溶液に入れ、塩縮・凝固せしめた。得られた塩縮柞蚕絹糸を流水で十分に洗浄し、次いで室温で乾燥させ、試料長を測定した。中性塩の種類および濃度と、凝固浴の種類(水または水/メタノール混合水溶液)および濃度と、塩縮率との関係を調べた。得られた結果を表3に示す。
【0049】
(表3)
(注)1)( )内は中性塩濃度(g/mL)を意味する。
2)W/M:水/メタノールからなる凝固浴を意味し、凝固浴W/M 80/20とは、
水80% v/v、メタノール20% v/vからなる混合水溶液を意味する。
【0050】
表3から明らかなように、一定組成の中性塩水溶液で塩縮処理したのち、凝固浴濃度、組成の違いで塩縮率を制御することが可能であることがわかる。おおむね、メタノール濃度が高い程塩縮率は小さな値となり、凝固浴中における水の含量が多い程塩縮率は大きな値となる傾向がある。
【0051】
実施例3:羊毛の塩縮
実施例2で用いた柞蚕絹糸の代わりに羊毛を用いて同様の処理を行った。得られた結果を表4に示す。
(表4)
表4から明らかなように、羊毛の場合は、実施例2に示した柞蚕絹糸とは違って、臭化リチウム水溶液、および凝固浴による処理だけでは塩縮の程度がやや低い。
【0052】
比較例1:家蚕絹糸の塩縮
実施例2で用いた柞蚕絹糸の代わりに家蚕絹糸を用いて塩縮処理を行った。得られた結果を表5に示す。ただし、表5で溶解有無の欄に示す記号○および×は、それぞれ、所定の中性塩で所定時間処理後に家蚕絹糸が溶解してしまい塩縮率が求められなかったものおよび何とか求められたものを意味する。
【0053】
(表5)
表中、測定不能とは、家蚕絹糸が過度に膨潤し、溶解状態に達し、繊維方向の収縮状態が評価できないことを意味する。
表5から明らかなように、家蚕絹糸は中性塩濃度が高いと溶解してしまうか、または溶解しないにしても塩縮率を制御できないという問題がある。これに対して、実施例2に示す通り、柞蚕絹糸では塩縮をうまくコントロールできる。
【0054】
比較例2:家蚕絹糸および柞蚕絹糸の塩縮
各種の浸漬温度において、濃度が1.0g/mLの硝酸カルシウム水溶液中に5分間家蚕絹糸および柞蚕絹糸を浸漬したときの塩縮率を比較した。なお、中性塩として硝酸カルシウムの4水和物を用いたときには、硝酸カルシウム無水物の使用量に換算して濃度(g/mL)を求めた。得られた結果を表6に示す。
(表6)
【0055】
次に、浸漬温度を60℃に設定し、各種濃度の硝酸カルシウム水溶液中に5分間家蚕絹糸および柞蚕絹糸を浸漬したときの塩縮率を比較した。なお、塩縮処理薬剤として硝酸カルシウムの4水和物を用いたときには、硝酸カルシウム無水物の使用量に換算して濃度(g/mL)を求めた。得られた結果を表7に示す。
(表7)
【0056】
表6および7の結果から明らかなように、家蚕絹糸を硝酸カルシウム水溶液中で浸漬処理すると、浸漬温度が高い程、また、硝酸カルシウム水溶液濃度が高い程、塩縮率が増加することが確かめられた。しかし、柞蚕絹糸は、従来の方法である中性塩水溶液処理だけではほとんど塩縮しないことが分かる。柞蚕絹糸は塩縮してもたかだか2%程度であった。この違いは、家蚕絹糸と柞蚕絹糸との化学構造ならびに微細構造の違いに基づく中性塩の浸透量の違いによるものである。
所定の温度および濃度の中性塩水溶液中に家蚕絹糸を所定時間浸漬すると、中性塩水溶液浸漬中、家蚕絹糸は浸漬時間数10秒で塩縮してしまう。この過程で家蚕絹糸の塩縮反応は既に終了してしまう。塩縮家蚕絹糸をその後、絹糸中に含まれる中性塩を除くために水洗いしても、塩縮率、塩縮状態に変化は見られなかった。
本発明で柞蚕絹糸等の野蚕絹糸や羊毛を塩縮するには、中性塩水溶液で膨潤させ(この段階では家蚕絹糸と違って塩縮反応は全く観察されない)、しかる後、凝固浴に入れると短時間に急激に塩縮反応が起こる。
したがって、塩縮した家蚕絹糸を水と接触しても塩縮反応が更に進展しないのが、家蚕絹糸の最大の特徴である。これに対して、中性塩処理中、直後の膨潤した柞蚕絹糸には塩縮は起こらないが、これを凝固浴(この中には、水洗いプロセスも含まれる)に入れて初めて塩縮が起こる。
【0057】
実施例4
柞蚕絹糸を実施例1と同様に臭化リチウム水溶液で膨潤処理した後、これを取り出して水に入れ凝固させた。水を含んだ状態では柞蚕絹糸はゴム状挙動を示す。そこで適当な力を加えて柞蚕絹糸を引きのばしたまま、長さを固定し標準状態で風乾させた。風乾時に固定する試料長を適当に設定することで、塩縮率を適宜制御することができた。
【0058】
実施例5:化学修飾加工した柞蚕絹糸の塩縮
エポキシ化合物(上記デナコールEX-810、EX-313)および酸無水物(無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水フタル酸)を用いた柞蚕絹糸への化学修飾加工を次のようにして行った。
デナコールEX-810あるいはEX-313をそれぞれ溶解したDMF中で柞蚕絹糸の化学修飾加工を行った。この際、20gのエポキシ化合物を100mLのDMFに溶解させた。使用したDMF量は、絹糸重量の20倍に設定した(浴比1:20と略記することもある)。この絹糸を入れたDMF溶液を逆流冷却器を付けた100mLのナス型フラスコに入れ、絹糸がDMF中に完全に浸漬するように留意しながら、ウォーターバスを用いて75〜80℃で時間を変えて反応させ、化学修飾加工を行った。反応終了後、絹糸試料を取り出してDMFで洗浄し、続いて55℃のアセトンで洗浄して未反応試薬を除去した。最終的に水で洗浄し、乾燥後絹糸重量を測定した。
【0059】
75〜80℃のウォーターバスで1時間および3時間反応することで、それぞれ、加工率が8.1%および10.1%(EX-810)、ならびに8.2%および15%(EX-313)の化学修飾加工試料を調製した。なお、エポキシ化合物の代わりに、酸無水物として無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水フタル酸を用いても、柞蚕絹糸への化学修飾加工が実施できた。
これらの化学修飾加工した柞蚕絹糸を実施例1に準じて塩縮・凝固処理した。すなわち、2.0g/mLの臭化リチウム水溶液中で膨潤処理を83℃で20分間行った後、この水溶液中より絹糸試料を取り出し、これを水中に入れて5分間処理した。次いで、十分水洗いした後、ゴム状態の柞蚕絹糸を適当な力を加えないで乾燥させた。得られた結果を表8に示す。
【0060】
実施例6:グラフト加工した柞蚕絹糸の塩縮
柞蚕絹糸へのグラフト加工は、試料重量に対して60重量%のスチレン(St)あるいはメタクリル酸ブチル(n-BMA)と、グラフト開始剤として過硫酸アンモニウム2.5重量% (owf)とを含み、85%蟻酸でグラフト加工系のpHを3.0に調整した混合溶液(浴比1:20)中で絹糸を処理することにより行った。グラフト加工系の温度を室温から80℃まで20分間で昇温した後、40分間、同温度を保持して反応を進めた。反応終了後、水洗し、次いでノイゲンHC(1mL/L)を添加した混合溶液中で、70℃で、20分間洗浄し、絹糸表面等に付いた試薬を除去した。水洗い後、105℃で1時間乾燥させ、グラフト加工反応前後の重量変化からグラフト加工率を求めた。スチレンおよびメタクリル酸ブチルによるグラフト加工ではグラフト加工率がそれぞれ50%、10%のグラフト加工絹糸が得られた。
【0061】
これらのグラフト加工した柞蚕絹糸を実施例1に準じて塩縮・凝固処理した。すなわち、1.6g/mLの臭化リチウム水溶液中で膨潤処理を83℃で20分間行った後、この水溶液中より絹糸試料を取り出し、これを水中に入れて5分間処理した。次いで、十分水洗いした後、ゴム状態の柞蚕絹糸を適当な力を加えないで乾燥させた。得られた結果を表8に示す。
【0062】
(表8)
表8から明らかなように、柞蚕絹糸をEX810あるいはEX313で化学修飾加工すると、化学修飾加工率が高い程塩縮率は減少し、修飾加工により収縮し難くなることが分かる。そのため、化学修飾加工により塩縮率を制御することが可能である。また、柞蚕絹糸をSt、n-BMAでグラフト加工すると、塩縮程度は対照区と比べて軽減することが分かる。
なお、化学修飾加工したまたはグラフト加工した羊毛の場合も、柞蚕絹糸と同様な傾向が得られる。
【0063】
実施例7:塩縮した柞蚕絹糸の機械的特性
前記実施例記載の方法に準じて得られた各種塩縮率の柞蚕絹糸の機械的特性をテンシロン測定装置により分析した。また、各種塩縮率の羊毛についても機械的特性を調べた。なお、塩縮した柞蚕絹糸については降伏点の伸度も評価した。得られた結果を表9に示す。
降伏点の伸度は、物体に働く応力が弾性限度を越えてある値に達し、応力の増加がほとんどないまま急激に永久歪が増加する点の応力であり、引っ張り初期の荷重−伸長曲線には折れ曲がり点として現れる。家蚕絹糸の降伏点は、荷重1.5〜1.8g/d、伸度0.3%に現れる。したがって、降伏点に対応する伸度が大きな値の素材である程、ゴム弾性的な性質を示し、伸びやすく柔らかな素材であるといえる。
【0064】
(表9)
(注)NT:未測定を意味する。また、強度および伸度の欄において、例えば、強度が222±9.7とあるのは、強度が222gfであり、標準偏差が9.7であることを意味する。
【0065】
表9から明らかなように、柞蚕絹糸に現れた降伏点伸度が、塩縮加工により2倍以上の値になった。このことは、塩縮により柞蚕絹糸の弾性率が増加し、柞蚕絹糸が柔らかく伸びやすくなったことを意味する。その結果、塩縮柞蚕絹糸を用いた織物は厚さが増して、空気含量が増加し、嵩高い風合感をもつ織物となる。また、塩縮羊毛の場合も、塩縮により伸度が増した。
以上のように、柞蚕絹糸や羊毛が伸びやすい性質を示したことは、塩縮絹糸や羊毛を用いて織物、編地、不織布等の繊維集合体を製造すると、しなやかで嵩高性に優れた風合感のよい特性を有するものが提供できるということを意味する。しかし、臭化リチウムによる塩縮率が55.5%に達すると柞蚕絹糸は急激に脆弱化する。したがって天然繊維の機械的機能を保持させたまま利用するには、柞蚕絹糸、羊毛の塩縮率が過度に大きくならないように配慮するのが望ましい。
【0066】
実施例8:羊毛の塩縮
メリノ種羊毛(64'S)を用いたが、使用に際してはベンゼン−エタノールおよびエチルエーテルによりソックスレー抽出し、精製した。この精製羊毛に対して、前処理として、各種濃度の尿素水溶液中で室温もしくは所定温度で1時間処理した後、所定濃度の臭化リチウム水溶液中で所定温度、所定時間浸漬処理し、処理後の羊毛を流水で洗い、室温で自然乾燥させた。処理前後の繊維長さの変化から塩縮率を求めた。得られた結果を表10に示した。
表10中、例えば、前処理条件において、「8M尿素水溶液、25℃、1hr」、中性塩浸漬条件において、「中性塩濃度:LiBr(1.0)、温度(℃):80〜85、時間(分):30分、塩縮率(%):43.6」とは、まず、25℃の8M尿素水溶液中で1時間前処理し、これを取り出し、80〜85℃の1.0g/mLのLiBr水溶液中に30分間浸漬処理することにより塩縮率43.6%の羊毛が調製されるということを意味する。
【0067】
(表10)
表10から、尿素水溶液中で羊毛を前処理することで、羊毛ケラチン分子間の水素結合が切断され、その後、実施例1と同様の方法でLiBr水溶液中に所定の温度および時間浸漬することで満足に塩縮させることが可能であることが分かる。
上記のようにして得られた塩縮羊毛をさらに凝固液(水、水/メタノール)中で浸漬すると塩縮率は向上した。
【0068】
実施例9:塩縮試料への金属イオンの吸着
塩縮した柞蚕絹糸および羊毛への金属イオンの吸着量を次のようにして求めた。2.4g/mLのLiBr水溶液中での処理、およびその後の水からなる凝固浴による処理で一定の塩縮率となるように塩縮させた試料を、硝酸カリウムを含む0.5mMの硝酸銀(AgNO3)水溶液および硝酸銅(Cu(NO3)2)水溶液のそれぞれに25℃で30時間浸漬することにより銀イオン、銅イオンを吸着させた。金属水溶液にアンモニア水溶液を加えてpHを11.4に調整した。得られた結果を表11に示す。
【0069】
(表11)
表11から、塩縮した柞蚕絹糸や羊毛に抗菌性を有することが知られている銀イオンや銅イオンを吸着させると、その吸着量は、塩縮率0%で表示される対照区試料(塩縮処理せず)への金属イオンの吸着量に比べて増加することが分かる。かくして、銀イオンや、銅イオンを多量に吸着させることで抗菌性繊維素材とすることができる。
【0070】
実施例10:塩縮羊毛への絹フィブロインの吸着
Pick up率を40%に設定した塩縮率の異なる羊毛を1%の絹フィブロイン水溶液中に60分間浸漬した。この水溶液から取り出した羊毛を室温で軽く乾燥した。絹フィブロイン水溶液に浸漬する前後の羊毛を105℃で1時間30分乾燥し、前後の重量変化から絹フィブロインの付着率を求めた。得られた結果を表12に示す。
(表12)
【0071】
表12から、絹フィブロイン水溶液への浸漬処理前後で試料重量が増加しており、塩縮試料に絹フィブロインが付着していることが確かめられた。塩縮処理した羊毛を絹フィブロイン水溶液中に浸漬すると、対照区の羊毛(塩縮せず)に比べて絹フィブロインが多く付着するようになった。また、塩縮処理することにより、絹フィブロインが付着した羊毛の風合感や吸湿性が対照区の羊毛に比べて改善された。
羊毛への絹フィブロインの吸着率は、塩縮率が0〜30%程度で充分実用的な値となり、塩縮率が60%程度になると絹フィブロインの吸着率は逆に減少した。また絹フィブロインが付着した羊毛の吸湿率は、塩縮率16%で増大し、塩縮率59%で逆に減少した。
【0072】
また、塩縮した柞蚕絹糸等の野蚕絹糸の場合も、羊毛の場合と同様な傾向が得られた。
以上のことから、羊毛や野蚕絹糸表面を絹フィブロインの超薄膜で被覆するには、羊毛や野蚕絹糸を中性塩で前処理して塩縮させることが効果的であり、その際の塩縮率は0〜30%の範囲にあることが望ましい。塩縮率が更に高い値となると羊毛や野蚕絹糸はかえって硬くなり、微細構造的に地詰まりした構造となり、その結果、絹フィブロインの拡散、付着が困難となって、絹フィブロインの超薄膜が試料表面を被覆し難くなる。
また、水溶性の酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒等からなる活性物質を絹フィブロイン水溶液に溶解させた混合水溶液中に塩縮した羊毛や野蚕絹糸等の塩縮試料を浸漬すれば、絹フィブロインを基質としてこれらの活性物質が担持された羊毛や野蚕絹糸を調製することができる。
実施例11:塩縮羊毛の染色性
【0073】
前記実施例に準じて中性塩で収縮処理した各種塩縮率を有する羊毛の染色挙動を調べた。染料としては、羊毛を染色する際に一般的に用いる酸性染料を使用した。染色は、酸性染料Acid Orange 10を0.5重量%(owf)、酢酸を4重量%、無水硫酸ナトリウム(無水芒硝)を15重量%含み、浴比を1:100とした酸性浴に塩縮羊毛を投入して行った。染色は、40℃からはじめ、徐々に温度を上げて85℃まで30〜45分間で昇温させ、85℃で1時間実施した。なお、染着率は前記のようにして求め、得られた結果を表13に示す。
(表13)
表13から、塩縮羊毛への染着率が向上したことが明らかとなった。58%程度まで塩縮した羊毛の場合の染着率は、未塩縮羊毛に比べて33%も増加した。
【0074】
実施例11:塩縮柞蚕絹糸の染色性
前記実施例に準じて中性塩で収縮処理した各種塩縮率を有する柞蚕絹糸の染着挙動を調べた。すなわち、酸性染料Acid Red 18(Scarlet 3R)を0.5重量%(owf)、酢酸を5重量%、無水硫酸ナトリウム(無水芒硝)を15重量%含み、浴比を1:100とした酸性浴に柞蚕絹糸を投入して行った。染色は、40℃からはじめ、徐々に温度を上げて85℃まで30〜45分間で昇温させ、85℃で1時間実施した。
染着率は実施例10で述べた方法により求めた。また、L.a.b系で求まるa値をShimadzu UV-3100S紫外分光分析装置を用いて求めた。このa値は赤色の指数となり、大きなa値ほど赤みが増すことを意味する。
得られた染着率およびa値を表14に示す。
【0075】
(表14)
(注)a値は、L.a.b表示のa値を意味する。
表14から、柞蚕絹糸が塩縮されると、塩縮柞蚕絹糸への染料の染着率が向上することが明らかであり、また、染色実験の結果、塩縮した柞蚕絹糸には多量の染料が吸着することが明らかになった。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、野蚕絹糸または羊毛を濃厚な中性塩水溶液中に浸漬した後、水単独または水/アルコール混合水溶液からなる凝固浴中に浸漬処理することにより、繊維に捲縮が起こり、塩縮した野蚕絹糸や羊毛が得られる。得られた塩縮野蚕絹糸や羊毛は、塩縮前の野蚕絹糸や羊毛と比べて、染色性は向上する。塩縮した野蚕絹糸や羊毛は、未塩縮時のかたさが軽減され、柔らかく、肌触りが良好となり、風合感が改善され、糸嵩が増してソフトタッチの風合い感となる。このため、塩縮した柞蚕絹糸や羊毛を用いて、糸、布(織物、編物等)の繊維製品や不織布等の繊維集合体等を作製すれば、得られた繊維製品等は、風合感が改善され、糸嵩が増してソフトタッチの感触となる。
【0077】
また、本発明によれば、羊毛として、予め尿素水溶液により分子間の水素結合を切断したものを用い、これを中性塩水溶液で処理処理することにより塩縮が起こるが、引き続いて上記のように凝固浴で処理すれば、塩縮はさらに完全になる。
さらに、本発明によれば、処理対象野蚕絹糸や羊毛として、グラフト加工したまたは化学修飾加工したものを用いれば、加工用化合物の種類や加工率により、塩縮率を制御することができる。
さらにまた、本発明により得られた塩縮した野蚕絹糸や羊毛である天然繊維は、金属イオンを多く結合するので、抗菌性金属水溶液や廃液中の金属を吸着させるための繊維素材として有用である。さらにまた、塩縮した野蚕絹糸や羊毛である天然繊維は絹フィブロインを付着するので、酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒等からなる活性物質を添加した絹フィブロイン水溶液で処理すれば、塩縮した野蚕絹糸や羊毛にこれらの活性物質を担持させることができる。
Claims (8)
- 天然繊維として野蚕絹糸または羊毛を中性塩水溶液中に浸漬し、引き続いて、取り出した天然繊維を、野蚕絹糸または羊毛の蛋白質が凝固する条件で、水単独または水/アルコールの混合水溶液からなる凝固浴中に浸漬し、塩縮・凝固した天然繊維を製造することを特徴とする塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記羊毛として、中性塩水溶液中に浸漬する前に尿素水溶液中に浸漬して分子間・分子内の水素結合を切断した羊毛を用いることを特徴とする請求項1記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記中性塩が、臭化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウム、または塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記中性塩の濃度が0.8g/mLより高く6.0g/mL以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記野蚕絹糸または羊毛が、グラフト重合用モノマーを用いて加工したグラフト加工野蚕絹糸もしくは羊毛、または反応性モノマーを用いて化学修飾加工した化学修飾加工野蚕絹糸もしくは羊毛であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記グラフト重合用モノマーが疎水性または親水性ビニル化合物であり、また、前記反応性モノマーがエポキシ化合物または酸無水物であることを特徴とする請求項5記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 前記疎水性ビニル化合物がメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルまたはスチレンであり、前記親水性ビニル化合物がメタクリルアミドまたはメタクリル酸2-ヒドロキシエチルであり、前記エポキシ化合物がエチレングリコールジグリシジルエーテル、またはグリセロールポリグリシジルエーテルであり、前記酸無水物が無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、または無水フタル酸であることを特徴とする請求項6記載の塩縮した天然繊維の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法に従って得られた塩縮した天然繊維に付着した絹フィブロインを基質として、該基質中に酵素、医薬品、生理活性物質、生体触媒から選ばれた活性物質が含有されていることを特徴とする活性物質担持繊維素材。
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