JP3693838B2 - 希土類磁石用合金薄帯、合金微粉末及びそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気特性に優れた希土類永久磁石を製造するのに適した原料とその原料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希土類永久磁石は、優れた磁気特性と経済性のため電気・電子機器の分野で多用されており、近年益々その高性能化が要求されている。これら希土類永久磁石の内R−T−B系希土類永久磁石(RはNdを主体とした希土類元素、TはFe、又はFe及びCoである遷移金属)は、希土類コバルト磁石に比べたとき、主要元素であるNdがSmより豊富に存在すること、高価なCoを多用しないこと、から原材料費が安価であり、磁気特性も希土類コバルト磁石を遙かに凌ぐ、極めて優れた永久磁石である。
従来、R−T−B系希土類永久磁石原料用合金は、合金溶湯を金型に鋳造する金型鋳造法により製造されてきた。この合金の冷却凝固過程において初晶γ−Feが析出し、それが冷却後α−Feとして偏析する。α−Feは永久磁石製造工程の中の微粉砕工程において、その粉砕能力を悪化させ、焼結工程後の磁石に残存すれば磁気特性の低下をもたらす。そのため、高温で長時間にわたる均質化熱処理を施してα−Feを消失させることが必要となるが、この均質化熱処理により合金中の主相(R2 T14B)の結晶粒径が粗大化し、磁気特性を低下させると共に、製造コストも上昇させてしまう。そこで、ストリップキャスティング法等の急冷技術を用いて、α−Feの偏析を抑制すると共に、主相の結晶粒径を細かくした永久磁石原料用合金を製造し、それを用いて永久磁石を製造することが報告されている。
【0003】
特許第2665590号では、主相(R2T14B)結晶が短軸3〜20μmの均質な柱状結晶であり、この永久磁石原料用合金を用いると保磁力(iHc)の高い磁石を製造できるとしている。
特許第2639609号では、冷却速度10〜500℃/秒で均一に凝固させ、主相の結晶粒径が短軸0.1〜50μm、長軸0.1〜100μmである永久磁石原料用合金を製造し、これを用いることにより磁石の残留磁束密度(Br)を上昇させている。
特開平7−176414号では、平均粒径3〜50μmの柱状結晶の主相用母合金と平均粒径0.1〜20μmの粒界相用母合金とを混合し、水素を吸蔵させる方法で粉砕性を上げ、更に磁気特性も上げている。
特開平9−170055号では、鋳造後の800〜600℃の冷却を10℃/秒以下に制御することで、主相の平均粒径が20〜100μmで、Ndリッチ相間隔が15μm以下の合金をつくり、残留磁化を上昇させている。
これらどの報告においても、平均粒径の揃った均質な原料用合金を用いて、粒度分布が均一な微粉を得ることで、磁気特性を向上させているのが特徴である。
【0004】
希土類永久磁石は、金型鋳造法、又は急冷法によって製造された原料用合金を粉砕して得られた微粉末を磁場中で加圧成型した後、真空中で焼結するという粉末冶金工程で製造される。希土類永久磁石における焼結工程は、液相焼結と言われるもので、微粉末の成型体を約1100℃(組成によって違う)に加熱することで液相量が増え、収縮して密度が上がり、残留磁束密度が上がることを利用している。焼結終了後に冷却すると、液相にならなかった主相の周りを融点の低い相であるR(Nd)リッチ相が囲み、平均粒径3〜10μmの主相が分散することで保磁力が発生する。
残留磁束密度を上げるには焼結密度を上げる必要があり、主相が完全に液相になってしまう温度を上限として、焼結温度を高くした方が良い。
【0005】
一方、保磁力は、焼結温度を高くすればいいというものではなく、一般的には残留磁束密度が最大となる温度よりも約100℃低い温度で最大となっていた。別の言い方をすると、保磁力は、焼結体密度が真密度の約90%に上がったところで最も高くなり、それ以上に加熱すると、主相が粒成長を起こして粒径が大きくなり、主相の分散性が低下するので、保磁力は低下してしまう。特に、真密度の99.5%を超える焼結体密度になるまで加熱すると、主相が急激に粒成長して保磁力が急激に低下すると共に、角型性も低下してしまう。そこで、一般的には、残留磁束密度と保磁力とのバランスを考えて、焼結体密度が真密度の98〜99.5%になるような温度が最適焼結温度とされている。
以上のことから、これまでの最適焼結温度と比較して低い温度で焼結体密度を上げることが可能となれば、焼結体中の主相の粒径を大きくさせないから、残留磁束密度の値を損なうことなしに保磁力を大きくすることが可能となる、と考えられる。
【0006】
保磁力を大きくすることを目的として最適焼結温度を下げるには、液相になり易い、融点の低い相であるRリッチ相を増やす組成にする方法と、微粉末の粒径を細かくする方法とがある。
前者の場合、確かに焼結温度が下がり保磁力が上昇するが、相対的に主相の割合が低下してしまい、残留磁束密度が低下してしまうので好ましくない。
後者の場合、微粉末の表面積が増えることにより、酸素濃度が増えてしまう。酸素はRと反応してR2 O3 となり、Rリッチ相の量が減ってしまうので好ましくない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上に述べた点を踏まえて、低い温度で焼結体を高密度化することを可能とする希土類永久磁石を製造するのに適した原料と、その原料の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その目的を達成するために、合金溶湯をロール急冷法で急冷して得られるR−T−B系希土類永久磁石原料用合金薄帯(Rは希土類元素、TはFe、又はFe及びCoである遷移金属)であって、薄帯の厚さが30〜1000μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で1〜30%の粒径3μm以下のチル晶を有し、残部は、粒径3〜50μmの粒状結晶、及び短軸が3〜100μm、長軸が20〜600μmの柱状結晶からなる永久磁石原料用合金薄帯である。
また、前記永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕し、その粗粉砕粉末を更に微粉砕して得られる微粉末であって、粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmである永久磁石原料用合金微粉末である。
更に、永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕し、別途粗粉砕した粒界用合金と混合し、その混合粗粉砕粉末を更に微粉砕して得られる微粉末であって、粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%含まれ、残部が粒径が3〜10μmである永久磁石原料用合金微粉末である。
前記永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕する方法が、永久磁石原料用合金薄帯に水素を吸蔵させた後脱水素化を行う方法であり、かつ、微粉砕がジェットミルにより行われることであることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、チル晶と粒状結晶部分と柱状結晶部分とが混在する結晶組織の永久磁石原料用合金薄帯を用いることで、低い温度で焼結体を高密度化することを可能とし、焼結体中の主相(R 2 T 14 B)が粒成長することなく粒径を細かく保ち、高残留磁束密度で高保磁力のR−T−B系希土類永久磁石を得ることができるとの知見を基本としている。
本発明者等は、ロール急冷法によれば、ロール接触面側の表面部に体積率で1〜30%(以下、単に「1〜30%」のように記すことがある)の粒径3μm以下のチル晶を有し、チル晶以外の残部は粒径3〜50μmの粒状結晶、及び短軸3〜100μm、長軸20〜600μmの柱状結晶からなる永久磁石原料用合金薄帯を得ることができること、また、その永久磁石原料用合金薄帯を用いることで、平均粒径3μm以下のものが1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmである粒度分布を持つ微粉末を容易に得ることができ、その微粉末を用いることで、従来の均一な粒度分布を持つ微粉末を用いた時よりも20〜100℃低温で焼結できるようになり、保磁力が大きくなることを見出した。
【0010】
微粉末の平均粒径を細かくする方法で最適焼結温度を下げて保磁力を上昇させようとした場合、既に述べたように、酸素濃度が上昇するために、磁石を高特性化するのには限界があった。しかし、平均粒径を変えずに、細かい粒径のものが含まれる微粉末を用いると、磁石を高特性化することができる。具体的には、粒径3μm以下のものが1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmである粒度分布を持った微粉末を用いると、粒径3μm以下の微粉末が存在するために最適焼結温度は20〜100℃低くなり、保磁力が上昇する。この場合、平均粒径がほぼ同じなので、酸素濃度の上昇はほとんどない。
【0011】
粒径3μm以下のものが1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmである粒度分布を持った微粉末を製造するには、均一な結晶組織の原料用合金を使っていたのでは難しい。理由は以下の通りである。
(1)均一な結晶組織の原料用合金を使うと、粉砕された微粉末は均一な粒度分布となり易い。
(2)微粉砕条件の変更により同じ平均粒径で粒径3μm以下の微粉末を増やそうとすれば、粒径10μm以上の大きなものも混入してしまう。
(3)粒径3μm以下の微粉末と平均粒径3〜10μmの微粉末とを別々に粉砕して混合する方法では、完全には混ざらない。また、微粉末は非常に酸化し易く、酸素濃度が上昇してしまうので、Vブレンダー等を用いて混合する工程を追加することは、好ましいものとは言えない。
【0012】
したがって、平均粒径3μm以下のものが1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmである粒度分布を持つ微粉末を製造するには、チル晶を含む複数の相が混在した結晶組織の原料用合金を使えば良いことになる。
チル晶を含む複数の相が混在した結晶組織を有する永久磁石原料用合金は、合金溶湯をロール急冷法で急冷して得られる薄帯によって実現される。
原料用合金薄帯は、単ロール法、又は双ロール法により溶湯を急激に冷却して製造される。
合金溶湯をロールに接触させて冷却凝固させると合金薄帯ができるが、合金薄帯中の冷却速度は一定ではない。例えば単ロール法の場合、合金薄帯はロール接触面から非接触面へと順に冷却されるが、合金薄帯が冷却されると同時にその熱量がロールへと移動してロールの温度が上昇する。よって、合金薄帯がロールと接触している間は合金薄帯とロールの温度差が順次小さくなり、冷却速度が遅くなっていく。つまり、合金薄帯のロール接触面は冷却速度が速いが、非接触面は冷却速度が遅い。
【0013】
合金薄帯がロールから剥がれた後1回転する間にロールは冷却され、再び合金溶湯がロールに接触して合金薄帯が製造される。ロールの材質、厚さ、直径、回転数、冷却水温度、冷却水流量等を変えることで冷却速度を変えることができ、それにより、複数の相が混在した結晶組織を有する原料用合金を製造することができる。
具体的には、ロール接触面近傍では約10000℃/秒以上の冷却速度で、粒径3μm以下のチル晶をつくる。次の層では約1000℃/秒〜約10000℃/秒の冷却速度で、粒径3〜50μmの粒状結晶をつくる。次の層ではロール非接触面まで約200℃/秒〜約1000℃/秒の冷却速度で、短軸3〜100μm、長軸20〜600μmの柱状結晶をつくる。ここで、長軸が短軸の2倍未満のものを粒状結晶、2倍以上のものを柱状結晶とする。
合金薄帯中の結晶相の量的割合は、ロール接触面側の表面部に体積率で1〜30%の粒径3μm以下のチル晶を有し、残部は、粒径3〜50μmの粒状結晶、及び短軸が3〜100μm、長軸が20〜600μmの柱状結晶からなるようにする。
チル晶、粒状結晶、柱状結晶以外のものが存在しても、体積率で1%以下であれば問題ない。
チル晶の割合が体積率で1%未満では、粒径3μm以下の微粉末の割合が少なくなって、本発明の効果が得られない。また、30%を超えると粒径3μm以下の微粉末の割合が増えて、酸素濃度が上昇してしまうので好ましくない。
【0014】
得られた合金薄帯を粗粉砕する。
粗粉砕は、ブラウンミル等、通常の粉砕手段が採用され得る。しかし、粗粉砕工程において、合金薄帯をブラウンミル等で粗粉砕するのではなく、水素を吸蔵させた後に脱水素化を行うという水素化粗粉砕を行うことがより好ましい。これは、水素吸蔵により格子間隔が膨張してクラックが発生し、粗粉末となるのであるが、これが好ましい理由は、微粉砕のときに粗粉末が結晶組織の粒界で割れ易くなるからである。
また、脱水素化工程では真空中で400℃〜700℃に加熱するが、加熱することで主相から水素が十分に放出される。
一合金法の場合には、得られた粗粉末をジェットミル等により微粉砕する。また、二合金法の場合には、別にブラウンミル等で粗粉砕した粒界用合金粗粉末と混合し、混合粗粉末をジェットミル等により微粉砕を行う。
【0015】
ジェットミルでの微粉砕において、粒径3μm以下のチル晶は粒径3μm以下の微粉末に粉砕され、他の部分は粒径3〜10μmの微粉末になるまで粉砕される。微粉末の粒径別の割合は、粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmであるようにする。粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%以下では、液相焼結の温度が高温になり、体積率で1〜30%を超えると、酸素濃度が上昇してしまって、必要な磁気特性が得られない。
得られた微粉末は、配向させるために磁場中で加圧成型する。その後、成型体は真空中で、従来の方法で調製された微粉末を使用したときと比べて20〜100℃低い温度で、焼結する。
本発明について、薄帯内に複数の結晶組織がある場合のその割合と、それによる効果について説明してきたが、要するに、厚さ等を含めて薄帯内にばらつきがあっても、全体として体積率で1〜30%の粒径3μm以下のチル晶を有し、残部は粒径3〜50μmの粒状結晶、及び短軸3〜100μm、長軸20〜600μmの柱状結晶からなっていればよい。これは薄帯の製造条件が広いという意味を持っており、製造を安定して続けていく上で、本発明の合金薄帯を使うことは非常に好ましい。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
組成式12.5Nd−6.0B−1.5Co−80.0Fe(各原子%)の組成の金属溶湯を、Ar雰囲気中で単ロール法によって冷却して、合金薄帯を製造した。この合金薄帯は、平均厚さが約240μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で12%のチル晶、それから体積率6%の粒径5〜20μmの粒状結晶、残部は短軸5〜30μm、長軸50〜230μmの柱状結晶からなっていた。この合金薄帯の断面の代表的な偏光顕微鏡による組織写真を図1に示す。断面写真の下部がロール接触面であり、ここにチル晶ができている。
製造した合金薄帯を、ブラウンミルにて平均粒径200μmに粗粉砕して主相用母合金とし、これを90重量%、別途ブラウンミルにて平均粒径200μmに粗粉砕した20.0Nd−10.0Dy−6.0B−44.0Co−20.0Fe(各原子%)の組成の粒界用合金を10重量%、の割合で混合し、ジェットミルにより微粉砕を行った。
【0017】
得られた微粉末は、平均粒径4.5μmであり、その内粒径3μm以下のものが8%あり、その平均粒径は1.8μmであった。
この微粉末の粒度分布を図5に示す。3μm以下にもう一つのピークが見られる。
得られた微粉末を15kOeの磁場中で配向させながら、1ton/cm2 の圧力で加圧成型した。この成型体を真空中で1050℃で2時間焼結し、その後Ar雰囲気中で1時間時効熱処理を行い、磁石合金を作製した。
【0018】
[実施例2]
実施例1と同じ合金薄帯を用いて、水素化粗粉砕で粗粉砕した。水素化粗粉砕は、常温で2時間水素吸蔵処理を行い、その後真空中で600℃で2時間加熱して脱水素化処理を行った。その後は実施例1と同様にして微粉末を得た。
得られた微粉末の平均粒径は4.5μmであり、その内粒径3μm以下のものが13%あり、その平均粒径は1.4μmであった。
この微粉末の粒度分布を図6に示す。3μm以下で見られるもう一つのピークがより高くなった。
この微粉末を用いて、焼結温度を、実施例1より10℃低い、1040℃にしたこと以外は実施例1と同じ方法で磁石合金を作製した。この1040℃は、この例で用いた微粉末における最適焼結温度である。
【0019】
[実施例3]
実施例1と同じ組成で、単ロール法にて、平均厚さ約260μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で10%のチル晶、それから体積率で29%の粒径5〜30μmの粒状結晶、残部は短軸5〜30μm、長軸50〜250μmの柱状結晶からなる合金薄帯を製造した。この合金薄帯の断面の代表的な偏光顕微鏡による組織写真を図2に示す。その他は実施例2と同じ方法で磁石合金を作成した。
【0020】
[実施例4]
実施例1と同じ組成で、単ロール法にて、平均厚さ約250μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で13%のチル晶、それから体積率で70%の粒径5〜40μmの粒状結晶、残部は短軸5〜30μm、長軸50〜230μmの柱状結晶からなる合金薄帯を製造した。この合金薄帯の断面の代表的な偏光顕微鏡による組織写真を図3に示す。その他は実施例2と同じ方法で磁石合金を作成した。
【0021】
[比較例1]
実施例1と同じ組成で、単ロール法によって、平均厚さが約270μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で10%の粒径5〜35μmの粒状結晶、残部が短軸5〜30μm、長軸50〜270μmの柱状結晶からなる合金薄帯を製造した。この合金薄帯の代表的な偏光顕微鏡による組織写真を図4に示す。その後、焼結温度を実施例2より40℃高い、この合金の最適焼結温度である1080℃にした以外は、実施例2と同じ方法で磁石合金を作製した。
途中得られた微粉末の平均粒径は4.6μmであり、その内粒径3μm以下のものが2%あり、その平均粒径は2.6μmであった。
この微粉末の粒度分布を図7に示す。3μm以下にピークは見られない。
【0022】
[比較例2]
焼結温度を実施例2と同じ1040℃にした以外は比較例1と同じ合金薄帯を用いて、同じ方法で磁石合金を作製した。
[比較例3]
実施例1と同じ組成で、単ロール法によって合金薄帯を製造した。得られた合金薄帯は、平均厚さが約1000μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で6%の粒径5〜50μmの粒状結晶、それから64%の短軸5〜50μm、長軸200〜700μmの柱状結晶、非冷却面側に体積率で30%の平均粒径8.2μmのα-Feが偏析している部分からなる合金薄帯であった。α−Feを消去するために、合金薄帯に1080℃で20時間の均質化熱処理を行った。この時の主相結晶は粒径200〜800μmの粒状結晶であった。その後、焼結温度を、実施例2より60℃高い、この合金薄帯を用いたときの最適焼結温度である1100℃にした以外は、実施例2と同じ方法で磁石合金を作製した。
途中得られた微粉末の平均粒径は4.6μmであり、その内粒径3μm以下のものが2%あり、その平均粒径は2.7μmであった。
【0023】
表1に、二合金法で磁石を作製した実施例1〜4と比較例1〜3について、合金薄帯の厚さ、結晶組織とその割合、α−Feを消去するための均質化熱処理および水素化粗粉砕の有無、微粉末の平均粒径と3μm以下の割合、得られた磁石合金の焼結温度、主相の平均粒径、磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)max )、及び焼結体密度ρを示す。
【0024】
【表1】
【0025】
チル晶が存在しない合金薄帯を用いた比較例1は、焼結体密度を十分に上昇させるためには、1080℃で焼結する必要があった。それに対して、チル晶が存在している実施例1〜4では、1050℃又は1040℃で焼結体密度が十分に上昇しているため、比較例1と比べて焼結体中の主相が粒成長せず、平均粒径が小さく保たれるために、iHcが高くなっている。
また、実施例1よりも、水素化粗粉砕をした実施例2の方が、3μm以下の微粉末の割合が多くなり、最適焼結温度が更に低くなり、得られた磁石合金の特性においてもより望ましい結果が得られた。
比較例1と同じ合金薄帯を用いて同じ方法で、焼結温度だけ実施例2と同じにしたのが比較例2であるが、焼結体密度が低く、Br及び(BH)max が低い結果となっている。
また、実施例2、3、4は、チル晶の割合がほぼ同じで、粒状結晶と柱状結晶の割合を変化させたものであるが、有意差はなかった。
【0026】
比較例3は、偏析したα−Feを消去するために均質化熱処理を行ったため、合金薄帯中の結晶組織は粒状結晶が100%となり、表1には示していないが上述のとおり、結晶粒径が大きくなってしまった場合で、金型鋳造法にて作製した合金塊を均質化熱処理した場合とほぼ同じ結晶粒径となった。この場合、焼結体密度が上昇してBrを上昇させるためには1100℃で焼結する必要が有り、焼結体中の主相が粒成長し、平均粒径が大きくなってしまうために、iHcが低くなっている。
以上のことから、チル晶を有する合金薄帯を用いて磁石合金を製造することは、磁気特性の向上に有効であることが分かる。
【0027】
次に、組成式13.2Nd−0.8Dy−6.0B−4.5Co−75.5Fe(各原子%)の組成で、一合金法により磁石合金を製造したものが実施例5〜8と比較例4〜6であり、実施例5〜8と比較例4〜6についての、表1と同様の項目の測定結果を、表2に、また、実施例5における合金薄帯の断面の代表的な偏光顕微鏡による組織写真を図4に、それぞれ示す。一合金法での製造方法は、粒界用合金を混合しない以外は二合金法と同じである。
【0028】
【表2】
【0029】
チル晶を有する合金薄帯を用いた実施例5〜8の磁気特性が高くなっており、一合金法の場合においても、チル晶を有する合金薄帯を用いて磁石合金を製造することは、磁気特性の向上に有効であることを示している。
【0030】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の微粉末を用いて磁石合金を製造すれば、残留磁束密度Br、最大エネルギー積(BH)max を損なうことなく、焼結温度を低めて保磁力iHcを高めることができる。また、本発明の合金薄帯を用いることにより、平均粒径を変えることなしに粒径3μm以下の微粉末の割合を高めることができる。
また、冷却面(ロール接触面)と非冷却面(ロール非接触面)との間の全てにわたり均一な結晶粒径を有する合金薄帯よりも、複数の相を持つ合金薄帯の方が製造条件が広いので、製造を安定して続けていくことが容易となり、本発明の合金薄帯を使うことは非常に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1における合金薄帯の偏光顕微鏡による組織写真である。
【図2】 実施例3における合金薄帯の偏光顕微鏡による組織写真である。
【図3】 実施例4における合金薄帯の偏光顕微鏡による組織写真である。
【図4】 実施例5における合金薄帯の偏光顕微鏡による組織写真である。
【図5】 実施例1における微粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図6】 実施例2における微粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図7】 比較例1における微粉末の粒度分布を示すグラフである。
Claims (4)
- 合金溶湯をロール急冷法で急冷して得られるR−T−B系希土類永久磁石原料用合金薄帯(Rは希土類元素、TはFe、又はFe及びCoである遷移金属)であって、薄帯の厚さが30〜1000μmであり、ロール接触面側の表面部に体積率で1〜30%の粒径3μm以下のチル晶を有し、残部は、粒径3〜50μmの粒状結晶、及び短軸が3〜100μm、長軸が20〜600μmの柱状結晶からなることを特徴とする永久磁石原料用合金薄帯。
- 請求項1記載の永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕し、その粗粉砕粉末を更に微粉砕して得られる微粉末であって、粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmであることを特徴とする永久磁石原料用合金微粉末。
- 請求項1記載の永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕し、別途粗粉砕した粒界用合金と混合し、その混合粗粉砕粉末を更に微粉砕して得られる微粉末であって、粒径3μm以下の微粉末が体積率で1〜30%含まれ、残部の粒径が3〜10μmであることを特徴とする永久磁石原料用合金微粉末。
- 永久磁石原料用合金薄帯を粗粉砕する方法が、永久磁石原料用合金薄帯に水素を吸蔵させた後脱水素化を行う方法であり、かつ、微粉砕がジェットミルにより行われることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の永久磁石原料用合金微粉末を製造する方法。
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