JP3687756B2 - 液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計、電卓、電子手帳、ラップトップコンピューター、コンピューター端末等の各種の液晶表示装置として利用される液晶表示素子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、液晶表示装置に用いられる液晶素子は、TN(ツイステッド・ネマチック)型液晶表示素子やSTN(スーパー・ツイステッド・ネマチック)型液晶表示素子が広く用いられている。特にSTN型液晶表示素子は、ねじれネマチック配向のツイスト角を90度以上、通常180〜270度としたもので、印加電圧に対する光学位相差の急峻な変化特性を有することから、マルチプレクス駆動が可能であり、大容量の情報を表示する必要があるワープロやラップトップコンピューター用として多用されている。しかしながら、STN型液晶表示素子は、素子における液晶材料層の厚み(d)と液晶材料の固有ピッチ(P)の比(d/P)を正確に制御しないと正常に動作せず、正常に動作するd/Pの範囲、d/Pマージンと呼ばれる範囲が狭い場合STN液晶表示素子の製造が難しく、歩留まりが悪いという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、d/Pマージンが広く、製造の歩留まりが良好なSTN型液晶表示素子を提供し、更にそのSTN液晶表示素子の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、かかる課題がSTN液晶表示素子中に、単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体を含有する液晶材料を挟持させることによって解決できることを見いだし本発明を提供するに至った。
【0005】
即ち、本発明は電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料及び単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体を少なくとも挟持し、且つネマチック液晶材料がツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向している液晶表示素子において、前記単官能カイラルアクリレートの重合体が、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを、前記ネマチック液晶材料及び前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料中で重合させて得られるものであることを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0006】
STN液晶表示素子中に前記単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体を挟持させることによってd/Pマージンが広く、製造歩留まりが良好になる理由は必ずしも明かではないが、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを、前記ネマチック液晶材料及び前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料中で重合させることにより形成した前記単官能カイラル(メタ)アクリレート重合体の高分子鎖が、前記ネマチック液晶材料のねじれネマチック配向を支持するように働き、結果としてアンダードメインやストライプドメイン等の重大な欠陥の発生を抑止する効果を有し、d/Pマージンが広くなるためと考えることができる。また、前記単官能カイラル(メタ)アクリレート化合物を重合させているため、前記単官能カイラル(メタ)アクリレート重合体の高分子鎖に不斉炭素が取り込まれて固定化されており、これによる上記ネマチック液晶材料に誘起されるねじれ力の温度依存性の低減もd/Pマージン拡大に寄与していると考えることができる。
【0007】
本発明の液晶表示素子に挟持されている重合体は、単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体であり、1分子に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の重合体のように3次元網目状の高分子鎖を形成する要因となる分岐鎖を形成しにくく、線状の高分子鎖になっていると考えられ、これにより前記ネマチック液晶材料のねじれネマチック配向を支持しつつ、前記ネマチック液晶材料の印加電圧に対する応答を妨げることがない、つまりSTN液晶表示素子の印加電圧に対する光学位相差の急峻な変化特性は犠牲にしないという特徴を有している。
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。本発明の液晶表示素子に挟持される重合体は、不斉炭素とただ一つの(メタ)アクリロイル基を有する単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体であることを特徴としている。このような重合体を与える単官能カイラル(メタ)アクリレートとしては例えば、一般式(II)
【0009】
【化5】
【0010】
(式中、Wは水素原子又はメチル基を表わし、環D、E及びFはそれぞれ独立的に、
【0011】
【化6】
【0012】
を表わし、qは1から4の整数を表わし、pは0又は1の整数を表わし、Y4は単結合又は
【0013】
【化7】
−(CH2)r− 、 −(CH2)rO− 、 −(CH2CH2O)r−
のいずれかを表わし、rは1から18の整数を表わし、Y5及びY6はそれぞれ独立的に、単結合、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O−、−OCH2CH2CH2−、−CH2=CHCH2CH2−又は−CH2CH2CH=CH−を表わし、Y7は単結合、−COO−、−OCO−を表わし、R1は炭素原子数3から18の光学活性な炭化水素基を表わす。)で表わされる化合物を挙げることができる。このような単官能カイラル(メタ)アクリレートのなかでも、特定の構造を持つ単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体は、d/Pマージン拡大の効果が大きく、更に駆動電圧を低減する効果もあることを本発明者等は見いだした。即ち、特定の単官能カイラル(メタ)アクリレートとは、不斉炭素及び少なくとも2つの6員環を有する液晶性骨格を部分構造として有する環状アルコール、フェノール又は芳香族ヒドロキシ化合物の(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする。
【0014】
このような構造を有する単官能カイラル(メタ)アクリレートとしては、例えば一般式(I)
【0015】
【化8】
【0016】
(式中、Xは水素原子又はメチル基を表わし、6員環A、B及びCはそれぞれ独立的に、
【0017】
【化9】
【0018】
を表わし、nは0又は1の整数を表わし、mは1から4の整数を表わし、Y1及びY2はそれぞれ独立的に、単結合、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O−、−OCH2CH2CH2−、−CH2=CHCH2CH2−又は−CH2CH2CH=CH−を表わし、Y3は単結合、−COO−、−OCO−を表わし、Rは炭素原子数3から18の光学活性な炭化水素基を表わす。)であることが好ましい。
【0019】
このような単官能カイラル(メタ)アクリレートの具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが、本発明で使用することができる単官能カイラル(メタ)アクリレートは、これらの化合物に限定されるものではない。
【0020】
【化10】
【0021】
【化11】
【0022】
【化12】
【0023】
このような、単官能カイラル(メタ)アクリレートは単独で用いても、2種以上の化合物を混合して用いてもよい。
また、本発明の液晶表示素子に挟持される重合体は、(S)体、(R)体のどちらの絶対配置をもつ単官能カイラルアクリレートの重合体であってもよいが、液晶表示素子中のねじれネマチック配向のねじれの向きのどちらが好ましいかによって適宜選択すればよい。
【0024】
本発明の液晶表示素子に挟持される重合体とネマチック液晶材料との重量比は、単官能カイラル(メタ)アクリレート重合体がネマチック液晶材料に及ぼすねじれ力の大きさや、液晶表示素子のツイスト角、挟持されるネマチック液晶材料層の厚さによって適宜調整されるが、ネマチック液晶材料100重量部に対して、重合体は0.1〜11重量部の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の液晶表示素子に挟持されたネマチック液晶材料のねじれネマチック配向の支持は、前記単官能カイラルアクリレート重合体によってなされるが、ネマチック液晶材料のねじれネマチック配向のツイスト角を微調整する目的で、重合性の官能基を有していない非重合性のカイラル化合物も挟持させてもよい。このような化合物としては、通常液晶の技術分野でよく用いられているカイラル化合物を用いることができ、例えば、「CB−15」、「C−15」(以上BDH社製)、「CM−21」、「CM−22」、「CM−19」、「CM−20」、「CM」(以上チッソ社製)、「S1082」、「S−811」、「R−811」(以上メルク社製)等を例示することができる。
【0026】
本発明の液晶表示素子の電極層は、透明なガラス基板上に形成されたITO(インジウムチンオキサイド)電極層であることが好ましく、配向処理層は1〜30度のプレチルト角を形成するラビングしたポリイミド配向膜を該電極層の上に形成するのが好ましい。
【0027】
また、挟持されるネマチック液晶材料は、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するものが好ましい。このようなネマチック液晶材料は単一の液晶性化合物であっても、2種以上の液晶化合物を含有していても良いが、全体として正の誘電率異方性を有し、且つその正の誘電率異方性が大きいものが好ましい。このようなネマチック液晶材料を構成できる液晶化合物としては例えば、4−置換安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換フェニルエステル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換ビフェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキサンカルボニルオキシ)安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4’−置換シクロヘキシルエステル、4−置換4’−置換ビフェニル、4−置換フェニル4’−置換シクロヘキサン、4−置換4”−置換ターフェニル、4−置換ビフェニル4’−置換シクロヘキサン、2−(4−置換フェニル)−5−置換ピリジン等の骨格を有する化合物を挙げることができる。特に好ましいのは、これらの化合物の中でも、少なくとも分子の一方の末端にシアノ基又はフッ素原子を有する化合物である。挟持されるネマチック液晶材料の屈折率の異方性の大きさ(Δn)の好ましい値は、ネマチック液晶材料が挟持される厚さ(d)によってことなるが、Δnとdの積が0.4〜1.0(ミクロン)、更に好ましくは0.8〜0.9(ミクロン)になるように設定するのが好ましい。
【0028】
また、本発明の液晶表示素子に挟持されているネマチック液晶材料は、従来のSTN型液晶表示素子と同様にツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向させることが必要であるが、挟持する2枚の基板上に形成された配向処理層の容易軸のお互いのなす角度は、従来のSTN型液晶表示素子と同様にして設定してやればよく、特別な処理を必要とするものではない。
【0029】
本発明の液晶表示素子は、通常のSTN型液晶表示素子と全く同様の使途に用いることができる。従って、2枚の偏光板及びバックライト等の光源と共に用いて透過型の表示素子とすることも可能であり、2枚の偏光板及び1枚の反射板と共に用いて反射型の表示素子とすることも可能である。更に、表示の色付きを解消する目的もしくは、色付きを強調する目的で、位相差フィルムを加えた構成にしても良く、2枚以上の位相差フィルムを、その光軸をずらして積層した構成にしても良い。2〜8色以上のカラー表示が必要な場合は、1枚以上の位相差フィルムと共にRGBマイクロカラーフィルターを用いるのが好ましい。
【0030】
次に本発明の液晶表示素子の製造方法について説明する。本発明の製造方法は電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料及び単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料を介在させて、カイラルネマチック液晶材料をねじれネマチック配向させた後、カイラルネマチック液晶材料に紫外線又は電子線を照射することにより、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを前記カイラルネマチック液晶材料中で重合させて、前記ネマチック液晶材料をツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向させることを特徴とする。
【0031】
ネマチック液晶材料及び単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料を介在させる工程としては、2枚の基板、スペーサー及びシール材を用いて、従来と同様に空パネルを作製した後、前記カイラルネマチック液晶材料を真空注入させる方法がある。
【0032】
前記カイラルネマチック液晶材料に、紫外線又は電子線を照射する工程は単官能カイラル(メタ)アクリレートを重合させるために行うが、この工程はネマチック液晶材料のねじれネマチック配向が乱れるのを防止するために、周囲温度は20〜25℃程度の室温で紫外線又は電子線を照射して行うのが好ましい。 紫外線又は電子線の照射による重合反応を迅速におこなうために、前記カイラルネマチック液晶材料に、光重合開始剤や増感剤を添加してもよい。ここで使用することができる光重合開始剤としては、公知のベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンジルケタール類等から選択して使用することができる。またその添加量は、組成物に含有される重合性カイラル(メタ)アクリレートに対して、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下が特に好ましい。
【0033】
また本発明のカイラルネマチック液晶材料には、その保存安定性を向上させるために、安定剤を添加してもよい。ここで使用することができる安定剤としては、例えば公知のヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール等から選択して使用することができる。またその安定剤の添加量は、組成物に含有される重合性カイラル(メタ)アクリレートに対して、0.05重量%以下であることが好ましい。
【0034】
前記カイラルネマチック液晶材料の固有ピッチは、0.5〜120ミクロンの範囲に調整することが好ましく、0.5〜60ミクロンの範囲に調整するのが更に好ましく、0.5〜15ミクロンの範囲に調整するのが特に好ましい。
【0035】
紫外線又は電子線を照射する際に、2枚の基板に設けられた電極層間に電界を印加しておくと、液晶表示素子に挟持されたネマチック液晶材料が、基板に対して極角方向にある程度の傾きをもった配向状態をとる傾向が生じ、結果としてストライプドメインの発生を抑止することができるため、紫外線又は電子線を照射する際に、電界を印加することは好ましい。この時の電界強度は、用いるカイラルネマチック液晶材料によって適宜調整されるが、せいぜいSTN液晶表示素子としてのしきい値の3倍程度以内、更に好ましくはしきい値の2倍程度以内とするのが好ましい。
【0036】
紫外線又は電子線の照射工程後に、本発明の液晶表示素子に加熱をおこなうと、液晶表示素子としての特性の経時変化を小さくすることができるため、加熱処理をおこなうことが好ましい。
【0037】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ネマチック液晶材料「DLC−43002」(ロディック社製)98.72重量部に、式(h)
【0038】
【化13】
【0039】
(式中、不斉炭素の絶対配置は(S)体である。)の単官能カイラルアクリレート化合物1.28重量部、及び0.5重量部の光重合開始剤「IRG−651」(チバガイギー社製)からなるカイラルネマチック液晶材料(A)を調整した。このカイラルネマチック液晶材料を室温において偏光顕微鏡で観察したところ、結晶の析出や相分離構造はみられず、均一なカイラルネマチック相が得られていることが確認できた。このカイラルネマチック液晶材料(A)の固有ピッチをくさび型セルを用いて測定したところ、6.5ミクロンであった。また、ねじれの向きは左巻きであった。このくさび型セルに、1mW/cm2の強度の紫外線を室温において照射したところ、単官能カイラルアクリレートが重合した。この重合が進行するにつれて、固有ピッチが長くなっていくのが観察できた。紫外線を照射して10分後に、固有ピッチの値が11.4ミクロンの一定値になった。紫外線を10分間照射した材料の固有ピッチの値は、室温において1ヶ月以上も変化せず、また100℃以上に加熱した後、冷却しても変化が認められなかった。以上のことからカイラルネマチック液晶材料(A)に紫外線を照射して、含有する単官能カイラルアクリレートを重合させると、固有ピッチは11.4ミクロンになることがわかった。
【0040】
次に、ITO透明電極層の上にラビング処理したポリイミド配向膜「SE−150」(日産化学製)を有する2枚のガラス基板を用いて、6.4ミクロンの間隔をもってポリイミド配向膜がお互いに対向するようにして液晶セル(A)を作製した。このセル(A)の2枚の基板のラビング方向は左巻きのツイスト角が240度をなすSTN構造になるように設定した。このセル(A)に、カイラルネマチック液晶材料(A)を注入した後、室温において1mW/cm2の強度の紫外線を10分間室温において照射し、単官能カイラルアクリレートを重合させた。次に、セル(A)を100℃で1分間保った後、室温まで冷却した。得られたセルを偏光顕微鏡で観察したところ、アンダードメイン等の欠陥もなく、均一な配向状態が得られており、ネマチック液晶材料がツイスト角240度のSTN配向していることを確認できた。このセルを2枚の直交する偏光板の間に置き、イエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。このセルのd/Pは0.56であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。電気光学特性は第1図に示した通りであり、しきい値電圧は2.15Vであった。
【0041】
(実施例2)
実施例1における基板間の間隔を6.8ミクロンとした以外は、実施例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.60であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0042】
(実施例3)
実施例1における基板間の間隔を4.6ミクロンとした以外は、実施例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.40であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0043】
(実施例4)
ネマチック液晶材料「DLC−43002」(ロディック社製)99.12重量部に、式(v)
【0044】
【化14】
【0045】
(式中、不斉炭素の絶対配置は(S)体である。)の単官能カイラルアクリレート化合物0.88重量部、及び0.5重量部の光重合開始剤「IRG−651」(チバガイギー社製)からなるカイラルネマチック液晶材料(B)を調整した。このカイラルネマチック液晶材料を室温において偏光顕微鏡で観察したところ、結晶の析出や相分離構造はみられず、均一なカイラルネマチック相が得られていることが確認できた。このカイラルネマチック液晶材料(B)の固有ピッチをくさび型セルを用いて測定したところ、11.5ミクロンであった。また、ねじれの向きは左巻きであった。このくさび型セルに、1mW/cm2の強度の紫外線を室温において照射したところ、単官能カイラルアクリレートが重合した。この重合が進行するにつれて、固有ピッチが長くなっていくのが観察できた。紫外線を照射して10分後に、固有ピッチの値が12.0ミクロンの一定値になった。紫外線を10分間照射した材料の固有ピッチの値は、室温において1ヶ月以上も変化せず、また100℃以上に加熱した後、冷却しても変化が認められなかった。以上のことからカイラルネマチック液晶材料(B)に紫外線を照射して、含有する単官能カイラルアクリレートを重合させると、固有ピッチは12.0ミクロンになることがわかった。
【0046】
次に、実施例1で作製したものと全く同じ仕様の液晶セル(A)に、カイラルネマチック液晶材料(B)を注入した後、室温において1mW/cm2の強度の紫外線を10分間室温において照射し、単官能カイラルアクリレートを重合させた。次に、セル(A)を100℃で1分間保った後、室温まで冷却した。得られたセルを偏光顕微鏡で観察したところ、アンダードメイン等の欠陥もなく、均一な配向状態が得られており、ネマチック液晶材料がツイスト角240度のSTN配向していることを確認できた。このセルを2枚の直交する偏光板の間に置き、イエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。このセルのd/Pは0.53であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。電気光学特性は第2図に示した通りであり、しきい値電圧は2.27Vであった。
【0047】
(実施例5)
実施例4における基板間の間隔を7.2ミクロンとした以外は、実施例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.60であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0048】
(実施例6)
実施例4における基板間の間隔を4.8ミクロンとした以外は、実施例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.40であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0049】
(比較例1)
ネマチック液晶材料「DLC−43002」(ロディック社製)99.19重量部に、非重合性のカイラル化合物「S−811」(メルク社製)0.81重量部からなるカイラルネマチック液晶材料(C)を調整した。このカイラルネマチック液晶材料を室温において偏光顕微鏡で観察したところ、結晶の析出や相分離構造はみられず、均一なカイラルネマチック相が得られていることが確認できた。このカイラルネマチック液晶材料(C)の固有ピッチをくさび型セルを用いて測定したところ、11.7ミクロンであった。また、ねじれの向きは左巻きであった。
【0050】
次に、実施例1で作製したものと全く同じ仕様の液晶セル(A)に、カイラルネマチック液晶材料(C)を注入して、d/Pが0.55のセルを作製した。得られセルを観察したところ、アンダードメイン等の欠陥もなく、均一な配向状態が得られており、カイラルネマチック液晶材料がツイスト角240度のSTN配向していることを確認できた。このセルを2枚の直交する偏光板の間に置き、イエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。この液晶素子に電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。電気光学特性は第3図に示した通りであり、しきい値電圧は2.32Vであった。
【0051】
(比較例2)
比較例1における基板間の間隔を7.2ミクロンとした以外は、比較例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.60であったが、電圧を印加するとストライプドメインが観察されSTN液晶表示素子として、正常に動作しなかった。
【0052】
(比較例3)
比較例1における基板間の間隔を4.7ミクロンとした以外は、比較例1と全く同様にしてイエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。本実施例のセルのd/Pは0.40であったが、電圧印加の後、印加電圧を切るとアンダードメインが観察され、STN液晶表示素子として、正常に動作しなかった。
【0053】
(実施例7)
ITO透明電極層の上にラビング処理したポリイミド配向膜「SE−150」(日産化学製)を有する2枚のガラス基板を用いて、7.2ミクロンの間隔をもってポリイミド配向膜がお互いに対向するようにして液晶セル(B)を作製した。このセル(B)のラビング方向は左巻きのツイスト角240度をなすSTN構造になるように設定した。このセル(B)に、カイラルネマチック液晶材料(A)を注入した後、室温において2枚の電極間に周波数1kHzで実効値3Vの正弦波を印加しながら、1mW/cm2の強度の紫外線を10分間室温において照射し、単官能カイラルアクリレートを重合させた。次に、セル(A)を100℃で1分間保った後、室温まで冷却した。得られたセルを偏光顕微鏡で観察したところ、アンダードメイン等の欠陥もなく、均一な配向状態が得られていることを確認できた。このセルを2枚の直交する偏光板の間に置き、イエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。このセルのd/Pは0.63であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0054】
(実施例8)
ネマチック液晶材料「DLC−43002」(ロディック社製)99.24重量部に、式(h)
【0055】
【化15】
【0056】
(式中、不斉炭素の絶対配置は(S)体である)の単官能カイラルアクリレート化合物0.56重量部、非重合性のカイラル化合物「S−811」(メルク社製)0.21重量部、及び0.5重量部の光重合開始剤「IRG−651」(チバガイギー社製)からなるカイラルネマチック液晶材料(D)を調整した。このカイラルネマチック液晶材料を室温において偏光顕微鏡で観察したところ、結晶の析出や相分離構造はみられず、均一なカイラルネマチック相が得られていることが確認できた。このカイラルネマチック液晶材料(D)の固有ピッチをくさび型セルを用いて測定したところ、8.1ミクロンであった。また、ねじれの向きは左巻きであった。このくさび型セルに、1mW/cm2の強度の紫外線を室温において照射したところ、単官能カイラルアクリレートが重合した。この重合が進行するにつれて、固有ピッチが長くなっていくのが観察できた。紫外線を照射して10分後に、固有ピッチの値が12.2ミクロンの一定値になった。紫外線を10分間照射した材料の固有ピッチの値は、室温において1ヶ月以上も変化せず、また100℃以上に加熱した後、冷却しても変化が認められなかった。以上のことからカイラルネマチック液晶材料(A)に紫外線を照射して、含有する単官能カイラルアクリレートを重合させると、固有ピッチは12.2ミクロンになることがわかった。
【0057】
次に、ITO透明電極層の上にラビング処理したポリイミド配向膜「SE−150」(日産化学製)を有する2枚のガラス基板を用いて、7.7ミクロンの間隔をもってポリイミド配向膜がお互いに対向するようにして液晶セル(C)を作製した。このセル(C)のラビング方向は左巻きのツイスト角240度をなすSTN構造になるように設定した。このセル(C)に、カイラルネマチック液晶材料(D)を注入した後、室温において2枚の電極間に周波数1kHzで実効値3Vの正弦波を印加しながら、1mW/cm2の強度の紫外線を10分間室温において照射し、単官能カイラルアクリレートを重合させた。次に、セル(C)を100℃で1分間保った後、室温まで冷却した。得られたセルを偏光顕微鏡で観察したところ、アンダードメイン等の欠陥もなく、均一な配向状態が得られていることを確認できた。このセルを2枚の直交する偏光板の間に置き、イエローモードのSTN液晶表示素子を構成した。このセルのd/Pは0.63であったが、電圧を印加してもストライプドメインは観察されず、良好に動作した。また電圧印加の後、印加電圧を切ってもアンダードメインは観察されず、STN液晶表示素子として問題なく動作することが確認できた。
【0058】
以上の実施例と比較例から、本発明の液晶表示素子はd/Pマージンが広く、且つ駆動電圧も低減されたものであることがわかる。
【0059】
【発明の効果】
本発明の液晶表示素子は、d/Pマージンが広いことを特徴とするSTN型液晶表示素子であり、且つ駆動電圧を低減することも可能である。従って、製造歩留まりを改善したSTN液晶表示素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における本発明の液晶表示素子の電気光学特性を示した図表である。
【図2】実施例4における本発明の液晶表示素子の電気光学特性を示した図表である。
【図3】比較例1における本発明の液晶表示素子の電気光学特性を示した図表である。
Claims (10)
- 電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料及び単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体を少なくとも挟持し、且つネマチック液晶材料がツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向している液晶表示素子において、前記単官能カイラルアクリレートの重合体が、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを、前記ネマチック液晶材料及び前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料中で重合させて得られるものであることを特徴とする液晶表示素子。
- 電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料、非重合性カイラル化合物、及び単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体を少なくとも挟持し、且つネマチック液晶材料がツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向している液晶表示素子において、前記単官能カイラルアクリレートの重合体が、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを、前記ネマチック液晶材料、前記非重合性カイラル化合物及び前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料中で重合させて得られるものであることを特徴とする液晶表示素子。
- 単官能カイラル(メタ)アクリレートの重合体が、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを紫外線又は電子線で重合させて得られたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶表示素子。
- 単官能カイラル(メタ)アクリレートが、不斉炭素及び少なくとも2つの6員環を有する液晶性骨格を部分構造として有する環状アルコール、フェノール又は芳香族ヒドロキシ化合物の(メタ)アクリル酸エステルである単官能カイラル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶表示素子。
- 単官能カイラル(メタ)アクリレートが、一般式(I)
- 電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料及び単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料を介在させて、カイラルネマチック液晶材料をねじれネマチック配向させた後、カイラルネマチック液晶材料に紫外線又は電子線を照射することにより、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを前記カイラルネマチック液晶材料中で重合させて、前記ネマチック液晶材料をツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向させることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
- 電極層及び1〜30度のプレチルト角を形成する配向処理層を有し、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に、少なくとも−10〜80℃の温度範囲でネマチック液晶相を有するネマチック液晶材料、非重合性カイラル化合物及び単官能カイラル(メタ)アクリレートを含有するカイラルネマチック液晶材料を介在させて、カイラルネマチック液晶材料をねじれネマチック配向させた後、カイラルネマチック液晶材料に紫外線又は電子線を照射することにより、前記単官能カイラル(メタ)アクリレートを前記カイラルネマチック液晶材料中で重合させて、前記ネマチック液晶材料をツイスト角180〜270度のねじれネマチック配向させることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
- 紫外線又は電子線を照射する際、カイラルネマチック液晶材料に電界が印加されていることを特徴とする請求項7及び8記載の液晶表示素子の製造方法。
- 紫外線又は電子線を照射した後に、加熱処理を施すことを特徴とする請求項7、8又は9記載の液晶表示素子の製造方法。
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