JP3687711B2 - 非水溶媒二次電池負極用炭素材料の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は大容量かつ不可逆容量の少ない非水溶媒二次電池負極用炭素材料の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
負極に炭素材料を用いた非水溶媒二次電池はリチウムイオン二次電池として、その高エネルギー密度、軽量小型および長期保存性などの利点により、すでに実用化されている。しかし、電子機器の小型化、軽量化に対応するための負極用炭素材料高容量化が必要である。そのため、例えば、特開平6−187988号公報に記載されているように、ピッチやタール類をニトロ化合物と反応させることにより、重量当たりの放電容量が500mAh/gを超える高容量な炭素材料が見出され、検討されてきた。ところが、さらに長時間作動可能なリチウムイオン二次電池の開発に対する要求は大きく、これまでの材料では容量において要求に対応するには不十分だあった。これまで、低温で焼成したコークスやフェーノール樹脂を焼成したポリアセン等が高い容量を有することが見いだされているが、容量が向上する反面、二次電池化において不利となる不可逆容量(第1サイクル目における充電容量と放電容量の差)が増大し、要求に対応するには不十分であった。さらに、放電時、負極材料のリチウム金属に対する電位が高いため、正極材料と組み合わせて二次電池を設計したときの平均電圧が低くなることが大きな欠点となっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の炭素材料を負極材料として用いた非水溶媒系リチウム二次電池は、その特徴である大容量を実現するには十分なものではなかった。
本発明は、従来のかかる問題点を克服し、大容量で、充放電サイクル特性が良好で、しかも、安定かつ安全性に優れた高性能な非水溶媒二次電池を製造するための、1)重量当たり500mAh/g以上の高容量を有し、2)負極用炭素材料の第1サイクル目における不可逆容量を低減化し、3)放電時の負極材料のリチウム金属に対する電位が0.2V以下である領域の容量が大きい負極用炭素材料を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、ピッチやタールを原料とする高容量な負極用炭素材料を鋭意検討した結果、縮合多環式化合物またはこれを含有する物質から合成によって得られる特定の前駆ピッチやタールを改質し、さらに特定の不融化方法によって処理した後、焼成することによって得られる炭素材料が非水溶媒二次電池の負極として優れた性質を有することを見出し本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明の非水溶媒二次電池負極用炭素材料の製造法は、縮合多環式化合物またはこれを含有する物質を弗化水素・三弗化硼素の存在下で重合させて得られる特定の前駆ピッチあるいはタールを改質することで等方性の改質ピッチあるいはタールを調製し、これを酸化性ガスによって不融化処理した後、焼成することを特徴とする非水溶媒二次電池負極用炭素材料の製造法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
縮合多環式化合物としては、ナフタレン、アントラセン、ピレン、コロネン等の縮合多環式炭化水素およびその誘導体、ベンゾフラン、キノリン、チアナフタレン、シラナフタレン等の縮合複素環式化合物およびその誘導体、これら化合物が相互に架橋した化合物、またそれらの混合物である種々の石油留分、石油加工工程の残油及び石炭タール留分等が挙げられる。
【0007】
縮合多環式化合物から、弗化水素・三弗化硼素触媒下、前駆ピッチあるいはタールを合成する方法は、特に制限はないが、通常縮合多環式化合物に対する触媒量を、縮合多環式化合物1モルに対し、弗化水素を0.1〜10モル、三弗化硼素を0.01〜1.0モル、反応温度は0〜300℃の範囲、好ましくは40〜200℃、さらに好ましくは60〜170℃で行なわれる。
【0008】
縮合多環式化合物から得られる前駆ピッチあるいはタールの性状として、軟化点としては0〜200℃が好ましく、炭素に対する水素の原子比が0.6〜1.10、ピリジン不溶分が1.0%以下、ピッチあるいはタールに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合が20〜80%であることが好ましい。前駆ピッチあるいはタールを常法により研磨後、偏光顕微鏡下で観察したときの光学的組織は100%等方性である。
【0009】
次に、前駆ピッチあるいはタールは光学的等方性を保ったまま、軟化点150℃以上の改質ピッチあるいはタールへと処理される。改質は、蒸留、エアーブローイング、硝酸添加、硫黄添加等の公知の方法によって行う事ができる。それらのなかでも、加熱下流動状態にあるピッチあるいはタールの中に酸化性ガス、一般には空気を流通させることによって行なう方法が、簡便かつ安価であり、有効である。この時の温度は前駆ピツチあるいはタールの軟化点により一概に特定できないが、200℃以上、好ましくは300〜350℃で行なわれる。処理温度が低すぎると反応性が低いため、空気による改質が十分に行われない。また温度が高すぎるとピッチ自身の熱重合が起こり、空気による改質が有効に行われない。空気流量は装置形状等によって異なるが、ピッチあるいはタールに対して0.5〜50ml/g程度である。この時、ピッチあるいはタールと空気との接触効率を上げるためメッシュやフィルター等の使用あるいは撹拌すること等が適用できる。空気による改質の終了点は、軟化点の上昇が伴うため、この軟化点の測定により判断できる。出発原料等により改質の終了点の軟化点は特定できないが、150〜350℃、好ましくは200〜300℃である。
【0010】
不融化処理は、二酸化窒素ガス、オゾン、空気、酸素等およびこれらの混合物等の酸化性ガスを用いるのが、焼成後の不純物の残留が少なく得られた炭素材料の性能にとって好ましい。特に、空気ガスを用いるのが、簡便かつ安価であり、さらに好ましい。酸化性ガスによる不融化の方法は特に限定されないが、一定粒度以下に粉砕した粉末状、繊維状、あるいは薄膜状に改質ピッチを加工した後、100〜400℃の温度範囲、好ましくは150〜350℃の温度範囲で酸化性ガスを流通させることによって行われる。
【0011】
この様にして得られた原料有機化合物を非酸化性ガスまたは真空下で焼成することにより、本願発明の炭素材料が得られる。焼成温度は800〜1800℃、好ましくは1000〜1300℃、焼成時間は1〜50時間で原料有機化合物に応じて適宜、最適な条件が選択される。また、800℃以下で予備焼成を行ってもよい。非酸化性ガスとしては窒素、アルゴンが好ましい。非酸化性ガスを気流として連続的に供給し、原料有機化合物の焼成によって発生するガスを同伴して排出する方法や、真空排気により強制的に発生ガスを系外に排出する方法が適宜適用できる。
【0012】
本発明の非水溶媒系二次電池負極用炭素材料は種々の優れた特徴を持っているが、特に、対リチウム金属電位で0〜1.5Vの間で500mAh/g以上の放出容量が可能であると同時に、対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の容量が350mAh/g以上であり、第1サイクル目における不可逆容量が100mAh/g以下であることが最大の特徴である。
【0013】
以下、本発明について実施例を示してその効果を具体的かつ詳細に説明するが、以下に示す例は、具体的に説明するためのものであって本発明の実施形態や発明の範囲を限定するものとしては意図されていない。また、本実施例でのピッチあるいはタールの分析方法及び分析条件を以下に記載する。
(元素分析)
炭素、窒素、水素の同時分析には、分析装置としてパーキンエルマー(PERKINELMER )社製、2400CHN 型元素分析計を使用した。測定は、試料のピッチあるいはタールを錫製の容器に1.5 ±0.2mg を秤量し、装置にセット後、975 ℃の温度で5分間燃焼し、HeガスキャリヤーによりTCDで検出し測定した。なお、試料の測定にあたって、予め、標準物質のアセトアニリド(2.0 ±0.1mg )により補正した。
【0014】
(NMR分析)
ピッチあるいはタールに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合を求めるには、 1H−NMR法を用いた。ピッチあるいはタールはほぼ全量がクロロホルムに可溶であるので、その1%重クロロホルム溶液を、NMRサンプル管に入れ、日本電子(株)製JNM−EX270により測定を行った。なお、TMS(テトラメチルシラン)を基準物質として、これを0ppmとした。
【0015】
実施例1
内容積3Lの耐酸オートクレーブに、ナフタレン7モル、弗化水素(HF)2.45モル、三弗化硼素(BF3 )0.77モルを仕込み、自生圧下に100℃まで昇温した後、更に4時間、100℃に保持して反応させた。次いで、常法に従って、オートクレーブ内に窒素を吹き込んでHF及びBF3 を回収し、引き続いて低沸点成分を除去して軟化点82℃の前駆ピッチを得た。前駆ピッチに含有されている水素原子の炭素原子に対する比(H/C)は0.76、ピリジン不溶分は0.0%、ピッチに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合は35%であった。得られた前駆ピッチを、別のオートクレーブに仕込み、340℃で100g当たり、毎分2Lの空気を吹き込み、4時間反応させ、軟化点234℃の100%光学的等方性の改質ピッチを得た。この改質ピッチを200μm以下の粉末に粉砕し、10gを磁製の皿にいれ、マッフル炉中で空気を毎分1L流しながら、150℃から1℃/分で320℃まで昇温後、30分間保持して取り出した。得られた処理物を、平均粒径15μmに調製し、ついで少量の窒素を流通させながら、10Torrの減圧下、1200℃で2時間焼成し、粉末状の炭素材料を得た。
【0016】
(負極材料としての評価)
得られた炭素材料90重量部に、ポリフッ化ビニリデン粉末10重量部(バインダー)を加え、ジメチルホルムアミドを溶媒として配合・混合した後、銅箔上に塗布し、乾燥後1cm角に切り出して、評価用試験片とした。次いで、LiClO4 をエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/ジエチルカーボネートの配合比が、1/0.5/0.5の3種類の混合物に溶解した溶液(濃度1.0mol/l )を電解液とし、厚さ50μmのポリプロピレン製微孔膜をセパレーターとするハーフセルを作製した。なお、対極として直径16mm、厚さ0.5mmのリチウム金属を使用した。また、参照極として対極と同様にリチウム金属の小片を使用した。
【0017】
電流密度2mA/cm2 で参照極に対する評価用試験片の電極電位が1mVまで定電流充電を行い、さらに電極電位1mVで定電位充電を40時間行ったところ、吸蔵容量:595mAh/gが確認された。次いで、電流密度1mAh/cm3 で参照極に対する評価用試験片の電極電位が1.5Vまで定電流放電を行ったところ、放出容量:531mAh/gが確認された。容量ロスは64mAh/gであり、対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の放出容量は369mAh/gであった。
【0018】
実施例2
内容積500mLの耐酸オートクレーブに、アントラセン1モル、弗化水素(HF)2.50モル、三弗化硼素(BF3 )0.20モルを仕込み、自生圧下に80℃まで昇温した後、更に4時間、80℃に保持して反応させた。次いで、常法に従って、オートクレーブ内に窒素を吹き込んでHF及びBF3 を回収し、引き続いて低沸点成分を除去して軟化点193℃の前駆ピッチを得た。前駆ピッチに含有されている水素原子の炭素原子に対する比(H/C)は0.63、ピリジン不溶分は0.0%、ピッチに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合は45%であった。得られた前駆ピッチを、別のオートクレーブに仕込み、340℃で100g当たり、毎分2Lの空気を吹き込み、1時間反応させ、軟化点208℃の100%光学的等方性の改質ピッチを得た。この改質ピッチを200μm以下の粉末に粉砕し、10gを磁製の皿にいれ、マッフル炉中で空気を毎分1L流しながら、150℃から1℃/分で320℃まで昇温後、10分間保持して取り出した。得られた処理物を、平均粒径15μmに調製し、ついで少量の窒素を流通させながら、10Torrの減圧下、1200℃で2時間焼成し、粉末状の炭素材料を得た。実施例1と同様の、負極材料としての評価を行ったところ、吸蔵容量:626mAh/g、及び放出容量:543mAh/gが確認された。容量ロスは83mAh/gであり、対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の放出容量は380mAh/gであった。
【0019】
比較例1
実施例1で得られた改質ピッチ100重量部と硫酸アンモニウム35部を粉末状態で混合し、450℃まで昇温し、1時間保持した後、室温まで冷却した。得られた処理物を、平均粒径15μmに粉砕した。ついで、少量の窒素を流通させながら、10Torrの減圧下、1200℃で2時間焼成し、粉末状の炭素材料を得た。実施例1と同様の、負極材料としての評価を行ったところ、吸蔵容量:570mAh/g、及び放出容量:485mAh/gが確認された。容量ロスは85mAh/gと小さかったが、放出容量は500mAh/g以下であり、対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の放出容量は290mAh/gと小さかった。
【0020】
比較例2
含有されている水素原子の炭素原子に対する比(H/C)が0.95、ピリジン不溶分が0.0%、ピッチに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合が57%であるエチレンボトムオイルを、弗化水素・三弗化硼素の存在下での反応を行わずに、そのままオートクレーブに仕込み、340℃で100g当たり、毎分2Lの空気を吹き込み、2時間反応させ、軟化点260℃の100%光学的等方性の等方性ピッチを得た。この改質ピッチを200μm以下の粉末に粉砕し、10gを磁製の皿にいれ、マッフル炉中で空気を毎分1L流しながら、150℃から3℃/分で300℃まで昇温後、10分間保持して取り出した。得られた処理物を、平均粒径15μmに調製し、ついで少量の窒素を流通させながら、10Torrの減圧下、1200℃で2時間焼成し、粉末状の炭素材料を得た。実施例1と同様の、負極材料としての評価を行ったところ、吸蔵容量:625mAh/g、及び放出容量:459mAh/gが確認された。すなわち、容量ロスは166mAh/gと大きく、充放電容量も低下した。対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の放出容量は280mAh/gと小さかった。
【0021】
比較例3
内容積3Lの耐酸オートクレーブに、ナフタレン7モル、弗化水素(HF)2.45モル、三弗化硼素(BF3 )0.77モルを仕込み、自生圧下に230℃まで昇温した後、更に4時間、230℃に保持して反応させた。次いで、常法に従って、オートクレーブ内に窒素を吹き込んでHF及びBF3 を回収し、引き続いて低沸点成分を除去して軟化点210℃の前駆ピッチを得た。ピッチに含有されている水素原子の炭素原子に対する比(H/C)は0.68、ピリジン不溶分が18.0%であった。なお、ピッチに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合は、ピッチが全量は溶媒には溶けないので測定できなかった。得られた前駆ピッチを、別のオートクレーブに仕込み、340℃で100g当たり、毎分2Lの空気を吹き込み、2時間反応させ、軟化点240℃のピッチを得た。ピッチを常法により研磨後、偏光顕微鏡下で観察したときの光学的組織は約50%が異方性を示した。この改質ピッチを200μm以下の粉末に粉砕し、10gを磁製の皿にいれ、マッフル炉中で空気を毎分1L流しながら、150℃から1℃/分で320℃まで昇温後、10分間保持して取り出した。得られた処理物を、平均粒径15μmに調製し、ついで少量の窒素を流通させながら、10Torrの減圧下、1200℃で2時間焼成し、粉末状の炭素材料を得た。実施例1と同様の、負極材料としての評価を行ったところ、吸蔵容量:520mAh/g、及び放出容量:384mAh/gが確認された。すなわち、容量ロスは136mAh/gと大きく、充放電容量も低下した。対リチウム金属電位で0〜0.2Vの間の放出容量は230mAh/gと小さかった。
【0022】
【発明の効果】
従来のリチウム二次電池に比べ、負極用炭素材料の放電容量が大きく、かつ第1サイクル目における不可逆容量を低減化できたことにより、二次電池の大容量を実現できる。

Claims (1)

  1. 縮合多環式化合物を弗化水素・三弗化硼素の存在下、縮合多環式化合物:弗化水素:三弗化硼素のモル比が1:0.1〜10:0.01〜1.0の範囲において0〜200℃の温度で重合させて得られる、軟化点が0〜200℃、炭素に対する水素の原子比が0 . 60〜1 . 10、ピリジン不溶分が1 . 0%以下、ピッチに含まれる全水素の中の脂肪族水素の割合が20〜80%である前駆ピッチの中に、200℃以上の流動状態で酸化性ガスを流通させることにより100%光学的等方性の改質ピッチとし、該改質ピッチを酸化性ガスの存在下に100℃以上400℃以下の温度で不融化処理した後、焼成することを特徴とする非水溶媒二次電池負極用炭素材料の製造法。
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